説明

青酸の製造方法

気体状のホルムアミドの接触脱水反応による青酸の製造方法であって、脱水の生成物混合物からホルムアミドを含有する返送流を回収し、かつ脱水に返送する方法において、ホルムアミドを含有する返送流が、水を5〜50質量%含有することを特徴とする、青酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素の存在下に気体状のホルムアルデヒドを接触脱水することにより青酸(HCN)を製造する方法に関する。
【0002】
青酸は、多数の有機合成における、たとえばメタクリル酸エステル、乳酸および金属シアン化物の製造における原料として、ポリアミド前駆体として、医薬品および農薬を製造するために、鉱山業において、および冶金産業において使用するために重要な基本化学薬品である。
【0003】
青酸を工業的に製造するための重要な方法は、真空下でのホルムアミドの加熱脱水であり、これは以下の式(I)により進行する:
HCONH2→HCN+H2O (I)
この反応は、アンモニアおよび一酸化炭素を形成しながら、式(II)によるホルムアミドの分解を伴う:
HCONH2→NH3+CO (II)
形成されるアンモニアは、所望の青酸の重合を触媒し、ひいては青酸の品質を損ない、かつ所望の青酸の収率が低下する。
【0004】
青酸を製造する際に、カーボンブラックが形成されるが、これは、EP−A02029039に開示されているように、少量の酸素を空気の形で添加することによって抑制することができる。ここには、高温焼結した酸化アルミニウム成形体または酸化アルミニウム−二酸化ケイ素成形体における、または高温耐食性のクロム・ニッケル特殊鋼成形体におけるホルムアミドの熱分解法が記載されている。この方法でのホルムアミド反応率は完全ではないので、DE−A314935810138553は、未反応のホルムアルデヒド残分をホルムアミド分解に返送することを提案している。
【0005】
本発明の課題は、高いホルムアミド反応率および高い青酸収率を特徴とする、ホルムアミドの接触脱水反応により青酸を製造するための、簡単に実施することができる方法を提供することである。
【0006】
上記課題は、気体状のホルムアミドの接触脱水反応による青酸の製造方法であって、脱水の生成物混合物からホルムアミドを含有する返送流を分離し、かつ脱水に返送する方法において、ホルムアミドを含有する返送流が、水を5〜50質量%含有することを特徴とする、青酸の製造方法により解決される。
【0007】
有利には酸素の存在下にホルムアミドの脱水を実施する。
【0008】
未反応のホルムアミドを、高沸点物の分離の後で、水を含有する混合物としてホルムアミドの脱水に返送することができ、その際、返送されるホルムアミドの含水率は、青酸形成の選択率に否定的な影響を及ぼさないことが判明した。従って、精留による純粋なホルムアミドの高価な分離を省略することができる。このことにより実質的により容易な方法が実現される。
【0009】
本発明による方法では、気体状のホルムアミドを、使用されるホルムアミドの量に対して0〜10モル%の空気酸素、有利には0.1〜10モル%、特に有利には0.5〜3モル%の空気酸素の存在下に、一般に400〜600℃、有利には450〜550℃、特に有利には500〜550℃の温度で脱水する。
【0010】
本発明による方法は、一般に減圧下で、有利には70〜350ミリバール、特に有利には80〜200ミリバールの圧力で実施する。脱水は通常、多管型反応器中で実施する。触媒における平均滞留時間は、一般に0.01〜0.5秒、有利には0.05〜0.2秒である。
【0011】
一般に本発明による方法において気体状のホルムアミドを使用する。有利にはホルムアミドは、液状のホルムアミドを熱交換器、有利には管束式熱交換機、流下薄膜式蒸発器または薄膜蒸発器中で、一般に1〜350ミリバール、有利には80〜250ミリバールの減圧下に、および一般に100〜300℃、有利には130〜200℃の温度で気化することにより得られる。ホルムアミドの蒸気を引き続き、脱水反応器または前方接続した熱交換器中で反応温度にする。
【0012】
適切な触媒は、たとえば酸化アルミニウム50〜100質量%、有利には85〜95質量%および二酸化ケイ素0〜50質量%、有利には5〜15質量%からなる高温温焼結した成形体、クロム・ニッケル特殊鋼成形体(たとえばEP−A0209039に記載のもの)、および多孔質担体上の特殊鋼または酸化鉄からなる充てん物(たとえばDE−A10138553に記載のもの)である。
【0013】
青酸および水以外に、未反応のホルムアミド、アンモニア、COおよび高沸点物、たとえばポリマーおよび塩を含有する生成物混合物が得られる。脱水の際に形成される生成物ガス混合物から通常、水、ホルムアミドおよび高沸点物ならびに少量のアンモニアおよびHCNからなる混合物が凝縮物1として凝縮される。その際、通常、400〜600℃の温度で脱水反応器を離れる生成物ガス混合物を、熱交換器中で10〜80℃の温度に冷却する。実質的に青酸、水、アンモニアおよびCOからなる気体流が残留する。この気体流から青酸が得られる。有利にはその際に、アンモニアを抽出により、たとえば硫酸中へ吸収することにより除去し、引き続き青酸が凝縮物2として得られる。
【0014】
凝縮物1から、返送された水を含有するホルムアミドを回収する。有利には返送されたホルムアミドは凝縮物1から直接得られるのではなく、凝縮物1から、水およびその中に溶解した気体の一部をたとえばストリッピング塔で分離し、その際、水、高沸点物及びホルムアミドからなる凝縮物3が得られ、かつホルムアミドを含有する返送流を単蒸留により凝縮物3から分離する。
【0015】
この有利な変法の場合、凝縮物1から溶解した気体および水が、一般に50〜120℃、有利には60〜120℃および、70〜400ミリバール、有利には80〜200ミリバールで、ストリッピング塔中で分離される。一般にホルムアルデヒドが50〜85質量%、水が10〜40質量%、高沸点物が5〜10質量%および溶解した気体が0〜2質量%からなる塔底生成物が凝縮物3として得られる。
【0016】
凝縮物3から、ホルムアミドを含有する返送流を有利には単蒸留により分離する。ホルムアミドを含有する返送流は、水を5〜50質量%、有利には15〜30質量%含有する。その他に、該返送流はさらに、少量のアンモニアおよびHCNを、一般に0〜1質量%の量で含有していてもよい。ホルムアミドを含有する返送流を分離するための単蒸留は、一般に20〜150ミリバール、有利には50〜100ミリバールの圧力で、たとえば75ミリバールで、および110〜160℃、有利には130〜160℃の温度で、たとえば145℃で実施する。単蒸留は有利には気化器、たとえば自然換気および強制換気を備えた管束式熱交換器中で実施する。
【0017】
本発明による方法により一般に、脱水に供給したホルムアミド(新鮮供給されたホルムアミド+返送されたホルムアミド)の合計に対して、80〜98%のホルムアミド反応率が達成される。青酸形成の選択率は、一般に85〜96%である。
【0018】
本発明を以下の実施例により詳細に説明する。
実施例
例1
EP−A0209039の例1に記載されている、寸法15×15×2mmのラッシヒリングの形のAl23 93質量%およびSiO2 7質量%からなる触媒成形体の堆積物を含有する単一管型反応器中で、ホルムアミド蒸気(新鮮供給されたホルムアミドおよび返送されたホルムアミド)10l/(h×m2)および空気0.3kg/hを導入し、かつ圧力140ミリバールおよび温度420℃で脱水する。90.5%のホルムアミド反応率が達成される。生成物ガス混合物から、ホルムアミド45質量%、水50質量%、高沸点物2質量%およびアンモニア3質量%およびHCNからなる混合物2.1l/(h×m2)を凝縮させる。該混合物からまず、90〜120ミリバールおよび60〜85℃での単蒸留により、水および水中に溶解した気体からなる低沸点物を分離する。ホルムアミド、高沸点物および約30質量%の水を含有する混合物(凝縮物3)が残留する。該ホルムアミド含有混合物をその後の精留で6段の理論分離段を有する充填塔中、圧力100ミリバールで、水、ホルムアミドおよび高沸点物に分離し、その際、98質量%を上回るホルムアミド含有率を有するほぼ純粋なホルムアミドが側方流として得られる。この純粋なホルムアミド(0.77l/(h×m2)、凝縮したホルムアミド量の81%に相当)を、反応器に返送する。使用したホルムアミド(新鮮供給されたホルムアミドおよび返送されたホルムアミド)の合計に対するホルムアミド反応率、および反応の選択率は返送により変化しない。
【0019】
例2
例1と同様に実施するが、しかし精留を行う代わりに、凝縮物からのホルムアミドおよび水の単蒸留による分離を行う。ホルムアミド約70質量%、水約30質量%、およびアンモニア1質量%未満からなる混合物を脱水反応器に返送する。使用したホルムアミド(新鮮供給されたホルムアミドおよび返送されたホルムアミド)の合計に対して92.7%の高い反応率が達成され、その際、反応の選択率は変化しない。単純化されたホルムアミドの回収によって、凝縮したホルムアミドに対して、より大量のホルムアミドが返送され(0.66l(h×m2)、これは凝縮したホルムアミド量の90%に相応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状のホルムアミドの接触脱水反応による青酸の製造方法であって、脱水の生成物混合物からホルムアミドを含有する返送流を回収し、かつ脱水に返送する方法において、ホルムアミドを含有する返送流が、水を5〜50質量%含有することを特徴とする、青酸の製造方法。
【請求項2】
接触脱水反応を、酸素の存在下で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脱水の生成物ガス混合物から、水、ホルムアミド、高沸点物および溶解した気体からなる混合物を凝縮して凝縮物1とし、該凝縮物1から水および溶解した気体の一部を分離し、その際、水、ホルムアミドおよび高沸点物からなる凝縮物3が得られ、かつホルムアミドを含有する返送流を単蒸留により凝縮物3から分離することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
単蒸留を圧力20〜150ミリバールおよび温度110〜160℃で実施することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
接触脱水反応を、温度400〜600℃および圧力70〜350ミリバールで実施することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2008−512332(P2008−512332A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529336(P2007−529336)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/009476
【国際公開番号】WO2006/027176
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany