説明

青魚類のレトルトパウチ食品およびその製造方法

【課題】包装容器から取り出してそのまま食べることができ、カルシウム分が豊富で旨味があり、柔らかでみりん干しに近い風味を備え、原材料が国内で調達可能で且つ原材料名が特定可能な食品であって学校給食や介護給食等の給食に適した青魚類のレトルトパウチ食品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】洗浄した青魚類の開きまたは切り身が水分に対する質量比で砂糖7〜9%および食塩1〜3%、またはこれに少量のアミノ酸が添加された調味液に10℃程度の低温で2日から4日間漬け込まれ、デンプンおよびゴマを振りかけられて開き干しされ、真空包装されてレトルト処理されることにより製造され、青魚類の開きには中骨が残されるようにするとともに、真空包装・真空処理を深絞り手段により行うこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青魚類のレトルトパウチ食品およびその製造方法に関し、詳しくは、包装容器から取り出してそのまま食べられ、みりん干しに近い風味のカルシウム分に富み、学校給食や介護給食等の給食に適した青魚類のレトルトパウチ食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、魚類の保存食品として開き干しやみりん干しがよく知られている。
例えば、アジの開き干しの製造方法の一例を示すと、
(1)開切し、内蔵を除去したアジを淡水または塩水で洗って血抜きをする。
(2)水洗したアジを食塩水に浸漬して食塩を浸透させ淡水で洗う。
(3)水切りを行なった後、天日干しする。
上記の工程を経て、アジの開き干しが作られる。
【0003】
また、アジのみりん干しの製造方法の一例を示すと、
(1)開切し、内蔵を除去したアジを淡水または塩水で洗って血抜きする。
(2)みりん、醤油、砂糖を合わせ、アジをこの漬け込み液に1時間ないし2時間漬け込む。
(3)余分な漬け込み液をふき取り、白ゴマをふりかけ、半日ないし1日天日に干す。
上記の工程を経て、アジのみりん干しが作られる。
【0004】
ところで、魚の開き干しを食べるには焼く必要があるが、骨は硬くて食べられないため、とくに若年層の消費者は骨を除けて魚肉のみを食べることを面倒であると感ずる傾向がある。このような面倒を改善すべく「アジ等の魚類の開き干しを骨ごと食べられるようにすると共に風味、色合い、香り、肉身の硬さ等の面でも好ましい食品にする」ことを目的とした発明が特開平5−304882号公報に開示されていて、「塩漬した開切魚体を長時間乾燥させた後、焙焼し、更にこれを真空包装して高圧下で加熱するようにした」ことによりこの目的を解決したとされている。ここで「真空包装して高圧下で加熱するようにした」とは、いわゆるレトルト処理を指している。
【0005】
また、魚介類のレトルトパウチ食品の製造方法に関する発明として特開平8−89213号公報に開示のものがある。この技術は「レトルト殺菌時に生じる魚介類独特の臭みを効率的に除去し、かつ魚介類の食感を充分保持したレトルト魚介類を得ることができる方法を提供すること」を目的とし、この目的を達成するために「魚介類にエタノール水溶液を含浸させ、次いで食塩含有水溶液中でボイルした後、該食塩含有水溶液から取り出した魚介類に、調味用ソースを混合し、又は混合することなく包装容器に充填密封してレトルト殺菌する」こととしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−304882号公報
【特許文献2】特開平8−89213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開平5−304882号公報に開示の「魚類開き干しの製造法」では、電子レンジで加熱して食べることを前提としていて、その風味も日本人の口にあったみりん風味ではない。また、特開平8−89213号公報開示の「レトルト魚介類の製造方法」では、エタノール水溶液を含浸させることからレトルト魚介類中にエタノールが残留する場合や調味用ソースの成分を特定できない場合があり、学校給食には適さない恐れがある。
【0008】
そこで、本発明は、包装容器から取り出してそのまま食べることができ、カルシウム分が豊富で旨味のある柔らかでみりん干しに近い風味を備え、国内で原材料が調達可能で且つ原材料名が特定可能な学校給食や介護給食等の給食に適した青魚類のレトルトパウチ食品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る魚類のレトルトパウチ食品は、青魚類の開きまたは切り身に加工された魚体を砂糖および食塩からなる調味液に漬け込んだ後にデンプンおよびゴマが振りかけられてレトルト処理されることにより、原材料名表示が青魚類、砂糖、食塩、デンプンおよびゴマのみからなる、ことを特徴としている。
また、本願請求項2に係る青魚類のレトルトパウチ食品は、青魚類の開きまたは切り身に加工された魚体を砂糖、食塩および少量のアミノ酸からなる調味液に漬け込んだ後にデンプンおよびゴマが振りかけられてレトルト処理されることにより、原材料名表示が青魚類、砂糖、食塩、デンプン、ゴマおよびアミノ酸のみからなる、ことを特徴としている。
そして、本願請求項3に係る魚類のレトルトパウチ食品は、請求項1または請求項2に記載の魚類のレトルトパウチ食品であって、前記青魚類は脂の乗った魚体であり、前記魚類の開きには中骨が残されている、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係る青魚類のレトルトパウチ食品は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の青魚類のレトルトパウチ食品であって、前記魚体は包装容器内に2段に載置され、該2段の間に表面が粗面加工された無延伸のフィルムが挟入されている、ことを特徴としている。なお、包装容器としては、通常レトルト処理に使用される、ポリプロピレン、ポリエチレン、アルミおよびこれらの積層物等のガスバリア性、耐熱性、耐圧性を有するものを用いることができる。
また、本願請求項5に係る青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法は、請求項1または請求項2に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法であって、洗浄した青魚類の開きまたは切り身に加工された魚体が水分に対する質量比で砂糖7〜9%および食塩1〜3%からなる調味液、あるいは砂糖7〜9%、食塩1〜3%および少量のアミノ酸からなる調味液に10℃程度の低温で2日から4日間漬け込まれ、前記魚体にデンプンおよびゴマが振りかけられて開き干しされ、包装容器内に真空封入されてレトルト処理される、ことを特徴としている。なお、「開き干し」には、天日乾燥、空気乾燥、除湿乾燥がある。
そして、本願請求項6に係る魚類のレトルトパウチ食品の製造方法は、請求項5に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法であって、前記青魚類は脂の乗った魚体であり、前記魚類の開きには中骨が残されている、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項7に係る青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法は、請求項5または請求項6に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法であって、前記真空封入は凹部を有する容器状のフィルムに魚体を載置しその上から同一仕様のフィルムで蓋をして真空処理をする、ことを特徴としている。
また、本願請求項8に係る青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法は、請求項請求項7に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法であって、前記魚体は2段に載置され、その間に無延伸のフィルムが挟入され、該フィルムの表面は粗面加工されている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記構成により本発明は以下の効果を奏する。すなわち、
(1)砂糖を主成分とする調味液に、従来のみりん干しの漬け込み時間(1時間から2時間程度)より長時間の2日から4日間漬け込むことにより、魚体の内部にまで調味液が浸透して、その結果みりん風味となり、レトルト処理後も柔らかさを保持してサクッとした食感が得られ、さらに脂の乗った青魚類を使用することにより、EPA、DHAや旨味成分に富んだものとなる。
(2)調味液に漬け込んだ後、開き干しする前にデンプンとゴマを振りかけることにより、魚体に艶が出るとともに風味や栄養分が増して、より一層食べやすくなる。
(3)レトルト処理により魚体の中骨までが柔らかくなり、中骨ごと食べられるようになる。なお、後述するように、本発明ではレトルト処理を1.5気圧の環境下において魚体の温度が120℃に達した後に約20分間加熱して行うこととしている。従来のみりん干しは焼くと堅くなる傾向にあるが、本発明に係る青魚類のレトルトパウチ食品は、仮に焼いたとしても従来のみりん干しほど堅くなるようなことはない。
(4)原材料が青魚類、砂糖、食塩、デンプンおよびゴマのみ、あるいは青魚類、砂糖、食塩、デンプン、ゴマおよびアミノ酸のみとなることから、デンプンおよびゴマを除く主原材料はすべて国内産とすることができ、生産業者や流通業者を特定するいわゆるトレーサビリティが容易に可能となる。さらに、消費者のアレルギーの原因となるアレルゲンを含むことがないので、学校給食や介護給食に供しても差し支えのないものとなる。
(5)凹部を有する容器状のフィルムに魚体を載置しその上から同一仕様のフィルムで蓋をして真空包装をするいわゆる深絞り真空包装のため、砂糖を主成分とする粘度のある調味液を使用しているにも拘わらず真空処理が可能となる。
(6)魚類を2段に載置し、その間にフィルムを挟入することにより、大量包装が可能になり、大量に消費をするような学校給食や介護給食等の給食の材料にも適したものとなる。また、表面が粗面加工されたフィルムを挟入することにより、上下の魚類が混じり合うことがなく、魚体同士のズレが生じにくくなる。さらに、無延伸のフィルムの使用により、包装の形状が安定して型くずれがなくなる。
(7)本発明は、消費が低迷しているイワシやアジ等の青魚を対象としている。小イワシ類の国内漁獲量は年間約20万トン、豆アジの国内漁獲量は年間約10万トンであるにもかかわらず、大部分が飼料や肥料に回されている。ここに陽が当たれば沿岸漁業者にとって福音であるばかりでなく、開き加工業者、切り身加工業者にとってもプラスになり、それ以上に消費者にとっては、安価で美味で栄養豊富な食料の計り知れない供給源となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例に係る青魚類のレトルトパウチ食品の製造フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図1に基づき片口イワシのレトルトパウチ食品の製造方法を例にして説明する。
【0013】
(1)脂の乗った片口イワシの頭を取り、内臓を除き、中骨を残したまま手開きにする(S1)。
(2)手開きした片口イワシを淡水で洗って血抜きする(S2)。
【0014】
(3)片口イワシを水切りし、その後に調味液に10℃以下で50時間漬け込む(S3)。
本発明はみりんを使用せず2日から4日間漬け込むことにより魚体の内部まで十分調味液が浸透して、その風味や旨味が増すとともに魚体を柔らかくする効果を伴う。なお、漬け込む魚体の種類や大きさにより適宜漬け込み時間を調整することはもちろんである。
実施例における調味液の配合を表1に示す。なお、配合率は水を1としたときの各原材料の質量比である。
【0015】
【表1】

なお、調味液の量は魚体の質量を1.0としたときに質量比で0.7程度とすることが好ましい。
【0016】
(4)デンプンとゴマを魚体の裏表にまんべんなくまぶす(S4)。実施例ではデンプンにタピオカを使用している。
(5)ざるやすだれの上に魚体を敷き並べ開き干しする(S5)。実施例では開き干しとして、日陰の風通しのよいところで8時間程度天日干しすることとしている。
(6)フィルム上またはすだれ上に魚体を敷き詰め、その上に中敷として無延伸のフィルムをかぶせ、さらに中敷のフィルム上に魚体を敷き詰めて2段重ねとする(S6)。
天日干しとレトルト処理とを異なる場所で行う場合は、S6の工程後に−18℃以下に冷凍保管して輸送する。
【0017】
(7)凹部を有する容器状のフィルム上にS6の工程で作成した2段重ねの魚体をフィルムまたはすだれごと載置し、その上から容器状のフィルムと同一仕様のフィルムで蓋をし、容器状のフィルム、蓋のフィルムおよび中敷のフィルム同士を熱溶融により融着して密封し、内部を真空にする(S7)。こうすることにより、砂糖を主成分とする粘度のある調味液を使用しているにも拘わらず真空処理・真空包装が可能となる。
【0018】
なお、実施例では、容器状のフィルムおよび蓋のフィルムに厚さ25μmのポリプロピレンフィルムを使用し、中敷のフィルムに厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(cppフィルム:Cast Polypropylene film)を使用している。前述したように、この中敷は2段に敷き詰めた魚体が相互にズレることのないように表面を粗面加工としているが、それ以外に、(ア)レトルト処理時の120℃の高温に耐えること、(イ)S6の工程で敷き詰めた魚体をS7の工程に移行するときに魚体がこぼれ落ちることの無いようなほど良い硬さを有すること、(ウ)レトルト処理時の加熱温度が十分に伝わること、の要件を満たす必要があることから、上記の厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを使用することとしたものである。
【0019】
(8)真空包装のまま1.5気圧に加圧して、容器状のフィルムおよび蓋のフィルムから構成される包装容器内の魚体の温度が120℃に到達した後、20分間加熱して殺菌する(S8)。いわゆるレトルト処理である。
(9)レトルト処理後、常温で冷却し乾燥させて水切りを行う(S9)。魚体が2段重ねの場合の中敷きに無延伸ポリプロピレンフィルムを使用することにより、加熱・冷却しても包装容器自体の型くずれが生じない。
(10)以上の工程を経て、本発明に係る片口イワシのレトルトパウチ食品が製造される。そして、出来上がったレトルトパウチ食品を箱詰めし、箱ごと冷凍して出荷する(S10)。
【0020】
以上が本発明に係る片口イワシのレトルトパウチ食品の製造方法であるが、魚体を2段重ねにしていることから大量の魚体のレトルト処理が可能であり、レトルト処理後も柔らかさを保持し、包装容器から取り出してそのまま食べることができるみりん風味に仕上がる。
このレトルトパウチ食品の栄養分析を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
なお、片口イワシに代えて真イワシ、アジ、鯖、あるいはそれらの切り身でも本発明に係る魚類のレトルトパウチ食品を製造できることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青魚類の開きまたは切り身に加工された魚体を砂糖および食塩からなる調味液に漬け込んだ後にデンプンおよびゴマが振りかけられてレトルト処理されることにより、原材料名表示が青魚類、砂糖、食塩、デンプンおよびゴマのみからなる、ことを特徴とする青魚類のレトルトパウチ食品。
【請求項2】
青魚類の開きまたは切り身に加工された魚体を砂糖、食塩および少量のアミノ酸からなる調味液に漬け込んだ後にデンプンおよびゴマが振りかけられてレトルト処理されることにより、原材料名表示が青魚類、砂糖、食塩、デンプン、ゴマおよびアミノ酸のみからなる、ことを特徴とする青魚類のレトルトパウチ食品。
【請求項3】
前記青魚類は脂の乗った魚体であり、前記魚類の開きには中骨が残されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の青魚類のレトルトパウチ食品。
【請求項4】
前記魚体は包装容器内に2段に載置され、該2段の間に表面が粗面加工された無延伸のフィルムが挟入されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の青魚類のレトルトパウチ食品。
【請求項5】
洗浄した青魚類の開きまたは切り身に加工された魚体が水分に対する質量比で砂糖7〜9%および食塩1〜3%からなる調味液、あるいは砂糖7〜9%、食塩1〜3%および少量のアミノ酸からなる調味液に10℃程度の低温で2日から4日間漬け込まれ、
前記魚体にデンプンおよびゴマが振りかけられて開き干しされ、
包装容器内に真空封入されてレトルト処理される、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法。
【請求項6】
前記青魚類は脂の乗った魚体であり、前記魚類の開きには中骨が残されている、ことを特徴とする請求項5に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法。
【請求項7】
前記真空封入は凹部を有する容器状のフィルムに魚体を載置しその上から同一仕様のフィルムで蓋をして真空処理をする、ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の青魚類のレトルトパウチ食品の製造方法。
【請求項8】
前記魚体は2段に載置され、その間に無延伸のフィルムが挟入され、該フィルムの表面は粗面加工されている、ことを特徴とする請求項7に記載の魚類のレトルトパウチ食品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−147441(P2011−147441A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283919(P2010−283919)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(300056510)
【出願人】(510017664)
【出願人】(510017675)
【Fターム(参考)】