説明

静圧気体軸受スピンドル及び静電塗装装置

【課題】高効率に主軸を回転させることができる静圧気体軸受スピンドルを提供する。
【解決手段】タービン羽根20を、タービン用ノズルから供給された高圧流体が流れる方向に向かって羽根高さが徐々に低くなるように形成し、タービン羽根に高さ方向から対向しているハウジングの内壁21を、羽根高さが徐々に変化しているタービン羽根の頂部に近接して対向するように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内の気体軸受に高圧気体を供給して主軸を回転自在に支持すると共に、タービン羽根に高圧気体を供給して主軸を高速回転する静圧気体軸受スピンドル及びこの静圧気体軸受スピンドルを使用した静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静圧気体軸受スピンドルは、主軸を高圧気体の圧力により非接触状態で支持するため、他の軸受形式に比べて摩擦損失が小さく、高速スピンドルに適しており、従来、静電塗装装置、研削盤、小径穴明機などのスピンドルに使用されている。
図5及び図6は、静電塗装装置のスピンドルに適用した従来の静圧気体軸受スピンドルを示すものである。
【0003】
この静圧気体軸受スピンドルは、中空形状の主軸2と、この主軸2の一部を外部に突出させて収納しているハウジング3とを備えている。
主軸2は、円筒形状の主軸本体4と、主軸本体4の一端部に形成したワーク固定部5と、主軸本体4の他端部に形成したフランジ6とで構成されている。
ハウジング3は、主軸本体4を収納するハウジング本体7と、ハウジング本体7と締結ボルト(不図示)を介して一体化されてフランジ6を収納するプレート部8とで構成されている。
【0004】
主軸本体4及びフランジ6は、ラジアル軸受9及びアキシアル軸受10により非接触状態で支持されている。
ラジアル軸受9及びアキシアル軸受10は、ハウジング3に設けた気体供給路11と連通する給気ノズル9a,9b,9c,10aが設けられており、プレート部8に形成した軸受エア供給口8aから供給された高圧気体が、気体供給路11、給気ノズル9a,9b,9c,10aを介してラジアル軸受9及びアキシアル軸受10の軸受隙間に供給される。なお、アキシアル軸受10には磁石(不図示)が組み込まれており、空気の反発と磁石の吸引力とがバランスして適正な軸受隙間が保たれている。
【0005】
主軸2のフランジ6の外周面には、円周方向に所定間隔で多数のタービン羽根12が形成されている。
ハウジング3のプレート部8は、多数のタービン羽根12を外周及び高さ方向から囲むタービン収納凹部13と、プレート部8の軸方向に形成されて外部からタービン用エアが供給されるタービンエア吸気口14と、プレート部8の内面外周側に形成されてタービンエア吸気口14に連通する円周溝15と、円周溝15及びタービン収納凹部13の間を連通するようにプレート部8の内面に形成した複数のタービン用ノズル16とを備えている。
【0006】
また、主軸2のワーク固定部5には、塗料拡散用のカップ17が着脱自在に装着されている。
そして、軸受エア供給口8aから供給した高圧気体がラジアル軸受9及びアキシアル軸受10の軸受隙間に供給されることで、主軸2が非接触状態で支持される。そして、タービン用ノズル16からタービン羽根12に向かって高圧気体が噴出することで、主軸2に回転力が与えられてカップ17が高速回転する。これにより、カップ17に塗料供給管(不図示)を通して塗料を供給すると、カップ17の遠心力によって塗料が微細化されて塗装が行われる。
【0007】
ところで、フランジ6に形成されている多数のタービン羽根12は、羽根外径側から羽根内径側までの高さが同一寸法に設定されており、これらタービン羽根12を囲っているプレート部8のタービン収納凹部13の高さは、タービン羽根12より僅かに高い寸法に設定されている。
そして、タービン羽根12は、図6に示すように、各タービン羽根12の厚みを増大させることで、隣接するタービン羽根の羽根外径側の羽根間距離Cに対して、隣接するタービン羽根の羽根内径側の羽根間距離Dを小さくしている(D<C)。このようなタービン羽根12の配列にすることで、タービン用ノズル16の開口部に近接しているタービン羽根12の羽根外径側を、タービン用ノズル16から噴出する気体のエネルギを受けて回転力を発生する衝動部としている。また、羽根外径側の羽根間距離Cに対して羽根内径側の羽根間距離Dを小さくすることで隣接するタービン羽根12,12の間の流路断面積を徐々に減少させ、タービン羽根12,12の間を通過する気体の流速を増大させているタービン羽根12の羽根内径側(タービン用ノズル16の開口部から離間した側)は、主軸2の回転方向の後方に気体を噴出させて回転力を発生させる反動部とされている。
【0008】
ところで、上述したように隣接するタービン羽根の羽根外径側の羽根間距離Cと羽根内径側の羽根間距離Dとの関係をD<Cにすると、タービン羽根の厚みが厚くなって主軸2の質量が増大し、質量が増大した主軸2は、慣性モーメントの増大により加減速時間が長くなるので回転効率が悪くなるという問題がある。また、タービン羽根の質量増により遠心力による応力が高くなり、回転数を抑えなければならなくなる。
【0009】
そこで、例えば特許文献1に記載されているように、各タービン羽根(特許文献1では回転翼と称している)の厚みを増大させず(反動部を設けず)、タービン羽根の回転方向の前方を向く第1の面の外周部(羽根外径側)に前方平面部を設け、第1の面の内周部(羽根内径側)に前方局面部を設け、前述した前方平面部と、タービン用ノズルから供給される気体の噴出方向とが実質的に平行となるように構成することで、気体の流れに乱れを生じさせず、エネルギ損失を抑制して高効率で主軸を回転させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−300024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1は、多数のタービン羽根の第1の面に、気体の噴出方向と実質的に平行となる前方平面部を高精度に形成しなければならず、タービン羽根の形成に複雑な工程が必要となるので、製造コストが高騰するおそれがある。また、図6で示した隣接するタービン羽根の羽根外径側の羽根間距離Cに対して隣接するタービン羽根の羽根内径側の羽根間距離Dを小さくして反動部を設ける構造と比較すると、主軸の回転効率が低下する。
【0012】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、高効率に主軸を回転させるとともに、製造コストの低減化を図ることができる静圧気体軸受スピンドル及び静電塗装装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の静圧気体軸受スピンドルは、主軸と、主軸を収納するハウジングと、高圧気体の供給により、前記ハウジングに対して前記主軸を非接触で回転自在に支持する気体軸受と、前記主軸の一部の円周方向に配列した複数のタービン羽根と、前記複数のタービン羽根を囲っている前記ハウジングの内部に設けられ、前記複数のタービン羽根に向かって高圧気体を噴出して前記主軸を回転させるタービン用ノズルと、を備えた静圧気体軸受スピンドルにおいて、前記複数のタービン羽根を、前記タービン用ノズルから供給された前記高圧流体が流れる方向に向かって羽根高さが徐々に低くなるように形成するとともに、前記複数のタービン羽根に高さ方向から対向している前記ハウジングの内壁を、羽根高さが徐々に変化している前記タービン羽根の頂部に近接して対向するように形成した。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の静圧気体軸受スピンドルにおいて、周方向に隣接する一対のタービン羽根の前記高圧流体の入側の羽根間距離と、前記一対のタービン羽根の前記高圧流体の出側の羽根間距離とを同一寸法に設定した。
また、請求項3記載の静電塗装装置は、請求項1又は2記載の静圧気体軸受スピンドルを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る静圧気体軸受スピンドル及び静電塗装装置によれば、複数のタービン羽根を、タービン用ノズルから供給された高圧流体が流れる方向に向かって羽根高さが徐々に低くなるように形成し、前記複数のタービン羽根に高さ方向から対向しているハウジングの内壁を、羽根高さが徐々に変化しているタービン羽根の頂部に近接して対向するように形成したことで、高圧流体が流れる方向に向かって流路断面積が徐々に小さくなるので、タービン用ノズルから供給された気体が多数のタービン羽根の間を通過する際に、主軸に大きな回転力を発生することができ、高効率に主軸を回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る静圧気体軸受スピンドルを示す断面図である。
【図2】図1のI−I線矢視図である。
【図3】本発明に係るタービン羽根の形状及びタービン羽根を高さ方向から覆っているハウジングの内壁を示す図である。
【図4】本発明に係るタービン羽根の形状を示す斜視図である。
【図5】従来の静圧気体軸受スピンドルを示す断面図である。
【図6】図5のII−II線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1から図4は、回転霧化型静電塗装機のスピンドルに適用した本発明に係る静圧気体軸受スピンドルを示すものである。なお、図5及び図6で示した構成と同一構成部分には、同一符号を付してその説明は省略する。
【0018】
本実施形態の主軸2のフランジ6の外周面には、円周方向に所定間隔で多数のタービン羽根20が形成されている。
各タービン羽根20は、図3及び図4に示すように、羽根外径側の高さh1に対して羽根内径側の高さh2が小さくなるように、背高外径部20a、背低内径部20b及びそれらの間に傾斜部20cが形成されている。そして、各タービン羽根20の厚さは、図6で示したタービン羽根12と比較して厚みを薄くして形成されており、隣接するタービン羽根20,20の羽根外径側の羽根間距離Aと羽根内径側の羽根間距離Bとは、同一寸法に設定されている(A=B)。
【0019】
ハウジング本体7と一体化されてフランジ6を収納するプレート部8には、多数のタービン羽根20を外周及び高さ方向から囲むタービン収納凹部21が形成されている。
そして、多数のタービン羽根20に対して高さ方向から対向しているタービン収納凹部21の内壁は、図3に示すように、タービン羽根20の背高外径部20aに近接して対向している環状の背高外径側内壁21aと、タービン羽根20の背低内径部20bに近接して対向している円形状の背低内径側内壁21bと、背高外径側内壁21a及び背低内径側内壁21bの間でタービン羽根20の傾斜部20aに近接して対向している環状の傾斜側内壁21cとを備えている。
【0020】
本実施形態の静圧気体軸受スピンドルは、軸受エア供給口8aから供給した高圧気体がラジアル軸受9及びアキシアル軸受10の軸受隙間に供給されることで、主軸2が非接触状態で支持されるとともに、タービン用ノズル16から多数のタービン羽根20の羽根外形側に向けて高圧気体が噴出することで、主軸2に回転力が与えられてカップ17が高速回転する。これにより、カップ17に塗料供給管(不図示)を通して塗料を供給すると、カップ17の遠心力によって塗料が微細化されて塗料が行われるようになっている。
【0021】
ここで、本発明の複数のタービン羽根をタービン用ノズルから供給された高圧流体が流れる方向に向かって羽根高さが徐々に低くなるように形成するという構成は、背高外径部20a、背低内径部20b及び傾斜部20cに対応し、本発明のタービン羽根に高さ方向から対向しているハウジングの内壁が、背高外径側内壁21a、背低内径側内壁21b及び傾斜側内壁21cに対応している。
【0022】
次に、本実施形態において、タービン用ノズル16からタービン羽根20に向けて高圧気体が噴出する際の作用について説明する。
多数のタービン羽根20は、羽根外径側から羽根内径側に向けて背高外径部20a、傾斜部20c及び背低内径部20bを形成し、タービン用ノズル16から供給された気体が流れる方向に向かって羽根高さを徐々に低く設定した構造としているとともに、多数のタービン羽根20に対して高さ方向から対向しているタービン収納凹部21の内壁は、背高外径部20aに近接して対向している背高外径側内壁21aと、傾斜部20cに近接して対向している傾斜側内壁21cと、背低内径部20bに近接して対向している背低内径側内壁21bとを備えている。これにより、隣接するタービン羽根20,20と、フランジ6の外周面、タービン収納凹部21とで囲まれてなる流路断面積は、羽根外径側から羽根内径側に向かうに従い徐々に小さく設定されている。
【0023】
そして、多数のタービン羽根20の羽根外径側(背高外径部20a)は、衝動部としてタービン用ノズル16から供給された高圧気体のエネルギを受けて主軸2に対して回転力を発生する。
また、隣接するタービン羽根20,20と、フランジ6の外周面と、タービン収納凹部21とで囲まれて形成された流路断面積が、羽根外径側から羽根内径側に向かうに従い徐々に小さくなるように設定されているので、多数のタービン羽根20の間を通過して羽根内径側に向かう気体は再度流速が増大していく。これにより、多数のタービン羽根20の羽根内径側(背低内径側内壁21b)は、主軸2の回転方向の後方に流速が増大した気体を噴出させ、反動部として主軸2に大きな回転力を発生する。
【0024】
本実施形態の効果について説明する。
本実施形態の静圧気体軸受スピンドルによると、隣接するタービン羽根20,20と、フランジ6の外周面と、タービン収納凹部21とで囲まれて形成された流路断面積が、羽根外径側から羽根内径側に向かうに従い徐々に小さくなるように設定されているので、タービン用ノズル16から供給された気体が多数のタービン羽根20の間を通過すると、主軸2に大きな回転力を発生する。また、隣接するタービン羽根20,20の羽根外径側の羽根間距離Aと羽根内径側の羽根間距離Bとを同一寸法に設定し、各タービン羽根20の厚みを薄く設定したことから主軸2の質量が減少し、主軸2の慣性モーメントは低減する。したがって、タービン用ノズル16から供給された気体が多数のタービン羽根20の間を通過することで、多数のタービン羽根20の衝動部及び反動部から主軸2に大きな回転力が付与され、慣性モーメントが低減した主軸2が回転するので、高効率に主軸2を回転させることができる。
【0025】
また、本実施形態の多数のタービン羽根20は、エネルギ損失を抑制するための特殊加工を施しておらず、隣接するタービン羽根20,20の羽根外径側の羽根間距離Aと羽根内径側の羽根間距離Bとを同一寸法に設定した簡便な構造としているので、タービン羽根20を形成する際に複雑な工程を必要とせず、製造コストの低減化を図ることができる。
【符号の説明】
【0026】
2…主軸、3…ハウジング、4…主軸本体、5…ワーク固定部、6…フランジ、7…ハウジング本体、8…プレート部、8a…軸受エア供給口、9…ラジアル軸受、9a,9b,9c,10a…給気ノズル、10…アキシアル軸受、11…気体供給路、14…タービンエア吸気口、15…円周溝、16…タービン用ノズル、17…カップ、20…タービン羽根、20a…背高外径部、20b…背低内径部、20c…傾斜部、21…タービン収納凹部、21a…背高外径側内壁、21b…背低い内径側内壁、21c…傾斜側内壁、A,B…羽根間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、主軸を収納するハウジングと、高圧気体の供給により、前記ハウジングに対して前記主軸を非接触で回転自在に支持する気体軸受と、前記主軸の一部の円周方向に配列した複数のタービン羽根と、前記複数のタービン羽根を囲っている前記ハウジングの内部に設けられ、前記複数のタービン羽根に向かって高圧気体を噴出して前記主軸を回転させるタービン用ノズルと、を備えた静圧気体軸受スピンドルにおいて、
前記複数のタービン羽根を、前記タービン用ノズルから供給された前記高圧流体が流れる方向に向かって羽根高さが徐々に低くなるように形成するとともに、
前記複数のタービン羽根に高さ方向から対向している前記ハウジングの内壁を、羽根高さが徐々に変化している前記タービン羽根の頂部に近接して対向するように形成したことを特徴とする静圧気体軸受スピンドル。
【請求項2】
周方向に隣接する一対のタービン羽根の前記高圧流体の入側の羽根間距離と、前記一対のタービン羽根の前記高圧流体の出側の羽根間距離とを同一寸法に設定したことを特徴とする請求項1記載の静圧気体軸受スピンドル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の静圧気体軸受スピンドルを備えていることを特徴とする静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113179(P2013−113179A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258644(P2011−258644)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】