静止誘導機器用鉄心
【課題】製造の簡単化及び製造コストの削減を図りつつ、占積率の向上及び渦電流の低減より、鉄損などの鉄心の磁気特性の低下を可及的に抑制する。
【解決手段】幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部211を有する複数の磁性鋼板21を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心要素2A、2B、2Cを同心円状に積層して形成された複数の鉄心ブロック2と、前記鉄心ブロック2間に設けられた磁性ギャップ3と、を具備する。
【解決手段】幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部211を有する複数の磁性鋼板21を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心要素2A、2B、2Cを同心円状に積層して形成された複数の鉄心ブロック2と、前記鉄心ブロック2間に設けられた磁性ギャップ3と、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器又はリアクトルなどの静止誘導機器に用いられる円形鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器やリアクトルなどの静止誘導機器において、磁路となる鉄心の損失は、機器の効率低下及び発熱の原因となっており、その低減が大きな課題である。特に、漏洩磁束による鉄心の渦電流損は大きな比率を占め、この渦電流により鉄心が発熱してしまい、機器の効率を低下させてしまう。また、これに巻回されている誘導コイルの効率低下、絶縁低下を招く要因となる。なお、渦電流の大きさは、磁束が垂直に入る磁性鋼板の幅、又は板厚の二乗に比例して大きくなることが知れられている。
【0003】
この静止誘導機器において、鉄心に巻装するコイル導線の長さを短くする為などの理由から、鉄心を円柱状にする場合がある。このとき、静止誘導機器用鉄心として、幅寸法が異なる平坦な磁性鋼板を積層して円柱状に構成する積鉄心(特許文献1参照)、平坦な磁性鋼板を積層し、これを丸巻きして円柱状に構成する巻鉄心(特許文献2参照)平坦な磁性鋼板を放射状に積層して円柱状に構成するラジアル鉄心(特許文献3参照)、がある。なお、これらの鉄心において、適当な磁束密度を設定して所望のリアクタンスを得るために鉄心間に磁気ギャップが設けられる(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すような積鉄心では、真円に近づけるために幅寸法の異なる磁性鋼板の種類を増やす必要があり、製造コストが高くなってしまうことや、組み立て作業が煩雑になってしまう等の問題がある。また、磁気ギャップを設けた場合、当該ギャップ近傍の鉄心において、径方向に貫通して外部に放出される漏洩磁束が増大するが、この漏洩磁束により渦電流が生じてしまい、鉄心が発熱してしまうという問題がある。
【0005】
また、特許文献2に示すような巻鉄心では、最外周に設けられた鋼板の平面部の全部が露出する構造となり、漏洩磁束の貫通により発生する渦電流の最大値が大きく、鉄損が増大してしまうという問題がある。また、磁気ギャップを設けた場合において、この問題は顕著になってしまう。
【0006】
さらに、特許文献3に示すようなラジアル鉄心では、漏洩磁束が通過するのは鋼板の端面であり渦電流を小さくすることができ、鉄心の発熱量を低減させることができるものの、細幅の磁性鋼板を一定の円周に沿って放射状に並べる作業は極めて面倒である。また、各磁性鋼板の内端を密に並べても隣接する磁性鋼板の外端の間には、空隙が形成されてしまう。そのため、鉄心の占積率を向上させるためには、別の細幅の磁性鋼板をその空隙に挟み込む等して、その空隙を埋める等の作業が必要となる。
【0007】
ところで、静止誘導機器に用いられるものではないが、誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器に用いられる鉄心として、特許文献4に示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する狭幅の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心が本出願人によって考えられている。これによれば、漏洩磁束が磁性鋼板を貫通することによる渦電流の発生を小さくすることができ、鉄心の発熱量を低減させることが可能になる。
【0008】
この円筒状鉄心は、狭幅の磁性鋼板を積み重ねることから、磁路となる有効断面積が小さいという問題があり、占積率を向上させるという観点から言うと、単純に磁性鋼板の幅寸法を大きくすることが考えられる。しかしながら、単純に幅寸法を大きくすると外径が大きくなることから用いられる用途が限られてしまうという問題がある。また、外径を小さくするためには、磁性鋼板を径方向に対して可及的に傾斜するように設けることも考えられるが、そうすると、磁性鋼板の外部に露出する平面部分の面積が大きくなってしまい、渦電流の発生を防ぐことができないという問題がある。
【特許文献1】実開昭62−30317号公報
【特許文献2】特開2001−237124号公報
【特許文献3】特開平5−109546号公報
【特許文献4】特開2000−311777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、製造の簡単化及び製造コストの削減を図りつつ、占積率の向上及び渦電流の低減より、鉄損などの鉄心の磁気特性の低下を可及的に抑制することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る静止誘導機器用鉄心は、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された複数の円筒状鉄心要素を同心円状に積層して形成された複数の鉄心ブロックと、前記鉄心ブロック間に設けられた磁気ギャップと、を具備することを特徴とする。
【0011】
このように本発明によれば、鉄心ブロックが円筒状鉄心要素を同士円上に複数積層して形成されたものであり、占積率を向上させることができ、鉄損を低減することができる。また、ギャップ部材によって磁路中の磁気抵抗を増減させて所望のリアクタンスを得ることができる上に、磁気抵抗を大きくした場合に径方向に貫通する漏洩磁束の磁束量は増加するが、この漏洩磁束は等価的に略放射状に設けられた磁性鋼板の幅方向に沿って通過するようになり、渦電流を低減することができる。さらに、磁性鋼板をずらして積み重ねて形成された鉄心ブロック間に磁気ギャップを形成する構成により、製造の簡単化及び製造コストの削減を実現することができる。
【0012】
また、磁気ギャップの形成を簡単にして、静止誘導機器用鉄心の組み立てを一層簡単にするためには、前記磁気ギャップが、非磁性体からなるギャップ部材を前記鉄心ブロック間に挟み込むことにより形成されていることが望ましい。
【0013】
最大渦電流値を可及的に小さくするためには、前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素を構成する磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下であることが望ましい。
【0014】
外部露出部の幅方向長さsを前記磁性鋼板の板厚t以下にするための具体的な実施の態様としては、前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【0015】
【数1】
【0016】
(ここで、αは、円筒状鉄心要素の内側円の径方向に対する磁性鋼板の傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0017】
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
【0018】
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0019】
【数2】
【0020】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、前記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0021】
【数3】
【0022】
の関係をなすことである。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、製造の簡単化及び製造コストの削減を図りつつ、占積率の向上及び渦電流の低減より、鉄損などの鉄心の磁気特性の低下を可及的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明に係る静止誘導機器用鉄心1の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態の静止誘導機器用鉄心1の構成の概略を示す斜視図であり、図2は静止誘導機器鉄心1の平面図である。
【0025】
本実施形態に係る静止誘導機器用鉄心1は、例えばリアクトル又は変圧器に用いられる円形鉄心であり、図1に示すように、複数の鉄心ブロック2と、これら鉄心ブロック2間に設けられる磁気ギャップ3とを具備する。
【0026】
鉄心ブロック2は、図2に示すように、複数(本実施形態では3つ)の円筒状鉄心要素2A、2B、2Cを同心円状に径方向に積層して形成されたものである。径方向において隣接する円筒状鉄心要素2A、2B、2Cは接触して設けられている。つまり、隣接する一方の円筒状鉄心要素2A、2B、2Cの外径と隣接する他方の円筒状鉄心要素2A、2B、2Cの内径とは、略同一である。具体的に、3つの円筒状鉄心要素2A、2B、2Cのうち、内径側に設けられている鉄心要素を第1の鉄心要素2A、中間に設けられている鉄心要素を第2の鉄心要素2B、外径側に設けられている鉄心要素を第3の鉄心要素2Cとする場合に、例えば第1の鉄心要素2Aの外径と第2の鉄心要素2Bの内径とは、略同一である。
【0027】
円筒状鉄心要素2A、2B、2Cは、図2に示すように、複数の磁性鋼板21を、幅方向にずらして積み重ねることにより円筒状に形成されたものである。
【0028】
磁性鋼板21は、長尺形状をなすものであり、図3に示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部211を有する。この磁性鋼板21は、例えば表面に絶縁皮膜が施されたケイ素鋼板により形成されており、その板厚は、例えば約0.3mmである。
【0029】
湾曲部211は、全体に亘って一定の曲率で湾曲しているもの、又は、連続して曲率が変化しながら湾曲するものが考えられ、例えばインボリュート曲線の一部を用いたインボリュート形状、部分円弧形状又は部分楕円形状などが考えられる。
【0030】
そして、磁性鋼板21の湾曲部211により形成された凹部に、他の磁性鋼板21の湾曲部211により形成された凸部を嵌め込むように、尚かつ各磁性鋼板21が幅方向にずれるようにして、同一形状をなす多数枚の磁性鋼板21を重ね合わせる。このとき、磁性鋼板21の幅方向端部21a、21bが、隣接する磁性鋼板21の凹側側面又は凸側側面に接触するようにしている。このようにして円筒形状をなす円筒状鉄心要素2A、2B、2Cが形成される。
【0031】
磁気ギャップ3は、非磁性体からなるギャップ部材を鉄心ブロック2間に鉄心ブロック2が略同軸となるように挟み込むことにより形成されている。ギャップ部材は、アルミニウム、セラミック、ガラスなどの非磁性体から形成されており、平板状をなすものであっても良いし、柱状をなすものであっても良い。本実施形態では、前記鉄心ブロック2の平面視における形状と略同一形状の円環状をなす。
【0032】
次に、本実施形態の静止誘導機器用鉄心1の製造方法について説明する。
【0033】
所定の外径を有する円柱部材又は円筒部材(以下、円柱部材等という。)を用意し、その外側周面に磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aを当接させつつ、外側周面に沿って順次重ねて第1の鉄心要素2Aを形成する。そして、この第1の鉄心要素2Aを歪み取り焼き鈍し処理後、ワニスや絶縁物などにより固定及び絶縁処理を施す。次に、固定及び絶縁処理を施した第1の鉄心要素2Aの外側周面に磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aを当接させつつ、第1の鉄心要素2Aの外側周面に沿って順次重ねて第2の鉄心要素2Bを形成する。この形状を維持したまま第2の鉄心要素2Bから第1の鉄心要素2A及び円柱部材等を抜き取り、第2の鉄心要素2Bを歪み取り焼き鈍し処理した後、再び第1の鉄心要素2Aを第2の鉄心要素2B内に挿入し、第2の鉄心要素2Bを第1の鉄心要素2Aの外側周面に沿って積層する。そしてワニスや絶縁物などにより固定及び絶縁処理を施すことにより、第1の鉄心要素2A及び第2の鉄心要素2Bによる2層鉄心が形成される。さらに、多層形成する場合には、第2の鉄心要素2Bの外側周面に上記の工程を繰り返し施すことにより、任意の層数の鉄心ブロック2を形成することができる。このようにして形成された鉄心ブロック2間にギャップ部材を介在させて各鉄心ブロック2が略同軸となるように積み重ねて固定することにより静止誘導機器用鉄心1が形成される。
【0034】
しかして、本実施形態の静止誘導機器用鉄心1は、図4の部分拡大図に示すように、鉄心ブロック2の径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素(第3の鉄心要素)2Cを構成する磁性鋼板21の積層側側面における外部露出部21xの幅方向長さsが、磁性鋼板21の板厚t以下になるように磁性鋼板21を積層している。つまり、磁性鋼板21の板厚tが0.3mmであれば、外部露出部21xの幅方向長さsは、0.3mm以下となるようにしている。
【0035】
磁性鋼板21の積層側側面は、隣接する磁性鋼板21と対向する側面21m、21nのうち、湾曲部211の凸側側面21nである。そして、この積層側側面において、接触する磁性鋼板21の幅方向外径側端部21bよりも外側に形成される面が、外部露出部21xである。
【0036】
さらに、磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aは、図3に示すように、幅方向内径側端部21aの中心線の傾きが、第3の鉄心要素2Cの内側円の径方向に対して傾斜角度θ21aを有するように設けられている。つまり、磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aが、隣接する磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aから外径方向に向かって板厚t以下の位置に接触するように設けられている。
【0037】
また本実施形態の第3の鉄心要素2Cは、第3の鉄心要素2Cの内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板21の板厚tが、
【0038】
【数4】
【0039】
(ここで、αは、第3の鉄心要素2Cの内側円の径方向に対する磁性鋼板21の傾斜角度θ21aであり、θ’は、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0040】
前記中心角度θ’が、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板21の傾斜角度α(=θ21a)をθXとし、
【0041】
磁性鋼板21の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0042】
【数5】
【0043】
磁性鋼板21の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、前記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0044】
【数6】
【0045】
の関係となるように構成されている。
【0046】
この関係式(式2)及び関係式(式3)は、図4に示すように、外部露出部21xの幅方向長さsと、磁性鋼板21の板厚tとが、s≦tとなる第3の鉄心要素2Cの内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すものである。ここで、第3の鉄心要素2Cの内径ΦAとは、各磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aに内接する円の直径であり、第3の鉄心要素2Cの外径ΦBとは、各磁性鋼板21の幅方向外径側端部21bに外接する円の直径である(図2参照)。
【0047】
簡単のため磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aが、第3の鉄心要素2Cの内径ΦAに対して垂直である(幅方向内径側端部21aの中心線の傾斜角度θ21aがゼロ(θ21a=0))として、その説明図を図5に示す。このとき、磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aの角及び円中心Oを結ぶ直線と磁性鋼板21の中心線(直線とみなしている。)とのなす角度をθ0/2(rad)とすると、次の関係式が成り立つ。
【0048】
tan(θ0/2)=(t/2)/(ΦA/2)=t/ΦA ・・・(式4)
【0049】
磁性鋼板21、一枚当たりの中心角度は、θ0となり、内径ΦAの第3の鉄心要素2Cの磁性鋼板21の枚数をN0として、各磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aを互いに接触させて隙間なく密に配置した場合には、
【0050】
N0=2π/θ0 ・・・(式5)
となる。
【0051】
また、図6に示すように、外部露出部21xの幅方向長さsが、板厚tと等しいとした場合には、磁性鋼板21の幅方向外径側端部21bの頂点a及び頂点c間の距離は、近似的にΦBπ/N0となる。ここで、直角二等辺三角形abcにおいて、
【0052】
(ΦBπ/N0)2=2t2 ・・・(式6)
となる。
【0053】
ここで、(式5)を(式6)に代入して、
{ΦBπ/(π/2θ0)}2=2t2
【0054】
両辺を整理すると、 ΦB=2√2t/θ0 ・・・(式7)
となる。
【0055】
そして、(式7)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における等号式が得られる。
【0056】
次に、傾斜角度θ21aがゼロ(θ21a=0)の場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0057】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N0)2=s2+t2<2t2 ・・・(式8)
となる。
【0058】
ここで、(式5)を(式8)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ ・・・(式9)
となる。
【0059】
そして、(式9)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における不等式が得られる。
【0060】
また、傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0061】
ここで、まず角度θXについて説明する。この角度θXは、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板21の傾斜角度θ21aであり、
【0062】
【数7】
【0063】
において、中心角度θ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板21の傾斜角度である。このθXは、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも小さい。一方、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがθX<θ21aの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも大きい。なお、(式1)及びθXの導出については最後に説明する。
【0064】
このとき、磁性鋼板21の積層枚数をN’とすると、N’>N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’<θ0である。
【0065】
そうすると、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式10)
また、N’=2π/θ’ ・・・(式11)
となる。
【0066】
(式10)及び(式11)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0067】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式12)
となる。
【0068】
この(式12)は、
ΦB=2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0069】
つまり、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲においてs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがθ21a=0の場合のs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲にある場合においてもs=tとすることができる。
【0070】
次に、傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0071】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式13)
となる。
【0072】
(式11)を(式13)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式14)
となる。
【0073】
この(式14)は、
ΦB<2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0074】
つまり、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲においてs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがθ21a=0の場合のs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲にある場合においてもs<tとすることができる。
【0075】
次に、傾斜角度θ21aがθ21a=θXの場合において、s=t、s<tとなるための条件を考える。このとき、θX=θ0であるので、それぞれの場合において、上述したθ21a=0の場合におけるs=t、s<tとなるための条件と同じである。
【0076】
次に、傾斜角度θ21aがθXよりも大きい(θ21a>θX)場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0077】
このとき、磁性鋼板21の積層枚数をN’とすると、N’<N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’>θ0である。また、頂点A及び頂点A’の距離を仮想板厚t’とすると、
【0078】
tan(θ’/2)=(t’/2)/(ΦA/2)=t’/ΦA
したがって、θ’=2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式15)
【0079】
また、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式16)
N’=2π/θ’ ・・・(式17)
となる。
【0080】
(式16)及び(式17)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0081】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式18)
となる。
【0082】
(式18)を(式15)に代入すると、
ΦB=√2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式19)
となる。
【0083】
ここで、三角形OAA’において余弦定理より、
(t’)2=(ΦA)2+(ΦA)2−2(ΦA)2cosθ’であり、
t’=ΦA√{(1−cosθ’)/2} ・・・(式20)
となる。
【0084】
そして、(式19)に(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における等号式が得られる。
【0085】
次に、傾斜角度θ21aがθXよりも大きい(θ21a>θX)場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0086】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式21)
となる。
【0087】
(式17)を(式21)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式22)
となる。
【0088】
そして、(式22)に(式15)及び(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における不等式が得られる。
【0089】
以上より、上記関係式を満たす第3の鉄心要素2Cの内径ΦA、外径ΦB、板厚tを選択することにより、s≦tとなる第3の鉄心要素2Cを製作することができる。
【0090】
具体例として、磁性鋼板21の傾斜角度αがθX以下の場合において、例えば第3の鉄心要素2Cの内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)及び磁性鋼板21の板厚tを0.3(mm)とした場合には、外径ΦB(=600)<777.8≒√2×0.3/(tan−1(0.3/550))となる。したがって、磁性鋼板21の傾斜角度αがθX以下の条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板21を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の第3の鉄心要素2Cを製作した場合、外部露出部21xの幅方向長さsが、板厚tより小さい第3の鉄心要素2Cができる。
【0091】
また、磁性鋼板21の傾斜角度αがθXよりも大きい場合において、例えば第3の鉄心要素2Cの内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)、磁性鋼板21の板厚tを0.3(mm)、及び、上記(式1)から求められる仮想板厚t’が0.35(mm)の場合、外径ΦB(=600)<666.7≒√2×0.3/(tan−1(0.35/550))となる。したがって、磁性鋼板21の傾斜角度αがθXよりも大きい条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板21を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の第3の鉄心要素2Cを製作した場合において、外部露出部21xの幅方向長さsが、板厚tより小さい第3の鉄心要素2Cができる。
【0092】
さらに、s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図8にシミュレーション結果を示す。この図8は、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、s=tとなるためのθは、1.25π、3.25π、5.25πである。
【0093】
この図8から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約42.6(=21.3×2)となる。つまり、s=tとするための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>42.6/60=0.71である。
【0094】
さらに、2s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図9にシミュレーション結果を示す。この図9は、上記図8と同様に、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、2s=tとなるためのθは、1.25π、3.15π、5.15πである。
【0095】
この図9から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約53,7(=26.85×2)となる。つまり、2s=tとするための外径/内径の比は、ΦA/ΦB>53.7/60=0.895である。このように、シミュレーションの結果から、s≦tとなるための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>0.71であることが必要と考えられる。
【0096】
最後に、角度θXの導出について図10を参照して説明する。まず、幾何学的情報を解析学的に記述する。
【0097】
図10に示した第1の磁性鋼板の点A(R(=ΦA/2),0)を通る面L1を
L1:f(x、y)=0
とおく。
【0098】
また、第1の磁性鋼板に隣接する第2の磁性鋼板の面L2は、中心の回転角θ’を用いて、
L2:g(f(x、y),θ’)=0
と表すことができる。
【0099】
この面L2が第1の磁性鋼板と点B(xb,yb)で接していることから、
g(f(xb,yb),θ’)=0
が成立する。
【0100】
以下、面L1、L2の断面形状が直線であると仮定する。L1とx軸とのなす角度をαとおくと、幾何学的に関数fは次式となる。
L1:f(x,y)=y−(x−R)tan(−α)=0
【0101】
したがって、L2は次式となる。
L2:g(f(x,y),θ’)
=y−Rsinθ’−(s−Rsinθ’)tan(θ’−α)=0
【0102】
また、鋼板の厚さをtとすると、点Bの座標は(R+tsinα,tcosα)となる。この点Bの座標値を式L2に代入すると、
tcosα−Rsinθ−(R+tsinα−Rcosθ)tan(θ−α)=0
となる。
【0103】
この式により、内径R(=ΦA/2)、板厚tを与え、θ’=θ0とすることにより求められたαがθXとなる。
【0104】
<本実施形態の効果>
【0105】
このように構成した本実施形態に係る静止誘導機器用鉄心1によれば、鉄心ブロック2が円筒状鉄心要素2A、2B、2Cを同士円上に複数積層して形成されたものであり、占積率を向上させることができ、鉄損を低減することができる。また、ギャップ部材3によって磁路中の磁気抵抗を増減させて所望のリアクタンスを得ることができる上に、磁気抵抗を大きくした場合に径方向に貫通する漏洩磁束の磁束量は増加するが、この漏洩磁束は等価的に略放射状に設けられた磁性鋼板21の幅方向に沿って通過するようになり、渦電流を低減することができる。さらに、磁性鋼板21をずらして積み重ねて形成された鉄心ブロック2間にギャップ部材3を挟み込むという構成により、製造の簡単化及び製造コストの削減を実現することができる。
【0106】
<その他の変形実施形態>
【0107】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0108】
例えば、前記実施形態では、各円筒状鉄心要素の積み重ねる方向が同一であるが、各円筒状鉄心要素間において、積み重ねる方向を逆方向にしても良い。
【0109】
また、前記実施形態では、鉄心ブロックは3つの円筒状鉄心要素により構成されているが、2つの円筒状鉄心要素又は4つ以上の円筒状鉄心要素から構成されるものであっても良い。つまり、静止誘導機器用鉄心は、その用途に合わせて2以上の円筒状鉄心要素から構成されているものであれば良い。
【0110】
さらに、前記実施形態では、磁性鋼板が湾曲部211のみからなるものであったが、図11に示すように、湾曲部211と、当該湾曲部211の幅方向における内径側端部に連続して形成された屈曲部212とからなるものであっても良い。このように屈曲部212を備えるものであれば、各磁性鋼板21を積み重ねる作業を容易にすることができるだけでなく、磁性鋼板21が径方向外部に抜脱されることを好適に防止することができる。
【0111】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の一実施形態に係る静止誘導機器用鉄心の斜視図。
【図2】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の平面図。
【図3】同実施形態の磁性鋼板を示す断面図。
【図4】外部露出部及び磁性鋼板の板厚の関係を示す図。
【図5】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図(θ21a=0)。
【図6】外部露出部の幅方向長さ及び磁性鋼板の板厚が同一とした場合の外側角a−cの距離を示す図。
【図7】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図(0<θ21a)。
【図8】シミュレーション結果を示す図。
【図9】シミュレーション結果を示す図。
【図10】角度θXの導出を説明するための図。
【図11】磁性鋼板の変形例を示す断面図。
【符号の説明】
【0113】
1・・・静止誘導機器用鉄心
2・・・鉄心ブロック
2A、2B、2C・・・円筒状鉄心要素
21・・・磁性鋼板
211・・・湾曲部
3・・・ギャップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器又はリアクトルなどの静止誘導機器に用いられる円形鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器やリアクトルなどの静止誘導機器において、磁路となる鉄心の損失は、機器の効率低下及び発熱の原因となっており、その低減が大きな課題である。特に、漏洩磁束による鉄心の渦電流損は大きな比率を占め、この渦電流により鉄心が発熱してしまい、機器の効率を低下させてしまう。また、これに巻回されている誘導コイルの効率低下、絶縁低下を招く要因となる。なお、渦電流の大きさは、磁束が垂直に入る磁性鋼板の幅、又は板厚の二乗に比例して大きくなることが知れられている。
【0003】
この静止誘導機器において、鉄心に巻装するコイル導線の長さを短くする為などの理由から、鉄心を円柱状にする場合がある。このとき、静止誘導機器用鉄心として、幅寸法が異なる平坦な磁性鋼板を積層して円柱状に構成する積鉄心(特許文献1参照)、平坦な磁性鋼板を積層し、これを丸巻きして円柱状に構成する巻鉄心(特許文献2参照)平坦な磁性鋼板を放射状に積層して円柱状に構成するラジアル鉄心(特許文献3参照)、がある。なお、これらの鉄心において、適当な磁束密度を設定して所望のリアクタンスを得るために鉄心間に磁気ギャップが設けられる(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すような積鉄心では、真円に近づけるために幅寸法の異なる磁性鋼板の種類を増やす必要があり、製造コストが高くなってしまうことや、組み立て作業が煩雑になってしまう等の問題がある。また、磁気ギャップを設けた場合、当該ギャップ近傍の鉄心において、径方向に貫通して外部に放出される漏洩磁束が増大するが、この漏洩磁束により渦電流が生じてしまい、鉄心が発熱してしまうという問題がある。
【0005】
また、特許文献2に示すような巻鉄心では、最外周に設けられた鋼板の平面部の全部が露出する構造となり、漏洩磁束の貫通により発生する渦電流の最大値が大きく、鉄損が増大してしまうという問題がある。また、磁気ギャップを設けた場合において、この問題は顕著になってしまう。
【0006】
さらに、特許文献3に示すようなラジアル鉄心では、漏洩磁束が通過するのは鋼板の端面であり渦電流を小さくすることができ、鉄心の発熱量を低減させることができるものの、細幅の磁性鋼板を一定の円周に沿って放射状に並べる作業は極めて面倒である。また、各磁性鋼板の内端を密に並べても隣接する磁性鋼板の外端の間には、空隙が形成されてしまう。そのため、鉄心の占積率を向上させるためには、別の細幅の磁性鋼板をその空隙に挟み込む等して、その空隙を埋める等の作業が必要となる。
【0007】
ところで、静止誘導機器に用いられるものではないが、誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器に用いられる鉄心として、特許文献4に示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する狭幅の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された円筒状鉄心が本出願人によって考えられている。これによれば、漏洩磁束が磁性鋼板を貫通することによる渦電流の発生を小さくすることができ、鉄心の発熱量を低減させることが可能になる。
【0008】
この円筒状鉄心は、狭幅の磁性鋼板を積み重ねることから、磁路となる有効断面積が小さいという問題があり、占積率を向上させるという観点から言うと、単純に磁性鋼板の幅寸法を大きくすることが考えられる。しかしながら、単純に幅寸法を大きくすると外径が大きくなることから用いられる用途が限られてしまうという問題がある。また、外径を小さくするためには、磁性鋼板を径方向に対して可及的に傾斜するように設けることも考えられるが、そうすると、磁性鋼板の外部に露出する平面部分の面積が大きくなってしまい、渦電流の発生を防ぐことができないという問題がある。
【特許文献1】実開昭62−30317号公報
【特許文献2】特開2001−237124号公報
【特許文献3】特開平5−109546号公報
【特許文献4】特開2000−311777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、製造の簡単化及び製造コストの削減を図りつつ、占積率の向上及び渦電流の低減より、鉄損などの鉄心の磁気特性の低下を可及的に抑制することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る静止誘導機器用鉄心は、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された複数の円筒状鉄心要素を同心円状に積層して形成された複数の鉄心ブロックと、前記鉄心ブロック間に設けられた磁気ギャップと、を具備することを特徴とする。
【0011】
このように本発明によれば、鉄心ブロックが円筒状鉄心要素を同士円上に複数積層して形成されたものであり、占積率を向上させることができ、鉄損を低減することができる。また、ギャップ部材によって磁路中の磁気抵抗を増減させて所望のリアクタンスを得ることができる上に、磁気抵抗を大きくした場合に径方向に貫通する漏洩磁束の磁束量は増加するが、この漏洩磁束は等価的に略放射状に設けられた磁性鋼板の幅方向に沿って通過するようになり、渦電流を低減することができる。さらに、磁性鋼板をずらして積み重ねて形成された鉄心ブロック間に磁気ギャップを形成する構成により、製造の簡単化及び製造コストの削減を実現することができる。
【0012】
また、磁気ギャップの形成を簡単にして、静止誘導機器用鉄心の組み立てを一層簡単にするためには、前記磁気ギャップが、非磁性体からなるギャップ部材を前記鉄心ブロック間に挟み込むことにより形成されていることが望ましい。
【0013】
最大渦電流値を可及的に小さくするためには、前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素を構成する磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下であることが望ましい。
【0014】
外部露出部の幅方向長さsを前記磁性鋼板の板厚t以下にするための具体的な実施の態様としては、前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【0015】
【数1】
【0016】
(ここで、αは、円筒状鉄心要素の内側円の径方向に対する磁性鋼板の傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0017】
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
【0018】
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0019】
【数2】
【0020】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、前記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0021】
【数3】
【0022】
の関係をなすことである。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、製造の簡単化及び製造コストの削減を図りつつ、占積率の向上及び渦電流の低減より、鉄損などの鉄心の磁気特性の低下を可及的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明に係る静止誘導機器用鉄心1の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図1は本実施形態の静止誘導機器用鉄心1の構成の概略を示す斜視図であり、図2は静止誘導機器鉄心1の平面図である。
【0025】
本実施形態に係る静止誘導機器用鉄心1は、例えばリアクトル又は変圧器に用いられる円形鉄心であり、図1に示すように、複数の鉄心ブロック2と、これら鉄心ブロック2間に設けられる磁気ギャップ3とを具備する。
【0026】
鉄心ブロック2は、図2に示すように、複数(本実施形態では3つ)の円筒状鉄心要素2A、2B、2Cを同心円状に径方向に積層して形成されたものである。径方向において隣接する円筒状鉄心要素2A、2B、2Cは接触して設けられている。つまり、隣接する一方の円筒状鉄心要素2A、2B、2Cの外径と隣接する他方の円筒状鉄心要素2A、2B、2Cの内径とは、略同一である。具体的に、3つの円筒状鉄心要素2A、2B、2Cのうち、内径側に設けられている鉄心要素を第1の鉄心要素2A、中間に設けられている鉄心要素を第2の鉄心要素2B、外径側に設けられている鉄心要素を第3の鉄心要素2Cとする場合に、例えば第1の鉄心要素2Aの外径と第2の鉄心要素2Bの内径とは、略同一である。
【0027】
円筒状鉄心要素2A、2B、2Cは、図2に示すように、複数の磁性鋼板21を、幅方向にずらして積み重ねることにより円筒状に形成されたものである。
【0028】
磁性鋼板21は、長尺形状をなすものであり、図3に示すように、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部211を有する。この磁性鋼板21は、例えば表面に絶縁皮膜が施されたケイ素鋼板により形成されており、その板厚は、例えば約0.3mmである。
【0029】
湾曲部211は、全体に亘って一定の曲率で湾曲しているもの、又は、連続して曲率が変化しながら湾曲するものが考えられ、例えばインボリュート曲線の一部を用いたインボリュート形状、部分円弧形状又は部分楕円形状などが考えられる。
【0030】
そして、磁性鋼板21の湾曲部211により形成された凹部に、他の磁性鋼板21の湾曲部211により形成された凸部を嵌め込むように、尚かつ各磁性鋼板21が幅方向にずれるようにして、同一形状をなす多数枚の磁性鋼板21を重ね合わせる。このとき、磁性鋼板21の幅方向端部21a、21bが、隣接する磁性鋼板21の凹側側面又は凸側側面に接触するようにしている。このようにして円筒形状をなす円筒状鉄心要素2A、2B、2Cが形成される。
【0031】
磁気ギャップ3は、非磁性体からなるギャップ部材を鉄心ブロック2間に鉄心ブロック2が略同軸となるように挟み込むことにより形成されている。ギャップ部材は、アルミニウム、セラミック、ガラスなどの非磁性体から形成されており、平板状をなすものであっても良いし、柱状をなすものであっても良い。本実施形態では、前記鉄心ブロック2の平面視における形状と略同一形状の円環状をなす。
【0032】
次に、本実施形態の静止誘導機器用鉄心1の製造方法について説明する。
【0033】
所定の外径を有する円柱部材又は円筒部材(以下、円柱部材等という。)を用意し、その外側周面に磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aを当接させつつ、外側周面に沿って順次重ねて第1の鉄心要素2Aを形成する。そして、この第1の鉄心要素2Aを歪み取り焼き鈍し処理後、ワニスや絶縁物などにより固定及び絶縁処理を施す。次に、固定及び絶縁処理を施した第1の鉄心要素2Aの外側周面に磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aを当接させつつ、第1の鉄心要素2Aの外側周面に沿って順次重ねて第2の鉄心要素2Bを形成する。この形状を維持したまま第2の鉄心要素2Bから第1の鉄心要素2A及び円柱部材等を抜き取り、第2の鉄心要素2Bを歪み取り焼き鈍し処理した後、再び第1の鉄心要素2Aを第2の鉄心要素2B内に挿入し、第2の鉄心要素2Bを第1の鉄心要素2Aの外側周面に沿って積層する。そしてワニスや絶縁物などにより固定及び絶縁処理を施すことにより、第1の鉄心要素2A及び第2の鉄心要素2Bによる2層鉄心が形成される。さらに、多層形成する場合には、第2の鉄心要素2Bの外側周面に上記の工程を繰り返し施すことにより、任意の層数の鉄心ブロック2を形成することができる。このようにして形成された鉄心ブロック2間にギャップ部材を介在させて各鉄心ブロック2が略同軸となるように積み重ねて固定することにより静止誘導機器用鉄心1が形成される。
【0034】
しかして、本実施形態の静止誘導機器用鉄心1は、図4の部分拡大図に示すように、鉄心ブロック2の径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素(第3の鉄心要素)2Cを構成する磁性鋼板21の積層側側面における外部露出部21xの幅方向長さsが、磁性鋼板21の板厚t以下になるように磁性鋼板21を積層している。つまり、磁性鋼板21の板厚tが0.3mmであれば、外部露出部21xの幅方向長さsは、0.3mm以下となるようにしている。
【0035】
磁性鋼板21の積層側側面は、隣接する磁性鋼板21と対向する側面21m、21nのうち、湾曲部211の凸側側面21nである。そして、この積層側側面において、接触する磁性鋼板21の幅方向外径側端部21bよりも外側に形成される面が、外部露出部21xである。
【0036】
さらに、磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aは、図3に示すように、幅方向内径側端部21aの中心線の傾きが、第3の鉄心要素2Cの内側円の径方向に対して傾斜角度θ21aを有するように設けられている。つまり、磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aが、隣接する磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aから外径方向に向かって板厚t以下の位置に接触するように設けられている。
【0037】
また本実施形態の第3の鉄心要素2Cは、第3の鉄心要素2Cの内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板21の板厚tが、
【0038】
【数4】
【0039】
(ここで、αは、第3の鉄心要素2Cの内側円の径方向に対する磁性鋼板21の傾斜角度θ21aであり、θ’は、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
【0040】
前記中心角度θ’が、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板21の傾斜角度α(=θ21a)をθXとし、
【0041】
磁性鋼板21の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【0042】
【数5】
【0043】
磁性鋼板21の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、前記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【0044】
【数6】
【0045】
の関係となるように構成されている。
【0046】
この関係式(式2)及び関係式(式3)は、図4に示すように、外部露出部21xの幅方向長さsと、磁性鋼板21の板厚tとが、s≦tとなる第3の鉄心要素2Cの内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すものである。ここで、第3の鉄心要素2Cの内径ΦAとは、各磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aに内接する円の直径であり、第3の鉄心要素2Cの外径ΦBとは、各磁性鋼板21の幅方向外径側端部21bに外接する円の直径である(図2参照)。
【0047】
簡単のため磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aが、第3の鉄心要素2Cの内径ΦAに対して垂直である(幅方向内径側端部21aの中心線の傾斜角度θ21aがゼロ(θ21a=0))として、その説明図を図5に示す。このとき、磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aの角及び円中心Oを結ぶ直線と磁性鋼板21の中心線(直線とみなしている。)とのなす角度をθ0/2(rad)とすると、次の関係式が成り立つ。
【0048】
tan(θ0/2)=(t/2)/(ΦA/2)=t/ΦA ・・・(式4)
【0049】
磁性鋼板21、一枚当たりの中心角度は、θ0となり、内径ΦAの第3の鉄心要素2Cの磁性鋼板21の枚数をN0として、各磁性鋼板21の幅方向内径側端部21aを互いに接触させて隙間なく密に配置した場合には、
【0050】
N0=2π/θ0 ・・・(式5)
となる。
【0051】
また、図6に示すように、外部露出部21xの幅方向長さsが、板厚tと等しいとした場合には、磁性鋼板21の幅方向外径側端部21bの頂点a及び頂点c間の距離は、近似的にΦBπ/N0となる。ここで、直角二等辺三角形abcにおいて、
【0052】
(ΦBπ/N0)2=2t2 ・・・(式6)
となる。
【0053】
ここで、(式5)を(式6)に代入して、
{ΦBπ/(π/2θ0)}2=2t2
【0054】
両辺を整理すると、 ΦB=2√2t/θ0 ・・・(式7)
となる。
【0055】
そして、(式7)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における等号式が得られる。
【0056】
次に、傾斜角度θ21aがゼロ(θ21a=0)の場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0057】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N0)2=s2+t2<2t2 ・・・(式8)
となる。
【0058】
ここで、(式5)を(式8)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ ・・・(式9)
となる。
【0059】
そして、(式9)に(式4)の変形式θ0/2=tan−1(t/ΦA)を代入すると、上記関係式(式2)における不等式が得られる。
【0060】
また、傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0061】
ここで、まず角度θXについて説明する。この角度θXは、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板21の傾斜角度θ21aであり、
【0062】
【数7】
【0063】
において、中心角度θ’が、中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板21の傾斜角度である。このθXは、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも小さい。一方、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがθX<θ21aの場合には、角度θ’は中心角度θ0よりも大きい。なお、(式1)及びθXの導出については最後に説明する。
【0064】
このとき、磁性鋼板21の積層枚数をN’とすると、N’>N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’<θ0である。
【0065】
そうすると、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式10)
また、N’=2π/θ’ ・・・(式11)
となる。
【0066】
(式10)及び(式11)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0067】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式12)
となる。
【0068】
この(式12)は、
ΦB=2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0069】
つまり、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲においてs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがθ21a=0の場合のs=tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲にある場合においてもs=tとすることができる。
【0070】
次に、傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0071】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式13)
となる。
【0072】
(式11)を(式13)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式14)
となる。
【0073】
この(式14)は、
ΦB<2√2t/θ’>2√2t/θ0(∵θ’<θ0)
となる。
【0074】
つまり、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲においてs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲は、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aがθ21a=0の場合のs<tとなるための外径ΦBの満たす範囲を包含する。したがって、内径ΦA、外径ΦB、及び板厚tが、上記関係式(式2)の不等式を満たす場合には、磁性鋼板21の傾斜角度θ21aが0<θ21a<θXの範囲にある場合においてもs<tとすることができる。
【0075】
次に、傾斜角度θ21aがθ21a=θXの場合において、s=t、s<tとなるための条件を考える。このとき、θX=θ0であるので、それぞれの場合において、上述したθ21a=0の場合におけるs=t、s<tとなるための条件と同じである。
【0076】
次に、傾斜角度θ21aがθXよりも大きい(θ21a>θX)場合において、s=tとなるための条件を考える。
【0077】
このとき、磁性鋼板21の積層枚数をN’とすると、N’<N0であり、図7に示すように、隣接する磁性鋼板21の径方向最内端の角と円中心Oとのなす角度をθ’とすると、θ’>θ0である。また、頂点A及び頂点A’の距離を仮想板厚t’とすると、
【0078】
tan(θ’/2)=(t’/2)/(ΦA/2)=t’/ΦA
したがって、θ’=2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式15)
【0079】
また、
(ΦBπ/N’)2=2t2 ・・・(式16)
N’=2π/θ’ ・・・(式17)
となる。
【0080】
(式16)及び(式17)より、
{ΦBπ/(π/2θ’)}2=2t2
【0081】
両辺を整理すると、
ΦB=2√2t/θ’ ・・・(式18)
となる。
【0082】
(式18)を(式15)に代入すると、
ΦB=√2tan−1(t’/ΦA) ・・・(式19)
となる。
【0083】
ここで、三角形OAA’において余弦定理より、
(t’)2=(ΦA)2+(ΦA)2−2(ΦA)2cosθ’であり、
t’=ΦA√{(1−cosθ’)/2} ・・・(式20)
となる。
【0084】
そして、(式19)に(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における等号式が得られる。
【0085】
次に、傾斜角度θ21aがθXよりも大きい(θ21a>θX)場合において、s<tとなるための条件を考える。
【0086】
このとき、直角三角形abcにおいて、
(ΦBπ/N’)2=s2+t2<2t2 ・・・(式21)
となる。
【0087】
(式17)を(式21)に代入すると、
ΦB<2√2t/θ’ ・・・(式22)
となる。
【0088】
そして、(式22)に(式15)及び(式20)を代入すると、上記関係式(式3)における不等式が得られる。
【0089】
以上より、上記関係式を満たす第3の鉄心要素2Cの内径ΦA、外径ΦB、板厚tを選択することにより、s≦tとなる第3の鉄心要素2Cを製作することができる。
【0090】
具体例として、磁性鋼板21の傾斜角度αがθX以下の場合において、例えば第3の鉄心要素2Cの内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)及び磁性鋼板21の板厚tを0.3(mm)とした場合には、外径ΦB(=600)<777.8≒√2×0.3/(tan−1(0.3/550))となる。したがって、磁性鋼板21の傾斜角度αがθX以下の条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板21を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の第3の鉄心要素2Cを製作した場合、外部露出部21xの幅方向長さsが、板厚tより小さい第3の鉄心要素2Cができる。
【0091】
また、磁性鋼板21の傾斜角度αがθXよりも大きい場合において、例えば第3の鉄心要素2Cの内径ΦAを550(mm)、外径ΦBを600(mm)、磁性鋼板21の板厚tを0.3(mm)、及び、上記(式1)から求められる仮想板厚t’が0.35(mm)の場合、外径ΦB(=600)<666.7≒√2×0.3/(tan−1(0.35/550))となる。したがって、磁性鋼板21の傾斜角度αがθXよりも大きい条件下、板厚tが0.3(mm)の磁性鋼板21を用いて、内径ΦA550(mm)、外径ΦB600(mm)の第3の鉄心要素2Cを製作した場合において、外部露出部21xの幅方向長さsが、板厚tより小さい第3の鉄心要素2Cができる。
【0092】
さらに、s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図8にシミュレーション結果を示す。この図8は、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、s=tとなるためのθは、1.25π、3.25π、5.25πである。
【0093】
この図8から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約42.6(=21.3×2)となる。つまり、s=tとするための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>42.6/60=0.71である。
【0094】
さらに、2s=tとした場合の内径ΦA及び外径ΦBの関係を示すために、図9にシミュレーション結果を示す。この図9は、上記図8と同様に、外径ΦBを60に固定して、インボリュート曲線(x=a(cosθ+θsinθ)、y=a(sinθ−θcosθ))において、係数aを変化させた場合における内径ΦAの関係を示す図である。なお、2s=tとなるためのθは、1.25π、3.15π、5.15πである。
【0095】
この図9から分かるように、外径ΦBが60の場合、内径ΦAの最小値は、約53,7(=26.85×2)となる。つまり、2s=tとするための外径/内径の比は、ΦA/ΦB>53.7/60=0.895である。このように、シミュレーションの結果から、s≦tとなるための内径/外径の比は、ΦA/ΦB>0.71であることが必要と考えられる。
【0096】
最後に、角度θXの導出について図10を参照して説明する。まず、幾何学的情報を解析学的に記述する。
【0097】
図10に示した第1の磁性鋼板の点A(R(=ΦA/2),0)を通る面L1を
L1:f(x、y)=0
とおく。
【0098】
また、第1の磁性鋼板に隣接する第2の磁性鋼板の面L2は、中心の回転角θ’を用いて、
L2:g(f(x、y),θ’)=0
と表すことができる。
【0099】
この面L2が第1の磁性鋼板と点B(xb,yb)で接していることから、
g(f(xb,yb),θ’)=0
が成立する。
【0100】
以下、面L1、L2の断面形状が直線であると仮定する。L1とx軸とのなす角度をαとおくと、幾何学的に関数fは次式となる。
L1:f(x,y)=y−(x−R)tan(−α)=0
【0101】
したがって、L2は次式となる。
L2:g(f(x,y),θ’)
=y−Rsinθ’−(s−Rsinθ’)tan(θ’−α)=0
【0102】
また、鋼板の厚さをtとすると、点Bの座標は(R+tsinα,tcosα)となる。この点Bの座標値を式L2に代入すると、
tcosα−Rsinθ−(R+tsinα−Rcosθ)tan(θ−α)=0
となる。
【0103】
この式により、内径R(=ΦA/2)、板厚tを与え、θ’=θ0とすることにより求められたαがθXとなる。
【0104】
<本実施形態の効果>
【0105】
このように構成した本実施形態に係る静止誘導機器用鉄心1によれば、鉄心ブロック2が円筒状鉄心要素2A、2B、2Cを同士円上に複数積層して形成されたものであり、占積率を向上させることができ、鉄損を低減することができる。また、ギャップ部材3によって磁路中の磁気抵抗を増減させて所望のリアクタンスを得ることができる上に、磁気抵抗を大きくした場合に径方向に貫通する漏洩磁束の磁束量は増加するが、この漏洩磁束は等価的に略放射状に設けられた磁性鋼板21の幅方向に沿って通過するようになり、渦電流を低減することができる。さらに、磁性鋼板21をずらして積み重ねて形成された鉄心ブロック2間にギャップ部材3を挟み込むという構成により、製造の簡単化及び製造コストの削減を実現することができる。
【0106】
<その他の変形実施形態>
【0107】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0108】
例えば、前記実施形態では、各円筒状鉄心要素の積み重ねる方向が同一であるが、各円筒状鉄心要素間において、積み重ねる方向を逆方向にしても良い。
【0109】
また、前記実施形態では、鉄心ブロックは3つの円筒状鉄心要素により構成されているが、2つの円筒状鉄心要素又は4つ以上の円筒状鉄心要素から構成されるものであっても良い。つまり、静止誘導機器用鉄心は、その用途に合わせて2以上の円筒状鉄心要素から構成されているものであれば良い。
【0110】
さらに、前記実施形態では、磁性鋼板が湾曲部211のみからなるものであったが、図11に示すように、湾曲部211と、当該湾曲部211の幅方向における内径側端部に連続して形成された屈曲部212とからなるものであっても良い。このように屈曲部212を備えるものであれば、各磁性鋼板21を積み重ねる作業を容易にすることができるだけでなく、磁性鋼板21が径方向外部に抜脱されることを好適に防止することができる。
【0111】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の一実施形態に係る静止誘導機器用鉄心の斜視図。
【図2】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の平面図。
【図3】同実施形態の磁性鋼板を示す断面図。
【図4】外部露出部及び磁性鋼板の板厚の関係を示す図。
【図5】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図(θ21a=0)。
【図6】外部露出部の幅方向長さ及び磁性鋼板の板厚が同一とした場合の外側角a−cの距離を示す図。
【図7】磁性鋼板の幅方向内径側端部を示す拡大模式図(0<θ21a)。
【図8】シミュレーション結果を示す図。
【図9】シミュレーション結果を示す図。
【図10】角度θXの導出を説明するための図。
【図11】磁性鋼板の変形例を示す断面図。
【符号の説明】
【0113】
1・・・静止誘導機器用鉄心
2・・・鉄心ブロック
2A、2B、2C・・・円筒状鉄心要素
21・・・磁性鋼板
211・・・湾曲部
3・・・ギャップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された複数の円筒状鉄心要素を同心円状に積層して形成された複数の鉄心ブロックと、
前記鉄心ブロック間に設けられた磁気ギャップと、を具備する静止誘導機器用鉄心。
【請求項2】
前記磁気ギャップが、非磁性体からなるギャップ部材を前記鉄心ブロック間に挟み込むことにより形成されている請求項1記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項3】
前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素を構成する磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下である請求項1又は2記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項4】
前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【数1】
(ここで、αは、円筒状鉄心要素の内側円の径方向に対する磁性鋼板の傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【数2】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、前記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【数3】
の関係をなす請求項3記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項1】
幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の磁性鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された複数の円筒状鉄心要素を同心円状に積層して形成された複数の鉄心ブロックと、
前記鉄心ブロック間に設けられた磁気ギャップと、を具備する静止誘導機器用鉄心。
【請求項2】
前記磁気ギャップが、非磁性体からなるギャップ部材を前記鉄心ブロック間に挟み込むことにより形成されている請求項1記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項3】
前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素を構成する磁性鋼板の積層側側面における外部露出部の幅方向長さが、前記磁性鋼板の板厚以下である請求項1又は2記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項4】
前記鉄心ブロックの径方向最外側に設けられた円筒状鉄心要素の内径ΦA、外径ΦB、及び前記磁性鋼板の板厚tが、
【数1】
(ここで、αは、円筒状鉄心要素の内側円の径方向に対する磁性鋼板の傾斜角度であり、θ’は、隣接する磁性鋼板の径方向最内端の角と円中心とのなす中心角度である。なお、三角関数の単位はラジアン(rad)である。)において、
前記中心角度θ’が、前記磁性鋼板の傾斜角度がゼロの場合の中心角度θ0と等しくなるときの磁性鋼板の傾斜角度αをθXとし、
磁性鋼板の傾斜角度αがθX以下の場合には、
【数2】
磁性鋼板の傾斜角度αがθXよりも大きい場合には、前記(式1)を満たす中心角度θ’を用いて
【数3】
の関係をなす請求項3記載の静止誘導機器用鉄心。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−34329(P2010−34329A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195521(P2008−195521)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
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