説明

静止誘導機器

【課題】小型化、高電圧化、低価格化が可能な静止誘導機器の提供。
【解決手段】HIS巻きの静止誘導機器の電圧印加部の次のコイルセクションの最内側コイル導体のみを除去してその代わりに、電界緩和装置を一ターン分巻き込んで配置する。電界緩和装置は、電圧印加コイルセクションの最内側のコイル導体と軸方向に対応した位置に設けられる。
【効果】小型化、高電圧化、低価格化が可能で、電磁波障害も軽減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静止誘導機器に関するものであり、特に円板状のコイルセクションの電界緩和構造を持つ静止誘導機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静止誘導機器、例えば変圧器の巻線構造の決定に当たってまず考えることは、系統からの雷サージの侵入に対して巻線の電位分布が全長に亘って均等で、且つ巻線の占積率(巻線断面に占める導体の比)が高く、作業性が良い巻線構造とすることである。この様な要求を満たす巻線構造の一つとしてHIS巻線(高直列容量巻線)が従来から広く使用されている。この巻線は相隣り合う導体間に電気的に離れた電位のコイル導体を配置する構造で、その巻き方の工夫により電位分布を改善する方法が今まで数多く提案されている。しかし、このHIS巻線はその構造から相隣り合うコイルセクション(円板状コイル)間にコイルセクション当たりの巻回数の約3倍の電位差が生じ、この部分に相当するコイルセクションの最内側のコイル導体に電界が集中するため絶縁の最弱点部分となり、機器の高電圧化の制約となっている。
【0003】
このような高直列容量巻線を持つ静止誘導機器における電界集中の問題を解決するために、円板状のコイルセクションのコイル導体の径方向内側に、最内側のコイル導体と同一の電位を有するシールド導体を1ターン巻き込んでコイルセクションを構成した構造が提案されている。コイルセクションをこのようなシールド導体を巻き込んで構成することによって、電界緩和されて絶縁距離が減少し、コイル高さが減少でき、コイルが小形化することにより、絶縁信頼性が向上した小形化した静止誘導機器の巻線が得られる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−31628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこのような静止誘導機器においては、電界緩和装置はすべてのコイルセクションについてコイルの最内側のコイル導体に1ターンずつ挿入されている。このことは巻線の占積率(巻線断面に占める導体の比)が小さくなることとなり、機器の高電圧化を制約することとなる。また全てのコイルセクションに電界緩和装置を挿入するために、作業時間が増加し、工程の増加による機器の価格増大が発生する。
【0006】
従って本発明の目的は、電界緩和装置を電圧印加部周辺に効率的に配置し、電界を緩和して機器の高電圧化、小型化、シールド材の削減を実現した静止誘導機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の静止誘導機器は、コイル導体により構成されて直列接続され、軸方向に重ねられた複数個の円板状のコイルセクションと、上記コイルセクション間に冷媒流路を形成するスペーサ装置と、上記コイルセクションの最内側に配置され、該コイルセクションの上記コイル導体と同電位の電界緩和装置とを備えた静止誘導機器において、上記電界緩和装置が、上記コイルセクションのうちの電圧印加コイルセクションに対して軸方向に隣接するコイルセクションについてだけ設けられている。
【発明の効果】
【0008】
この発明の静止誘導機器によれば、機器の高電圧化、小型化、シールド材の削減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施形態1の静止誘導機器の電界緩和装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1の電界緩和装置の拡大概略図である。
【図3】この発明の電界緩和装置を備えていない静止誘導機器におけるコイルセクションの内端部における電界を示す概略図である。
【図4】この発明の電界緩和装置を備えた静止誘導機器におけるコイルセクションの内端部における電界を示す概略図である。
【図5】この発明の実施形態2に係る電界緩和装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1にこの発明の実施の形態1に係るHIS巻きの静止誘導機器の巻線構造図を示す。静止誘導機器の巻線装置の軸心CLの方向に延びた絶縁筒1には、周方向に間隔を置いて軸方向に延びた複数の軸方向スペーサ2が取り付けられている。また軸方向スペーサ2には、軸方向および周方向に間隔を置いて放射状に配置されて径方向に延びた径方向スペーサ6が取り付けられている。径方向スペーサ6の間には、高直列容量巻線構造により配置された円板状のコイルセクションS1〜S3、…SnおよびS1’〜S3’、…Sn'が設けられていて、コイルセクションS1〜S3、…Sn、S1’〜S3’、…Sn'間には、軸方向スペーサ2および径方向スペーサ6で構成されたスペーサ装置9により冷媒流路8が形成されている。以後、簡単のためS3までの記述とする。
【0012】
複数個の円板状のコイルセクションS1〜S3およびS1’〜S3’は、それぞれコイル導体5により構成されていて、互いに軸方向に重ねられ、直列接続されてHV巻線を構成している。HV巻線内のコイル導体5の位置は、図1中にコイル導体5の断面内に番号1〜27および1’〜27’を付して示してある。コイルセクションS1は1〜4および8〜11番のコイル導体5により構成され、コイルセクションS2は5〜7および12〜15番のコイル導体5により構成され、コイルセクションS3は16〜19および24〜27番のコイル導体5により構成されている。同様に、コイルセクションS1’は1’〜4’および8’〜11’番のコイル導体5により構成され、コイルセクションS2’は5’〜7’および12’〜15’番のコイル導体5により構成され、コイルセクションS3’は16’〜19’および24’〜27’番のコイル導体5により構成されている。図示はしないが上下端であるコイルセクションSn、Sn’は接地されている。絶縁筒1の内側には絶縁距離Lだけ離れてLV巻線が設けられ、HV巻線とともに巻線装置を構成している。
【0013】
雷サージが侵入した場合には、サージ電圧の印加部であるコイルセクションS1、S1’に最も高いサージ電圧が掛かり、コイルセクションS2、S3およびS2’、S3’の順に次第に分担電圧が低下する。従って、絶縁距離LはコイルセクションS1、S1’の最内側のコイル導体に発生する電界によって絶縁破壊しないよう決定され、機器の高電圧化、小型化に影響を与える。またコイルセクション間が絶縁破壊しないようにスペーサ6の厚さt0、t1〜t3、t1’〜t3’が決定されており、コイル導体端部の微小ギャップ部の電界によってこのスペーサ厚が決定されている。
【0014】
このようなサージ電圧によって発生する電界を緩和するために、シールド導体4、4’及び誘電体3、3’によって構成された電界緩和装置10を電圧印加セクションの上下のコイルセクションS2、S2’のみの最内側に、その位置のコイル導体を1つ除いて挿入する。すなわち、電界緩和装置10は、コイルセクションS1〜S3、S1’〜S3’のうちの電圧印加コイルセクションS1、S1’に対して軸方向に隣接するコイルセクションS2、S2’についてだけ、コイルセクションS2、S2’の径方向の最内側に配置され、コイルセクションS2、S2’の径方向の最内側の12番のコイル導体5と同電位にされている。このように、電界緩和装置10は、電界緩和装置10が挿入されなければ存在した最内側のコイル導体5が除去されて、その位置に代わりに挿入されたものであるとも言える。
【0015】
電界緩和装置10は、軸方向スペーサ2に隣接して12番のコイル導体5とほぼ平行に延びる誘電体3と、誘電体3とコイルセクションS2、S2’の最内側の12、12’番のコイル導体5との間で12、12’番のコイル導体5に隣接して配置されたシールド導体4とを備えている。誘電体3およびシールド導体4の材質は公知のものでよい。
【0016】
図示の例では、図2に示すように、電界緩和装置10の径方向寸法すなわち厚さt10は、そのコイルセクションS2、S2’のコイル導体5(12、12’番)の径方向寸法tcに等しく、従って電界緩和装置10、10’は、軸方向に隣接のコイルセクションS1、S3、S1’、S3’の最内側のコイル導体5(11、27、11’27’番)に対して同じ径方向位置にあり、軸方向に整列している。また、電界緩和装置10の軸方向寸法すなわち幅w10はコイル導体5(1〜27、1’〜27’番)の軸方向寸法すなわち幅Wと等しくされている。
【0017】
このようにコイル導体を除去することによっても上下の最内側のコイル導体間の距離が大きくなって、コイル導体端部の微小ギャップ電界を緩和することができるが、電界緩和装置10の電界緩和効果を合わせることでコイル導体端部の微小ギャップ部の電界緩和をさらに向上させることが可能である。
【0018】
以上の説明から明らかなように、この発明の静止誘導機器は、コイル導体5(1〜27、1’〜27’番)により構成されて直列接続され、軸方向に重ねられた複数個の円板状のコイルセクションS1〜S3、S1’〜S3’と、コイルセクションS1〜S3、S1’〜S3’間に冷媒流路を形成するスペーサ装置9と、コイルセクションS1〜S3、S1’〜S3’の最内側に配置され、該コイルセクションの12番のコイル導体5と同電位の電界緩和装置10とを備えている。この電界緩和装置10は、コイルセクションS1〜S3、S1’〜S3’のうちの電圧印加コイルセクションS1、S1’に対して軸方向に隣接するコイルセクションS2、S2’についてだけ設けられている。
【0019】
図示の例では、電界緩和装置10は、電圧印加コイルセクションS1、S1’の最内側のコイル導体5(11、11’番)に軸方向に対応する位置であって、さもなければ最内側のコイル導体5が配置されるべき位置に、設けられている。換言すれば、電界緩和装置10は、コイルセクションS2、S2’の最内側の12番のコイル導体5の位置に一ターン分巻き込んで配置されているとも言える。また、電界緩和装置10は、径方向寸法すなわち厚さt10がコイル導体5(1〜27、1’〜27’番)の径方向寸法すなわち厚さtcと等しく、軸方向寸法すなわち幅w10がコイル導体5(1〜27、1’〜27’番)の軸方向寸法すなわち幅Wと等しくされている。
【0020】
図3に従来の巻線構造における等電位線図を示し、図4に本発明によりコイルセクションS2について、最内側のコイル導体を除去して代わりに電界緩和装置10を挿入した場合における等電位線図を示す。これらの図より、コイルセクションS2に電界緩和装置10を挿入した場合は、通常の巻線構造の場合と比較して、電気力線同士の間隔が大きくなり、その結果最内側のコイル導体5の素線端部の微小ギャップ部の電界値が減少する。さらに電界緩和装置10によって挿入セクションの隣り合うコイル導体5の素線端部の微小ギャップの電界が大きく緩和されることが理解できる。
【0021】
このような構造とすれば電界緩和装置10を挿入したコイルセクションS2の最内側の上下のコイル導体5の素線端部の電界を緩和することが可能であり、従って、コイルセクションS1〜S3およびS1’〜S3’の11、12、27番および11’、12’、27’番の内側のコイル導体5の電界集中を緩和することができる。このように電界集中を緩和することにより、HVコイルとLVコイルの絶縁距離Lを電界緩和装置10を挿入しない場合と比較して低減することが可能である。さらにコイルセクション間の径方向スペーサ6の厚さt0、t1〜t3、t1’〜t3’も低減させることができる。このように高耐圧化することにより機器を高電圧化しても従来と比較して絶縁距離を縮小した構造とすることができるため、小型化が図れる。さらに、挿入する電界緩和装置10は2本のみであるためシールド材の削減に繋がる。
【0022】
実施の形態2.
図5には実施の形態2に係る静止誘導機器の電界緩和装置11の構造を示す。この電界緩和装置11においては、実施の形態1と同様にシールド配置されるが、シールド挿入セクションの最内側の導体すなわち12番のコイル導体5と電界緩和装置11のシールド導体4との間の空間に電界緩和樹脂モールド7が充填されて設けられている。このように、電界緩和装置11は、誘電体3と、シールド導体4とを備えている他に、シールド導体4とコイルセクションS2の最内側の12番のコイル導体5との間に充填された電界緩和樹脂モールド7を備えている。電界緩和樹脂の誘電率をコイル導体の絶縁被覆と同等とすれば、誘電率の比が充填しない場合の3〜3.6から1程度に低減され、結果としてコイル導体端部の電界集中を緩和することが可能である。
【0023】
以上に説明したとおり、HIS巻きの静止誘導機器の電圧印加部の次のコイルセクションS2、S2’の最内側のコイル導体5のみを取り除いてその位置のみに電界緩和装置10、11を挿入することで、最も絶縁破壊が生じ易い印加セクションS1及び次(上下)S2とその次(上下)S3のセクションの最内側にできるコイル導体端部の微小ギャップ部に発生する電界を緩和することができ、HV巻線全体のコイル導体端部の微小ギャップ部に発生する電界によって決定されるHV巻線とLV巻線との間の距離Lを電界緩和装置10、11を挿入しない場合と比較して低減することができる。従って、機器の小型化が図れる。電界緩和装置10、11は誘電体3が最内側となるよう配置される。この誘電体3により等電位線が歪曲し、1つ上および下のコイルセクションの最内側のコイル導体端部の電界を緩和することができる。また最内側よりも1つ内側に配置される電界緩和装置10、11は隣り合うコイル導体5と同電位に保たれ、その隣り合うコイル導体端部電界を大きく緩和できる。つまり、印加コイルセクションS1、S1’の次のコイルセクションS2、S2’に電界緩和装置10あるいは11を1つずつ挿入するだけで一番絶縁破壊が生じ易いコイルセクションのコイル導体端部の微小ギャップ電界を緩和することができる。このように効率的に静電シールド材及び誘電体を挿入することにより、部材を削減することができるので占積率が上昇し、このことによっても機器の高電圧化若しくは小型化、またその効果による低価格化を図ることができる。
【0024】
以上に図示して説明した静止誘導機器は単なる例であって様々な変形が可能であり、またそれぞれの具体例の特徴を全てあるいは選択的に組み合わせて用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明は静止誘導機器に利用できるものである。
【符号の説明】
【0026】
1 絶縁筒、2 軸方向スペーサ、3 誘電体、4 シールド導体、5 コイル導体、6 径方向スペーサ、7 電界緩和樹脂モールド、8 冷媒通路、9 スペーサ装置、10、11 電界緩和装置、CL 軸心、L 絶縁距離、S1〜S3、S1’〜S3’ コイルセクション(S1、S1’ 電圧印加コイルセクション、S2、S2’ 隣接するコイルセクション)、tc 径方向寸法、W 幅、w10 幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体により構成されて直列接続され、軸方向に重ねられた複数個の円板状のコイルセクションと、
上記コイルセクション間に冷媒流路を形成するスペーサ装置と、
上記コイルセクションの最内側に配置され、該コイルセクションの上記コイル導体と同電位の電界緩和装置とを備えた静止誘導機器において、
上記電界緩和装置が、上記コイルセクションのうちの電圧印加コイルセクションに対して軸方向に隣接するコイルセクションについてだけ設けられていることを特徴とする静止誘導機器。
【請求項2】
上記電界緩和装置が、上記電圧印加コイルセクションの最内側のコイル導体に軸方向に対応する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の静止誘導機器。
【請求項3】
上記電界緩和装置が、上記隣接するコイルセクションの最内側の上記コイル導体の位置に一ターン分巻き込んで配置されていることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の静止誘導機器。
【請求項4】
上記電界緩和装置が、シールド導体と誘電体とを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の静止誘導機器。
【請求項5】
上記電界緩和装置が、上記隣接するコイルセクションと上記最内側のコイル導体との間を充填する電界緩和樹脂モールドを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の静止誘導機器。
【請求項6】
上記電界緩和装置の径方向寸法が、上記コイル導体の径方向寸法と等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の静止誘導機器。
【請求項7】
上記電界緩和装置の軸方向寸法が、上記コイル導体の軸方向寸法と等しいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の静止誘導機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−219338(P2010−219338A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64953(P2009−64953)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】