説明

静止誘導電器の中身変位検出装置

【課題】静止誘導電器を地震後に解体せずにタンク内の電器中身の変位状況を精度良く推定でき、使用可能性を判定できる静止誘導電器の中身変位検出装置を提供する。
【解決手段】タンク1内に、鉄心と巻線16a、16b、16cからなる変圧器中身10とを収納し、絶縁媒体を充填する変圧器に適用する中身変位検出装置である。この装置は、タンク1の長手方向と幅方向の側壁内面1a、1b、1c,1dの巻線16a、16b、16cと最も近接し、かつ巻線上端部及び下端部に対向する位置に漏れ磁束測定センサー2とそれぞれ取り付け、タンク1の幅方向或いは長手方向の側壁内面の対応する関係にある対となる漏れ磁束測定センサー2の漏れ磁束測定信号を漏れ磁束検出手段3で検出し、この漏れ磁束検出手段3からの漏れ磁束測定信号を基にしてタンク1内に収納した変圧器中身10の変位状況を判定する演算ユニット9を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変圧器やリアクトル等の静止誘導電器の中身変位検出装置に係り、特に地震によって引き起こされるタンク内に収納した電器中身の変位を検出できる静止誘導電器の中身変位検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送配電系統の高電圧大容量化に伴い、最近の送変電所に設置される変圧器やリアクトル等の静止誘導電器は、大容量大型化される傾向にある。これに伴い、静止誘導電器は地震に対する耐震性の向上も求められてきている。
【0003】
例えば変圧器の場合、鉄心脚と上部及び下部継鉄からなる鉄心、及び鉄心脚に巻回する巻線で構成する変圧器中身を、タンク内に収納する際に、変圧器中身の耐震構造を例えば特許文献1に記載の如く鉄心部分を活用して行うことが提案されている。
【0004】
特許文献1の耐震構造は、上部継鉄の両側に配置する一対の上部鉄心締付金具の両側端端面間、及び下部継鉄の両側に配置する一対の下部鉄心締付金具の両側端端面間を橋絡する受け金具を設けており、上部及び下部の各受け金具とタンクの側壁面とを、非磁性材の支持金具によって連結したものである。これにより、変圧器鉄心の幅および長手方向への変位を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−93104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した特許文献1に記載の耐震構造を変圧器に適用した場合でも、大きな地震により非磁性材の支持金具の破損し、タンク内に収納した変圧器中身が変位する恐れがある。変圧器中身の変位の状況は、変圧器を絶縁上支障なくそのまま継続して使用できるかどうかの判断材料になる。
【0007】
ところが、変圧器はタンク内に絶縁油の如く絶縁媒体を充填しているから、地震後に変圧器中身の変位の有無を外部から簡単に確認できない問題があるため、変圧器中身の変位の確認は、変圧器を工場に持ち帰って内部点検する必要がある。そして、変圧器の内部点検で、変圧器中身の変位状況を確認して使用可能或いは修理かどうかを判定し、修理要の時には補修してから再度現地に搬入し据え付けことになるため、多くの作業時間を要し経済的でない欠点がある。
【0008】
本発明の目的は、静止誘導電器を地震後に解体せずにタンクに収納した電器中身の変位状況を精度良く推定でき、使用可能性を判定できる静止誘導電器の中身変位検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の静止誘導電器の変位検出装置は、鉄心脚と上部及び下部継鉄を有する鉄心及び前記鉄心脚に巻回する巻線からなる電器中身と、前記電器中身を収納すると共に絶縁媒体を充填するタンクにて静止誘導電器を構成するとき、前記タンクの長手方向と幅方向の側壁内面の巻線と最も近接し、かつ前記巻線の上端部及び下端部に対向する位置にそれぞれ取り付ける漏れ磁束測定センサーと、前記タンクの幅方向或いは長手方向の側壁内面の対応する関係にある対となる前記漏れ磁束測定センサーの漏れ磁束測定信号を検出する漏れ磁束検出手段と、前記漏れ磁束検出手段からの漏れ磁束測定信号を基にして前記タンク内に収納した前記電器中身の変位状況を判定する演算ユニットとを備えて構成したことを特徴としている。
【0010】
好ましくは、前記漏れ磁束検出手段は、前記タンクの幅方向或いは長手方向の各側壁内面に取り付けられて対応する関係にある各漏れ磁束測定センサーと接続して漏れ磁束に基づく信号を出力するマルチプレクサと、前記漏れ磁束に基づく信号を増幅する増幅器と、前記増幅器に連なるピークホールド回路と、前記ピークホールド回路からのアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器とを有することを特徴としている。
【0011】
好ましくは、前記漏れ磁束測定センサーはホール素子であること、或いは前記漏れ磁束測定センサーはサーチコイルであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の静止誘導電器の中身変位検出装置によれば、電器中身のタンクの側壁内面内に取付けられた漏れ磁束測定用センサーヘ垂直に侵入する漏れ磁束密度を測定して活用することにより、タンク内に収納した電器中身の変位状況を推定することができる。このため、静止誘導電器を工場に持ち帰えることなく使用可能性を容易に判定することができるから、静止誘導電器の解体や再組立更には再据付等による作業時間を大幅に低減できて極めて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例である静止誘導電器の中身変位検出装置を適用した三相3脚変圧器を示す概略構成図である。
【図2】図1のA−A線における概略構成図である。
【図3】図1のB−B線における漏れ磁束密度分布図である。
【図4】図1のB−B線において変圧器中身がタンク右方向へ変位したときにタンクの側壁内面に垂直に侵入する状態の漏れ磁束密度分布図である。
【図5】図1のB−B線において変圧器中身がタンク高さ上方向へ変位したときにタンク側壁内面に垂直に侵入する状態の漏れ磁束密度分布図である。
【図6】図1のA−A線において変圧器中身がタンク長手方向の右側へ変位したときにタンク側壁内面に垂直に侵入する状態の漏れ磁束密度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の静止誘導電器の中身変位検出装置は、鉄心脚と上部及び下部継鉄を有する鉄心及び前記鉄心脚に巻回する巻線からなる電器中身と、前記電器中身を収納すると共に絶縁媒体を充填するタンクとならなる静止誘導電器に適用する。この装置は、前記タンクの長手方向と幅方向の側壁内面の巻線と最も近接し、かつ前記巻線の上端部及び下端部に対向する位置にそれぞれ取り付ける漏れ磁束測定センサーと、前記タンクの幅方向或いは長手方向の側壁内面の対応する関係にある対となる前記漏れ磁束測定センサーの漏れ磁束測定信号を検出する漏れ磁束検出手段と、前記漏れ磁束検出手段からの漏れ磁束測定信号を基にして前記タンク内に収納した前記電器中身の変位状況を判定する演算ユニットとを備えている。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の静止誘導電器の中身変位検出装置を、図1から図6に示した三相3脚変圧器に適用した例を使用して説明する。三相3脚変圧器は、図1及び図2に示すようにタンク1内に変圧器中身10を収納し、絶縁油や絶縁ガス等の絶縁媒体を充填して構成している。
【0016】
変圧器中身10は、3つの鉄心脚11a、11b、11cと、上部継鉄12及び下部継鉄13と、上部継鉄12部分に配置する上部鉄心締付金具14及び下部継鉄13部分に配置する下部鉄心締付金具15により形成する三相3脚鉄心、及び各鉄心脚11a、11b、11cに巻回した巻線16a、16b、16cからなっている。
【0017】
本発明では、タンク1の長手方向及び幅方向の側壁内面1a、1b、1c、1d部分の後述する漏れ磁束が最大となる位置に、それぞれ漏れ磁束測定用センサー2を設けている。即ち、図2の三相3脚変圧器では、巻線16a、16b、16cからの漏れ磁束は矢印で示す如く流れ、そして漏れ磁束密度は巻線16a、16b、16cがタンク1の幅方向及び長手方向の側壁内面1a、1b、1c、1dに最も近接する位置、即ち巻線中心位置に相当部分で最大となる。しかも、タンク1の高さ方向でみると、巻線16a、16b、16cの上端部及び下端部に対向する側壁内面1a、1b、1c、1dの位置で漏れ磁束密度が最大となる。
【0018】
タンク1内に変圧器中身10を収納した正常な構成の場合は、図3に示す磁界解析により計算したタンク1の側壁内面1a、1b内へ侵入する漏れ磁束密度分布の如く、漏れ磁束は矢印のように巻線16bからタンク1の側壁内面1a、1b内と鉄心脚11bを経由して、再び巻線16bへ戻る流れとなっている。そして、タンク1の側壁内面1a、1bに対して垂直に侵入する漏れ磁束密度分布は、巻線16bの上下端部付近で各々最大となり、側壁内面1a、1bで上下の漏れ磁束の極性が反対となっている。なお、変圧器中身の変位がなくて正常な場合の磁界解析の計算結果は、タンク1の側壁内面1a、1bに垂直に侵入する漏れ磁束密度分布を比較する基準値となる。
【0019】
このため、本発明の装置に用いる漏れ磁束測定用センサー2は、変圧器設計時に実施する磁界解析結果を考慮して決定する。つまり、漏れ磁束測定用センサー2は、タンク1の側壁内面1a、1b、1c、1dに巻線16a、16b、16cが最も近接し、かつ巻線16a、16b、16cの上端部及び下端部に対向している漏れ磁束密度が最大の位置を選んでそれぞれ設けている。しかも、タンク1の側壁内面1aと1b及び1cと1dに設ける各漏れ磁束測定用センサー2は、変圧器中身10の巻線16a、16b、16cの中心を挟んで対応する関係、つまり対称位置にあって一対をなすように設けている。
【0020】
漏れ磁束測定用センサー2としては、タンク1の側壁内面1a、1b、1c、1dに設けるのに支障のない小さな寸法のものを使用し、例えば巻回数が多くて検出感度の良好なサーチコイル、或いは磁界を検出する半導体であるホール素子を使用する。
【0021】
検討によると、タンク71に変圧器中身10が10〜140mm程度近づいて変位した場合を想定し計算した結果では、タンク1の側壁内面へ侵入する漏れ磁束は0.14〜10mT程度である。一方、漏れ磁束測定用センサー2の測定精度は、最低で0.14mT(14ガウス)であるから、変圧器中身10の変位が10〜50mm程度でも十分に測定することができる。
【0022】
図4から図6に、タンク1の側壁内面1a、1b、1c、1dに侵入する漏れ磁束を、実線で示す変圧器中身10の変位前と、破線で示す変圧器中身10の変位後について、磁界解析により計算した垂直漏れ磁束密度分布を比較して示している。変圧器中身10が、側壁内面1a側(紙面右側)に近づく変位方向に変位した場合、図4の如く垂直漏れ磁束密度分布は、側壁内面1a側では破線の変位後は実線の変位前より大きくなり、逆に側壁内面1b側では破線の変位後は実線の変位前より小さくなる。また、変圧器中身10がタンク1の上方に近づく変位方向に変位した場合、図5の如く側壁内面1a、1b側のいずれでも垂直漏れ磁束密度分布は、破線の変位後は実線の変位前より上方に変化して現れる。
更に、変圧器中身10がタンク1の長手方向である側壁内面1c側(紙面右側)に近づく変位方向に変位した場合、図6の如く垂直漏れ磁束密度分布は図4と同様に側壁内面1c側では破線の変位後は実線の変位前より大きくなり、逆に側壁内面1d側では破線の変位後は実線の変位前より小さくなる。本発明では、上記のような漏れ磁束密度の変化を捉えて、変圧器中身10の変位を検出している。
【0023】
変圧器中身10を挟んで対応する関係にあり対となる漏れ磁束測定用センサー2は、接続線2a1と2a2、2b1と2b2、2c1と2c2、2d1と2d2によって、漏れ磁束検出手段3側と接続している。図1の例の漏れ磁束検出手段3は、2つの入力信号を一つの信号として出力するマルチプレクサ4と、マルチプレクサ4からの出力信号を増幅する増幅器5と、増幅された交流分の出力信号のピーク値を保持するピークホールド回路6及びアナロクデジタル(A/D)変換器7を備えている。
【0024】
そして、漏れ磁束検出手段3で得られた検出信号は、演算ユニット8で演算して判定され、この結果を表示装置9に表示するようにしている。演算ユニット8は、例えば記憶部8aと、演算部8bおよび判断部8cとを有している。記憶部8aには、予めタンク1の側壁内面1a、1b、1c、1dにおける磁界解析による漏れ磁束密度を記憶しており、演算部8bにおいて検出信号を演算し、記憶部8aに保存されている対応する部分の磁界解析記録に基づいて判断部8cで変圧器中身10の変位状況を判定する。
【0025】
本発明の装置を用いて三相3脚変圧器の中身の変位検出を行うときには、まずタンク1の幅方向或いは長手方向の側壁内面1aと1b、1cと1dで、巻線16a、16b、16cを挟んで上端部或いは下端部において対応する関係にあって一対となる漏れ磁束測定センサー2を選択する。
【0026】
図1の例では漏れ磁束検出手段3にマルチプレクサ4を使用しているから、演算ユニット8からの選択信号でマルチプレクサ4は、例えば一対の漏れ磁束測定センサー2の接続線2a1と2a2を選択し、漏れ磁束の測定信号を増幅器5とピークホールド回路6及びA/D変換器7を経た検出信号を、演算ユニット8に取り込んで演算する。そして、演算ユニット8の演算部8aにおいて取り込んだ検出信号の差の絶対値を演算し、絶対値は許容範囲内かどうかを判断部8cで判定し、許容範囲内であれば変圧器中身10の変位状況を正常と判定する。この判定結果が表示装置9に表示される。
【0027】
上記と同様の信号の検出及び演算処理は、漏れ磁束測定センサー2の接続線2b1と2b2、2c1と2c2、2d1と2d2の選択で順次実施し、実施した一組の漏れ磁束測定センサー2でも異常があれば、変圧器中身に異常変位があると判断する。
【0028】
なお、上記演算ユニット8の演算では、検出信号の絶対値を演算した例であるが、検出信号の比を演算することによっても同様に判定することができる。演算ユニット8で比を判定する場合、変圧器中身に変位がなく、正常なときは比が1になるので、例えば許容範囲を1±α(αは、0.1程度)の如く設定して判定する。
【0029】
また、外部引出端子を設けるためタンク1の平面形状が、巻線16a、16b、16cの中心に関して対称でない場合は、検出信号の絶対値で演算するときは、タンク1内の変圧器中身10の位置が正常な時の差Kを基準にし、許容範囲をK±αのように決めておけば同様に判定することができ、検出信号の比のときも同様である。
【0030】
上記した本発明によると、タンク1の側壁内面1a、1b、1c,1dの所定位置に取り付けた漏れ磁束測定用センサー2と漏れ磁束検出手段3と演算ユニット8を使用し、漏れ磁束密度の状態からタンク1内に収納した変圧器中身10が、タンク1の幅方向や長手方向或いは高さ方向への変位を推定して据付現地において使用可能かどうかを容易に判定することができる。このため、従来のように変圧器を工場に持ち帰ってタンク1内の変圧器中身10の状況を判断する必要がなくなるから、工場における各種の作業時間が少なくなって経済的な点がある。
【0031】
なお、上記した例では本発明の中身変位検出装置を三相3脚変圧器に適用したもので説明したが、本発明の装置は三相3脚変圧器や各種の単相変圧器やリアクトルにも適用でき、これらのいずれの場合も同様な効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…タンク、1a、1b、1c,1d…側壁内面、2…漏れ磁束測定用センサー、3…漏れ磁束検出手段、4…マルチプレクサ、5…増幅器、6…ピークホールド回路、7…アナログデジタル変換器、8…演算ユニット、10…変圧器中身、11a、11b、11c…鉄心脚、12…上部継鉄、13…下部継鉄、16a、16b、16c…巻線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心脚と上部及び下部継鉄を有する鉄心及び前記鉄心脚に巻回する巻線からなる電器中身と、前記電器中身を収納すると共に絶縁媒体を充填するタンクと、前記タンクの長手方向と幅方向の側壁内面の巻線と最も近接し、かつ前記巻線の上端部及び下端部に対向する位置にそれぞれ取り付ける漏れ磁束測定センサーと、前記タンクの幅方向或いは長手方向の側壁内面の対応する関係にある対となる前記漏れ磁束測定センサーの漏れ磁束測定信号を検出する漏れ磁束検出手段と、前記漏れ磁束検出手段からの漏れ磁束測定信号を基にして前記タンク内に収納した前記電器中身の変位状況を判定する演算ユニットとを備えて構成したことを特徴とする静止誘導電器の中身変位検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記漏れ磁束検出手段は、前記タンクの幅方向或いは長手方向の各側壁内面に取り付けられて対応する関係にある各漏れ磁束測定センサーと接続して漏れ磁束に基づく信号を出力するマルチプレクサと、前記漏れ磁束に基づく信号を増幅器と、前記増幅器に連なるピークホールド回路と、前記ピークホールド回路からのアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器とを有することを特徴とする静止誘導電器の中身変位検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかにおいて、前記漏れ磁束測定センサーはサーチコイルであることを特徴とする静止誘導電器の中身変位検出装置。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれかにおいて、前記漏れ磁束測定センサーはホール素子であることを特徴とする静止誘導電器の中身変位検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−88339(P2013−88339A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230520(P2011−230520)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】