説明

静注免疫グロブリン(IVIG)のinvitro抗アミロイドβ活性

本発明は、アミロイドβ誘発細胞毒性を阻害する治療剤を特定および選択するための細胞ベースのin vitroスクリーニングアッセイに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
本発明は、本明細書の一部を構成する米国特許出願第61/032,874号(出願日2008年2月29日)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、in vitroのアミロイドβ(Aβ)誘発細胞毒性を阻害する作用を有する化合物を特定するためのin vitroアッセイに関する。
【背景技術】
【0003】
脳における細胞毒性Aβの蓄積は、アルツハイマー病(AD)における神経変性に寄与する重要な病原性イベントであると考えられている。Hardy and Selkoe, (2002), Science 297:353-336参照。
【0004】
Aβは、大きな膜貫通糖タンパクであるAβ前駆体タンパク(APP)のプロセシングにより生じる代謝物質である。脳におけるAβのレベルはアミロイド前駆体タンパク(APP)の産生速度とクリアランスの速度によってコントロールされている。Tanzi et al., (2004) Neuron 43:605-608参照。Aβは、その機能が不明な膜貫通糖タンパクAPPの数段階の開裂後に形成さる。APPは、α、βおよびγセクレターゼによりプロセシングを受け、Aβタンパクは、APPに対するβおよびγセクレターゼの逐次的作用によって生じる。AβペプチドのC末端はγセクレターゼの作用によって生じ、ガンマセクレターゼはAPPの膜貫通領域内で切断され長さ39〜43アミノ酸残基の形態を多数生じる。最も一般的なアイソフォームはAβ40とAβ42である。短いもの(Aβ40)は一般に小胞体での開裂反応により生じ、長いもの(Aβ42)は一般にトランスゴルジネットワークにおける開裂反応によって生じる。Nat. Med. 3(9): 1016-1020 (1997)参照。2つのうち、Aβ40体が多く存在し、Aβ42は繊維を形成しやすいため病気に関連する場合が多い。アルツハイマー病の早期発症に関連するAPPの突然変異では、Aβ42の産生が相対的に増加することが認められており、アルツハイマー治療の1つの方法として、Aβ40を主に生じるβおよびγセクレターゼの活性を調節することが示唆されている。Yin, Y.I., et al. (2007) J Biol Chem. Aug 10;282(32):23639-44参照。
【0005】
近年、動物モデルにおいて、Aβ42でのワクチン接種並びに抗Aβ42抗体での受動免疫により脳のAβ量が減少し、行動が改善したことが示された。例えば、Schenk et al. (1999) Nature 400:173-177; DeMattos et al, (2001) Proc. Nat'l Acad. Sci USA 98:8850-8855; Bard et al. (2000) Nat. Med. 6:916-919; Wilcock et al. (2003) J. Neurosci. 23 :3745-3751参照。AD患者における抗Aβ42抗体予防接種の臨床試験で、Aβ蓄積の減少 (Nicoll et al. (2006) J. Neuropathol. Exp. Neurol. 65:1040-1048)および認知低下の遅延(Hock et al., (2003) Neuron 38:547-554)が報告されているが、この試験は同時に免疫化の結果として有害な神経炎症効果を示した。
【0006】
ヒトでは、Aβに対する自然抗体が健康な人の脳脊髄液(CSF)と血清の両方に検出されるが、AD患者では、CSF中に検出される抗Aβ抗体力価が有意に低かった。Du et al. (2001) Neurology 57:801-805参照。
【0007】
抗Aβ42自然抗体は、商業的に入手可能なヒトIVIG調整品に検出され、CSFにおける総Aβ量およびAβ42レベルを改変することが分かっている。Dodel et al. (2002) Ann. Neurol. 52:253-256; and Dodel et al. (2004) J. Neurosurg. Psychiatry 75:1472-1474参照。さらに、抗Aβ自然抗体は、免疫グロブリン調整品から単離した場合、Aβ誘発細胞毒性活性をin vitroで阻害することが既に示されている(Du et al. (2003) Brain 126:1935-1939)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、様々な薬剤(例えば、免疫グロブリン調整品の様々なロット)をAβ誘発細胞毒性を阻害する能力についてスクリーニングし比較する方法が求められている。そのような方法により、アルツハイマー病患者の治療に適した潜在的薬物候補の特定並びにヒト血漿(IVIG)ロットの事前選択が可能になる。本発明はこの課題およびその他の課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、感受性細胞におけるAβ誘発細胞毒性を阻害する薬剤を特定するためのin vitro の細胞ベーススクリーニングアッセイを提供する。本方法は、細胞毒性Aβ凝集体を有する被検培養細胞を被検薬剤と接触させ、被検培養細胞における細胞毒性レベルを測定し、対照培養細胞の細胞毒性レベルと比較することを含んでなる。被検培養細胞中の細胞毒性レベルは対照培養細胞の細胞毒性レベルに対して正規化し、それによってAβ誘発細胞毒性を阻害する適当な被検薬剤を選択することができる。ある実施形態では、対照の培養細胞は、被検薬剤の有無を除いては被検培養細胞と同一である。ある実施形態では、対照培養細胞は、細胞毒性Aβ凝集体を含んでなる。ある実施形態では、対照培養細胞は、細胞毒性Aβ凝集体とAβ誘発細胞毒性を阻害することが知られている対照薬剤を含んでなる。
【0010】
ある実施形態では、Aβペプチドは43アミノ酸である。ある実施形態ではAβペプチドは長さ39〜43アミノ酸である。ある実施形態では、Aβペプチドの長さは39アミノ酸未満である。ある実施形態ではAβ凝集体は少なくともAβダイマーを構成している。ある実施形態では、細胞毒性Aβ凝集体は定量チオフラビンT結合蛍光アッセイを用いて特徴付けられる。
【0011】
ある実施形態では、Aβ凝集体を約2.5μM〜約25μMの濃度範囲で用いる。ある実施形態では、Aβ凝集体の濃度範囲は、約5μM〜約30μMである。ある実施形態では、Aβ凝集体の濃度範囲は、約10μM〜約15μMである。
【0012】
ある実施形態では、感受性細胞はPC−12細胞である。ある実施形態では、感受性細胞は、その細胞が、約2.5μM〜約25μMの範囲の細胞毒性Aβ凝集体溶液の存在下で検出可能な細胞毒性応答を示すことによって特定される。いくつかの態様では、細胞は血清不含条件下での増殖に適応している。ある実施形態では、細胞は、血清の存在下または血清を添加した条件下で培養した後、アッセイを行う前に血清不含条件に切り替える。
【0013】
ある実施形態では、被検薬剤および/または対照薬剤は、タンパク質、抗体、ペプチド、タンパク複合体、脂質、炭水化物、IVIGロットおよび小分子からなる群から選択される。ある実施形態では、対照薬剤はAβに結合する抗体である。
【0014】
ある実施形態では、被検薬剤および/または対照薬剤を細胞毒性Aβ凝集体と接触させる前に培養細胞と接触させる。ある実施形態では、細胞毒性Aβ凝集体を、被検および/または対照薬剤と接触させる前に被検および/または対照培養細胞に接触させる。ある実施形態では、試験および/または対照薬剤をそれぞれ培養細胞と接触させる前に細胞毒性Aβ凝集体と事前に混合する。
【0015】
ある実施形態では、被検薬剤および対照薬剤を同じモル濃度で用いる。ある実施形態では、被検薬剤と対照薬剤を細胞毒性Aβ凝集体と同じモル濃度の比で加える。ある実施形態では、薬剤:Aβ凝集体のモル濃度比は約1:30〜約30:1である。ある実施形態では、薬剤:Aβ凝集体のモル濃度比は、約1:5〜約5:1である。ある実施形態では、薬剤:Aβ凝集体のモル濃度比は約1:1である。
【0016】
ある実施形態では、培養細胞における細胞毒性のレベルは培地中に放出された乳酸脱水素酵素を測定することにより求められる。ある実施形態では、ミトコンドリアの脱水素酵素のレベルを測定することにより細胞毒性のレベルを求める。ある実施形態では、細胞毒性のレベルを培養細胞のアポトーシスのレベルを測定することにより求める。ある実施形態では、培養細胞の膜の完全性を測定することにより細胞毒性のレベルを求める。
【0017】
ある実施形態では、対照の培養細胞と比較してAβ誘発細胞毒性が検出可能に減少していればその被検薬剤を選択する。ある実施形態では、対照の培養細胞と比較して少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上減少していればその被検薬剤を選択する。ある実施形態では、細胞毒性Aβ凝集体単独での存在下での細胞毒性のレベルと比較して少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上減少していればその被検薬剤を選択する。
【0018】
ある実施形態では、本アッセイを用いて選択された被検薬剤を、治療レジメの一部としてアルツハイマー病を有する患者に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、in vitroでのPC−12細胞における、用量依存的Aβ42誘発細胞毒性を示す。毒性の百分率は実施例2に記載した手順で計算した。
【0020】
【図2】図2は、GAMMAGARD(登録商標)IVIG(ロット番号1〜13)の13種類のロットによるin vitroでのAβ42誘発細胞毒性の調節を示す。Aβ42ペプチドを、13種類のIVIGロット、ウサギ抗Aβ42(AA36〜42)ポリクローナル抗体または培地とプレインキュベーションした後、PC−12細胞に加えた(n=3)。LDH放出をインキュベーションの24時間後に測定した。培地のみ(med)で培養したPC−12細胞からの自発的なLDH放出は毒性0%とし、10μMAβ42(Aβ42のみ)で誘発された細胞毒性を毒性100%とした。GAMMAGARD(登録商標)は200μMで用いた。
【0021】
【図3】図3は、ウェスタンブロット解析による合成Aβ42ペプチドのキャラクタリゼーションを示す。合成Aβ42ペプチドを新たに溶解し、SDS−PAGEによる分離し、マウス抗抗Aβ42抗体6E10を用いるウェスタンブロッティングにより解析した。出発物質としてAβ42 1.25μgまたは2.5μgを用いた。ウェスタンブロット解析は、合成Aβ42ペプチドが、主に、小さいオリゴマー、トリマーおよびテトラマーからなることを示した。
【0022】
【図4】図4は、GAMMAGARD(登録商標)リキッドのAβ42誘発細胞毒性の濃度依存的な調節を示す。Aβ42ペプチドを、2種類のIVIGロット、IgG1対照抗体または培地と40分間プレインキュベーションした後、PC−12細胞(n=3)に加えた。インキュベーションの24時間後にLDH放出を測定した。データ解析のためAβ42誘発神経毒性を100%とした。GAMMAGARD(登録商標)リキッドは、in vitroでAβ42誘発神経毒性の濃度依存的な減少をもたらしたが、ヒトIgG1対照抗体は試験したいずれの濃度でも効果がなかった。
【0023】
【図5】図5は、商業的に入手可能な抗Aβ42抗体のAβ42誘発神経毒性の調節を示す。新たに溶解した合成Aβ42ペプチドを、モノクローナル(moAb)抗Aβ42抗体、マウスIgG1対照抗体(mlgGlctrl)または培地と40分間プレインキュベーションした後、PC−12細胞に加えた。LDH放出を24時間後に測定した。培地のみで培養したPC−12細胞からの自発的なLDH放出は毒性0%とし、10μMAβ42で誘発された細胞毒性を毒性100%とした。Aβ42のAA3〜8のN末端エピトープを認識するモノクローナル抗体6E10は最も良好な保護を示した。ネガティブコントロール抗体は効果がなかった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
脳における細胞毒性Aβの蓄積は、アルツハイマー病(AD)における神経変性に寄与する主要な病原性イベントである。抗Aβ自然抗体は、健康な人に由来するIVIG調整品に存在し、これらの抗体はCSFにおける総Aβ含量を調節することが示されている。しかしながら、IVIG調整品における抗体量はロットごとに様々である。従って、AD患者に投与するのに最も適したIVIG調整品の比較と事前選択が可能なスクリーニングアッセイが必要である。
【0025】
本明細書に詳述するように、本発明は、Aβ誘発細胞毒性を阻害する薬剤を特定するための、ハイスループット細胞ベースのin vitroスクリーニングアッセイを提供する。本明細書に開示する方法はまたAβ誘発細胞毒性を阻害する種々の薬剤および/または薬剤の濃度のより直接的な比較が可能な正規化手順を提供する。この正規化手順は、それに対して被検薬剤を直接比較する対照薬剤に任意単位を割り当てるというものである。この任意単位は、Aβ誘発細胞毒性をin vitroで阻害する能力における種々の被検薬剤の比較、あるいはAD患者への投与に適した具体的な薬剤(例えばIVIGロット)の事前選択のための選択基準を提供する。さらに、本明細書に開示した方法は、アッセイに用いるAβ凝集体のキャラクタリゼーションを提供する。本発明のこれらおよび他の態様は、本明細書および実施例においてさらに詳細に記載する。
【0026】
定義
本明細書において用いられる「アミロイドβ」または「Aβ」なる語は、アミロイドβ前駆体タンパク(APP)の天然に存在するタンパク質加水分解開裂産物であるペプチドモノマーまたは天然に存在するタンパク質加水分解産物のフラグメントであり、Aβ凝集体の形成およびβアミロイドーシスに関与する。
本発明で用いるのに適したAβペプチドの例としては、39〜43アミノ酸を有するAPPの天然の開裂産物(即ち、Aβ1-39、Aβ1-40、Aβ1-41、Aβ1-42、Aβ1-43)が挙げられるがこれに限定されない。
【0027】
本明細書において用いられるAβの「凝集体」なる語は、複数のAβモノマーが会合することにより形成される任意の高次構造を意味する。本明細書において用いられる「細胞毒性凝集体」は、感受性細胞において細胞毒性応答を誘導するAβ凝集体である。凝集体は、Aβ−ダイマー、Aβ−トリマー、Aβ−テトラマー、Aβ−ペンタマー、Aβオリゴマー化またはマルチマー化タンパクまでを含む混合物からなり、マルチマー構造および/または分子の構造として存在する。当分野において利用可能で本明細書において記載する様々なアッセイを、本発明での使用に適したAβ凝集体を検出および特徴付けるのに使用することができる。本発明において使用するためのAβ凝集体を検出および特徴付けるのに適したアッセイの例としては、蛍光染料チオフラビンT、またはチオフラビンSを用いる蛍光分析法、吸光度法、ゲル電気泳動分析、並びに電子顕微鏡を用いる直接の凝集体可視化が挙げられるがこれに限定されない。
【0028】
本明細書において用いられる、「アミロイドβ誘発細胞毒性」なる語は、in vitroで感受性タイプの細胞に検出可能な傷害をもたらす有害性を誘導するAβ凝集体の能力を意味する。検出可能な傷害の例としては、膜完全性の喪失、イオン流動の改変、アポトーシスの初期マーカー、および細胞死が挙げられるがこれに限定されない。一般に、細胞毒性応答は、本明細書に記載する細胞生存アッセイを用いて検出する。例えば、Aβ凝集体に暴露した後の培地における乳酸脱水素酵素のレベルの増加は、Aβ誘発細胞毒性を示す。
【0029】
本明細書において用いられる「細胞毒性のレベルを測定」なる語は、被検薬剤または対照薬剤の存在または非存在下のいずれかで感受性の培養細胞に対するAβ凝集体の細胞毒性効果を定量化することを意味する。細胞毒性のレベルは、当分野で知られている任意の方法を用いて測定することができる。例えば、細胞毒性のレベルは、培地中に存在する乳酸脱水素酵素のレベルとして、またはMTT等の他の周知の分光学的定量法を用いて測定することができる。あるいは、細胞毒性を、培養細胞中のアポトーシスを起こした細胞数として、またはトリパンブルー、アクリジンオレンジまたはヨウ化プロピジウム等の様々な色素を用いて細胞の膜の完全性を測定することにより決定することができる。
【0030】
本明細書において用いられるAβ誘発細胞毒性を「阻害する」なる語は、Aβ誘発細胞毒性を、部分的にまたは完全に、ブロック、減少、阻止、遅延、不活化、減感作または下方調節する薬剤の能力を意味する。ある薬剤は、その薬剤の存在下でのAβ誘発細胞毒性のレベルが、その薬剤の非存在下での細胞毒性レベルよりも低いレベルで検出されれば、Aβ誘発細胞毒性の阻害剤であるとみなす。
【0031】
本明細書において用いられる「接触させる」なる語は、AβまたはAβ凝集体と細胞、被検薬剤、または対照薬剤との明らかな接触(apparent touching)または相互の接触(mutual tangency)を意味する。接触は、当業者に知られている任意の手段により行うことができる。例えば、培養細胞プレート等において、少容量の同じ溶液中で成分を混合することにより接触させることができる。さらに、接触させるべきすべての成分を同時に接触させる必要はない。むしろ、接触さるべきすべての成分が、アッセイまたは処置の間のある時点で一緒に存在していればよい。また、in vitro または in vivoで接触を行うことができることは認識される。
【0032】
「単離された」、「精製された」または「生物学的に純粋な」なる語は、天然の状態でみられるような通常の付随成分を実質的または本質的に含まない物質を意味する。純度および均一性は一般に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、または高速液体クロマトグラフィー等の分析化学技術を用いて決定される。調製物中に多く存在するタンパク質または核酸は実質的に精製される。特に、単離された核酸は、自然に遺伝子に連結するいくつかのオープンリーディングフレームから分かれて、その遺伝子によってコードされるタンパク質以外のタンパク質をコードする。「精製された」なる語は、ある実施形態では、電気泳動ゲルにおいて本質的に一本のバンドを生じる核酸またはタンパク質を意味する。好ましくは、核酸またはタンパク質は少なくとも純度85%、より好ましくは純度95%、最も好ましくは少なくとも純度99%である。他の実施形態において「精製する」または「精製」なる語は、精製すべき組成物から少なくとも1つの混入物を除去することを意味する。この意味において、精製とは、精製された化合物が均一(例えば純度100%)である必要はない。
【0033】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書では同じ意味で用いられ、アミノ酸残基のポリマーを意味する。この用語は、1または複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工の化学的模擬体であるアミノ酸ポリマー、修飾残基を含む天然アミノ酸のポリマー、および非天然アミノ酸のポリマーにも適用される。
【0034】
本明細書において用いられる「タンパク複合体」なる語は、タンパク質成分と非タンパク質成分とを含んでなる組成物を意味する。タンパク質成分は、グリコシル化および糖化等の翻訳後修飾を含んでいてもよい。非タンパク質成分としては、有機小分子、脂質、核酸または炭水化物等が挙げられる。
【0035】
用語「アミノ酸」は、天然のおよび合成されたアミノ酸、並びに天然のアミノ酸と同様の機能を有するアミノ酸類縁体およびアミノ酸模擬体を意味する。天然のアミノ酸は、遺伝コードによりコードされるアミノ酸、並びに後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γカルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。アミノ酸類縁体は、天然のアミノ酸と同じ基本構造(例えば、水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基)を有する化合物を意味する(例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)。このような類縁体は修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)かまたは修飾されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本構造を保持している。アミノ酸模擬体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然のアミノ酸と同様の機能を有する化合物を意味する。
【0036】
本明細書においては、アミノ酸を、生化学的命名法に関するIUPAC−IUB規約で推奨される、一般的に知られている3文字表記か1文字表記で記載する。ヌクレオチドも同様に、よく知られている1文字表記で記載する。
【0037】
「保存的に修飾された変異体」はアミノ酸と核酸配列の両方に用いられる。具体的な核酸配列に関して、保存的に修飾された変異体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、またはその核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、本質的に同一のまたは関連する(例えば自然に近接する)配列を意味する。遺伝コードの縮重により、多数の機能的に同じ核酸がほとんどのタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはいずれもアミノ酸アラニンをコードする。従って、アラニンがコドンによって特定されるすべての位置で、コードされるポリペプチドを改変することなく、コドンを記載したコドンの対応する別のものに変更することができる。そのような核酸のバリエーションは、「サイレントな変異」であり、保存的に修飾された変異の1種である。ポリペプチドをコードする本明細書に記載するすべての核酸配列はまた、核酸のサイレントな変異を記載する。当業者は、ある場合において、核酸(通常、メチオニンに対するに対する唯一のコドンであるAUG、通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)のそれぞれのコドンを修飾して機能が同じ分子を得ることができることを認識する。従って、ポリペプチドをコードする核酸のサイレントな変異はしばしば、実際のプローブ配列に関してではなく、発現産物に関して記載された配列に潜在している。
【0038】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列において1個または数パーセントのアミノ酸が変更、付加または欠失する、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加が、その変更によってあるアミノ酸の化学的に類似なアミノ酸による置換を生じる場合は「保存的に修飾された変異体」であるということを認識する。機能的に類似のアミノ酸をもたらす保存的置換の表は当分野において周知である。このような保存的に修飾された変異体もまた加えられるが、本発明の多型変異体、種間相同体および対立遺伝子を排除するものではない。
【0039】
以下の8つの群はそれぞれ相互に保存的置換であるアミノ酸を含んでいる:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照)。
【0040】
2またはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列に関して、「同一」または「同一性」なる語は、以下に記載するデフォルトのパラメーターにてBLASTまたはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いる測定により、または、手作業でのアライメントおよび目視により、同じである2またはそれ以上の配列または部分配列、あるいは同じアミノ酸残基またはヌクレオチドを特定のパーセント(即ち、比較する枠または指定した領域にわたり最大限対応させて比較およびアラインしたときに、特定の領域にわたり、約60%同一、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上同一)で有する2またはそれ以上の配列または部分配列を意味する(例えば、NCBIウェブサイトwww.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/ 等を参照)。そして、そのような配列は、「実質的に同一」と称される。この定義はまた、被検配列の補完を意味するかまたは適用される。この定義にはさらに、欠失および/または付加を有する配列並びに置換を有する配列、並びに天然に存在するもの(例えば多型またはアレル変異体)および人工の変異体が含まれる。上記のとおり、好ましいアルゴリズムはギャップ等を明らかにできる。好ましくは、少なくとも長さ25のアミノ酸またはヌクレオチド、または好ましくは長さ50〜100のアミノ酸またはヌクレオチドである領域にわたって同一性が存在する。
【0041】
配列の比較では、一般に、一方の配列を試験する配列に対する参照配列とし、比較する。配列比較アルゴリズムを用いる場合は、試験および参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば部分配列の座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを設定する。好ましくは、デフォルトのプログラムパラメーターを用いることができるか、または別途パラメーターを設定することができる。次いで、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する被検配列の配列同一性のパーセントを計算する。
【0042】
本明細書において用いられる「比較枠」は、一般的に10〜600、通常約25〜約250、より一般的には約50〜約150からなる群から選択される、連続した位置の1つのセグメントを意味し、2つの配列を最適にアラインした後、配列が連続した位置の同じ番号の参照配列に対して比較される。比較のための配列のアライメントの方法は当分野でよく知られている。比較のための配列の最適なアライメントを行うことができる、例えば、Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)のローカルホモロジーアルゴリズム、Needleman & Wunsch, J. MoI. Biol. 48:443 (1970)のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson & Lipman, Proc. Nat 'I. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)のサーチ・フォー・シミラリティー・メソッド、これらアルゴリズムのコンピュータ化された実行(GAP, BESTFIT, FASTAおよびTFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)、または手動でのアライメントと目視(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al, eds. 1995 supplement)参照)。
【0043】
配列同一性および相同性のパーセントを求めるのに適したアルゴリズムの好ましい例としては、Altschul et al, Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)およびAltschul et al, J. MoI. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムが挙げられる。本発明の目的に対して、BLASTおよびBLAST2.0をデフォルトのパラメーターにて用い、本発明の核酸およびタンパク質について配列同一性のパーセントを求める。BLAST解析を実行するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information (NCBI)から入手できる。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列の場合)の初期設定は、波長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=−4、および両鎖の比較である。アミノ酸(タンパク質)配列の場合は、BLASTPプログラムのデフォルト値は、波長(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリングマトリクスである(Henikoff & Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915))。本発明の目的に対し、BLAST2.0アルゴリズムは、デフォルトのパラメーターで、filter offにして使用する。
【0044】
2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であるということは、それは一方の核酸によってコードされるポリペプチドが、他方の核酸によってコードされるポリペプチドに対して惹起された抗体と免疫学的に交差反応性であるということである。即ち、例えば保存的置換のみによって2つのペプチドが相違している場合は、一般に、一方のポリペプチドは他方のポリペプチドと実質的に同一である。
【0045】
本明細書において用いられる「抗体」は、特定の抗原と免疫学的に反応する免疫グロブリン分子を意味し、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方が含まれる。この用語はまた、キメラ抗体(例えばヒト化マウス抗体)やヘテロコンジュゲート抗体(例えば二重特異性抗体)等の遺伝子操作された形態のものも包含する。「抗体」なる語はまた、抗原結合能力を有する断片(例えば、Fab’、F(ab’)2、Fab、FvおよびrlgG)を含む、抗体の抗原結合形態を包含する。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995 (Pierce Chemical Co., Rockford, IL)も参照)。さらに例えば、Kuby, J., Immunology, 3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1998)を参照。この用語はまた、組換え一本鎖Fvフラグメント(scFv)も意味する。抗体なる語にはまた、二価または二重特異性分子、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびナノボディ等、改変された抗体断片および抗体ベースの骨格も含まれる。二価および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al. (1992) J Immunol 148:1547, Pack and Pluckthun (1992) Biochemistry 31 :1579, Hollinger et al, 1993, supra, Gruber et al. (1994) J Immunol :5368, Zhu et al. (1997) Protein Sci 6:781, Hu et al. (1996) Cancer Res. 56:3055, Adams et al. (1993) Cancer Res. 53:4026, and McCartney, et al. (1995) Protein Eng. 8:301に記載されている。
【0046】
「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する抗原の部位を意味する。エピトープは、連続したアミノ酸またはタンパク質の三次折り畳みにより配置される不連続なアミノ酸からいずれも形成することができる。連続したアミノ酸から形成されるエピトープは一般に変性溶媒へ暴露しても維持されるが、三次折り畳みにより形成されるエピトープは一般に変性溶媒で処理すると消失する。一般に、エピトープには、少なくとも3個、より一般的には少なくとも5ないし8〜10個のアミノ酸が、固有の空間的配置で含まれている。空間的配置を決定する方法には、例えば、X線結晶学および二次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996)を参照。
【0047】
本明細書において用いられる「静注免疫グロブリン」または「IVIG」は、静脈内使用に適したガンマグロブリン調製物を意味する。一般に、IVIG製品は、米国特許第7,138,120号に記載されるように、粗製血漿またはヒトの正常な免疫グロブリン(HNI)から得られた粗製の血漿タンパク画分から調製する。
【0048】
本明細書において用いられる「治療上有効量」は、所定の状態または疾患に対して所望の治療効果をもたらすのに十分な薬剤の量を意味する。このような量は、具体的な薬剤、達成すべき効果および投与の形式などにより変わる。
【0049】
一般的方法論
アミロイドβモノマー
本発明に用いる凝集体の製造に適したAβモノマーペプチドは、天然物から合成、組換え、または単離される。ある実施形態では、AβペプチドのNH末端アミノ酸残基は、天然のアミロイド前駆体タンパク(APP)の770アミノ酸残基型の672番のアスパラギン酸残基に対応する。本発明での使用に適したAβペプチドの例としては、39〜43アミノ酸を有するAβペプチド(即ち、Aβ1-39、Aβ1-40、Aβ1-41、Aβ1-42、Aβ1-43)が挙げられるがこれに限定されない。ある実施形態では、Aβ1-43の43アミノ酸型のアミノ酸配列は:DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIATである。
【0050】
ある実施形態では、Aβ1-43タンパクの短い形態を用いる。ある実施形態では、1または複数の(一般には1〜4)のアミノ酸残基を、Aβ1-43のカルボキシ末端から除去する(例えば、Aβ1-39、Aβ1-40、Aβ1-41、Aβ1-42。ある実施形態では、1または複数のアミノ酸残基をAβ1-43タンパクのNH末端から除去する。ある実施形態では、1または複数のアミノ酸残基をAβ1-43のNH末端とカルボキシ末端の両方から除去する(例えば、Aβ25-35)。Aβ1-43ペプチドが、本明細書に記載した方法を用いて感受性のタイプの細胞において細胞毒性を誘導する凝集体を形成することが可能である限りにおいて、欠失、付加または保存的置換を有するAβ1-43タンパクの変異体もまた本発明に包含されることは理解される。本発明で使用する凝集体を製造するのに適したAβペプチドは、様々な供給源から得ることができる(組換え、合成、天然物からの単離、商業的供給元(例えばAmerican Peptide Inc, Sunnyvale CA, USA)からの購入を含む)。
【0051】
Aβ凝集体の製造およびキャラクタリゼーション
本発明で用いるのに適したAβ凝集体の製造方法は、例えば、Findeis, et al. (1999) Biochemistry 38:6791- 6800に記載されているように当分野でよく知られている。一般的に、Aβペプチドを適当なバッファーに溶解し、その溶液を所望の凝集が達成されるまで任意の時間十分振盪することにより凝集を行う。適当なバッファーとしては、当業者に知られている、任意の生理学的に許容し得るバッファーが挙げられる。本発明で使用する適当なバッファーの例が実施例1に記載されているがこれに限定されない。ある実施形態では、バッファーは細胞毒性アッセイを行ったのと同じ組織培地を含んでなる。
【0052】
Aβモノマーをバッファーに溶解した後、溶液を十分振盪する。これは当分野で知られている任意の方法を用いて行うことができる。例えば、溶液をシェーカープラットフォームを用いて700〜800rpmにて振盪するか、あるいは実施例1に記載するように溶液をボルテックスするおよび/または超音波処理することができる。溶液を振盪するさらなる方法は当業者によく知られている。溶液を振盪する時間は変更することができる。ある実施形態では、溶液を1分ほどの短時間あるいは1時間程度の長時間振盪することができる。ある実施形態では、溶液を振盪し、凝集体の形成についてモニターし、所望の凝集体組成物が得られるまでサイクルを繰り返す。ある実施形態では、適当なバッファーにモノマーを溶解する前に、Aβを処理してランダムコイルモノマーを得る。これは、米国特許出願第20020004194号に記載されているように、Aβペプチドをヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIPA)で処理すること、またはFindeis et al. (1999)に記載されているように酸で処理することによって行うことができる。
【0053】
当分野で知られている任意の方法を用いて、または本明細書に記載するようにAβ凝集体を製造したら、スクリーニングアッセイに使用する前に凝集体を特徴付ける。Aβ凝集体のキャラクタリゼーションは、当分野で知られている様々なアッセイを用いて行うことができる。本発明で用いるのに適した凝集体の検出およびキャラクタリゼーションの方法の例としては、Du et al. (2003) Brain 126:1935-1939; M. Bourhima et al. (2007) J. Neurosci. Meth. 160(2): 264-268に開示されるような、チオフラビンTまたはチオフラビンS色素を用いる蛍光分析が挙げられるがこれに限定されない。チオフラビンT蛍光分析を用いたAβ凝集体調製物のキャラクタリゼーションについて詳述している具体的な例が実施例1に記載されている。当業者に知られているAβ凝集体の検出およびキャラクタリゼーションに用いるのに適した分析の更なる例は、吸光度法、染色法、静電凝集分析、ゲル電気泳動分析、および電子顕微鏡を用いた直接的な凝集体の可視化(米国特許公開公報第2002/0098173等およびPCT国際公報WO2007/094668に記載されているような)が挙げられるがこれに限定されない。本発明で使用するAβ凝集体のキャラクタリゼーションのための更なる分析および方法は当業者に知られている。
【0054】
被検薬剤
スクリーニングアッセイのさらなる成分は、感受性細胞に対するAβ凝集体の細胞毒性を阻害する能力についてスクリーニングされる被検薬剤である。このアッセイでスクリーニングするのに適した被検薬剤は、任意の分子、巨大分子、または分子および巨大分子の複合体混合物である。
【0055】
ある実施形態では、被検薬剤はIVIG製品である。数多くのIVIG製品が当分野で知られており、例えば米国特許第7,138,120号に記載されている。一般に、本発明で使用するIVIG調製物は、少なくとも95%IgGであり、非IgGの不純タンパクを5%を超えて含有しない。
【0056】
ある実施形態では、被検薬剤は単離されたタンパク質またはポリペプチドである。本発明において被検薬剤として用いることができるタンパク質またはポリペプチドの例としては、Aβに結合する、または細胞と結合しそれによってAβ凝集体を細胞との相互作用からブロックする、ブロッキングペプチド(例えば、凝集体を互いに形成しないAβまたはAPPのフラグメント)、抗体、FabまたはScFvが挙げられるがこれに限定されない。抗体はモノクロールでもポリクローナルでもよく、IVIGのような複合体混合物の一部であってもよい。ある実施形態では、被検薬剤は、脂質、ステロイド化合物または炭水化物等の非タンパク質分子である。ある実施形態では、被検薬剤は、タンパク質またはオリゴペプチドである。ある実施形態では、タンパク質の被検薬剤は、グリコシル化および糖化などの翻訳後修飾を有するおよび有しないタンパク質分子を含んでなる。ある実施形態では、被検薬剤は、タンパク質成分および非タンパク質成分を含んでなる巨大分子である。巨大タンパク質複合体の例としては、タンパク質−核酸(RNAおよび/またはDNA等)複合体、膜−タンパク質複合体、タンパク質−脂質複合体およびタンパク質−炭水化物複合体が挙げられるがこれに限定されない。ある実施形態では、被検薬剤は小分子とコンジュゲーションを形成する。ある実施形態では、被検薬剤は小分子である。
【0057】
対照薬剤
スクリーニングアッセイのさらなる成分は、それに対して被検薬剤の効果を正規化することができる対照薬剤である。対照薬剤はAβ誘発細胞毒性を阻害することが実証されている任意の分子または巨大分子であってよい。対照薬剤は、その対照薬剤の存在下での細胞毒性のレベルが、その対照薬剤の非存在下での細胞毒性のレベルよりも実質的に低い場合に、Aβ誘発細胞毒性を阻害するとみなす。本発明で使用するのに適した対照薬剤の例としては抗アミロイドβ抗体が挙げられる。
【0058】
細胞培養および培養条件
本発明のスクリーニングアッセイは、感受性タイプの細胞を用い、in vitroで行う。本発明のスクリーニングアッセイで使用するのに適した細胞としては、Aβ誘発細胞毒性に感受性である任意の細胞が挙げられる。そのような細胞は当業者に知られており、本明細書に開示した方法を用いて特定することができる。例えば、本明細書に記載のAβ凝集体の存在下で培養したときに、Aβ凝集体の非存在下で培養した場合と比較して、生存率の低下(または増加した細胞毒性)を示す培養細胞は、本発明のスクリーニングアッセイで使用することができるAβ誘発細胞毒性に感受性のタイプの細胞である。ある実施形態では、感受性細胞における細胞毒性を誘導するために用いるAβ凝集体の濃度は、約2.5μM〜約25μMである。本発明のスクリーニングアッセイで使用するのに適した細胞の例としては、ラットの褐色細胞腫細胞系PC−12(American Type Culture Collection, Rockville Md (ATCC CRL 1721)より入手可能)が挙げられるがこれに限定されない。本発明で使用するのに適したさらなる細胞系は、ヒトの神経由来の細胞系NT2であり、これもAmerican Type Culture Collection (ATCC CRL 1973)から入手可能である。当業者は、本発明で使用することができる更なるタイプの細胞を知る、またはそのような細胞のタイプを本明細書に記載した方法を用いて過度の実験を要することなく特定することができる。
【0059】
アッセイの対照および被検培養細胞は、当業者に知られている標準的な培養条件と方法を用いて培養する。例えば、R. Ian Freshney, Culture of Animal cells: A manual of basic techniques, Wiley-Liss, (1987)参照。ある実施形態では、血清の存在下で細胞を培養した後、スクリーニング試験を実施する前に、血清不含条件に切り替える。
ある実施形態では、細胞を血清不含条件下で培養し、維持する。PC−12細胞の適当な培養条件は、実施例2に記載する。
【0060】
スクリーニングアッセイ
スクリーニングアッセイの成分は上に記載した。スクリーニングアッセイを行うのに適当な手順は以下に記載する。少なくとも、このアッセイには、Aβ誘導性細胞毒性に感受性の細胞を含んでなる培養細胞、Aβ凝集体を感受性細胞における細胞毒性を誘導するのに十分な濃度で含んでなる溶液、および被検薬剤が必要である。ある実施形態では、さらなるステップまたは成分を追加してもよく、他の実施形態ではいくつかの任意的成分または実施形態を省略してもよい。例えば、ある実施形態では、アッセイを単一の培養細胞を用いて行い、他の実施形態では、96ウェルまたは384ウェルプレート等で複数の培養細胞を用いてハイスループット様式でアッセイを行う。実施例2および3に、本発明で使用するのに適したスクリーニングの変法について詳述する。さらなる変法は、以下に記載し、また当業者によって認識もされる。
【0061】
ある実施形態では、アッセイは、被検薬剤をAβ凝集体の溶液と混合した後、その混合物を被検培養細胞における細胞と接触させ、所定の時間インキュベーションすることにより行う。一般に、インキュベーション時間は、2〜48時間である。ある実施形態では、Aβ凝集体を添加する前に培養細胞を被検(または対照)薬剤で処理する。ある実施形態では、Aβ凝集体を被検(または対照)薬剤を添加する前に培養細胞に加えてもよい。ある実施形態では、Aβ凝集体と被検(または対照)薬剤を事前二混合することなく培養細胞に同時に添加する。ある実施形態では、Aβ凝集体の濃度は約2.5μM〜約25μMの範囲である。
【0062】
ある実施形態では、対照培養細胞と被検培養細胞の相違が、対照培養細胞では被検薬剤が対照薬剤に置き換えられている点のみであるようにして、対照培養細胞を被検培養細胞と並行して実施する。対照薬剤は、本明細書に記載するように、Aβ誘発細胞毒性を阻害することが示されている任意の化合物、分子、または巨大分子の複合体または混合物である。ある実施形態では、対照薬剤は、抗Aβ抗体である。ある実施形態では、Aβ誘導性細胞毒性の阻害について有効であると示されている被検薬剤を後のアッセイにおける対照薬剤として用いることができる。ある実施形態では、対照培養細胞は被検培養細胞と同じであるが被検薬剤は含有しない(即ち、対照培養細胞は、感受性細胞にAβ凝集体を単独で含有する)。
【0063】
ある実施形態では、対照薬剤と被検薬剤の等モル濃度でアッセイを行う。ある実施形態では、種々の濃度の被検薬剤を単一濃度の対照薬剤と比較する。ある実施形態では、対照薬剤および被検薬剤はAβ凝集体に対しあるモル濃度比で添加する。ある実施形態では、薬剤:Aβ凝集体のモル濃度比が、約1:30〜約30:1の範囲である。ある実施形態では、このモル濃度比は1:1である。
【0064】
インキュベーション期間の終了時に、培養細胞(被検および/または対照)を試験して細胞毒性のレベルを求める。ある実施形態では、細胞毒性の最大レベルを、被検または対照薬剤の非存在下で凝集体と培養細胞を接触させることにより測定する。ある実施形態では、被検培養細胞における細胞毒性のレベルを、対照培養細胞における細胞毒性のレベルに対する百分率で表す。培養細胞における細胞毒性のレベルを測定および比較するためのさらなる方法を実施例2および実施例3に記載する。
【0065】
Aβ誘発細胞毒性の測定
上記のとおり被検または対照培養細胞をAβ凝集体とインキュベーションした後、培養細胞中のAβ誘発細胞毒性のレベルを測定する。細胞の生存率を測定するための様々なアッセイが商業的に入手可能であり、当分野で知られている。本発明で使用するのに適した生存率アッセイの例は、実施例2および実施例3に記載される、「細胞毒性検出キット(Cytotoxicity Detection Kit) (LDH)」(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いた培地からの乳酸脱水素酵素(LDH)レベルの分光学的測定が挙げられるがこれに限定されない。あるいは、細胞の生存率を、米国特許出願公開第20020004194号に記載されるように、商業的に入手可能なキット(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を用いて、ミトコンドリア脱水素酵素(MTT)を測定することによって測定することができる。細胞の生存率を測定するためのさらなるアッセイは、Shearman, M.S. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 :1470-1474; Hansen M.B. et al. (1989) J. Immunol. Meth. 1(19)203-210に開示されているように、当業者によく知られている。
【0066】
本発明のアッセイの結果の記録
さらに、本発明の方法では、本発明のスクリーニングアッセイの結果を記録する。この情報はコンピュータに読み込み可能な形式で保存することができる。このようなコンピュータシステムは一般に、中央処理装置のような主要なサブシステム、システムメモリ(一般にRAM)、入出力(I/O)コントローラ、ディスプレイアダプタを介したディスプレイ、シリアルポート、キーボード、ストレージインターフェースを介した据置型ディスクドライブおよびフロッピーディスクを読み込むフロッピーディスクドライブ、およびCD−ROMを読み込むCD−ROM(またはDVD−ROM)デバイス等の外部装置からなる。シリアルポートを介してネットワークインターフェース等、他の多くの装置を接続することができる。
【0067】
さらに、コンピュータシステムを、イーサネットケーブル(同軸ケーブルまたは10BaseT)、電話線、ISDN線、ワイヤレスネットワーク、光ファイバーまたは他の適当なシグナル伝達媒体等のデータリンクを介して接続された複数のコンピュータ機器を含んでなるネットワークに接続し、それにより、少なくとも1つのネットワークデバイス(例えば、コンピュータ、ディスクアレイ等)が、本発明のアッセイから得られたデータをコードするビットパターンからなる、あるパターンの磁気ドメイン(例えば磁気ディスク)および/または電荷ドメイン(DRAMセルのアレイ)を含んでなる。
【0068】
コンピュータシステムは、細胞毒性アッセイの結果を解釈するコードを含んでいてよい。ある実施形態では、コンピュータシステムは、アッセイの結果を解釈するコードを含んでなる。従って、一実施形態の例では、スクリーニングアッセイの結果が、コンピュータに提供され、そして中央処理装置により、対照と比較した、感受性細胞に対するAβ凝集体の細胞毒性作用を阻害する被検薬剤の能力が測定される。
【0069】
本発明はさらに、
(1)コンピュータ;
(2)本発明の方法により得られた遺伝子型決定の結果をコードする、コンピュータに保存可能な保存されたビットパターン;および
(3)場合により、
(4)Aβ凝集体の細胞毒性作用を阻害する被検薬剤の能力を測定するためのプログラム
を含んでなる
上記のコンピュータシステムの使用を提供する。
【0070】
Aβ誘発細胞毒性を阻害する薬剤の選択
被検および/または対照培養細胞の細胞毒性のレベルを測定した後、適当な被検薬剤を選択し、そして、さらに最適化し、試験しまたはADを有する患者に投与することができる。ある実施形態では、被検薬剤の存在下でのAβ誘発細胞毒性のレベルを、対照薬剤を含む対照培養細胞またはAβ凝集体単独におけるAβ誘発細胞毒性のレベルと比較することによって、薬剤を特定する。ある実施形態では、被検薬剤の存在下での細胞毒性のレベルが、対照培養細胞における細胞毒性のレベルよりも検出可能なほど低い場合に、その被検薬剤はAβ誘発細胞毒性を阻害するとみなす。ある実施形態では、被検薬剤の存在下での細胞毒性のレベルが、対照培養細胞における細胞毒性のレベルより少なくとも5%低い場合に、その被検薬剤はAβ誘発細胞毒性を阻害するとみなす。ある実施形態では、被検薬剤の存在下でのAβ誘発細胞毒性のレベルが、対照薬剤またはAβ凝集体単独で含有する対照培養細胞における細胞毒性のレベルより少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上減少していればその被検薬剤を選択する。Aβ誘発細胞毒性を阻害する被検薬剤を比較および選択する式および方法は実施例2および実施例3に詳述する。
【0071】
治療方法および医薬組成物
本明細書に記載したスクリーニングアッセイを用いて、Aβ誘発細胞毒性をin vitroで阻害する様々な治療試験薬剤を特定することができる。以下により詳細に記載するように、アルツハイマー病(AD)、またはAβにより誘導された毒性が関与する同様の疾患を有する患者の治療に適当な任意のやりかたで、本明細書に記載したアッセイを用いて選択された阻害剤を、場合により製薬的な担体とともに、さらに投与のために最適化し得ることは明確に意図される。ある実施形態では、本スクリーニング方法を用いて、ADを有する患者に投与するIVIG製品を事前に選択する。阻害剤の投与ためのプロトコルは知られており、製薬分野において知られている原理に基づいてADについてさらに最適化し得る(Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co., Easton, PA., 1990を参照)。
【0072】
本発明のスクリーニングアッセイを用いて特定された阻害剤を、Aβ誘導性細胞毒性の阻止、治療またはコントロールする治療上有効な量で患者に投与することができる。化合物を、患者において効果的な保護または治療応答が奏されるに十分な量で患者に投与することができる。有効な治療応答は、その疾患の症状または合併症を少なくとも部分的に止めるまたは遅らせる応答である。これを達成するに十分な量を「治療上有効な用量」と定義する。この用量は、使用する具体的な阻害剤の有効性、患者の状態および投与経路によって決まる。また、用量は、具体的な患者における具体的な化合物の投与に伴う、何らかの有害な作用の存在、性質および程度により決まる。
【0073】
このような化合物の毒性および治療有効性は、培養細胞または実験動物において標準的な医薬的手法、例えばLD50(集団の50%が死に至る用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)、により決定することができる。毒性と治療効果の間の用量比が治療指数であり、LD50/ED50で示す。治療指数の大きい化合物が好ましい。
【0074】
培養細胞の分析および動物実験から得られたデータはヒトにおける使用での用量範囲を策定するのに使用することができる。このような化合物の用量は、毒性がわずかであるかまたは全くなしでED50を含む循環濃度の範囲内にあるのが好ましい。この用量は、用いる剤型や投与経路によってこの範囲内で変更することができる。本方法に用いる任意の化合物は、一般に最初に培養細胞分析から治療上有効な用量を推定することができる。一般に、調節物質の用量は、一般の患者に対して約1ng/mL〜100mg/mLである。
【0075】
本発明において使用する医薬製剤は、1または複数の生理学的に許容し得る担体または添加物を用いて標準的な技術によって製剤化することができる。本化合物およびそれらの生理学的に許容しうる塩および溶媒和物は、吸引、局所、鼻内、経口、非経口(例えば、静脈内、腹腔内、膀胱内または鞘内)または直腸を含む、任意の適当な投与経路に応じて製剤化することができる。
【0076】
経口投与では、医薬組成物は、当業者によく知られた結合剤を含む製薬的に許容し得る添加剤を用い慣用的な手段によって製造される、例えば、錠剤またはカプセル剤の形態をとることができる。錠剤は、当分野でよく知られた方法によってコーティングすることができる。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形態であるか、または使用前に水または他の適当なビークルと形成するための乾燥物として提供することができ、当業者によく知られた製薬的に許容し得る添加剤を含むことができる。
【0077】
化合物は、注射による非経口投与用(例えばボーラス注射、または連続的点滴)に製剤化することができる。注射用の製剤は、例えばアンプルまたは複数用量分の容器中で、保存剤を添加して、単位投与形態で提供することができる。組成物は、油性または水性のビークル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンなどの形態であり、例えば懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤補助剤を含むことができる。あるいは、活性成分は、使用前に、例えばピロゲンフリー水等の適当なビークルを用いて構成するための粉末の形態であってよい。本発明のスクリーニングアッセイを用いて特定された薬剤とともに使用するのに適当な医薬組成物の投与および製剤化についてのさらなる態様は当業者によく知られている。
【0078】
診断および/または予測への適用に使用するためのキット
本発明はさらに診断または治療に適用するためのキットを提供する。診断/予測的適用に関して、このようなキットは、以下のいずれかまたはすべてを含む:アッセイ試薬、バッファー、Aβペプチドまたは凝集体溶液、感受性タイプの細胞、対照薬剤等。
【0079】
さらに、キットは、本発明の方法を実施するための指針(即ちプロトコル)を記載した説明書を含む。一般に説明書は記載または印刷物であるがそのようなものに限定されない。そのような説明書を蓄積し消費者とやりとり可能な媒体は本発明が意図するものである。そのような媒体としては、電子的記憶媒体(例えば、磁気ディスク、カートリッジ、チップ)、光学メディア(例えばCD−ROM)などが挙げられるがこれに限定されない。
このような媒体は、そのような説明書を提供するインターネットのアドレスを含むことができる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は、本発明の説明を目的として記載するものであり、限定するものではない。当業者は、種々の重要でないパラメーターは、本質的に同じまたは同様の結果を得るために変更または修飾することができることができることを認識する。
【0081】
実施例1:Aβ1-42ペプチドの蛍光分析
Aβ1-42がin vitroで凝集することを確認するため、以下に記載するチオフラビンT結合アッセイを用いた。凍結乾燥の合成Aβ1-42ペプチドをAmerican Peptide Inc. (Sunnyvale, CA, USA)から入手した。Aβ1-42ペプチドを10mM Tris/HClバッファー(pH8.6)に溶解し、Aβ1-42の最終濃度を1mg/mLにした。Aβ1-42溶液を1分間激しく攪拌し、5分間超音波処理した後、0.1%HClを用いてpHを中性(6.8〜7.4)に調整した。
【0082】
Aβ1-42調製物の線維化状態を調べるための蛍光分析は、チオフラビンT結合アッセイを用いて行った。Du et al. (2003) Brain 126:1935-1939参照。簡潔には、チオフラビンTは、タンパク質のβ−シート構造に結合し(例えばAβ1-42凝集体において)、チオフラビンTの蛍光の増大は、溶液におけるAβ1-42 凝集体の増加を示す。
チオフラビンT (Sigma-Aldrich Chemical Co., St. Louis, MO, USA)は、グリシンHClバッファー(pH9.2)中、2μM〜50mMの濃度で使用した。凝集の測定は、Synergy 2 (BioTek, Winooski, VT, USA) 蛍光光度計を、それぞれ励起および放射波長435nmおよび485nmにて用い、96ウェルマイクロプレートにて3つ一組で行った。
【0083】
実施例2:細胞毒性アッセイ
in vitroの細胞に対するAβ42の細胞毒性を評価するため、以下のアッセイを用いた。ラット褐色細胞腫PC−12細胞(ATCC Manassas, VA, USA)はAβ誘発細胞毒性に感受性であることが知られている。Solomon, B., et al. (1997) Proc. Natl. Acad. ScL USA 94:4109-4112を参照。B27血清代替物および2mML−グルタミン (Gibco-In vitrogen, UK)を添加したNeurobasal培地(In vitrogen, Carlsbad, CA, USA)中で、細胞を血清不含条件に適応させた。PC12細胞を培養フラスコから回収し、洗浄し、244×gで遠心してペレットにした。次いで、細胞を再懸濁し、Cell Tries (20μm)で濾過して細胞凝集体を除去した。濾過した細胞は、1%ヒト血清アルブミン(Baxter)を添加した培地中1〜1.5×105細胞/mLの濃度でマイクロプレートに播種した(100μL/ウェル)。実験では各ウェルの全容量をすべて200μLとした。
【0084】
上記実施例1に記載するように調製したAβ42ペプチドを、約2.5μM〜25μMにてウェルに添加した。各アッセイは4つ一組で行った。
【0085】
37℃および5%CO2にてプレートを24時間インキュベーションした。24時間培養した後、プレートを300×gにて20分間遠心し、乳酸脱水素酵素(LDH)の吸光度測定のため、細胞上清(100μL/ウェル)を吸引した。
【0086】
細胞毒性の分析は、「細胞毒性検出キット(LDH)」(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を製造元の説明書に従って使用する、細胞から培地上清へ放出されたLDHの吸光度測定を用いて行った。LDHは、細胞膜が損傷を受けると培地上清に急速に放出される、すべての細胞に存在する安定な細胞質酵素である。このキットは、触媒溶液(凍結乾燥ジアフォラーゼ/NAD+混合物)と染色溶液(ヨードテトラゾリウムクロリド/乳酸ナトリウム)の2つの構成要素からなる。LDH活性は酵素試験で測定する。反応の最初のステップで、NAD+は、LDHが触媒する乳酸からピルビン酸への変換によってNADH/H+に還元される。次のステップで、触媒(ジアフォラーゼ)がNADH/H+のH/H+をテトラゾリウム塩に変換し、次いでこれを492nm(参照は620nm)にて測定されるホルマザンに還元する。損傷を受けた細胞の量が増加すると培地上清中のLDHの量が増加し、これが限定された時間の間に形成したホルマザンの量に関連する。本実施例では、キットの試薬との光保護インキュベーションの約15分および30分後に測定を行った。
【0087】
細胞毒性の百分率を求めるために、3つの吸光度の値の平均を計算した。各平均値から対照の培地のバックグラウンド値を差し引き、細胞毒性の百分率を以下の式で計算した。
(実験値−自発的なLDH放出)/(最大のLDH放出−自発的なLDH放出)×100
最大のLDH放出を、培養細胞に1%Triton X−100溶液を添加して2時間で達成されるものとした。図1に示すように、Aβ42合成ペプチドは5μM〜25μMの濃度の範囲で細胞毒性があり、約20μMが最大であった。
【0088】
実施例3ヒト血漿IgG(IVIG)は、in vitroのAβ42 ペプチド誘発細胞毒性を減少させる。
この実施例は、in vitroアッセイを用いて異なるロットのIVIGを迅速にスクリーニングし、Aβ1-42誘発細胞毒性に対して最も神経保護効果の高いロットを特定することができることを実証するものである。GAMMAGARD(登録商標)IVIG(Baxter AG)を40℃にて一晩、リン酸緩衝生理食塩水(Gibco In vitrogen, Scotland, UK) に対して透析した後、最終濃度を200μM、133μMおよび67μMとした。上記実施例1に記載したAβ1-42ペプチドをGAMMAGARD(登録商標)IVIGと、37℃、5%CO2にて種々の時間インキュベーションした後、PC−12細胞に加え、上記実施例2に記載のとおり培養した。37℃、5%CO2にて細胞をAβ1-42ペプチド (GAMMAGARD(登録商標)IVIG有りまたは無しで)と24時間インキュベーションした。一点修正を加えて、実施例2に上記したように、LDH放出を測定することにより細胞毒性を測定した。GAMMAGARD(登録商標)IVIGの非存在下でAβ42により放出したLDHを最大のLDH放出とした。結果を図2に示す。
【0089】
これらの結果は、GAMMAGARD(登録商標)IVIGのロットによってAD患者におけるAβ誘発細胞毒性を阻害する能力が異なることを示唆している。従って、適当なIVIGロットおよび製品の事前選択によりAD患者の治療を改善することができる。
【0090】
実施例4 in vitro細胞毒性アッセイの検証
実施例2に記載するとおり細胞毒性アッセイを行った。プレートを24時間インキュベーションし、細胞上清をLDH放出について分析した。
【0091】
アッセイ間の変動の評価
Gammagard Liquidの6種類のロット(各ロットにつき200μMの濃度で同じものを14個)についてアッセイを行った。以下の式を用い、各ロットについてアッセイ間の変動を計算した:CVintra-assay平均値(計算値)のSD=100×14個の異なるサンプルについて得られたODの平均値(計算値)
【0092】
6つの異なるロット間の平均CVintra-assayは、2.9±1.4%(平均±SD)であった。

アッセイ間の変動の評価
5種類のGammagard Liquidのロットについて、8つの異なる日に200μMの濃度でアッセイを行った(4つ一組)。各ロットのアッセイ間の変動を以下の式を用いて計算した:
CVintra-assay(%)=100×8つの試験における平均(計算値)のSD/8つの試験におけるサンプルのODの平均(計算値)
【0093】
試験した5つの異なるGammagard Liquidロットの平均のCVintra-assayは9.2±2.3%(平均±SD)であった。
【0094】
実施例5 ウェスタンブロット分析による合成Aβ42ペプチドのキャラクタリゼーション
合成Aβ42ペプチド調製物の凝集状態を調べるためにウェスタンブロット分析を行った。NuPAGE Novex 4%-12% Bis-Tris グラジェントゲル(In vitrogen, Carlsbad, CA, USA)を用いるSDS-PAGEによってAβ42ペプチドを解析した。次に、すべてのAβ42配座異性体を認識するマウスモノクローナルIgG1抗体6E10(Covance, Emeryville, CA, USA)を用い、ニトロセルロースブロッティングメンブレン(Invitrogen, Carlsbad, CA,USA)に対しウェスタンブロット解析を行った。西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG抗体(HRP, Sigma, St. Louis, MO, USA)およびHRP−コンジュゲート基質キット(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて抗体の結合を可視化した。
【0095】
図3に示すように、合成Aβ42 ペプチドは主に小さいオリゴマー、トリマーおよびテトラマーからなっていた。これらの形態は、神経毒性に最も関連するAβ42種であると考えられる(Klein et al, (2001) Trends Neurosci 24:219-24参照)。
【0096】
実施例6 IVIGによるAβ42誘発神経毒性の濃度依存的調節
細胞毒性アッセイを実施例3に記載のとおり行った。PC−12細胞に添加する前に、Aβ42ペプチド(10μM)を、2種類のGammagard LiquidロットおよびネガティブコントロールとしてヒトAβ関連タンパクに対するヒトIgG1抗体とプレインキュベーションした。IVIGおよびIgG1抗体の最終濃度を200μM (30mg/mLに対応)、133μM (20mg/mL)および67μM(10mg/mL)とした。細胞培養プレートをAβ42 ペプチド (Gammagard有りまたは無し)と24時間インキュベーションした。細胞毒性の百分率を求めるために実施例の3の通り計算を行った。図4に示されるように、Gammagard Liquidはin vitroでAβ42誘発神経毒性の濃度依存的減少を生じたが、ヒトIgG1対照抗体は試験したいずれの濃度でも効果がなかった。
【0097】
実施例7 商業的に入手可能な抗Aβ42によるAβ42誘発神経毒性の調節
以下の商業的に入手可能な抗Aβ42抗体をAβ42誘発神経毒性と相互作用する能力について試験した。
【0098】
モノクローナル抗体:6E10(マウスIgGl)(N末端ペプチドAA1−16に対する(Covance, Emeryville, CA, USA));DE2B4(マウスIgGl)(N末端ペプチドAA1−17に対する(Serotec, MorphoSys, UK);2C8(マウスIgG2b)(N末端ペプチドAA1−16に対する(MBL, Naka-ku Nagoya, Japan))。ネガティブコントロールとしてマウスIgG1抗体(KLHに対する(R&D Systems, Mineapolis, MN, USA))を用いた。
【0099】
ポリクローナル抗体:ウサギIgG(全長ペプチドAA1−43に対する)(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA);ウサギIg(ペプチドAA15−30に対する)(Biosource, Camarillo, CA, USA);ウサギIg(ペプチドAA36−42に対する)(Biosource, Camarillo, CA, USA)。
【0100】
新たに溶解したAβ42ペプチドの繊維状態を蛍光分析により分析した。Aβ42 ペプチドを細胞に加えた(モノクローナル抗体とのプレインキュベーション有りまたは無しで)。プレートを24時間インキュベーションし、細胞上清をLDH放出について解析した。
【0101】
細胞毒性の百分率を測定するために、計算を実施例3に記載するとおり行った。
図5は商業的に入手可能なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体は、in vitroのAβ42誘発神経毒性を阻止する能力に差があり、一方対照のIgG1抗体は効果がなかった。
【0102】
すべての特許、特許出願および他の刊行物(公開されたアミノ酸またはポリヌクレオチド配列を含む)はその全内容について本明細書に開示した教示と矛盾しないすべての目的について本明細書の一部を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドβ(Aβ)誘発細胞毒性を阻害する薬剤の特定方法であって、
a)被検培養細胞を細胞毒性Aβ凝集体および被検薬剤と接触させ、
b)被検培養細胞中の細胞毒性のレベルを測定し、および
c)被検培養細胞における細胞毒性のレベルを対照の培養細胞における細胞毒性のレベルと比較し、それにより細胞毒性を阻害する被検薬剤を特定し選択することを含んでなる、
方法。
【請求項2】
さらに、対照の培養細胞を細胞毒性Aβ凝集体と接触させ;対照の培養細胞における細胞毒性のレベルを測定するステップを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対照の培養細胞を細胞毒性Aβ凝集体および対照薬剤に接触させ、ここで対照薬剤がAβ誘発細胞毒性を阻害することが知られている請求項1記載の方法。
【請求項4】
被検薬剤を、細胞毒性Aβ凝集体と接触させる前に被検培養細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞毒性AB凝集体を、被検薬剤と接触させる前に被検培養細胞と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被検薬剤と細胞毒性AB凝集体を被検培養細胞と接触させる前に、事前に混合する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
被検培養細胞と対照培養細胞を血清不含条件下で培養する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
被検培養細胞および対照培養細胞がPC−12細胞を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
被検薬剤が、抗体、ペプチド、脂質、炭水化物、タンパク複合体および静注免疫グロブリンロットからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
対照薬剤が抗Aβ抗体である請求項1記載の方法。
【請求項11】
Aβ凝集体がAβ1-40またはAβ1-42である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
細胞毒性Aβ凝集体が少なくともAβダイマーからなる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
細胞毒性Aβ凝集体の繊維量をチオフラビンT蛍光分析を用いて定量する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
細胞毒性Aβ凝集体が約2.5μM〜約25μMの濃度範囲で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
細胞毒性Aβ凝集体が約5μM〜約30μMの濃度範囲で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
細胞毒性Aβ凝集体が約10μM〜約15μMの濃度範囲で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
被検薬剤と対照薬剤が同じモル濃度で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
被検薬剤および対照薬剤と細胞毒性Aβ凝集体とのモル濃度比(薬剤:Aβ)が約30:1〜約1:30の範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
細胞毒性のレベルを培地中の乳酸脱水素酵素の濃度を測定することにより求められる、請求項1記載の方法。
【請求項20】
細胞毒性のレベルが培養細胞におけるアポトーシスのレベルを測定することにより決定される、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−517282(P2011−517282A)
【公表日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548840(P2010−548840)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/035119
【国際公開番号】WO2009/111240
【国際公開日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
2.イーサネット
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(301043225)バクスター・ヘルスケア・ソシエテ・アノニム (9)
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【Fターム(参考)】