説明

静的ポンピングを有する磁気カソードを備える燃料電池

本発明は、酸素とヒドロニウムイオンから電力を生成する燃料電池に関する。本発明の燃料電池は、アノード(A)と、活性層(2)を備える磁気カソードと、これらアノードとカソードとの間に配置されたプロトン電解質(1)と、を備える。さらに本発明は、活性層内の酸素の拡散を増加するために設計された永久磁石(4)の網目(3)を備える。この永久磁石の網目(3)の磁石(4)の中心は、電解質(1)と活性層(2)との間の境界面に配置された平面内に好ましくは二次元分布で配置され、これら磁石は、前記平面に対して垂直な軸に平行に磁化される。こうして、一方の極性(S)の全ての極は活性層(2)によって包囲され、反対の極性(N)の全ての極は電解質(1)によって包囲される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素とヒドロニウムイオンから電力を生成し、アノードと、活性層を有する磁気カソードと、アノードとカソードとの間のプロトン電解質と、電解質と活性層との間の境界面に対して垂直な磁軸を有し、第一の極と第二の極を備える永久磁石の網目と、を備える燃料電池に係る。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、液体或いはポリマ電解質によって分離されたアノードとカソードによって構成される。幾つかの用途、とりわけ、携帯電子デバイスの電源として用いる場合、これら燃料の1つは、空気中の酸素である。このようなシステムの性能は、本質的には、カソードによって、とりわけ、触媒のレベルの所にアクセス可能な酸素の量によって制約される。カソードのレベルの所での酸素フローを増加するために用いられる従来のポンピングシステムは、エネルギの点でコストが高く、このため、これによって得られる性能の増加が、このポンピングシステムによって消費されるエネルギによって相殺されてしまう。
【0003】
もし、周囲の空気中に存在する酸素を最大限に用いることで、燃料電池が、機械的ポンピングシステムを用いることなく、動作できれば、有意義なことである。酸素の常磁性の特性(paramagnetic properties)を用いる、”静的ポンピング(static pumping)”と呼ばれる解決手段が提唱されている。静的ポンピングは、磁場内に常磁性体が置かれたとき、磁場によって及ぼされる力に基づく。磁場内においては、この力は、この常磁性体を、磁場の絶対値が増加する方向に引き付ける。
【0004】
N.I. WAKAYAMAらによる“Magnetic Promotion of Oxygen Reduction Reaction with Pt Catalyst in Sulfuric Acid Solutions(硫酸溶液内でのプラチナ触媒を用いての酸素還元反応の磁気による促進)”なる文献は、膜と拡散電極との間の活性層内に小さな磁性粒子の粉末を導入することによる、静的ポンピングによる燃料電池の動作の改善を提唱している(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.40(2001) pp.L269-L271)。しかし、この解決手段は、これら磁性粒子(magnetic particles)は活性層の厚さ全体にわたってランダムに分布するために非効果が非常に小さい。
【0005】
文献JP 2002/198,057は、燃料電池の複数の電極の1つの中に拡散配置された複数の永久磁石を備える燃料電池について記述する。これら磁石は網目状に配置することができ、これら永久磁石の向きは一様であり、電極を接続する線に対して平行とされる。
【0006】
この結果として、上述の2つの文献においては、結果としての磁力は、数個の粒子或いは磁石の磁場が反対方向を向くような空間の点において減少する。酸素はこれら磁力によって引きつけられ、活性層の全容積内に浸透することがない。このため、活性層の作用は表面でのみ改善され、容積内部での作用は弱いままにとどまる。
【0007】
小さな磁性粒子のもう一つの短所は、電池のタイプによって酸或いはアルカリ媒体が用いられるが、これら媒体内での磁性材の腐食が大きくなることである。
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、これらの欠点を改善すること、とりわけ、活性カソード層(active cathodic layer)の触媒全体のレベルの所でアクセス可能な酸素の量を増加することにある。
【0009】
本発明によると、この目的は添付のクレームによって、より詳細には網目の磁石の第一と第二の極はそれぞれ活性層内と電解質内に配置されるという事実によって達成される。
【0010】
他の長所及び特徴が、単に例示として、添付の図面に示される、本発明の特定の実施例の以下の説明から一層明らかになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、アノードAと、プロトン電解質1と、活性層2、多孔性電流コレクタプレート5、及び拡散層6を備える磁気カソードと、を備える燃料電池を表す。右側から到達する酸素は、このカソードのコレクタプレート5と拡散層6を通過して活性層へと入る。水素は、水素ベクトルとなり得る化合物(アルコール、砂糖、窒素化合物等)によって生じるヒドロニウムイオン(通常Hと呼ばれる)の形態にて入ってくる。
【0012】
活性層2に入る酸素の拡散を増加させるために、カソードは電解質と活性層との境界面に対して垂直な磁気軸を有する永久磁石4の網目(network)3を備える。
【0013】
一つの好ましい実施例においては、これら永久磁石の網目3のこれら磁石4の中心は、二次元分布で配置される。図1においては、この二次元分布は電解質1と活性層2との間の境界面に対して平行な平面内に局在化される。これら磁石4は、好ましくは、全てのN極性の極Nが1つの平面内に入り、全てのS極性の極Sがこれと平行な平面内に入るように、この二次元分布の平面に対して垂直なz軸に沿って磁化される。こうして、この網目3のこれら磁石4の第一の極Sは電解質1と活性層2との間の境界面に対して平行な第一の平面内に配置され、この網目3のこれら磁石4の第二の極Nは電解質1と活性層2との間の境界面に対して平行な第二の平面内に配置される。
【0014】
一つの好ましい実施例においては、これら永久磁石4は、活性層2によって半分だけ包囲される。すなわち、同一の極性の全ての極(S)は活性層2によって包囲され、反対の極性の全ての極(N)は電解質1によって包囲される。こうして、第一の極と第二の極は、それぞれ、活性層2内と、電解質1内に配置される。図1に示される実施例においては、電解質1と活性層2の間の境界面は、これら第一と第二の平面から実質的に等距離に置かれる。これら永久磁石4は、好ましくは、図1に示されるように、同一の形状と同一の空間的方向性を有する。
【0015】
図1に示される実施例においては、電解質と活性層との間の境界面は垂直軸8上に位置し、これら磁石は水平軸zに沿って磁化される。こうして、これら磁石は、その絶対値が垂直軸8上で最大となる磁場を生成する。磁力F(z)は酸素を垂直軸8に向かって引き付ける。
【0016】
図2には、この磁力F(z)がこの水平軸z上の座標の関数として図解されている。この力F(z)は、垂直軸8に接近すると増加し、ちょうどこの垂直軸8に関して、この力の方向の変化に対応するように、符号を変える。このため、この軸8の左側では、酸素は右に向かって引き付けられ、この軸8の右側では、酸素は左に向かって引き付けられる。
【0017】
酸素との電気化学的反応は活性層2全体を通じて起こる。この層は、従って、酸素濃度が最大となる領域内に配置されなければならない。拡散ゾーン6から来る酸素は、これら磁石によって拡散層の全容積内に引き付けられる。他方、電解質内においては、酸素は、拡散層に向けて、電解質内の酸素濃度が減少するように、押しやられる。これら磁石を、一部分は活性層内に置き、一部分は電解質内に置くやり方は、これら磁石を50%は活性層内に分配し、50%は電解質内に分配することで最適化される。
【0018】
図3との関連で、これら永久磁石の網目は、周期的網目(periodic network)10の二次元分布として配置された円筒磁石4によって形成することもできる。
【0019】
図4に表されているように、電池は、磁石4が配置される開口12を備える支持網目11を備えるようにすることもできる。この支持(網目)は、これら磁石の間に、電解質から来る、イオン、とりわけ、ヒドロニウムイオンに対する通路13を備える。これら通路13は、従って、そこには、ヒドロニウムイオンH、酸素O及び電子供与元素(electron elements)が存在する三重点ゾーン(triple point zones)を形成し、これによって電気化学的反応が引き起こされる。この支持網目11の材料は、非磁性材であり得る。この支持網目は、電解質1上に固定することも、或いは電解質1と活性層2との間の境界面の所に配置することもできる。
【0020】
これら磁石4の網目3による、この改善された酸素拡散システムの性能は、磁石4の磁化、幾何形状及び数、カソードの厚さ、磁石4及びヒドロニウムイオンに対する通路13の幾何分布等の、幾つかのパラメータに依存する。こうして、磁石4の質量の中心を、図3に示すように、平坦な周期分布とした場合は、触媒内におけるガス拡散の一様な改善が達成される。他の平坦な幾何形状、例えば、三角形或いはフラクタル形状も考え得る。
【0021】
図5に示されるように、支持網目11内の、磁石4を置くための開口12及び通路13の分布は、より大きな三角形がより小さな三角形によって包囲され、異なる寸法の三角形によって表される、フラクタル構造とすることもできる。図5のこれら三角形の中心は、これら磁石の中心を表す。これら磁の個々の形状自体は必ずしも三角形である必要はない。
【0022】
電解質1(酸或いはアルカリ)内の磁石4の腐食を防止するために、これら磁石4は、耐腐食処理を施すことも、或いは耐腐食コーティングを備えることもできる(図1においては、これら磁石の1つは、耐腐食コーティングを有するように示されている)。耐腐食処理は、電解質1の性質に依存する。コーティングの材料は、典型的には、プラチナ或いは金とされる。
【0023】
永久磁石4の網目3は、強磁性材から成る磁石4とすることもできる。例えば、永久磁石4は、SmCo、AlNiCo、NdFeB或いはフェライト系の部分を形成する材料から形成することもできる。けれども、任意の磁性金属或いは磁性合金を考えることができる。
【0024】
最良の性能は、これら磁石4を、酸素、つまり、カソード側に、非常に近接して置くことで得られる。けれども、カソードを通じての最適な酸素の拡散は、これら磁石4の中心をカソードの活性層2と電解質1との間の境界面上に位置している図1の実施例で得られる。磁力は、これら磁石4と酸素の間の距離が減少すると、急激に増加する。こうして、これら磁石4の網目3は、空気内の酸素のフィルタとして働き、空気内に存在する他のガスより酸素を優先する。
【0025】
永久磁石4は、追加のエネルギ入力を必要とすることなしに、単独で機能する理想的な磁場源となる。
【0026】
本発明は、とりわけ、小型燃料電池の製造に適する。この磁石4の網目3は、活性層2から数ミリメートル離れた所で十分な磁力を生成することを可能にする。これによって、以下の例によって示されるように、酸素還元反応のオーバポテンシャルの低減が得られることができるようにする。つまり、固体ポリマ電解質と約250μmの厚さのカソードと、結果として10−6テスラの磁場が得られる磁石と、を備える燃料電池の場合、約10%から20%の拡散オーバポテンシャルの低減が予想される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による燃料電池の一つの実施例を表す図である。
【図2】電池の内側の磁力の変化を示す図である。
【図3】図1による電池の1つの実施例の垂直軸8に沿う断面図である。
【図4】図1による電池のもう1つの実施例の垂直軸8に沿う断面図である。
【図5】永久磁石の網目の他の特定の実施例の対称性を簡略的に表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素とヒドロニウムイオンとから電力を生成し、アノード(A)と、活性層2を有する磁気カソードと、前記アノード(A)と前記カソードとの間のプロトン電解質(1)と、前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の境界面に対して垂直な磁気軸を有し、第一の極(S)と第二の極(N)を備える永久磁石(4)の網目(3)と、を備える燃料電池であって、
前記網目(3)の前記磁石(4)の前記第一の極(S)と第二の極(S)は、それぞれ、前記活性層(2)内と前記電解質(1)に配置されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の前記境界面は、前記磁石(4)の前記第一の極(S)と前記第二の極(N)から実質的に等距離に配置されることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記磁石(4)が配置される開口(12)と、前記ヒドロニウムイオン及び酸素に対する通路(13)とを有する支持網目(11)を備えることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記支持網目(11)は、前記電解質(1)上に固定された非磁性材から成ることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
前記磁石(4)は、耐腐食コーティング(14)を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記耐腐食コーティング(14)は、プラチナ或いは金から成ることを特徴とする請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
前記磁石(4)は、前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の境界面に対して平行な平面内に、周期的分布で分配されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記磁石(4)は、前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の境界面に対して平行な平面内に、フラクタル型分布で分配されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の燃料電池。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素とヒドロニウムイオンから電力を生成し、アノード(A)と、活性層2を備える磁気カソードと、前記アノード(A)と前記カソードとの間のプロトン電解質(1)と、前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の平面境界面に対して垂直な磁気軸を有し、第一の極(S)と第二の極(N)を備える永久磁石(4)の網目(3)と、を備える燃料電池であって、前記網目(3)の前記磁石(4)の前記第一の極(S)と第二の極(S)は、それぞれ、前記活性層(2)内と前記電解質(1)内に配置されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の前記境界面は、前記磁石(4)の前記第一の極(S)と前記第二の極(N)から実質的に等距離に配置されることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記磁石(4)が配置される開口(12)と、前記ヒドロニウムイオン及び酸素に対する通路(13)とを有する支持網目(11)を備えることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記支持網目(11)は、前記電解質(1)上に固定された非磁性材から成ることを特徴とする請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
前記磁石(4)は、耐腐食コーティング(14)を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記耐腐食コーティング(14)は、プラチナ或いは金から成ることを特徴とする請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
前記磁石(4)は、前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の境界面に対して平行な平面内に、周期的分布で分配されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
前記磁石(4)は、前記電解質(1)と前記活性層(2)との間の境界面に対して平行な平面内に、フラクタル型分布で分配されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−509339(P2006−509339A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558156(P2004−558156)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003558
【国際公開番号】WO2004/054018
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】