説明

静粛性に優れたポリエステル系弾性網状構造体およびその製造方法

【課題】耐久性、クッション性の優れた、蒸れ難く、特に圧縮時の音を低減したポリエステル系弾性網状構造体を提供する。
【解決手段】曲げ弾性率15〜70MPa、表面硬度30〜45Dであるポリエステル共重合体からなる繊度が300デシテックス以上の連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体のランダムループ表面に、シリコーン系樹脂を含む樹脂が0.4〜4重量%付着しているポリエステル系弾性網状構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静粛性に優れたポリエステル系弾性網状構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、寝具用のクッション材としては、発泡ウレタン、非弾性捲縮繊維詰綿、及び非弾性捲縮繊維を接着した樹脂綿や硬綿などが使用されている。
【0003】
しかしながら、発泡−架橋型ウレタンはクッション材としての耐久性は良好だが、透湿透水性に劣り蓄熱性があるため蒸れやすく、かつ、熱可塑性では無いためリサイクルが困難となり焼却される場合、焼却炉の損傷が大きく、かつ、有毒ガス除去に経費が掛かる。このため埋め立てされることが多くなったが、地盤の安定化が困難なため埋め立て場所が限定され経費も高くなっていく問題がある。また、加工性は優れるが製造中に使用される薬品の公害問題などもある。また、熱可塑性ポリエステル接着詰綿では繊維間が固定されていないため、使用時形態が崩れたり、繊維が移動して、かつ、捲縮のへたりで崇高性の低下や弾力性の低下が問題になる。
【0004】
ポリエステル繊維を接着剤で接着した樹脂綿、例えば接着剤にゴム系を用いたもの(例えば、特許文献1〜3参照)、また、架橋性ウレタンを用いたもの(例えば、特許文献4参照)がある。これらのクッション材は耐久性に劣り、且つ、熱可塑性でなく、単一組成でもないためリサイクルも出来ない等の問題、及び加工性の煩雑さや製造中に使用される薬品の公害問題などもある。
【0005】
ポリエステル硬綿を用いているもの(例えば、特許文献5、6参照)があるが、熱接着繊維の繊維成分が脆い非晶性のポリマーを用いるため接着部分が脆く、使用中に接着部分が簡単に破壊されて形態や弾力性が低下するなどの耐久性に劣る問題がある。
【0006】
また、改良法として、交絡処理する方法(例えば、特許文献7参照)が提案されているが、接着部分の脆さは解決されず弾力性の低下が大きい問題がある。また、加工時の煩雑さもある。更には接着部分が変形しにくくソフトなクッション性を付与しにくい問題もある。このため、接着部分を柔らかい、且つ変形しても回復するポリエステルエラストマーを用いた熱接着繊維を用いたクッション材が提案されている(例えば、特許文献8参照)。この繊維構造物に使われる接着成分のポリエステルエラストマーは融点を低くする為に、ハードセグメントの酸成分にテレフタル酸を50〜80モル%含有し、ソフトセグメントとしてのポリアルキレングリコールの含有量が30〜50重量%を含有させ、他の酸成分組成としてイソフタル酸等を含有し非晶性が増加させて融点を180℃以下にし、且つ低溶融粘度として熱接着部分の形成を良くしてアメーバー状の接着部を形成しているが、芯部にポリエチレンテレフタレートを使った芯鞘型の複合繊維であるため、風合いが硬く、体型にフィットしたものとなりにくいという問題があり、また、複合紡糸繊維を使用することや、再加熱し溶融接着する工程を必要とするためコストが高くなるという問題もある。
【0007】
ウレタンの代替品として、ポリオレフィン樹脂と酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体、又はスチレンブタジエンスチレンとの混合物からなるクッション材も検討されている(例えば、特許文献9参照)。しかしこれはウレタンに比べて沈み込みが少なく、25%圧縮時応力が高い、圧縮と除圧時の応力差が小さいので反発性が高すぎる、他成分と混合されているので耐光性が悪い、繰り返し圧縮時の厚み保持率が悪い、比重が大きく重たくなりやすい等の問題がある。さらにはこのクッション材は異なる素材の組合せであるためリサイクルが困難であるなどの問題もある。
【0008】
ポリエステル系共重合熱可塑性弾性樹脂からなる連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体が提案されているが、圧縮時に繊維同士が衝突したり擦れあう時にギシギシという音が発生するため、寝具に用いた場合、うるさくて寝づらいという問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−11352号公報
【特許文献2】特開昭61−141388号公報
【特許文献3】特開昭61−141391号公報
【特許文献4】特開昭61−137732号公報
【特許文献5】特開昭58−136828号公報
【特許文献6】特開平3−249213号公報
【特許文献7】特開平4−245965号公報
【特許文献8】国際公開第91/19032号パンフレット
【特許文献9】特開2003−250667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、耐久性、クッション性の優れ蒸れ難く、特に圧縮時の音を低減したポリエステル系弾性網状構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の通りである。
1.曲げ弾性率15〜70MPa、表面硬度30〜45Dであるポリエステル共重合体からなる繊度が300デシテックス以上の連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体のランダムループ表面に、シリコーン系樹脂を含む樹脂が0.4〜4重量%付着しているポリエステル系弾性網状構造体。
2.連続線状体が少なくとも中空率15%以上の中空繊維からなる上記1に記載のポリエステル系弾性網状構造体。
3.シリコーン系樹脂が、カルボキシル基を有するポリエステル系バインダー及び架橋剤で固着されている上記1または2に記載のポリエステル系弾性網状構造体。
4.シリコーン系樹脂とカルボキシル基を有するポリエステル系バインダー及び架橋剤を、pH5〜8の水系エマルジョンとして弾性網状構造体に付着させ、40〜130℃で乾燥処理する上記1〜3のいずれかに記載のポリエステル系弾性網状構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるポリエステル系弾性網状構造体は、圧縮時の音鳴りを軽減しているため、耐久性のあるクッション性と優れた静粛性を有するポリエステル系弾性網状構造体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうポリエステル共重合体とは熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリアルキレンジオールをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体、または、脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体が例示できる。ポリエステルエーテルブロック共重合体のより具体的な事例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2・6ジカルボン酸、ナフタレン2・7ジカルボン酸、ジフェニル4・4′ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1・4シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸または、これらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1・4ブタンジオール、エチレングリコール、トレメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1・1シクロヘキサンジメタノール、1・4シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成される三元ブロック共重合体である。ポリエステルエステルブロック共重合体としては、上記ジカルボン酸とジオール及び平均分子量が約300〜3000のポリラクトン等のポリエステルジオールのうち少なくとも各1種から構成される三元ブロック共重合体である。熱接着性、耐加水分解性、伸縮性、耐熱性等を考慮すると、ジカルボン酸としてはテレフタル酸、または、及びナフタレン2・6ジカルボン酸、ジオール成分としては1・4ブタンジオール、ポリアルキレンジオールとしてはポリテトラメチレングリコールの三元ブロック共重合体または、ポリエステルジオールとしてポリラクトンの三元ブロック共重合体が特に好ましい。特殊な例では、ポリシロキサン系のソフトセグメントを導入したものも使うことができる。また、上記ポリエステルエラストマーは単独または2種類以上混合して使用できる。更には、ポリエステルエラストマーに非エラストマー成分をブレンドされたもの、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0014】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体は繊度が300デシテックス以上の連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体であることが好ましい。
【0015】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体に用いるポリエステル共重合体は、曲げ弾性率が15〜70MPaであることが好ましい。曲げ弾性率が70MPaを超えると、繊維とした時に曲げ硬くなるため圧縮時に繊維同士の衝突及び擦れによるギシギシ音の発生が顕著になるため好ましくない。一方、曲げ弾性率が15MPa未満では繊維とした時に柔らかくなりすぎ、クッション体として身体を支えるのに不適当となるため好ましくない。より好ましい曲げ弾性率は20〜65MPaである。
【0016】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体に用いるポリエステル共重合体は、表面硬度30〜45Dであることが好ましい。表面硬度が45Dを超えると、繊維同士の衝突時に発生する音が大きくなるため好ましくない。一方、表面硬度が30D未満では繊維表面がベタつくと共に圧縮回復時の剥がれる音が顕著になるため好ましくない。より好ましい表面硬度は35〜42Dである。
【0017】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体を構成する連続線状体の繊度が300デシテックス未満では、強度が低くなり反発力が低下するので好ましくない。本発明の連続線状体の好ましい繊度は、優れた反発力の得られる300デシテックス以上100000デシテックス以下であり、100000デシテックスを超えると連続線状体の構成本数が少なくなり、圧縮特性が悪くなるので使用部分が限定される場合がある。より好ましい繊度は500〜50000デシテックスである。
【0018】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体はランダムループ表面にシリコーン系樹脂を含む樹脂が網状構造体重量に対し0.4〜4重量%付着していることが好ましい。本発明のポリエステル系弾性網状構造体のように表面硬度が比較的低い範囲のポリエステル共重合体からなる網状構造体は、圧縮した時に繊維同士が軽く接着されたような疑似接着の状態になりやすく、圧縮からの回復時において繊維同士が離れる際に「ネチャ」という剥がれ音がしやすい。これはポリエステル共重合体がもつポリマー特性に依存する。この剥がれ音を軽減するためにポリエステル系弾性網状構造体のランダムループ表面にシリコーン系樹脂を含む樹脂が網状構造体重量に対し0.4〜4重量%の範囲で付着されることが好ましい。付着量が0.4重量%未満であると、繊維同士の疑似接着の抑制が出来にくいため好ましくなく、4重量%を越えると、ループ内で樹脂膜が形成され、風合いが硬くなってしまうといった問題が発生しやすいため好ましくない。またループの動きが制限されてしまい、クッション性や風合いが硬くなるという問題が発生しやすく好ましくない。
【0019】
シリコーン系樹脂については特に限定されないが、静粛性からは環状シロキサンが好ましく、耐久性の点からバインダー機能があることや、作業性からアニオン系であることが好ましく、例えば北広ケミカル社製のTF−3500が一例としてあげられる。シリコーン系樹脂は単独、あるいは必要により2種以上併用することができる。
【0020】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体を構成する連続線状体の断面形状は特に限定されないが、表面硬度が42D以下のポリエステル共重合体を用いる時には、中空断面形状が網状構造体の反発力が向上するので好ましい。好ましい中空率の範囲は15%以上50%以下であり、15%未満であると充分な反発力が得られにくくなるので好ましくなく、また50%を越えると中空断面が丸ではなく変形した中空断面となり易く、安定したクッション性が得られにくくなるため好ましくない。
【0021】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体は、ランダムループ表面に付着しているシリコーン系樹脂がカルボキシル基を有するポリエステル系バインダー、及び架橋剤で固着されていることが好ましい。ポリエステル系バインダー及び架橋剤により、シリコーン系樹脂は網状構造体のランダムループに一層強固に接着されるだけでなく、衝突及び擦れによるギシギシ音が一層軽減される効果があることがわかった。ポリエステル系バインダーは特に限定されないが、セバシン酸やテレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸とエチレングリコールやネオペンチルグリコール等のグリコールから重縮合されたものが好ましく、さらには酸成分としてトリメリット酸を重縮合させた一部にカルボキシル基を有する飽和ポリエステル樹脂であることが好ましい。またイオン性についてはシリコーン系樹脂と同じアニオン系であることが好ましく、例えば日本ポリマリック有限会社製アクアマックA−864が一例としてあげられる。ポリエステル系バインダーは単独、あるいは必要により2種以上併用することができる。架橋剤については特に限定されないが、カルボジイミド基を有するものが好ましく、例えば日本ポリマリック有限会社製のカタリストE−03Aが一例としてあげられる。架橋剤は単独、あるいは必要により2種以上併用することができる。
【0022】
本発明のポリエステル系弾性網状構造体の製造方法としては、シリコーン系樹脂とカルボキシル基を有するポリエステル系バインダー及び架橋剤を、pH5〜8の水系エマルジョンとして弾性網状構造体に付着させ、40〜130℃で乾燥処理することが好ましい。水系エマルジョンのpHが5未満であると常温で反応が進みやすくエマルジョンが安定せず、一部凝集が発生してしまうため好ましくない。また、pHが8を越えると高温にしても反応が進みにくく、シリコーン系樹脂やポリエステル系バインダーが固着しにくくなるため好ましくない。有機溶媒にシリコーン系樹脂を溶解させたものを弾性網状構造体に付着させても製造することは可能であるが、人体への影響や系外に放出され環境を汚染することを勘案すると好ましくない。
【0023】
乾燥温度は40℃未満であると反応が進みにくく、シリコーン系樹脂やポリエステル系バインダーが固着しにくくなるため好ましくない。また、乾燥温度が130℃を越えると、ポリエステル系弾性網状構造体が軟化し、厚みが低下してしまいやすくなるため好ましくない。
【0024】
弾性網状構造体は実際の使用に際して多層に重ねても良く、弾性網状構造体層を複合化(一体接着構造)したものとして、エラストマー層/非エラストマー層/エラストマー層のサンドウィッチ構造、エラストマー層/非エラストマー層の2層構造、マトリックスのエラストマー層の内部に部分的に非エラストマー層を配した複合化構造が挙げられる。
【0025】
本発明の弾性網状構造体は、要求性能との関係で、ループの大きさの異なるもの、デシテックスの異なるもの、組成の異なるもの、密度の異なるもの等の夫々の網状構造体を適宜選択し、積層あるいは混合してもよい。
【0026】
更には、積層構造体表面に必要に応じ、硬綿クッション、好ましくはエラストマー使いの熱接着繊維からなる硬綿クッションを、第二層として配した複合化構造であってもかまわない。
【0027】
本発明の弾性網状構造体は、シリコーン系樹脂を含む樹脂に、網状構造体重量に対し顔料を0.01〜15重量%含有させることが好ましい。樹脂に顔料を添加する目的として、樹脂の付着状態が均一であることを目視確認すること、および着色による意匠性の向上をはかることにある。顔料の代わりに染料を用いた場合は、汗等の水分を含んだ状態で側地と弾性網状構造体が接触し擦れた時、弾性網状構造体の表面に染料が存在すると側地に色移りが起きてしまうため好ましくない。それに対し、顔料であれば汗などの水分に溶けることなどなく、そのような問題が起こらないため好ましい。
【0028】
顔料が網状構造体重量に対し0.01重量%未満であれば、樹脂が付着している状態を見極めにくくなり、品質管理がしにくくなるため好ましくない。また、15重量%を超えるとコストが高くなってしまうだけでなく、樹脂の接着強度を低下させてしまうため好ましくない。より好ましい顔料の含有量は、0.03〜10重量%であり、さらに好ましくは0.05〜5重量%である。
【0029】
本発明の弾性網状構造体に付着させるシリコーン系樹脂を含む樹脂には、本発明の弾性網状構造体のクッション特性を著しく低下させない範囲で、顔料以外に、抗菌剤、防かび剤、防虫(防ダニ)忌避剤、抗アレルゲン剤(アレルギー沈静化剤)、吸放湿剤、吸湿発熱剤、相変換型温度調節剤(MCP)、芳香剤、吸水剤、撥水剤、撥水撥油剤、防汚剤、耐光剤、耐候剤、光触媒系加工剤、柔軟剤、硬化剤、架橋剤、ダル剤などを混合しても良い。その場合は、それらの成分を含めたもの全体を樹脂の付着量と定義する。
【0030】
また樹脂の付与方法としてスプレー法、浸漬法、シャワー法、などいずれの方法でもかまわない。また、過剰に付着した樹脂を除去するために加圧ローラーによる搾り、振動、振盪、加圧空気の噴きつけ等適宜選択して採用することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を例示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中における特性値の測定及び評価は下記のようにおこなった。
【0032】
(1)繊度
試料を20cm×20cmの大きさに切断し、10か所から線状体を採集する。10か所で採集した線状体の40℃での比重を密度勾配管を用いて測定する。更に、上記10か所で採集した線状体の断面積を顕微鏡で30倍に拡大した写真より求め、それより線状体の長さ10000m分の体積を求める。得られた比重と体積を乗じた値を繊度(線状体10000m分の重量)とする(n=10の平均値)。
【0033】
(2)シリコーン系樹脂を含む樹脂および顔料の付着量
加工前の弾性網状構造体の重量(e)と加工乾燥後の重量(f)を量り、次式にて算出して求めた。
すなわち{(f−e)/(e)}×100より算出する:単位重量%。
【0034】
(3)原料の曲げ弾性率
ASTM D790法に準拠した。
【0035】
(4)表面硬度
ASTM D2249法に準拠した。
【0036】
<実施例1>
東洋紡績株式会社製の「ペルプレン(登録商標)タイプP―40H」を用い、抗酸化剤1%を添加混合練込み後ペレット化し、80℃24時間真空乾燥して熱可塑性弾性樹脂原料を得た。得られた樹脂の曲げ弾性率と表面硬度を表1に示す。
【0037】
得られた熱可塑性弾性樹脂原料を幅70cm、長さ7cmのノズル有効面にC型断面をしたノズルより、240℃で溶融して、ノズル面20cm下に冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に2.5cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1mの速度で、70℃に加熱した冷却水中へ引込み固化させ、その後、1mの長さに切断した。その結果、両面がフラット化された、密度が50kg/mの弾性網状構造体を得た。弾性網状構造体の線状体の繊度は2000デシテックスであった。弾性網状構造体を圧縮、開放を繰り返すとギシギシという軋み音とネチャという剥がれ音がした。
【0038】
後加工として、北広ケミカル株式会社製TF−3500(シリコーン系バインダー)を20重量%、日本ポリマリック有限会社製アクアマックA−864(ポリエステル系バインダー)を32重量%、日本ポリマック有限会社製カタリストE−03A(架橋剤)を2重量%、青色顔料0.2重量%、イオン交換水45.8重量%をエマルジョン化し、pHを6.8に調整して混合した混合液を、弾性網状構造体にディップ処方にて付与し、85℃で10分間乾燥させた。重量比較から樹脂の弾性網状構造体に対する付着量は1.2重量%であった。得られた弾性網状構造体はヒステリシスロスが少なく、圧縮時のギシギシ音や回復時のネチャという剥がれ音がかなり小さいものであった。
【0039】
<実施例2>
繊維断面が中実丸断面になるようにノズルオリフィスを丸型にし、後加工時の乾燥温度を140℃にした以外は実施例1に従って、弾性網状構造体を得た。乾燥温度が高かったため、網状弾性体が軟化して、乾燥時に25mmから20mmに厚みが減少したものの、静粛性にかなり優れたものであった。
【0040】
<実施例3>
後加工時のエマルジョンを、日本ポリマリック有限会社製アクアマックA−864(ポリエステル系バインダー)を32重量%、日本ポリマック有限会社製カタリストE−03A(架橋剤)を2重量%添加せず、イオン交換水を77.8重量%にした以外は実施例1に従った。側地でくるんだ時に、被膜が剥がれ、側地に付着したものの、静粛性に優れたものであった。
【0041】
<実施例4>
後加工時のエマルジョンのpHを9.0に調整した以外は実施例1に従った。アルカリサイドであったため、反応が余り進んでおらず、側地でくるんだ時に、被膜が剥がれ、側地に付着したものの、静粛性に優れたものであった。
【0042】
<実施例5>
後加工時のエマルジョンのpHを4.0に調整した以外は実施例1に従った。エマルジョンの分散性が悪く、凝集が発生し作業性に困難をきたしたが、静粛性に優れたものであった。
【0043】
<比較例1>
弾性網状構造体の原料として、東洋紡績株式会社製の「ペルプレン(登録商標)タイプP−70B」を用いた以外は実施例1に従った。得られた樹脂の曲げ弾性率と表面硬度を表1に示す。原料ポリマーが硬いため、圧縮回復時のネチャ音は無かったものの、圧縮時のギシギシ音がうるさいものであった。
【0044】
<比較例2>
弾性網状構造体の原料として、東洋紡績株式会社製の「ペルプレン(登録商標)タイプP−30B」を用いた以外は実施例1に従った。得られた樹脂の曲げ弾性率と表面硬度を表1に示す。原料ポリマーがかなり柔らかいため、乾燥時に網状構造体の厚みが半減してしまうという問題が発生した。音に関しては圧縮時のギシギシ音は無かったものの、圧縮回復時のネチャ音がうるさいものであった。
【0045】
<比較例3>
後加工時のエマルジョンの北広ケミカル株式会社製TF−3500(シリコーン系バインダー)の代わりに東洋紡績株式会社製「バイロナール(登録商標)MD−1480」(ポリエステル系)を用い、弾性網状構造体に対する樹脂付着量を4.5重量%にした以外は実施例1に従った。シリコーン系樹脂がなかったために、圧縮回復時のネチャ音がうるさいものであった。また、樹脂付着量が多かったため、風合いや作業性が悪いものであった。
【0046】
<比較例4>
弾性網状構造体に対する樹脂付着量を0.2重量%にした以外は実施例1に従った。シリコーン系樹脂が少なかったために、圧縮回復時のネチャ音がうるさいものであった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
耐久性、クッション性の優れた蒸れ難く、特に圧縮および回復時の音を低減した弾性網状構造体は寝具等のクッション体に好適に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ弾性率15〜70MPa、表面硬度30〜45Dであるポリエステル共重合体からなる繊度が300デシテックス以上の連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体のランダムループ表面に、シリコーン系樹脂を含む樹脂が0.4〜4重量%付着しているポリエステル系弾性網状構造体。
【請求項2】
連続線状体が少なくとも中空率15%以上の中空繊維からなる請求項1に記載のポリエステル系弾性網状構造体。
【請求項3】
シリコーン系樹脂が、カルボキシル基を有するポリエステル系バインダー及び架橋剤で固着されている請求項1または2に記載のポリエステル系弾性網状構造体。
【請求項4】
シリコーン系樹脂とカルボキシル基を有するポリエステル系バインダー及び架橋剤を、pH5〜8の水系エマルジョンとして弾性網状構造体に付着させ、40〜130℃で乾燥処理する請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系弾性網状構造体の製造方法。


【公開番号】特開2010−43376(P2010−43376A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208392(P2008−208392)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】