説明

静菌剤入り濃縮培地

【課題】液体培地の製造設備がない有用菌の使用現場で、必要な時に必要な菌の増殖ができる方法が求められ、常温輸送や保管ができて使用現場で容易に増殖できる液体培地やその簡易な培養方法を提供する。
【解決手段】本発明の濃縮培地は、利用すべき菌に適した栄養分を通常量より高濃度に含有せしめ、静菌剤を加えたものである。また、スターター入り濃縮培地及びスターターも同様に静菌剤を加えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静菌剤を加えて常温での流通、保存を可能とした濃縮培地及びこの製造法と微生物の増殖法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、醗酵食品、環境改善やバイオ農薬等として種々の菌を増殖して微生物の能力を利用しようとする試みがなされている。使用されている微生物も種々あり、伝統醗酵食品の酒類、味噌、醤油、漬物、醗酵乳には乳酸菌や酵母が、納豆ではバチルス菌が利用され、非常に多種多様な菌種・菌株が利用されている。古くから利用されてきた食品以外でも、化成品アクリルアミドの大量生産、醗酵油脂、微生物の殺虫剤、殺菌剤、除草剤、環境汚染物質の除去等に種々の微生物の菌種・菌株が利用され、今後も拡大していくと考えられている。
【0003】
また、屋外という特殊な環境でも種々の菌が利用されている。例えば、環境改善における排水処理で油分(BOD)の減少では油分解性の酵母や細菌などの好気性菌が利用され、畜産の糞尿の分解とともに燃料ガスを得るためにメタン菌などの嫌気性菌が利用され、バイオ農薬としてバチルス菌、エアロバクテリウム菌なども広く利用されている。準野外であるが牛舎、豚舎、鶏舎の臭気対策にバチルス菌、乳酸菌や酵母が利用され、近年、益々利用現場の範囲が広まってきている。
【0004】
屋外で菌を利用する排水処理場や畜舎の防臭現場やバイオ農薬を使用する植物の栽培農場では、その菌を施設に大量に加えたり、噴霧する等の利用が行われている。これらの有用菌の本培養を行って目的の製品を大量に製造し使用するには、シードカルチャーからマザースターターを作り、これからバルクスターターを製造し本培養を行うといった、段階的に菌を増やす方法が一般には行われている。又は、この工程を利用、応用した凍結乾燥菌体やディープフローズンスターター等がある。
【0005】
伝統のあるヨーグルトなどの醗酵乳の製造は、まず、脱脂乳の入ったリッター容積の三角フラスコなどで脱脂乳培地を調整し、65〜95℃30分程加熱した後、培養温度の35〜45℃程に冷却し、1〜3%のシードカルチャーを接種し、16〜24時間保温培養したものがマザースターターで、数多く作っておきバルクスターターに使用するまで3〜10℃に冷却し保存する。同様に30〜100倍量の脱脂乳を殺菌、冷却し、1〜3%のマザースターターを接種し、バルクスターターを製造する。これをヨーグルトミックスに1〜3%加えて発酵させ、ヨーグルトを製造(非特許文献1)することが記載されている。
【0006】
この様に、マザースターターから醗酵乳の製造を行うには計量、溶解、加温、冷却、殺菌、培養等の種々の設備が必要であり、その取り扱には衛生観念を有した熟練作業員が行うことが必須であった。また、各スターターの保存は冷却保存が基本であり、殺菌したバルク液の劣化を防ぐために低温で保存しておき、使用時に培養温度に加温した後、培養するといった作業が非常に重要なことであった。バルクスターター用のタンク液を常温で保存や輸送することは、殺菌時の残存菌の生育や環境汚染菌の生育により、乳酸菌が目的通り増殖しないといったトラブルが生じるので実施されていない。
【0007】
液体醗酵培地中に凍結乾燥スターター液を連続的に投与するための装置の技術(特許文献1)が開示されている。この中に濃縮培養液を利用する方法が記載されているが、この技術においても常温で保存や輸送が可能であることは記載されていない。むしろ、濃縮培養液の冷凍を解凍するタンク等複雑な設備を要している。
【0008】
また、BOD成分を含む排水の処理を行うのに利用する有胞子細菌を、胞子の増殖と発芽寸前の状態で曝気槽等に供給するが、菌を汚泥塊やペレット状にして使用し、微量のグルコースやスキムミルク、スターチ等を添加する技術(特許文献2)が開示され、この菌で無臭の排水処理を確立したとしている。しかし、この技術は雑多な有胞子菌の汚泥塊やそのペレット化したものを直接排水処理槽に投入する方式であり、濃縮培地に関連した技術は示されていない。
【0009】
【非特許文献1】ヨーグルト 実業図書株式会社 156−179頁
【特許文献1】特表2008−506410
【特許文献2】特開2004−344886
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
醗酵製品を製造するためには、シードカルチャーを衛生的に接種してマザースターターを製造し、これを植えてバルクスターターを製造して本培養を行うのが基本である。液体培地の製造には培養成分の計量、混合、溶解、殺菌、冷却等の複雑な工程があり、種々の工程での衛生管理が必須であった。また、植え継ぐ間で時間的間隔がある場合には、冷蔵保存が必要であった。
【0011】
培養した菌の利用が有益であると思われるものの高価であり、自家培養すれば安価になるが実際には排水処理場、畜舎(牛舎、豚舎、鶏舎)、生ごみ廃棄施設、バイオ農薬を使用する農場では、液体培地を製造する設備が整っていない場合がほとんどであり実施できていない。この様に有用な菌を利用現場で培養することは困難な問題があり、また、スターターを冷蔵や冷凍で保管する設備がなくて、取り扱うことも困難であった。
【0012】
この課題を解決するために、液体培地の製造設備がない有用菌の使用現場で、必要な時に必要な菌の増殖ができる方法が求められ、常温輸送や保管ができ使用現場で容易に増殖できる液体培地やその簡易な培養方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の濃縮培地は、静菌剤を加えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2の濃縮培地は静菌剤とスターター菌を加えたことを特徴とする。
【0015】
請求項3のスターターは、静菌剤を加えたことを特徴とする。
【0016】
請求項4の濃縮培地及びスターターは、加える静菌剤がアルコール類、酸、塩類の1種以上から成る。
【0017】
請求項5のスターターは、有胞子細菌又は/及び有胞子酵母から成る。
【0018】
請求項6の濃縮培地又はスターターは、静菌剤を含有せしめた平板培地を利用して、スターター菌に適する静菌剤の種類、含有量および加水量を決定する方法から成る。
【0019】
請求項7に記載の濃縮培地及びスターターの製造方法と微生物の増殖法から成る。
【発明の効果】
【0020】
本発明の濃縮培地は、利用すべき菌に適した栄養分を通常量より高濃度に含有せしめ、溶解、殺菌して濃縮培地を製造し、冷却した後に静菌剤であるアルコール類、酸類、塩類の1種以上を加えたものである。また、スターター入り濃縮培地は、これにスターターを加えたものである。静菌剤を加えた濃縮培地は、常温で輸送や保存しても環境からの汚染菌などの幅広い雑菌の汚染に対して十分に抑制するものであった。
【0021】
本発明の使用する静菌剤の種類の選別と添加量の設定法は、使用するスターター菌を抑制するのに高い濃度の種類を使用することと、生育を抑制しない最大静菌剤量の確認法から成り立っている。しかし、このままではスターターとして加えた有用菌も増殖しないので、適切に管理した培養成分濃度や静菌剤濃度に対応した水量を加えることで、培養液の成分の適正化や静菌剤の希釈濃度の適正化ができた。この方法により、清水を加えた後に生育温度に保温し、好気性又は嫌気性の条件にして攪拌するだけで加えられたスターター菌が増殖できた。
【0022】
本発明により、微生物管理の優れた製造設備のある施設で濃縮培地を製造した後、選別した適切な静菌剤を定量加えたことで、常温での輸送、保存ができて、培養器と保温設備があれば、適切量の加水により非常に簡便に培養菌液が必要な場所で必要な時に必要な量を製造でき、排水処理や畜舎の環境改善や農場でのバイオ農薬を有効で安価に利用できるようになった。また、食品添加物を用いることで食品にも利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の静菌剤を加えたことで、常温輸送や保存が可能な濃縮培地又はスターターやスターター入り濃縮培地及びその製造方法と使用法について説明し、静菌剤の設定法についても説明する。
【0024】
本発明の静菌剤入り濃縮培地は、利用すべき菌に適した栄養分を通常量より高濃度に含有させ、溶解して殺菌した後冷却し、これに静菌剤であるアルコール類、酸類、塩類の1種以上を加えたものである。また、スターター入り濃縮培地は、培養すべき菌に適した栄養分を通常量より高濃度に計量し、溶解して殺菌した後冷却し、これに静菌剤であるアルコール類、酸類、塩類の1種以上を加え、スターターを加えたものである。また、静菌剤を加えたスターターとは、シードカルチャーを培養したスターターに静菌剤であるアルコール類、酸類、塩類の1種以上を加えたものである。
【0025】
本発明の濃縮培地に適する静菌剤の種類と添加する量は、静菌剤の含有する種類と量の異なる平板培地を作成して、スターター菌に適する静菌剤の種類及び含有量を決定する。すなわち、この添加するスターター菌の静菌剤に対する抑制作用の強い静菌剤の種類を選定し、生育する静菌剤の最高含有量から、希釈する水の量を設定する。菌の培養法は培地の濃縮度合いと静菌剤の含有量を考慮して清水を加えた後、スターター菌の生育条件(好気性、嫌気性等)に設定し、保温、攪拌することで容易に目的の有用菌を増殖することができる。
【0026】
本発明の濃縮培地とは、既知の培地成分でよく、例えば乳酸菌桿菌であればMRS培地、酵母であればサブロー培地、その他一般的な菌に使用できる標準寒天(SPC)培地の寒天を除いた成分を通常濃度の5倍から500倍ほどに計測し、水にて溶解させた培地を加熱殺菌した後に冷却し、静菌剤であるアルコール類(例えばエチルアルコール)、酸類(例えば酢酸)、塩類(例えば食塩)の1種以上を適量加えたものであり、このことにより常温流通及び保存が可能な濃縮培地となる。本発明の濃縮培地は液体が好適であるが、ゲル状、ゾル状でもよい。
【0027】
本発明の静菌剤とスターター入り濃縮培地は、先に記載した濃縮培地にシードカルチャーを培養したスターターを加えたものである。本発明では、スターターとはシードカルチャーを培養したものであり、マザースターターともいい、これを培養したものがバルクスターターであるが、これ以上培養しない場合はバルク培養物という。尚、スターター菌とはスターターに含まれているシードカルチャーをいう。本発明の静菌剤とスターター入り濃縮培地は、バルクスターターやバルク培養物を培養する培地に好適であるが他の培養物に利用しても良い。本発明の静菌剤とスターター菌入り濃縮培地は液体が好適であるが、ゲル状、ゾル状でもよい。
【0028】
静菌とは微生物は生きているが増殖できない状態をいい、ある種の物質は微生物に静菌的に働き、このような場合、その物質を取り除かれたり希釈されると微生物は増殖性を回復することをいう。また、静菌効果のある物質は、砂糖、アルコール、食塩、酸、防腐剤、殺菌剤、抗生物質等が知られている。本発明における静菌剤とは、食品として人が飲食でき、異常量を摂取しない限り安全である物質が好適である。また、その物質を添加することで菌が生きているが増殖できない状態若しくは殺菌効果を示すが、適宜希釈することで、加えた微生物が生育するものをいう。
【0029】
本発明の静菌剤は、アルコール類、酸、食塩の1種以上から成ることを特徴とするが、濃縮培地として汚染菌の生育を抑制し、常温で流通や保存を可能とする濃度が好ましく、また、水にて希釈することで加えた菌が生育する濃度が重要である。糖分も静菌剤として利用可能であるが、生育栄養成分として希釈後のスターター菌の生育適正濃度を保つ濃度を重視した。なお、本発明で使用する水は清水とし、水道水基準で含有微生物が100個/ml以下であり、殺菌又は滅菌水や膜による除菌水であれば好適である。
【0030】
本濃縮培地又はスターターに加える静菌剤は、静菌剤を含有せしめた平板培地を利用して、スターター菌に適する静菌剤の種類、含有量および加水量を決定した。スターターに使用する菌は、静菌剤に対する生育制御濃度がそれぞれ異なることから、まず、スターター菌が生育する培地を選択し、この培地に各種静菌剤を0〜30%含有させた平板培地を作成し、画線培養を行ってより高い濃度で制御される静菌剤を選定する。同様に、この高濃度で制御された静菌剤を0.01%〜16%の低い濃度で含有せしめた平板培地で生育上限濃度を選定する。この操作で、加えるべき静菌剤はより高い濃度を示した種類を選定し、最も高い生育濃度まで加水すれば生育が可能となる。当然、2番手、3番手の静菌剤も利用することができるが、希釈水量が多くなる。
【0031】
アルコール類として、エチルアルコール70%水溶液が殺菌剤として広く使われているが、これは細胞膜の脂質が溶けて破壊され、タンパク質が溶出され殺菌作用を生じるといわれている。アルコールは炭素数が多いほど殺菌効果が高くなり、炭素数が同じ場合第一級>第二級>第三級の順に効果は低下していく。しかしながら、人に対する安全性と試験例を考慮してエチルアルコールの1%以上70%含有量が有効であるが、実施例1、2にて説明したように、使用スターターの菌種ごとに、また、他の静菌剤の混合割合にて変化するが、一般の汚染菌の静菌にはアルコール類2%〜20%の添加量が好適である。
【0032】
本発明の静菌剤としての酸類は、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸とプロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸等の有機酸の1種以上を使用すればよい。少量で効果のある有機酸の使用が好ましく、酢酸が最も抑制効果があった。多くの細菌類がpH5以下pH2未満で、生育が抑えられるといわれているが、有機酸のpH低下効果以外の殺菌力を考慮して0.1%以上25%以下の含有量が有効であるが、実施例1、2にて説明したように、使用スターターの菌種ごとに、また、他の静菌剤の混合割合にて変化するが、一般の汚染菌の静菌には有機酸の0.01%以上20%以下の添加量が好適である。
【0033】
塩類の添加としては食塩が適当であり、食塩濃度が2%以上20%以下では微生物の生育はほとんど抑えることができる。この抑制機構は浸透圧や塩素イオンなどが示されているが、他の静菌剤との混合割合にて変化するが、食塩の静菌効果は実施例1、2に説明したように、一般の汚染菌の静菌には食塩が2%以上15%以下の添加量が好適である。
【0034】
本発明の静菌剤の種類は、アルコール類、酸類、塩類を記載したが、この3種の静菌剤はそれぞれに高い静菌効果を示す菌が異なっている。従って、実施例にて説明した様に1種より2種を組み合わせた方が静菌スペクトルは広くなり、3種にすれば静菌スペクトルはより広くなる。アルコールにはバチルス菌、乳酸菌、大腸菌は6%以上になると生育できなくなる。1%酢酸などの酸には乳酸菌は強いがバチルス、大腸菌等は増殖できない。食塩も5%程でバチルス菌、大腸菌などが生育できなくなった。また、静菌剤の混合により、実施例2にて説明したように、単独使用よりも含有%が低くなっても静菌効果が多くの菌で認められた。
【0035】
本発明における常温保存及び流通が可能とは、10℃以下の冷蔵温度条件を超えたものであり、35℃以下であることが好ましい。35℃を超える温度になるとアルコールを静菌剤として添加した場合はアルコールの気化が進みやすく、含有量の低下で静菌効果が低下する。他の酸類、塩類のみを使用した場合は、35℃付近の環境に置かれても静菌効果は低下しない。なお、10℃以下の冷蔵においては、3種すべての静菌剤でも静菌抑制に問題はない。
【0036】
本発明では有胞子細菌をスターターとする際には胞子が不活性化する濃度が好ましく、不活性化とは、一般細菌や有胞子細菌の栄養細胞、真菌や有胞子酵母の栄養細胞、放線菌は死滅し、胞子のみ生存している状態をいい、このままでは生育しないが生育条件が好転すれば、急速に胞子から栄養細胞になり増殖する状況をいう。これらに関しては、実施例3にて説明した。
【0037】
本発明に使用する濃縮培地はスターターやシードカルチャーに適した培地や静菌剤の検討をすればあらゆる菌に対応できるものである。従って、細菌、真菌、放線菌の全般に利用できる。好気性菌は保温及び酸素の供給で良く、通性嫌気性菌も同様であるが酸素の供給は必要ない。嫌気性菌の場合は、炭酸ガスや窒素ガスを充填し、保温することで良い。
【0038】
また、静菌剤及びスターター菌が入った濃縮培地液及び、殺菌剤入りスターターは、静菌剤に耐えうるものであればどのような菌でも使用できるが、有胞子細菌、有胞子酵母のシードカルチャーを培養したものがより好適である。有胞子細菌では、バチルス属(Bacillus)に属するサブチルス(B.subtilis)、コアギュランス(B.coagulans)、リッケニホーミス(B.licheniformis)、ポリミキサ(B.polymyxa)、セレウス(B.cereus)、アルビー(B.alvei)、ブレビス(B.brevis)、マセランス(B.macerans)、メガテリウム(B.megaterium)、ステアロサーモフィラス(B.stearothermophilus)、サーキュランス(B.circulans)、フアーマス(B.firmus)、ラテロスポラス(B.laterosporus)スファエリックス(B.sphaericus)、ラーバエ(B.larvae)、ポピリアエ(B.popilliae)、レンティモーバス(B.lentimorbus)またスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)やジオバチルス(Geobacillus)属などを使用することができる。
【0039】
有胞子酵母では、有子嚢胞子酵母でありSaccharomyceteae族に属し、サッカロミセス属(Saccharomyces)に属するセルビシエ(S.cerevisiae)、カールスバーゲンシス(S.carlsbergensis)やピッチア属(Pichia)、デバリマイセス属(Debarymyces)、エンドミコプセアエ族(Endomycopseae)、ネマトスポイデアエ亜科(Nematospoideae)などを使用することができる。
【0040】
本発明のシードカルチャーやスターターに利用できる菌は細菌、真菌、放線菌であり、この菌をまとめて便宜的に菌類又は微生物と称した。また、実施例に使用したバチルス・サブチルス(Bacillu subtilis)JCM1465、バチラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)JCM2258、サッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)JCM7255は独立行政法人・理化学研究所にて、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)ATCC53103はアメリカン・タイプカルチャー・センターにて入手できる。
【0041】
本発明の濃縮培地の製造法は、培養すべきスターターに適した培地成分を選択することができるが、公知のMRS培養液、標準寒天培地やサブロー培地処方を基本として、寒天を除いて液体として、使用目的に合わせた濃縮培地を作成する。例えば、多種の菌を増殖するに使用できる標準寒天培地から寒天を除いて、酵母エキス25g、トリプトン50g、ブドウ糖10gを水915gに溶解させたものが10倍濃縮培地で、酵母エキス100g、トリプトン200g、ブドウ糖40gを水660gに溶解させたものが40倍濃縮培地である。これを65℃〜120℃30分の殺菌を行った。後に冷却し、選択した種類と量の静菌剤を加えて作成することができる。
【0042】
冷却後、この濃縮培地に使用スターターに適した静菌剤であるアルコール類、酸類、塩類から選択した静菌剤を加えるが、例えば乳酸菌であれば実施例1で示した酢酸等の有機酸が適し10%を添加すれば、耐酸性がある真菌類も生育が抑制される。これにエチルアルコールを15%加えることで、他の乳酸菌も生育が抑制される。また、乳酸菌が抑制されない静菌剤の含有量はエチルアルコールで5%、酢酸で10%以下であり、最低濃縮培地と同等以上の清水を加えれば生育可能な濃度となる。
【0043】
本発明のスターターと静菌剤を添加した濃縮培地の製造方法は、先に記載した製造方法に従い静菌剤を添加した濃縮培地を作成し、これにスターターを加えて製造することができ、スターター菌はバチルス・コアギュランス、バチルス・サブチチルス等の有胞子細菌や有胞子酵母が好適である。また、静菌剤を加えたスターターの製造方法は、シードカルチャーを生育に適した培地にて培養してスターターを作り、静菌剤を加えたものである。ここに加えた静菌剤も先の方法で種類と量を選定して加えて製造したものである。シードカルチャーはバチルス・コアギュランス、バチルス・サブチルス等の有胞子細菌や有胞子酵母が好適である。尚、本発明はシードスターターを培養後、遠心や乾燥等で集菌して液体に加えたものもスターターとした。
【0044】
本発明の濃縮培地を用いて目的の菌を培養するには、濃縮培地は培地成分が多量に溶解していることを先に述べたが、スターター菌類の生育適正濃度に希釈して、培養することが生育性にも経済的にも重要である。また、目的の菌が静菌剤に抑制されずに、生育する濃度まで清水を加えて増殖できる条件を保つことも並行的に行う。ここにスターターを添加し、好気性菌は培養器(タンク)が衛生的で保温及び曝気装置を付け攪拌すればよく、通性嫌気性菌は同様な容器(タンク)で曝気装置は不要で低速の攪拌でよく、嫌気性菌は密封された培養器(タンク)で炭酸ガスや窒素ガスを充填し、保温、攪拌することで培養が容易に可能となった。
【0045】
本発明の静菌剤及びスターター入り濃縮培地を使用した培養法は、すでにスターターが添加されているので、前記した濃縮培養液を使用したものと同様、濃縮培地を清水にて適正濃度に希釈し、先の濃縮培地と同様な条件にして、これを生育温度にて保温し、必要であれば攪拌すればよい。静菌剤入りスターターの使用方法は、静菌剤を加えた濃縮培地や通常の培養液に、一般的なスターターと同様に0.1〜5%添加して、好気性又は嫌気性などの条件を整え生育温度にて保温し、必要であれば攪拌すればよい。当然、多量に製造し直接排水処理場などの処理槽に入れて、処理槽で増殖させることもできる。
【0046】
本発明に使用される培養器は、例えば、通常の静菌剤が入っていないスターターの場合は、培養現場に常温輸送された濃縮培地を清水にて希釈後、手作業でスターターを添加するので培養タンクが一つあればよく、好気性又は嫌気性などの条件を整え、菌の生育温度に加温保持して攪拌培養する。非常に簡易な培養装置で有用菌を培養することができる。
【0047】
また、培養を自動化するには、濃縮培地用のサブタンク、殺菌剤の入ったスターターを入れる別のサブタンクを設置し、スターターと濃縮培地と適正希釈量の清水を加えた容量に見合った主培養容器(タンク)を設置すればよく、好気性又は嫌気性などの条件を整え、菌の生育温度に加温保持して攪拌培養するが、この際に、スターター、濃縮培養液、希釈清水の使用容量、培養温度、培養時間等を自動制御すればよい。同様にスターターに静菌剤及び濃縮培地を加えているものは、自動に制御するにはスターター入り濃縮培地を保持するサブタンク1個と主タンク1個で自働制御すればよい。
【0048】
本発明の静菌剤入り濃縮培地、スターター入り静菌剤入り濃縮培地、静菌剤入りスターターは、プラスチックや金属容器に入れて常温で流通や保管や保存ができる。容量は種々の量でよいが、運搬を考慮すれば10ml〜20l程度がよいが、タンクとポンプを使用すれば容量は規定しない。
【0049】
本発明により、微生物管理の優れた製造設備のある施設で、あらかじめ静菌剤を加えた濃縮培地を製造して、これを使用する現地まで常温で輸送し、適切量の水を加え、それぞれの菌の好気性や嫌気性条件に合せた後、生育温度にて培養する簡便な培養法で増殖菌液が製造でき、必要な時に必要な場所で必要な量を使用できることが可能となった。本発明によって、微生物を使用する現場で、容易に大量に培養でき、排水処理場での有機物の処理への利用、畜舎や生ゴミ集積場での防臭への利用、農場でのバイオ農薬への利用が容易に可能となった。また、静菌剤に食品素材を用いることで、より汚染に強い濃縮培地として食品にも利用が期待される。
【0050】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0051】
使用スターター菌に於ける静菌剤の選択
使用するスターター菌により濃縮培地の静菌剤の種類を選択するため、エチルアルコール、酢酸、食塩を用い、それぞれ0、5、10、15、20%の幅でSPC培地に添加して平板を作成した。バチルス・サブチルスJCM1465(S)、ラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103(R)、サッカロミセス・セルビシエJCM7255(Ce)、排水+土壌菌(H)をそれぞれ10〜10cfu/mlに調整し、一白金耳取って画線し30℃又は35℃にて48〜72時間、培養してプレート上の生育を確認した。尚、排水+土壌菌(S)は食品工場の排水処理場の排水3mlと畑の土0.5gを混釈後、上澄み0.1mlを10mlの希釈水に薄めて使用した。
【0052】
結果は表1に示したが、表示濃度の下に各試験菌のイニシャルを記したものが生育することを示した。バチルス・サブチルスは酢酸には非常に弱く、エチルアルコール(エタノール)、食塩に中程度に強いことが分かった。ラクトバチルス・ラムノーサスは酢酸には強く、エチルアルコール、食塩に中程度に強いことが分かった。サッカロミセス・セルビシエはエチルアルコール、食塩に強いことが分かった。比較例として排水+土壌菌を培養したが、全ての静菌剤において10%以内で生育が抑制されコロニーの発生はなかった。
【0053】
【表1】

【実施例2】
【0054】
スターター菌が生育する静菌剤最高含有量の検討
スターター菌が、使用静菌剤の生育可能な濃度を検討した。特殊環境菌を除く菌が2種の静菌剤を加えれば静菌されることが実施例1より判明したので、バチルス・サブチルスはエチルアルコールと食塩、それぞれ0、2、4、6、8%を表2に示した直交座標に従い調整し、SPC培地に加えた平板培地を作成した。ラクトバチルス・ラムノーサスはアルコールの濃度を0、2、4、6、8%と酢酸の濃度0、4、8、12、16%を表3に示した直交座標に従い調整し、SPC培地に加えた平板培地を作成した。サッカロミセス・セルビシエはエチルアルコールと食塩、それぞれ0、4、8、12、16%を表4に示した直交座標に従い調整し、SPC培地に加えた平板培地を作成した。この平板に試験菌の10〜10cfu/gの試験液を白金耳にて画線し、35℃若しくは30℃で48〜72時間培養して、プレート上の生育を確認した。試験菌種は、バチルス・サブチルスJCM1465、サッカロマイセス・セルブシエJCM7255、ラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103と汚染菌(排水+土壌菌)を用いた。
【0055】
実施例1よりバチルス・サブチルスは、エチルアルコール又は食塩で、中程度の濃度で生育が抑制されたことから、これらの静菌剤で生育する濃度と抑制される濃度の検討を行った。表2に示した結果により、エチルアルコール又は食塩は6%以上で生育が抑制され、4%以下で生育した。また、両者を混合した際には、エチルアルコール、食塩含有量が幾分低下した%で生育することが判明した。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例1よりラクトバチルス・ラムノーサスは、酢酸は高濃度でエチルアルコールは中程度の濃度で抑制されることから、これらの静菌剤で生育する濃度と抑制される濃度の検討を行った。表1、3に示した結果により、エチルアルコールは6%以上で生育が抑制され、4%以下で生育したが、酢酸は10%で生育し、12%以上で抑制した。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例1よりサッカロミセス・セルビシエは、食塩、エチルアルコールに高濃度で抑制されることから、これらの静菌剤で生育する濃度と抑制される濃度の検討を行った。表4に示した結果により、エチルアルコール、酢酸ともに16%で生育が抑制され、12%で生育した。
【0060】
【表4】

【実施例3】
【0061】
静菌剤入りスターターの菌数維持の確認
スターターの培地成分は酵母エキストラクト(2.5g)、トリプトン(5g)、ブドウ糖(1g)を水に溶解させて1Lとした。これを三角フラスコに入れ120℃で15分間滅菌した後、培養温度37℃に冷却した。フラスコにバチルス・サブチルスJCM1465を同様に処理した培地にて前培養した培養液を2%添加して、37℃にて24時間培養した。この培養したスターター92部に対しエチルアルコール10部、食塩2部を加え静菌剤入りスターターを作成し、30℃で保存試験をおこなった。胞子の存在に関しては、保存液を希釈して85℃10分間加熱後、SPC培地で定法に従い混釈培養して確認した。
【0062】
保存の結果を表5に記載したが、この結果からエチルアルコール、食塩を静菌剤として加えることで、栄養細胞は死滅するものの胞子(10個レベル)は長期にわたり菌数を保持することを確認した。また、胞子は不活性化しているので常温保存でも、栄養細胞になることはなかった。
【0063】
【表5】

【実施例4】
静菌剤入り濃縮培地の清水希釈後の生育性(比較例を含む)
【0064】
培地(SPC)成分として30倍濃培地を作成するため、ブドウ糖60g、酵母エキストラクト150g、トリプトン300gを水にて溶解して1800gを作成し、120℃20分間滅菌して濃縮培地を作成した。この濃縮培地にエチルアルコール200gを加えて静菌剤入り濃縮培地を2000g作成した。この濃縮培地に除菌水58kgを加えて60kgとした。3つの培養器に分けて20kg培地液を3つ作成し、バチルス・コアギュランスJCM2258、ラクトバチルス・ラムノーサスATCC53103のスターターをそれぞれ2%加えた。また、実施例3に示した静菌剤入りのバチルス・サブチルスJCM1465を2%加えて、35℃に保ち攪拌をして24時間培養した。比較例として静菌剤のエチルアルコールを加えない通常のSPC培養液(寒天抜き)で培養した。
【0065】
表6に示した結果から、静菌剤が存在していても静水にて適正希釈(エチルアルコール濃度0.33%以下)にすれば生育を始め、適正希釈でエチルアルコール(エタノール)及び食塩が無添加な条件と同様に菌数が増殖し、バルク(スターター)培地として適応することが明確になった。
【0066】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
静菌剤を加えたことを特徴とする濃縮培地
【請求項2】
スターターを加えたことを特徴とする請求項1記載の濃縮培地
【請求項3】
静菌剤を加えたことを特徴とするスターター
【請求項4】
静菌剤がアルコール類、酸、塩類の1種以上から成る請求項1、2記載の濃縮培地及び請求項3記載のスターター
【請求項5】
有胞子細菌又は/及び有胞子酵母から成る請求項2に記載の濃縮培地及び請求項3に記載のスターター
【請求項6】
静菌剤を含有せしめた平板培地を利用して、スターター菌に適する静菌剤の種類、含有量および加水量を決定する方法から成る請求項1、2記載の濃縮培地及び請求項3に記載のスターター
【請求項7】
請求項1、2に記載の濃縮培地の製造方法及び請求項3に記載のスターターの製造方法及び微生物の増殖法

【公開番号】特開2010−178728(P2010−178728A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49868(P2009−49868)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(599072297)日之出産業株式会社 (6)
【出願人】(508174344)
【Fターム(参考)】