静電アクチュエータ
【課題】静電エネルギーを効率よく機械的な弾性エネルギーとして蓄積し、その弾性エネルギーによって高効率の機械的な動作を行う静電アクチュエータを提供する。
【解決手段】弾性変形により位置および形状が変化可能な可動電極2と、前記可動電極と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極3と、前記可動電極と前記固定電極との電気的接触を防止するように前記可動電極の移動を制限する移動制限手段4と、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極を前記固定電極方向に変位させる駆動電源9とを有する。前記可動電極は、前記移動制限手段によって移動を制限される移動制限領域2aにおいて、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、前記駆動電源は、前記可動電極に対して前記移動制限手段による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極と前記固定電極との間に印加するものである。
【解決手段】弾性変形により位置および形状が変化可能な可動電極2と、前記可動電極と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極3と、前記可動電極と前記固定電極との電気的接触を防止するように前記可動電極の移動を制限する移動制限手段4と、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極を前記固定電極方向に変位させる駆動電源9とを有する。前記可動電極は、前記移動制限手段によって移動を制限される移動制限領域2aにおいて、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、前記駆動電源は、前記可動電極に対して前記移動制限手段による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極と前記固定電極との間に印加するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極間に印加した電圧による静電力を利用した静電アクチュエータに関し、さらに詳しくは、可動電極等の形状を工夫することにより静電エネルギーを効率よく機械的な弾性エネルギーとして蓄積し、その弾性エネルギーによって高効率の機械的な動作を行う静電アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極間に電圧を印加し、それらの電極間に作用する静電力を利用した静電アクチュエータは、インクジェットプリンタの印字ヘッドやその他の微小ポンプ、微小駆動機構として使用されている。このような静電アクチュエータとしては、下記の特許文献1、特許文献2に記載されたようなものがある。特許文献1には、可動電極と固定電極がともに平行な平板状の電極で構成されたインクジェットの記録ヘッドが記載されている。特許文献2には、可動電極と固定電極がともに平板状の電極で構成され、それらの電極が非平行に配置されたインクジェット記録装置の記録ヘッドが記載されている。
【0003】
このような平板状の電極による静電アクチュエータの動作を説明する。図11は静電アクチュエータを利用したポンプ10の構成を示す断面図である。可動電極2は、周辺部が固定されているが、中央部は弾性変形により上下の変位が可能である。ポンプ10の底部には固定電極3が固定されている。また、固定電極3の上面には絶縁被膜4が形成されており、可動電極2と固定電極3とが電気的に短絡してしまうことを防止している。駆動電源9は断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3とに印加するものである。
【0004】
可動電極2と固定電極3に電圧が印加されていない状態では、可動電極2は実線で示すように固定電極3と平行な状態となっている。可動電極2と固定電極3間に電圧が印加されると、可動電極2は印加電圧による静電引力により固定電極3側に引き寄せられて弾性変形し、二点鎖線で示された位置に移動する。このように、駆動電源9から断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3間に印加することにより、可動電極2は上下方向の矢印で示すように上下方向に振動する。
【0005】
可動電極2が振動することにより、ポンプ10の流体収容室11の容積が変動するため、流体が流入路12から流入し、次いで、流体が流出路13から流出する。なお、流入路12および流出路13には、逆止弁を設けたり、流体抵抗に差を設けたりすることで、流体が矢印で示すように一定方向に駆動されるようになっている。このようにして、静電アクチュエータによりポンプ10の動作が実現されている。
【0006】
図11のような静電アクチュエータにおいては、印加電圧による静電引力により可動電極2が弾性変形し、弾性エネルギーが可動電極2に蓄積される。次に、可動電極2と固定電極3間への電圧印加を停止すれば、可動電極2に蓄積された弾性エネルギーにより、可動電極2を元の位置に戻すような力が作用して、その力によりアクチュエータとしての動作が実現されるのである。すなわち、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーが大きいほど、アクチュエータとしての性能も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−289351号公報
【特許文献2】特許第3432346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11のような静電アクチュエータにおいて、アクチュエータの動作範囲を拡大するために、可動電極2と固定電極3間に印加する電圧を増大させた場合を考える。図12は可動電極2と固定電極3間の電圧を増大させた状態を示す図である。可動電極2はさらに固定電極3側に引き寄せられ、可動電極2の中央部分が固定電極3上面の絶縁被膜4に接触している。この絶縁被膜4は可動電極2の移動を制限する手段(移動制限手段)として機能している。
【0009】
可動電極2において絶縁被膜4との接触によりそれ以上の移動を制限された領域を移動制限領域2aと呼ぶことにする。図12に示すように、移動制限領域2aにおける可動電極2は平坦な形状となっている。この部分の可動電極2の形状は電圧を印加しない時の形状とほぼ同様である。すなわち、可動電極2全体に作用する引っ張り力による弾性変形を除けば、移動制限領域2aでは曲げ変形による形状変化がなくなっている。
【0010】
したがって、この場合、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーは、移動制限領域2aではかえって減少し、その分が可動電極2の周辺部分に集中して蓄積されることになる。このように、従来の静電アクチュエータにおいては、電極間に印加する電圧を増大させても、移動制限領域2aに蓄積される弾性エネルギーは減少してしまい、静電エネルギーを効率よく弾性エネルギーに変換して蓄積できないことが分かる。また、弾性エネルギーは可動電極2の周辺部分に集中して蓄積されることになるので、弾性ひずみもその部分に集中してしまい、可動電極2の強度および耐久性の観点からも問題がある。弾性ひずみの集中する部分で電極の疲労破壊等が発生しやすくなってしまい、静電アクチュエータとしての信頼性が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、可動電極等の形状を工夫することにより静電エネルギーを効率よく機械的な弾性エネルギーとして蓄積し、その弾性エネルギーによって高効率の機械的な動作を行う静電アクチュエータを提供することを目的とする。また、可動電極に蓄積する弾性エネルギーを可動電極全体に分散して蓄積するようにして、疲労破壊等を減少させ、信頼性の高い静電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の静電アクチュエータは、弾性変形により位置および形状が変化可能な可動電極と、前記可動電極と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極と、前記可動電極と前記固定電極との電気的接触を防止するように前記可動電極の移動を制限する移動制限手段と、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極を前記固定電極方向に変位させる駆動電源とを有する。前記可動電極は、前記移動制限手段によって移動を制限される移動制限領域において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、前記駆動電源は、前記可動電極に対して前記移動制限手段による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極と前記固定電極との間に印加するものである。
【0013】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものであることが好ましい。
【0014】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状とすることができる。
【0015】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極および固定電極は、前記駆動電源による電圧印加がないときの前記可動電極と前記固定電極との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状とする。
【0016】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極は、前記可動電極と前記固定電極との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域が連続的に増加する形状であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の静電アクチュエータは、弾性変形により位置および形状が変化可能な可動部材と、前記可動部材に一体的に設けられた可動電極と、前記可動部材と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極と、前記可動電極と前記固定電極との電気的接触を防止するように前記可動部材の移動を制限する移動制限手段と、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極を前記固定電極方向に変位させる駆動電源とを有する。前記可動部材は、前記移動制限手段によって移動を制限される移動制限領域において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、前記駆動電源は、前記可動部材に対して前記移動制限手段による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極と前記固定電極との間に印加するものである。
【0018】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものであることが好ましい。
【0019】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状とすることができる。
【0020】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材および固定電極は、前記駆動電源による電圧印加がないときの前記可動部材と前記固定電極との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状とする。
【0021】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材は、前記可動電極と前記固定電極との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域が連続的に増加する形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0023】
静電アクチュエータの可動電極または可動部材の移動制限領域に弾性的な曲げ変形を生じさせて弾性エネルギーを蓄積することにより、弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させることができる。そして、静電アクチュエータの動作効率や性能を向上させることができる。また、可動電極または可動部材の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0024】
印加する電圧が増大するにつれて可動電極または可動部材の移動制限領域が連続的に増加するものでは、静電アクチュエータの動作量を印加電圧によって容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の静電アクチュエータを利用したポンプ1の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の静電アクチュエータの動作を示す図である。
【図3】図3は、本発明の他の形態の静電アクチュエータを利用したポンプ1aの構成を示す断面図である。
【図4】図4は、他の形態の静電アクチュエータの動作を示す図である。
【図5】図5は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図9】図9は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図10】図10は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図11】図11は、従来の静電アクチュエータを利用したポンプ10の構成を示す断面図である。
【図12】図12は、従来の静電アクチュエータの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の静電アクチュエータを利用したポンプ1の構成を示す断面図である。可動電極2は、周辺部がポンプ1の本体に固定されているが、中央部は弾性変形により上下の変位が可能である。ポンプ1の底部には固定電極3が固定されている。また、固定電極3の上面には絶縁被膜4が形成されており、可動電極2と固定電極3とが電気的に短絡してしまうことを防止している。可動電極2は下方向に変位しても、絶縁被膜4に接触するとそれ以上は変位できない。このように、絶縁被膜4は可動電極2の移動を制限する移動制限手段として機能する。
【0027】
可動電極2は、外力が作用しない状態で、図示のような断面形状となるように形成されている。すなわち、上面は平面形状であるが、下面は凹面となるような曲面形状に形成されている。したがって、可動電極2の周辺部の厚さは中央部の厚さよりも大きくなっている。また、固定電極3の上面は平面形状であるので、可動電極2と固定電極3の両電極間の距離も一定ではない。可動電極2の周辺部における両電極間の距離は、中央部における両電極間の距離よりも小さくなっている。
【0028】
駆動電源9は断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3との間に印加するものである。可動電極2と固定電極3間に電圧が印加されていない状態では、可動電極2に静電引力は働かず、可動電極2は図1に示すような状態となっている。可動電極2と固定電極3間に電圧が印加されると、可動電極2は印加電圧による静電引力により固定電極3側に引き寄せられ弾性変形して変位する。このように、駆動電源9から断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3間に印加することにより、可動電極2は上下方向の矢印で示すように上下方向に振動する。
【0029】
なお、駆動電源9が電極間に印加する電圧は、断続的な直流電圧には限らず、極性が交互に変化する交流電圧であってもよい。可動電極2と固定電極3は、電極間に電圧が印加されるとその極性には無関係に電極間に静電引力が作用する。したがって、電極間に交流電圧を印加することによっても可動電極2を振動させることができる。
【0030】
可動電極2が振動することにより、ポンプ1の流体収容室11の容積が変動するため、流体が流入路12から流入し、次いで、流体が流出路13から流出する。なお、流入路12および流出路13には、逆止弁を設けたり、流体抵抗に差を設けたりすることで、流体が矢印で示すように一定方向に駆動されるようになっている。このようにして、静電アクチュエータによるポンプ1が実現できる。
【0031】
図1のような静電アクチュエータにおいては、印加電圧による静電引力により可動電極2が弾性変形し、弾性エネルギーが可動電極2に蓄積される。次に、可動電極2と固定電極3間への電圧印加を停止すれば、可動電極2に蓄積された弾性エネルギーにより、可動電極2を元の位置に戻すような力が作用して、その力によりアクチュエータとしての動作が実現されている。一般的に、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーが大きいほど、アクチュエータとしての性能も向上する。
【0032】
この静電アクチュエータにおいて、アクチュエータの動作範囲を拡大するために、可動電極2と固定電極3間に印加する電圧を増大させた場合を説明する。図2は可動電極2と固定電極3間の電圧を増大させた状態を示す図である。可動電極2は固定電極3側に引き寄せられ、可動電極2の中央部分が固定電極3上面の絶縁被膜4に接触している。この絶縁被膜4は可動電極2の移動を制限する手段(移動制限手段)として機能している。
【0033】
可動電極2において絶縁被膜4との接触によりそれ以上の移動を制限された領域を移動制限領域2aと呼ぶことにする。図2に示すように、移動制限領域2aにおける可動電極2の下面は平面形状となっている。静電引力が作用しないときの可動電極2の形状は、上面が平面、下面が凹面であったので、移動制限領域2aにおける可動電極2は弾性的な曲げ変形を受けている。すなわち、可動電極2全体に作用する引っ張り力による弾性変形に加えて、移動制限領域2aでは曲げ変形による形状変化が生じている。
【0034】
したがって、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーは、移動制限領域2aにおいても曲げ変形による弾性エネルギーが蓄積されることになる。このように、本発明の静電アクチュエータにおいては、可動電極2の移動制限領域2aにおいても曲げ変形による弾性エネルギーが蓄積されるため、弾性エネルギーを可動電極2の広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積可能な弾性エネルギーを増大させることができる。また、可動電極2の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0035】
なお、この実施の形態においては、絶縁被膜4を固定電極3の上面に設けるようにしているが、必ずしもこのような構成とする必要はなく、絶縁被膜4を可動電極2の下面に設けるようにしてもよい。または、絶縁被膜4を固定電極3の上面と可動電極2の下面の両方に設けてもよい。
【0036】
次に、本発明の他の形態の静電アクチュエータについて説明する。図3は、本発明の他の形態の静電アクチュエータを利用したポンプ1aの構成を示す断面図である。図1の静電アクチュエータでは可動電極2自体に弾性エネルギーを蓄積するようにしていたが、図3の静電アクチュエータは、可動電極2および可動部材21とを一体的に設け、これらの可動電極2および可動部材21に弾性エネルギーを蓄積するようにしたものである。
【0037】
可動電極2は薄板平板状の金属板であり、可動部材21の上面に一体的に固定されている。可動部材21は電気絶縁性の弾性材料からなっている。この場合、可動部材21自体が可動電極2の移動を制限する移動制限手段として機能する。この可動電極2および可動部材21は、周辺部がポンプ1aの本体に固定されているが、中央部は弾性変形により上下の変位が可能である。ポンプ1aの底部には固定電極3が固定されている。
【0038】
可動部材21は、静電引力が作用しない状態で、図示のような断面形状となるように形成されている。すなわち、上面は平面形状であるが、下面は凹面となるような曲面形状に形成されている。したがって、可動部材21の周辺部の厚さは中央部の厚さよりも大きくなっている。また、固定電極3の上面は平面形状であるので、可動部材21と固定電極3の両部材間の距離も一定ではない。可動部材21の周辺部における両部材間の距離は、中央部における両部材間の距離よりも小さくなっている。
【0039】
ポンプ1aの動作すなわち静電アクチュエータの動作は、図1のポンプ1と同様であるため説明を省略する。アクチュエータの動作範囲を拡大するために、可動電極2と固定電極3間に印加する電圧を増大させた場合は、図4に示されている。可動電極2および可動部材21は固定電極3側に引き寄せられ、可動部材21の中央部分が固定電極3の上面に接触している。
【0040】
移動制限領域2aにおける可動部材21の下面は平面形状となっている。静電引力が作用しないときの可動部材21の形状は、上面が平面、下面が凹面であったので、移動制限領域2aにおける可動部材21は弾性的な曲げ変形を受けている。すなわち、可動部材21全体に作用する引っ張り力による弾性変形に加えて、移動制限領域2aでは曲げ変形による形状変化が生じている。
【0041】
したがって、この形態の静電アクチュエータにおいても、可動電極2および可動部材21に蓄積される弾性エネルギーは、可動電極2および可動部材21の広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積可能な弾性エネルギーを増大させることができる。また、可動部材21の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0042】
次に、可動電極2、可動部材21、固定電極3の種々の変形例について説明する。図5に示すポンプ1bの静電アクチュエータは、図3の静電アクチュエータと類似した構成である。可動電極2と可動部材21とが一体的に設けられているが、可動電極2は可動部材21の上面ではなく下面に設けられている。また、固定電極3の上面には絶縁被膜4が形成されている。
【0043】
図6に示すポンプ1cの静電アクチュエータは、可動電極2の形状が図1の静電アクチュエータとは異なっている。静電引力が作用しない状態の可動電極2は、上面は平面形状であり、下面が凸面となるような曲面形状に形成されている。したがって、可動電極2の周辺部の厚さは中央部の厚さよりも小さくなっている。また、固定電極3の上面は平面形状であるので、可動電極2の周辺部における電極間の距離は、中央部における電極間の距離よりも大きくなっている。
【0044】
図7に示すポンプ1dの静電アクチュエータは、可動電極2の下面形状が曲面であると同時に、固定電極3の上面形状も曲面としたものである。可動電極2の下面を凸面となるような曲面形状とし、固定電極3の上面も凸面となるような曲面形状とした。図8に示すポンプ1eの静電アクチュエータは、可動電極2を従来のような平板状としたものである。その代わり、固定電極3の上面形状を凸面となるような曲面形状とした。
【0045】
図9に示すポンプ1fの静電アクチュエータは、可動電極2の上面形状は平面であるが、下面形状が複数の凹凸部を有する曲面となっているものである。図10に示すポンプ1gの静電アクチュエータは、可動電極2の上面形状および下面形状が複数の凹凸部を有する曲面となっている。すなわち可動電極2は波板状となっている。図9または図10に示すように凹凸部の数を増やすことにより、可動電極2における曲げ変形による弾性エネルギーの蓄積量が増大する。
【0046】
図5から図10に示す変形例においても、移動制限領域における可動電極2および可動部材21は弾性的な曲げ変形を受けて、曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する。それにより弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させることができる。なお、図6から図10に示す変形例は、可動電極2自体に弾性エネルギーを蓄積するものであるが、図3または図5のように可動部材21を可動電極2と一体的に設けて、可動電極2および可動部材21に弾性エネルギーを蓄積するようにしてもよい。
【0047】
以上の実施の形態および変形例に示すように、可動電極2または可動部材21の形状と、固定電極3の形状は種々の形態が可能である。可動電極2または可動部材21が移動制限領域において弾性的な曲げ変形を受けることが重要である。したがって、静電引力が作用しない状態での可動電極2または可動部材21の下面形状と、固定電極3の上面形状とは互いに異なる形状である。また、可動電極2または可動部材21の下面と固定電極3の上面との間の距離は一定ではなく位置によって異なるものとなる。
【0048】
以上のように、本発明の静電アクチュエータでは、可動電極2または可動部材21の移動制限領域に弾性的な曲げ変形を生じさせて弾性エネルギーを蓄積することにより、弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させることができる。そして、静電アクチュエータの動作効率や性能を向上させることができる。また、可動電極2または可動部材21の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0049】
さらに、可動電極2または可動部材21の形状は、両電極間に印加する電圧を徐々に増大させた場合に、印加する電圧が増大するにつれての移動制限領域2aが連続的に増加するような形状となっている。したがって、静電アクチュエータの動作量(例えば、ポンプの容量)を印加電圧によって容易に制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の静電アクチュエータにより、弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させて、静電アクチュエータの動作効率や性能を向上させることができる。また、静電アクチュエータの可動電極または可動部材の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1,1a ポンプ
2 可動電極
2a 移動制限領域
3 固定電極
4 絶縁被膜
9 駆動電源
10 ポンプ
11 流体収容室
12 流入路
13 流出路
21 可動部材
【技術分野】
【0001】
本発明は電極間に印加した電圧による静電力を利用した静電アクチュエータに関し、さらに詳しくは、可動電極等の形状を工夫することにより静電エネルギーを効率よく機械的な弾性エネルギーとして蓄積し、その弾性エネルギーによって高効率の機械的な動作を行う静電アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極間に電圧を印加し、それらの電極間に作用する静電力を利用した静電アクチュエータは、インクジェットプリンタの印字ヘッドやその他の微小ポンプ、微小駆動機構として使用されている。このような静電アクチュエータとしては、下記の特許文献1、特許文献2に記載されたようなものがある。特許文献1には、可動電極と固定電極がともに平行な平板状の電極で構成されたインクジェットの記録ヘッドが記載されている。特許文献2には、可動電極と固定電極がともに平板状の電極で構成され、それらの電極が非平行に配置されたインクジェット記録装置の記録ヘッドが記載されている。
【0003】
このような平板状の電極による静電アクチュエータの動作を説明する。図11は静電アクチュエータを利用したポンプ10の構成を示す断面図である。可動電極2は、周辺部が固定されているが、中央部は弾性変形により上下の変位が可能である。ポンプ10の底部には固定電極3が固定されている。また、固定電極3の上面には絶縁被膜4が形成されており、可動電極2と固定電極3とが電気的に短絡してしまうことを防止している。駆動電源9は断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3とに印加するものである。
【0004】
可動電極2と固定電極3に電圧が印加されていない状態では、可動電極2は実線で示すように固定電極3と平行な状態となっている。可動電極2と固定電極3間に電圧が印加されると、可動電極2は印加電圧による静電引力により固定電極3側に引き寄せられて弾性変形し、二点鎖線で示された位置に移動する。このように、駆動電源9から断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3間に印加することにより、可動電極2は上下方向の矢印で示すように上下方向に振動する。
【0005】
可動電極2が振動することにより、ポンプ10の流体収容室11の容積が変動するため、流体が流入路12から流入し、次いで、流体が流出路13から流出する。なお、流入路12および流出路13には、逆止弁を設けたり、流体抵抗に差を設けたりすることで、流体が矢印で示すように一定方向に駆動されるようになっている。このようにして、静電アクチュエータによりポンプ10の動作が実現されている。
【0006】
図11のような静電アクチュエータにおいては、印加電圧による静電引力により可動電極2が弾性変形し、弾性エネルギーが可動電極2に蓄積される。次に、可動電極2と固定電極3間への電圧印加を停止すれば、可動電極2に蓄積された弾性エネルギーにより、可動電極2を元の位置に戻すような力が作用して、その力によりアクチュエータとしての動作が実現されるのである。すなわち、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーが大きいほど、アクチュエータとしての性能も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−289351号公報
【特許文献2】特許第3432346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11のような静電アクチュエータにおいて、アクチュエータの動作範囲を拡大するために、可動電極2と固定電極3間に印加する電圧を増大させた場合を考える。図12は可動電極2と固定電極3間の電圧を増大させた状態を示す図である。可動電極2はさらに固定電極3側に引き寄せられ、可動電極2の中央部分が固定電極3上面の絶縁被膜4に接触している。この絶縁被膜4は可動電極2の移動を制限する手段(移動制限手段)として機能している。
【0009】
可動電極2において絶縁被膜4との接触によりそれ以上の移動を制限された領域を移動制限領域2aと呼ぶことにする。図12に示すように、移動制限領域2aにおける可動電極2は平坦な形状となっている。この部分の可動電極2の形状は電圧を印加しない時の形状とほぼ同様である。すなわち、可動電極2全体に作用する引っ張り力による弾性変形を除けば、移動制限領域2aでは曲げ変形による形状変化がなくなっている。
【0010】
したがって、この場合、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーは、移動制限領域2aではかえって減少し、その分が可動電極2の周辺部分に集中して蓄積されることになる。このように、従来の静電アクチュエータにおいては、電極間に印加する電圧を増大させても、移動制限領域2aに蓄積される弾性エネルギーは減少してしまい、静電エネルギーを効率よく弾性エネルギーに変換して蓄積できないことが分かる。また、弾性エネルギーは可動電極2の周辺部分に集中して蓄積されることになるので、弾性ひずみもその部分に集中してしまい、可動電極2の強度および耐久性の観点からも問題がある。弾性ひずみの集中する部分で電極の疲労破壊等が発生しやすくなってしまい、静電アクチュエータとしての信頼性が低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、可動電極等の形状を工夫することにより静電エネルギーを効率よく機械的な弾性エネルギーとして蓄積し、その弾性エネルギーによって高効率の機械的な動作を行う静電アクチュエータを提供することを目的とする。また、可動電極に蓄積する弾性エネルギーを可動電極全体に分散して蓄積するようにして、疲労破壊等を減少させ、信頼性の高い静電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の静電アクチュエータは、弾性変形により位置および形状が変化可能な可動電極と、前記可動電極と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極と、前記可動電極と前記固定電極との電気的接触を防止するように前記可動電極の移動を制限する移動制限手段と、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極を前記固定電極方向に変位させる駆動電源とを有する。前記可動電極は、前記移動制限手段によって移動を制限される移動制限領域において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、前記駆動電源は、前記可動電極に対して前記移動制限手段による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極と前記固定電極との間に印加するものである。
【0013】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものであることが好ましい。
【0014】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状とすることができる。
【0015】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極および固定電極は、前記駆動電源による電圧印加がないときの前記可動電極と前記固定電極との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状とする。
【0016】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動電極は、前記可動電極と前記固定電極との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域が連続的に増加する形状であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の静電アクチュエータは、弾性変形により位置および形状が変化可能な可動部材と、前記可動部材に一体的に設けられた可動電極と、前記可動部材と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極と、前記可動電極と前記固定電極との電気的接触を防止するように前記可動部材の移動を制限する移動制限手段と、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極を前記固定電極方向に変位させる駆動電源とを有する。前記可動部材は、前記移動制限手段によって移動を制限される移動制限領域において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、前記駆動電源は、前記可動部材に対して前記移動制限手段による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極と前記固定電極との間に印加するものである。
【0018】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものであることが好ましい。
【0019】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状とすることができる。
【0020】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材および固定電極は、前記駆動電源による電圧印加がないときの前記可動部材と前記固定電極との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状とする。
【0021】
また、上記の静電アクチュエータにおいて、前記可動部材は、前記可動電極と前記固定電極との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域が連続的に増加する形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0023】
静電アクチュエータの可動電極または可動部材の移動制限領域に弾性的な曲げ変形を生じさせて弾性エネルギーを蓄積することにより、弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させることができる。そして、静電アクチュエータの動作効率や性能を向上させることができる。また、可動電極または可動部材の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0024】
印加する電圧が増大するにつれて可動電極または可動部材の移動制限領域が連続的に増加するものでは、静電アクチュエータの動作量を印加電圧によって容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の静電アクチュエータを利用したポンプ1の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の静電アクチュエータの動作を示す図である。
【図3】図3は、本発明の他の形態の静電アクチュエータを利用したポンプ1aの構成を示す断面図である。
【図4】図4は、他の形態の静電アクチュエータの動作を示す図である。
【図5】図5は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図9】図9は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図10】図10は、本発明の静電アクチュエータの変形例を示す図である。
【図11】図11は、従来の静電アクチュエータを利用したポンプ10の構成を示す断面図である。
【図12】図12は、従来の静電アクチュエータの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の静電アクチュエータを利用したポンプ1の構成を示す断面図である。可動電極2は、周辺部がポンプ1の本体に固定されているが、中央部は弾性変形により上下の変位が可能である。ポンプ1の底部には固定電極3が固定されている。また、固定電極3の上面には絶縁被膜4が形成されており、可動電極2と固定電極3とが電気的に短絡してしまうことを防止している。可動電極2は下方向に変位しても、絶縁被膜4に接触するとそれ以上は変位できない。このように、絶縁被膜4は可動電極2の移動を制限する移動制限手段として機能する。
【0027】
可動電極2は、外力が作用しない状態で、図示のような断面形状となるように形成されている。すなわち、上面は平面形状であるが、下面は凹面となるような曲面形状に形成されている。したがって、可動電極2の周辺部の厚さは中央部の厚さよりも大きくなっている。また、固定電極3の上面は平面形状であるので、可動電極2と固定電極3の両電極間の距離も一定ではない。可動電極2の周辺部における両電極間の距離は、中央部における両電極間の距離よりも小さくなっている。
【0028】
駆動電源9は断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3との間に印加するものである。可動電極2と固定電極3間に電圧が印加されていない状態では、可動電極2に静電引力は働かず、可動電極2は図1に示すような状態となっている。可動電極2と固定電極3間に電圧が印加されると、可動電極2は印加電圧による静電引力により固定電極3側に引き寄せられ弾性変形して変位する。このように、駆動電源9から断続的な直流電圧を可動電極2と固定電極3間に印加することにより、可動電極2は上下方向の矢印で示すように上下方向に振動する。
【0029】
なお、駆動電源9が電極間に印加する電圧は、断続的な直流電圧には限らず、極性が交互に変化する交流電圧であってもよい。可動電極2と固定電極3は、電極間に電圧が印加されるとその極性には無関係に電極間に静電引力が作用する。したがって、電極間に交流電圧を印加することによっても可動電極2を振動させることができる。
【0030】
可動電極2が振動することにより、ポンプ1の流体収容室11の容積が変動するため、流体が流入路12から流入し、次いで、流体が流出路13から流出する。なお、流入路12および流出路13には、逆止弁を設けたり、流体抵抗に差を設けたりすることで、流体が矢印で示すように一定方向に駆動されるようになっている。このようにして、静電アクチュエータによるポンプ1が実現できる。
【0031】
図1のような静電アクチュエータにおいては、印加電圧による静電引力により可動電極2が弾性変形し、弾性エネルギーが可動電極2に蓄積される。次に、可動電極2と固定電極3間への電圧印加を停止すれば、可動電極2に蓄積された弾性エネルギーにより、可動電極2を元の位置に戻すような力が作用して、その力によりアクチュエータとしての動作が実現されている。一般的に、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーが大きいほど、アクチュエータとしての性能も向上する。
【0032】
この静電アクチュエータにおいて、アクチュエータの動作範囲を拡大するために、可動電極2と固定電極3間に印加する電圧を増大させた場合を説明する。図2は可動電極2と固定電極3間の電圧を増大させた状態を示す図である。可動電極2は固定電極3側に引き寄せられ、可動電極2の中央部分が固定電極3上面の絶縁被膜4に接触している。この絶縁被膜4は可動電極2の移動を制限する手段(移動制限手段)として機能している。
【0033】
可動電極2において絶縁被膜4との接触によりそれ以上の移動を制限された領域を移動制限領域2aと呼ぶことにする。図2に示すように、移動制限領域2aにおける可動電極2の下面は平面形状となっている。静電引力が作用しないときの可動電極2の形状は、上面が平面、下面が凹面であったので、移動制限領域2aにおける可動電極2は弾性的な曲げ変形を受けている。すなわち、可動電極2全体に作用する引っ張り力による弾性変形に加えて、移動制限領域2aでは曲げ変形による形状変化が生じている。
【0034】
したがって、可動電極2に蓄積される弾性エネルギーは、移動制限領域2aにおいても曲げ変形による弾性エネルギーが蓄積されることになる。このように、本発明の静電アクチュエータにおいては、可動電極2の移動制限領域2aにおいても曲げ変形による弾性エネルギーが蓄積されるため、弾性エネルギーを可動電極2の広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積可能な弾性エネルギーを増大させることができる。また、可動電極2の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0035】
なお、この実施の形態においては、絶縁被膜4を固定電極3の上面に設けるようにしているが、必ずしもこのような構成とする必要はなく、絶縁被膜4を可動電極2の下面に設けるようにしてもよい。または、絶縁被膜4を固定電極3の上面と可動電極2の下面の両方に設けてもよい。
【0036】
次に、本発明の他の形態の静電アクチュエータについて説明する。図3は、本発明の他の形態の静電アクチュエータを利用したポンプ1aの構成を示す断面図である。図1の静電アクチュエータでは可動電極2自体に弾性エネルギーを蓄積するようにしていたが、図3の静電アクチュエータは、可動電極2および可動部材21とを一体的に設け、これらの可動電極2および可動部材21に弾性エネルギーを蓄積するようにしたものである。
【0037】
可動電極2は薄板平板状の金属板であり、可動部材21の上面に一体的に固定されている。可動部材21は電気絶縁性の弾性材料からなっている。この場合、可動部材21自体が可動電極2の移動を制限する移動制限手段として機能する。この可動電極2および可動部材21は、周辺部がポンプ1aの本体に固定されているが、中央部は弾性変形により上下の変位が可能である。ポンプ1aの底部には固定電極3が固定されている。
【0038】
可動部材21は、静電引力が作用しない状態で、図示のような断面形状となるように形成されている。すなわち、上面は平面形状であるが、下面は凹面となるような曲面形状に形成されている。したがって、可動部材21の周辺部の厚さは中央部の厚さよりも大きくなっている。また、固定電極3の上面は平面形状であるので、可動部材21と固定電極3の両部材間の距離も一定ではない。可動部材21の周辺部における両部材間の距離は、中央部における両部材間の距離よりも小さくなっている。
【0039】
ポンプ1aの動作すなわち静電アクチュエータの動作は、図1のポンプ1と同様であるため説明を省略する。アクチュエータの動作範囲を拡大するために、可動電極2と固定電極3間に印加する電圧を増大させた場合は、図4に示されている。可動電極2および可動部材21は固定電極3側に引き寄せられ、可動部材21の中央部分が固定電極3の上面に接触している。
【0040】
移動制限領域2aにおける可動部材21の下面は平面形状となっている。静電引力が作用しないときの可動部材21の形状は、上面が平面、下面が凹面であったので、移動制限領域2aにおける可動部材21は弾性的な曲げ変形を受けている。すなわち、可動部材21全体に作用する引っ張り力による弾性変形に加えて、移動制限領域2aでは曲げ変形による形状変化が生じている。
【0041】
したがって、この形態の静電アクチュエータにおいても、可動電極2および可動部材21に蓄積される弾性エネルギーは、可動電極2および可動部材21の広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積可能な弾性エネルギーを増大させることができる。また、可動部材21の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0042】
次に、可動電極2、可動部材21、固定電極3の種々の変形例について説明する。図5に示すポンプ1bの静電アクチュエータは、図3の静電アクチュエータと類似した構成である。可動電極2と可動部材21とが一体的に設けられているが、可動電極2は可動部材21の上面ではなく下面に設けられている。また、固定電極3の上面には絶縁被膜4が形成されている。
【0043】
図6に示すポンプ1cの静電アクチュエータは、可動電極2の形状が図1の静電アクチュエータとは異なっている。静電引力が作用しない状態の可動電極2は、上面は平面形状であり、下面が凸面となるような曲面形状に形成されている。したがって、可動電極2の周辺部の厚さは中央部の厚さよりも小さくなっている。また、固定電極3の上面は平面形状であるので、可動電極2の周辺部における電極間の距離は、中央部における電極間の距離よりも大きくなっている。
【0044】
図7に示すポンプ1dの静電アクチュエータは、可動電極2の下面形状が曲面であると同時に、固定電極3の上面形状も曲面としたものである。可動電極2の下面を凸面となるような曲面形状とし、固定電極3の上面も凸面となるような曲面形状とした。図8に示すポンプ1eの静電アクチュエータは、可動電極2を従来のような平板状としたものである。その代わり、固定電極3の上面形状を凸面となるような曲面形状とした。
【0045】
図9に示すポンプ1fの静電アクチュエータは、可動電極2の上面形状は平面であるが、下面形状が複数の凹凸部を有する曲面となっているものである。図10に示すポンプ1gの静電アクチュエータは、可動電極2の上面形状および下面形状が複数の凹凸部を有する曲面となっている。すなわち可動電極2は波板状となっている。図9または図10に示すように凹凸部の数を増やすことにより、可動電極2における曲げ変形による弾性エネルギーの蓄積量が増大する。
【0046】
図5から図10に示す変形例においても、移動制限領域における可動電極2および可動部材21は弾性的な曲げ変形を受けて、曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する。それにより弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させることができる。なお、図6から図10に示す変形例は、可動電極2自体に弾性エネルギーを蓄積するものであるが、図3または図5のように可動部材21を可動電極2と一体的に設けて、可動電極2および可動部材21に弾性エネルギーを蓄積するようにしてもよい。
【0047】
以上の実施の形態および変形例に示すように、可動電極2または可動部材21の形状と、固定電極3の形状は種々の形態が可能である。可動電極2または可動部材21が移動制限領域において弾性的な曲げ変形を受けることが重要である。したがって、静電引力が作用しない状態での可動電極2または可動部材21の下面形状と、固定電極3の上面形状とは互いに異なる形状である。また、可動電極2または可動部材21の下面と固定電極3の上面との間の距離は一定ではなく位置によって異なるものとなる。
【0048】
以上のように、本発明の静電アクチュエータでは、可動電極2または可動部材21の移動制限領域に弾性的な曲げ変形を生じさせて弾性エネルギーを蓄積することにより、弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させることができる。そして、静電アクチュエータの動作効率や性能を向上させることができる。また、可動電極2または可動部材21の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【0049】
さらに、可動電極2または可動部材21の形状は、両電極間に印加する電圧を徐々に増大させた場合に、印加する電圧が増大するにつれての移動制限領域2aが連続的に増加するような形状となっている。したがって、静電アクチュエータの動作量(例えば、ポンプの容量)を印加電圧によって容易に制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の静電アクチュエータにより、弾性エネルギーを広い領域に分散して蓄積することができ、蓄積する弾性エネルギーを増大させて、静電アクチュエータの動作効率や性能を向上させることができる。また、静電アクチュエータの可動電極または可動部材の疲労破壊等を減少させ、静電アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1,1a ポンプ
2 可動電極
2a 移動制限領域
3 固定電極
4 絶縁被膜
9 駆動電源
10 ポンプ
11 流体収容室
12 流入路
13 流出路
21 可動部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形により位置および形状が変化可能な可動電極(2)と、
前記可動電極(2)と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極(3)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との電気的接触を防止するように前記可動電極(2)の移動を制限する移動制限手段(4)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極(2)を前記固定電極(3)方向に変位させる駆動電源(9)とを有し、
前記可動電極(2)は、前記移動制限手段(4)によって移動を制限される移動制限領域(2a)において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、
前記駆動電源(9)は、前記可動電極(2)に対して前記移動制限手段(4)による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加するものである静電アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものである静電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状である静電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)および固定電極(3)は、前記駆動電源(9)による電圧印加がないときの前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状となっている静電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)は、前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域(2a)が連続的に増加する形状である静電アクチュエータ。
【請求項6】
弾性変形により位置および形状が変化可能な可動部材(21)と、
前記可動部材(21)に一体的に設けられた可動電極(2)と、
前記可動部材(21)と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極(3)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との電気的接触を防止するように前記可動部材(21)の移動を制限する移動制限手段(4,21)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極(2)を前記固定電極(3)方向に変位させる駆動電源(9)とを有し、
前記可動部材(21)は、前記移動制限手段(4,21)によって移動を制限される移動制限領域(2a)において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、
前記駆動電源(9)は、前記可動部材(2)に対して前記移動制限手段(4,21)による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加するものである静電アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものである静電アクチュエータ。
【請求項8】
請求項7に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状である静電アクチュエータ。
【請求項9】
請求項7に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)および固定電極(3)は、前記駆動電源による電圧印加がないときの前記可動部材(21)と前記固定電極(3)との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状となっている静電アクチュエータ。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)は、前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域(2a)が連続的に増加する形状である静電アクチュエータ。
【請求項1】
弾性変形により位置および形状が変化可能な可動電極(2)と、
前記可動電極(2)と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極(3)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との電気的接触を防止するように前記可動電極(2)の移動を制限する移動制限手段(4)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極(2)を前記固定電極(3)方向に変位させる駆動電源(9)とを有し、
前記可動電極(2)は、前記移動制限手段(4)によって移動を制限される移動制限領域(2a)において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、
前記駆動電源(9)は、前記可動電極(2)に対して前記移動制限手段(4)による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加するものである静電アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものである静電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状である静電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)および固定電極(3)は、前記駆動電源(9)による電圧印加がないときの前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状となっている静電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動電極(2)は、前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域(2a)が連続的に増加する形状である静電アクチュエータ。
【請求項6】
弾性変形により位置および形状が変化可能な可動部材(21)と、
前記可動部材(21)に一体的に設けられた可動電極(2)と、
前記可動部材(21)と距離を隔てて固定位置に配置された固定電極(3)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との電気的接触を防止するように前記可動部材(21)の移動を制限する移動制限手段(4,21)と、
前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に電圧を印加し、静電力により前記可動電極(2)を前記固定電極(3)方向に変位させる駆動電源(9)とを有し、
前記可動部材(21)は、前記移動制限手段(4,21)によって移動を制限される移動制限領域(2a)において、弾性的な曲げ変形による弾性エネルギーを蓄積する形状であり、
前記駆動電源(9)は、前記可動部材(2)に対して前記移動制限手段(4,21)による移動制限が開始される電圧より大きな電圧を前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加するものである静電アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)は、周辺部が固定位置に固定されており、弾性変形により中央部近傍が変位可能なものである静電アクチュエータ。
【請求項8】
請求項7に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)は、厚さが一定ではなく位置に応じて異なる形状である静電アクチュエータ。
【請求項9】
請求項7に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)および固定電極(3)は、前記駆動電源による電圧印加がないときの前記可動部材(21)と前記固定電極(3)との間の距離が一定ではなく位置に応じて異なるような形状となっている静電アクチュエータ。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載した静電アクチュエータであって、
前記可動部材(21)は、前記可動電極(2)と前記固定電極(3)との間に印加する電圧が増大するにつれて前記移動制限領域(2a)が連続的に増加する形状である静電アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−115854(P2013−115854A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257356(P2011−257356)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
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