説明

静電チャック、露光装置、及びデバイス製造方法

【課題】クーロンタイプのみならずJ−Rタイプの静電チャックにおいても、吸着力を殆ど低下させることなく、誘電層の脱粒を防止する。
【解決手段】ウエハWを吸着保持する静電チャック22において、ウエハWを吸着するための吸着面32sが形成された絶縁体32と、絶縁体32の吸着面32sに形成され、絶縁体32よりも体積抵抗率の小さい脱粒防止層36と、脱粒防止層36の表面に形成され、脱粒防止層36よりも抵抗の大きい接触抵抗調整層38と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体プロセス装置又は露光装置等において、半導体ウエハ又はマスク等の被吸着物を吸着するために使用される静電チャックに関する。さらに、本発明は、静電チャックを備えた露光装置、及び露光装置を用いるデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光光として波長が100nm程度以下の極端紫外光(以下、EUV(Extreme Ultraviolet)光と呼ぶ。)を使用する露光装置は真空環境下に設置されるため、ウエハ及びレチクルを保持するために静電チャックが使用される。さらに、半導体基板等に対する薄膜形成又はエッチング等を行うCVD装置等においても、被吸着物を保持するために静電チャックが使用されている。
【0003】
静電チャックは、母材と誘電層との間に電極を挟み込んだ構造を有し、被吸着物に接触する誘電層としてセラッミクスが多く用いられている。静電チャックは、電極に電圧を印加した際に生じる静電力の種類によって、誘電層の体積抵抗率が比較的高いクーロンタイプと、誘電層の体積抵抗率がクーロンタイプのそれより数桁低く、誘電体内部に微弱な電流が流れるジャンセン・ラーベックタイプ(以下、J−Rタイプという。)と、に分かれる。
【0004】
かかる静電チャックにおいて、被吸着物が誘電層から離脱する際に、誘電層の一部が被吸着物に付着して離れる現象(いわゆる脱粒)が生じると、発塵によって静電チャックを備える装置が汚染されるとともに、被吸着物に付着した異物が後工程で使用される装置を汚染する。そこで、静電チャックの脱粒を防止するために、誘電層の表面に絶縁膜をコーティングする方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−74233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、脱粒防止のために誘電層の表面に絶縁膜をコーティングする方法は、クーロンタイプの静電チャックには適用可能であるが、J−Rタイプの静電チャックには適用が困難である。J−Rタイプの吸着力は、誘電層の内部抵抗に対して誘電層と被吸着物との間の接触抵抗が大きいほど増大するため、絶縁膜を誘電層上にコーティングすると、誘電層及び絶縁膜よりなる部分の内部抵抗が高くなって、吸着力が極端に減少するためである。
【0007】
一方、誘電層の表面に比較的導電性のある層をコーティングした場合、この層と被吸着物との間の接触抵抗が減少して、静電チャックと被吸着物との間の電位差が低下し、やはり吸着力が大きく減少する。
本発明は、このような事情に鑑み、クーロンタイプのみならずJ−Rタイプの静電チャックにおいても、吸着力を殆ど低下させることなく、誘電層の脱粒を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、被吸着物を吸着保持する静電チャックが提供される。この静電チャックは、その被吸着物を吸着するための吸着面が形成された誘電体と、その誘電体のその吸着面に形成され、その誘電体よりも体積抵抗率の小さい第1のコーティング層と、その第1のコーティング層の表面に形成され、その第1のコーティング層よりも体積抵抗率の大きい第2のコーティング層と、を備えるものである。
【0009】
また、第2の態様によれば、被吸着物を吸着保持する静電チャックが提供される。この静電チャックは、その被吸着物を吸着するための吸着面が形成された誘電体と、その誘電体のその吸着面を露出させるとともに、その誘電層のその吸着面の少なくとも一部が有する凹部を埋めるように充填された充填材と、を備えるものである。
また、第3の態様によれば、露光光で例えばパターンを介して基板を露光する露光装置が提供される。この露光装置は、本発明の静電チャックと、その静電チャックを介してそのパターンが形成されたマスク基板及び/又はその基板を吸着保持してその基板を移動するステージと、を備えるものである。
【0010】
また、第4の態様によれば、本発明の露光装置を用いて物体にパターンを形成することと、そのパターンが形成されたその物体を処理することと、を含むデバイス製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
第1の態様の静電チャックによれば、第1のコーティング層で誘電体の吸着面の脱粒が防止され、第2のコーティング層により、この第2のコーティング層と被吸着物との間の接触抵抗が高く維持される。また、第2の態様の静電チャックによれば、充填材により誘電体の吸着面の脱粒が防止されるとともに、誘電体と被吸着物との間の接触抵抗は高く維持される。従って、クーロンタイプのみならずJ−Rタイプの場合でも、吸着力を殆ど低下させることなく、有効に脱粒防止を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態の露光装置の概略構成を示す図である。
【図2】(A)は第1の実施形態の静電チャック22を示す断面図、(B)は図2(A)の要部の拡大断面図、(C)は第1変形例を示す断面図である。
【図3】(A)は第2変形例の静電チャックを示す平面図、(B)は図3(A)のBB線に沿う断面図である。
【図4】(A)は第2の実施形態の静電チャック22Dを示す断面図、(B)は図4(A)の要部の拡大断面図、(C)は変形例の要部を示す拡大断面図である。
【図5】電子デバイスの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
第1の実施形態につき図1、図2(A)、及び図2(B)を参照して説明する。
図1は、本実施形態の露光装置EXを示す。露光装置EXは、露光光ELとして波長が100nm程度以下のEUV(Extreme Ultraviolet)光を使用するEUV露光装置である。露光光ELとしては、一例として、波長5〜20nm、例えば波長13.5nmの軟X線が用いられる。露光光ELの気体による吸収を防止するため、露光装置EXは不図示の真空チャンバ内に収容されている。また、露光装置EXが備える光学部材は、所定のフィルタ等を除いて、多層膜によってEUV光を反射する反射部材(ミラー等)である。露光装置EXは、後述の投影光学系POを有するため、以下では、投影光学系POの光軸AXに平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内で図1の紙面に垂直な方向にX軸を、その紙面に平行な方向にY軸を取って説明する。
【0014】
露光装置EXは、露光光EL(EUV光)を発生する例えばレーザ励起プラズマ光源よりなる露光光源(不図示)と、その露光光ELを用いてレチクルRのパターン面(レチクル面)のX方向に細長い照明領域14Rを照明する照明光学系ILSと、レチクルRを移動するためのレチクルステージRSTと、レチクルステージRSTに固定されてレチクルRを吸着保持する静電チャック16と、を有する。照明光学系ILSは、オプティカルインテグレータ及び開口絞り等を有する本体部10と、本体部10からの露光光ELをレチクル面に向けて反射集光するミラー12とを有する。レチクルRは、平板状の基板20の表面の多層膜上のパターン領域PA内に、吸収層(例えばニッケルNi又はアルミニウムAl等)によってパターニングを施したものである。また、露光装置EXは、装置全体の動作を統括的に制御するコンピュータよりなる主制御系30と、主制御系30の制御のもとで静電チャック16を駆動する電源部18とを有する。
【0015】
さらに、露光装置EXは、レチクル面で反射された露光光ELにより、ウエハWの表面の露光領域14Wに照明領域14R内のパターンの縮小像を投影する投影光学系POと、ウエハWを移動するウエハステージWSTと、ウエハステージWSTに固定されてウエハWを吸着保持する静電チャック22とを有する。また、露光装置EXは、主制御系30の制御のもとで静電チャック22を駆動する電源部24を有する。投影光学系POは、開口数NAが例えば0.1で、反射光学部材(ミラー)のみから成る反射光学系であり、投影倍率は一例として1/4倍である。投影光学系POは、一例として、6枚のミラーM1〜M6を備えているが、その構成は任意である。ウエハW(基板又は半導体基板)は、例えばシリコン又はSOI(silicon on insulator)等の円形の平板状の基材の表面に、X線フォトレジスト(感光材料)を塗布したものを含む。
【0016】
上記のレチクルステージRSTは、XY平面に沿って配置されたレチクルベース(不図示)に例えば磁気浮上型2次元リニアアクチュエータ等の駆動部(不図示)を介して浮上支持され、Y方向に駆動可能であるとともに、少なくともX方向及びZ軸の回りの傾斜方向(θz方向)にも微小量駆動可能である。レチクルステージRSTの位置は、レーザ干渉計(不図示)によって例えば0.5〜0.1nm程度の分解能で常時検出され、この検出結果に基づいて、主制御系30の制御のもとでステージ制御系26がその駆動部を介してレチクルステージRSTの位置及び速度を制御する。
【0017】
一方、ウエハステージWSTは、XY平面に沿って配置されたウエハベース(不図示)上に例えば磁気浮上型2次元リニアアクチュエータ等の駆動部(不図示)を介して浮上支持され、X方向及びY方向に駆動可能であるとともに、少なくともθz方向にも微小量駆動可能である。ウエハステージWSTの位置は、レーザ干渉計(不図示)によって例えば0.5〜0.1nm程度の分解能で常時検出され、この検出結果に基づいてステージ制御系26がその駆動部を介してウエハステージWSTの位置及び速度を制御する。また、露光装置EXは、レチクルRのアライメントマークの像の位置を計測する空間像計測系(レチクルアライメント系)及びウエハWのアライメントマークの位置を計測するウエハアライメント系を備え、これらのアライメント系の計測結果に基づいてレチクルR及びウエハWのアライメントが行われる。
【0018】
ウエハWの露光時には、ウエハステージWSTを駆動してウエハWの露光対象のショット領域(ダイ)が走査開始位置に移動される(ステップ移動)。その後、照明光学系ILSからの露光光ELのもとで、レチクルRのパターンの一部の投影光学系POによる像でウエハWの当該ショット領域を露光しつつ、レチクルステージRSTを介してレチクルRをY方向(走査方向)に移動する動作と、ウエハステージWSTを介して投影倍率に応じた速度比でウエハWをY方向に移動する動作とを同期して行うことで、ウエハWの当該ショット領域にレチクルRのパターンの像が走査露光される。このようにステップ移動と走査露光とを繰り返すステップ・アンド・スキャン方式で、ウエハWの複数のショット領域に対して順次レチクルRのパターンの像が露光される。
【0019】
次に、本実施形態の静電チャック16,22の構成につき詳細に説明する。静電チャック16,22は互いにほぼ同じ構造であるため、以下では静電チャック22について説明する。
図2(A)は、図1中の静電チャック22でウエハWを吸着保持している状態を示す断面図である。図2(A)において、静電チャック22は、円形の平板状の絶縁体32と、絶縁体32の表面である吸着面32sに近い部分に埋め込まれた箔状又は膜状の1対のプラスの電極34A及びマイナスの電極34Bとを有し、絶縁体32の底面が図1のウエハステージWSTに固定される。また、絶縁体32は、底面側の厚い母材部32aと吸着面32s側の厚さが50〜数100μm程度の薄い誘電層32bとから構成され、母材部32aと誘電層32bとの間に電極34A,34Bが配置されている。また、ウエハWを吸着している期間には、電極34A,34Bには、外部の直流電源24a(図1の電源部24の一部)から例えば数十〜数kVの直流電圧が印加される。
【0020】
母材部32a及び誘電層32bの材料は、一例として酸化アルミニウム(Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si34)、又は炭化珪素(SiC)等のセラミックスである。なお、母材部32aと誘電層32bとで材料が異なっても良い。本実施形態の静電チャック22は双極型のJ−R(ジャンセン・ラーベック)タイプであり、誘電層32bの体積抵抗率をクーロンタイプの誘電層に比べて数桁下げる必要がある。そのため、誘電層32b(絶縁体32)のセラミックスには、酸化クロム及び/又は酸化チタン等の不純物が添加されている。本実施形態の誘電層32b(絶縁体32)の体積抵抗率は、一例として1×108〜1×1013Ω・cmである。なお、クーロンタイプの静電チャックの誘電層の体積抵抗率は、例えば1×1016Ω・cm以上である。さらに、誘電層32bの体積抵抗率による抵抗値に対して、誘電層32b(絶縁体32)とウエハWとを直接に接触させた場合の接触抵抗の値は例えば10倍程度大きく設定されている。
【0021】
また、静電チャック22は、誘電層32bの表面(吸着面32s)に形成された、誘電層32bからの脱粒を防止するための脱粒防止層36と、この脱粒防止層36の表面に形成された接触抵抗調整層38とを有する。
図2(B)の拡大図で示すように、誘電層32bは多数の微小な粒子32cより構成され、誘電層32bの表面(吸着面32s)には、製造工程中の研磨等によってポアと呼ばれる多数の穴32d(開口)が存在している。そこで、脱粒防止層36は、その多数の穴32dを埋めるように形成することが望ましい。脱粒防止層36の材料としては、脱粒防止効果のできるだけ高い材料を使用することが望ましい。このように脱粒防止効果の高い材料は、粒子が誘電層32bの粒子よりも微細で、かつ平滑な表面となる材料である。このように脱粒防止効果の高い材料の体積抵抗率は、誘電層32bよりも小さくなり、例えば数桁小さくなる傾向がある。脱粒防止層36の厚さの制約は厳しくないが、脱粒防止層36の厚さは、例えば数μm〜数百μmであることが望ましい。脱粒防止層36の材料としては、例えば体積抵抗率の小さいDLC(ダイヤモンドライクカーボン)又はアルミニウム等の金属が使用可能である。DLCは、例えばプラズマCVD又はスパッタリング等で誘電層32bの表面に形成可能である。
【0022】
このように脱粒防止層36の体積抵抗率が誘電層32b(絶縁体32)よりも小さい状態で、脱粒防止層36に直接ウエハW(被吸着物)を接触させると、脱粒防止層36とウエハWとの間の接触抵抗が、誘電層32bとウエハWとの間の接触抵抗よりも小さくなる。この場合には、脱粒防止層36とウエハWとの間の電位差が小さくなるため、J−Rタイプの静電チャック22の吸着力が低下する。そこで、ウエハWとの間の接触抵抗を増大させるために、脱粒防止層36の表面に接触抵抗調整層38が形成されている。接触抵抗調整層38の材料は、接触抵抗調整層38とウエハWとの間の接触抵抗が、誘電層32bとウエハWとの間の接触抵抗とほぼ等しくなるように選択することが望ましい。接触抵抗調整層38の材料として、体積抵抗率が誘電層32bとほぼ等しい材料を選択することによって、接触抵抗もほぼ等しくなる場合が多い。本実施形態では、接触抵抗調整層38の体積抵抗率を誘電層32bとほぼ等しくすることで、接触抵抗調整層38とウエハWとの間の接触抵抗を誘電層32bとウエハWとの間の接触抵抗とほぼ等しくしている。本実施形態では、接触抵抗調整層38の体積抵抗率は脱粒防止層36よりも大きくなり、例えば数桁大きくなる。
【0023】
また、接触抵抗調整層38は、脱粒防止層36の表面に付着し易く、かつ表面が平滑であることが望ましい。さらに、接触抵抗調整層38はウエハWとの接触抵抗が大きければよいため、接触抵抗調整層38の厚さは脱粒防止層36よりも薄くてよい。接触抵抗調整層38の厚さは例えば数十nm〜数十μmであることが望ましい。接触抵抗調整層38の材料としては、例えば体積抵抗率の大きいDLC(ダイヤモンドライクカーボン)が使用可能である。
【0024】
本実施形態の静電チャック22でウエハWを吸着する場合には、まず電極34A,34B間に直流電圧を印加しない状態で、ウエハローダ系(不図示)によりウエハWを静電チャック22の脱粒防止層36の表面に載置する。この後、直流電源24aから電極34A,34B間に直流電圧を印加する。これにより、電極34A,34B間でウエハWを通して微弱な電流が流れる。この際に、誘電層32b、脱粒防止層36、及び接触抵抗調整層38の内部の抵抗値に対して、接触抵抗調整層38とウエハWとの接触抵抗の値はほぼ10倍(簡単のため、ここではほぼ9倍であるとする)であるため、接触抵抗調整層38とウエハWとの間の電位差は、電極34A,34B間の電位差のほぼ9/10と大きい値になる。従って、静電チャック22によってウエハWを非常に大きい吸着力で保持できる。ウエハWの露光終了後には、直流電源24aから電極34A,34B間への直流電圧の印加を解除することで、ウエハWを静電チャック22からアンロードできる。
【0025】
なお、上述のように、図1のレチクルRを保持する静電チャック16の構成は静電チャック22とほぼ同様である。ただし、ウエハWは円形であるのに対してレチクルRの基板20は矩形であるため、静電チャック16の絶縁体32に対応する部材の形状は矩形の平板状である。
上述のように、本実施形態のウエハWを吸着保持する静電チャック22は、ウエハWを吸着するための吸着面32sが形成された誘電体よりなる絶縁体32と、絶縁体32の吸着面32sに形成され、絶縁体32よりも体積抵抗率の小さい脱粒防止層36と、脱粒防止層36の表面に形成され、脱粒防止層36よりも体積抵抗率の大きい接触抵抗調整層38と、を備えている。
【0026】
静電チャック22によれば、脱粒防止層36には脱粒防止効果を優先して材料を選択できるため、脱粒防止層36で絶縁体32の吸着面32s(誘電層32bの表面)の脱粒が有効に防止される。また、脱粒を有効に防止するためには脱粒防止層36を厚くする必要があり、脱粒防止層36の体積抵抗率が高いと脱粒防止層36における電圧降下が大きくなり、吸着力の低下が生じるため、脱粒防止層36の体積抵抗率は低い方が望ましいが、脱粒防止層36に体積抵抗率が小さな物質を使っても、その上の接触抵抗調整層38により、接触抵抗調整層38とウエハWとの間の接触抵抗が高く維持される。従って、J−Rタイプの静電チャック22でも、吸着力を殆ど低下させることなく、有効に脱粒防止を行うことができる。
【0027】
また、本実施形態の露光装置EXは、露光光ELでレチクルRのパターンを介してウエハWを露光する露光装置であって、本実施形態の静電チャック22と、静電チャック22を介してウエハWを吸着保持してウエハWを移動するウエハステージWSTと、静電チャック16と、レチクルRの基板20を静電チャック16を介して吸着保持してレチクルRを移動するレチクルステージRSTと、を備えている。露光装置EXによれば、静電チャック16,22の脱粒が防止されているため、静電チャック16,22からの脱粒(発塵)によって、ステージRST,WST等が汚染されることがなく、後工程の汚染も防止される。また、静電チャック16,22の吸着力が高いため、ステージRST,WSTの移動速度を高くすることが可能である。
【0028】
なお、本実施形態では次のような変形が可能である。まず、本実施形態の静電チャック22は双極型であるが、図2(C)の第1変形例の静電チャック22Aで示すように、単極型とすることも可能である。図2(C)において、静電チャック22Aは、絶縁体32の母材部32aと誘電層32bとの間に配置されたプラスの電極34を有し、ウエハWと電極34との間に直流電源24aから直流電圧が印加されるとともに、ウエハWは接地されている。この他の構成は図2(A)の静電チャック22と同様である。単極型の静電チャック22Aにおいても、脱粒防止層36によって絶縁体32の吸着面32sの脱粒が防止され、接触抵抗調整層38によってウエハWとの間の接触抵抗が高くなっているため、吸着力を殆ど低下させることなく、有効に脱粒防止を行うことができる。
【0029】
また、上記の実施形態の静電チャック22の吸着面は平坦であるが、図3(A)及び図3(B)の第2変形例の静電チャック22Bで示すように、ピンチャック方式としてもよい。図3(A)において、静電チャック22Bの絶縁体32Aは円形の平板状であるが、表面のウエハWと接触する円形の領域に多数の凸部32Acが形成されている。
また、図3(B)の断面図で示すように、絶縁体32Aの左半面の領域内の各凸部32Ac内にそれぞれ小型のプラスの電極34Cが埋め込まれ、右半面の領域内の各凸部32Ac内にそれぞれ小型のマイナスの電極34Dが埋め込まれている。そして、ウエハWの吸着時には、多数のプラスの電極34Cが共通に直流電源24aの正極に接続され、多数のマイナスの電極34Dが共通に直流電源24aの負極に接続される。この場合、絶縁体32Aの電極34C,34Dよりも下の部分が母材部32Aaであり、電極34C,34Dよりも上の部分が誘電層32Abである。また、各凸部32Acの誘電層32Abの表面(絶縁体32Aの吸着面)に順次、脱粒防止層36A及び接触抵抗調整層38が形成されている。
【0030】
この第2変形例の静電チャック22Bにおいても、脱粒防止層36Aによって絶縁体32Aの吸着面(誘電層32Abの表面)の脱粒が防止され、接触抵抗調整層38AによってウエハWとの値の接触抵抗が高くなっているため、吸着力を殆ど低下させることなく、有効に脱粒防止を行うことができる。また、静電チャック22Bは双極型であるが、ピンチャック方式を単極型で構成してもよい。
また、本実施形態及びこの変形例の静電チャック22,22A,22BはJ−Rタイプであるが、クーロンタイプの静電チャックにおいても、誘電層の表面に脱粒防止層36,36A及び接触抵抗調整層38,38Aを形成してもよい。
【0031】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態につき図4(A)、図4(B)を参照して説明する。本実施形態の静電チャックも図1の露光装置EXでウエハW(又はレチクルR)を吸着保持するために使用可能である。なお、図4(A)及び図4(B)において図2(A)及び図2(B)に対応する部分には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0032】
図4(A)は本実施形態のJ−Rタイプの静電チャック22Dを示す断面図、図4(B)は図4(A)の要部の拡大図である。図4(A)において、静電チャック22Dは、絶縁体32と、絶縁体32の母材部32aと誘電層32bとの間に配置された電極34A,34Bと、絶縁体32の吸着面32s(誘電層32bのウエハWと対向する面)にコーティングされた充填材40とを備えている。図4(A)では分かり易いように、充填材40は誘電層32bとウエハWとの間に設置されているが、実際には図4(B)に示すように、充填材40は、吸着面32s(誘電層32bの表面)の多数の穴32d(ポア)内にのみ充填され、充填材40とウエハWとは接触していない。充填材40としては、吸着面32sの多数の穴32dに浸透可能な材料を用いることが望ましい。充填材40としては、一例としてフッ素樹脂を用いることができる。フッ素樹脂としては、例えばPTFE(ポリ四フッ化エチレン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)、又はPFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)等を使用可能である。
【0033】
次に、吸着面32sの穴32dを充填材40で埋め、穴32d以外の部分には充填材40が残らないように静電チャック22Dを製造する方法の一例につき説明する。充填材40がフッ素樹脂である場合、誘電層32bの表面に充填材40を液体で供給する。具体的には、その液体をスピンコート法等で誘電層32bの表面にコーティング(湿式コーティング)する。これにより、液状の充填材40は穴32dの内部に浸透し、穴32d以外の領域に充填材40が残りにくくなる。その後、乾燥及び焼成を行うことで、充填材40が穴32dに定着する。この状態でも、穴32d以外の領域には充填材40は殆ど残っていない。なお、より完全に穴32d以外の領域の充填材40を除去するためには、その焼成後に吸着面32sの研磨を行ってもよい。
【0034】
本実施形態の静電チャック22Dによれば、絶縁体32(誘電層32b)の体積抵抗率は比較的小さいとともに、誘電層32bとウエハWとの間の接触抵抗は高く設定されている。さらに、充填材40により吸着面32s(誘電層32b)の脱粒が有効に防止されるが、充填材40はウエハWには接触しないため、絶縁体32とウエハWとの間の接触抵抗は高く維持される。従って、絶縁体32とウエハWとの間の電位差(吸着力)が高く維持される。従って、J−Rタイプの静電チャック22Dでも、吸着力を殆ど低下させることなく、有効に脱粒防止を行うことができる。
【0035】
なお、本実施形態では以下のような変形が可能である。本実施形態の静電チャック22Dでは、充填材40とウエハWとは接触していないが、図4(C)の変形例の静電チャック22Eで示すように、充填材40の表面に図2(A)の静電チャック22で使用された接触抵抗調整層38と同じ材料の接触抵抗調整層42を形成してもよい。
この静電チャック22Eでは、接触抵抗調整層42が設けられているため、接触抵抗調整層42とウエハWとの間の接触抵抗が安定に高く維持され、ウエハWを高い吸着力で吸着できる。
【0036】
なお、本実施形態においても、静電チャック22D,22Eを単極型で構成してもよい。さらに、本実施形態のように、誘電層32bの表面に充填材40を設ける構成をクーロンタイプの静電チャックに適用してもよい。
また、上記の実施形態の露光装置EXを用いて半導体デバイス等の電子デバイス(又はマイクロデバイス)を製造する場合、電子デバイスは、図5に示すように、電子デバイスの機能・性能設計を行うステップ221、この設計ステップに基づいたマスク(レチクル)を製作するステップ222、デバイスの基材である基板(ウエハ)を製造してレジストを塗布するステップ223、前述した実施形態の露光装置EX(露光方法)によりマスクのパターンを基板(感応基板)に露光する工程、露光した基板を現像する工程、現像した基板の加熱(キュア)及びエッチング工程などを含む基板処理ステップ224、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程などの加工プロセスを含む)225、並びに検査ステップ226等を経て製造される。
【0037】
言い換えると、このデバイスの製造方法は、上記の実施形態の露光装置(露光方法)を用いてその投影面上に設置される基板(ウエハ)を露光することと、露光された基板を処理すること(ステップ224)とを含んでいる。上記の実施形態の露光装置によれば、発塵が少なく、ステージの移動速度を速くできるため、デバイスを高い歩留まりで、かつ高いスループットで製造できる。
【0038】
また、上記の実施形態では露光装置として、EUV露光装置が使用されているが、露光光として紫外光を使用する露光装置、又は露光光として電子線を用いる電子線露光装置等でも、レチクル及び/又はウエハを吸着するために上記の実施形態の静電チャックを使用してもよい。
さらに、上記の実施形態の静電チャックは、半導体基板等に対する薄膜形成又はエッチング等を行うCVD装置等にも適用可能である。
【0039】
このように、本発明は上述の実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得る。
【符号の説明】
【0040】
EX…露光装置、R…レチクル、PO…投影光学系、W…ウエハ、RST…レチクルステージ、WST…ウエハステージ、16,22,22A〜22D…静電チャック、24a…直流電源、32,32A…絶縁体、32b,32Ab…誘電層、34,34A〜34D…電極、36…脱粒防止層、38,42…接触抵抗調整層、40…充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物を吸着保持する静電チャックにおいて、
前記被吸着物を吸着するための吸着面が形成された誘電体と、
前記誘電体の前記吸着面に形成され、前記誘電体よりも体積抵抗率の小さい第1のコーティング層と、
前記第1のコーティング層の表面に形成され、前記第1のコーティング層よりも体積抵抗率の大きい第2のコーティング層と、
を備えることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記第1のコーティング層は、前記誘電体の前記吸着面の少なくとも一部が有する凹部を埋めるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記第2のコーティング層と前記被吸着物との間の接触抵抗は、前記誘電体と前記被吸着物との間の接触抵抗とほぼ等しいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記誘電体の体積抵抗率は、ほぼ1×108〜1×1013Ω・cmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の静電チャック。
【請求項5】
被吸着物を吸着保持する静電チャックにおいて、
前記被吸着物を吸着するための吸着面が形成された誘電体と、
前記誘電体の前記吸着面を露出させるとともに、前記誘電層の前記吸着面の少なくとも一部が有する凹部を埋めるように充填された充填材と、
を備えることを特徴とする静電チャック。
【請求項6】
前記充填材は、前記被吸着物と接触しないように前記誘電体に充填されることを特徴とする請求項5に記載の静電チャック。
【請求項7】
前記充填材はフッ素樹脂のコーティング層であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の静電チャック。
【請求項8】
前記誘電体の前記吸着面に前記充填材を覆うように形成され、前記誘電体と前記被吸着物との間の接触抵抗を調整するための調整層を備えることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の静電チャック。
【請求項9】
露光光で基板を露光する露光装置において、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の静電チャックと、
前記静電チャックを介して前記基板を吸着保持して前記基板を移動するステージと、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項10】
露光光でパターンを介して基板を露光する露光装置において、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の静電チャックと、
前記パターンが形成されたマスク基板を前記静電チャックを介して吸着保持して前記パターンを移動するステージと、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の露光装置を用いて物体にパターンを形成することと、
前記パターンが形成された前記物体を処理することと、
を含むデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−230931(P2012−230931A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96588(P2011−96588)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代半導体材料・プロセス基盤(MIRAI)プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】