説明

静電チャック装置

【課題】高温でのウェハプロセスに使用されたときに静電チャック本体とベースとの間の熱膨張差を吸収し、熱応力による静電チャック本体の破損、反り、歪みなどの発生を防止できる構造を提供する。
【解決手段】静電チャック本体11が、その静電吸着面12の外側周縁部の固定地点においてベース(水冷プレート20)に移動不能に固定されると共に、固定地点から離れた可動地点においてベースに対してスライド移動可能に連結されるので、この静電チャック装置10を高温のウェハプロセスに使用した際の静電チャック本体の熱膨張が吸収され、破損や反り、歪みなどを発生させない。一例として、静電チャック本体に固定される可動ポスト26がベースの長穴(貫通穴23)をスライド移動可能に挿通する。静電チャック本体とベースとの間に所定の高さ間隔が保持され、これらの間にリフレクタなどの中間部品を配置可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD、スパッタ、イオン注入、エッチングなどの半導体製造のウェハプロセスでウェハを静電的に固定する静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CVD、スパッタ、イオン注入、エッチングなどの半導体製造のウェハプロセスにおいて、静電チャックはウェハの温度コントロールなどを目的として幅広く使用されている。特に近年では、半導体の品質向上のために高温(場合によっては1000℃またはそれ以上)でのウェハプロセスが注目されており、加熱部と吸着部が一体となったヒータ機能付静電チャックが広く使用されるに至っている。
【0003】
しかしながら、このような高温でのウェハプロセスに使用されると、静電チャックと、静電チャックが固定されるベース(固定板や水冷プレートなど)との間の熱膨張率差により静電チャックに熱応力が働き、破損、反り、歪みなどが発生する。静電チャックに破損や反り、歪みなどが発生すると、ウェハ吸着力の低下、ウェハの温度分布低下、ウェハ割れ、デチャック時のウェハ跳ねなどを生じさせる。
【0004】
この問題に対処する従来技術として下記特許文献1,2が挙げられる。特許文献1記載の従来技術では、静電チャックの中央部に柱状部材を取り付けてベースプレートにボルトで固定する構造を採用することにより、静電チャックとベースプレートとの間に熱膨張率差があっても静電チャックの外縁部にまでは熱応力が伝わらず、割れが生じない効果が得られるとされている(段落0032,図3など)。
【0005】
また、特許文献2記載の従来技術では、静電チャックをアルミベースに固定する手段として、アルミニウムベースに近い熱膨張率を有する銅製の止めネジを使用し、この止めネジの頭部を銀ろうなどのろう材で静電チャックの下面に接合することによって、静電チャックの割れを防止しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−147095号公報
【特許文献2】特開2010−272730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の従来技術によると、静電チャックの中央部に柱状部材が固定されるので、この中央部の柱状部材から熱が逃げてしまうことによって静電チャック吸着面中央部で温度低下が生じ、ウェハに対する熱伝導の均一性が低下する。また、近年ではウェハの大口径化が進んでいる中で、このように静電チャックをその中央部のみで支持する構造は、静電チャックの自重による撓みや反りの発生も懸念される。
【0008】
また、特許文献2記載の従来技術では、ベースがAlまたはAl合金からなることが前提である(段落0029)ためベースの材質について選択の余地がなく限定されてしまうことに加えて、ろう材を溶かすために高温処理(銀ろうの場合840℃程度、段落0034)が必要となるため、この高温処理に伴うコスト上昇および金属汚染などが新たな問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、静電チャック本体がベースに固定される静電チャック装置において、高温でのウェハプロセスに使用されたときに静電チャック本体とベースとの間の熱膨張率差を吸収できる構造を提案し、これによって静電チャック本体に破損や反り、歪みなどが発生することを防止または緩和することを目的とする。
【0010】
この目的を達成するため、請求項1に係る発明は、表面に静電吸着面を有する静電チャック本体と、ベースと、静電吸着面の外側周縁部の第一の地点において静電チャック本体をベースに固定する固定側連結手段と、静電吸着面の外側周縁部の前記第一の地点とは離れた第二の地点において静電チャック本体をベースに対して略平行方向にスライド移動可能に連結する可動側連結手段とを有することを特徴とする静電チャック装置である。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の静電チャック装置において、前記可動側連結手段は、静電チャック本体に固定されると共にベースに対してスライド移動可能に連結されることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の静電チャック装置において、前記第二の地点に対応する地点において前記ベースを厚さ方向に貫通する貫通穴が形成され、前記可動側連結手段は、前記第二の地点において静電チャック本体に固定されると共に、ベースの貫通穴をスライド移動可能に貫通することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の静電チャック装置において、前記ベースの貫通穴は、前記第一の地点と前記第二の地点とに対応する地点を結ぶ直線の延長方向に長手軸を有する長穴として形成されることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項3記載の静電チャック装置において、前記ベースの貫通穴は、前記可動側連結手段を前記第一の地点と前記第二の地点とに対応する地点を結ぶ直線の延長方向に沿って移動可能とする寸法を有するものとして形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1記載の静電チャック装置において、前記可動側連結手段は、ベースに固定されると共に静電チャック本体に対してスライド移動可能に連結されることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項6記載の静電チャック装置において、前記第二の地点において前記静電チャックを厚さ方向に貫通する貫通穴が形成され、前記可動側連結手段は、前記第二の地点に対応する地点において前記ベースに固定されると共に、静電チャック本体の貫通穴をスライド移動可能に貫通することを特徴とする。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項7記載の静電チャック装置において、前記静電チャック本体の貫通穴は、前記第一の地点と前記第二の地点とを結ぶ直線の延長方向に長手軸を有する長穴として形成されることを特徴とする。
【0018】
請求項9に係る発明は、請求項7記載の静電チャック装置において、前記静電チャック本体の貫通穴は、前記可動側連結手段を少なくとも前記第一の地点と前記第二の地点とを結ぶ直線の延長方向に沿って移動可能とする寸法を有するものとして形成されることを特徴とする。
【0019】
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9のいずれか一に記載の静電チャック装置において、前記固定側連結手段および前記可動側連結手段により静電チャック本体とベースとの間に所定の高さ間隔が保持されていることを特徴とする。
【0020】
請求項11に係る発明は、請求項10記載の静電チャック装置において、前記固定側連結手段および可動側連結手段は同一長さのポストを有し、これらポストによって前記所定の高さ間隔が保持されることを特徴とする。
【0021】
請求項12に係る発明は、請求項1ないし11のいずれか一に記載の静電チャック装置において、前記可動側連結手段は、前記固定側連結手段が設けられる第一の地点から見て所定角度を隔てた複数の第二の地点に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、静電チャック本体が、静電吸着面の外側周縁部の第一の地点においてはベースに固定されながら、第一の地点から離れた第二の地点においてはベースに対してスライド移動可能に連結されるので、この静電チャック装置を高温のウェハプロセスに使用した際に静電チャック本体が熱膨張しても、静電チャック本体がベースに対してスライド移動することによって該熱膨張を吸収する効果が発揮される。したがって、熱膨張差による熱応力が静電チャック本体に作用することがなく、静電チャック本体に破損や反り、歪みなどを発生させない。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、第二の地点において静電チャックをベースに対してスライド移動可能とするための具体的な構成を実現することができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、第二の地点において静電チャックをベースに対してスライド移動可能とするためのより具体的な構成を実現することができる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、ベースに形成される貫通穴が、静電チャック本体が固定地点から熱膨張するときの熱膨張方向に沿った長手軸を有する長穴として形成されるので、静電チャック本体の熱膨張を吸収する効果に優れている。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、ベースに形成される貫通穴が、可動側連結手段を第一の地点と第二の地点とに対応する地点を結ぶ直線の延長方向に沿って移動可能とする寸法を有するものとして形成されるので、静電チャック本体の熱膨張を吸収する効果に優れている。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、第二の地点において静電チャックをベースに対してスライド移動可能とするための具体的な構成を実現することができる。
【0028】
請求項7に係る発明によれば、第二の地点において静電チャックをベースに対してスライド移動可能とするためのより具体的な構成を実現することができる。
【0029】
請求項8に係る発明によれば、静電チャック本体に形成される貫通穴が、静電チャック本体が固定地点から熱膨張するときの熱膨張方向に沿った長手軸を有する長穴として形成されるので、静電チャック本体の熱膨張を吸収する効果に優れている。
【0030】
請求項9に係る発明によれば、静電チャック本体に形成される貫通穴が、可動側連結手段を第一の地点と第二の地点とを結ぶ直線の延長方向に沿って移動可能とする寸法を有するものとして形成されるので、静電チャック本体の熱膨張を吸収する効果に優れている。
【0031】
請求項10に係る発明によれば、静電チャック本体とベースとの間に保持された高さ間隔を利用して、静電チャック装置に必要とされる各種部品、たとえばリフレクタ、断熱材、スペーサなどを配置可能であるため、加熱効率に優れた装置構成とすることができる効果が得られる。
【0032】
請求項11に係る発明によれば、固定側および可動側の連結手段にポストが備えられるので、これらのポストで静電チャック本体とベースとの間の高さ間隔を保持することができると共に、略柱形状のポストを用いることで静電チャック本体とベースとの連結構造に強度を与えることができる効果がある。
【0033】
請求項12に係る発明によれば、静電チャック本体が、固定地点から所定角度を隔てて複数の地点でスライド移動可能にベースに対して連結されるので、静電チャック本体の熱膨張を効率的に吸収できる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による静電チャック装置の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】この静電チャック装置の上面図である。
【図3】この静電チャック装置の水冷プレートの平面図である。
【図4】この静電チャック装置の固定部における詳細構造を示す断面図である。
【図5】この静電チャック装置の可動部における詳細構造を示す断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態による静電チャック装置の構造を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態による静電チャック装置の構造を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の一実施形態による静電チャック装置について、図1〜図5を参照して説明する。この静電チャック装置10は、CVD、スパッタ、イオン注入、エッチングなどの半導体製造のウェハプロセスにおいて処理対象のウェハを静電吸着力で固定すると共に、該ウェハを所定温度に加熱するためのヒータ機構を兼ね備えたものとして構成されている。
【0036】
この静電チャック装置10は、静電チャック本体11を有する。静電チャック本体11は、その少なくとも一面が静電吸着面として作用し得るものであればその材質や構成は特に限定されず、材料としてはセラミックス、樹脂、金属表面に電気絶縁性コーティングを施したものなどを使用することができ、また、電極パターンは単極型であっても双極型であっても良い。一例として、グラファイト基材をPBNによるベースコートで絶縁し、このベースコートの表面にPG電極を配置すると共に裏面には所定のヒータパターンを有するPG発熱層を形成し、さらに全体をPBNまたは微量カーボン添加PBNによるオーバーコート層で絶縁して、ヒータ機構付の静電チャック本体11とすることができる(特許第2756944号参照)。この場合、静電チャック本体11の表面に形成された電極層の上面が静電吸着面12となり、裏面に形成された発熱層(ヒータパターン)13の発熱が静電チャック本体11を介して伝熱されてウェハを所定温度に加熱する。
【0037】
静電チャック自体の構造や作用については多くの従来技術によって公知であり、且つ、本発明の主題に直接的に関連しないので、図示および説明を省略する。本発明では、公知の構造の静電チャックのいずれをも採用可能である。また、静電チャック本体11の裏面に形成される発熱層(ヒータパターン)の構造や作用についても同様である。
【0038】
図示実施形態では、大径の下方部14と小径の上方部15とが同心状に配置された段付き形状の静電チャック本体11として示されており、上方部15の上面が静電吸着面12となり、下方部14の下面に発熱層13が形成されている。そして、後述する固定ボルト28,29および給電ボルト27を挿通させるための貫通穴16,17,18はいずれも、上方部15の外側に延出している下方部14の周縁部(ツバ部)19に位置している(図2)。なお、図示簡略化のため1本の給電ボルト27および各1つの貫通穴18,24のみが示されているが、給電ボルト27は静電チャック本体11の表面のチャック電極用および裏面の発熱層用にそれぞれ必要であるから実際には複数本が使用され、これに応じた数の貫通穴18,24が静電チャック本体11およびベース(水冷プレート20)に形成される。
【0039】
この静電チャック10は、さらにベースないし水冷プレート20を有する。水冷プレート20は、好ましくは機械的強度や耐熱性、熱伝導性、加工性、ろう付け・溶接・接着性などの物性に優れた材料で形成され、具体的にはステンレス、銅、アルミニウム、セラミックス、カーボン、表面コートされた各種金属などを材料とし、静電チャック本体11の下方部14と略同等またはそれよりさらに大径を有するものとして円盤状に形成される。水冷プレート20は、冷媒を循環させるための水路21(図4,図5)を有する。
【0040】
水冷プレート20は、静電チャック装置10として組み付けられた状態(図1)において、静電チャック本体11の下方ツバ部19を貫通する貫通穴16,17,18と略整列する位置に、ボルト螺着穴22および貫通穴23,24が形成されている。
【0041】
これらの位置関係および形状などについてさらに詳しく説明すると、静電チャック本体11の下方ツバ部19を貫通する貫通穴16,17,18はすべてボルト軸を挿通できる径を有する丸穴(ネジ穴でない)であり、これらのうち、貫通穴16は任意位置に一つだけ設けられ、この貫通穴16位置から見て両方向90度位置および180度位置に計3つの貫通穴17(17a〜17c)が形成され、給電ボルト27挿通用の貫通穴18はこれら貫通穴16,17に干渉しない位置に設けられている。また、水冷プレート20の周縁部に形成されるボルト螺着穴22および貫通穴23,24は、上記貫通穴16,17,18のそれぞれ直下に整列する(軸心が同一になる)ような位置に形成されるが、ボルト螺着穴22は少なくともその一部に雌ネジ部22aを有するネジ穴であり(図4)、貫通穴23(23a〜23c)は長穴であり、貫通穴24は貫通穴18と同心であるが若干大径に形成されている(図3)。
【0042】
次に、特に図4および図5を参照して、静電チャック本体11と水冷プレート20との連結構造について説明する。この連結構造は、固定側と可動側とで異なる。
【0043】
固定側においては、静電チャック本体11の下方ツバ部19を貫通する貫通穴16に固定ボルト28を挿通し、これを固定ポスト25に螺着し、さらに固定ポスト25の下端から突出する突出部25aの外周に形成された雄ネジ部25bを、水冷プレート20の周縁部を貫通するボルト螺着穴22の雌ネジ部22aに螺着することにより、静電チャック本体11が水冷プレート20に対して、固定ポスト25によって与えられる間隔を高さ方向に保持しつつ、強固に固定される。
【0044】
一方、可動側においては、静電チャック本体11の下方ツバ部19を貫通する3つの貫通穴17に各々固定ボルト29を挿通し、これを可動ポスト26に螺着し、さらに可動ポスト26の下端から突出する可動軸部26aを、水冷プレート20の周縁部を貫通する貫通穴(長穴)23に挿通させることにより、静電チャック本体11が水冷プレート20に対して、可動ポスト26によって与えられる間隔を高さ方向に保持しつつ、可動ポスト26と一体になってスライド移動可能に連結される。貫通穴23は、固定側のボルト螺着穴22から見て90度方向(貫通穴23a,23b)および180度方向(貫通穴23c)に長手軸を持つような長穴として形成されている(図3)ので、可動ポスト26は、静電チャック本体11に対しては固定ボルト29で強固に固定されながら、水冷プレート20に対しては静電チャック本体11と一体となって貫通穴23の長手軸方向に該貫通穴23の範囲内でスライド移動可能である。
【0045】
さらに、水冷プレート20の貫通穴23を挿通する可動軸部26aの下方に延長する下端突出部26bの外周には雄ネジ部26cが形成されており、水冷プレート20の裏面側においてワッシャ30を介して雄ネジ部26cにナット31螺着することにより、貫通穴23の範囲内におけるスライド移動を許容しつつ、静電チャック本体11と水冷プレート20との間の高さ方向の相対移動を規制している。これにより、静電チャック本体11と水冷プレート20との間には、固定ポスト25および可動ポスト26によって与えられる所定の高さ間隔が保持される。
【0046】
上述のように、この静電チャック装置10では、静電チャック本体11と水冷プレート20との間に、固定ポスト25の長さに相当する間隔が得られるので、この間隔を利用してリフレクタ、スペーサ、断熱材などを配置することができる。図示実施形態では複数のリフレクタ32が静電チャック本体11と水冷プレート20との間に配置されている。これらリフレクタ32は図示省略のボルトで水冷プレート20に固定されている。リフレクタ32は、静電チャック本体11裏面の発熱層13から下方および側方に放散しようとする熱を反射させ、静電吸着面12に載置固定されたウェハに対して集中的に伝熱させることでウェハを効果的に昇温させることができる。
【0047】
図示実施形態では、静電チャック本体11の下方周縁ツバ部19の上にプラテンリング33が取り付けられ、静電チャック本体11表面の静電吸着面12の外側領域を保護しているので、スパッタなどのウェハプロセスにおいてウェハに被膜形成したときに、静電チャック本体11のツバ部19や側面にも膜が形成されてしまうことを防止することができる(特開2008−10513号公報参照)。
【0048】
次に、この静電チャック装置10の作用について説明する。この静電チャック装置10を所定のウェハプロセス処理室(図示省略)に設置し、ウェハを所定の搬送装置(図示省略)により搬送して静電吸着面12に載置する。この状態で給電ボルト27に所定の電位を印加することにより、ウェハが静電的に吸着面12に吸着固定されると共に、発熱層13からの熱が静電チャック本体11を介してウェハに伝えられてウェハを所定温度に昇温させる。
【0049】
このとき、水冷プレート20は水路21を通る冷媒によって冷却されているが、静電チャック本体11はウェハプロセスの高熱に晒されているため、これらの熱膨張差によって静電チャック本体11の方が大きく熱膨張しようとする。ところが、前述したように、静電チャック本体11は、固定側(図4)では固定ボルト28および固定ポスト25を介して移動不能に水冷プレート20に固定されているが、この固定点に対して90度および180度の位置に設けられる可動側(図5)では可動ポスト26を介して水冷プレート20に対して貫通穴23(23a〜23c)の長手軸方向にその範囲内において移動可能である。このため、静電チャック本体11が熱膨張しても、3箇所の可動側において可動ポスト26が水冷プレート20のボルト穴23内でスライド移動することによって該熱膨張を吸収する。したがって、熱膨張差による熱応力が静電チャック本体11に作用することがなく、静電チャック本体11に破損や反り、歪みなどを発生させない。図2における矢印は、固定地点(固定ボルト28)から見たときの静電チャック本体11の熱膨張方向を示している。
【0050】
静電チャック本体11が熱膨張すると水冷プレート20との相対的位置関係が変わるので、これによる応力で給電ボルト27を破損させないようにするために、給電ボルト27を挿通させるために水冷プレート20に形成される貫通穴24は、給電ボルト27の軸径より大きい内径を有するものとされている(図1参照)。
【0051】
以上に本発明の一実施形態としての静電チャック装置10について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって規定される発明の範囲内において広く変形態様を取り得るものである。
【0052】
本発明は、静電吸着面12の外側周縁のツバ部19上の第一の地点において静電チャック本体11をベース(水冷プレート20)に移動不能に固定する固定側連結手段を備えると共に、ツバ部19上の第一の地点とは離れた第二の地点において静電チャック本体11をベースに対して略平行方向にスライド移動可能に連結する可動側連結手段を備えた構成を有することを特徴とする。したがって、可動側連結手段を静電チャック本体に固定しながらベースに対してスライド移動可能に連結する構成を有する既述実施形態に代えて、可動側連結手段をベースに固定しながら静電チャック本体に対してスライド移動可能に連結する構成を採用することも可能である。
【0053】
このような構成を有する実施形態が図6に示されている。この実施形態の静電チャック装置10Aでは、可動側の構成が既述実施形態と異なっている。すなわち、水冷プレート20には貫通穴34(既述実施形態の貫通穴23(23a〜23c)に対応する)が形成され、既述実施形態における可動ポスト26に代えて用いられる固定ポスト35の下端部がこの貫通穴34を挿通して、水冷プレート20の裏面側でナット31で固定されている。一方、既述実施形態では単にボルト軸挿通用の丸穴として形成されている静電チャック本体11の貫通穴17(17a〜17c)が、この実施形態では固定ボルト29をスライド移動可能に貫通させる貫通穴36として形成されている。すなわち、この実施形態によれば、固定ポスト35を介して水冷プレート20に固定された固定ボルト29が静電チャック本体11の貫通穴36を移動可能とされているので、静電チャック本体11が熱膨張したときには、固定ポスト35の上端面に安定的に載置された状態のまま該上端面をスライドし、固定ポスト35に対して(したがって水冷プレート20に対して)移動する。貫通穴36は、既述実施形態において水冷プレート20に形成される貫通穴23(23a〜23c)と同様に、静電チャック本体11の熱膨張を許容する方向に沿った長手軸を有する長穴として形成することができる(後述の変形例も参照のこと)。符号37はワッシャである。
【0054】
また、既述実施形態において固定側および/または可動側の連結手段として採用した構成は例示にすぎず、他の構成を採用しても良い。たとえば、図7に示す静電チャック装置10Bでは、可動ポスト26を上方に突出させてその上端に雄ネジ部(図示せず)を形成し、この上方突出部26dを貫通穴17に挿通させて、静電チャック本体11(ツバ部19)の表面側でナット38で固定する構成を採用し、固定ポスト25も同様のポスト形状にして表面側でナット39で固定している。このような構成を図6に示す静電チャック装置10Aにおける可動側連結手段として採用することももちろん可能である。また、図6に示す静電チャック装置10Aにおいては、固定側連結手段を構成する固定ポスト25と同様に、固定ポスト35の上端面に静電チャック本体11を載置して安定的に支持しているが、このような構造を他の実施形態の静電チャック装置10,10Bにおける可動側連結手段に採用しても良い。また、既述実施形態では固定側および可動側の連結手段においてポスト25,26,35を静電チャック本体11または水冷プレート20に対して固定する手段としてネジ結合(螺着)が採用されているが、これに代えて接着などの他の固定手段を採用しても良い。
【0055】
なお、図6および図7には連結手段について概略のみが示されているが、固定側については図4に示すような具体的構成を採用することが可能であり、また、可動側についても図5に示す具体的構成を参照して実施することができる。
【0056】
本発明においてはその他にも多様な実施形態が採用可能である。たとえば、既述実施形態では、大径の下方部14と小径の上方部15とが同心状に配置された段付き形状の静電チャック本体11が示されているが、このような二段形状を有しない板状の静電チャック本体であっても本発明を適用可能である。
【0057】
また、既述実施形態では静電チャック本体11を水冷プレート20に固定しているが、水冷機能を有しないベースに固定しても良い。この場合、前記材料に加えて石英などでベースを形成することができる。
【0058】
また、静電チャック本体11と水冷プレート20(ベース)との間にリフレクタを配置することに代えて、あるいはそれと併用して、断熱材やスペーサなどの任意中間部材を必要に応じて配置しても良いし、さらには、この空間に何ら部材を配置しない構成も本発明の範囲内である。
【0059】
また、既述実施形態では、90度間隔に配置したうちの1地点で静電チャック本体をベースに固定すると共に残り3地点でスライド移動可能に連結しているが、可動位置の配置については用途などに応じて適宜変更可能である。たとえば、固定地点と対向する180度位置の1地点でスライド移動可能に連結しても良いし、固定地点に対して120度位置にある2地点でスライド移動可能に連結しても良い。もちろん、より多数の地点でスライド移動可能に連結する実施形態も本発明の範囲内である。いずれの場合も、各可動地点においてベース(水冷プレート20)に形成される貫通穴23(図1〜図5,図7)または静電チャック本体11に形成される貫通穴36(図6)は、固定地点(ボルト螺着穴22)で固定されている静電チャック本体11の熱膨張を許容するように形成される。
【0060】
この点に関し、既述実施形態では、可動側において、静電チャック本体の熱膨張方向(図2に矢印で示す方向、図3に仮想線で示す直線方向)に長手軸を持つ長穴を形成することで静電チャック本体の熱膨張を許容しているが、必ずしもこの形状に限定されない。他の実施形態において、静電チャック本体またはベースに貫通形成される貫通穴は、固定地点と可動地点とを結ぶ直線の延長方向に沿って静電チャック本体がベースに対してスライド移動可能とするような寸法を有するものとして(すなわち該貫通穴を挿通するボルト軸より大径となるように)形成される。
【符号の説明】
【0061】
10,10A,10B 静電チャック装置
11 静電チャック本体
12 静電吸着面
13 発熱層(ヒータパターン)
14 下方部
15 上方部
16,17(17a〜17c),18 貫通穴
19 ツバ部
20 水冷プレート(ベース)
21 水路
22 ボルト螺着穴
23(23a〜23c) 貫通穴(長穴)
24 貫通穴
25 固定ポスト
25a 突出部
25b 雄ネジ部
26 可動ポスト
26a 可動軸部
26b 下端突出部
26c 下端の雄ネジ部
26d 上方突出部
27 給電ボルト
28,29 固定ボルト
30 ワッシャ
31 ナット
32 リフレクタ(中間部材の一例)
33 プラテンリング
34 貫通穴
35 固定ポスト
36 貫通穴(長穴)
37 ワッシャ
38,39 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に静電吸着面を有する静電チャック本体と、ベースと、静電吸着面の外側周縁部の第一の地点において静電チャック本体をベースに固定する固定側連結手段と、静電吸着面の外側周縁部の前記第一の地点とは離れた第二の地点において静電チャック本体をベースに対して略平行方向にスライド移動可能に連結する可動側連結手段とを有することを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
前記可動側連結手段は、静電チャック本体に固定されると共にベースに対してスライド移動可能に連結されることを特徴とする、請求項1記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記第二の地点に対応する地点において前記ベースを厚さ方向に貫通する貫通穴が形成され、前記可動側連結手段は、前記第二の地点において静電チャック本体に固定されると共に、ベースの貫通穴をスライド移動可能に貫通することを特徴とする、請求項2記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記ベースの貫通穴は、前記第一の地点と前記第二の地点とに対応する地点を結ぶ直線の延長方向に長手軸を有する長穴として形成されることを特徴とする、請求項3記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記ベースの貫通穴は、前記可動側連結手段を前記第一の地点と前記第二の地点とに対応する地点を結ぶ直線の延長方向に沿って移動可能とする寸法を有するものとして形成されることを特徴とする、請求項3記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記可動側連結手段は、ベースに固定されると共に静電チャック本体に対してスライド移動可能に連結されることを特徴とする、請求項1記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記第二の地点において前記静電チャックを厚さ方向に貫通する貫通穴が形成され、前記可動側連結手段は、前記第二の地点に対応する地点において前記ベースに固定されると共に、静電チャック本体の貫通穴をスライド移動可能に貫通することを特徴とする、請求項6記載の静電チャック装置。
【請求項8】
前記静電チャック本体の貫通穴は、前記第一の地点と前記第二の地点とを結ぶ直線の延長方向に長手軸を有する長穴として形成されることを特徴とする、請求項7記載の静電チャック装置。
【請求項9】
前記静電チャック本体の貫通穴は、前記可動側連結手段を少なくとも前記第一の地点と前記第二の地点とを結ぶ直線の延長方向に沿って移動可能とする寸法を有するものとして形成されることを特徴とする、請求項7記載の静電チャック装置。
【請求項10】
前記固定側連結手段および前記可動側連結手段により静電チャック本体とベースとの間に所定の高さ間隔が保持されていることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか一に記載の静電チャック装置。
【請求項11】
前記固定側連結手段および可動側連結手段は同一長さのポストを有し、これらポストによって前記所定の高さ間隔が保持されることを特徴とする、請求項10記載の静電チャック装置。
【請求項12】
前記可動側連結手段は、前記固定側連結手段が設けられる第一の地点から見て所定角度を隔てた複数の第二の地点に設けられることを特徴とする、請求項1ないし11のいずれか一に記載の静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−55089(P2013−55089A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190156(P2011−190156)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】