説明

静電チャック装置

【課題】載置される板状試料を急速に昇降温させた場合においても、静電チャック部にクラック等が発生する虞が無く、耐久性に優れ、熱容量が小さく、板状試料との熱交換効率、熱応答性に優れ、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することが容易で、しかもヒータのパターンが板状試料に反映されることのない静電チャックを提供する。
【解決手段】本発明の静電チャック装置21は、板状試料Wを載置する載置面31aを有するとともに静電吸着用内部電極33を設けてなる静電チャック部22と、熱媒体を循環させる流路41を形成してなる温度調整用ベース部23と、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との間に配置され厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメント25と、静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを接着一体化すると共にヒータエレメント25を挟持してなる2層構造の有機系接着剤層24a、24bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関し、さらに詳しくは、プラズマを利用したエッチング装置、CVD装置等に好適に用いられ、急速な昇降温に対しても耐久性に優れた静電チャック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に進展するIT技術を支える半導体産業においては、素子の高集積化や高性能化が求められており、そのために、半導体製造プロセスにおいても微細加工技術の更なる向上が求められている。この半導体製造プロセスの中でもエッチング技術は、微細加工技術の重要な一つであり、近年では、エッチング技術の内でも、高効率かつ大面積の微細加工が可能なプラズマエッチング技術が主流となっている。
【0003】
このプラズマエッチング技術はドライエッチング技術の一種であり、加工対象となる固体材料の上にレジストでマスクパターンを形成し、この固体材料を真空中に支持した状態で、この真空中に反応性ガスを導入し、この反応性ガスに高周波の電界を印加することにより、加速された電子がガス分子と衝突してプラズマ状態となり、このプラズマから発生するラジカル(フリーラジカル)とイオンを固体材料と反応させて反応生成物として取り除くことにより、固体材料に微細パターンを形成する技術である。
【0004】
一方、原料ガスをプラズマの働きで化合させ、得られた化合物を基板の上に堆積させる薄膜成長技術の一つとしてプラズマCVD法がある。この方法は、原料分子を含むガスに高周波の電界を印加することによりプラズマ放電させ、このプラズマ放電にて加速された電子によって原料分子を分解させ、得られた化合物を堆積させる成膜方法である。低温では熱的励起だけでは起こらなかった反応も、プラズマ中では、系内のガスが相互に衝突し活性化されラジカルとなるので、可能となる。
【0005】
プラズマエッチング装置、プラズマCVD装置等のプラズマを用いた半導体製造装置においては、従来から、試料台に簡単にウエハを取付け、固定するとともに、このウエハを所望の温度に維持する装置として静電チャック装置が使用されている。
このような静電チャック装置としては、例えば、セラミックス基体の上面をウエハ等の板状試料を載置する載置面とし、内部に高融点金属からなる静電吸着用の板状電極を埋設した静電チャック部と、セラミックスとアルミニウムのコンポジット材で形成され、内部に冷却水循環用の冷媒流路が形成された冷却部材とを、アルミニウム合金からなる接合層にて接合一体化した基板載置台が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、図7に示すウエハ保持装置も提案されている(特許文献2)。
このウエハ保持装置1は、円盤状のセラミック体3の上面をウエハWの保持面4とするとともに、このセラミック体3の内部に静電吸着用の電極5及びヒータ用の電極6を埋設したウエハ保持基体2と、多孔質セラミック体12の気孔部に金属14を充填したベース基体11とを、アルミニウムを主成分とするロウ材9を介して接合し、このセラミック体3の下面に電極5、6と連通する凹部を穿設し、この凹部に各電極5、6へ通電するための給電端子7、8をそれぞれ接合した構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−101108号公報
【特許文献2】特開平11−163109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の様々な静電チャック装置では、ウエハ等の板状試料の大径化(大面積化)に伴って、新たな問題点が生じてきており、特に、近年における300mmウエハの増大に伴って、問題点がより顕著に現れるようになってきている。
従来の静電チャック装置では、ウエハ等の板状試料を静電吸着しつつ、この板状試料をヒータや冷媒を用いて所望の温度パターンに維持し、この板状試料に各種のプラズマ処理を施すことが可能であるものの、この板状試料へのプラズマ加工の生産性(スループットの向上)を高めるために急速に昇降温させると、板状試料を載置する静電チャック部やウエハ保持基体にクラックが発生し、静電チャック装置としての耐久性が充分でないという問題点があった。
【0009】
また、プラズマエッチング等では、板状試料にプラズマエッチングを施す度毎に、板状試料の加熱、温度保持、冷却を繰り返す必要がある。しかしながら、従来の静電チャック装置では、静電チャック部やウエハ保持基体の熱容量が大きく、また、温度調整用の冷却部材やベース基体と載置される板状試料との間の熱交換効率や熱応答性が充分ではなく、したがって、急激な温度変化に追随することが難しく、板状試料の面内温度に面内の位置によるばらつきや経時的な変動が生じることとなり、その結果、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することができないという問題点があった。
特に、大径化(大面積化)した板状試料では、得られた製品の歩留まりのさらなる向上のために、板状試料の面内温度を高精度で制御することが求められており、板状試料の面内温度制御性をよりいっそう高めることが急務となっている。
【0010】
また、急激な温度変化に容易に追随できないことから、加熱及び冷却に要する時間を更に短縮することが非常に難しく、したがって、工程時間のさらなる短縮が難しく、生産性の向上が難しいという問題点があった。
さらに、従来の静電チャック装置では、ヒータ、特に静電チャック部に内蔵されたヒータのパターンがそのまま板状試料に反映されてしまい、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することができないという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、載置される板状試料を急速に昇降温させた場合においても、静電チャック部にクラック等が発生する虞が無く、耐久性に優れ、また、熱容量が小さく、載置される板状試料との熱交換効率、熱応答性に優れ、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することが容易であり、さらには、ヒータのパターンが板状試料に反映されることなく、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することが可能な静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、静電チャック部と、
温度調整用ベース部と、静電チャック部と温度調整用ベース部との間に配設され厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントと、これら静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着一体化すると共にヒータエレメントを挟持してなる2層構造の有機系接着剤層と、を備えたこととすれば、上記の課題を容易に解決することができることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち、本発明の静電チャック装置は、一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに内部に静電吸着用内部電極を設けてなる静電チャック部と、内部に熱媒体を循環させる流路を形成してなる温度調整用ベース部と、前記静電チャック部と前記温度調整用ベース部との間に配設され厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントと、これら静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着一体化すると共に前記ヒータエレメントを挟持してなる2層構造の有機系接着剤層と、を備え、前記有機系接着剤層は、前記温度調整用ベース部と接着一体化する第1の有機系接着剤層と、この第1の有機系接着剤層と前記静電チャック部とを接着一体化する第2の有機系接着剤層とからなることを特徴とする。
【0014】
この静電チャック装置では、静電チャック部と、温度調整用ベース部と、静電チャック部と温度調整用ベース部との間に配置され厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントと、これら静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着一体化すると共にヒータエレメントを挟持してなる2層構造の有機系接着剤層とを備えたことにより、載置される板状試料を急速に昇降温させた場合においても、ヒータエレメントを挟持する2層構造の有機系接着剤層が静電チャック部に対して急激な膨張・収縮を緩和する緩衝層として機能し、静電チャック部にクラック等が発生するのを防止する。これにより、静電チャック部の耐久性が向上する。
【0015】
また、厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントを用いたことにより、このヒータエレメントのパターンが板状試料に反映され難くなり、板状試料の面内温度が所望の温度パターンに維持し易くなる。
【0016】
本発明の静電チャック装置は、前記静電チャック部の厚みを0.7mm以上かつ3.0mm以下としたことを特徴とする。
この静電チャック装置では、静電チャック部の厚みを0.7mm以上かつ3.0mm以下としたことにより、静電チャック部自体の熱容量が小さくなり、載置される板状試料との熱交換効率、熱応答性も優れたものとなる。
【0017】
本発明の静電チャック装置は、前記有機系接着剤層を、表面被覆窒化アルミニウム粒子からなるフィラーを含有することとし、前記第2の有機系接着剤層の熱伝達率を、前記第1の有機系接着剤層の熱伝達率よりも大としたことを特徴とする。
【0018】
この静電チャック装置では、第2の有機系接着剤層の熱伝達率を第1の有機系接着剤層の熱伝達率よりも大としたことにより、これら第1及び第2の有機系接着剤層により挟持されるヒータエレメントから発せられる熱は、第2の有機系接着剤層から略垂直に静電チャック部に向かって移動することとなり、この静電チャック部上に載置される板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することが可能になる。
【0019】
前記有機系接着剤層は、シリコーン樹脂からなることを特徴とする。
前記第1の有機系接着剤層の厚みは100μm以上かつ350μm以下、かつ、前記第2の有機系接着剤層の厚みは10μm以上かつ100μm以下であることを特徴とする。
前記第1の有機系接着剤層はスペーサを内蔵してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の静電チャック装置によれば、静電チャック部と、温度調整用ベース部と、静電チャック部と温度調整用ベース部との間に配置され厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントと、これら静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着一体化すると共にヒータエレメントを挟持してなる2層構造の有機系接着剤層とを備えたので、板状試料を急速に昇降温させた場合においても、静電チャック部にクラック等が発生するのを防止することができ、耐久性を向上させることができる。
したがって、板状試料に対するプラズマ加工の生産性を高めることができ、スループットの向上を図ることができる。
【0021】
また、厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントを用いたので、このヒータエレメントのパターンを板状試料に反映され難くすることができ、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することができる。
【0022】
また、静電チャック部の厚みを0.7mm以上かつ3.0mm以下としたので、静電チャック部自体の厚みを薄くすることができ、したがって、熱容量を小さくすることができ、載置される板状試料との熱交換効率を向上させることができ、熱応答性を向上させることができる。
また、静電チャック部の厚みを薄くしたことで、急激な温度変化に容易に追随することができ、加熱及び冷却に要する時間を更に短縮することができる。したがって、工程時間のさらなる短縮を図ることができ、生産性のさらなる向上を図ることができる。
【0023】
また、第2の有機系接着剤層の熱伝達率を第1の有機系接着剤層の熱伝達率よりも大としたので、この第1及び第2の有機系接着剤層により挟持されるヒータエレメントから発せられる熱を、この第2の有機系接着剤層から略垂直に静電チャック部に向かって移動させることにより、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の静電チャック装置のヒータエレメントのヒーターパターンの一例を示す平面図である。
【図3】実施例の静電チャック装置の冷却時のシリコンウエハの面内温度分布を示す図である。
【図4】実施例の静電チャック装置の50℃に保持した時のシリコンウエハの面内温度分布を示す図である。
【図5】実施例の静電チャック装置の昇温時のシリコンウエハの面内温度分布を示す図である。
【図6】従来のウエハ保持装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の静電チャック装置を実施するための形態について、図面に基づき説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図であり、この静電チャック装置21は、円板状の静電チャック部22と、この静電チャック部22の下方に配設され厚みのある円板状の温度調整用ベース部23と、これら静電チャック部22及び温度調整用ベース部23を接着一体化する有機系接着剤層24と、この有機系接着剤層24に内蔵されたヒータエレメント(加熱部材)25とから主として構成されている。
【0027】
静電チャック部22は、上面がシリコンウエハ等の板状試料Wを載置する載置面31aとされたセラミックスからなる載置板31と、この載置板31を下方から支持するセラミックスからなる支持板32と、これら載置板31と支持板32との間に設けられた静電吸着用内部電極33及び環状の絶縁材34と、支持板32を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極33に直流電圧を印加する給電用端子35とにより構成されている。
【0028】
これら載置板31及び支持板32は、その重ね合わせ面の形状を同じくする円板状のもので、絶縁性のセラミックス焼結体からなるものである。
このセラミックスとしては、体積固有抵抗が1013〜 1015Ω・cm程度で機械的な強度を有し、しかも腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、アルミナ(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、アルミナ(Al)−炭化珪素(SiC)複合焼結体等が好適に用いられる。
【0029】
これら載置板31及び支持板32の合計の厚み、即ち、静電チャック部22の厚みは0.7mm以上かつ3.0mm以下が好ましい。その理由は、静電チャック部22の厚みが0.7mmを下回ると、静電チャック部22の機械的強度を確保することができず、一方、静電チャック部22の厚みが3.0mmを上回ると、静電チャック部22の熱容量が大きくなり、載置される板状試料Wとの熱交換効率が低下し、熱応答性が劣化し、さらに、熱の移動は、有機系接着剤層24の垂直方向よりも水平方向(図1中、左右方向)に生じ易く、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが困難になるからである。
【0030】
この載置板31の厚みは0.2mm以上かつ1.5mm以下が好ましく、特に好ましくは0.5mm以上かつ1.0mm以下である。その理由は、載置板31の厚みが0.2mm未満であると、充分な耐電圧を確保することができず、一方、1.5mmを超えると、静電吸着力が低下する他、載置板31の載置面31aに載置される板状試料Wと温度調整用ベース部23との間の熱伝導性が低下し、処理中の板状試料Wの温度を所望の温度パターンに保つことが困難となるからである。
【0031】
また、支持板32の厚みは0.5mm以上かつ2.8mm以下が好ましく、特に好ましくは1.0mm以上かつ2.0mm以下である。その理由は、支持板32の厚みが0.5mm未満であると、充分な耐電圧を確保することができず、一方、2.8mmを超えると、載置板31の載置面31aに載置される板状試料Wと温度調整用ベース部23との間の熱伝導性が低下し、処理中の板状試料Wの温度を所望の温度パターンに保つことが困難となるからである。
【0032】
静電吸着用内部電極33は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを載置面31aに固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状及び大きさが適宜調整される。
この静電吸着用内部電極33を構成する材料としては、チタン、タングステン、モリブデン、白金等の高融点金属、グラファイト、カーボン等の炭素材料、炭化ケイ素、窒化チタン、炭化チタン等の導電性セラミックス等が好適に用いられる。これらの材料の熱膨張係数は、載置板31及び支持板32の熱膨張係数に出来るだけ近似していることが望ましい。
【0033】
この静電吸着用内部電極33の厚みは、特に限定されるものではないが、温度調整用ベース部23をプラズマ発生用電極として使用する場合には、0.1μm以上かつ100μm以下が好ましく、特に好ましくは5μm以上かつ20μm以下である。その理由は、厚みが0.1μmを下回ると、充分な導電性を確保することができず、一方、厚みが100μmを越えると、載置板31及び支持板32と静電吸着用内部電極33との間の熱膨張率差に起因して、載置板31と支持板32との接合界面にクラックが入り易くなるからである。
このような厚みの静電吸着用内部電極33は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0034】
環状の絶縁材34は、静電吸着用内部電極33を囲繞して腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極33を保護するためのものであり、載置板31及び支持板32と同一組成または主成分が同一の絶縁性材料により構成され、この絶縁材34により載置板31と支持板32とが、静電吸着用内部電極33を介して接合一体化されている。
【0035】
給電用端子35は、静電吸着用内部電極33に直流電圧を印加するために設けられた棒状のものであり、その数及び形状等は、静電吸着用内部電極33の形態、即ち、この静電吸着用内部電極33が単極型か、双極型かにより決定される。
この給電用端子35の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用内部電極33及び支持板32の熱膨張係数に近似したものが好ましく、例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックスが好適に用いられる。
この給電用端子35は、有機系接着剤層24及び温度調整用ベース部23を貫通し、外部の電源(図示略)に接続されている。
【0036】
温度調整用ベース部23は、静電チャック部22を所望の温度パターンに調整するためのもので、金属および/またはセラミックスからなる厚みのある円板状のものである。この温度調整用ベース部23は、プラズマ発生用内部電極を兼ねており、その内部には、水、Heガス、N2ガス等の熱媒体を循環させる流路41が形成され、その躯体は外部の高周波電源(図示略)に接続されている。
【0037】
この温度調整用ベース部23を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はなく、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS) 等が好適に用いられる。この温度調整用ベース部23の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
この温度調整用ベース部23は、少なくともプラズマに曝される面にアルマイト処理または絶縁膜の成膜が施されていることにより、耐プラズマ性が向上する他、異常放電が防止され、したがって、耐プラズマ安定性が向上したものとなる。また、表面に傷が付き難くなるので、傷の発生を防止することができる。
【0038】
有機系接着剤層24は、熱応力の緩和作用を有するもので、温度調整用ベース部23と接着一体化する第1の有機系接着剤層24aと、この有機系接着剤層24aと静電チャック部22とを接着一体化する第2の有機系接着剤層24bとの2層構造とされ、かつ、有機系接着剤層24bの熱伝達率は、有機系接着剤層24aの熱伝達率よりも大とされている。
【0039】
この有機系接着剤層24の厚みは、有機系接着剤層24aと有機系接着剤層24bとの合計厚みで100μm以上かつ500μm以下であることが好ましい。
この有機系接着剤層24の厚みが100μmを下回ると、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との間の熱伝導性は良好となるものの、熱応力緩和が不充分となり、割れやクラックが生じ易くなるからであり、一方、有機系接着剤層24の厚みが500μmを超えると、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との間の熱伝導性を十分確保することができなくなるからである。
【0040】
この有機系接着剤層24aの厚みは、100μm以上かつ350μm以下であることが好ましい。この有機系接着剤層24aの厚みが100μmを下回ると、有機系接着剤層24bの厚みとの差異が実質的に無くなり、有機系接着剤層24bの熱伝達率を、この有機系接着剤層24aの熱伝達率よりも大きくすることが困難となり、一方、有機系接着剤層24aの厚みが350μmを超えると、温度調整用ベース部23の温度制御性が低下するので好ましくない。
【0041】
この有機系接着剤層24bの厚みは、10μm以上かつ100μm以下であることが好ましい。その理由は、この有機系接着剤層24bの厚みが10μmを下回ると、内蔵されたヒータエレメント25の形状が板状試料Wに反映され、板状試料Wに温度ムラが生じ易く、応力緩和が不充分となり、その結果、静電チャック部22が熱応力により破壊する虞が生じるからである。一方、有機系接着剤層24bの厚みが100μmを超えると、有機系接着剤層24aの厚みとの差異が実質的に無くなり、この有機系接着剤層24bの熱伝達率を有機系接着剤層24aのそれよりも大きくすることが困難になるからである。
【0042】
この有機系接着剤層24は、例えば、シリコーン系樹脂組成物の硬化体で形成されている。このシリコーン系樹脂組成物は、耐熱性、弾性に優れた樹脂であり、シロキサン結合(Si−O−Si)を有するケイ素化合物である。このシリコーン系樹脂組成物は、例えば、下記の式(1)または式(2)の化学式で表すことができる。
【0043】
【化1】

但し、Rは、Hまたはアルキル基(C2n+1−:nは整数)である。
【0044】
【化2】

但し、Rは、Hまたはアルキル基(C2n+1−:nは整数)である。
【0045】
このようなシリコーン樹脂としては、特に、熱硬化温度が70℃〜140℃のシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
ここで、熱硬化温度が70℃を下回ると、静電チャック部22の支持板32と温度調整用ベース部23とを接合する際に、接合過程の途中で硬化が始まってしまい、接合作業に支障を来す虞があるので好ましくなく、一方、熱硬化温度が140℃を超えると、支持板32と温度調整用ベース部23との熱膨張差を吸収することができず、載置板31の載置面31aにおける平坦度が低下するのみならず、支持板32と温度調整用ベース部23との間の接合力が低下し、これらの間で剥離が生じる虞があるので好ましくない。
【0046】
このシリコーン樹脂としては、硬化後のヤング率が8MPa以下のものを用いることが好ましい。ここで、硬化後のヤング率が8MPaを超えると、有機系接着剤層24に昇温、降温の熱サイクルが負荷された際に、支持板32と温度調整用ベース部23との熱膨張差を吸収することができず、有機系接着剤層24の耐久性が低下するので、好ましくない。
【0047】
この有機系接着剤層24には、平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラー、例えば、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)からなる被覆層が形成された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子が含有されていることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、シリコーン樹脂の熱伝導性を改善するために混入されたもので、その混入率を調整することにより、有機系接着剤層24a、14b各々の熱伝達率を制御することができる。
【0048】
すなわち、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の混入率を高めることにより、静電チャック部22側の有機系接着剤層24bを構成する有機系接着剤の熱伝達率を大きくすることができる。
また、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)からなる被覆層が形成されているので、表面被覆が施されていない単なる窒化アルミニウム(AlN)粒子と比較して、優れた耐水性を有している。したがって、シリコーン系樹脂組成物を主成分とする有機系接着剤層24の耐久性を確保することができ、その結果、静電チャック装置21の耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0049】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面が、優れた耐水性を有する酸化ケイ素(SiO)からなる被覆層により被覆されているので、窒化アルミニウム(AlN)が大気中の水により加水分解される虞が無く、窒化アルミニウム(AlN)の熱伝達率が低下する虞もなく、有機系接着剤層24の耐久性が向上する。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、半導体ウエハ等の板状試料Wへの汚染源となる虞もない。
【0050】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、被覆層中のSiとシリコーン系樹脂組成物とにより強固な結合状態を得ることが可能であるから、有機系接着剤層24の伸び性を向上させることが可能である。これにより、静電チャック部22の支持板32の熱膨張率と温度調整用ベース部23の熱膨張率との差に起因する熱応力を緩和することができ、静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを精度よく、強固に接着することができる。また、使用時の熱サイクル負荷に対する耐久性が充分なものとなり、静電チャック装置21の耐久性が向上する。
【0051】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径は、1μm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以上かつ5μm以下である。
ここで、この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径が1μmを下回ると、粒子同士の接触が不十分となり、結果的に熱伝達率が低下する虞があり、また、粒径が細か過ぎると、取扱等の作業性の低下を招くこととなり、好ましくない。一方、平均粒径が10μmを越えると、局所的には有機系接着剤層内におけるシリコーン系樹脂組成物の占める割合が減少し、有機系接着剤層24の伸び性、接着強度の低下を招く虞がある。
【0052】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の被覆層の厚みは0.005μm以上かつ0.05μm以下が好ましく、より好ましくは0.005μm以上かつ0.03μm以下である。
この被覆層の厚みが0.005μmを下回ると、窒化アルミニウム(AlN)の耐水性(耐湿性)を充分に発現することができず、したがって、表面被覆が施されていない単なる窒化アルミニウム(AlN)粒子と同等の特性しか得られず、また化学的に不安定であるからであり、一方、被覆層の厚みが0.05μmを越えると、粒子としての熱伝達率が低下し、ひいては載置板31の載置面31aに載置される板状試料Wと温度調整用ベース部23との間の熱伝達率が低下し、処理中の板状試料Wの温度を所望の温度パターンに保つことが困難となるからである。
【0053】
ヒータエレメント25は、有機系接着剤層24aと有機系接着剤層24bとの接合界面に配設されたもので、例えば、図2に示すように、相互に独立した2つのヒータ、すなわち中心部に形成された内ヒータ25aと、この内ヒータ25aの周縁部外方に形成された外ヒータ25bとにより構成され、これら内ヒータ25a及び外ヒータ25b各々の両端部の給電用端子との接続位置26それぞれには、給電用端子51(図示略)が接続されている。
【0054】
これら内ヒータ25a及び外ヒータ25bは、それぞれが、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させたパターンを軸を中心として、この軸の回りに繰り返し配置し、かつ隣接するパターン同士を接続することで、1つの連続した帯状のヒーターパターンとされている。
このヒータエレメント25では、これら内ヒータ25a及び外ヒータ25bをそれぞれ独立に制御することにより、載置板31の載置面31aに静電吸着により固定されている板状試料Wの面内温度分布を精度良く制御するようになっている。
【0055】
このヒータエレメント25のヒーターパターンは、上記のように相互に独立した2つ以上のヒーターパターンにより構成してもよく、また、1つのヒーターパターンにより構成してもよいが、上記の内ヒータ25a及び外ヒータ25bのようにヒータエレメント25を相互に独立した2つ以上のヒーターパターンにより構成すると、これら相互に独立したヒーターパターンを個々に制御することにより、処理中の板状試料Wの温度を自由に制御することができるので、好ましい。
【0056】
このヒータエレメント25は、厚みが200μm以下、好ましくは100μm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等を所望のヒーターパターンにエッチング加工することで形成される。
ここで、ヒータエレメント25の厚みを200μm以下とした理由は、厚みが200μmを超えると、ヒータエレメント25のパターン形状が板状試料Wの温度分布として反映され、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが困難になるからである。
【0057】
また、ヒータエレメント25を非磁性金属で形成すると、静電チャック装置1を高周波雰囲気中で用いてもヒータエレメントが高周波により自己発熱しないので、板状試料Wの面内温度を所望の一定温度または一定の温度パターンに維持することが容易となるので好ましい。
また、一定厚さの非磁性金属薄板でヒータエレメント5を形成すると、ヒータエレメント5の厚みが加熱面全域で一定となり、発熱量も加熱面全域で一定となって温度分布を均一化することができる。
【0058】
このヒータエレメント25では、これら内ヒータ25a及び外ヒータ25bをそれぞれ独立に制御することにより、このヒータエレメント25のヒーターパターンを板状試料Wに反映され難くすることができ、載置板31の載置面31aに静電吸着により固定されている板状試料Wの面内温度分布を所望の温度パターンに精度良く制御することができる。
いる板状試料Wの面内温度分布を所望の温度パターンに精度良く制御することができる。
【0059】
給電用端子51は、ヒータエレメント25に電力を印加するためのものであり、その数、形状等は、ヒータエレメント25のヒータの構成、すなわち、1つのヒータにより構成するか、あるいは、上記の内ヒータ25a及び外ヒータ25bのように相互に独立した2つ以上のヒータにより構成するかによって決定される。
この給電用端子51の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数がヒータエレメント25の熱膨張係数に近似したものが好ましく、例えば、コバール合金、ニオブ(Nb)等の金属材料、各種の導電性セラミックスが好適に用いられる。
【0060】
このように、ヒータエレメント25を熱応力の緩和作用を有する有機系接着剤層24a、24bにより挟持することで、ヒータエレメント25を有機系接着剤層24に内蔵した構成としたことにより、板状試料Wへのプラズマ加工の生産性を高めるために板状試料Wを急速に昇降温させても、静電チャック部22に熱応力破壊(クラック)が発生する虞がない。すなわち、有機系接着剤のヤング率はセラミックスのヤング率よりも小さく、かつ、ヒータエレメント25をセラミックス中に配設するよりも、有機系接着剤層24中に配設する方が熱応力を緩和する効果に優れているので、板状試料Wへのプラズマ加工の生産性を高めるために板状試料Wを急速に昇降温させても、静電チャック部22にクラックが発生することがなく、耐久性に優れた静電チャック装置21となる。
【0061】
また、ヒータエレメント25を有機系接着剤層24中に配設したので、静電チャック部22の厚み、即ち、載置板31と支持板32との合計厚みを、例えば0.7mm以上かつ3.0mm以下と薄くすることができ、よって、熱容量が小さく、載置される板状試料Wとの熱交換効率がよく、熱応答性に優れたものとなる。
また、熱の移動は、有機系接着剤層24の垂直方向(図1中、上下方向)に生じ易く、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが可能な静電チャック装置21となる。
【0062】
さらに、有機系接着剤層24を有機系接着剤層24aと有機系接着剤層24bとの2層構造とし、静電チャック部22側の有機系接着剤層24bの熱伝達率を大きくし、有機系接着剤層24a、24bの界面にヒータエレメント25を配設したので、ヒータエレメント25への通電により発熱した熱は、静電チャック部22側へ、即ち静電チャック部22の載置面31aに載置された板状試料Wへ効率よく移動し、処理中の板状試料Wの温度を望ましい温度パターンに保つことが容易となる。
【0063】
次に、この静電チャック装置21の製造方法について、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との接着方法に重点をおいて説明する。
【0064】
まず、公知の方法により、静電チャック部22と、温度調整用ベース部23とを作製する。
一方、シリコーン系樹脂と、熱伝導性改善用フィラーを、所定の比率で混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、シリコーン系樹脂と熱伝導性改善用フィラーとの混合物(以下、「シリコーン系樹脂組成物」と称する)を作製する。
このシリコーン系樹脂組成物の粘度を塗布に適するように、所定の粘度、例えば50〜300Pa・sとなるように、トルエン、キシレン等の有機溶媒で調整してもよい。
次いで、静電チャック部22の温度調整用ベース部23との接合面を、例えばアセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上にシリコーン系樹脂組成物を、例えばバイーコータを用いて、一定の厚みになるように塗布する。
【0065】
次いで、この塗布面にチタン(Ti)薄板を載置し、シリコーン系樹脂組成物を硬化させる。これにより、このシリコーン樹脂組成物の硬化体が、有機系接着剤層24のうちの、静電チャック部22側の有機系接着剤層24bとなる。
次いで、このチタン(Ti)薄板を、例えばフォトリソグラフィー法によりエッチング加工を施し、所望の形状(ヒータパターン)を有するヒータエレメント25とする。また、このヒータエレメント25に、給電用端子51を、例えば溶接法を用いて立設する。
【0066】
一方、温度調整用ベース部23の静電チャック部22との接合面を、例えばアセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上にセラミックス製スペーサ(図示略)を常温硬化型シリコーン接着剤を用いて接着固定する。
このスペーサは、静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを一定の間隔をおいて接合することにより、これらの間に挟持される有機系接着剤層24の厚みを所定の厚みとするためのものであり、スペーサの個数は適宜でよい。また、配置する位置は、ヒータエレメント25のヒータパターンの間とする。
【0067】
次いで、この温度調整用ベース部23を常温に所定時間放置して常温硬化型シリコーン接着剤を十分硬化させ、この上に、有機系接着剤層24aを形成するためのシリコーン系樹脂組成物を塗布する。このシリコーン系樹脂組成物の塗布量は、静電チャック部22と温度調整用ベース部23とがスペーサにより一定の間隔を保持した状態で接合一体化できるように、所定量の範囲内とする。
このシリコーン系樹脂組成物の塗布方法としては、ヘラ等を用いて手動で塗布する他、バーコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
【0068】
塗布後、静電チャック部22と温度調整用ベース部23とをシリコーン系樹脂組成物を介して重ね合わせる。この際、立設した給電用端子51を、温度調整用ベース部23中に穿孔された給電用端子収容孔(図示略)に挿入する。
次いで、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との間隔がスペーサの厚みになるまで落し込み、押し出された余分なシリコーン樹脂組成物を除去する。
落し込む際の温度は、シリコーン樹脂組成物の流動性が最も得られる温度下で行うのが好ましい。このシリコーン樹脂組成物の硬化体が、2層構造を有する有機系接着剤層24のうちの温度調整用ベース部23側の有機系接着剤層24aを構成する。
【0069】
このようにして得られた静電チャック装置21は、静電チャック部22と温度調整用プレート部23との間の接合強度が3MPa以上の実用的な強度を有している。また、この有機系接着剤層24の熱伝達率は0.5W/mK以上、ヤング率は8MPa以下であり、熱伝導性、伸び性に優れている。
また、ヒータエレメント25が有機系接着剤層24中に配設され、この有機系接着剤層24が熱応力の緩和作用を有するので、板状試料Wへのプラズマ加工の生産性を高めるために板状試料Wを急速に昇降温させても、静電チャック部22にクラックが発生することがない。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
「実施例」
(静電チャック装置の作製)
公知の方法により、内部に厚み20μmの静電吸着用内部電極33が埋設された静電チャック部22を作製した。
この静電チャック部22の載置板31は、炭化ケイ素を8質量%含有するアルミナ−炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は298mm、厚みは0.5mmの円板状であった。また、この載置板31の静電吸着面を、高さが40μmの多数の突起を形成することで凹凸面とし、これらの突起の頂面を板状試料の保持面とし、凹部と静電吸着された板状試料との間に形成される溝に冷却ガスを流すことができるようにした。これらの突起の頂面の合計面積は静電吸着面の面積の15%であった。
【0072】
また、支持板32も載置板31と同様、炭化ケイ素を8質量%含有するアルミナ−炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は298mm、厚みは1.0mmの円板状であった。
これら載置板31及び支持板32を接合一体化することにより、静電チャック部22の全体の厚みは1.5mmとなっていた。
【0073】
一方、直径340mm、高さ30mmのアルミニウム製の温度調整用ベース部23を、機械加工により作製した。この温度調整用ベース部23の内部には冷媒を循環させる流路41を形成した。
また、幅1mm、長さ1mm、高さ300μmの角形状のスペーサを、アルミナ焼結体にて作製した。
【0074】
また、シリコーン樹脂 TSE3221(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)に、表面が酸化ケイ素(SiO)により被覆された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末 TOYALNITE(東洋アルミニウム(株)社製)を、上記のシリコーン樹脂及び表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の体積の合計量に対して30vol%となるように混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、第1のシリコーン系樹脂組成物を得た。
なお、窒化アルミニウム粉末は、湿式篩により選別した粒径が平均7〜20μmのものを用いた。この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の被覆層である酸化ケイ素(SiO)の厚みは0.008μmであった。
【0075】
次いで、静電チャック部22の温度調整用プレート部23との接合面をアセトンを用いて充分脱脂・洗浄し、この接合面に第1のシリコーン系樹脂組成物を、硬化後の厚みが40μmとなるようにバーコータを用いて塗布し、この塗布面上に厚み100μmのチタン(Ti)薄板を載置した。次いで、大気中、115℃にて12時間保持し、静電チャック部22とチタン(Ti)薄板とを接着固定した。
【0076】
次いで、チタン(Ti)薄板をフォトリソグラフィー法により、図2に示すヒータパターンにエッチング加工し、ヒータエレメント25とした。また、このヒータエレメント25に、チタン製の給電用端子51を溶接法を用いて立設した。
一方、温度調整用ベース部23の静電チャック部22との接合面を、アセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上に上記のスペーサを、常温硬化型シリコーン接着剤 信越シリコーン KE4895T(信越化学工業(株)社製)を用いて接着した。
次いで、この温度調整用プレート部23を大気中に5時間静置し、常温硬化型シリコーン接着剤を十分硬化させた。
【0077】
また、シリコーン樹脂 TSE3221(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)に、表面が酸化珪素(SiO)により被覆された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末 TOYALNITE(東洋アルミニウム(株)社製)を、上記のシリコーン樹脂及び表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の体積の合計量に対して20vol%となるように混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、第2のシリコーン系樹脂組成物を得た。
なお、窒化アルミニウム粉末は、湿式篩により選別した粒径が平均7〜20μmのものを用いた。この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の被覆層である酸化ケイ素(SiO)の厚みは0.008μmであった。
【0078】
次いで、第2のシリコーン系樹脂組成物を、ヘラを用いて、静電チャック部22及び温度調整用ベース部23それぞれの接合面に塗布した。
塗布後、50℃、1Pa以下の条件下にて30分間保持し、真空脱泡処理を行った。次いで、これら静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを重ね合わせ、50℃、大気中にて、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との間隔が300μm、即ち、角形状のスペーサの高さになるまで落し込んだ。
次いで、大気中、115℃にて12時間保持し、第2のシリコーン樹脂組成物を硬化させて静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを接合させ、実施例の静電チャック装置21を作製した。
【0079】
(評価)
(1)耐久性
静電チャック部22の載置面31aに直径300mmのシリコンウエハを静電吸着させ、温度調整用ベース部23の流路41に20℃の冷却水を循環させながら、外側のヒータエレメント25bのみに通電することにより、シリコンウエハの温度を25℃から80℃まで3℃/秒の昇温速度で昇温し、80℃に5分間保持し、その後、ヒータエレメント25への通電を停止して25℃まで冷却する熱サイクルを500回負荷した。
その結果、静電チャック装置には何等異常は何ら認められなかった。
【0080】
(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性
a.静電チャック部22の載置面31aに直径300mmのシリコンウエハを静電吸着させ、温度調整用ベース部23の流路41に20℃の冷却水を循環させながら、シリコンウエハの中心温度が50℃となるようにヒータエレメント25の外ヒータ25b及び内ヒータ25aに通電し、このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を図3に示す。図中、Aはシリコンウエハの一直径方向の面内温度分布を、Bはシリコンウエハの上記の一直径方向と直行する直径方向の面内温度分布を、それぞれ示している。
【0081】
次に、
b.ヒータエレメント25の外ヒータ25bの通電量を上げて、シリコンウエハ外周部の温度が70℃となるように昇温速度3.6℃/秒にて昇温させ、このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を図4に示す。図中、Aはシリコンウエハの一直径方向の面内温度分布を、Bはシリコンウエハの上記の一直径方向と直行する直径方向の面内温度分布を、それぞれ示している。
【0082】
さらに、
c.ヒータエレメント25の外ヒータ25bの通電を停止し、シリコンウエハ外周部の温度が30℃となるように降温速度4.0℃/秒にて降温させ、このときのシリコンウエハの面内温度分布をサーモグラフィTVS−200EX(日本アビオニクス社製)を用いて測定した。その結果を図5に示す。図中、Aはシリコンウエハの一直径方向の面内温度分布を、Bはシリコンウエハの上記の一直径方向と直行する直径方向の面内温度分布を、それぞれ示している。
【0083】
上記のa〜cの測定結果によれば、シリコンウエハの面内温度が±20℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。
【0084】
(3)疑似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度制御
静電チャック装置21を真空チャンバ内に固定し、擬似プラズマ入熱下におけるシリコンウエハの面内温度を測定した。ここでは、擬似プラズマ入熱として、静電チャック装置21の載置面から40mm上部に配設され、直径が300mmの面状でありかつ外周部が内部よりも発熱量が多い外部ヒータによる加熱を用いた。なお、シリコンウエハと静電チャック部の静電吸着面との間に形成された溝に、30torrの圧力のHeガスを流した。
【0085】
ここでは、まず、静電チャック部22の載置面31aに直径300mmのシリコンウエハを静電吸着させ、温度調整用ベース部23の流路41に20℃の冷却水を循環させながら、シリコンウエハ全域の温度が40℃となるように、ヒータエレメント25の外ヒータ25b及び内ヒータ25aに通電した。
【0086】
次いで、
d.上記の通電状態を維持しつつ、さらに外ヒータ25bにも通電した。このときのシリコンウエハの面内温度を熱電対で測定したところ、シリコンウエハ中心部の温度は60℃、シリコンウエハ外周部の温度は70℃であった。
次いで、
e.ヒータエレメント25の内ヒータ25a及び外ヒータ25bの通電を維持したまま、ヒータエレメント25の外ヒータ25bの通電量を下げた。このときのシリコンウエハの面内温度を熱電対で測定したところ、シリコンウエハ全域において、温度は60℃と一定であった。
【0087】
上記のd〜eの測定結果によれば、擬似プラズマ入熱下においても、シリコンウエハの面内温度が10℃の範囲内で良好に制御されていることが分かった。
【0088】
「比較例」
(静電チャック装置の作製)
実施例に準じて、比較例の静電チャック装置を作製した。
ただし、静電チャック部の厚みを3.5mmとし、この静電チャック部においては、静電吸着用内部電極の1.5mm下に厚み100μmのモリブデン(Mo)薄板により形成された実施例と同一形状のヒータエレメントを配設した。
また、静電チャック部と温度調整用ベース部とは第1及び第2のシリコーン系樹脂組成物を用いて実施例と同様にして接着一体化した。
【0089】
(評価)
(1)耐久性
比較例の静電チャック装置の耐久性を、実施例に準じて評価した。
その結果、1回の熱サイクル付加で静電チャック部に多数のクラックの発生が認められ、静電チャック装置が破壊されていることが認められた。
(2)シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性
比較例の静電チャック装置を用い、シリコンウエハの面内温度制御及び昇降温特性を、実施例に準じて評価した。
【0090】
これらの結果によれば、上記a〜cのいずれの場合も、制御可能な面内温度は±10℃の範囲内であり、シリコンウエハの面内温度を±20℃の範囲内で制御することは困難であり、実施例の静電チャック装置の面内温度制御特性よりも劣るものであった。
また、シリコンウエハの外周部の温度を50℃から70℃まで昇温、または50℃から30℃まで降温させるための昇降温速度の最大値は2℃/秒であり、実施例の静電チャック装置の昇温特性よりも劣るものであった。
【符号の説明】
【0091】
21 静電チャック装置
22 静電チャック部
23 温度調整用ベース部
24 有機系接着剤層
24a 第1の有機系接着剤層
24b 第2の有機系接着剤層
25 ヒータエレメント
25a 内ヒータ
25b 外ヒータ
26 給電用端子との接続位置
31 載置板
31a 載置面
32 支持板
33 静電吸着用内部電極
34 絶縁材
35 給電用端子
41 流路
51 給電用端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに内部に静電吸着用内部電極を設けてなる静電チャック部と、
内部に熱媒体を循環させる流路を形成してなる温度調整用ベース部と、
前記静電チャック部と前記温度調整用ベース部との間に配設され厚みが200μm以下の非磁性金属からなる薄板状のヒータエレメントと、
これら静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着一体化すると共に前記ヒータエレメントを挟持してなる2層構造の有機系接着剤層と、を備え、
前記有機系接着剤層は、前記温度調整用ベース部と接着一体化する第1の有機系接着剤層と、この第1の有機系接着剤層と前記静電チャック部とを接着一体化する第2の有機系接着剤層とからなることを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
前記静電チャック部の厚みは、0.7mm以上かつ3.0mm以下であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記有機系接着剤層は、表面被覆窒化アルミニウム粒子からなるフィラーを含有し、前記第2の有機系接着剤層の熱伝達率は、前記第1の有機系接着剤層の熱伝達率よりも大であることを特徴とする請求項1または2記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記有機系接着剤層は、シリコーン樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記第1の有機系接着剤層の厚みは100μm以上かつ350μm以下、かつ、前記第2の有機系接着剤層の厚みは10μm以上かつ100μm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記第1の有機系接着剤層はスペーサを内蔵してなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−9001(P2013−9001A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200990(P2012−200990)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2008−199656(P2008−199656)の分割
【原出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】