説明

静電型エンコーダおよび内視鏡

【課題】小型光学機器で狭いスペースに組み込まれた複数のレンズを位置または変位を正確に計測できる実用性の高い静電型エンコーダ、これを備えた内視鏡を提供する。
【解決手段】静電型エンコーダは、位置計測方向に配置された電位検出電極13を有する固定子11と、各々が、交流信号TXが供給される電位発生電極17A,17Bを有し、固定子との相対的位置が変化するように設けられた2つの移動子12A,12Bと、2つの移動子のいずれか1つに選択的に交流信号を供給する交流信号供給手段21,25と、固定子の電位検出電極から出力された信号に基づいて2つの移動子のいずれか1つの変位信号を生成する信号処理装置20とを備える。静電型エンコーダは時分割で2つの移動子の変位を独立して計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電型エンコーダおよび内視鏡に関し、特に、内視鏡、デジタルカメラ、携帯電話等に組み込まれる小型光学機器に適したレンズ位置計測用の小型の静電型エンコーダ、およびレンズ位置計測装置として当該静電型エンコーダを備えた内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の静電型エンコーダの一例は特許文献1に開示される。特許文献1に開示される静電型エンコーダでは、固定子に対して移動するように移動子を設けるように構成し、当該移動子の位置の計測を可能にする。この静電型エンコーダによれば、固定子は誘導電極と電位検出電極を有するプレート体として形成され、移動子は電極を有するプレート体として形成される。プレート状固定子に対して、プレート状移動子はその上に摺動自在に配置され、任意の位置に移動できるように設けられ、これにより静電型エンコーダのセンサ部が形成される。特許文献1の静電型エンコーダのセンサ部は薄型および小型化に作ることができる。静電型エンコーダは、固定子の電位検出電極と移動子の櫛歯状の電位発生電極
との間に生じる静電作用を利用して、移動子の位置(変位)を計測できる機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−221472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カメラ等の光学機器に組み込まれたレンズ系では、オートフォーカス機構やズーム機構等が備えられる。これらのオートフォーカス機構やズーム機構等では、例えば2個のレンズを独立にかつ同時に移動させるレンズ駆動装置が用いられている。このようなレンズ系では、レンズ群を成す各レンズの位置または変位(移動距離)を正確に計測し、その位置を正確に制御することが要求される。特に、小型の内視鏡、デジタルカメラ、携帯電話等の機器に組み込まれた小型の光学系では、レンズ群、レンズ駆動装置、撮像装置、レンズ位置計測装置を非常に狭いスペースにコンパクトに組み込むことが要求されている。
【0005】
さらに、特に内視鏡の従来の技術では、その小型化に伴って先端部の内部スペースはより小さくなり、レンズ位置計測装置として当該狭いスペースに組み込むことができる実用性の高い装置が存在しなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、内視鏡等の小型の光学機器において狭いスペースに組み込まれた複数のレンズの位置または変位を正確に計測できるレンズ位置計測装置としての実用性の高い静電型エンコーダ、および当該静電型エンコーダを備えた内視鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る静電型エンコーダおよび内視鏡は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0008】
第1の観点に基づく本発明に係る静電型エンコーダは、
位置計測方向に配置された電位検出電極を有する固定子と、
各々が、交流信号が供給される電位発生電極を有し、固定子の電位検出電極に沿って固定子との相対的位置が変化するように設けられた複数の移動子と、
複数の移動子のいずれか1つに選択的に交流信号を供給する交流信号供給手段と、
固定子の電位検出電極から出力された信号に基づいて複数の移動子のいずれか1つの変位信号を生成する信号処理手段と、を備え、
時分割で複数の移動子の変位を独立して計測することを特徴とする。
【0009】
上記の静電型エンコーダにおいて、好ましくは、交流信号供給手段は、交流信号を出力する交流発信器を備えた信号処理手段と、信号処理手段の交流発信器から出力された交流信号を複数の移動子のいずれか1つに供給するように切り替える切替手段とから構成される。
【0010】
上記の静電型エンコーダにおいて、好ましくは、複数の移動子の個数は2つであり、2つの移動子は、固定子の電位検出電極に対して位置計測方向に並べて配置されていることを特徴とする。
【0011】
第2の観点に基づく本発明に係る静電型エンコーダは、
少なくとも電位検出電極を有する固定子と、
電位発生電極を有し、固定子の電位検出電極に沿って固定子との相対的位置が変化するように設けられた少なくとも1つの移動子と、
固定子の電位検出電極から出力された信号に基づいて移動子の変位信号を生成する信号処理手段と、を備える静電型エンコーダであって、
固定子と移動子の間に所定の比誘電率を有するオイルまたはグリースを塗布したことを特徴とする。
【0012】
上記の静電型エンコーダにおいて、好ましくは、オイルまたはグリースは非揮発性を有し、かつ前記比誘電率は1.5以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る内視鏡は、
複数のレンズを含む光学系と、複数のレンズの各々を独立に移動させるレンズ駆動装置と、光学系で得られる像を撮像する撮像装置と、複数のレンズの各々の位置を計測するレンズ位置計測装置とを内蔵する内視鏡であって、
レンズ位置計測装置は、
位置計測方向に配置された電位検出電極を有する固定子と、
複数の移動子であって、各々が、複数のレンズのいずれかに連結されてレンズの移動と共に移動し、交流信号が供給される電位発生電極を有しかつ固定子の電位検出電極に沿って固定子との相対的位置が変化するように設けられた当該複数の移動子と、
複数の移動子のいずれか1つに選択的に交流信号を供給する交流信号供給手段と、
固定子の電位検出電極から出力された信号に基づいて複数の移動子のいずれか1つの変位信号を生成する信号処理手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記の内視鏡において、好ましくは、
レンズ駆動装置を含む装置部は筒状の内視鏡容器の先部内に固定され、撮像装置は当該装置部の背面側に固定され、
内視鏡容器の先部内で複数のレンズはその光軸を一致させて当該装置部の正面側に配置し、
固定子は当該装置部に固定され、
複数の移動子は、それぞれ、連結部材を介して前記複数のレンズに連結される、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る静電型エンコーダによれば、電位検出電極を有する1つの固定子に対して各々電位発生電極を有する少なくとも2つの移動子を移動自在に設け、交流信号を切り替えて選択的に2つの移動子の電位発生電極に給電するように構成したため、その信号処理装置から各移動子の変位に係る信号を個別に正確に取り出すことができ、1つの固定子および信号処理装置で時分割により少なくとも2つの移動子の変位を独立して計測することもできる。複数の移動子に対して共通する固定子を用いた場合は、複数の移動子に対して対応する固定子を用いた場合と比較し、配線数を低減することができる。
また内視鏡、デジタルカメラ、携帯電話等の複数のレンズを含む小型光学機器において狭いスペースに組み込まれた複数のレンズを位置または変位を正確に計測できるレンズ位置計測装置として利用することができる。
【0016】
さらに本発明に係る静電型エンコーダによれば、固定子の表面を移動するに配置された少なくとも2つの移動子と、当該固定子の間に所定のオイルまたはグリースを介在させるようにしたため、移動子の摺動特性を向上することができると共に、固定子の電位検出電極での受信強度を大きくすることができる。
【0017】
本発明に係る内視鏡によれば、本発明による静電型エンコーダを、複数のレンズを含む光学系におけるレンズ位置計測装置として利用したため、内視鏡の先端部の狭いスペースにレンズ位置計測装置を組む込むことができ、かつ高い精度で複数のレンズの各々の変位に係る情報を絶対量で得ることができ、光学系によるオートフォーカス機能およびズーム機能等の性能を高めることができ、内視鏡としての観察性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る静電型エンコーダの基本的な構成を概念構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る固定子と移動子の構造と信号処理装置の構成を示す平面図および回路ブロック図である。
【図3】回路各部の波形についてのタイミングチャートである。
【図4】固定子の上面に設けた潤滑剤の状態を示す斜視図である。
【図5】図4の示した構造における要部の縦断面図である。
【図6】本発明に係る内視鏡の要部構造を示す縦断面図である。
【図7】本発明に係る内視鏡の要部構造の分解斜視図である。
【図8】内視鏡内に設けられた固定子と移動子の配置関係を示す斜視図である。
【図9】内視鏡内に設けられた固定子と移動子の配置関係における信号引出し線の引き回し構造を説明する図である。
【図10】信号引出し線の引き回し構造の要部構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明に係る静電型エンコーダの基本的な構成を概念的に示す。図1において、10は静電型エンコーダである。静電型エンコーダ10は、1つの固定子11と、当該固定子11の上で当該固定子11に対してそれらの相対的な位置が変化するように移動自在に設けられた2つの移動子12A,12Bとから構成されている。固定子11は、所要の長さを有する長方形の平面形状を有し、かつプレート状の形状を有する。固定子11は、一般的に、電子機器に用いられているプリント基板、あるいはフレキシブルプリント基板(FPC)で作製される。図1において、固定子11には、4相の電位検出電極13(図2に示す)が形成され、絶縁体の中に組み込まれている。4相の電位検出電極13は固定子11の長手方向に配置される。固定子11の一端には4相の交流信号に係る接続端子(A,B,C,D)が設けられ、これらの4つの接続端子(A,B,C,D)には4相の交流信号に係る信号線14が接続されている。
【0021】
上記の2つの移動子12A,12Bは、プレート状の固定子11の上に、その長手方向に並べて移動自在に配置される。図1において、左側の移動子12AはD1方向に往復動自在であり、右側の移動子12BはD2方向に往復動自在である。各移動子12A,12BのD1方向とD2方向は長方形の固定子11の長手方向と一致している。固定子11の長手方向は、固定子11上を移動する2つの移動子12A,12Bの各々の位置(変位)を計測するための位置計測方向である。固定子11はスケールとして機能する。固定子11上で移動子12A,12Bを移動させる手段は任意である。例えば、手動で移動させることもできるし、あるいは移動子12A,12Bを他の可動部に連結して移動させるように構成することもできる。手動で移動させる場合には、通常、移動子の移動を案内するガイドレール部材等が設けられる。
【0022】
移動子12A,12Bは、構造的な特徴として、矩形の平面形状を有し、下側に所定の電極(電位発生電極17A,17B)が形成されたフィルムと、当該フィルムを補強する例えばアクリル材で作られた上側の補強板15とから構成されている。フィルムは補強板15の下面に接着等で固定されている。移動子12A,12Bの上面には突起部16が設けられている。当該突起部16は例えば手動の際に把持部として利用される。当該突起部16は、移動子12A,12Bにとって必須な要素ではない。また移動子12A,12Bと固定子11の間には、好ましくは、後述するように、オイルまたはグリースのごとき潤滑剤が設けられる。
【0023】
移動子12Aに設けられた電位発生電極17Aには搬送波となる2つの交流信号(P1,Q1)が給電され、移動子12Bに設けられた電位発生電極17Bには搬送波となる2つの交流信号(P2,Q2)が給電される。移動子12Aには交流信号(P1,Q1)に係る接続端子が設けられ、当該接続端子には交流信号(P1,Q1)の給電線18が接続される。移動子12Bには交流信号(P2,Q2)に係る接続端子が設けられ、当該接続端子には交流信号(P2,Q2)の給電線19が接続されている。移動子12Aの給電線18は固定子11の一方の端部(図1中左側の端部)の側から引き出され、移動子12Bの給電線19は固定子11の他方の端部(図1中右側の端部)から引き出されるにように、配線がなされている。
【0024】
固定子11の上を個別にかつ独立に移動できる2つの移動子12A,12Bは、後述するように、それぞれ選択されることによりその位置(変位)が計測される。計測される位置は、固定子11の電位検出電極13上で定義される基準位置からの距離であり、絶対的(アブソリュート)の位置(変位)である。2つの移動子12A,12Bのいずれかの選択は、交流信号(P1,Q1)と交流信号(P2,Q2)のうちのいずれかを選択することにより、行われる。換言すれば、時間的に交流信号の給電を選択することにより、すなわち時分割によって、交流信号が供給された移動子の位置(変位)を計測することが可能となる。
【0025】
固定子11および2つの移動子12A,12Bは、それぞれ所定の電極構造を有し、交流信号「(P1,Q1),(P2,Q2)」の給電を2つの移動子12A,12Bのいずれかに選択することにより、各移動子12A,12Bの移動の際における固定子11と移動子12A,12Bとの各電極間の静電作用に基づき移動子12A,12Bの固定子11に対する相対的変位の計測を行うことができる。
【0026】
なお固定子11の上における各移動子12A,12Bの変位幅は、後述する電極配列(電位検出電極13の配列)で定義される1周期の範囲内である。従って各移動子12A,12Bの位置計測では1周期以内の絶対的位置を計測する。固定子11の電位検出電極13の電極ピッチを仮に0.2mmとすると、電極4個分で1周期となるので、変位幅は4×0.2=0.8(mm)となる。
【0027】
次いで、図2と図3を参照して、2つの移動子に対応して各移動子の位置計測に係る信号処理を行う信号処理装置の回路構成とその動作を説明する。
【0028】
図2において、固定子11は4相の電位検出電極13を示す平面図として描かれ、2つの移動子12A,12Bの各々はその電位発生電極17A,17Bを示す平面図として描かれている。固定子11と移動子12A,12Bの実際の組み付け・配置の関係は図1に示した通りであるが、図2では固定子11および移動子12A,12Bの各々に形成された電極の構造を示すようにしている。
【0029】
信号処理装置20の内部には、レゾルバ/デジタル変換器21、差動増幅器22,23、増幅器24が設けられている。レゾルバ/デジタル変換器21にはレゾルバ/デジタル変換ICが用いられる。レゾルバ/デジタル変換器21には交流発信器21Aが内蔵されている。交流発信器21Aの交流発信出力は、図3の(A)に示すような交流信号TXとして、増幅器24を経由して適当な大きさに増幅して出力される。交流信号TXは、移動子切替スイッチ25を介して、移動子12Aの端子に交流信号(P1,Q1)として供給されるか、または移動子12Bの端子に交流信号(P2,Q2)として供給される。すなわち、交流信号TXは、選択的に、2つの移動子12A,12Bのいずれかの電位発生電極17A,17Bに供給される。交流信号(P1,Q1),(P2,Q2)は、搬送波の差動出力として各移動子12A,12Bの電位発生電極17A,17Bに印加される。
【0030】
固定子11の端子Aと端子Cにおいて得られる信号(「SIN」:図3の(B))を差動増幅器22の2入力端子間で受信し、また端子Bと端子Dにおいて得られる信号(「COS」:図3の(C))を差動増幅器23の2入力端子間で受信する。作動増幅器23,24の出力信号は、それぞれ、受信信号「SIN」と「COS」としてレゾルバ/デジタル変換器21に入力される。これらの2つの受信信号「SIN」と「COS」に対しては、レゾルバ/デジタル変換器21の内部で、以下の処理が行われる。
【0031】
まず「SIN」と「COS」の各信号は、内部のフィードバック信号と共に演算器で差分演算された後に、同期検波回路で整流される。この整流された信号に基づいて、デジタルカウンタでカウントして、このカウント値を上記の演算器へのパラメータとして入力させ、同期検波回路の整流の大きさがゼロになるように自動フィードバックをかける。このときのデジタルカウントの値が「SIN」と「COS」の2つの信号の位相関係を示すことになる。このデジタルカウントの値は、移動子12A,12Bの移動距離(変位)に対応するので、これをシリアル通信によって外部の表示器26に絶対的(アブソリュート)な位置として表示する。デジタルカウンタの値は、そのカウンタのビット長を10ビットとすると、「SIN」と「COS」の2つの信号の位相0〜360度を0〜1024までの値で表すことができる。これは、位相を細かくすることと等価であり、内挿処理と呼ばれている。
【0032】
図3の(B)と(C)で示すように、信号処理装置20からの送信信号である交流信号TXに対して、受信信号SINと受信信号COSは、固定子11と移動子12A,12Bの各電極で構成されるコンデンサ成分の信号であるため、位相のずれが生じる。かかる位相のずれが生じると、変位計測の結果の誤差が大きくなる。位相のずれの影響が顕著になる場合には必要に応じて位相調整回路(図示せず)が用いられる。図3の(D)は、交流信号TXに関して、位相調整のため所定位相量(θt)だけ位相をずらした波形を示している。
【0033】
固定子11の電位検出電極13において4個の電極で1周期長L1が定義される。前述した通り、電位検出電極13の電極ピッチを0.2mmとすると、1周期長L1は0.8mmとなる。10ビットの内挿処理により1024倍とし、これによって分解能は0.78×10−3mm(=0.8(mm)/1024)となる。固定子11の電位検出電極13における1周期長L1の範囲内での各移動子12A,12Bの位置が内挿処理によって細かく出力される。
【0034】
レゾルバ/デジタル変換器21内の交流発信器21Aと移動子切替スイッチ25とによって、移動子12A,12Bのいずれか1つに選択的に交流信号を供給する交流信号供給部が構成される。移動子切替スイッチ25の切替動作で、第1の移動子12Aの端子(P1,Q1)に交流信号TXが供給されると、信号処理装置20で移動子12Aの位置が計測され、表示器26で移動子12Aの位置を表す数値情報が表示される。移動子切替スイッチ25の切替動作で、第2の移動子12Bの端子(P2,Q2)に交流信号TXが供給されると、信号処理装置20で移動子12Bの位置が計測され、表示器26で移動子12Bの位置を表す数値情報が表示される。
【0035】
移動子切替スイッチ25の切替動作は、通常、外部から切替信号S1を与えることにより行われる。切替信号S1の付与は、手動または自動により、取得したい情報に応じて、あるいは演算目的に応じて、任意に設定することができる。
【0036】
上記の静電型エンコーダ10の構成によれば、2つの移動子12A,12Bに対して1つの固定子11を共通に使用することができ、装置構成を簡素、小型、かつコンパクトにすることができる。また固定子11で誘導電極を設ける必要がないので、固定子11の幅を可能な限り小さくすることができる。さらに2つの移動子12A,12Bの位置を計測するにも拘わらず、1つの信号処理装置20で位置計測(変位計測)に係る信号処理を行うことができる。
【0037】
前述の静電型エンコーダ10では、1つの固定子11に対して2つの移動子12A,12Bを設けるようにしたが、2個より多い数の移動子を設けることもできる。
【0038】
図4と図5に一例として固定子11と移動子12Aの取付け関係を示す。前述した通り、移動子12Aは固定子11の上に摺動自在に設けられる。固定子11は土台となる基板27の上に接着剤28で固定されている。固定子11上で移動子12Aは滑らかに移動させるため、固定子11の上面にはオイルまたはグリース29が塗布されている。オイル等29は、非揮発性および或る程度の粘性を有するものであり、かつ所定の比誘電率を有するものである。比誘電率は好ましくは1.5以上である。オイル等29は好ましくはシリコンオイル、フッ素グリースである。上記の取付け関係は、固定子11と移動子12Bとの関係においても同じである。
【0039】
上記の構成によれば、固定子11と移動子12A,12Bとの間の静電容量がほぼ比誘電率に応じた倍数で増加し、固定子11の電位検出電極13での受信信号の強度を高めることができる。またオイル等29の潤滑特性で移動子12A,12Bの摺動特性を向上することができる。
【0040】
次に、図6〜図8を参照して、前述した構造を有する固定子11と2つの移動子12A,12Bとから成る静電型エンコーダ10をレンズ位置計測装置として利用する内視鏡を説明する。この内視鏡では、その先端部の狭い内部空間に、複数のレンズ(レンズ群)を含む光学系、複数のレンズの各々を独立に移動させるレンズ駆動装置、光学系で得られる像を撮像する撮像装置(カメラユニット)、および複数のレンズの各々の位置(変位)を計測するレンズ位置計測装置を内蔵している。当該レンズ位置計測装置として前述した小型の静電型エンコーダ10が利用される。
【0041】
図6は内視鏡の先端部の要部縦断面図を示し、図7は内視鏡の先端部の要部構造の分解図を示し、図8はレンズ位置計測装置を含む要部構造を下方から見た斜視図である。
【0042】
図6および図7において、内視鏡30の先端容器は、先端キャップ31と筒型容器32とから構成される。先端キャップ31の先端面には透明板33を取り付けた円形の撮像窓34が形成されている。先端キャップ31は筒型容器32の先端側突出部32Aに嵌合しており、先端開口部を塞いでいる。筒型キャップ31の内部、すなわち筒型容器32の先端側突出部32Aの内部には、レンズ機構(光学系)35が配置される。この実施形態では、レンズ機構35は例えば2つのレンズ36,37を備える。2つのレンズ36,37は、隣り合う位置に配置されており、各々の光軸を一致させた状態で配置される。レンズ36,37の光軸は、先端キャップ31の撮像窓34の中心軸と一致している。レンズ36はレンズホルダ38で支持されており、レンズ37はレンズホルダ39で支持されている。
【0043】
41は筒型容器32内に組み付けられるアセンブリユニットである。アセンブリユニット41には撮像装置が付設される。アセンブリユニット41のユニットケース42は筒型容器32の内面部に固定される。図6〜図8において、筒型容器32内には、その下部であって、アセンブリユニット41の下側の箇所にはレンズ駆動装置の要部構造が固定状態で設けられている。
【0044】
レンズ駆動装置は、レンズホルダ38に連結される連結シャフト43および当該連結シャフト43をその軸方向に移動させるアクチュエータ44と、レンズホルダ39に連結される連結シャフト45および当該連結シャフト45をその軸方向に移動させるアクチュエータ46とを備えている。レンズホルダ38,39は、それぞれ、連結シャフト43,45に、バネ71,72で付勢されて摩擦により係合されている。
アクチュエータ44,46は共に例えばほぼ直方体の圧電素子で作られている。アクチュエータ44,46の伸縮に速度差が生じるように、所要の電圧を印加することにより、その軸方向の長さを適宜に変化させることができる。これにより、連結シャフト43,45が速度差を持って振動することから、レンズホルダ38,39は、連結シャフト43,45の軸方向に滑る。その結果、レンズホルダ38,39は、連結シャフト43,45の軸方向に移動する。
2本の連結シャフト43,45は、例えば、図7に示すように平行な位置関係で配置されている。
【0045】
レンズホルダ38,39はレンズ保持リング部38a,39aとシャフト連結部38b、39bと係合突起部38c,39cを有している。レンズ保持リング部38a,39aはレンズ36,37をそれぞれ保持固定する。シャフト連結部38a,39aは連結シャフト43,45にそれぞれ固定される。係合突起部38c,39cは、レンズホルダ38,39が先端側から筒型容器32の先端側突出部32Aの内側スペースに配置された状態において、それぞれ、先端側突出部32Aの係合溝47,48に挿入されて係合される。レンズホルダ38,39が連結シャフト43,45により移動するときに、係合突起部38c,39cと係合溝47,48との係合関係に基づいて、レンズホルダ38,39の姿勢が維持される。
【0046】
レンズホルダ38,39の各々には、さらに、移動子取付け部38d,39dが形成される。レンズホルダ38の移動子取付け部38dでは移動子12Bが固定されている。移動子12Bの引出し線(フラットケーブル)49Bは内視鏡30の基端側に引き延ばして組み付けられる。レンズホルダ39の移動子取付け部39dでは移動子12Aが固定されている。移動子12Aの引出し線(フラットケーブル)49Aは内視鏡30の先端側から基端側に折り返されて引き延ばされ、組み付けられる。
【0047】
上記の引出し線49Aは図1等に示した給電線18に対応しており、引出し線49Bは給電線19に対応している。
【0048】
レンズホルダ38,39が筒型容器32の先端側突出部32Aの内側スペースに組み付けたとき、レンズホルダ38に固定した移動子12Bとレンズホルダ39に固定した移動子12Aは同一面内に配置される。
【0049】
他方、アセンブリユニット41のユニットケース42に付設された撮像装置は、CCDカメラ51とフィルタ部52と信号線群53とから構成される。フィルタ部52はユニットケース42内に組み付けられ、CCDカメラ51はユニットケース42の背面部に付設される。ユニットケース42の底部には平面部が形成されており、この平面部の外面には固定子11が固定されている。49Cは、固定子11から内視鏡30の基端側に引き延ばされた引出し線(フラットケーブル)である。この引出し線49Cは、図1等で示した信号線14に対応している。
【0050】
レンズホルダ38,39を筒型容器32の先端側突出部32Aの内側スペースに組み付け、かつアセンブリユニット41を筒型容器32の背面側から組み付けたとき、レンズホルダ38に固定した移動子12Bとレンズホルダ39に固定した移動子12Aは、ユニットケース41の底部に固定した固定子11に近接して対向するように配置される。図6および図8に示されるように、固定子11の下面に対して2つの移動子12A,12Bの上面が対向している。2つの移動子12A,12Bを同一面内とする、すなわちそれらの高さを同じとするために、移動子12Bの連結材54を介して移動子取付け部38dに固定されている。固定子11の下面には前述したオイルまたはグリースが塗布されている。固定子11の下面に沿って移動する移動子12A,12Bはオイルまたはグリースによって滑らかに移動する。
【0051】
内視鏡30の外部に設けられた図示しない制御装置によって2つのアクチュエータ44,46の伸縮動作を独立に制御する。これにより2つのレンズ36,37の位置を独立に変化させる。2つのレンズ36,37の位置を個別に独立に変化させることによりオートフォーカス機能およびズーム機能を実現する。レンズ36,37の各々の位置(変位)は、固定子11と2つの移動子12A,12Bとから成る静電型エンコーダによって前述した計測原理に基づいて選択式により個別に計測される。各レンズ36,37の移動範囲は例えば0.24mmの距離範囲で設定される。
【0052】
内視鏡30のレンズ位置計測値として上記の静電型エンコーダ10を利用すると、内視鏡30の先端部の狭いスペースにコンパクトに組み込むことができる。
【0053】
次に、図9と図10を参照して、移動子12A,12Bからの引出し線49A,49Bの配線引き回し構造について説明する。
【0054】
図9は一例として図7および図8等に示した固定子11と移動子12Aを下側から見た図である。図10はA方向から見た断面図である。
【0055】
固定子11には、電位検出電極13と引出し線49Cとが設けられている。また移動子12Aには、電位発生電極17Aと、引出し線49Aとが設けられている。
以下、固定子11と移動子12Aとの配置位置を詳細に説明する。
すなわち、移動子12Aは、フレキシブルプリント基板本体61と、フレキシブルプリント基板本体61のうち、固定子11側の面に設けられた電位発生電極17Aと、当該電極17Aを覆うように設けられた保護フィルム部材63と、を備えている。
電位発生電極17Aから引き出るように設けられた配線パターン64は、フレキシブルプリント基板本体61に形成されたスルーホール65を通して、固定子11側の面から固定子11の反対側の面に引き出されている。このようにして、配線パターン64は、移動子12Aの裏側(図10中下側)に引き出され、引出し線49Aを通り、引き出される。かかる構造によれば、引き回された配線パターン64の電荷は受信パターン部から離れるため、送信信号の受信作用に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0056】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る静電型エンコーダは、小型の構成で実現でき、内視鏡、デジタルカメラ、携帯電話等の光学系における複数のレンズの位置計測に利用され、高い精度で各レンズの位置を計測することができる。また本発明に係る内視鏡は、その先端部に組み込まれたレンズ機構に静電型エンコーダによるレンズ位置計測装置を付設することにより高い精度のオートフォーカス機能とズーム機構を備えることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 静電型エンコーダ
11 固定子
12A,12B 移動子
13 電位検出電極
14 信号線
17A,17B 電位発生電極
18 給電線
19 給電線
20 信号処理装置
21 レゾルバ/デジタル変換器
25 移動子切替スイッチ
26 表示器
29 オイルまたはグリース
30 内視鏡
31 先端キャップ
32 筒型容器
35 レンズ機構(光学系)
36,37 レンズ
38,39 レンズホルダ
41 アセンブリユニット
42 ユニットケース
43,45 連結シャフト
44,46 アクチュエータ
51 CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置計測方向に配置された電位検出電極を有する固定子と、
複数の移動子であって、各々が、交流信号が供給される電位発生電極を有し、前記固定子の前記電位検出電極に沿って前記固定子との相対的位置が変化するように設けられた前記複数の移動子と、
前記複数の移動子のいずれか1つに選択的に前記交流信号を供給する交流信号供給手段と、
前記固定子の前記電位検出電極から出力された信号に基づいて前記複数の移動子のいずれか1つの変位信号を生成する信号処理手段と、を備え、
時分割で前記複数の移動子の変位を独立して計測することを特徴とする静電型エンコーダ。
【請求項2】
前記交流信号供給手段は、
前記交流信号を出力する交流発信器を備えた前記信号処理手段と、
前記信号処理手段の前記交流発信器から出力された前記交流信号を前記複数の移動子のいずれか1つに供給するように切り替える切替手段と、から構成される、
ことを特徴とする請求項1記載の静電型エンコーダ。
【請求項3】
前記複数の移動子の個数は2つであり、2つの前記移動子は、前記固定子の前記電位検出電極に対して前記位置計測方向に並べて配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の静電型エンコーダ。
【請求項4】
前記固定子の前記電位検出電極に対して前記位置計測方向に並べて配置された2つの前記移動子で、一方の端部側に配置された前記移動子の交流信号給電線は一方の端部側に引き出され、他方の端部側に配置された前記移動子の交流信号給電線は他方の端部側に引き出されることを特徴とする請求項3記載の静電型エンコーダ。
【請求項5】
前記固定子の前記電位検出電極に対して前記位置計測方向に並べて配置された2つの前記移動子の各々で、前記電位発生電極に接続される前記交流信号給電線は、プリント基板に形成された孔を通して、前記固定子が配置される側とは反対の側に取り出されることを特徴とする請求項4記載の静電型エンコーダ。
【請求項6】
前記信号処理手段は、前記固定子の前記電位検出電極から出力された前記信号を入力し、選択された1つの前記移動子の絶対位置を演算するレゾルバ/デジタル変換器を含み、
前記交流発信器は前記レゾルバ/デジタル変換器内に設けられることを特徴とする請求項2記載の静電型エンコーダ。
【請求項7】
前記固定子と前記複数の移動子の各々との間に所定の比誘電率を有するオイルまたはグリースを塗布したことを特徴とする請求項1記載の静電型エンコーダ。
【請求項8】
前記のオイルまたはグリースは非揮発性を有し、かつ前記比誘電率は1.5以上であることを特徴とする請求項7記載の静電型エンコーダ。
【請求項9】
少なくとも電位検出電極を有する固定子と、
電位発生電極を有し、前記固定子の前記電位検出電極に沿って前記固定子との相対的位置が変化するように設けられた少なくとも1つの移動子と、
前記固定子の前記電位検出電極から出力された信号に基づいて前記移動子の変位信号を生成する信号処理手段と、を備える静電型エンコーダであって、
前記固定子と前記移動子の間に所定の比誘電率を有するオイルまたはグリースを塗布したことを特徴とする静電型エンコーダ。
【請求項10】
前記のオイルまたはグリースは非揮発性を有し、かつ前記比誘電率は1.5以上であることを特徴とする請求項9記載の静電型エンコーダ。
【請求項11】
複数のレンズを含む光学系と、前記複数のレンズの各々を独立に移動させるレンズ駆動装置と、前記光学系で得られる像を撮像する撮像装置と、前記複数のレンズの各々の位置を計測するレンズ位置計測装置とを内蔵する内視鏡であって、
前記レンズ位置計測装置は、
位置計測方向に配置された電位検出電極を有する固定子と、
複数の移動子であって、各々が、前記複数のレンズのいずれかに連結されてレンズの移動と共に移動し、交流信号が供給される電位発生電極を有しかつ前記固定子の前記電位検出電極に沿って前記固定子との相対的位置が変化するように設けられた前記複数の移動子と、
前記複数の移動子のいずれか1つに選択的に前記交流信号を供給する交流信号供給手段と、
前記固定子の前記電位検出電極から出力された信号に基づいて前記複数の移動子のいずれか1つの変位信号を生成する信号処理手段と、を備える、
ことを特徴とする内視鏡。
【請求項12】
レンズ駆動装置を含む装置部は筒状の内視鏡容器の先部内に固定され、前記撮像装置は前記装置部の背面側に固定され、
前記内視鏡容器の先部内で前記複数のレンズはその光軸を一致させて前記装置部の正面側に配置し、
前記固定子は前記装置部に固定され、
前記複数の移動子は、それぞれ、連結部材を介して前記複数のレンズに連結される、
ことを特徴とする請求項11記載の内視鏡。
【請求項13】
前記交流信号供給手段は、
前記交流信号を出力する電源部を備えた前記信号処理手段と、
前記信号処理手段の前記電源部から出力された前記交流信号を前記複数の移動子のいずれか1つに供給するように切り替える切替手段と、から構成される、
ことを特徴とする請求項11記載の内視鏡。
【請求項14】
前記複数の移動子の個数は2つであり、2つの前記移動子は、前記固定子の前記電位検出電極に対して前記位置計測方向に並べて配置されていることを特徴とする請求項11記載の内視鏡。
【請求項15】
前記固定子の前記電位検出電極に対して前記位置計測方向に並べて配置された2つの前記移動子で、前記内視鏡容器の先部側に配置された前記移動子の交流信号給電線は先部側に引き出され、前記内視鏡容器の非先部側に配置された前記移動子の交流信号給電線は先部の反対側に引き出されることを特徴とする請求項14記載の内視鏡。
【請求項16】
前記固定子と前記複数の移動子の各々との間に所定の比誘電率を有するオイルまたはグリースを塗布したことを特徴とする請求項11記載の内視鏡。
【請求項17】
前記のオイルまたはグリースは非揮発性を有し、かつ前記比誘電率は1.5以上であることを特徴とする請求項16記載の内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−243195(P2010−243195A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89105(P2009−89105)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(508215625)株式会社青電舎 (6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】