説明

静電塗装装置

【課題】ピンホールなく、大型の被塗装物であっても塗装可能な新規な静電塗装装置を提供する。
【解決手段】一方方向のガスの流れが形成された筒部と、前記筒部内に塗液を噴出する第一ノズルと、前記筒部内に第二液を噴出する第二ノズルと、からなり、
前記第一、第二ノズルに電圧を印加しつつ前記塗料及び第二液を噴出することで、前記筒部内の塗液及び第二液の混合物を静電霧化した霧状塗料にし、被塗装物に噴霧することを特徴とする塗装装置の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料を帯電させて、静電霧化した上で被塗装物を塗装する静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装の種類に、塗料を帯電させて霧状にして塗装する静電塗装方法がある。塗料を霧状にする方式には、塗料を噴霧器で噴霧するスプレーガン方式、帯電した塗料自身の反発を利用する静電霧化する方法がある。
【0003】
スプレーガン方式の静電塗装には、帯電した塗料を噴霧する方式と、噴霧した塗料に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式がある。スプレーガン方式の静電塗装装置としては、例えば特許文献1の静電塗装スプレーガンなど、多数開示されている。
【0004】
静電塗装スプレーガンによる静電塗装では、スプレーガンと被塗装物との間に3万V〜15万Vの高電圧をかけるため静電気力によって、塗料が被塗装物に引き寄せられ効率的に塗料が被塗装物に付着する。塗料は電気力線にそって移動するため、スプレーガン正面だけではなく被塗装物の裏に回り込みスプレーガンの反対側まで塗装することができる。
【0005】
しかしながら、静電塗装スプレーガンによる静電塗装では、電場の集中する凸部へ塗料が集中しやすく均一厚に塗装することができず、またピンホールが形成される欠点があった。
【0006】
特に、医療用器具の塗装分野においては、生体適合性、即ち抗凝固性、抗菌性、ピンホールフリーが要求されている。それら要求を満たす塗装方法として静電塗装は十分でなかった。これら要求を満たす塗装方法として真空蒸着塗装が行われている。また宇宙用途においても、放射線ブロック、軽量の要求から真空蒸着が行われている。
【0007】
しかしながら、真空蒸着では真空容器を必要とするため、大きな被塗装物への塗装はできないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−56331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ピンホールなく、大型の被塗装物であっても塗装可能な新規な静電塗装装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、
(1)
一方方向のガスの流れが形成された筒部と、前記筒部内に塗液を噴出する第一ノズルと、前記筒部内に第二液を噴出する第二ノズルと、からなり、
前記第一、第二ノズルに電圧を印加しつつ前記塗料及び第二液を噴出することで、前記筒部内の塗液及び第二液の混合物を静電霧化した霧状塗料にし、被塗装物に噴霧することを特徴とする塗装装置の構成とした。
(2)
前記筒部の外周にガスカーテンを形成したことを特徴とする(1)に記載の塗装装置の構成とした。
(3)
前記ガスが、不活性ガスであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の塗装装置の構成とした。
(4)
前記塗液を霧化させる領域を加熱することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装装置の構成とした。
(5)
前記加熱を、レンズで光を収束させるホットスポットヒータで行うことを特徴とする(4)に記載の塗装装置の構成とした。
(6)
前記塗液が、パラキシリレン系ポリマーであることを特徴とする(4)又は(5)に記載の塗装装置の構成とした。
(7)
前記ノズルの対向角度を変更して、前記霧状塗液の粒径を調節することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の塗装装置の構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上の構成であるので、ナノスケール粒子の塗料を吹き付けることができる。また本発明は、静電塗装であっても被対象物の凸部に電場の集中がないので、塗装物にピンホールが形成されない。従って、被塗装物に均一で薄い塗装することができる。また、真空蒸着のように、被塗装物が大型であっても制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明である静電塗装装置の断面模式図である。
【図2】静電霧化のモデル実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に示すように、静電塗装装置1は、筒部2と、第一ノズル3と、第二ノズル4と、光源5と、レンズ6と、カバー8とからなる。
【0015】
筒部2は、内部空洞で、内部に一方方向のガスの流れを形成するため、他端部にガス、ここでは窒素ガス、の導入口2aを備え、他端は霧状塗料10の噴霧口2bが開口する。ガスの流れは、塗料の移動と、発火を防止する作用がある。
【0016】
第一ノズル3は、筒部2に挿通し、筒部2内に塗液3aを噴出する。塗料としては、通常の塗装に使用されている塗料が使用できる。
【0017】
第二ノズル4は、筒部2に挿通し、筒部2内に第二液4aを噴出する。第二液4aは、塗液3aの種類によって異なる。塗液3aと同じでよい場合も、塗液3aを塗料として活性化する反応開始剤の場合もある。
【0018】
塗液3aとして、真空蒸着でよく用いられているパリレン、シアノアクリレートを用いることができる。パリレンは、パラキシレン系ポリマーの総称で、ベンゼン環がCHを介してつながったポリマーである。重合したパラキシリレンは非常に安定した結晶性ポリマーとなる。塗液3aとしてパリレンを使用した場合には、第二液4aもパリレンでよい。
【0019】
塗液3aとしてシアノアクリレートを用いた場合には、第二液4aは重合反応の開始剤である水である。
【0020】
第一、第二ノズル3、4から噴射された塗液3a及び第二液4aは、電圧7が印加されて、自己反発によりナノスケールに静電霧化する。電圧7は、塗液3a、第二液4aの種類、目的に応じ、適宜選択される。塗液3a及び第二液4aの噴射手段は特に限定されない。ポンプ、ピストン等の加圧が例示できる。
【0021】
霧状塗料10は、導入口2aから導入されたガス(N)の流れに伴って、噴霧口2bから被塗装物9に向け吐出される。その結果、被塗装物9を均一で薄く、ピンホールなく塗装することができる。
【0022】
塗液3aの種類によっては、加熱を必要とするため筒部2内に光源5を備えるとよい。パリレンを用いた真空蒸着では、反応性の高いパリレンのモノマーガスを被塗装物を入れた真空チャンバーに導入することで、モノマーガスが被塗装物の表面に接したところで重合する。バリレンは、このような反応をするため他の塗料では得られない微細な隙間の奥まで均一でピンホールのない極薄の塗膜を形成することができる。
【0023】
そして、パリレンを反応性の高いモノマーガスにするため、真空蒸着では650℃に加熱している。加熱手段としては、図1に示したホットスポットヒータ、赤外線、レーザー、ヒーター線などが例示できる。
【0024】
ホットスポットヒータは、光源5の光5aをレンズ6で、第一、第二ノズル3、4の間に収束(点線)させ、焦点5b部分を昇温させることができるものである。またホットスポットヒータは、レンズ6に代え、光源5の後ろ側に凹レンズを置いて光5aをレンズ6のように収束させることもできる。
【0025】
また、筒部2の先端部を覆うように、例えば図1のように、筒部2の係止部2cにカバー8を備えることが望ましい。そして、カバー8と筒部2の間にガスの流路を形成し、流路にガスを導入することで、筒部2と被塗装物9との間にガスカーテン8aが形成される。
【0026】
塗液3aには塗料を熔解させる溶媒、主にVOCが使用されており、第一、第二ノズル3、4には高電圧が印加されることから、第一、第二ノズル3、4間に火花が発生した場合、塗液粒子10aが発火する危険性がある。
【0027】
従って、筒部2内のガス及びガスカーテン8aのガスは、窒素ガス、希ガスなど、塗料との反応しにくい気体を用いることが望ましい。そのためガスとしては、不活性ガスが好適である。不活性ガスとして窒素ガス、アルゴンなどの希ガスなどが例示できる。
【0028】
ガスカーテン8aを形成することで、霧状塗料10の発火を防止するとともに、空気が筒部2内に入り込むのを防ぐ。併せて、噴霧口2bは筒部2の径より狭めると、空気の逆流防止効果が高まる。
【0029】
このようにしてなる静電塗装装置1、第一、第二ノズル3、4に電圧7を印加しつつ塗液3a及び第二液4aを噴出することで、筒部2内の塗液3a及び第二液4aの混合物を静電霧化した霧状塗液10にして、噴霧口2bから被塗装物9に噴霧する。
【0030】
そして、静電塗装装置は、塗液の種類、塗装状況により、筒部2と、第一ノズル3、第二ノズル4を必須の構成とし、各ノズルに電圧を印加することで、塗液3aをナノスケール(静電霧化した粒子として、被塗装物9に吹き付けることができる。
【実施例2】
【0031】
次に、静電霧化された粒子について説明する。図2は、第一ノズル3及び第二ノズル4か塗液3a及び第二液4aを噴射して、霧状塗料10を生成する場合のモデル実験で、以下の方法で、ポリマー粒子を生成し、測定した。
【0032】
第一ノズル3、第二ノズル4は、筒部内に直線上に対向して配置して、モノマーと触媒の各メタノール溶液を霧化して衝突・融合させ、融合した液滴中で重合反応を行い、生成したポリマー粒子を液体トラップ中にアスピレーターにより吸引・回収した。
【0033】
第一ノズル3から噴射される液(正電荷印加)は、メタノール中にフェニルアセチレンを濃度0.2mol/Lに調製した溶液とした。第二液(負電荷印加)は、メタノール中にビシクロ[2,2,1]ヘプター2,5−ジエンロジウムクロリドダイマーを濃度0.01 mol/L、トリエチルアミンを濃度0.2 mol/Lに調製した溶液とした。
【0034】
第一、第二ノズル3、4から噴射される液量は、シリンジポンプよって、送液速度は0.02mL/minとした。また、第一ノズル3に+2.8kV、第二ノズルに−6.0kVを印加した。そして、重合ポリマーを回収する液体トラップには、メタノールを使用した。
【0035】
液体トラップ中に回収されたポリマーナノ粒子について、動的光散乱(DLS)測定を行った。そうしたところ、図2に示す粒度分布を示し、平均粒径約6.3nmであった。
【0036】
また、液体トラップ中に回収されたポリマーの分子量を調べるためにサイズ排除クロマトグラフ(SEC)測定を行ったところ、重合度5〜30のポリマーの生成が確認された(データ示さず)。
【0037】
図2に示すように、第一ノズル3と第二ノズル4とを、直線上に対向して配置して、モノマー溶液と触媒溶液をそれぞれのノズルより噴射することにより、ナノスケールの粒径でかつ粒径の揃った粒子が得られた。また、データを示さないが、図1に示す角度で第一ノズル3、第二ノズル4を配置して各溶液を噴霧すると、粒度は大きくなる。
【0038】
従って、第一、第二ノズル3、4の対向角度を変更することで、静電霧化した霧状塗料10の粒径を調節することができ、塗液3aの種類、被塗装物9によって、最適な塗料径を形成することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 静電塗装装置
2 筒部
2a 導入口
2b 噴霧口
2c 係止部
3 第一ノズル
3a 塗液
4 第二ノズル
4a 第二液
5 光源
5a 光
5b 焦点
6 レンズ
7 電圧
8 カバー
8a ガスカーテン
9 被塗装物
10 霧状塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方方向のガスの流れが形成された筒部と、前記筒部内に塗液を噴出する第一ノズルと、前記筒部内に第二液を噴出する第二ノズルと、からなり、
前記第一、第二ノズルに電圧を印加しつつ前記塗料及び第二液を噴出することで、前記筒部内の塗液及び第二液の混合物を静電霧化した霧状塗料にし、被塗装物に噴霧することを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
前記筒部の外周にガスカーテンを形成したことを特徴とする請求項1に記載の塗装装置。
【請求項3】
前記ガスが、不活性ガスであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗装装置。
【請求項4】
前記塗液を霧化させる領域を加熱することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の塗装装置。
【請求項5】
前記加熱を、レンズで光を収束させるホットスポットヒータで行うことを特徴とする請求項4に記載の塗装装置。
【請求項6】
前記塗液が、パラキシリレン系ポリマーであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の塗装装置。
【請求項7】
前記ノズルの対向角度を変更して、前記霧状塗液の粒径を調節することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−66842(P2013−66842A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207117(P2011−207117)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】