説明

静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置及び方法

【課題】 静電搬送により衝突させて合体させたサンプル液滴を良好に保持して保管することができる静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置及び方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置は、静電気発生用電極と、該静電気発生用電極の上に配置される電気絶縁疎水性層と、該電気絶縁疎水性層の上に配置される不活性溶液層とを有する静電搬送手段を備え、前記電気絶縁疎水性層に、親水性膜から成る複数の親水化スポットを設け、前記電気絶縁疎水性層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の液滴とを滴下した後、これらの液滴を静電搬送により合体させ、次いで、合体後の液滴を前記親水化スポットまで静電搬送して、親水化スポット上に保持させるように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を静電気で搬送してタンパク質の結晶化のための前処理を行う装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学や医学の見地からタンパク質の構造や機能を知るためにタンパク質の構造解析の研究が盛んに行われている。
タンパク質の三次元構造を解析するための最も一般的な手法はX線構造解析法であるが、そのためには、タンパク質の良質な単結晶が必要になる。
このためタンパク質の構造解析のためには、タンパク質の結晶化が不可欠である。
タンパク質の結晶は、タンパク質の結晶化のために必要な試薬とタンパク質溶液とを適当な濃度で混合し、混合した溶液を適用な環境下に置くことで析出して成長する。
しかしながら、結晶化条件が確認できているタンパク質は非常に少なく、このため、結晶化条件が確認できていないタンパク質の場合には、試薬の種類、試薬濃度及び温度条件等を試行錯誤的に変化させ、数千種類を超える結晶化条件をスクリーニングすることにより、タンパク質の結晶化条件を確認する必要がある。
この出願の発明者等は、上記したタンパク質の結晶化条件のスクリーニングを、小型の装置で実現するために、静電搬送技術を応用したタンパク質の結晶化前処理装置を既に提案している(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−226226公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したタンパク質の結晶化前処理装置は、静電気発生電極上に絶縁層を設け、絶縁層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の滴々とを滴下した後、これらの液滴を静電搬送して衝突させて合体させ、結晶化条件のスクリーニングのためのサンプル液滴を得る装置である。
上記した装置により衝突させて合体させたサンプル液滴は、結晶の析出や成長をモニタリングするために、適当な環境下に保管しなければならないが、合体させた後のサンプル液滴を、保持して保管する具体的方法については、未だ提案していない。
発明者等は、上記したタンパク質の結晶化前処理装置の提案後も、タンパク質の結晶化について鋭意研究を重ね、静電搬送により衝突させて合体させたサンプル液滴を良好に保持して保管することができる静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置を発明するに至った。
本発明の目的は、静電搬送により衝突させて合体させたサンプル液滴を良好に保持して保管することができる静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために本発明に係る静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置は、静電気発生用電極と、該静電気発生用電極の上に配置される電気絶縁疎水性層と、該電気絶縁疎水性層の上に配置される不活性溶液層とを有する静電搬送手段を備え、前記電気絶縁疎水性層に、親水性膜から成る複数の親水化スポットを設け、前記電気絶縁疎水性層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の液滴とを滴下した後、これらの液滴を静電搬送により合体させ、次いで、合体後の液滴を前記親水化スポットまで静電搬送して、親水化スポット上に保持させるように構成したことを特徴とする。
また、本発明に係る静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理方法は、静電気発生用電極上に電気絶縁疎水性層を配置し、該電気絶縁疎水性層の上に不活性溶液層を配置すると共に、前記電気絶縁疎水性層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の液滴とを滴下し、これらの液滴を静電搬送により合体させ、次いで、合体後の液滴を前記親水化スポットまで静電搬送して、親水化スポット上に保持させることを特徴とする。
前記親水化スポットの寸法は、適宜決めることができるが、少なくとも、合体後のサンプル液滴が、接触可能な寸法である。
前記親水性スポットの数やレイアウトは、装置の大きさや必要なサンプル数に応じて適宜決めることができる。
前記電気絶縁疎水性層と静電気発生電極とを分離可能に構成してもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置は、静電気発生用電極と、該静電気発生用電極の上に配置される電気絶縁疎水性層と、該電気絶縁疎水性層の上に配置される不活性溶液層とを有する静電搬送手段を備え、前記電気絶縁疎水性層に、親水性膜から成る複数の親水化スポットを設け、前記電気絶縁疎水性層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の液滴とを滴下した後、これらの液滴を静電搬送により合体させ、次いで、合体後の液滴を前記親水化スポットまで静電搬送して、親水化スポット上に保持させるように構成しているので、静電気発生用電極に電圧を印加し続けることなく、合体させたサンプル液滴を保持することが可能になる。これにより、サンプル液滴を生成後に、電圧を印加し続けることなくサンプル液滴におけるタンパク質の結晶化成長を監視することが可能になるので、安価に、より多くのサンプル液滴のスクリーニングが可能になる。
また、上記したように、親水化スポットに保持した後は、電極に電圧を印加し続ける必要がないので、サンプル液滴を保持した電気絶縁疎水性層を電極から分離して保管することが可能になる。これにより、静電気発生電極を消耗品にすることなく再利用できるので、より安価にサンプル液滴のスクリーニングを行うことができるようになる。
さらに、親水化スポットの数やレイアウトを変更するだけで、任意の数のサンプル液滴を任意のレイアウトで保持することが可能になるので、結晶成長の観察方法に合せたサンプル液滴の保持を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面に示した一実施例を参照して、本発明に係るタンパク質の結晶化前処理装置及び方法の実施の形態を説明していく。
【0008】
図1は、本発明に係るタンパク質の結晶化前処理装置及び方法を適用した静電搬送によるタンパク質結晶化処理装置(以下、単に結晶化前処理装置と称する。)の第一実施例の概略ブロック図である。
図面に示すように、このタンパク質結晶化処理装置は、
試薬及びタンパク質溶液の液体微粒子を供給する液体微粒子供給部1、
液体微粒子供給部1から供給された試薬及びタンパク質溶液を混合して保管プレート上に保持する溶液処理部10と、
サンプル微粒子が保持された保管プレートを保管する保管部20と、
前記保管部20に保管された保管プレート上のサンプル微粒子におけるタンパク質の結晶化成長を定期的に監視する結晶化成長監視部30と、
保管プレートを溶液処理部10から保管部20へ移送すると共に、必要に応じて、保管部20から結晶化成長監視部30へ、また、結晶化成長監視部30から保管部20へ保管プレートを移送する移送手段40と
を有する。
【0009】
(溶液処理部の説明)
始めに、溶液処理部10について説明する。
図2は溶液処理部10の回路構成を示す概略図であり、図3は溶液処理部10の図2におけるA−A断面に相当する概略断面図である。
溶液処理部10は、基板11上に複数の静電気発生用の電極線を配置した回路部13と、回路部13に着脱可能に構成された液滴搬送部15とを有する。
前記回路部11は、図2に示すように、
18本の電極線を同芯状に90度の扇型に配置した第1電極郡13aと、
第1電極郡13aにおける中心に位置する電極線と平行に配置された26本の電極線から成る第2電極郡13bと、
第2電極郡13bに隣接するように配置され、第2電極郡13bの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された5本の電極線から成る第3電極郡13cと、
第3電極郡13cに隣接するように配置され、第3電極郡13cの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された26本の電極線から成る第4電極郡13dと、
第4電極郡13dに隣接するように配置され、第4電極郡13dの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された5本の電極線から成る第5電極郡13eと、
第5電極郡13eに隣接するように配置され、第5電極郡13eの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された26本の電極線から成る第6電極郡13fと、
第6電極郡13fに隣接するように配置され、第6電極郡13fの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された5本の電極線から成る第7電極郡13gと、
第7電極郡13gに隣接するように配置され、第7電極郡13gの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された26本の電極線から成る第8電極郡13hと、
第8電極郡13hに隣接するように配置され、第8電極郡13hの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された5本の電極線から成る第9電極郡13iと、
第9電極郡13iに隣接するように配置され、第9電極郡13iの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された26本の電極線から成る第10電極郡13jと、
第10電極郡13jに隣接するように配置され、第10電極郡13jの各電極線の向きと直交する向きに平行に配置された5本の電極線から成る第11電極郡13kと
を有する。
溶液処理部10は、各電極郡13a〜13kの電極線の電圧を制御する一つ又は複数の制御装置(図示せず)を有する。
液滴搬送部15は、図3に示すように、電気絶縁性材料から成る基部16を備えている。この基部16は、回路部13に着脱可能に構成された下側部分16aと、化学的に不活性な溶液(例えば、油)を収容する上側部分16bとから成る。尚、図3は液滴搬送部15が回路部13に取り付けられている状態を、図4は液滴搬送部を回路部13から取り外した状態を各々示している。
上側部分16bの内部の底面には親水性膜17が形成されており、この親水性膜7の上面にはさらに疎水性膜8が形成されている。
前記疎水性膜8における第4電極郡13d、第6電極郡13f、第8電極郡13h及び第10電極郡13jに対応する位置には、複数の親水化スポット19が形成されている。
これらの親水化スポット19は、例えば、親水性膜17上に疎水性膜18を堆積させる前に、予めレジストを所定のパターンで形成しておき、疎水性膜18を堆積させた後に、レジスト部分を除去して親水性膜17を部分的に露出させることにより形成される。
また、基部16の上側部分16bの上壁における第1電極郡13aに対応する位置には、液体微粒子供給部1からの液体微粒子を導入するための開口16cが必要数設けられている(この実施例では2つ)。
図5は、回路部13の電極郡と、液滴搬送部15の親水化スポット19及び開口16cとの位置関係を示す図である。
上記したように構成された液滴搬送部15は、サンプル液滴の生成時には回路部13に取り付けて使用され、必要数のサンプル液滴が生成保持された後は、回路部13から取り外されて、保管プレートとして使用される。
【0010】
ここで、上記したように複数の電極線に電圧を印加して液滴を移動させる原理について説明する。
始めに、同方向に並べられた電極線に印加する電圧と液滴の移動との関係について図6を参照しながら説明する。これは、各電極郡内において液滴の移動させる時の原理である。
電極線には、図6(a)〜(d)に示すように、適当なサイクル時間で電極線を一本づつ移動するように6相の電圧(+++―――)が順次印加される。電圧を移動する方向が液滴の進行方向になる(尚、電圧の印加パターンは本実施例に限定されるものではない。)
上記したように、適当なサイクル時間で6相の電圧(+++―――)が移動している電極線上に液滴が載ると、マイナスに帯電している液滴は、負の電圧が印加されている電極とは反発し、正の電圧が印加されている電極には引き寄せられるため、電圧が移動する方向に移動することになる。そして、電圧を移動を止めると、液滴はその位置で止まる。
各電極郡内においては、上記した原理で液滴は移動する。
次に、異なる方向に並べられた電極線に印加する電圧と液滴の移動との関係を図7(a)及び(b)を参照して説明する。これは、電極線の方向が異なる電極郡間で液滴を移動させる原理である。
図7において、電極郡Aと電極郡Bとは、その電極線の方向が異なっている。図7(a)においては、電極郡Aには、6相の電圧(+++―――)が印加されているが、電極郡A内において電圧の移動がないため液滴は、正の電圧が印加された電極と負の電圧が印加された電圧との間で停止している。
そして、図7(a)に示す状態から、図7(b)に示すように、電極郡Aの全電極線に負の電圧を印加し、電極郡Bにおける電極郡Aと隣接している電極線(全ての電極線でもよい)に正の電圧を印加することにより、マイナスに帯電している液滴は、電極部Aの電極線とは反発し、電極部Bの電極線には引き寄せられるため電極部Aから電極部Bに移り変わる。
電極線の方向が異なる電極部間においては、上記した原理で液滴は移動する。
【0011】
次に、溶液処理部10の作用について図8〜図15を参照して説明する。
尚、図8〜図15においては、便宜上、正の電圧が印加されている電極線を実線で、負の電圧が印加されている電極を点線で表す。
始めに、液滴搬送部15における基部16の上側部分16bの開口16cを介して不活性溶液内の第1電極郡13aに対応する位置に、液滴供給部1からタンパク質溶液の液滴a1と結晶化のために必要な試薬の液滴a2とが供給される(図8)。
この時、第1電極郡13a及び第2電極郡13bの電極線には、前記要領で6相の電圧(+++―――)が適当なサイクル時間で移動するように順次印加されている。このため、不活性溶液内に供給されたマイナスに帯電している液滴a1及びa2は、前記要領で電圧の移動方向に(すなわち、第1電極郡13aの中心に位置する電極線に向けて)移動し(図8の矢印参照)、最終的に第1電極郡13aの中心において衝突して合体し、サンプル液滴a3となる(図9参照)。
ところで、第2電極郡13bにおける電極線にも6相の電圧(+++―――)が適当なサイクル時間で移動するように順次印加されているため合体したサンプル液滴a3は、第2電極郡13b上を移動する(図10参照)。
上記した処理を4回繰り返し、第2電極郡13b上に、適当な間隔(この間隔は、液滴の供給間隔により調整可能である)で、4つのサンプル液滴a3が載ったところで、第2電極郡13bに印加する電圧の移動を止めると、4つのサンプル液滴a3が第2電極郡13b上に電圧により保持される(図11参照)。
上記した状態で、第2電極郡13bの電極線に印加する電圧を全て負にし、同時に、第3電極郡13cの電極線に印加する電圧を全て正にすると、前述の原理で、第2電極郡13b上に保持されていたサンプル液滴a3が、第3電極郡13cに移り変わる(図12参照)。
次いで、第3電極郡13bの電極線に4相(++――)の電圧を移動させながら印加することにより、サンプル液滴a3を、第3電極郡13b上で移動させ、第3電極群13dの最後の電極線にサンプル液滴a3が到達した後、第3電極群13dの電極線に印加する電圧を負にし、第4電極群13eの電極線に印加する電圧を正にすることで、サンプル液滴a3を第3電極群13dから第4電極群13eに移し変える(図13参照)。
前記の要領で、第4電極郡13dから第5電極郡13eへ、第5電極群13eから第6電極群13fへ、第6電極群13fから第7電極群13gへ、第7電極群13gから第8電極群13hへ、第8電極群13hから第9電極群13iへ、最後に第9電極群13iから第10電極群13jへ移動させ、サンプル液滴a3を第10電極郡13jの上に到達させる(図14参照)。
サンプル液滴a3を第10電極郡13jまで移動させたら、次に、第10電極郡13jにおける電極線に、6相(+++―――)の電圧を、図面上下方に移動させながら印加する。これにより、第10電極郡13j上でサンプル液滴a3は図面上下方に移動するが、前述のように液敵搬送部15における第10電極郡13jに対応する位置には、3つの親水化スポット19が形成されているため、サンプル液滴a3は、最終的に親水化スポット19に到達することになる(図15参照)。親水化スポット19は、親水性膜が露出しているため、サンプル液滴a3は、親水化スポットに到達した時に、露出された親水性膜に接触する。サンプル液滴は、親水性膜に接触すると、その球状形状が崩れるため電極線に印加した電圧の作用ではそれ以上移動しなくなり、結果的に、親水化スポット上で保持される。したがって、一度、親水化スポット上で保持されると電極線に電圧を印加しなくてもサンプル液滴a3は移動しない。
図16は、サンプル液滴が親水化スポットに保持される状態を概念的に示す図である。
以上説明した処理を、必要回数連続して繰り返して親水化スポット上に必要数のサンプル液滴a3を保持させた状態を図17に示す。
前記したように、一度、親水化スポット上で保持されると電極に電圧を印加しなくてもサンプル液滴a3は動かないので、この状態で、液滴搬送部15は、回路部13から取り外され(図4参照)、保管プレート15として、移送手段40により保管部20へ運ばれる。
尚、上記した実施例では、ある電極群から、その電極群の電極線と電極線の方向が異なる他の電極群へ液滴を移動させる時に、乗せかえ前の電極群の全ての電極線に正の電圧を印加すると共に、乗せかえ後の電極群の全ての電極線に負の電圧を印加しているが、これは本実施例に限定されることなく、乗せかえ前の電極群と乗せかえ後の電極群に逆相の電圧を印加すればよい。
【0012】
保管部20は、一つ又は複数の保管プレート15を、結晶化に適した温度及び湿度で保管するように構成されている。
【0013】
ここで、上記したように構成された溶液処理部10に、液滴を供給する液滴供給部1の構成について図18を参照しながら説明する。
液滴供給部1は、
タンパク質溶液を収容するシリンジ2と、
シリンジ2を駆動するためのモータ3と、
前記モータ3を制御する制御装置4と
を有する。
尚、この実施例では、溶液処理部10にタンパク質溶液の液滴と試薬の液滴とを供給するため、液滴供給部1は、シリンジ及びモータを2つ備えているが、シリンジ及びモータの構成は同一なので、ここでは、一方のシリンジ及びモータの構成のみを説明する。
シリンジ2の針2aは、接地若しくは負の電圧が印加されている。また、シリンジ2の針2aは、液体搬送部15の上側部分16bの上壁に設けられた開口16cを介して不活性溶液内に挿入され、針先の溶液(タンパク質溶液及び試薬)が、第1電極郡13aの移動する電圧の影響を受けるのに十分な距離まで、第1電極郡13aに近づけられる。
一方、モータ3は、溶液が自重で滴下されることはないが、第1電極郡13aの移動する電圧の影響を受けて針先から離れるのに十分な量のタンパク質溶液及び試薬を供給するようシリンジ2に圧力を加えるように制御装置4で作動される。
この状態において、シリンジ2の針2aにおける溶液(タンパク質溶液及び試薬)は、接地又はマイナスに帯電しているため、前記要領で第1電極郡13aにおける電極線に印加する電圧を移動させると、その電圧の影響を受けて図19に示すように、針先から離れる。この時、溶液は、自重で滴下するのではなく、第1電極郡における電圧の影響を受けて、シリンジの針先から離れるため、非常に小さい液敵となる。
表1は、印加電圧と生成される液滴の直径との関係を示す表であり、溶液として純粋を用いて、幅180μmの電極線を300μmのピッチで配置し、内径が100μmの針から0.07ml/hの量の溶液を供給するようシリンジへの圧力を設定し、前記針へ−1Vの電圧を印加すると共に、前記針と電極との間隔と0.5mmとし、電極線へ1Hzの周波数で印加電圧を150V、180V及び200Vに変化させて、生成される液滴の直径を測定した結果である。
【表1】

表2は、溶液の種類と生成される液滴の直径との関係を示す表であり、幅180μmの電極線を300μmのピッチで配置し、内径が150μmの針から0.07ml/hの量の溶液を供給するようシリンジへの圧力を設定し、前記針へ−1Vの電圧を印加すると共に、前記針と電極との間隔と0.5mmとし、電極線へ1Hzの周波数で250Vの電圧を印加して、水、タンパク質(リゾチーム)、NaCl、酢酸及び酢酸ナトリウムの液滴を生成した結果である。
【表2】

【0014】
最後に、結晶化成長監視部30の構成について説明する。
移送手段40は、定期的に保管部20から保管プレート15を取り出し、結晶化成長監視部30に移送する。
結晶化成長監視部30は、移送手段40により移送されてきた保管プレート15のサンプル液滴の結晶化を光学的又は電気的に監視し、その結果を記録及び/又は表示する。
結晶化成長監視部30としては、様々な構成が考えられるが、ここで、幾つかの例を説明する。
例えば、結晶化成長監視部30は、光源と光電子増倍管を備え、前記光源により保管プレート上のサンプル液滴に光を照射し、光電子増倍管によりサンプル液滴の屈折率を検出し、検出した屈折率の変化に基づいてサンプル液滴中のタンパク質の結晶化成長度合いを判断し得る。この場合、例えば、検出した屈折率の増加に伴ってサンプル液滴中のタンパク質の結晶化が進んでいると判断することができる。検出結果は、適当な記録装置に記録することができ、また、必要に応じて、ディスプレイ、プリンタ、ランプ及び/又はスピーカー等により視覚的及び/又は聴覚的に、タンパク質の結晶化成長度合いを使用者に表示することができる。
別の例としては、例えば、結晶化成長監視装置30は、自動焦点合わせ機能を有する光学測定手段を備え、自動焦点合わせ機能により保管プレート上のサンプル液滴中の焦点位置を検出し、焦点位置の検出によりタンパク質の結晶化成長度合いを判断し得る。この場合、例えば、焦点位置が検出できない場合は結晶化成長が進んでいないが、焦点位置が検出できた場合には結晶化成長が進んでいると判断することができる。検出結果は、適当な記録装置に記録することができ、また、必要に応じて、ディスプレイ、プリンタ、ランプ及び/又はスピーカー等により視覚的及び/又は聴覚的に、タンパク質の結晶化成長度合いを使用者に表示することができる。
さらに別の例としては、例えば、結晶化成長監視装置30は、光源と受光手段を備え、光源により保管プレート上のサンプル液滴に光を照射した後、受光手段で照射した光を受光し、受光手段で受光した光量に基づいて、サンプル液滴の吸光量を検出し、検出した吸光量に基づいてタンパク質の結晶化成長度合いを判断し得る。この場合、例えば、吸光量の増加に伴ってサンプル液滴中のタンパク質の結晶化が進んでいると判断することができる。検出結果は、適当な記録装置に記録することができ、また、必要に応じて、ディスプレイ、プリンタ、ランプ及び/又はスピーカー等により視覚的及び/又は聴覚的に、タンパク質の結晶化成長度合いを使用者に表示することができる。
【0015】
上記した液滴搬送部15における基部16は、電気絶縁性材料から成り、かつ、上述した方法で電圧を印加することにより不活性溶液中の液滴を移動することができる材料であれば任意の材料でよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニリデン(PCV)、ポリプロピレン(PP)又はパラフィン等が用いられ得る。
表3は、実験に用いて利用することが可能であった基部16の材料を示し、図20は、表3におけるパラフィン以外の材料を用いて液滴を移動させた結果を示すグラフである。
表3及び図20は、180μmの幅の電極線を、300μmのピッチで配置し、不活性溶液として粘度10csのシリコン溶液を用いて、印加電圧と周波数とを変化させ、実際にシリコン溶液中で水の液滴を移動させた結果である。
【表3】

【0016】
尚、上記した実施例で説明した親水化スポットのレイアウトは単なる一例であり、親水化スポットのレイアウトは、生成する液滴の数や電極線のレイアウト等に応じて、任意に決められ得る。
また、上記した電極線のレイアウトは単なる一例であり、任意のレイアウトを採用することができる。また、上記した実施例では電極として電極線を用いており、電極線を用いることにより電圧の制御が容易になるという効果はあるが、必要に応じて、電極線にかえてドット型電極を用いてもよい。
液滴搬送部における基部の構造は、本実施例に限定されることなく、回路部に着脱可能な構造であれば任意の構造でよい。また、上記した実施例では、液滴搬送部を回路部に着脱可能にすることによって、回路部を消耗品にすることなく繰り返し利用することができるので消耗品のコストが安価になり、回路部の構造も簡単化することができ、さらに、液滴搬送部を回路部から取り外すことにより、結晶成長の観察が行いやすくなり、さらにまた、基部を透明体で構成すると透過光による結晶観察が可能になるという様々な効果を奏するが、液滴搬送部の構造は本実施例に限定されることなく、必要に応じて回路部に固定してあってよい。
上記した実施例では、シリンジの針に負の電圧を印加し、溶液が自重で滴下されることはないが、電極郡の移動する電圧の影響を受けて針先から離れるのに十分な量のタンパク質溶液及び試薬を供給するようシリンジへの圧力を調整すると共に、電極線の電圧移動に影響を受けるのに十分な距離までシリンジの針と電極群とを接近させることにより液滴を生成供給しており、このように液滴を生成供給することにより、溶液処理部内にマイクロチャネル等を形成することなく微小な液滴を生成供給することが可能になるという効果を奏するが、液滴の生成供給方法は本実施例に限定されることなく、任意の方法で生成供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るタンパク質の結晶化前処理装置及び方法を適用した静電搬送によるタンパク質結晶化処理装置の第一実施例の概略ブロック図
【図2】溶液処理部10の回路構成を示す概略図
【図3】溶液処理部10の図2におけるA−A断面に相当する概略断面図
【図4】液体搬送部を回路部から取り外した状態を示す図3に対応する断面図である。
【図5】回路部13の電極郡と、液滴搬送部15の親水化スポット19及び開口16cとの位置関係を示す図
【図6】(a)〜(d)は、同方向に並べられた電極線に印加する電圧と液滴の移動との関係を示す図
【図7】(a)及び(b)は、異なる方向に並べられた電極線に印加する電圧と液滴の移動との関係を示す図
【図8】溶液処理部の作用を示す図
【図9】溶液処理部の作用を示す図
【図10】溶液処理部の作用を示す図
【図11】溶液処理部の作用を示す図
【図12】溶液処理部の作用を示す図
【図13】溶液処理部の作用を示す図
【図14】溶液処理部の作用を示す図
【図15】溶液処理部の作用を示す図
【図16】サンプル液滴が親水化スポットに保持される状態を概念的に示す図
【図17】溶液処理部の作用を示す図
【図18】液滴供給部の構造を示す図
【図19】液滴供給部の作用を示す図
【図20】表1におけるパラフィン以外の材料を用いて液滴を移動させた結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0018】
a1 タンパク質溶液の液滴
a2 結晶化のために必要な試薬の液滴
a3 サンプル液滴

1 液滴供給部
2 シリンジ
3 モータ
4 制御装置

10 溶液処理部
11 基板
13 回路部
13a〜13k 電極郡
15 液滴搬送部
16 基部
16a 下側部分
16b 上側部分
16c 開口(液滴導入部)
17 親水性膜
18 疎水性膜
19 親水化スポット
20 保管部

30 結晶化成長監視部

40 移送手段



【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電気発生用電極と、
該静電気発生用電極の上に配置される電気絶縁疎水性層と、
該電気絶縁疎水性層の上に配置される不活性溶液層と
を有する静電搬送手段を備え、
前記電気絶縁疎水性層に、親水性膜から成る複数の親水化スポットを設け、
前記電気絶縁疎水性層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の液滴とを滴下した後、これらの液滴を静電搬送により合体させ、次いで、合体後の液滴を前記親水化スポットまで静電搬送して、親水化スポット上に保持させるように構成した
ことを特徴とする静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置。
【請求項2】
前記電気絶縁疎水性層が、前記静電気発生用電極から分離可能である
ことを特徴とする請求項1に記載の静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理装置。
【請求項3】
静電気発生用電極上に電気絶縁疎水性層を配置し、該電気絶縁疎水性層の上に不活性溶液層を配置すると共に、
前記電気絶縁疎水性層上に、タンパク質の結晶化のために必要な試薬の液滴とタンパク質溶液の液滴とを滴下し、
これらの液滴を静電搬送により合体させ、
次いで、合体後の液滴を前記親水化スポットまで静電搬送して、親水化スポット上に保持させる
ことを特徴とする静電搬送によるタンパク質の結晶化前処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−347957(P2006−347957A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176339(P2005−176339)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクトピコリットル液滴型タンパク結晶化デバイスの研究開発」に係る委託研究、産業活力再生特別処置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(591086854)株式会社テクノメデイカ (50)
【Fターム(参考)】