説明

静電気除去剥離紙

【課題】 特にアスファルトルーフィング材施工時にルーフィング基材と剥離紙の間に生じる静電気を効率良く確実に除去可能であって、且つ回収、廃棄の問題もなく、施工場所のバリや凹凸による裂け、破れに強い静電気除去剥離紙を提供する。
【解決手段】 体積固有抵抗値が1×10−4〜1×10Ω・cm、繊度が5〜15000dtexの有機導電性長繊維が剥離紙の最表層において長さ方向に5〜100mmの間隔で配置された静電気除去剥離紙であって、該導電性長繊維が剥離紙に対して5〜95質量%含有されており、その目付が20〜400g/m、厚さが40μm〜2mmであることを特徴とする静電気除去剥離紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機導電性繊維を用いることによって得られる静電気除去剥離紙に関し、特にアスファルトルーフィング材施工時にルーフィング基材と剥離紙の間に生じる静電気を効率良く確実に除去可能な静電気除去剥離紙に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されているアスファルトルーフィング材の主たる構造は、アスファルト層(遮水層)/粘着層/剥離シート層からなっている。
剥離シート層には、紙もしくはフィルムが使用され、施工時にこれを剥がしてルーフ展張する。この時、特に冬場の低湿度環境下では静電気が発生しやすく、施工者はその静電気によって電撃を受けるといった現象がしばしば生じ、作業性に支障を来たしているのが現状である。この静電気対策として、金属繊維や金属メッキ繊維、炭素繊維、金属粉などを配合した紙やフィルムが提案されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
しかしながら、金属繊維、金属粉を配合したシートでは、重量が重くなるほか、金属が含まれていることから回収、廃棄が問題となる。一方で炭素繊維を用いたものは、それ自体が高価であり、静電気除去性能を高度に発現させるために高配合とすればするほどコスト高になっていた。また、紙に配合する場合、繊維を分散する過程で攪拌等によるシェアがかかると、炭素繊維は折損しやすく、紙としての性能や工程通過性などに問題が生じていた。さらに、フィルムの場合には薄肉であるがゆえに、施工場所のバリや凹凸で裂けるたり破れるといった問題が生じ、作業効率をダウンさせる要因となっている。
【0003】
【特許文献1】特公平3−045159号公報
【特許文献2】登実第3000969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、特にアスファルトルーフィング材施工時にルーフィング基材と剥離紙の間に生じる静電気を効率良く確実に除去可能であって、且つ回収、廃棄の問題もなく、施工場所のバリや凹凸による裂け、破れに強い静電気除去剥離紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者等は上記した静電気除去剥離紙を得るべく鋭意検討を重ねた結果、使用する有機導電性長繊維の体積固有抵抗値と繊度、および該有機導電性長繊維を剥離紙の最表層へ配置する際の配置間隔を最適化することによって、アスファルトルーフィング材施工時にルーフィング基材と剥離紙の間に生じる静電気を効率良く確実に除去可能な静電気除去剥離紙が得られることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、体積固有抵抗値が1×10−4〜1×10Ω・cm、繊度が5〜15000dtexの有機導電性長繊維が剥離紙の最表層において長さ方向に5〜100mmの間隔で配置された静電気除去剥離紙であって、該導電性長繊維が剥離紙に対して5〜95質量%含有されており、かつ目付が20〜400g/m、厚さが40μm〜2mmであることを特徴とする静電気除去剥離紙紙であり、好ましくは有機導電性繊維が、平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子を繊維の表層及び/または内部に含有されてなる導電性ポリビニルアルコール系繊維であるか、もしくは平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子が繊維の表層及び/または内部に含有されてなる導電性のエチレンビニルアルコール共重合体からなる繊維であることを特徴とする上記の静電気除去剥離紙であり、より好ましくは静電気除去剥離紙において、有機導電性長繊維が配置された層と反対面の最表層にシリコン系樹脂が塗工されてなることを特徴とする上記の静電気除去剥離紙である。
【0007】
そして本発明は、有機導電性長繊維を剥離紙基材を抄紙する段階で一体化するか、もしくは剥離紙基材と有機導電性長繊維を張り合わせる方法によって一体化することを特徴とする上記の静電気除去剥離紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被剥離物と剥離紙の間に生じる静電気を除去可能な静電気除去剥離紙を提供することができ、特に冬場の低湿度環境下におけるアスファルトルーフィング材施工時にルーフィング基材と剥離紙の間に生じる静電気を効率良く確実に除去可能な静電気除去剥離紙が提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明の静電気除去剥離紙は、体積固有抵抗値が1×10−4〜1×10Ω・cm、繊度が5〜15000dtexの有機導電性長繊維が剥離紙の最表層において、長さ方向に5〜100mmの間隔で配置され配置された静電気除去剥離紙であって、該導電性長繊維が剥離紙に対して5〜95質量%含有されており、該静電気除去剥離紙の目付が20〜400g/m、厚さが40μm〜2mmである必要がある。
【0010】
導電性繊維の体積固有抵抗値が1×10−4Ω・cm未満の場合、導電性能に優れるため静電気除去性能は優れるが、このような繊維は一般に金属繊維、もしくは金属メッキ繊維の領域であり、アスファルトルーフィング材の剥離紙として用いた際には、廃棄の問題が生じるので好ましくない。一方で、導電性ポリマー等を用いた1×10−4Ω・cm未満の有機導電性繊維の場合には、前記廃棄の問題は解消されるが、現状ではコスト高となることが予想され、使い捨ての用途には受け入れがたい状況となる。逆に静電気除去剥離紙に用いる導電性繊維の体積固有抵抗値が1×10Ω・cmを超える場合には、本発明の目的である静電気除去性能が満足されないことから使用できない。有機導電性繊維の体積固有抵抗値の好ましい範囲は1×10−3〜1×10Ω・cmであり、より好ましい範囲は1×10−2〜1×10Ω・cmである。
【0011】
また、静電気除去剥離紙に用いる導電性長繊維の繊度は5〜15000dtexである必要がある。繊度が5dtex未満であると、繊維強力が低いが故に紙基材との一体化の工程で破断することによる工程トラブルが生じる場合があり、生産性の点で問題となる。工程速度をダウンすることにより導電性長繊維の破断は回避できるが、その場合も生産性の点では問題となりコストアップにつながる。一方で15000dtexを超える場合は、導電性長繊維が太くなりすぎるために、一体化するのに必要な接着剤量が増えること、および接着が不十分な箇所が発生し剥離紙として使用できないものになってしまう恐れがある。さらには、目的とする静電気除去性能からすると、このように太い長繊維を用いる必要はなく、複合量も多くなることからコストアップにつながるため望ましくない。好ましくは20〜13000dtexであり、さら好ましくは50〜11000dtexである。
【0012】
次に剥離紙における有機導電性長繊維の配置について説明する。本発明に使用する有機導電性長繊維は、静電気の除去を目的としているため、図2に示すように剥離紙の最表面に配置する必要がある。表面に出ていないと、剥離紙の端面にアースを設けて静電気を逃がす必要が生じ、施工現場においてそのような煩雑な仕組みをとることは適さない。また、剥離紙の長さ方向に有機導電性長繊維を5〜100mmの間隔で配置する必要があり、好ましくは10〜90mm、より好ましくは15〜85mmである。これは、有機導電性長繊維の配置間隔が100mmを超える場合には間隔が広すぎるために静電気除去性能が満足されないことによる。逆に有機導電性長繊維の配置間隔を5mm未満とした場合、有機導電性繊維の配合量が多くなりすぎてコストアップとなる。
【0013】
また、有機導電性長繊維の配合量は、剥離紙の重量に対して5〜95質量%含有することが必要であり、より好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは15〜70質量%含有する。有機導電性長繊維の配合量が、5質量%未満の場合は有機導電性長繊維の含有量が少ないために、本発明の目的である静電気除去性能に達しない。有機導電性長繊維の配合量が95質量%を超える場合には、静電気除去性能は十分満足され、それ以上の配合は必要とせず、高配合によるコストアップにつながるために望ましくない。
【0014】
次に本発明の静電気除去剥離紙において有機導電性長繊維が配置された層の表面抵抗について述べる。静電気除去剥離紙における有機導電性長繊維が配置された層の表面抵抗については、1×10-1〜1×108Ω/□であることが好ましい。もちろん、前記表面抵抗が1×10-1Ω/□未満の場合には、導電性能に優れるため静電気除去性能は優れるが、このような表面抵抗を得るためには一般に金属繊維、もしくは金属メッキ繊維を使用する必要があり、アスファルトルーフィング材の剥離紙として用いた際には、廃棄の問題が生じることから好ましくない。一方で前記表面抵抗が1×108Ω/□を超える場合には本発明の目的である静電気除去性能が得られないことによる。好ましくは1×10−1〜1×10Ω/□である。
【0015】
本発明の静電気除去剥離紙の目付は20〜400g/m、厚さは40μm〜2mmである必要があり、好ましくは目付が40〜150g/m、厚さは100μm〜1mmである。目付について、20g/m未満では紙とした時の地合斑が大きくなり、表面抵抗の斑を生じやすく、結果として静電気除去性能に斑が発生する他、引張強力も低くなり施工時に破断するなどのトラブルを招く頻度が高くなる。一方、目付が400g/mを超えると、アスファルトルーフィング材としてのロール径が大きくなるといった不具合や、重量が重くなるといった問題が生じ、さらには廃棄物量が多くなるなどの点で好ましくない。厚さについても同様に2mmを超える場合にはアスファルトルーフィング材としてのロール径が大きくなるといった問題を生じ、同じロール系のアスファルトルーフィング材を使用した際に厚さは薄い方が施工面積を稼ぐことが可能となることから、より薄い方が好ましい。但し、厚さが40μm未満の場合では、アスファルトルーフィング材の施工面の凹凸や突起などで穴空きや破れが発生しやすくなるので不適である。
【0016】
次に、本発明の静電気除去剥離紙に使用する有機導電性繊維について詳しく説明する。本発明の静電気除去剥離紙に使用する有機導電性繊維は、図1に示すように平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子が繊維の表層及びまたは内部に含有されてなる導電性ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)系繊維であるか、もしくは平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子が繊維の表層及び/または内部に含有されてなる導電性のエチレンビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記する)からなる繊維であることが望ましい。このように導電性を発現する硫化銅が微粒子であること、そして該微粒子が繊維の表層、及び/または内部に微分散して含有されていることにより、高い導電性に加えて、摩擦、屈曲、捩れを伴う使用において粒子の脱落や劣化がないので、この導電性PVA系繊維、もしくは導電性のEVOHからなる繊維を含む静電気除去剥離紙は、耐久性に優れるものとすることができる。なお、ここで言う表層とは繊維表面から1μm程度の深さの範囲を示し、繊維の内部とは繊維の表面から繊維の中心までの全体、または一部の範囲を示す。繊維の表面にのみ硫化銅粒子が付着している繊維は本発明の静電気除去剥離紙に使用できる導電性PVA系繊維、もしくは導電性のEVOHからなる繊維の範囲外であり、このような繊維からなる静電気除去剥離紙では、抄紙工程の特に離解・攪拌工程にて導電層の剥落が生じてしまい、本発明の目的とする静電気除去性能が得難いものとなってしまうため好ましくない。
【0017】
本発明の静電気除去剥離紙に使用する導電性PVA系繊維のPVAポリマーについて詳しく説明する。該導電性PVA系繊維のPVAポリマーの重合度については特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200〜20000のものが望ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、より好ましくは、平均重合度が1500〜5000である。
【0018】
また、該導電性PVA系繊維のPVA系ポリマーのケン化度も特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性の点から、88モル%以上であることが好ましい。PVA系ポリマーのケン化度が88モル%よりも低いものを使用した場合、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない。
【0019】
本発明の静電気除去剥離紙に用いる導電性PVA系繊維を形成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類、アクリル酸及びその塩とアクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等の不飽和ジカルボン酸等がある。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。しかしながら、本発明の目的とする繊維を得るためにはビニルアルコール単位が88モル%以上のポリマーがより好適に使用される。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。更にこれらは、一種類または二種類以上のものを併用して使用してもかまわない。
【0020】
次に、本発明の静電気除去剥離紙に使用するPVA系繊維の製造方法について以下説明する。この繊維は、PVA系ポリマーを水あるいは有機溶剤に溶解した紡糸原液を用いて後述する方法で安価に製造することができる。紡糸原液を構成する溶媒としては、例えば水、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが挙げられるが、これらの中でも、とりわけ水やDMSOがコスト、回収性等の工程通過性の点で最も好適である。
【0021】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、8〜60質量%の範囲であることが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲であることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。
【0022】
かかる紡糸原液をノズルから吐出して湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸を行えばよく、PVA系ポリマーに対して固化能を有する固化液あるいは、気体中に吐出すればよい。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
【0023】
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、芒硝、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する無機塩類や苛性ソーダの水溶液を用いることができる。また、PVA系ポリマーと共に、ホウ酸などを加えた水溶液をアルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することもできる。
【0024】
次に固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させるが、抽出時に同時に原糸を湿延伸することが、乾燥時の繊維間膠着抑制及び得られる繊維の機械的特性を向上させるうえで好ましい。その際の湿延伸倍率としては2〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。
【0025】
湿延伸後、乾燥し、更に場合によっては乾熱延伸、熱処理を施す。このための延伸条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃の温度で行うのがよく、3倍以上の全延伸倍率、好ましくは5〜25倍の全延伸倍率で延伸すると、繊維の結晶化度と配向度が上昇し、繊維の機械特性が著しく向上するので好ましい。温度が100℃未満の場合、繊維の白化が生じ、そのため機械的物性の低下をもたらす。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらすので好ましくない。なお、ここでいう延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
【0026】
次に本発明の静電気除去剥離紙に用いる導電性のEVOHからなる繊維について説明する。該繊維は溶融紡糸により繊維化される。形成するEVOHとしては、エチレン含有量20〜70モル%、好ましくは25〜55モル%、特に好ましくは30〜50モル%の共重合体を用いる必要がある。エチレン含有量が低い場合には曳糸性、耐久性等に問題が生じ、エチレン含有量が高すぎる場合には後述する硫化銅微粒子を生成する工程で、本発明の効果を発揮するに十分な硫化銅微粒子を含有させるのが困難となることから好ましくない。よって、ビニルアルコールユニット含有量は30〜80モル%、特に45〜75モル%、さらに50〜70モル%であるのが好ましい。また、エチレン含有量と融点の関係については、概ね下記式で表され、融点としては120〜205℃が好ましい。
(エチレン含有量×1.654) = (237.1−融点)
【0027】
本発明に使用されるEVOHの製造方法は特に限定されないが、エチレン酢酸ビニル系共重合体をケン化することにより効率的に製造できる。親水性点からはビニルアルコールユニットのケン化度は95モル%以上、特に98モル%以上であるのが好ましい。また該共重合体の平均分子量は、紡糸性、耐熱水性等の点から500〜5000、特に800〜3500程度とするのが好ましい。 本発明の効果を損わない範囲であればビニルアルコール成分(又は酢酸ビニル成分)及びエチレン成分以外の成分が含まれていても構わないが、本発明の効果を効率的に得る点からは、エチレンユニット及びビニルアルコールユニット以外の共重合成分が30モル%以下、特に10モル%以下であるのが好ましい。該繊維は単一のポリマーからなる単独繊維でも良いし、複数のポリマーからなる芯鞘型、サイドバイサイド型、層状分割型、放射状分割型等の複合繊維や海島繊維(混合紡糸繊維)でも良い。複合繊維や海島繊維の場合には、繊維表面の一部または全部にEVOHが露出している必要がある。また、繊維を構成する他の成分には汎用の溶融系ポリマー(例えばポリエステル、ポリオレフィンなど)が好適に使用でき、特に好ましくは鞘成分にEVOH、芯成分にポリエステルを用いた組合せが良い。
【0028】
本発明の導電性PVA系繊維もしくは導電性のEVOHからなる繊維の繊維横断面は単独繊維、複合繊維、海島繊維によらず、丸型、扁平型、中空型,T型、三角型、繭型、複数の凹凸を有する多葉型などの形状で、繊維化工程のトラブルに問題がなければ特に限定されるものではない。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0029】
本発明の静電気除去部材に用いる導電性PVA系繊維もしくは導電性のEVOHからなる繊維は、前記PVA系ポリマーもしくは導電性のEVOH以外の構成成分として、硫化銅微粒子を含有することが望ましい。かかる硫化銅微粒子は一価の硫化銅でも二価の硫化銅でもよいが、その平均粒子径は500nm以下であることが好ましく、300nm以下であるような微粒子であることがより好ましく、100nm以下であるようなナノ微粒子であると更に好ましい。このような微粒子であることにより、繊維中での粒子間距離の著しい減少が可能となり、少ない量にて高い導電性を発現することができる。例えば、同じ重量%の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなることが知られている。このような場合、粒子間相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー分子は、あたかも粒子と同じような機能を示すことも知られている[例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照]。従って、このサイズ効果により、繊維内部にて電流が流れやすくなり、少ない量でも、優れた導電性を付与することができ、それ故、このような繊維を用いた静電気除去部材は優れた静電気除去性能を発現する。一方で、繊維中の硫化銅微粒子の平均粒子径が500nmより大きい場合、所望の導電性を発現させるためには多量の粒子を含有させる必要があり、その場合、繊維自体の力学物性が低下し、耐屈曲性や布帛にする際の工程通過性が悪化する場合がある。なお本発明の静電気除去部材を構成する導電性PVA系繊維中もしくは導電性のEVOHからなる繊維中の硫化銅微粒子は、透過型顕微鏡(TEM)にて初めてその存在形態を確認することができる。
【0030】
本発明の静電気除去部材に用いる導電性PVA系繊維もしくは導電性のEVOHからなる繊維の表層、及び/または内部に硫化銅微粒子を生成する方法は以下の通りである。湿延伸後の膨潤状態のPVA系繊維もしくはVOHからなる繊維の糸篠、あるいは乾燥または延伸後のPVA系繊維もしくはEVOHからなる繊維の糸篠を、銅イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させて該化合物を繊維中に含有させる。この場合、繊維内部への銅イオンを含む化合物の均一浸透させ、銅イオンをPVAもしくはEVOHの水酸基と配位結合を形成せしめるためには、繊維は浴溶媒により膨潤していることが必須であり、そのためには浴に用いる溶媒はメタノール等のアルコール類や水、塩類あるいはこれらの混合物であることが好ましい。その時の浴溶媒による繊維の膨潤率は30質量%以上であることが好ましい。なお、膨潤率調整のため、糸篠を先ず所定の浴に浸漬し、その後、銅イオンを放出する化合物が溶解された浴に浸漬する事が望ましい場合もある。膨潤率が20質量%未満の場合、銅イオンがPVAもしくはEVOHの水酸基と十分な配位結合を形成できず、従って繊維内部まで硫化銅ナノ微粒子を生成させることができない。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴へのPVAもしくはEVOHの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。以上のことから、銅イオンを含む化合物が溶解された浴での繊維の膨潤率は30質量%以上300質量%以下であることが好ましく、50質量%以上250質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
次にPVA系繊維もしくはEVOHからなる繊維の内部と表面で配位結合している銅イオンを硫化還元処理する目的で、硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる必要がある。その場合、硫化物イオンを含む化合物の浴への添加量は銅イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、1〜100g/Lの範囲であることが好ましい。添加量が1g/L未満の場合、繊維内部の銅イオンまで還元処理が進まない可能性があるので好ましくない。また100g/Lを超える場合は、PVA系繊維内、及び/またはEVOHからなる繊維内に含まれる銅イオンを還元処理するに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。
【0032】
繊維に含浸された銅イオンを硫化する反応は、特に硫化還元能の大きい化合物を用いた場合は瞬時に起こることから、この場合の滞留時間には特に制限はないが、繊維内部にまで十分硫化還元処理を施すことを目的に、滞留時間は0.1秒以上であることが望ましい。また、先述した銅イオンを含浸させる工程、ここでいう銅イオンを繊維中で硫化析出させる工程にて、特定の周波数の超音波を照射することが、得られる導電性や品質確保において、有利になることもある。
【0033】
一方で、硫化銅粒子を予め原液から仕込んだ場合には、繊維中にナノ微粒子を分散させることはできず、所望の物性を発現させるには、多量の硫化銅粒子の添加が必要となる。この場合、原液中での分散不良や、凝集、沈降などが起こり、繊維化工程、その後の延伸性が低下し、結果として結晶化度が低く、ある程度の導電性は付与できても、機械的特性の低い繊維しか得られない。また、あらかじめ銅イオンを配位させたPVAもしくはEVOHを原料として使用した場合は、銅の配位による溶液粘度の上昇や、固化性が悪化するなど、工程性が悪化することに加えて、得られる繊維の力学物性は低いものとなる。
【0034】
このようにして得られた、繊維中に硫化銅微粒子を導入された原糸、若しくは延伸糸に、熱処理を施し繊維物性を向上させることで、本発明の導電性PVA系繊維もしくは導電性のEVOHからなる繊維を製造することができる。このための熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃の温度で行うのがよい。温度が100℃未満の場合、繊維物性の向上効果が不十分である。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらすので好ましくない。
【0035】
こうして得られた導電性PVA系繊維もしくは導電性のEVOHからなる繊維と剥離紙基材を一体化することにより静電気除去剥離紙とするが、剥離紙の製造方法は、従来から知られている公知の方法により製造可能である。すなわち、木材パルプなどの天然繊維や、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィンなどに代表される汎用合成繊維を主体繊維とし、バインダー繊維を添加混合して原料としたものを用いて、湿式法にてシート化することにより得られる。特に、主体繊維には、粘着層との剥離性や、後述するシリコン系樹脂の塗工を考慮して紙表面の平滑性向上を狙い、木材パルプの叩解品や、ポリオレフィン系合成パルプ(三井化学株式会社製「SWP」)を使用するのが望ましい。また、ここで用いるバインダー繊維としては、PVA系の湿熱接着性を有するバインダー繊維であっても、ポリエステル共重合体を使用したり、ポリオレフィンを用いた溶融系乾熱接着性のバインダー繊維を用いても構わない。さらには、上記した本発明の有機導電性長繊維を0.5〜30mmのショートカット繊維として、紙基材に配合しておくと、本発明の目的である静電気除去性能はさらに向上する。湿式法での紙製造については特に限定されないが、例えば一般の湿式抄紙機を用いることにより効率的に所望の湿式不織布(いわゆる紙)を製造できる。用いる抄き網としては、円網、短網、及び長網等が挙げられ、通常の抄紙方法で抄紙することができる。また場合によっては、異種の網、あるいは同種の網を複数組み合せて、複数層の抄き合わせとしても構わない。その後、湿式法にて得られた紙(湿紙)をドラム型乾燥機や熱風循環型乾燥機で乾燥させ、本発明の静電気除去剥離紙に使用するシートを得る。また、この後で、表面平滑性の向上、シートの厚さ、強度等の調整のために熱カレンダー処理を行うのが望ましい。
【0036】
本発明の静電気除去剥離紙において、有機導電性長繊維が配置された層と反対面の最表層には、アスファルト層(遮水層)、及び接着層との剥離性を向上させるために平滑性が要求されることから、シリコン系樹脂を塗工するのが好ましい。塗工量はもとの基材となる静電気除去剥離紙の密度や、表面の凹凸、空隙率などにもよるが、概ね基材の紙に対して3〜20質量%であるのが好ましい。基材に木材パルプの叩解品や合成パルプなどを用いて目詰めを行ったり、熱カレンダー加工などで高密度化、基材表面の平滑化を行っておけば、シリコン系樹脂の塗工量を少なくできるためさらに好ましい。
【0037】
次に、本発明の有機導電性長繊維と剥離紙基材の一体化の方法について説明する。一体化の方法としては、前記した湿式法による抄紙の段階で一体化することができる。本発明の有機導電性長繊維を幅方向に5〜100mmの間隔で巻き出し、抄紙機の抄網パートに導入して、湿紙状態の上に配置させ、その後圧搾、乾燥することで、剥離紙基材に用いたバインダー繊維を利用して、有機導電性長繊維を接着させることで一体化することが可能である。この方法によれば、剥離紙基材の製造と同時に有機導電性長繊維を一体化できることから1ステップでの製造となり生産効率もアップする。
他方、予め剥離紙基材を作成しておいて、あとから一体化する2ステップ方式をとることも可能である。この方式では、剥離紙基材と有機導電性長繊維を別々に巻き出し、有機導電性長繊維側に接着剤ディップ槽を設けて接着剤を付与したのち、剥離紙基材上に幅方向に5〜100mmの間隔で配置して、その後プレスおよび乾燥を行って一体化するか、紙基材上に幅方向に5〜100mmの間隔で有機導電性長繊維を巻き出して、接着剤をスプレーしたのち、プレスおよび乾燥を行って一体化すればよい。先にも述べたが、生産性の点から考えると、前者の1ステップによる製造の方が好適である。
【0038】
このようにして得られる本発明の静電気除去剥離紙の長さ方向の引張強力は2〜50kN/m、及び引裂強力は0.5〜10Nであることが好ましく、より好ましくは長さ方向の引張強力は3〜20kN/m、及び引裂強力は1〜8Nである。長さ方向の引張強力は重要な要素であり、2kN/m未満ではアスファルトルーフィング材の施工時に破断が生じやすくなり、作業効率の低下に繋がる。一方で施工性を考えると50kN/mを超える必要はない。引裂強力についても同じく、0.5N未満ではアスファルトルーフィング材の施工時に破断が生じやすくなり、作業効率の低下に繋がり、逆に施工性を考えると10Nを超える必要はない。
【0039】
以下実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例により何等制限されるものではない。なお、実施例において、繊維中の硫化銅微粒子の存在状態、繊維の体積固有抵抗値、静電気除去剥離紙としての性能は以下の方法により測定・評価した。
【0040】
[繊維中の硫化銅微粒子の存在状態]
繊維中の硫化銅微粒子の存在状態については、(株)HITACHI社製H−800NA透過型電子顕微鏡を用いて行った。繊維断面の写真から任意に50個の硫化銅微粒子を選び、その大きさを夫々実測し、平均粒子径とした。
【0041】
[繊維の体積固有抵抗値 Ωcm]
繊維を温度105℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度25℃、湿度30%の雰囲気下で24時間以上放置させて調湿した。この繊維に対して、2cmの繊維試験片を採取し、該試験片の両端間に、横河ヒューレットパッカード社製の抵抗値測定機「MULTIMETER」を用いて10Vの電圧をかけてその時の抵抗(Ω)を測定した。そして、体積固有抵抗値(ρ)(Ωcm)=R×(S/L)により、各試験片の体積固有抵抗値を求め、これを25試料片について行い、その平均値を試料の体積固有抵抗値とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、Lは長さ(2cm)を示す。ここで、試験片の断面積は、繊維を顕微鏡下で観察することで算出した。
【0042】
[静電気除去剥離紙の厚さ μm]
JIS P 8118「紙及び板紙の厚さと密度の試験方法」に準じて測定した。
[静電気除去剥離紙の目付 g/m
JIS P 8124「紙のメートル坪量測定方法」に準じて測定した。
【0043】
[静電気除去剥離紙の引張強力 kN/m]
JIS P 8113「紙及び板紙の引張強さ試験方法」に準じて測定した。但し、この時の引張強力は、紙基材の破断時の強力とし、長繊維の破断時の強力ではない。
[静電気除去剥離紙の引裂強力 N]
JIS P 8116「紙及び板紙の引裂強さ試験方法」に準じて測定した。但し、シートの長さ方向(MD)の引裂強さのみ測定した。これはシート幅方向(CD)の引裂強さは長繊維を複合しているため測定できなかったことによる。
【0044】
[静電気除去剥離紙としての性能評価]
アクリル製の円筒(内径=10cm)をポリエステル布でこすることで静電気を発生させ、そのアクリル製の円筒の中に発泡スチロール球(径=5mm)を通して、アクリル製の円筒の内側に静電気で発泡スチロール球付着させる。静電気除去剥離紙を筒状に丸めて棒状としたもの(径=1cm程度)を、その円筒に挿入し発泡スチロール球に近づけた時、静電気が除去され、発泡スチロール球がアクリル製の円筒から外れ落ちた場合は○、そのままの状態であった場合は×と評価した。
【0045】
[参考例1]
粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のPVAをPVA濃度50質量%となるように水を含水させ、押出し機を通して165℃に加熱し、孔径0.1mm、ホール数200のノズルを通して空気中に乾式紡糸した。巻取り機により160m/分の速度で巻き取った繊維を、200℃の熱風延伸炉中で1.6倍になるように延伸して、単繊維繊度=50dtexのPVA系長繊維を得た。この長繊維を、和光純薬(株)製の硝酸銅を200g/L溶解した50℃の温浴に、滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した30℃の温水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸したのち、洗浄するために25℃の水浴を通した。この工程を2回繰り返した後、120℃の熱風乾燥することでヤーン繊度が11000dtex、フィラメント数が200の導電性PVA系繊維を得た。この導電性PVA系繊維中の硫化銅粒子は平均粒子径が15nmであり繊維の表層から内部までほぼ均一にされており、体積固有抵抗値は5.6×10-1Ω・cmであった。
【0046】
[参考例2]
エチレン含有量44モル%、ケン化度99%のEVOHを50質量%、ポリエチレンテレフタレートを50質量%とし、前者が鞘成分、後者が芯成分となるように孔径0.2mm、ホール数1002のノズルを通して溶融紡糸して、鞘芯型複合タイプのEVOHからなる繊維の未延伸糸(単繊維繊度=5.0dtex)を得た。この長繊維を、和光純薬(株)製の硝酸銅を200g/L溶解した70℃の温浴に、滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した30℃の温水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸したのち、洗浄するために25℃の水浴を通した。この工程を2回繰り返した後、120℃の熱風乾燥することでヤーン繊度が5500dtex、フィラメント数が1002の導電性のEVOHからなる繊維を得た。この導電性のEVOHからなる繊維中の硫化銅粒子は平均粒子径が22nmであり繊維の表層から内部までほぼ均一にされており、体積固有抵抗値は4.7×10Ω・cmであった。
【0047】
[参考例3]
粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のPVAをPVA濃度16質量%となるように水に投入し、90℃にて窒素雰囲気下で加熱溶解した。得られた紡糸原液中に平均粒径が1μmの硫化銅を30質量%混合し、孔径0.16mm、ホール数1000のノズルを通して飽和芒硝水溶液からなる凝固浴中に湿式紡糸した。さらに、水中で4倍に湿延伸したのち、230℃で3.5倍に乾熱延伸することでヤーン繊度が2000dtex、フィラメント数が1000のPVA系長繊維を得た。体積固有抵抗値は8.2×1010Ω・cmであった。
【0048】
[参考例4]
参考例1と同様に、粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のPVAをPVA濃度50質量%となるように水を含水させ、押出し機を通して165℃に加熱し、孔径0.1mm、ホール数200のノズルを通して空気中に乾式紡糸した。巻取り機により160m/分の速度で巻き取った繊維を、200℃の熱風延伸炉中で1.6倍になるように延伸して、単繊維繊度=50dtexのPVA系長繊維を得た。この長繊維を、和光純薬(株)製の硝酸銅を50g/L溶解した30℃の浴に、滞留時間が60秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した30℃の温水浴に滞留時間が60秒間になるように導糸したのち、洗浄するために25℃の水浴を通した。この工程を2回繰り返した後、120℃の熱風乾燥することでヤーン繊度が10400dtex、フィラメント数が200の導電性PVA系繊維を得た。この導電性PVA系繊維中の硫化銅粒子は平均粒子径が15nmであり繊維の表層から内部までほぼ均一にされていたが、体積固有抵抗値は9.1×10Ω・cmであった。
【0049】
[実施例1]
木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例1にて得られた導電性PVA系長繊維を25mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=89g/mの紙を得た。その後、得られた紙を140℃の熱カレンダーでカレンダー処理し、その片面にシリコン樹脂を基材に対して5質量%となるように塗工して、導電性PVA系長繊維の含有量が49質量%である剥離紙を得た。得られた剥離紙はその外観、地合は良好であった。静電気除去剥離紙としての物性結果を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
実施例1と同様に木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例1にて得られた導電性PVA系長繊維を100mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=156g/mの紙を得た。実施例1と同様にカレンダー処理、シリコン樹脂塗工を行い、導電性PVA系長繊維の含有量が7.1質量%である剥離紙を得た。得られた剥離紙はその外観、地合は良好であった。静電気除去剥離紙としての物性結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
実施例1と同様に木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例2にて得られた導電性EVOH系繊維を25mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=73g/mの紙を得た。実施例1と同様にカレンダー処理、シリコン樹脂塗工を行い、導電性EVOH系長繊維の含有量が30質量%である剥離紙を得た。得られた剥離紙はその外観、地合は良好であった。静電気除去剥離紙としての物性結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
実施例1と同様に木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例3にて得られたPVA系長繊維を25mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=53g/mの紙を得た。実施例1と同様にカレンダー処理、シリコン樹脂塗工を行い、導電性PVA系長繊維の含有量が15質量%である剥離紙を得た。得られた剥離紙はその外観、地合は良好であったが、参考例3の有機繊維は導電性が劣っているため、静電気除去性能も劣るものであった。物性結果を表2に示す。
【0053】
[比較例2]
実施例1と同様に木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例1にて得られた導電性PVA系繊維を150mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=52g/mの紙を得た。実施例1と同様にカレンダー処理、シリコン樹脂塗工を行い、導電性PVA系長繊維の含有量が13質量%である剥離紙を得た。得られた剥離紙はその外観、地合は良好であったが、静電気除去性能に劣るものであった。物性結果を表2に示す。
【0054】
[比較例3]
実施例1と同様に木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例4で得られた導電性PVA系繊維を25mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=87g/mの紙を得た。実施例1と同様にカレンダー処理、シリコン樹脂塗工を行い、導電性PVA系長繊維の含有量が48質量%である剥離紙を得た。得られた剥離紙はその外観、地合は良好であったが、静電気除去性能に劣るものであった。物性結果を表2に示す。
【0055】
[比較例4]
実施例1と同様に木材パルプ(叩解度:CSF=385cc)を90質量%、PVA系繊維バインダー(株式会社クラレ製「VPB101」、繊維長3mm)を10質量%とし、これらをパルパーに投入、水分散させて混合し、スラリーを調整した。このスラリーを短網・円網のコンビネーション抄紙機にて湿紙を得た後、短網上に参考例2で得られた導電性PVA系繊維を100mm間隔で導入し、圧搾プレス後に120℃のドラム型乾燥機で乾燥して、目付=18g/m、導電性PVA系長繊維の含有量が30質量%である紙を得た。得られた紙は、長さ方向の引張強力が低く、静電気除去剥離紙として使用に耐えないものであった。物性結果を表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
以上の結果から明らかなように、体積固有抵抗値が1×10−4〜1×10Ω・cm、繊度が5〜15000dtexの有機導電性長繊維が剥離紙の最表層において長さ方向に5〜100mmの間隔で配置された静電気除去剥離紙であって、該導電性長繊維が剥離紙に対して5〜95質量%含有されており、その目付が20〜400g/m、厚さが40μm〜2mmである実施例に示す静電気除去剥離紙は静電気除去性能に優れたものであった。しかしながら、体積固有抵抗値の高いPVA系繊維を用いた比較例1や比較例3、及び導電性繊維の体積固有抵抗値が低くても、その配合量が低い比較例2は、静電気除去性能に劣るものであった。また、目付が20g/m未満の比較例4では、長さ方向の引張強力が低いために実用に耐えないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、被剥離物と剥離紙の間に生じる静電気を除去可能な静電気除去剥離紙を提供することができ、特に冬場の低湿度環境下におけるアスファルトルーフィング材施工時にルーフィング基材と剥離紙の間に生じる静電気を効率良く確実に除去可能な静電気除去剥離紙を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の静電気除去剥離紙に用いる導電性繊維の繊維中における硫化銅微粒子の分散状態を示す電子顕微鏡写真。
【図2】本発明の静電気除去剥離紙の構造を示す模式図。
【符号の説明】
【0061】
1 有機導電性長繊維
2 剥離紙基材
3 シリコン系樹脂層
4 剥離紙
5 粘着層
6 アスファルト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積固有抵抗値が1×10−4〜1×10Ω・cm、繊度が5〜15000dtexの有機導電性長繊維が剥離紙の最表層において長さ方向に5〜100mmの間隔で配置された静電気除去剥離紙であって、該導電性長繊維が剥離紙に対して5〜95質量%含有されており、かつ目付が20〜400g/m、厚さが40μm〜2mmであることを特徴とする静電気除去剥離紙。
【請求項2】
有機導電性繊維が、平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子を繊維の表層及び/または内部に含有されてなる導電性ポリビニルアルコール系繊維であるか、もしくは平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子が繊維の表層及び/または内部に含有されてなる導電性のエチレンビニルアルコール共重合体からなる繊維であることを特徴とする請求項1記載の静電気除去剥離紙。
【請求項3】
静電気除去剥離紙において、有機導電性長繊維が配置された層と反対面の最表層にシリコン系樹脂が塗工されてなることを特徴とする請求項1または2記載の静電気除去剥離紙。
【請求項4】
有機導電性長繊維を剥離紙基材を抄紙する段階で一体化するか、もしくは剥離紙基材と有機導電性長繊維を張り合わせる方法によって一体化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電気除去剥離紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−123414(P2009−123414A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293981(P2007−293981)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】