説明

静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材及びその製造方法

【課題】本発明は、容易かつ低コストである方法によって、静電紡糸ナノ繊維層を有する、低圧損で高効率なエアフィルタ用濾材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材の製造方法は、通気性を有する支持体層の表面に、静電紡糸法を用いて、粒子を分散したポリマー溶液を紡糸してナノオーダーの繊維径を有するナノ繊維を含むナノ繊維層を形成することを特徴とする。当該エアフィルタ用濾材は、PF値を15以上とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルタ用濾材、特に、半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム、クリーンベンチ等の空気浄化施設用途のエアフィルタ、ビル空調用エアフィルタ又は空気清浄機用途のエアフィルタなどにおいて使用されるエアフィルタ用濾材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン乃至ミクロン単位の粒子を捕集するためには、一般的に、エアフィルタ用濾材が用いられている。濾材は、その捕集性能により、粗塵用フィルタ、中性能フィルタ用、高性能フィルタ(HEPAフィルタ、ULPAフィルタ)用に大別される。これらエアフィルタ用濾材における基本的な特性としては、微細なダスト粒子の捕集効率が高いことのほかに、フィルタに空気を通気させるためのエネルギーコストを低減させるために、圧力損失が低いことが求められている。
【0003】
低圧損で高効率な濾材を製造する方法として、近年、静電紡糸法によって製造されるナノ繊維の利用が注目されている。例えば、繊維径が5000〜20000nmの繊維で構成され、かつ、不織布平面に対する繊維軸角度が40〜140度である繊維を50〜80重量%含有する不織布層と、繊維径が1〜500nmの繊維で構成されるナノファイバー不織布層とを積層する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、ナノ繊維層の間にポリマー粒子をコンポジットする方法が報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−289209号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第25回エアロゾル科学・技術研究討論会 国際シンポジウム2008 講演要旨集 61〜62頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に述べたような方法によって濾材を製造する場合、ナノ繊維層又はそれを支持する支持体層を製造するうえで、製造条件の厳密な制御や、多段階の製造工程を必要とするために、製品の品質安定化が困難となる問題及び製造コストの上昇を引き起こす問題などがあった。そこで、本発明は、容易かつ低コストである方法によって、静電紡糸ナノ繊維層を有する、低圧損で高効率なエアフィルタ用濾材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題は、静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材において、静電紡糸法によってポリマー溶液を紡糸してナノ繊維層を形成させるときに、ポリマー溶液中に粒子を分散させることで解決される。すなわち、本発明に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材の製造方法は、通気性を有する支持体層の表面に、静電紡糸法を用いて、粒子を分散したポリマー溶液を紡糸してナノオーダーの繊維径を有するナノ繊維を含むナノ繊維層を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材は、前記本発明に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材の製造方法によって、製造したことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材では、前記ナノ繊維を静電紡糸するときに、ポリマー溶液中に少量の粒子を分散させることが好ましい。これによって、繊維の充填率を低下させると同時に、繊維の充填均一性を上昇させる。これによって、ナノ繊維による深層濾過がより有効に働くこととなり、濾材の低圧損・高効率化が達成される。
【0010】
本発明に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材では、面風速5.3cm/秒で測定した圧力損失及びDOP透過率(対象粒子径0.10〜0.15μm)から、数1に示す式を用いて計算されるPF値が15以上であることが好ましい。
【数1】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容易かつ低コストである方法によって、静電紡糸ナノ繊維層を有する、低圧損で高効率なエアフィルタ用濾材を提供することができる。そして、本発明の濾材は、低圧損・高効率化である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0013】
本実施形態に係る静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材の製造方法は、通気性を有する支持体層の表面に、静電紡糸法を用いて、粒子を分散させたポリマー溶液を紡糸してナノオーダーの繊維径を有するナノ繊維を含むナノ繊維層を形成する工程を有する。
【0014】
本発明の作用について、以下に説明する。本発明においては、静電紡糸法によってポリマー溶液を紡糸してナノ繊維層を形成するときに、ポリマー溶液中に少量(例えば、ポリマー固形分に対して1質量%以下)の粒子を分散させることにより、詳細な機構は定かではないが、ジェット流形成から支持体層上への積層に至る紡糸工程において何らかの影響を及ぼし、繊維の充填率を低下させると同時に、繊維の充填均一性を上昇させることが可能となる。これによって、ナノ繊維による深層濾過がより有効に働くこととなり、濾材の低圧損・高効率化が達成できる。
【0015】
本発明においては、粒子をポリマー溶液中に分散させて紡糸することによって、ナノ繊維と粒子を、1段階の静電紡糸工程だけで複合化することができるため、製造を容易かつ低コストで行うことができる。また、ナノ繊維と粒子との複合比率も、ポリマー溶液に分散させる粒子量によって、容易に変化させることができる。
【0016】
本発明における静電紡糸法とは、エレクトロスピニング法とも呼ばれ、繊維となるポリマーの溶液にプラスの高電圧を与え、これがアース又はマイナスに帯電したターゲットに向かってスプレーされる過程において繊維化を起こさせる方法であり、近年、ナノオーダーの繊維径を有するナノ繊維を製造する有効な方法として利用されている。ナノオーダーの繊維径とは、例えば、数十〜数百nmであり、本発明において、ナノ繊維とはこのようなナノオーダーの極細繊維をいう。繊維径は、静電紡糸法における印加電圧、ターゲットドラムの回転数、ノズル‐ターゲット間距離によって、適宜調整が可能である。
【0017】
繊維となるポリマーは、水、有機溶媒などの溶媒に溶解できるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、水に溶解可能なポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体などが挙げられる。また、有機溶媒に溶解可能なポリマーとしては、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステルなどが挙げられる。
【0018】
ポリマー溶液中に分散させる粒子は、触媒活性を全く有していないか、又は触媒活性をほとんど有していない粒子である。また、その粒子の表面にアルミナ処理などの被覆処理を施した粒子としてもよい。さらに、触媒活性を有した粒子であっても、その粒子の表面にアルミナ処理などの被覆処理を施し、触媒不活性化した粒子としてもよい。その理由は、本発明において粒子を用いる目的が、触媒効果の付与ではなくナノ繊維層の構造制御にあることはもちろんであるが、それだけでなく、触媒活性を有する粒子を用いた場合、その触媒活性によってナノ繊維を構成するポリマーが分解され劣化するという問題が発生するので、この問題を防止するためでもある。
【0019】
ポリマー溶液中に分散させる粒子は、ナノ繊維を構成するポリマーを劣化させることがなく、更に、ポリマー溶液中に分散したときに溶解しないものであれば、有機粒子又は無機粒子のどちらでもよく、又は、両者を同時に使用してもよく、特に限定されるものではない。例えば、有機粒子としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンの粒子などが挙げられる。また、無機粒子としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、又はそれらの複合物の粒子などが挙げられる。粒子の粒子径は、繊維同士の間隔を所望の距離とするために適宜選択されるが、例えば10〜100000nmである。異なる粒子径の粒子を混ぜて使用してもよい。なお、粒子の粒子径は、平均一次粒子径である。粒子径の測定は、例えば、レーザー回折散乱法又は動的光散乱法で行うが、動的光散乱法が好ましい。
【0020】
ナノ繊維層は、強度や加工適性をもたせるために、支持体層の上に形成される。支持体層としては、実用上十分な強度を有していること、静電紡糸用の装置に設置可能なシート状であること、及び、エアフィルタ用濾材としての性能を損なわないように高い通気性を有していることが必要とされる。このような支持体層として最適な材料としては、紙、不織布、織布などからなる多孔性の繊維シートが挙げられる。なお、支持体層の厚さは、例えば0.2〜1.0mmで、坪量としては40〜200g/mである。また、ナノ繊維層の厚さは、例えば0.005〜0.2mmで、坪量としては0.5〜10g/mである。
【0021】
以上説明したエアフィルタ用濾材の製造方法によって得られるエアフィルタ用濾材は、静電紡糸法によってポリマー溶液を紡糸してナノ繊維層を形成するときに、ポリマー溶液中に少量の粒子を分散させることにより、繊維の充填率を低下させると同時に、繊維の充填均一性を上昇させる。これによって、ナノ繊維による深層濾過がより有効に働くこととなり、濾材の低圧損・高効率化が達成できる。例えば、面風速5.3cm/秒で測定された圧力損失及びDOP透過率(対象粒子径0.10〜0.15μm)から、数1に示す式を用いて計算されるPF値が15以上となる。
【数1】

【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0023】
(実施例1)
(支持体層用不織布の作製)
繊維径1.7dtx、繊維長5mmのポリエステル繊維(商品名:テピルスTT04N、製造元:帝人ファイバー(株))70質量%と、繊維径1.7dtx、繊維長5mmのポリエステル芯鞘複合型繊維(商品名:テピルスTJ04CN、製造元:帝人ファイバー(株))30質量%に対して、固形分濃度0.4質量%となるように水道水を加えて、標準離解機(JIS P 8220:1998)を用いて離解し、原料スラリーを得た。次いで、離解後の原料スラリーを固形分濃度0.1質量%となるように水道水で希釈し、手抄装置を用いて抄紙し、湿紙を得た。次いで、この湿紙を、温度120℃のロータリー乾燥機で乾燥して、坪量70g/mの支持体層用不織布を得た。
【0024】
(静電紡糸ナノ繊維層の作製)
前記の支持体層用不織布を、静電紡糸法シート製造装置(商品名:NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット、製造元:カトーテック(株))のターゲットドラムに設置した。次いで、ナノ繊維ポリマーとする分子量150000のポリアクリロニトリル(比重:1.19)を、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解させ、ポリマーの固形分濃度が5質量%の溶液とし、このポリマー溶液に、平均一次粒子径410nmのアルミナ処理によって触媒活性を抑えたルチル型酸化チタン粒子(商品名:タイピュアR−900、製造元:デュポン社、粒子径はレーザー回折散乱法による測定値である。)をポリマー固形分質量に対して0.3質量%となるように添加し、十分に攪拌して粒子を分散させた。この溶液をノズルが取り付けられたシリンジに入れ、前記支持体用不織布の上に静電紡糸を行い、静電紡糸ナノ繊維層を作製した。このとき、静電紡糸法シート製造装置の設定条件は、印加電圧15kV、ターゲットドラム回転速度6m/分、ノズル‐ターゲット間距離15cmとした。こうして、坪量2.0g/mの静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材を得た。
【0025】
(実施例2)
静電紡糸に用いるポリマー溶液中に添加する粒子が、ポリマー固形分質量に対して0.3質量%の、平均一次粒子径300nmの架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(商品名:ガンツパールPM−030S、製造元:ガンツ化成(株)、粒子径は動的光散乱法による測定値である。)であること以外は、実施例1と同様の方法により、坪量2.0g/mの静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材を得た。
【0026】
(比較例1)
静電紡糸に用いるポリマー溶液中に粒子を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法により、坪量2.0g/mの静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材を得た。
【0027】
実施例及び比較例において得られたエアフィルタ用濾材の評価は、次に示す方法によって行った。
【0028】
ナノ繊維の平均繊維径及びナノ繊維層の厚さは、走査型電子顕微鏡写真によって測定した。
【0029】
ナノ繊維層の充填率は、数2に示す式を用いて計算した。なお、本発明の実施例においては、ナノ繊維ポリマー中に添加する粒子の量がポリマー固形分に対して0.3質量%と非常に少なく、ナノ繊維比重に対してほとんど影響を及ぼさないため、ナノ繊維比重にはポリマー比重の値を用いた。
【数2】

【0030】
平均孔径及び最大孔径は、試液としてフッ素系不活性液体(商品名:フロリナートFC−40、製造元:住友スリーエム(株))を用いて、細孔径分布測定器(商品名:パームポロメーター、製造元:PMI社)を用いて測定した。
【0031】
圧力損失は、有効面積100cmの濾材に、空気が面風速5.3cm/秒で通過したときの差圧であり、マノメーターを用いて測定した。
【0032】
DOP透過率(対象粒子径0.10〜0.15μm)は、有効面積100cmの濾材に、ラスキンノズルで発生させた多分散DOP粒子を含む空気が面風速5.3cm/秒で通過したときの上流及び下流の個数をレーザーパーティクルカウンター(商品名:KC−18、製造元:リオン(株))を使用して測定し、それらの個数比を計算して求め、百分率で示した。
【0033】
PF値は、圧力損失及びDOP透過率(対象粒子径0.10〜0.15μm)の測定値から、数1に示す式を用いて計算した。PF値が15以上でという値は、従来の不織布濾材では到達が困難なレベルである。
【数1】

【0034】
実施例1、2及び比較例1の評価結果は、表1のとおりとなった。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1及び2ともに、比較例1に比べてナノ繊維層充填率が低く、静電紡糸に用いるポリマー溶液中への粒子添加による、繊維の充填率低下効果が確認された。
【0037】
実施例1及び2ともに、比較例1に比べて平均孔径/最大孔径の比率が1に近づいている。平均孔径/最大孔径の比率が1に近づくということは、ナノ繊維層内での繊維の配列がより均一になっていることを示している。このことから、静電紡糸に用いるポリマー溶液中への粒子添加による、繊維の充填均一化効果が確認された。
【0038】
前記の2つの効果により、実施例1及び2ともに、比較例1に比べてPF値が向上しており、低圧損で高効率のエアフィルタ用濾材を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する支持体層の表面に、静電紡糸法を用いて、粒子を分散したポリマー溶液を紡糸してナノオーダーの繊維径を有するナノ繊維を含むナノ繊維層を形成することを特徴とする静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材の製造方法によって、製造したことを特徴とする静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
面風速5.3cm/秒で測定された圧力損失及びDOP透過率(対象粒子径0.10〜0.15μm)から、数1に示す式を用いて計算されるPF値が15以上であることを特徴とする請求項2に記載の静電紡糸ナノ繊維層を有するエアフィルタ用濾材。
【数1】


【公開番号】特開2010−253449(P2010−253449A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109863(P2009−109863)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】