説明

静電紡糸方法及び静電紡糸装置

【課題】吐出された紡糸原液の一部がノズルの出口先端から液滴となって落下したり放出されるというトラブルを解消し、安定した紡出を行うことのできる静電紡糸方法及び静電紡糸装置を提供しようとする。
【解決手段】ノズルから押出された紡糸用原液に電界を作用させて延伸し繊維化する静電紡糸方法において、紡糸用原液をノズルから間欠周期的に吐出させることを特徴とする静電紡糸方法であり、前記ノズルに、紡糸用原液を貯留して前記ノズルに導通する原液貯留部が備えられ、該原液貯留部に貯留された紡糸用原液の液面を周期的に変動する加圧力で空気を介して加圧して紡糸用原液を前記ノズルから吐出させる静電紡糸方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電紡糸方法及び静電紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電紡糸は、ノズルのノズル孔から吐出させた紡糸用の溶液に電界を作用させて繊維化する紡糸である。静電紡糸は、繊維径がサブミクロンあるいはナノオーダーの繊維を得ることが可能であり、また溶融紡糸が困難な樹脂でも繊維化が可能なので、従来の繊維を用いては実現できなかった用途分野への展開が期待されている。
【0003】
静電紡糸による繊維ウエブの製造は、例えば図5に示すように、分配整流ブロック202へ計量ポンプ201で送られた、紡糸原液であるポリマー溶液を、口金部204へ送り、微細なノズル孔208を通して押出しながら同時に高圧電源206により電場をかけて繊維化し、捕集コンベアからなる集積装置207上に集積させることにより行われる。この繊維は、3次元のネットワーク構造を成しており、集積装置207で集積されて繊維ウエブ210となる。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
静電紡糸においては、ノズルから紡糸原液が連続的に押出して吐出され繊維化されるが、ノズルから紡糸原液を一定量押出しても、吐出された紡糸原液の一部がノズルの出口先端から液滴となって落下したり放出されるというトラブルが生じ、安定的な紡出ができなくなることがある。
【特許文献1】特開昭63−145465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電紡糸においては、一般には、ノズルの中空部を通って紡糸原液がノズルの出口先端から連続的に一定流量で吐出され、電界の作用により延伸されて繊維化されて、捕集面に向けて放出される。しかし、多数本のノズルを配して紡糸する場合、各ノズルで作用する電界の状態がノズルごとに異なることが避けられず、ノズルによっては紡糸原液を延伸して放出するに十分な電界が作用しないことになり、このようなノズルにおいて紡糸原液が放出されずに液滴となって落下したり、あるいは紡糸原液が十分に延伸されずに液滴の状態で放出されるという上述のトラブルが生ずる。
【0006】
本発明の目的は、吐出された紡糸原液の一部がノズルの出口先端から液滴となって落下したり放出されるというこのようなトラブルを解消し、安定した紡出を行うことのできる静電紡糸方法及び静電紡糸装置を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨とするところは、

請求項確定後に記載


【発明の効果】
【0008】
本発明によると、静電紡糸において、吐出された紡糸原液の一部がノズルの出口先端から液滴となって落下したり放出されるというトラブルを解消し、安定した紡出を行うことのできる静電紡糸方法及び静電紡糸装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、静電紡糸において、紡糸中に紡糸原液がノズルの出口先端から液滴となって落下したり放出される現象を説明すると、静電紡糸においては、一般には、ノズルの中空部を通って紡糸原液がノズルの出口先端から連続的に一定流量で吐出され、電界の作用により延伸されて繊維化されて、捕集面に向けて放出される。しかし、多数本のノズルを配して紡糸する場合、各ノズルで作用する電界の状態がノズルごとに異なることが避けられず、ノズルによっては紡糸原液を延伸して放出するに十分な電界が作用しないことになり、このようなノズルにおいて紡糸原液が放出されずに液滴となって落下したり、あるいは紡糸原液が十分に延伸されずに液滴の状態で放出されるという現象が生ずる。
【0010】
本願発明者らは鋭意検討の結果、紡糸原液を間欠周期的にノズルから吐出させることにより、かかる現象によるトラブルが解決できることを見出し本願発明に至った。
【0011】
本願発明の実施の態様の一例を図1に示す。図1において、本願発明にかかる静電紡糸装置2は、紡糸用原液3を貯留する原液貯留部4と、ノズル6と、ノズル6とアースと電気的に導通させた不図示の捕集面とのあいだに電位差を与える印加装置(印加手段)9とを備える。原液貯留部4がノズル6に導通して、紡糸用原液3は原液貯留部4からノズル6に供給されノズル6の先端13から印加装置9で生じた電界による延伸力により放出される。
【0012】
原液貯留部4の上部は加圧室8となっており、加圧室8の内部は空気導入口10を除いては密閉された空間12となっている。加圧室8の内面下部は紡糸用原液3の液面14となっている。すなわち、液面14が空間12の下面部を形成している。加圧室8は導入口10、管路17を介して空気供給制御装置(加圧手段)18に連結している。空気供給制御装置18へは例えばコンプレッサのような加圧空気源16から所定の圧の空気が供給されている。この空気は空気供給制御装置18に内蔵された不図示の調整弁により定められた圧に調整され、また加圧室8への流量が制御される。さらに空気供給制御装置18は加圧室8との導通を開閉する不図示の開閉弁を備え、この開閉弁が交互にオンオフすることにより、制御された流量とタイミングでこの空気が加圧室8に向けて送られ加圧室8内が定められた高圧になる状態と、加圧室8内の圧が低下して低圧になる状態とが交互にすなわち、周期的に実現される。
【0013】
加圧室8内が高圧になる状態ではノズル6の先端13での紡糸用原液の内圧が高くなり、紡糸用原液が先端13から吐出されるが、このときの内圧により紡糸用原液が加速されて吐出されるので、電界の作用が比較的小さくとも液滴を生ずることなく紡糸用原液の放出と延伸が行われるものと思われる。さらに、紡糸用原液の表面張力や粘性抵抗に打ち勝って内圧で紡糸用原液が吐出されるのでノズル先端での表面張力や粘性抵抗による液溜まりの発生が生じないものと思われる。
【0014】
本願発明においては上述のようにしてノズル6内の紡糸用原液の押出し圧を間欠周期的に高めてノズル6から放出することにより細繊度の紡糸を高吐出量で安定して行うことができる。
【0015】
本発明の他ノズルの態様においては図4に示すように原液貯留部4aに複数個のノズル6が連結されていてもよい。なお、本明細書においては、各図にわたって記される同じ符号は同一又は同様の部材やものを示す。図4においては、原液貯留部4aは貯留槽15と液溜め容器19とを備え、貯留槽15の下底に複数個のノズル6が間隔をおいて配列して配されている。液溜め容器19は貯留槽15と導通し、液溜め容器19の内部上側に加圧室8が形成されている。
【0016】
ノズル内の紡糸用原液の押出し圧を間欠的に高める方法としては、上述のように原液貯留部の紡糸用原液の液面を空気を介して間欠的に加圧する方法が加圧手段を液体に接触差せる必要が無くメンテナンスや操作のうえで取扱いが容易で好ましく、また、加圧室8内や管路内の空気がクッションとなって、ノズル内の紡糸用原液にかかる圧力の、加圧時の立ち上がりがなめらかで吐出の立ち上がり状態が液の破裂を伴うことなく安定しているので好ましいが、送液ポンプを用意してノズルと送液ポンプとを空気溜を介さずに連結して、送液ポンプの流量を周期的に変えてノズル内の紡糸用原液の押出し圧を間欠的に高めてもよい。送液ポンプとしてはとくに限定されないが例えば、ギアポンプや、内方に液流路が形成されてなる弾性チューブに対して、その一部領域を外方から圧搾して変形させ、当該圧搾されてなる領域を前記液流路に沿って移動させることで前記液流路内の液体を流動させるローラポンプなどが挙げられる。さらには、図3に示すように液溜め容器19内の紡糸用原液3の液面を空気を介して加圧源16aに接続して一定圧で加圧状態とし、液溜め容器19と貯留槽15とを結ぶ液路21に設けたシャッター23により、紡糸用原液の流れを間欠周期的に遮断する態様であってもよい。
【0017】
図4のグラフに、図1、図2に示す態様における加圧室8内の圧力(気圧)の変化の例を示す。縦軸が気圧、横軸が経過時間である。加圧室8内の圧力が高圧になった状態20の気圧はAMaxは0.01〜0.5MPa、持続時間TAは0.01〜1秒、低圧になった状態22の気圧AMinは−0.005〜0.005MPa、周期Sは0.5〜3秒がそれぞれ好ましい。最適のAMax、AMin、TA、Sの値は紡糸用原液の粘度、表面張力、ノズルとの濡れ性で左右されるが、紡糸状態を見つつ紡糸状態が良好になるように値を調整することが好ましい。図4のグラフにおけるパルスの形状はモデル的なものであり急峻な立ち上がり形状と急峻な下降があれば矩形波状でなくともよい。
【0018】
本発明において用いられる紡糸用原液としては、ポリマーを溶媒に溶解した溶液や、金属アルコキシドを加水分解した曳糸性のゾル溶液などが挙げられる。このポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、フッ素系ポリマーやその共重合体、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系高分子、アラミド、ポリベンズイミダゾール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミド、ポリエチレンサルファイド、SBS共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ポリグリコール酸、ポリD,L−乳酸−グリコール酸共重合体、ポリアリレート、ポリプロピレンフマラート、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子類、ポリペプチド、タンパク賞などのバイオポリマー類、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系高分子などが挙げられる。これらの高分子から選ばれる複数種の混合物を用いてもよい。
【0019】
紡糸用原液の溶媒は極細繊維構成材料によって異なり、特に限定するものではないが、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどを例示することができる。
【実施例】
【0020】
図2に示す静電紡糸装置2aを用いて静電紡糸を行った。原液貯留部4aは内のりが220mm×20mm×50mm(たて×よこ×高さ)の槽からなり、原液貯留部4aの下底に20個のノズル6を10mm間隔でたて方向に配列させて配した。各ノズル6の内径は0.6mm、長さは50mmである。ノズル6と不図示の捕集部との印加電圧を10kVとして紡出を行った。
【0021】
紡糸用原液としてはポリビニルアルコール(株式会社クラレ社製:品番117)の10重量%水溶液を用いた。
【0022】
空気供給制御装置18としては武蔵エンジニアリング株式会社製のディスペンサー(型式ML−5000X)を用いた。AMaxは0.03MPa、AMinは0MPa、TAは0.05秒、Sは1秒に設定して液だれのない良好な紡糸状態を得た。紡糸用原液の吐出量は各ノズルの吐出を合わせた総吐出量で20g/minであった。
【比較例】
【0023】
実施例と同様にして静電紡糸を行った。ただし、空気供給制御装置18を用いず、加圧室8aと加圧空気源16とを不図示の圧力調整弁を介して連結し、加圧室8a内の圧力は各ノズルの吐出を合わせた総吐出量が20g/minとなるように調整し一定に設定した。紡糸中に頻繁に特定のノズル6の先端から液だれが生じた。
【0024】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の静電紡糸装置の態様の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の静電紡糸装置の他の態様の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の静電紡糸装置のさらに他の態様の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の静電紡糸方法における紡糸用原液への加圧の時間的変化の様子を示すグラフである。
【図5】従来の静電紡糸装置の態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
2:静電紡糸装置
4:原液貯留部
6:ノズル
8:加圧室
10:空気導入口
12:空間
14:液面
16:加圧空気源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから押出された紡糸用原液に電界を作用させて延伸し繊維化する静電紡糸方法において、紡糸用原液をノズルから間欠周期的に吐出させることを特徴とする静電紡糸方法。
【請求項2】
前記ノズルに、紡糸用原液を貯留して前記ノズルに導通する原液貯留部が備えられ、該原液貯留部に貯留された紡糸用原液の液面を周期的に変動する加圧力で空気を介して加圧して紡糸用原液を前記ノズルから吐出させる請求項1に記載の静電紡糸方法。
【請求項3】
紡糸用原液を吐出させるノズルと、前記ノズル中の紡糸用原液に周期的に変動する押出圧を与え各変動ごとに高まった押出圧により紡糸用原液をノズルから間欠周期的に吐出させる加圧手段と、該ノズルから吐出された紡糸用原液に電界を作用させて延伸し繊維化する印加手段と、を備えた静電紡糸装置。
【請求項4】
さらに前記ノズルと導通し紡糸用原液を貯留する原液貯留部を備え、該原液貯留部に、該原液貯留部に貯留された紡糸用原液の液面を内面下部とする加圧室が設けられ、前記加圧手段が前記加圧室内の空気に周期的な変動圧を与える空気供給制御装置を備える請求項3に記載の静電紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−231635(P2008−231635A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75832(P2007−75832)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】