説明

静電紡糸法により繊維構造体を製造する方法および装置

【課題】繊維構造体を製造する方法および装置、さらに詳しくは静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を清掃する方法および装置において、当該繊維構造体を搬送する際に発生する毛羽立ちや剥離の問題を解消し、均一な形状を維持したまま、当該繊維構造体を製品として得ることができる方法および装置を提供すること。
【解決手段】静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する方法において、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維構造体の製造方法および装置に関する。さらに詳しくは、静電紡糸法により繊維形成性物質より成る繊維構造体を製造する方法および装置において、当該繊維構造体を搬送する際に発生する毛羽立ちや剥離の問題を解消することが可能な方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の繊維形成性物質を紡糸する技術としては、溶融状態の繊維形成性物質をノズルより紡出させ、これを大気中もしくはある種の気体中で冷却・固化させて繊維を得る「溶融紡糸法」や、繊維形成性物質を含む溶液をノズルより紡出させ、これより溶媒成分を蒸発させて繊維を得る「乾式紡糸法」、同様にノズルより紡出された繊維形成性物質を凝固液中で固化させて繊維を得る「湿式紡糸法」などが一般的に知られている。
【0003】
また、平面状の繊維構造体を製造する技術は、既述の紡糸技術を応用したものであり、「乾式法」や「湿式法」の他に、溶融紡糸後に延伸・開繊の工程を経て平面状の繊維構造体を得る「スパンボンド法」や、溶融紡糸ノズル口に高温高圧空気流を吹き当てた後、延伸・開繊の工程を経て平面状の繊維構造体を得る「メルトブローン法」などが一般的に知られている。
【0004】
これらの紡糸技術および繊維構造体製造技術を利用し、既存の繊維や繊維構造体にない新たな特性を供すべく、様々な取り組みが為されている。中でも、繊維の直径を極小とし、単位重量当たりの表面積を向上させることで新たな機能を付与させる取り組みが盛んである。
【0005】
しかしながら、既述の紡糸技術および繊維構造体製造技術を利用して得られた繊維の直径、および繊維構造体を構成する繊維の直径は、既存の繊維と同等の直径(数〜数十μm程度)であり、サブミクロンやナノスケールの直径を有する繊維を製造することは困難である。また、高圧下での繊維形成性物質の押し出しや繊維構造体の冷却・固化に供される設備は複雑かつ高価であり、製造コストの増大や安定した製品供給を阻害する。
【0006】
そこで、新しい紡糸技術として、特許文献1および2で例示される「静電紡糸(electro spinning)法」が注目を集めている。本法は、繊維形成性物質含有溶液を正または負に帯電させ、これとは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた繊維構造体堆積部に対し、ノズルやニードルを介して紡出する方法である。
【0007】
当該ノズルやニードルより紡出した繊維状の繊維形成性物質は、ノズルやニードルと繊維構造体堆積部との間に形成される静電場の電気的引力の影響を受けて細化される。本法によると、数nmの直径を有する繊維の製造が可能となる。
【0008】
一方、本法の課題とされている量産技術に関しても検討が盛んに行われている。例えば特許文献3では、無機系構造体の製造方法と当該無機系構造体が教示されている。本法は、支持体を連続的に巻き出し、工程の途中で無機系繊維形成性物質含有溶液を支持体上に静電紡糸し、当該支持体と無機系構造体を同時に巻き取る、無機系構造体の連続製造方法である。
【0009】
しかし本法によると、支持体上に積層した無機系構造体は、支持体と共に押えロールとローラーにより挟み込まれながら移送される。この時、当該押えロール表面は当該構造体の表面と接触するため、当該押えロールおよびローラーを当該構造体および支持体が通過する際、当該押えロール表面に当該構造体の一部が付着する場合がある。
【0010】
また、当該構造体が巻き取られる巻き取りロールの前段に配設されたガイドロールにおいても、同様の現象が確認される場合がある。このように当該基材および構造体の搬送を目的としたロールに当該構造体が付着すると、当該構造体の一部が毛羽立ち、最悪の場合は剥離することもあり、当該構造体の均一な形状を保持できなくなる。
【0011】
従来の繊維構造体、特に不織布を搬送する技術においては、これら搬送用のロールに微細なスリット加工を施したり、当該ロールの表面粗度を故意的に粗くし、当該ロールと当該不織布間の接触抵抗をできる限り小さくする方法が採用されてきた。
【0012】
しかし、静電紡糸法により得られる繊維構造体を構成する繊維は、既述した通り、数nm〜1μmと極細であり、上記した従来の方法を用いた場合でも、当該接触抵抗を下げることができず、既述と同様の毛羽立ちや剥離等の問題が発生する。これを従来の不織布搬送技術の範疇で解消するには、当該搬送ロールに対し、さらに微細なスリット加工や表面粗度調整を施す必要があるが、これらの加工・調整技術は極めて高度なものであり、製作限界により達成できないか、仮に達成できたとしても莫大な設備コストが必要となる。
【0013】
【特許文献1】米国特許第6106913号明細書
【特許文献2】米国特許第6110590号明細書
【特許文献3】特開2003−073964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は繊維構造体を製造する方法および装置、さらに詳しくは静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を清掃する方法および装置において、当該繊維構造体を搬送する際に発生する毛羽立ちや剥離の問題を解消し、均一な形状を維持したまま、当該繊維構造体を製品として得ることができる方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは既述の問題を解決するために鋭意検討し、以下の発明に至った。
1.静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する方法において、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧することを特徴とする繊維構造体の製造方法。
2.基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧した当該微粒子を、当該部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、吸引除去する、1.に記載の製造方法。
3.基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧した当該微粒子を、当該部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、圧縮空気を吹き付けることにより除去する、1.もしくは2.に記載の製造方法。
4.除去した当該微粒子を回収し、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧するために循環再利用する、1.〜3.のいずれかに記載の製造方法。
5.当該微粒子が、当該繊維構造体を構成している繊維形成性物質と同一である、1.〜4.のいずれかに記載の製造方法。
6.当該微粒子が、シリコンもしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種である、1.〜4.のいずれかに記載の製造方法。
7.当該粒子の粒径が0.1〜5μmの範囲にある、1.〜6.のいずれかに記載の製造方法。
8.当該粒子の比重が0.1〜2の範囲にある、1.〜7.のいずれかに記載の製造方法。
9.静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置であって、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧する装置が具備されていることを特徴とする繊維構造体の製造装置。
10.基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、噴霧した微粒子を吸引除去するための吸引装置が具備されている、9.に記載の製造装置。
11.基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、噴霧した微粒子を圧縮空気で吹き付け除去するための圧縮空気噴霧装置が具備されている、9.もしくは10.に記載の製造装置。
【発明の効果】
【0016】
静電紡糸法により繊維構造体を製造するための既述の方法および装置を利用することで、当該繊維構造体の搬送途中で発生する毛羽立ちや剥離といった当該繊維構造体の損傷を最小限に留め、均一な形状を保持したまま、当該繊維構造体を製品として回収することが可能となる。また高度な加工技術を駆使した搬送用ロール等を用いる必要がないため、設備コストを大幅に削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の製造方法について詳述する。
尚、以下では、本発明の代表的な工程として、
(1)繊維形成性物質含有溶液を調製し、これを貯留する溶液貯留部
(2)当該溶液に高電圧を印加し、静電紡糸を行う紡糸部
(3)得られる繊維構造体および/または基材を、乾燥および/または焼成する加熱部
(4)得られる繊維構造体を回収する製品回収部
の各部より成る工程を例示して本発明を詳述するが、これにより本発明の範囲は特に限定されるものではない。
【0018】
繊維形成性物質含有溶液を調製し、これを貯留する貯留部(1)では、まず溶液貯槽に繊維形成性物質と溶媒が投入され、混合攪拌される。均一溶解した溶液を調製するために、当該溶液を機械的に攪拌し、また当該操作と並行して当該貯槽を加温する場合もあるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0019】
尚、本発明で用いられる繊維形成性物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0020】
また本発明で用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0021】
また、既述の繊維形成性物質と溶媒に無機質固体材料を混入することも可能である。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。
当該酸化物としては、Al、SiO、TiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nb等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0022】
次いで、既述の調製溶液は、送液配管を介し、当該溶液に高電圧を印加し、静電紡糸を行う紡糸部(2)に送液される。
当該紡糸部(2)は、当該溶液を紡出する紡糸ノズル、当該ノズルに高電圧を印加する高電圧発生装置、および当該ノズルに挿入された荷電用電極、当該溶液の帯電極性とは逆の極性に帯電させるか、接地させた対向電極、当該ノズルと当該対向電極との間を移動する基材、当該基材を巻き出し、搬送を行う巻き出しロールやフリーロールより構成されている。
【0023】
尚、既述した基材は、単に得られる繊維構造体を移送する目的として利用することもできるし、当該繊維構造体と併せて製品としても利用できる。前者の場合であれば、利用する基材として、平織、綾織、平畳織等、種々の織り方が施された金網や打抜金網、多孔板などの網目状構造体、金属性の平板や帯状構造体等を例示できる。また後者の場合であれば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の工業用樹脂より成る汎用の不織布やフェルト等を例示できるが、双方とも、特にこれらに限定されるものではない。
【0024】
当該紡糸部(2)では、紡糸ノズルへ送液された繊維形成性物質含有溶液に、高電圧高電圧発生装置および荷電用電極を介して高電圧を印加する。当該ノズルと、当該ノズルで帯電した当該溶液とは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた対向電極との間には、静電場形成に伴い電気的引力が生じるため、当該ノズルより当該溶液が紡出し、当該電気的引力により紡出繊維の細化が促進される。当該ノズルと当該対向電極との間では基材が連続的に移動しているため、当該基材上に当該紡出繊維より成る繊維構造体が積層し、これが次工程へと移送される。
【0025】
その後、得られる繊維構造体および/または基材を、乾燥および/または焼成する加熱部(3)では、当該繊維構造体および/または基材が微量含有している溶媒が加熱除去され、さらに次工程へと移送される。また無機系固体材料を含む繊維構造体を製造する場合には、当該部位(3)が乾燥の目的の他に、焼成の目的で使用されることもある。
【0026】
こうして得られた当該繊維構造体は、得られる繊維構造体を回収する製品回収部(4)にて回収される。既述した通り、当該繊維構造体が積層する基材を製品として取り扱う場合は、当該繊維構造体と共に当該基材を回収し、これを目的に応じた形状に加工して利用することになるが、当該基材を単に当該繊維構造体の移送のために使用した場合は、当該部位(4)にて当該基材と当該繊維構造体を剥離する作業も追加される。
【0027】
以上記した工程により、所望する繊維構造体を製品として得ることができるが、当該基材および/または繊維構造体が、当該紡糸部(2)より巻き出され、当該加熱部(3)を経て当該製品回収部(4)にて巻き取られるまでの間、実に長い距離を当該基材および/または繊維構造体が搬送されることになる。当該繊維構造体や基材だけでなく、汎用の不織布やフィルム等の面状体を長い距離搬送する場合、当該面状体の張力調整や蛇行抑制を目的として、搬送経路途中に数多くのロールが配設される。
【0028】
ところが、連続的、かつ安定した当該基材および/または繊維構造体の搬送を目的とした当該ロールの表面が、当該繊維構造体と接触するような箇所では、当該ロールの表面に当該繊維構造体の一部が付着し、当該繊維構造体表面の毛羽立ちや剥離といった諸問題を引き起こす場合がある。このような諸問題が発生すると、当該繊維構造体表面が損傷を受け、当該繊維構造体の均一な形状を保持することが著しく困難となる。
【0029】
このような諸問題を解決する施策として、これら搬送用のロールに微細なスリット加工を施したり、当該ロールの表面粗度を故意的に粗くし、当該ロールと当該不織布間の接触抵抗をできる限り小さくする方法を適用することが考えられるが、静電紡糸法により得られる繊維構造体を構成する繊維は、既述した通り、数nm〜1μmと極細であり、上記した従来の方法を用いた場合でも、当該接触抵抗を下げることができず、既述と同様の毛羽立ちや剥離等の問題が発生する。これを従来の搬送技術の範疇で解消するには、当該搬送ロールに対し、さらに微細なスリット加工や表面粗度調整を施す必要があるが、これらの加工・調整技術は極めて高度なものであり、製作限界により達成できないか、仮に達成できたとしても莫大な設備コストが必要となる。
そこで本発明では、当該基材および繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧する方法を用いる。
【0030】
本法によれば、当該基材および繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に、既述の微粒子が常に存在するため、これが緩衝材として作用し、当該繊維構造体に損傷を与えることなく、当該基材および繊維構造体を搬送することが可能となる。
さらに本法によれば、当該基材および繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面が、当該繊維構造体から離れる瞬間まで、当該微粒子の大半は当該繊維構造体上に存在する。よって、当該基材および繊維構造体を当該ロールが噛み込んでから離す瞬間まで、終始当該接触抵抗が小さい状態に保たれるため、当該繊維構造体の毛羽立ちや剥離が長期にわたり発生せず、均一な形状を保持したまま、当該繊維構造体を製品として連続回収することが可能となる。
【0031】
また本発明では、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧した当該微粒子を、当該部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、吸引除去する。
噴霧する当該微粒子は、既述した通り、当該繊維構造体の均一な形状を維持するために利用されるものであり、当該繊維構造体を製品として得る当該製造において間接的な役割を果たしている。したがって、当該繊維構造体を製品として回収する巻き取り部においても、当該微粒子が当該繊維構造体上に残存している場合、これらが製品の不良化や工程汚染の原因となる可能性がある。
よって本法によれば、均一な形状を維持したまま、当該繊維構造体を製品として得る、本発明の主たる目的を達成しつつ、製品回収部(4)までに当該微粒子を除去することで、既述した製品の不良化や工程汚染等の諸問題を解消できる。
【0032】
また本発明においては、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧した当該微粒子を、当該部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、圧縮空気を吹き付けることにより除去する方法も好適な方法として採用できる。
当該微粒子の除去方法として既述した吸引による除去は、当該微粒子の比重が小さく、かつ粒径が小さい場合であれば、何ら問題もなく、効率よく当該微粒子を除去できるが、逆に比重が大きい場合や粒径が大きい場合は、当該吸引除去では全ての残存微粒子を除去できない場合がある。これら残存微粒子が除去し切れず、製品回収部(4)まで残存した場合、既述した通り、製品の不良化や工程汚染等の諸問題が発生する。
【0033】
本法によれば、吸引よりも雰囲気空気の流速が速い圧縮空気を当該繊維構造体に吹き付けるため、比重や粒径の多寡を問わず、微粒子であれば確実に除去することが可能となる。また本法は、さらに当該微粒子の除去効率を向上させる目的で、既述した吸引除去と併用することも可能である。
また本発明においては、除去した当該微粒子を回収し、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧するために循環再利用することが可能である。
【0034】
既述した通り、噴霧する当該微粒子は、当該繊維構造体を製品として得る当該製造において間接的な役割を果たしているが、製造コストという面においては直接的に関与してくるものである。したがって、当該微粒子を使用し、これを除去した後に廃棄する場合、単位量当たりの当該繊維構造体を製造するために必要となる当該微粒子の量が大量となり、引いては製造コストの増大に繋がる。
【0035】
本法によれば、除去した当該微粒子を回収し、これを既述部位に再度噴霧する目的で循環再利用するため、必要となる微粒子は、当該微粒子の循環工程でのロス分のみとなる。よって単位量当たりの当該繊維構造体を製造するために必要となる当該微粒子の量が減少するため、製造コスト削減にも大きく貢献できる。
また、本発明で用いられる微粒子の材料は、得られる当該繊維構造体を構成している繊維形成性物質と同一であることが好ましい。
【0036】
既述した通り、噴霧する当該微粒子は、当該繊維構造体を製品として得る当該製造において間接的な役割を果たしていることから、異種材料を用いることは工程汚染の原因となる。また、得られる繊維構造体および/または基材を、乾燥および/または焼成する加熱部(3)において、当該繊維構造体上に当該微粒子が残存している場合、当該微粒子の融点によっては、当該繊維構造体に当該微粒子が融着するため、製品となる繊維構造体に異種材料が混入することによる不良品率の増大を招く危険性も高い。
【0037】
本法によれば、製品回収部(4)までに全ての残存微粒子を除去することが望ましいが、特に得られる繊維構造体および/または基材を、乾燥および/または焼成する加熱部(3)においても当該微粒子が残存する場合には、当該繊維構造体および微粒子が融着したとしても、同種材料であることからこれを許容することができる。また、異種材料の混入がないことから、既述した工程汚染の問題は容易に解消できる。
【0038】
しかしながら、既述の繊維形成性物質の微粒子を調製する場合、均一な表面粗度を有する当該微粒子を大量に得ることは一般に困難である。不均一な表面粗度を有する、粒径の不均一な当該微粒子を本法に用いると、搬送を目的としたロールの幅方向に、当該微粒子と当該ロール表面の接触抵抗の偏りが生じるため、当該繊維構造体の表面の一部で微小な毛羽立ちが発生する場合がある。
【0039】
既述した工程汚染や製品の不良品率を重視する場合は、当該繊維構造体のある程度の毛羽立ちを許容する必要があるが、当該繊維構造体の形状を重視するか、もしくはこれら双方を重視する場合は、異種材料であっても、既述の毛羽立ちや剥離といった当該繊維構造体の損傷を確実に回避でき、かつこれを確実に除去、回収できる材料で作製した微粒子を用いることが望ましい。
【0040】
そこで本発明では、既述した微粒子として、シリコンもしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種を用いる。
シリコンやフッ素系樹脂、例えばPTFE、PFA、FEP等は、固体潤滑性に優れており、各種のライニング材料として使用されている。特に微粒子で使用する場合、比表面積の増大に伴い、種々の接触材料や部品類等との潤滑性をより良いものにする。
【0041】
本発明によれば、固体潤滑性に優れたシリコンやフッ素系樹脂を当該微粒子として用いるため、搬送を目的としたロールの表面と当該繊維構造体との接触を滑らかにし、既述した毛羽立ちや剥離といった当該繊維構造体の損傷を確実に回避できる。またその性状や固体潤滑性の良さも相俟って、吸引や圧縮空気の吹き付けにより、実に容易に残存微粒子を除去できるため、既述した工程汚染や製品の不良品率増大に係る諸問題を解消できる。
【0042】
尚、本発明に用いられる微粒子の粒径は、過剰に小さい場合、既述した当該微粒子の浮遊の問題が発生することになり、逆に大きい場合、その後の除去は容易となるものの、当該微粒子のハンドリング性が悪く、また場合によっては当該繊維構造体と当該ロール表面間に入り込まない可能性があるため、好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.5〜2μmの微粒子を選定することが好ましい。
【0043】
また、本発明に用いられる微粒子の比重は、過剰に小さい場合、当該繊維構造体に噴霧しても当該繊維構造体に到達せず、雰囲気を浮遊することになり、また逆に大きい場合、その後の当該微粒子除去を著しく困難なものとするため、好ましくは0.1〜2、さらに好ましくは0.1〜1の材料を選定することが望ましい。
【0044】
さらに、以上記した発明を達成する製造装置としては、既述した本発明の代表的な工程である、
(1)繊維形成性物質含有溶液を調製し、これを貯留する溶液貯留部
(2)当該溶液に高電圧を印加し、静電紡糸を行う紡糸部
(3)得られる繊維構造体および/または基材を、乾燥および/または焼成する加熱部
(4)得られる繊維構造体を回収する製品回収部
の各部より成る工程を含む製造装置を例示できるが、これにより本発明の範囲は特に限定されるものではない。
【0045】
尚、既述の発明の効果を踏まえ、当該装置は、静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置であって、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧する装置が具備されている製造装置である。
【0046】
また同様に、当該装置は、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、噴霧した微粒子を吸引除去するための吸引装置が具備されている製造装置である。
【0047】
さらに同様に、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、噴霧した微粒子を圧縮空気で吹き付け除去するための圧縮空気噴霧装置が具備されている製造装置である。
【0048】
以上記した発明の繊維構造体の製造方法および装置を用いることで、当該繊維構造体を搬送する際に発生する毛羽立ちや剥離等に関する諸問題が解消され、均一な形状を維持したまま、当該繊維構造体を製品として得ることが可能となる。また高度な加工技術を駆使した搬送用ロール等を用いる必要がないため、設備コストを大幅に削減できる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
繊維形成性物質含有溶液を調製し、これを貯留する溶液貯留部(1)として、テフロン(登録商標)製溶液貯槽(内容積:500mL)と、当該貯槽より次工程の紡糸ノズルへと伸びるシリコン製送液配管(外径:14mm、内径:9mm)を、当該溶液に高電圧を印加し、静電紡糸を行う紡糸部(2)として、テフロン(登録商標)製紡糸ノズル(概略寸法:W210×L60×H40mm、吐出口数:6)、接地されたSUS304製対向電極(概略寸法:W210×L60×H50mm)、巻き出しロール(コア径:3inch、幅:400mm)、フリーロール(外径:50mm、幅:400mm)を、得られる繊維構造体および/または基材を、乾燥および/または焼成する加熱部(3)として箱型熱風乾燥機(有効乾燥長:1.4m)を、得られる繊維構造体を回収する製品回収部(4)として巻き取りロール(コア径:3inch、幅:400mm)を具備した製造装置を準備した。尚、当該装置において、後述する基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するフリーロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位には微粒子噴霧スプレー装置を、また当該スプレー装置の配設位置より後段、既述した加熱部(3)より前段となる位置であって、当該スプレー装置とは対向する位置に、当該基材および繊維構造体上に残存する微粒子を吸引除去するための吸引装置を、さらに当該吸引装置直近に吸引した微粒子を捕集するトラップ容器(内容積:5L)を配設し、当該トラップ容器内には、捕集した微粒子を再飛散させないよう、水2Lを投入しておいた。
【0050】
また、製造に用いる既述の調製溶液としてはポリアクリロニトリル−N,N−ジメチルホルムアミド11wt%溶液300mLを、基材としてはポリエステル不織布を、既述した部位へ噴霧する微粒子としてはポリアクリロニトル製微粒子(平均粒径:0.75μm、比重:0.8)を用いた。
【0051】
まず製造運転に先立ち、ロール状の基材を巻き出しロールに取り付け、手動でフリーロール、次いで巻き取りロールへ導いた。既述した溶液貯槽に、予め調製しておいた調整溶液を全量投入した。次いで、印加電圧を15kV、紡糸ノズル先端の紡出口と基材間の距離を150mm、基材の移送速度を0.2m/分として繊維構造体の製造運転を開始した。尚、当該製造運転を行っている間、既述した当該フリーロール表面と得られる繊維構造体が接触する部位には全て、監視用のCCDカメラを設置し、当該繊維構造体表面にて毛羽立ちや剥離が発生していないか常時監視した。この状態で60分運転を継続した後、全ての製造運転を完了させた。最終的に得られた繊維構造体を巻き取りロールより回収し、当該繊維構造体の平面的な積層斑の有無を目視確認した。また基材より当該繊維構造体を剥離し、さらに任意の10箇所より1cm各の繊維構造体を切り取り、これら全ての厚みをオフラインの膜厚計で測定した。さらにこれら全ての表面状態を走査電子顕微鏡で観察した。
【0052】
結果、当該繊維構造体の表面上に毛羽立ちや剥離による異常は確認されなかった。また、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:37μmに対し、全て±3.0μm以内であった。さらに、測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:293nmに対し、全て±30nm以内であった。
【0053】
[実施例2]
当該基材および得られる繊維構造体表面に残存する微粒子を除去する装置として、圧縮空気噴霧装置(圧縮空気元圧:0.5MPa)を用いる以外は実施例1と同様に実施した。結果、当該繊維構造体の表面上に毛羽立ちや剥離による異常は確認されなかった。また、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:45μmに対し、全て±3.5μm以内であった。さらに、測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:333nmに対し、全て±30nm以内であった。
【0054】
[実施例3]
当該基材および得られる繊維構造体表面に残存する微粒子を除去する装置として、既述した圧縮空気噴霧装置を併設し、さらに微粒子としてシリコン製微粒子(平均粒径:0.4μm、比重:0.2)を用いる以外は実施例1と同様に実施した。結果、当該繊維構造体の表面上に毛羽立ちや剥離による異常は確認されなかった。また、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:41μmに対し、全て3.5μm以内であった。さらに、測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:324nmに対し、全て±30nm以内であった。
【0055】
[実施例4]
微粒子のトラップ容器を微粒子捕捉用サイクロンとし、当該サイクロンで捕集された微粒子を間歇的に微粒子噴霧スプレー装置に供給する以外は実施例3と同様に実施した。結果、当該繊維構造体の表面上に毛羽立ちや剥離による異常は確認されなかった。また、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:42μmに対し、全て3.5μm以内であった。さらに、測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:320nmに対し、全て±30nm以内であった。
【0056】
[比較例1]
基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与する全てフリーロールの表面全面に、0.2mmのスリット加工を施した当該フリーロールを用い、既述した微粒子噴霧スプレー装置および微粒子除去用の吸引装置を本製造装置より撤去した装置を用い、実施例1と同様の製造を実施した。製造途中の様子を既述したCCDカメラによる映像で確認したが、得られる繊維構造体表面では一部で毛羽立ちや剥離が発生していた。また得られる繊維構造体の表面を目視確認したが、所々で毛羽立ちが発生しているだけでなく、当該繊維構造体の剥離による部分欠落が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する方法において、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧することを特徴とする繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧した当該微粒子を、当該部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、吸引除去する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧した当該微粒子を、当該部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、圧縮空気を吹き付けることにより除去する、請求項1もしくは2に記載の製造方法。
【請求項4】
除去した当該微粒子を回収し、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に噴霧するために循環再利用する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
当該微粒子が、当該繊維構造体を構成している繊維形成性物質と同一である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
当該微粒子が、シリコンもしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
当該粒子の粒径が0.1〜5μmの範囲にある、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
当該粒子の比重が0.1〜2の範囲にある、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置であって、基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位に微粒子を噴霧する装置が具備されていることを特徴とする繊維構造体の製造装置。
【請求項10】
基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、噴霧した微粒子を吸引除去するための吸引装置が具備されている、請求項9に記載の製造装置。
【請求項11】
基材および基材上に積層した当該繊維構造体の搬送に寄与するロールの表面と、当該繊維構造体が接触する部位以降、当該基材および繊維構造体の巻き取り行う部位までに、噴霧した微粒子を圧縮空気で吹き付け除去するための圧縮空気噴霧装置が具備されている、請求項9もしくは10に記載の製造装置。

【公開番号】特開2007−92215(P2007−92215A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281671(P2005−281671)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】