説明

静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法

【課題】静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法、さらに詳しくは、静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置および方法において、安全かつ安定した当該繊維構造体の製造が行える方法および装置を提供すること。
【解決手段】断面積Aの紡出口をN個有する紡糸部(A)を少なくとも1段用いて、静電紡糸法により繊維形成性物質よりなる繊維構造体を製造する装置であって、任意の当該紡糸部(A)1段に設けられた紡出口の断面積の合計A・Nと、当該任意の1段の紡糸部(A)に当該繊維形成性物質を含有する溶液を送液するための配管(B)の断面積Aとの比A/(A・N)を1〜1000の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法に関する。さらに詳しくは、静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置および方法において、安全かつ安定した当該繊維構造体の製造が行える方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の繊維形成性物質を紡糸する技術としては、溶融状態の繊維形成性物質をノズルより紡出させ、これを大気中もしくはある種の気体中で冷却・固化させて繊維を得る「溶融紡糸法」や、繊維形成性物質を含む溶液をノズルより紡出させ、これより溶媒成分を蒸発させて繊維を得る「乾式紡糸法」、同様にノズルより紡出された繊維形成性物質を凝固液中で固化させて繊維を得る「湿式紡糸法」などが一般的に知られている。
【0003】
また、平面状の繊維構造体を製造する技術は、既述の紡糸技術を応用したものであり、「乾式法」や「湿式法」の他に、溶融紡糸後に延伸・開繊の工程を経て平面状の繊維構造体を得る「スパンボンド法」や、溶融紡糸ノズル口に高温高圧空気流を吹き当てた後、延伸・開繊の工程を経て平面状の繊維構造体を得る「メルトブローン法」などが一般的に知られている。
【0004】
これらの紡糸技術および繊維構造体製造技術を利用し、既存の繊維や繊維構造体にない新たな特性を供すべく、様々な取り組みが為されている。中でも、繊維の直径を極小とし、単位重量当たりの表面積を向上させることで新たな機能を付与させる取り組みが盛んである。
【0005】
しかしながら、既述の紡糸技術および繊維構造体製造技術を利用して得られた繊維の直径、および繊維構造体を構成する繊維の直径は、既存の繊維と同等の直径(数〜数十μm程度)であり、サブミクロンやナノスケールの直径を有する繊維を製造することは困難である。また、高圧下での繊維形成性物質の押し出しや繊維構造体の冷却・固化に供される設備は複雑かつ高価であり、製造コストの増大や安定した製品供給を阻害する。
【0006】
そこで、新しい紡糸技術として、特許文献1および2で例示される「静電紡糸(electro spinning)法」が注目を集めている。本法は、繊維形成性物質含有溶液を正または負に帯電させ、これとは逆の極性に帯電させた、もしくは接地させた繊維構造体堆積部に対し、ノズルやニードルを介して紡出する方法である。当該ノズルやニードルより紡出した繊維状の繊維形成性物質は、ノズルやニードルと繊維構造体堆積部との間に形成される電位勾配の影響を受けて細化される。本法によると、数nmの直径を有する繊維の製造が可能となる。
【0007】
一方、本法の課題とされている量産技術に関しても検討が盛んに行われている。特許文献3では、液状の高分子物質を貯蔵するバレル、当該バレルより液状の高分子物質を加圧供給するポンプ、当該ポンプより供給される液状の高分子物質を荷電されたノズルを通して噴射する紡糸部、液状の高分子物質を荷電させるための高電圧発生部、紡糸部とは異なる極性に帯電させたウェブ堆積部(コレクター)から成る高分子ウェブ製造装置が教示されている。本法によると、研究用途で供される1つのニードルを用いた実験室規模の製造とは異なり、高分子ウェブを高速かつ大量に製造することが可能である。
【0008】
しかし、一般に静電紡糸法における当該高分子物質の送液量は、1つの紡出口に対し、数μL〜数mLと極微量であり、例えば当該バレル〜ポンプや当該ポンプ〜紡糸部間の配管内径が適切でない場合、当該紡糸部先端での圧力損失量に影響が出て、当該紡糸ノズルから過剰な液垂れが発生したり、得られるウェブの目開きの均一性が極端に悪化したりする等の紡糸不良が発生する。
【0009】
また、これら配管内で当該高分子物質が長時間滞留することにより配管閉塞が発生する場合もある。配管閉塞が発生すると、これら配管の後段に当該高分子物質が送液されず、静電紡糸を行えないだけでなく、これら配管の前段で内圧が過剰となり、例えば当該高分子物質の逆流による噴出や当該バレルの破損等を招く危険性がある。
【0010】
また、高分子物質を介してポンプ内部が高電圧に帯電することになり、電気的な誤作動を起こし、送液量や紡出量が不安定になる可能性が高く、安定した繊維構造体の製造に悪影響を及ぼす。さらに、均一な目開きを有する繊維構造体を得る目的で複数のノズルを使用する場合、各ノズルでの紡出圧や紡出量を安定化させる目的で複数のポンプを配設する必要があるが、極微量の範囲まで送液量の制御が求められる本法に必要なポンプは一般に高価であり、これに要する設備コストの増大は避けることができない。
【0011】
また特許文献4では、静電紡糸が行われる静電場に対し、第2の電場を設けることでジェット流を形成させ、これを静電的に制御して、複数の紡出口が設けられている紡糸ノズルの紡出口間の電場干渉を緩和させ、均一な目開きを有する繊維構造体を連続的に製造することができる装置ならびにその方法が教示されている。
【0012】
しかし本法においても、高分子物質の送液にはマイクロフローポンプシステムが用いられており、既述のような紡糸不良、配管内高分子物質の滞留による配管閉塞、ポンプ不具合、および設備コストの増大等の諸問題を解消するには至っていない。
【0013】
【特許文献1】米国特許第6106913号明細書
【特許文献2】米国特許第6110590号明細書
【特許文献3】特開2002−201559号公報
【特許文献4】国際公開第02/092888号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は静電紡糸法により繊維構造体を製造する装置および方法、さらに詳しくは、静電紡糸法により繊維形成性物質の繊維構造体を製造する装置および方法において、安全かつ安定した当該繊維構造体の製造が行える装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは既述の問題を解消するために鋭意検討し、以下の発明に至った。
1.断面積Aの紡出口をN個有する紡糸部(A)を少なくとも1段用いて、静電紡糸法により繊維形成性物質よりなる繊維構造体を製造する装置であって、任意の当該紡糸部(A)1段に設けられた紡出口の断面積の合計A・Nと、当該任意の1段の紡糸部(A)に当該繊維形成性物質を含有する溶液を送液するための配管(B)の断面積Aとの比A/(A・N)が1〜1000の範囲にあることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造装置。
2.当該配管(B)を介して当該紡糸部(A)へ当該溶液を送液する機構が、当該紡糸部(A)の前段に配設した少なくとも1基の貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力によるものである、1.に記載の製造装置。
3.当該貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力の変動により、当該配管(B)の内径が変動可能である1.もしくは2.に記載の製造装置。
4.当該配管(B)に樹脂製の配管を用い、当該配管(B)の途中の管壁を少なくとも1箇所で圧縮もしくは緩和することにより、当該配管(B)の内径を変動させる、1.〜3.のいずれかに記載の製造装置。
5.断面積Aの紡出口をN個有する紡糸部(A)を少なくとも1段用いて、静電紡糸法により繊維形成性物質よりなる繊維構造体を製造する方法であって、任意の当該紡糸部(A)1段に設けられた紡出口の断面積の合計A・Nと、当該任意の1段の紡糸部(A)に当該繊維形成性物質を含有する溶液を送液するための配管(B)の断面積Aとの比A/(A・N)が1〜1000の範囲にあることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造方法。
6.当該配管(B)を介して当該紡糸部(A)へ当該溶液を送液する方法が、当該紡糸部(A)の前段に配設した少なくとも1基の貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力によるものであることを特徴とする5.に記載の製造方法。
7.当該貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力の変動により、当該配管(B)の内径を変動させることを特徴とする5.もしくは6.に記載の製造方法。
8.当該配管(B)に樹脂製の配管を用い、当該配管(B)の途中の管壁を少なくとも1箇所で圧縮もしくは緩和することにより、当該配管(B)の内径を変動させる、5.〜7.のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
静電紡糸法により繊維構造体を製造するための既述の装置および方法を利用することで、繊維形成性物質含有溶液の紡糸部への送液、および当該紡糸部における繊維構造体の形成の安定化が可能となり、均一な性状を有する繊維構造体を得ることができる。また印加した高電圧に帯電するような駆動部を有する機械装置類を配設していないため、製造工程が単純化できるだけでなく、印加電圧に起因する当該機械装置類の誤作動、および危険を伴う作業を排除できるため、安全な製造を経済的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の製造装置および方法について詳述する。
図1は、本発明の一実施形態による繊維構造体製造装置の概略を示した図である。また図2は、紡糸部に配設された紡糸ノズルを、繊維形成性物質含有溶液が紡出する面より見た紡糸ノズル紡出面の概略図、さらに図3は紡糸ノズル側面の概略図である。以下これらの図を用いて本発明を詳しく具体的に説明するが、これにより本発明の範囲は限定されるものではない。
【0018】
本発明の装置は、図1に示す通り、紡糸部(A)、すなわち紡糸ノズル2の前段に繊維形成性物質含有溶液を貯留可能な溶液貯槽1を配設しており、当該貯槽1と当該ノズル2間は既述の配管(B)、すなわち送液配管9で接続されている。当該ノズル2は高電圧発生装置3に電気配線で接続されており、当該ノズル2と共に、内部に充填される当該溶液を高電圧に荷電することができる。繊維構造体を堆積させる基材7を挟んで、対向には対向電極8が配設されており、当該ノズル2に印加した電圧とは逆の極性に帯電させるか、もしくは接地させることが可能な構造となっている。当該基材7は巻き出しロール4から巻き出され、フリーロール5を経て、巻き取りロール6にて巻き取られる。
【0019】
また、基材の搬送速度や所望する繊維構造体の目付量によっては、当該ノズル2の紡出口を1つとするより、図2に示すように複数の紡出口10を設けることが、得られる繊維構造体の均一化、および効率的な製造に効果的である。本発明においても、図2に示すような複数の紡出口10を有する紡糸ノズルを用いることを前提としているが、その口数や配列、および当該ノズル2の形状が、図2に示した概略図により制限されるものではない。
【0020】
さらに、当該ノズル2の紡出口10の先端形状については、図3に例示したような中空の逆円錐形とすることが可能であるが、他に円筒形、中空の円錐台形、中空の角形等、様々な形状を例示することができ、図3に示した概略図により制限されるものではない。
また、当該配管9と当該ノズル2の接続箇所についても、図2および3に例示したように当該ノズル2の上面中央とする以外に、側面の中央とすることも可能であり、図2および3に示した概略図により制限されるものではない。
繊維形成性物質含有溶液は、配管(B)、すなわち送液配管9を介して溶液貯槽1より紡糸部(A)、すなわち紡糸ノズル2へ送液される。
【0021】
尚、本発明で用いられる繊維形成性物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0022】
また本発明で用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0023】
また、既述の繊維形成性物質と溶媒に無機質固体材料を混入することも可能である。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。
当該酸化物としては、Al、SiO、TiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nb等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0024】
さらに、当該貯槽1は少なくとも1基配設されるものであるが、これに相応した数量の当該配管9および当該ノズル2が配設されるとは限らず、通常、1基の当該貯槽1に対して2以上の当該配管9および当該ノズル2が配設されている。当該溶液の性状、所望する繊維構造体の製造量や性状等だけでなく、例えば当該装置の運転方法により、当該貯槽1に貯留される当該溶液の量が制約を受けるが、この貯留量によっては、当該貯槽1やノズル2、配管9の数量を最適化しなければならない。
【0025】
当該溶液が任意の1段の当該紡糸部(A)、つまり当該ノズル2の任意の1段へ送液されると、当該任意のノズル2内で複数の紡出口10に均等分配され、当該貯槽1より当該任意のノズル2の全紡出口10までが当該溶液で満たされる。この状態で高電圧発生装置3の電源および巻き取りロール6の駆動電源を投入することで、連続的に移動する基材7上で当該繊維形成性物質の繊維構造体を得ることができる。
【0026】
当該ノズル2の任意の1段が有する紡出口10の口数N、および各紡出口10の断面積Aは、当該繊維形成性物質の性状、および所望する繊維構造体の製造量や性状等により決定される。特にこれら2つの数値の積A・Nは、当該ノズル2の任意の1段が有する紡出口10の断面積の合計を表しており、当該任意のノズル2より紡出する当該溶液の量と強い相関をもつ数値である。
【0027】
一方、当該ノズル2の任意の1段に当該溶液を送液するための配管(B)、すなわち送液配管9の断面積Aは、当該任意のノズル2へ送液する当該溶液の量と強い相関のある数値である。よって、既述した当該ノズル2の任意の1段の紡出口断面積合計A・Nと当該配管9の断面積Aとの比A/(A・N)は、安定した繊維構造体の製造に必要となる当該溶液の送液および当該任意のノズル2からの紡出を考える上で極めて重要な数値である。
【0028】
当該数値が過剰に大きな値となる場合、当該任意のノズル2にかかる背圧が過剰となり、当該任意のノズル2への当該溶液の供給が過剰となるため、当該溶液は繊維構造体を形成することなく、液滴となって基材7上に到達し、得られる繊維構造体の性状を著しく悪化させる。また逆に小さな値となる場合、当該任意のノズル2への当該溶液の送液が不十分な状態に陥り、繊維構造体の形成が断続的となるだけでなく、当該任意のノズル2の先端で当該溶液の固化が発生するため、既述と同様、当該任意のノズル2にかかる背圧が極端に過剰となり、最悪の場合、溶液貯槽1や送液配管9の破損を招く危険性がある。
【0029】
そこで本発明における繊維構造体の製造装置、および当該繊維構造体の製造方法は、断面積Aの紡出口をN個有する紡糸部(A)、すなわち紡糸ノズル2を少なくとも1段用いて、静電紡糸法により繊維形成性物質よりなる繊維構造体を製造する装置および方法であって、任意の当該紡糸部(A)1段、つまり当該ノズル2の任意の1段に設けられた紡出口の断面積の合計A・Nと、当該任意のノズル2に当該繊維形成性物質を含有する溶液を送液するための配管(B)、つまり送液配管9の断面積Aとの比A/(A・N)が1〜1000の範囲にある。
【0030】
当該ノズル2の任意の1段の紡出口断面積合計A・Nと当該配管9の断面積Aとの比A/(A・N)を既述の範囲内とすることで、安定した繊維構造体の形成を阻害する既述の問題が解消され、均一な性状を有する繊維構造体を得ることが可能となる。
【0031】
また、本発明の繊維構造体の製造装置および方法における、当該配管(B)、すなわち送液配管9を介して当該紡糸部(A)、すなわち当該ノズル2へ当該溶液を送液する機構は、当該紡糸部(A)の前段に配設した少なくとも1基の貯槽(C)、すなわち溶液貯槽1に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力によるものである。
【0032】
一般に静電紡糸法は、繊維形成性物質含有溶液に高電圧を印加することにより生じる静電場において、当該静電場にて生じる電気的引力が、紡糸ノズル2内の紡出口10の先端にて形成・保持される当該溶液の液滴の表面張力より大きくなり、当該紡出口10の先端より当該溶液が紡出することで繊維構造体を得る方法である。したがって、連続的に当該溶液を紡出させ、安定して繊維構造体を得るためには、当該紡出口10先端での液滴形成・保持は重要な要件となりうる。
【0033】
一方、従来の紡糸法では、当該ノズル2にて消費された当該溶液を補充するよう場合、高い吐出圧を有するポンプを用いて当該溶液を送液する手法が採用されている。また静電紡糸法においても、極少量の当該溶液を送液できるようなポンプを採用している場合が多い。しかしこれら手法では、当該溶液の送液を強制的に行うことから、当該ノズル2内の紡出口10の先端にて保持可能な液滴を形成させることが極めて困難である。送液不足が原因で、当該紡出口10の先端で当該溶液の液滴形成が確認できない場合、静電場に生じる電気的引力に対し、当該溶液の表面張力が過剰となるため、当該紡出口10より当該溶液は紡出されない。また送液が過剰となった場合は、当該紡出口10の先端で液滴が保持されず、当該液滴は基材7上に到達し、得られる繊維構造体の性状を著しく悪化させる。
【0034】
また既述のポンプ類は、送液動作の機構上、独特の脈動を生じる場合が多い。脈動により、極微量ではあるが、単位時間当りの当該溶液の送液量が変化するため、極微量の紡出量を取り扱う静電紡糸法においては、紡出量に及ぼすその影響は甚大である。
そこで本発明では、当該配管9を介して当該ノズル2へ当該溶液を送液する機構は、当該ノズル2の前段に配設した少なくとも1基の当該貯槽1に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力によるものとしている。
【0035】
本法によれば、強制送液による不本意な液滴の形成や脈動による送液量の変動といった、ポンプを用いることで生じる種々の問題が解消されるため、安定して繊維構造体の製造が行えるだけでなく、ポンプおよびその周辺機器のために投じられる設備コストを大幅に削減できる。
【0036】
さらに、本発明の繊維構造体の製造装置および方法では、当該貯槽(C)、すなわち溶液貯槽1に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力の変動により、当該配管(B)、すなわち送液配管9の内径を変動させる。
【0037】
繊維構造体の製造に伴い、当該貯槽1に貯留される当該溶液の量は減少する。また当該溶液の減少に伴い、当該溶液の液頭にかかる圧力も減少する。当該貯槽1を複数配設し、各々の当該貯槽1に貯留できる当該溶液量を少量としている場合には、当該溶液の液頭にかかる圧力の減少量も小さく、当該溶液の送液に与える影響は小さいが、当該貯槽1に貯留する当該溶液量が多くなると、当該溶液の減少による液頭にかかる圧力の減少は深刻なものとなる。
【0038】
既述した当該ノズル2内の紡出口10先端で当該溶液の液滴を形成・保持させるためには、当該溶液の性状も然ることながら、当該紡出口10での圧力損失量を経時的に一定に保つことも必要である。当該溶液の減少により液頭にかかる圧力が減少すれば、送液配管9の断面積Aや当該紡出口10の断面積Aが一定である場合、既述の紡出口10での圧力損失量は時間を追って減少する。このことは、ポンプを用いた送液で認められる既述問題と同様の問題を生み出す要因となり、繊維構造体の安定製造を著しく阻害する。
【0039】
そこで本発明では、当該貯槽1に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力の変動により当該配管9の内径を変動させる。当該溶液の液頭にかかる圧力が比較的大きい製造初期には、当該配管9途中での圧力損失量を増大させる目的で配管径を小さくし、逆に液頭にかかる圧力が比較的小さい製造後期には、当該配管9途中での圧力損失量を製造初期より減少させる目的で、一度小さくした配管径を、最大で元の配管径まで拡大させる。
【0040】
本法によれば、当該溶液の液頭にかかる圧力の変動に関係なく、当該紡出口10先端での圧力損失量が経時的に実質一定となり、当該紡出口10の先端にて、静電紡糸を行うのに最適な液滴を形成・保持させることが可能となる。このことは安定した繊維構造体の連続製造に大変有効である。
【0041】
また、本発明の繊維構造体の製造装置および方法では、当該配管(B)、すなわち送液配管9に樹脂製の配管を用い、当該配管9途中の管壁の少なくとも1箇所を圧縮もしくは緩和することで、当該配管9の内径を変動させる。
【0042】
既述した当該配管9の内径を変動させる最も簡便な手法は、当該配管9の途中に流量調整バルブを設置することである。当該バルブの開閉は、当該配管9の内径を変動させることと同義であり、これにより当該配管9途中での圧力損失量を調整することができる。
【0043】
ただし本法によると、微小な流量調整を行うためには、調整可能範囲が広範囲で、かつ高い調整精度を有するバルブを当該配管9の途中に設置する必要がある。一般にこのようなバルブは高価である上、メンテナンス性も悪く、設備・維持コストの増大は避けられない。またバルブは構造上の問題もあり、当該溶液が紡糸ノズル2へ送液されず、一部滞留する危険性がある。このことは当該溶液の性状に悪影響を及ぼし、さらには均一な繊維構造体の製造を阻害する。
【0044】
そこで本発明では、当該配管9に樹脂製の配管を用い、当該配管9途中の管壁の少なくとも1箇所を圧縮もしくは緩和することで、当該配管9の内径を変動させる。
ここで当該配管9の材料として用いられる樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、シリコン、フッ素系樹脂等、伸縮性や弾力性に優れ、一般に配管材料として生産されているものを、取り扱う繊維形成性物質含有溶液の性状を踏まえ選定することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
また当該配管9の途中を圧縮もしくは緩和する手法としては、ローラー状のクランプを配設して、当該クランプの絞り量を調整する手法や、モールピンチコックを配設し、当該コックのツマミをエア駆動の往復シリンダーに接続して、当該シリンダーの往復動によりピンチコック開度を調整する手法、ホフマンピンチコックを配設し、当該コックのネジ部を正逆回転可能な回転モーターに接続して、当該モーターの回転によりピンチコック開度を調整する手法等を例示することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0046】
本法によれば、微小流量を簡便な手法で調整することが可能である。つまり、過大な設備コストを必要とせず、当該配管9途中での圧力損失量の調整が微小な範囲で可能となるため、紡糸ノズル2内の紡出口10での経時的な圧力損失量の変動が最小限に抑えられ、安定した繊維構造体の連続製造が可能となる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
SUS304製アンカー翼付攪拌装置を装備したガラス製容器(内容積:1000mL)内にL−ポリ乳酸66gを投入し、さらに塩化メチレン534gを投入した。当該容器の開放箇所を密栓した後、37℃の温水浴内で攪拌し、L−ポリ乳酸が既述溶媒に均一溶解したことを確認した。当該容器を開放し、これを図1に例示した装置のテフロン(登録商標)製溶液貯槽1(内容積:各1000mL)内に全量投入した。
【0048】
尚、当該装置には図2に例示したテフロン(登録商標)製紡糸ノズル2(概略寸法:W300×L100×H40mm、吐出口数N:12、吐出口断面積A:0.070mm、吐出口断面積合計A・N:0.84mm)を配設し、当該ノズル2と当該貯槽1間をシリコン製送液配管9(断面積A:28mm)で接続した(A/(A・N)=33)。当該溶液は当該貯槽1内に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力により当該ノズル2へ送液され始めた。当該ノズル2の側面に配設した電気結線用端子に電気配線を接続し、これと高電圧発生装置3を接続した。さらに基材7にはポリエステル不織布を用い、ロール状の当該基材7を巻き出しロール4に取り付け、手動でフリーロール5、次いで巻き取りロール6へ導いた後、当該基材7の搬送速度が1.0m/分となるように当該巻き取りロール6の回転速度を設定し、駆動電源を投入した。これと同時に、当該高電圧発生装置3の電源を投入し、繊維構造体の製造を開始した。当該ノズル2の紡出面より溶液が紡出され始め、基材7上にて平面状の繊維構造体が得られた。
【0049】
30分間放置した後、当該高電圧発生装置3の電源および当該巻き取りロール6の駆動電源を停止し、当該巻き取りロール6よりロール状の基材7および繊維構造体を回収した。当該基材7より繊維構造体を剥離し、さらに任意の20箇所より1cm各の繊維構造体を切り取り、これら全ての厚みをオフラインの膜厚計で測定した。さらにこれら全ての表面状態を走査電子顕微鏡で観察した。結果、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:22μmに対し、全て±2.0μm以内であった。また測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:265nmに対し、全て±50nm以内であった。
【0050】
[実施例2]
使用する当該ノズル2として、概略寸法:W210×L60×H40mm、吐出口数N:6、吐出口断面積A:0.20mm、吐出口断面積合計A・N:1.2mmである紡糸ノズルを用いる以外は実施例1と同様に実施した(A/(A・N)=23)。結果、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:31μmに対し、全て±3.0μm以内であった。また測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:291nmに対し、全て±50nm以内であった。
【0051】
[実施例3]
使用する送液配管9として、断面積A:201mmのシリコン製配管を用いる以外は実施例1と同様に実施した(A/(A・N)=239)。結果、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:27μmに対し、全て±2.5μm以内であった。また測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:269nmに対し、全て±50nm以内であった。
【0052】
[実施例4]
当該配管9の途中にホフマンピンチコックを配設し、当該コックのネジ部を正逆回転可能な回転モーターに接続して、当該モーターの回転によりピンチコック開度を調整できるように当該装置を改良した。尚、当該貯槽1内に貯留される当該溶液の液頭にかかる圧力は、貯留されている当該溶液の液面高さより算出することが可能であるため、当該貯槽1に液面計を追設し、当該液面計の指示値の下降度合いによって、既述したピンチコックの開度を微調整した。これ以外は実施例1と同様に実施した結果、測定箇所各々での厚みは、当該繊維構造体の厚みの平均値:19μmに対し、全て±2.0μm以内であった。また測定箇所各々での繊維径の平均値は、全測定箇所の繊維径の平均値:301nmに対し、全て±50nm以内であった。
【0053】
[比較例1]
使用する送液配管9として、断面積A:1257mmのシリコン製配管を用いる以外は実施例2と同様に実施した(A/(A・N)=1047)。結果、繊維構造体の形成は確認できたものの、当該ノズル2の先端にて当該溶液の液垂れが発生し、液滴が基材7上にまで到達し、得られる繊維構造体の外観を著しく損ねるものとなった。
【0054】
[比較例2]
使用する当該ノズル2として、概略寸法:W210×L80×H40mm、吐出口数N:6、吐出口断面積A:5.3mm、吐出口断面積合計A・N:31.8mmである紡糸ノズルを用いる以外は実施例1と同様に実施した(A/(A・N)=0.88)。結果、製造当初は繊維構造体の形成が確認されたものの、数分後に当該ノズル2の吐出口10にて溶液の固化による閉塞が確認され、その後繊維構造体の形成が確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明における製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明における製造装置の任意の1段の紡糸ノズルを、繊維形成性物質含有溶液が紡出する面より見た当該紡糸ノズル紡出面の概略図である。
【図3】本発明における製造装置の紡糸ノズル側面の概略図である。
【符号の説明】
【0056】
1. 溶液貯槽
2. 紡糸ノズル
3. 高電圧発生装置
4. 巻き出しロール
5. フリーロール
6. 巻き取りロール
7. 基材
8. 対向電極
9. 送液配管(断面積:A
10. 紡出口(断面積:A、口数:N

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面積Aの紡出口をN個有する紡糸部(A)を少なくとも1段用いて、静電紡糸法により繊維形成性物質よりなる繊維構造体を製造する装置であって、任意の当該紡糸部(A)1段に設けられた紡出口の断面積の合計A・Nと、当該任意の1段の紡糸部(A)に当該繊維形成性物質を含有する溶液を送液するための配管(B)の断面積Aとの比A/(A・N)が1〜1000の範囲にあることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造装置。
【請求項2】
当該配管(B)を介して当該紡糸部(A)へ当該溶液を送液する機構が、当該紡糸部(A)の前段に配設した少なくとも1基の貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力によるものである、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
当該貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力の変動により、当該配管(B)の内径が変動可能である請求項1もしくは2に記載の製造装置。
【請求項4】
当該配管(B)に樹脂製の配管を用い、当該配管(B)の途中の管壁を少なくとも1箇所で圧縮もしくは緩和することにより、当該配管(B)の内径を変動させる、請求項1〜3のいずれかに記載の製造装置。
【請求項5】
断面積Aの紡出口をN個有する紡糸部(A)を少なくとも1段用いて、静電紡糸法により繊維形成性物質よりなる繊維構造体を製造する方法であって、任意の当該紡糸部(A)1段に設けられた紡出口の断面積の合計A・Nと、当該任意の1段の紡糸部(A)に当該繊維形成性物質を含有する溶液を送液するための配管(B)の断面積Aとの比A/(A・N)が1〜1000の範囲にあることを特徴とする静電紡糸法による繊維構造体の製造方法。
【請求項6】
当該配管(B)を介して当該紡糸部(A)へ当該溶液を送液する方法が、当該紡糸部(A)の前段に配設した少なくとも1基の貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力によるものである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
当該貯槽(C)に貯留された当該溶液の液頭にかかる圧力の変動により、当該配管(B)の内径を変動させる、請求項5もしくは6に記載の製造方法。
【請求項8】
当該配管(B)に樹脂製の配管を用い、当該配管(B)の途中の管壁を少なくとも1箇所で圧縮もしくは緩和することにより、当該配管(B)の内径を変動させる、請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−92212(P2007−92212A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281668(P2005−281668)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】