説明

静電荷像現像用トナー、及び2成分現像剤

【課題】グリセリン、又はグリセリン誘導体を利用しつつも、低温定着性に優れ、高温で保存する場合に凝集する事無く、また、トナーを所望の帯電量に帯電させることができる、静電荷像現像用トナー、及び2成分現像剤を提供すること。
【解決手段】少なくとも結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、及び離型剤を含み、結着樹脂であるポリエステル樹脂が、少なくともグリセリン、及び/又は1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール及びアシル基の炭素原子数が12〜20であるモノアシルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種類以上のグリセリン誘導体を含むアルコール成分と、カルボン酸成分との共重合体であり、電荷制御剤は、ニグロシン系化合物、及び4級アンモニウム塩系化合物を含む、静電荷像現像用トナーを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナー、及び2成分現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に電子写真法等の画像形成方法においては、静電潜像担持体(感光体)の表面をコロナ放電等により帯電させた後、レーザー等により露光して静電潜像を形成し、この静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成し、さらにこのトナー像を記録媒体に転写して高品質な画像を得ている。通常トナー像の形成に使用するトナーには熱可塑性樹脂等の結着樹脂に、着色剤、電荷制御剤、離型剤等を混合して混練、粉砕、分級を行い平均粒径5〜10μmのトナー粒子としたものが用いられる。そしてトナーに流動性を付与したり、トナーの帯電量の制御を行ったり、転写されずに感光体上に残留したトナーのクリーニング性を向上させたりする目的で、シリカや酸化チタン等の無機微粉末等がトナーに外添されている。
【0003】
かかるトナーに関して、省エネルギー化、装置の小型等の観点から、定着ローラーを極力加熱することなく良好に定着可能な、低温定着性に優れるトナーが望まれている。しかし、低温定着性に優れるトナーは、融点やガラス転移点の低い結着樹脂や、低融点の離型剤を使用していることが多く、一般的に、高温で保存する場合に凝集しやすい問題がある。
【0004】
かかる、課題を解決するために種々の検討が行われており、例えば、3価の多価アルコールであるグリセリンをモノマーとして用いたポリエステル樹脂を結着樹脂として用いたトナーが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−20170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の、グリセリンをモノマーとして用いたポリエステル樹脂は、グリセリンが低分子量且つ多価アルコールであるため分子鎖中に負帯電性のエステル結合を多く含むこととなり、その結果、トナーが正帯電性トナーである場合、所望の帯電量に帯電させにくくなる傾向がある。このため、低温定着性と高温での保存安定性を損なうことなく、帯電性に関する前述の課題が解決されたトナーが求められている。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、グリセリン、又はグリセリン誘導体を利用しつつも、低温定着性に優れ、高温で保存する場合に凝集する事無く、また、トナーを所望の帯電量に帯電させることができる、静電荷像現像用トナー、及び2成分現像剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、少なくとも結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、及び離型剤を含み、結着樹脂であるポリエステル樹脂が、少なくともグリセリン、及び/又は1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール及びアシル基の炭素原子数が12〜20であるモノアシルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種類以上のグリセリン誘導体を含むアルコール成分と、カルボン酸成分との共重合体であり、電荷制御剤は、ニグロシン系化合物、及び4級アンモニウム塩系化合物を含む、静電荷像現像用トナーにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 少なくとも結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、及び離型剤を含み、
前記結着樹脂が、少なくともグリセリン、及び/又は1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール及びアシル基の炭素原子数が8〜20であるモノアシルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種類以上のグリセリン誘導体を含む2価又は3価以上のアルコール成分と、2価又は3価以上のカルボン酸成分との共重合体であるポリエステル樹脂であり、
前記電荷制御剤は、ニグロシン系化合物と、4級アンモニウム塩系化合物とを含む、静電荷像現像用トナー。
(2) 前記ニグロシン系化合物と、前記4級アンモニウム塩系化合物との合計含有量が、結着樹脂100質量部に対して1.5〜2.5質量部である、(1)記載の静電荷像現像用トナー。
(3) 前記4級アンモニウム塩系化合物の含有量が、前記ニグロシン系化合物100質量部に対して50〜400質量部である、(1)又は(2)記載の静電荷像現像用トナー。
(4) 前記アルコール成分が、さらにエチレングリコールを含む、(1)から(3)記載の静電荷像現像用トナー。
(5) 前記アルコール成分において、前記グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体の物質量(A)と、前記エチレングリコールの物質量(B)との物質量比A/Bが、15%以下である、(4)記載の静電荷像現像用トナー。
(6) (1)から(5)のいずれか1記載の静電荷像現像用トナーと、キャリアとを含む、2成分現像剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グリセリン、又はグリセリン誘導体を利用しつつも、低温定着性に優れ、高温で保存する場合に凝集する事無く、また、トナーを所望の帯電量に帯電させることができる、静電荷像現像用トナー、及び2成分現像剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0012】
本発明にかかる静電荷像現像用トナー(以下、単にトナーともいう)は、少なくとも結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、及び離型剤を含み、結着樹脂であるポリエステル樹脂が、少なくともグリセリン、及び/又はグリセリン誘導体を含むアルコール成分と、カルボン酸成分との共重合体であり、電荷制御剤は、ニグロシン系化合物、及び4級アンモニウム塩系化合物を含む。本発明のトナーは、結着樹脂中に、必要に応じ、磁性粉等を含んでいてもよい。また、本発明のトナーは、所望によりその表面を外添剤により処理されたものであってもよい。さらに、本発明のトナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる
【0013】
以下、静電荷像現像用トナーを構成する必須、又は任意の成分である、結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、離型剤、磁性粉、外添剤、静電荷像現像用トナーの製造方法、及び本発明のトナーを2成分現像剤として使用する場合に用いるキャリアについて順に説明する。
【0014】
〔結着樹脂〕
本発明の静電荷像現像用トナーは結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いる。ポリエステル樹脂は、少なくともグリセリン、及び/又はグリセリン誘導体を含む2価又は3価以上のアルコール成分と、2価又は3価以上のカルボン酸成分との共重合体である。以下、結着樹脂について、アルコール成分、カルボン酸成分、及び結着樹脂の製造方法について順に説明する。
【0015】
(アルコール成分)
本発明において、結着樹脂として用いるポリエステル樹脂の単量体として使用される、2価又は3価以上のアルコール成分は、少なくともグリセリン、及び/又はグリセリン誘導体を用含む。グリセリン誘導体としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、及びモノアシルグリセロール等が挙げられる。モノアシルグリセロールにおけるアシル基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、飽和アシル基であっても、不飽和アシル基であってもよい。また、モノアシルグリセロールにおけるアシル基は、直鎖のアシル基であっても分岐鎖のアシル基であってもよい。モノアシルグリセロールにおけるアシル基の炭素原子数は、12〜20が好ましい。より好ましいグリセリン誘導体としては、プロパンジオールが挙げられ、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオールのいずれか、又は双方が含まれるものが特に好ましい。
【0016】
グリセリン、及びグリセリン誘導体の製造方法は特に限定されず、グリセリン、及びグリセリン誘導体は、化学合成、発酵法、これらの方法の組合せ等によって製造される。例えば、植物油脂を加水分解し、得られた反応物からグリセリンを精製する方法が挙げられる。また、水素化分解触媒の存在下に、得られたグリセリンと水素とを反応させて、グリセリン誘導体としてのプロパンジオールを得る方法が挙げられる(特開2010−111618参照)。
【0017】
また、低温定着性に優れるトナーを得やすいことから、アルコール成分は、グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体に加え、エチレングリコールを含むのが好ましい。アルコール成分が、グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体とエチレングリコールとを含む場合、両者の物質量比((グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体)/エチレングリコール)は、15%以下であるのが好ましい。グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体とエチレングリコールとをかかる比率で用いる場合、特に、低温定着性が良好なトナーを得やすい。
【0018】
アルコール成分における、グリセリン、グリセリン誘導体、及びエチレングリコールの含有量の総量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、典型的には、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0019】
アルコール成分は、本発明の目的を阻害しない範囲で、グリセリン、グリセリン誘導体、及びエチレングリコールの他の、2価、又は3価以上のアルコール成分を含んでいてもよい。グリセリン、グリセリン誘導体、及びエチレングリコールの他の、2価、又は3価以上のアルコール成分の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール類;ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールA等のビスフェノール類;ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等の3価以上のアルコール類が挙げられる。
【0020】
(カルボン酸成分)
結着樹脂として用いるポリエステル樹脂の単量体として使用される2価又は3価以上のカルボン酸成分としては、以下のものが挙げられる。2価又は3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、或いはn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸等のアルキル又はアルケニルコハク酸等の2価カルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸等の3価以上のカルボン酸等が挙げられる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分は、酸ハライド、酸無水物、低級アルキルエステル等のエステル形成性の誘導体として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
【0021】
(結着樹脂の製造方法)
結着樹脂として用いるポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知のポリエステル樹脂の製造方法から適宜選択できる。ポリエステル樹脂の製造方法としては、例えば、前述のアルコール成分とカルボン酸成分とを反応容器に入れ、触媒の存在下に、200〜250℃で、副生する揮発性成分を除去しながら重縮合反応を行う方法が挙げられる。重縮合反応中には、揮発性成分を除去し、重縮合反応を促進する目的で、反応容器を減圧することができる。触媒としては、例えば、スズ、チタン、アンチモン、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉛、鉄、マグネシウム、カルシウム、ゲルマニウム等の金属や、これらの金属含有化合物が挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂を製造する際の、アルコール成分と、カルボン酸成分との使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルコール成分と、カルボン酸成分との使用量は、典型的には、アルコール成分に含まれる水酸基のモル数が、カルボン酸成分に含まれるカルボキシル基のモル数の4倍以上となる量が好ましく、4〜5倍となる量がより好ましい。アルコール成分に含まれる水酸基のモル数を、カルボン酸成分に含まれるカルボキシル基のモル数に対して増加させる場合、得られるトナーの酸価が低下し、トナーの吸水量が増加する傾向がある。このため、アルコール成分に含まれる水酸基のモル数の、カルボン酸成分に含まれるカルボキシル基のモル数に対する倍率を調整することにより、得られるトナーの酸価と吸水量とを調整することができる。
【0023】
カルボン酸成分が、酸ハライド、又は低級アルキルエステルである場合、ハロカルボニル基、又は低級アルコキシカルボニル基のモル数をカルボキシル基のモル数として、カルボン酸成分に含まれるカルボキシル基のモル数を算出する。また、カルボン酸成分が酸無水物である場合、酸無水物基のモル数を2倍した数を、カルボキシル基のモル数として、カルボン酸成分に含まれるカルボキシル基のモル数を算出する。
【0024】
なお、本発明にかかるトナーは、カーボンニュートラルの観点から、結着樹脂を構成するポリエステルの原料として、バイオマス由来の材料を利用するのが好ましい。バイオマスの種類は特に限定されず、植物バイオマスであっても動物バイオマスであってもよい。
バイオマス由来の材料の中では、大量に入手しやすく安価であることから、植物バイオマス由来の材料がより好ましい。ポリエステルの原料の中では、グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体をバイオマス由来の材料として用いるのが好ましい。バイオマスから、グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体を製造する方法の具体例としては、植物性油脂、又は動物性油脂の酸、塩基等による化学的加水分解や、又は酵素、微生物等による生物的加水分解が挙げられる。また、グリセリンは、グルコース等の糖類を含む基質から発酵法により製造することもできる。
【0025】
大気中に存在するCOのうち、放射性炭素(14C)を含むCOの濃度は、大気中において一定に保たれている。一方、植物は大気中の14Cを含むCOを光合成の過程において取り込むことで、自らの有機成分における炭素中の14Cの濃度が、大気中における14Cを含むCOの濃度と同じ比率となっており、その濃度は107.5pMC(percent Modern Carbon)である。また、動物における炭素も、植物に含まれる炭素に由来するため、動物の有機成分における炭素中の14Cの濃度も、植物と同様である。
【0026】
ここで、トナー中に含まれる14Cの濃度をXpMCとすると、下記式(1)により、トナー中の炭素のうちのバイオマス由来の炭素の比率を求めることができる。
<式(1)>
バイオマス由来の炭素の比率(%)=(X/107.5)×100 (1)
【0027】
また、カーボンニュートラルの観点から特に好ましいプラスチック製品として、製品に含まれる炭素中のバイオマス由来の炭素の割合が25%以上であるプラスチック製品に対して、バイオマスプラマーク(日本バイオプラスチック協会認証)が与えられる。そして、トナーに含まれる炭素中のバイオマス由来の炭素の割合が25%以上となる、トナー中の14Cの濃度Xを上記式(1)から求めると、26.9pMC以上となる。従って、トナーに含まれる炭素の放射性炭素同位体14Cの濃度が26.9pMC以上となるように、ポリエステルを調製することが好ましい。なお、石油化学製品の炭素元素中における14Cの濃度は、ASTM−D6866に従って測定できる。
【0028】
ポリエステル樹脂の軟化点は、80℃以上150℃以下が好ましく、90℃以上140℃以下がより好ましい。
【0029】
〔着色剤〕
静電荷像現像用トナーは、結着樹脂中に黒色の着色剤を含む。トナーに添加する好適な着色剤は、黒色顔料であれば特に限定されることはなく、具体例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラック等の黒色顔料が挙げられる。また、色相の調整のために、黒色顔料と他の色の顔料とを組み合わせて用いてもよい。
【0030】
着色剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。具体的には、結着樹脂100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましい。
【0031】
〔電荷制御剤〕
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂中に、ニグロシン系化合物と、4級アンモニウム塩系化合物とを含有する電荷制御剤が含まれる。電荷制御剤は、トナーの帯電レベルや、トナーを所定の帯電レベルに短時間で帯電可能か否かの指標となる帯電立ち上がり特性を向上させ、耐久性や安定性に優れたトナーを得る目的で使用される。
【0032】
結着樹脂として、グリセリンやグリセリン誘導体を単量体として用いて製造されたポリエステル樹脂を用いる場合、トナーを所望の帯電量に帯電させにくくなる傾向がある。しかし、本発明のトナーでは、電荷制御剤として、ニグロシン系化合物と4級アンモニウム塩系化合物とを併用することによって、所望の帯電量に容易に帯電させることができる、帯電性に優れたトナーを調製できる。
【0033】
ニグロシン系化合物の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、結着樹脂100質量部に対して0.3〜3.0質量部が好ましく、0.5〜2.0質量部がより好ましい。4級アンモニウム塩系化合物の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、結着樹脂100質量部に対して0.3〜3.0質量部が好ましく、0.5〜2.0質量部がより好ましい。また、ニグロシン系化合物と、4級アンモニウム塩系化合物との合計使用量は、結着樹脂100質量部に対して1.5〜2.5質量部が好ましく、ニグロシン系化合物の使用量に対する、4級アンモニウム塩系化合物の使用量は、ニグロシン系化合物100質量部に対して50〜400質量部が好ましく、100〜200質量部がより好ましい。以下、ニグロシン系化合物と、4級アンモニウム塩系化合物とについて順に説明する。
【0034】
(ニグロシン系化合物)
トナーに含有させるニグロシン系化合物の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、例えば、ニグロシン、ニグロシン塩、ニグロシン誘導体等のニグロシン化合物や、ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZ等のニグロシン化合物からなる酸性染料を用いることができる。
【0035】
ニグロシン染料を合成する場合、合成方法は特に限定されない。ニグロシン染料は、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩等のアニリン化合物と、ニトロベンゼン、ニトロフェノール、ニトロクレゾール等のニトロベンゼン化合物とを、塩酸と鉄や塩化鉄との混合物、塩化鉄等の存在下に加熱して縮合させることにより製造できる。
【0036】
(4級アンモニウム塩系化合物)
4級アンモニウム塩系化合物は、4級アンモニウム塩構造を有する化合物であれば特に限定されず、分子中に4級アミノ基を1つ有する低分子の4級アンモニウム塩でもよく、樹脂に複数の4級アンモニウム塩官能基が導入された電荷制御樹脂(以下、4級アンモニウム塩官能基含有樹脂とも称する)であってもよい。
【0037】
低分子の4級アンモニウム塩の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からトナー用の電荷制御剤として使用されるものから適宜選択して使用することができる。低分子の4級アンモニウム塩の具体例としては、ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。また、4級アンモニウム塩系化合物の市販品としては、例えば、オリヱント化学工業株式会社製の「ボントロンP−51」、「ボントロンP−52」等が挙げられる。
【0038】
4級アンモニウム塩官能基含有樹脂の具体例としては、4級アンモニウム塩を有するスチレン系樹脂、4級アンモニウム塩を有するアクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するスチレン−アクリル系樹脂、及び4級アンモニウム塩を有するポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0039】
4級アンモニウム塩官能基含有樹脂の製造方法は特に限定されないが、例えば、4級アンモニウム塩官能基を有する付加重合可能なモノマーと、スチレン及び/又はアクリルモノマーとを共重合させることによって得られる。
【0040】
4級アンモニウム塩官能基を有する付加重合可能なモノマーとしては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、又はジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドから第4級化の工程を経て誘導されるモノマーが用いられる。ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、ジアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としてはジメチルメタクリルアミドが挙げられ、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としては、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドが挙げられる。3級アミノ基の4級化に用いられる試薬の具体例は、塩化メチル、臭化メチル、塩化エチル等の炭素原子数1〜6のハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の炭素原子数1〜6のアルキルエステルである硫酸エステル;塩化ベンジル等の炭素原子数7〜10のハロゲン化アラルキルである。4級アンモニウム塩官能基を有する付加重合可能なモノマーは、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0041】
また、4級アンモニウム塩官能基含有樹脂は単独で使用できるが、4級アンモニウム塩官能基含有樹脂以外の樹脂と混合して用いることもできる。4級アンモニウム塩官能基含有樹脂と混合する樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。4級アンモニウム塩官能基含有樹脂と混合して使用できる樹脂の具体例としては、ポリスチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0042】
4級アンモニウム塩官能基含有樹脂と4級アンモニウム塩官能基含有樹脂以外の樹脂とを混合して使用する場合、その混合方法は両者が均一に混合される限り特に限定されない。混合方法の具体例としては、一軸押出機又は二軸押出機等を用いる溶融混練や、混合する樹脂材料を有機溶媒に溶解させた後に、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0043】
〔離型剤〕
本発明の静電荷像現像用トナーは、離型剤が含まれる。離型剤は、トナーの定着性や耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーに添加する離型剤の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。離型剤としてはワックスが好ましく、ワックスの例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、エステルワックス、モンタンワックス、ライスワックス等が挙げられる。これらの離型剤は2種以上を組み合わせて使用できる。かかる離型剤をトナーに添加することにより、オフセットや像スミアリング(画像をこすった際の画像周囲の汚れ)の発生をより効率的に抑制することができる。
【0044】
離型剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。具体的な離型剤の使用量は、結着樹脂100質量部に対して、1〜5質量部が好ましい。離型剤の使用量が過少である場合、形成画像におけるオフセットや像スミアリングの発生の抑制について所望の効果が得られない場合があり、離型剤の使用量が過多である場合、トナー同士の融着によってトナーの保存安定性が低下する場合がある。
【0045】
〔磁性粉〕
本発明のトナーは、結着樹脂中に磁性粉を配合し、磁性トナーとすることもできる。結着樹脂中に配合される磁性粉の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。好適な磁性粉の例としては、フェライト、マグネタイト等の鉄;コバルト、ニッケル等の強磁性金属;鉄、及び/又は強磁性金属を含む合金;鉄、及び/又は強磁性金属を含む化合物;熱処理等の強磁性化処理を施された強磁性合金;二酸化クロムが挙げられる。
【0046】
磁性粉の粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で限定されない。具体的な磁性粉の粒子径は、0.1〜1.0μmが好ましく、0.1〜0.5μmがより好ましい。かかる範囲の粒子径の磁性粉を用いる場合、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
【0047】
磁性粉は、結着樹脂中での分散性を改良する目的等で、チタン系カップリング剤やシラン系カップリング剤等の表面処理剤により表面処理されたものを使用できる。
【0048】
磁性粉の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。具体的な磁性粉の使用量は、トナーを1成分現像剤として使用する場合、トナー全量を100質量部とした場合に、20〜60質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。磁性粉の使用量が過多である場合、画像濃度の耐久性が低下したり、定着性が極度に低下したりする場合があり、磁性粉の使用量が過少である場合、かぶりが発生しやすかったり、長時間にわたって印刷を行う際に画像濃度を維持しにくくなる場合がある。また、トナーを2成分現像剤として使用する場合、磁性粉の使用量は、トナー全量を100質量部とした場合に、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0049】
〔外添剤〕
トナーの流動性、保存安定性、クリーニング性等を改良する目的で、外添剤をトナーの表面に付着させてもよい。
【0050】
外添剤の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からトナー用に使用されている外添剤から適宜選択できる。好適な外添剤の具体例としては、シリカや、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の金属酸化物が挙げられる。これらの外添剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0051】
外添剤の粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、典型的には0.01〜1.0μmが好ましい。
【0052】
外添剤の体積固有の抵抗値は、外添剤の表面に酸化スズ及び酸化アンチモンからなる被覆層を形成し、被覆層の厚さや、酸化スズと酸化アンチモンとの比率を変えることにより調整できる。
【0053】
外添剤のトナーに対する使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。外添剤の使用量は、典型的には、トナー100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましい。かかる範囲の量で外添剤を使用する場合、流動性、保存安定性、クリーニング性に優れるトナーを得やすい。
【0054】
〔静電荷像現像用トナーの製造方法〕
以下、本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法について説明する。
【0055】
本発明にかかる静電荷像現像用トナーの製造方法は、結着樹脂である上述のポリエステル樹脂中に、ニグロシン系化合物と4級アンモニウム塩とを良好に分散させることができれば特に限定されず、従来知られるトナーの製造方法から適宜選択できる。好適な製造方法としては、例えば、結着樹脂、ニグロシン系化合物、4級アンモニウム塩系化合物、及び着色剤と、離型剤、磁性粉等の成分を混合機により混合した後、得られた混合物を溶融混練し、次いで溶融混練物を粉砕・分級することにより製造できる。静電荷像現像用トナーの製造に用いる溶融混練装置は特に限定されず、熱可塑性樹脂の溶融混練に使用される装置から適宜選択できる。溶融混練装置の具体例としては、一軸又は二軸の押出機等が挙げられる。粉砕・分級されたトナーの平均粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、一般的には、5〜10μmが好ましい。
【0056】
このようにして得られるトナーは、必要に応じて、その表面を外添剤により処理してもよい。外添剤によるトナーの処理方法は特に限定されず、従来知られる外添剤による処理方法から適宜選択できる。具体的には、外添剤の粒子がトナー母粒子に埋め込まれないように処理条件を調整し、ヘンシェルミキサーやナウターミキサー等の混合機によって、外添剤による処理が行われる。
【0057】
〔キャリア〕
本発明のトナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することができる。2成分現像剤を調製する場合、磁性キャリアを用いるのが好ましい。以下、キャリアを構成するキャリアコア、及びコート剤について順に説明する。
【0058】
本発明の2成分現像剤に含まれるキャリアとしては、キャリアコアがコート剤により被覆されたものが挙げられる。以下、キャリアを構成するキャリアコア、及びコート剤について順に説明する。
【0059】
(キャリアコア)
キャリアコアの種類は、従来から、2成分現像剤用のキャリアに使用されるキャリアコアであれば特に限定されない。キャリアコアの具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、コバルト等の粒子や、これらの材料とマンガン、亜鉛、アルミニウム等との合金の粒子、鉄−ニッケル合金、鉄−コバルト合金等の粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム等のセラミックスの粒子、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、ロッシェル塩等の高誘電率物質の粒子、樹脂中に上記磁性粒子を分散させた樹脂キャリア等が挙げられる。
【0060】
(コート剤)
キャリアコアを被覆するコート剤は、従来から、2成分現像剤用のキャリアのコート剤に使用されるコート剤であれば特に限定されない。キャリアを被覆するコート剤の具体例としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、アミノ樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を組み合わせて使用できる。キャリアコアを被覆するコート剤としては特にポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選択される1種以上のポリアミド/イミド系樹脂と、フッ素樹脂とを含むコート剤が好ましい。
【0061】
(キャリアの製造方法)
本発明の2成分現像剤に含まれるキャリアは、キャリアコアを、コート剤により被覆した後、コート剤により被覆されたキャリアコアを加熱処理してコート剤をキャリアコア表面に固着させて製造される。キャリアを製造する際のコート剤の使用量は、キャリアコアの質量に対して、0.1〜15質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましい。
【0062】
キャリアコアをコート剤により被覆する方法は特に限定されず、従来、キャリアを製造する際に行われている方法から適宜選択される。キャリアコアをコート剤により被覆する方法は、コート剤の溶液をキャリアコアに噴霧した後に溶媒を除去する湿式法であってもよく、コート剤の粉体をキャリアコアの表面に付着させる乾式法のいずれであってもよい。操作が簡易であり、有機溶媒に難溶な樹脂にも適用可能であるため、キャリアコアのコート剤による被覆は、乾式法により行うのがより好ましい。キャリアコアをコート剤の粉体により被覆する方法は特に限定されず、例えば、ノビルタ(登録商標)(ホソカワミクロン株式会社製)等の乾式コーティング装置を用いる方法が挙げられる。
【0063】
上記の方法により、乾式法によって、コート剤の粉体によりキャリアコアを被覆した後に、コート剤の粉体により被覆されたキャリアコアを加熱処理してキャリアが得られる。加熱処理の温度は、コート剤に含まれる樹脂の種類によって異なるが、典型的には、250〜320℃で行われる。また、キャリアコアを加熱する時間は特に限定されず、典型的には、30分〜2時間である。かかる加熱処理によって、コート剤が軟化・溶融してキャリアコア表面に固着される。
【0064】
キャリアの粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、電子顕微鏡により測定される粒子径で、20〜200μmが好ましく、30〜150μmがより好ましい。
【0065】
キャリアの見掛け密度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。見掛け密度は、キャリアの組成や表面構造によって異なるが、典型的には、2400〜3000kg/mが好ましい。
【0066】
(2成分現像剤の製造方法)
2成分現像剤の製造方法は、トナーとキャリアとを均一に混合できれば特に限定されず、例えば、ボールミル等の混合装置によりトナーとキャリアとを混合すればよい。2成分現像剤におけるトナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、2〜20質量%が好ましく、4〜15質量%が好ましい。2成分現像剤におけるトナーの含有量をかかる範囲とすることにより、形成画像において適度な画像濃度を維持し、現像装置等からのトナー飛散の抑制によって画像形成装置内部の汚染や転写紙等へのトナーの付着を抑制できる。
【0067】
以上説明した、本発明の静電荷像現像用トナーは、グリセリン、又はグリセリン誘導を利用しつつも、低温定着性に優れ、高温で保存する場合に凝集する事無く、また、トナーを所望の帯電量に帯電させることができる。このため、本発明の静電荷像現像用トナー、及びそれを用いた2成分現像剤は種々の画像形成装置において好適に使用される。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0069】
ポリエステルのモノマーとして用いたグリセリン誘導体は以下のプロパンジオールを用いた。
1,3−プロパンジオール:サステラプロパンジオール(植物由来,デュポン社製)。
1,2−プロパンジオール:下記の合成例で得た1,2−プロパンジオール。
【0070】
〔合成例1〕
(1,2−プロパンジオールの製造)
植物油脂を加水分解することによりグリセリンを得た。具体的には、植物油に対して、植物油を完全に鹸化するのに必要な量に対して2倍の量の10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、加熱下に植物油を完全に鹸化させた。鹸化後の反応液から、グリセリンの水溶液を分離した後、グリセリンの水溶液を蒸留により精製した。蒸留されたグリセリンを活性炭により処理し、精製されたグリセリンを得た。
【0071】
上記方法により得られたグリセリンから、グリセリン誘導体としてプロパンジオールを製造した。
まず、還流冷却器を有する反応器に、エチレングリコール(200g)、硝酸第二銅三水和物(76g)を加え、80℃で2時間加熱攪拌後、テトラエトキシシラン(52g)を滴下し80℃で2時間加熱攪拌した。その後、水(18g)を滴下し80℃で3時間加熱攪拌し沈澱物を得た。生成した沈殿物を約120℃で乾燥させ、400℃で2時間、空気中で焼成し、銅/シリカ触媒(銅含有量50%)を得た。得られた銅/シリカ触媒(3g)に、テトラアンミン白金(II)硝酸塩[Pt(NH3)4(NO3)2](29.8mg)の水溶液を添加し、ロータリーエバポレーターで乾燥乾固させた。得られた固体を120℃で乾燥させ、400℃で2時間、空気中で焼成し、銅−白金/シリカ触媒(Cu/Pt/Si=50/0.5/17)(銅含有量50%)を得た。
次いで、攪拌機付きの500mLの鉄製オートクレーブに、銅−白金/シリカ触媒2g、及びグリセリン200gを加え、水素置換した。その後、230℃のオートクレーブ内に、水素を5L/分(25℃、H)で導入し、圧力2MPa、7時間反応させ反応液を得た。得られた反応液を定法の精製方法により1,2−プロパンジオールを得た。
【0072】
〔合成例2〕
(ポリエステル樹脂Aの合成)
合成例1で得たプロパンジオール(平均分子量76)72.20質量部、エチレングリコール3.10質量部、テレフタル酸11.60質量部、フマル酸104.40質量部、及び無水トリメリット酸3.84質量部、並びに縮合触媒として酸化ジブチルスズ1質量部及びハイドロキノン0.3質量部を反応容器に仕込み、200℃、常圧下で水を除去しながら5時間反応させて、ポリエステル樹脂Aを得た。
【0073】
(ポリエステル樹脂Bの合成)
アルコール成分、及びカルボン酸成分の種類及び量を、表1に記載の種類及び量に変えることの他は、ポリエステル樹脂Aと同様にして、ポリエステル樹脂Bを合成した。
【0074】
【表1】

【0075】
〔実施例1〕
(トナーの調製)
結着樹脂としてポリエステル樹脂Aを100質量部、カーボンブラック(MA−100(山陽色素株式会社))4質量部、ニグロシン系化合物(N−01(オリヱント化学工業株式会社製))1質量部、4級アンモニウム塩系化合物(N−51(オリヱント化学工業株式会社製))1質量部、ワックス(離型剤、WEP−3(日油株式会社製))5質量部を、ヘンシェルミキサー(20B(日本コークス株式会社製))を用いて混合した。
得られた混合物を、二軸押出機(PCM−30(株式会社池貝製))を用いて、材料供給速度6kg/hr、軸回転数160rpm、シリンダー温度120℃の条件にて溶融混練した後冷却して混練物を得た。得られた混練物を粉砕機(ロートプレックス16/8型(株式会社東亜機械製作所製))で粗粉砕した後、粉砕機(ターボミルRS(ターボ工業株式会社製))で微粉砕し、得られた微粉砕品をエルボージェット(EJ−LABO型式EJ−L−3(日鉄鉱業株式会社製))で分級して、体積平均粒子径8μmのトナー母粒子を得た。
【0076】
(外添処理)
得られたトナー母粒子100質量部に対して、外添剤として、疎水性シリカ微粒子(RA−200H(日本アエロジル株式会社製))1.0質量部を加え、ヘンシェルミキサー(10C(日本コークス株式会社製))により回転数3000rpm、ジャケット制御温度20℃にて2分間混合して、外添処理されたトナーを得た。
【0077】
(2成分現像剤の調製)
複合機(TASKalfa−550i(京セラミタ株式会社製))用の現像剤に使用されるキャリアと、キャリアの質量に対して10質量%のトナーとをボールミルで30分間混合して2成分現像剤を調製した。
【0078】
得られた2成分現像剤を、複合機(TASKalfa−550i(京セラミタ株式会社製))の黒色用現像器に充填し、また、得られたトナーを黒色用トナーコンテナに充填し、下記方法に従い、画像濃度、かぶり濃度、帯電量、トナーの飛散状態、及び低温定着性を評価した。また、実施例1のトナーを用い、下記方法に従い、耐熱保存性、及び放射性炭素濃度を評価した。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。低温定着性、及び耐熱保存性の評価結果を表4に記す。放射性炭素濃度を表5に記す。
【0079】
<画像濃度>
評価用の初期画像を印字し、初期画像の画像濃度を反射濃度計(RD914(グレタグマクベス社製))により測定した。次いで印字率5%にて100,000枚連続して印字を行った後に、評価用の画像を印字して初期画像と同様に画像濃度を測定した。画像濃度1.4以上を○、1.3以上1.4未満を△、1.3未満を×と判定した。
【0080】
<かぶり濃度>
画像濃度の測定に用いた評価用画像の非印字部の反射濃度を反射濃度計(RD914(グレタグマクベス社製))により測定した。また、印字前の被記録紙の反射濃度を測定した。評価用画像の被印字部の反射濃度と、印字前の被記録紙の反射濃度との差をかぶり濃度とした。かぶり濃度0.003以下を◎、0.003超0.007以下を○、0.007超を×と判定した。
【0081】
<帯電量>
評価用の初期画像を印字し、初期画像形成時のトナーの帯電量を、吸引式小型帯電量測定装置(TReK社製)を用いて現像スリーブ上のトナーを吸引して測定した。次いで印字率5%にて100,000枚連続して印字を行った。100,000枚の連続印字後のトナーの帯電量を、初期の帯電量と同様に測定した。
【0082】
<トナー飛散>
100,000枚の連続印字後に現像器の下部に設置したトレーに蓄積したトナー(飛散トナー)を回収し、その量(飛散量)を計測した。飛散量が50mg以下を「○」と評価し、50mg超200mg以下を「△」と評価し、200mg超を「×」と評価した。
【0083】
<低温定着性>
画像濃度1.3以上のソリッド画像上を、布帛により覆った500gの分銅を用いて分銅の自重のみが画像にかかるように5往復させて摩擦し、摩擦後の画像濃度を測定した。画像濃度の測定は、グレタグマクベススペクトロアイ(グレタグマクベス社製)を用いて行った。下式に従って、摩擦前後の画像濃度から定着率を算出した。
定着率(%)=(摩擦後画像濃度/摩擦前画像濃度)×100
【0084】
上記の摩擦試験において90%以上の定着率が得られ、コールドオフセットの生じない最低の温度を定着下限温度とした。また、上記の摩擦試験において90%以上の定着率が得られ、ホットオフセットの生じない最高の温度を定着上限温度とした。
【0085】
<耐熱保存性>
実施例1のトナー3gを、58℃にて3時間保存した後、室温まで冷却した。冷却されたトナーを、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)により、振動目盛り5にて、330メッシュの篩を用いて篩別した。耐熱保存性の評価は、通過率90質量%以上を◎とし、80%以上90%未満を○とし、70%以上80%未満を△とし、70%未満を×とした。
【0086】
<放射性炭素濃度測定>
実施例1のトナー中に含まれる14Cの濃度を、ASTM−D6866に準拠して測定した。
【0087】
〔実施例2〕
ポリエステル樹脂Aをポリエステル樹脂Bに変えることの他は、実施例1と同様にしてトナーを得た。得られたトナーについて、実施例1と同様にして2成分現像剤を調製した。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。低温定着性、及び耐熱保存性の評価結果を表4に記す。放射性炭素濃度を表5に記す。
【0088】
〔実施例3〜6〕
添加するニグロシン系化合物の量と、4級アンモニウム塩系化合物の量とを表2記載の量に変えることの他は、実施例1と同様にしてトナーを得た。得られたトナーについて、実施例1と同様にして2成分現像剤を調製した。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。
【0089】
〔比較例1〕
4級アンモニウム塩系化合物の電荷制御剤を添加しないことの他は、実施例1と同様にしてトナーを得た。得られたトナーについて、実施例1と同様にして2成分現像剤を調製した。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。
【0090】
〔比較例2〕
添加するニグロシン系化合物の電荷制御剤を2質量部に変え、4級アンモニウム塩系化合物の電荷制御剤を添加しないことの他は、実施例1と同様にしてトナーを得た。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。
【0091】
〔比較例3〕
ニグロシン系化合物の電荷制御剤を添加しないことの他は、実施例1と同様にしてトナーを得た。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。
【0092】
〔比較例4〕
添加する4級アンモニウム塩系化合物の電荷制御剤を2質量部に変え、ニグロシン系化合物の電荷制御剤を添加しないことの他は、実施例1と同様にしてトナーを得た。画像濃度、かぶり濃度、帯電量、及びトナーの飛散状態の評価結果を表3に記す。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
分子量の比較的小さいグリセリン、又はグリセリン誘導体をモノマーとして使用したポリエステル樹脂を結着樹脂として用いたトナーでは、所望の帯電量に帯電させにくい傾向がある。しかし、実施例1〜6のトナーは、ニグロシン系化合物と、4級アンモニウム塩系化合物とが含まれているため、グリセリン、又はグリセリン誘導体を利用しつつも、低温定着性に優れ、100,000枚の連続印字後においても安定な帯電が得られた。このように、実施例1〜6のトナーによれば、トナーを所望の帯電量に帯電させることができるので、画像濃度の良好な画像を形成でき、かぶりが生じにくい。また、実施例1〜6のトナーによれば、100,000枚の連続印字後も、画像濃度の良好な画像を形成でき、かぶりとトナー飛散とを抑制できた。
【0098】
比較例1〜4では、電荷制御剤としてニグロシン系化合物、又は4級アンモニウム塩系化合物がトナーに含まれているものの、一方の電荷制御剤しか含まれていない。このため、比較例1〜4のトナーでは、トナーを所望の帯電量に帯電させることができない。また、100,000枚の連続印字後においては、かぶりとトナー飛散とが生じた。特に、比較例3及び4のトナーは、100,000枚の連続印字後に帯電量が著しく低下しており、このため、画像濃度の良好な画像を形成しにくい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、及び離型剤を含み、
前記結着樹脂が、少なくともグリセリン、及び/又は1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール及びアシル基の炭素原子数が12〜20であるモノアシルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種類以上のグリセリン誘導体を含む2価又は3価以上のアルコール成分と、2価又は3価以上のカルボン酸成分との共重合体であるポリエステル樹脂であり、
前記電荷制御剤は、ニグロシン系化合物と、4級アンモニウム塩系化合物とを含む、静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記ニグロシン系化合物と、前記4級アンモニウム塩系化合物との合計含有量が、結着樹脂100質量部に対して1.5〜2.5質量部である、請求項1記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記4級アンモニウム塩系化合物の含有量が、前記ニグロシン系化合物100質量部に対して50〜400質量部である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記アルコール成分が、さらにエチレングリコールを含む、請求項1から3記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記アルコール成分において、前記グリセリン、及び/又はグリセリン誘導体の物質量(A)と、前記エチレングリコールの物質量(B)との物質量比A/Bが、15%以下である、請求項4記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1記載の静電荷像現像用トナーと、キャリアとを含む、2成分現像剤。

【公開番号】特開2013−114231(P2013−114231A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263082(P2011−263082)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】