説明

静電荷像現像用トナー

【課題】 省エネルギー、低コスト、ロングライフであって、地球環境の保全にも配慮したトナーを提供することを最終的な課題とし、各色のトナーにおいて、非石油系の化合物で代替できる樹脂成分を含み、印刷時には低現像電位、低転写電位でも充分な画像濃度が得られ、トナー消費量が少なく、トナーのトナー落ちが起こらず、印刷画像においては地カブリを生じず、長期にわたり帯電量変化の少ない静電荷現像用トナーを提供する。
【解決手段】 結着樹脂、制電性組成物及び正荷電性帯電制御剤を少なくとも含有する静電荷像現像用トナーであって、該制電性組成物として微生物が生産したポリヒドロキシアルカノエートを用い、該制電性組成物を5〜70質量%含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法等において画像を形成するための静電荷像現像用トナーに関する。特に、帯電制御樹脂を含む正帯電の静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法は複写機、プリンタ、ファクシミリ等における画像形成方法の一手段として広く使用されている。電子写真法による一般的な画像形成は、帯電ブレードや帯電ブラシ等を用いて一様に帯電させた光導電性絶縁体(感光体)上にレーザー光やLED光などを照射して静電潜像を形成し、この静電潜像に静電荷像現像用トナー(以下、単にトナーと記す場合も同じ意味である。)を静電的に付着させてトナー画像を形成する現像工程と、トナー画像を紙などの記録媒体に転写する転写工程と、転写されたトナー画像を熱媒体との接触や赤外線照射等により記録媒体上で溶融したのち放熱させて固定する定着工程とを有する。
【0003】
前記現像工程において用いられるトナーは、感光体表面の静電潜像に付着するように均一かつ安定的に帯電させておくことが必要である。トナーの帯電方法としては、予め他の部材と摺動させることによる摩擦帯電を用いるのが一般的であり、該他の部材として磁性粉等のキャリア粒子との摩擦を利用する二成分現像方式、現像器内に設置した帯電ブレード等の帯電部材による摩擦機構を利用する一成分現像方式が良く知られている。
【0004】
近年においては印刷の高速化、高画質化が求められているだけでなく、経済性の良さや環境負荷低減を考慮した装置が望まれており、低現像電位、低転写電位でも充分な画像濃度が得られ、かつ地カブリを生じない現像剤をロングライフ化することが求められている。現像電位や転写電位を低く抑えることは装置の省エネルギー化につながり、現像剤のロングライフ化はコピー単価の低減に貢献すると共に現像器部材の更新サイクルを長期化することになり、廃棄部材の低減につながる。
また、経済性の良さと機器の小型化とを両立させるために、非磁性一成分現像方式を採用したフルカラー複合機(MFP;Multi Function Printer)及びプリンタが、特にパーソナル、SOHOユース向けに多数上市されている。このような経済性の高い小型フルカラープリンタであっても画質に対する要求は高く、使用初期からトナーカートリッジ交換までの長期間において設置環境の変化にも影響されることなく地カブリが少なく、トナー消費量が少なく、また機内のトナー飛散がなく、安定した画像が出力されることが望まれている。
さらに工業製品全般において、将来的な地球環境への影響を考慮するために、石油資源の使用を減じるとともに、元来大気中に存在していた二酸化炭素をもとに形成されているために使用しても大気中の二酸化炭素濃度を増加することにはならないカーボンニュートラルな原材料への転換が求められている。
【0005】
従来、黒色トナーにおいてはそのような現像剤を得るために、各種のカーボンブラックや帯電制御剤の内添、外添剤、二成分現像におけるキャリアなどについて、それぞれ各種ある中からその種類、添加量、添加方法を最適に選択し、組み合わせ、調製することによりトナーの電気抵抗値を適切に制御して帯電量を安定化させようとしてきた。
しかし、黒色以外の各色または透明トナーの場合、色再現の都合から使用可能な色材が限られている。例えば帯電を安定させる手法に黒色を呈するカーボンブラックや濃色の帯電制御剤は使用できない。このため、黒色以外のトナーにおいては電気抵抗値の制御方法として従来の黒色トナーの構成を流用することができず、トナー粒子の帯電量を適切な範囲に制御するとともに経時的に安定化させることが技術的な課題となっている。
特に非磁性一成分現像方式では、現像器内においてトナーを撹拌しながら帯電部材近傍へと送り込むために設けられたアジテーターの動作により過度に摩擦帯電されたトナー粒子が発生することがあり、さらに現像器内に高い帯電量のトナー粒子が滞留していると新たに供給されてくる未帯電のトナーの帯電部材による帯電を阻害するという特有の現象があり、結果、現像ローラーへ送り込まれるトナー粒子の帯電量が不均一になりやすい。
トナー粒子の帯電量が不均一であると、装置が要求するトナー帯電量の適正範囲から外れるトナー粒子が増大することにつながる。帯電不足のトナーの存在によりトナーが現像ローラーに保持されず印刷装置内部にあふれ出(トナー落ち)したり、印刷面において地かぶりが増加したりする問題が生じる。帯電過多のトナーの存在により現像ローラ上のトナー層厚が過大になり、トナー量が画像形成に必要な量を超過して無駄に供給、消費されるなどの問題が生じてしまう。
電子写真法の現像工程において、トナーの平均帯電量の絶対値が大きい(高帯電)であるほどトナー粒子が感光体の潜像部分に付着しやすく、感光体に形成されるトナー粒子層が厚くなりやすい傾向がある。感光体上のトナー粒子層が厚くなるほど紙などの記録媒体上に転写され定着されたトナーが形成する印刷画像の厚さも厚くなるが、印刷画像の厚さがある程度以上に過剰になっても印刷画像の濃度はほとんど変わらなくなる。結局、感光体上のトナー粒子層の厚さが過剰となるほどトナーの平均帯電量が高いことは、トナーを無駄に消費することにつながる。また、一般に高帯電のトナーほど帯電量分布が広くなる傾向がある。一般にトナーの平均帯電量の絶対値が大きいほど高帯電のトナー粒子が多いが、同時に相対的に帯電量の絶対値が小さい(低帯電)トナー粒子の存在が無視できなくなる。電子写真法の現像工程において、平均帯電量が高すぎるトナーを用いると、感光体上の潜像に形成されるトナー粒子層が過度に厚くなるとともに、その中の一部に存在する相対的に低帯電のトナー粒子が該トナー粒子層から脱離して感光体の周辺を汚染する現象(トナー飛散)が発生しやすくなる。
【0006】
一般にトナーに添加されている帯電制御剤によって、ある程度はトナーの帯電量を安定化させる効果を得ることができるが、トナーの帯電量の絶対値を低めに安定化させることは難しく、また長時間連続印刷した後でも帯電の安定性を得るには必ずしも万全ではなかった。さらに、トナーの帯電量を安定的に維持したいために帯電制御剤を過剰に添加すると逆に帯電量が低下して不安定になったり、トナーの流動性が悪化したり、トナーの色目が悪くなったり、さらに帯電制御剤の添加量が大きいとコスト高になったりするなどの問題があった。このように、帯電制御剤を添加するのみでトナーの帯電量の絶対値を低めに維持しつつ安定した帯電量の制御を行うことは難しかった。
【0007】
帯電制御剤と併用しながらさらに帯電量を安定化させる技術としては、例えばトナー表面に金属酸化物等の導電性外添剤を加える方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、多量の導電性外添剤がトナー表面に付着するとトナーの帯電が不十分となりやすく、さらにプリント枚数の増大とともに画像濃度が低下していく傾向があり、トナーをロングライフ化する際の妨げとなっていた。また、導電性外添剤がトナーから分離し記録媒体に転写されることで文字のシャープさが劣化したり、トナーを使用及び保管する温度や湿度等が変動するとトナーの帯電性等が変動しやすく性能の安定性(環境特性)が損なわれるという別の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−7071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、省エネルギー、低コスト、ロングライフであって、地球環境の保全にも配慮したトナーを提供することを最終的な課題としている。このために、各色のトナーにおいて、非石油系の化合物で代替できるすなわちカーボンニュートラルである樹脂成分を含み、印刷時には低現像電位、低転写電位でも充分な画像濃度が得られ、トナー消費量が少なく、トナーのトナー落ちが起こらず、印刷画像においては地カブリを生じず、長期にわたり帯電量変化が少ない静電荷現像用トナーを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下(1)〜(2)に記す技術的特徴の構成により、前記課題を解決できたものである。
・(1)結着樹脂、制電性組成物及び正荷電性帯電制御剤を少なくとも含有する静電荷像現像用トナーであって、該制電性組成物として微生物が生産したポリヒドロキシアルカノエートを用い、該制電性組成物をトナー粒子中に5〜70質量%含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
・(2)前記ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)であることを特徴とする前記(1)に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーによれば、各色のトナーにおいて、トナー製造時には非石油系の化合物で代替できるすなわちカーボンニュートラルである樹脂成分を添加することができ、帯電制御剤の添加量を少なくすることができ、印刷時には、帯電量の上限を抑制する効果や帯電量の経時的な変化を抑制する効果を有することにより、現像電位及び転写電位が低くても現像及び転写が可能で、トナーが消費量が少なく、トナーのトナー落ちが起こらず、印刷画像においては充分な画像濃度が得られ、地カブリを生じず、長期にわたり帯電量変化が少ないという、特性の優れた静電荷現像用トナーを提供できる。その結果、この発明によれば、地球環境に配慮した省エネルギー、低コスト、ロングライフのカラートナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のトナーは、トナー粒子の構成成分として結着樹脂、制電性組成物ならびに正荷電性帯電制御剤のほか、着色剤、負荷電性帯電制御剤、磁性粉など、一般的な静電荷像現像用トナーに添加している各種物質、赤外線吸収剤などを適宜含有させることができ、さらにトナー粒子の流動性や帯電性を制御するためにシリカ、カーボンブラック、帯電制御剤等の各種物質を適宜外添することができる。
【0013】
(結着樹脂)
本発明に用いる結着樹脂は、トナーとして一般的に使用されている樹脂から特に限定することはなく選択することができる。結着樹脂としては、例えば、ポリエステル、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体樹脂、ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリ乳酸樹脂、水添ロジン、環化ゴム、熱可塑性ポリイミド等などが使用できる。これらの中でも、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などのカルボン酸と、ビスフェノールA(EO/PO付加物を含む)、エチレングリコールなどのアルコールから生成されるポリエステルは、PHAと同種の樹脂で分散性が良好なこと及びトナーの耐久性が高いことから好適である。
【0014】
(制電性組成物)
本発明に用いる制電性組成物は、微生物が生産したポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと記す。)である。
【0015】
ポリエステルの一種であるPHAは、ヒドロキシアルカン酸(ヒドロキシアルカノエートともいう。)1種類が重合した単独重合体及びヒドロキシアルカン酸2種類以上が共重合した共重合体の総称である。さらに詳しくは、PHAは、示性式(1)で示されるヒドロキシアルカン酸が縮合重合してなり、示性式(2)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステルである。
PHAは、人工的に合成することもできるが、植物油に含まれる天然成分であるヒドロキシアルカン酸から微生物がエネルギー貯蔵物質として合成・蓄積する有機ポリマーとしても知られており、生分解性を有し、環境への適合性に優れるという特徴も有している。
【0016】
HOCHR−(CH−COOH・・・(1)
【0017】
−[−CHR−(CH−CO−O−]−・・・(2)
【0018】
ここで、式(1)及び(2)中のRは脂肪族系飽和炭化水素基(アルキル基)又は水素であり、組成式C2m+1で表される(ただし、m、nはともに整数であってm≧0、n≧1)。Rとしては、例えば水素、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基等の分岐状アルキル基がある。
【0019】
式(1)中の炭素原子が直鎖状に配置される場合のヒドロキシアルカン酸の具体例としては、(m=1,n=1)の3−ヒドロキシブチレート(3HB)、(m=2,n=1)の3−ヒドロキシバレレート(3HV)、(m=0,n=1)の3−ヒドロキシプロピオネート、(m=0,n=2)の4−ヒドロキシブチレート、(m=1,n=2)の4−ヒドロキシバレレート、(m=0,n=3)の5−ヒドロキシバレレート、(m=3,n=1)の3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、(m=4,n=1)の3−ヒドロキシヘプタノエート、(m=5,n=1)の3−ヒドロキシオクタノエート、(m=6,n=1)の3−ヒドロキシノナノエート、(m=7,n=1)の3−ヒドロキシデカノエートなどが挙げられる。
【0020】
ヒドロキシアルカン酸の重合体であるPHAの具体例としては、3HBの単独重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)、3HBと3HVの2成分共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(PHBV)、3HBと3HHとの2成分共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、3HBと3HVと3HHとの3成分共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHV)などが例示できる。
【0021】
PHAを生産する微生物は、生存のためのエネルギー源としてPHAを菌体内で生産し及び蓄積する。PHAを生産する微生物として、例えば3HBの単独重合体であるPHBの生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られている。これらの微生物の菌体内ではPHBが生産され蓄積される。
【0022】
また、3HBとその他のヒドロキシアルカン酸との共重合体生産菌としては、PHBV及びPHBH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821−4830(1997))などの微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体を用いることもできる。さらに、生産したいPHAに合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いることもでき、その生産性を上げるためには、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
特に、生分解性樹脂としての分解性と柔軟な材質とを持つ点に注目する場合、エステル結合を多く持つPHAが有利となり、式(1)においてn=1である3−ヒドロキシアルカン酸類をモノマー成分として有するPHAは主鎖のエステル結合の間隔が短くなるために好ましく、中でもモノマー成分として3HB、3HV及び3HHを有する重合体が好ましい。
【0023】
制電性組成物としては単独重合体のPHAと共重合体のPHAとのいずれをも使用することができる。本発明に使用できるPHAの具体例としては、3HBの単独重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)、3HBと3HVの2成分共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(PHBV)、3HBと3HHとの2成分共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、3HBと3HVと3HHとの3成分共重合体であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHV)などが例示できる。単独重合体に比べて共重合体では加熱時の粘度変化が穏やかになる傾向があり、本発明に使用される樹脂として好適である。PHAが共重合体である場合、構成する各モノマーユニットの組成比について、特に限定されるものではないが、トナーの熱特性への影響や効果を考慮して適宜選択できる。さらに、本発明のトナーの熱特性への影響や効果を考慮して、本発明には1種類のPHAを単独で使用しても良いし、または複数種類のPHAをブレンドして使用しても良い。
【0024】
PHAとして前記PHBHを単独で本発明に使用する場合、該PHBHにおける3HBと3HHとの組成比、すなわち、3HB/3HHは、加熱時の粘性及びその変化の穏やかさを考慮すると、99/1〜80/20(mol/mol)の範囲が、トナーの定着強度及び非オフセット温度幅への妨げになりにくい樹脂として好ましい。
【0025】
PHAとして前記PHBHVを単独で本発明に使用する場合、該PHBHVの場合は、例えば、3HBユニットの含量は1〜95mol%、3HVユニットの含量は1〜96mol%、3HHユニットの含量は1〜30mol%といった範囲のものがトナーの定着強度及び非オフセット温度幅への妨げになりにくい樹脂として好適である。
【0026】
一般に、ポリエステルを工業的に製造する場合、成形加工時に溶融状態からの固化が遅いため成形加工の生産性が悪くなりやすい傾向があり、とりわけPHAはその傾向が顕著である。そのため、PHAに種々の結晶核剤を添加することで、PHAの結晶化速度を改善し、溶融状態から固化しやすくし、工業生産効率を向上することができる。
【0027】
ポリエステルに対して公知の結晶核剤としては、例えば、特定のポリエステルに対し、Zn粉末、Al粉末、グラファイト、カーボンブラックなどの無機単体;ZnO、MgO、A12O3、TiO2、MnO2、SiO2、Fe3O4などの金属酸化物;窒化アルミ、窒化珪素、窒化チタン、窒化ホウ素などの窒化物;Na2CO3、CaCO3、MgCo3、CaSO4、CaSiO3、BaSO4、Ca3(PO4)3などの無機塩;タルク、カオリン、クレー、白土などの粘土類;シュウ酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、フタル酸カルシウム、酒石酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリアクリル酸塩などの有機塩類;ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子化合物などを添加する方法がある。
【0028】
また、PHAの結晶核剤として、タルク、微粒化雲母、窒化ホウ素、炭酸カルシウムが
挙げられ、より効果的なものとして、有機ホスホン酸もしくは有機ホスフィン酸またはそ
れらのエステル、あるいはそれらの酸もしくはエステルの誘導体、及び周期律表の第IV
族の金属の酸化物、水酸化物及び飽和または不飽和カルポン酸塩などの金属化合物を添加する方法がある。
【0029】
さらにより効果的なPHAの結晶核剤として、糖アルコール類を用いると、PHAの結晶化の速度が著しく改善され、PHAの射出成形、フイルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡成形、ビーズ発泡成形などの加工における加工性が改善され、加工速度が向上するとともに、固化したPHAの結晶領域が微小化することにより、加工品の機械物性、透明性などが改善される効果があるだけでなく、糖アルコール類は、天然物由来であるがゆえに生分解性を有することから、生分解性脂肪族ポリエステルとしてのPHAの生分解性を損なうことがない。
【0030】
本発明において、結晶核剤を添加して製造されたPHAを制電性組成物としてトナーを製造すると、固体状態のPHAにおける結晶領域が微小化されているので、トナー製造における溶融混練工程において溶融混練物中にPHAが微小かつ均一に効果的に分散されやすく、粉砕工程を経て得られたトナー粒子それぞれにPHAが一様かつ均一に分散されやすく、結果として均質なトナーを生産できる効果が期待できる。さらに電子写真用トナーとして使用した場合に、熱定着されたトナーにおいても結晶領域が微小化されることにより速く固化して高温オフセットの防止と印刷速度の高速化とに寄与する効果が期待できるので好適である。
【0031】
結晶核剤は、その粒子径が小さいほど微細に分散されやすくなるので、PHAを主成分とする制電性組成物の製造においては、結晶核剤が微細かつ均一に分散されやすく、さらにPHAの結晶核の発生点が多くなることで固化の速度が速くなるので生産性が向上するので好ましい。これに加え、本発明にかかるトナーにおいては、結晶核剤の粒子径が小さいほど前記制電性組成物が微粒子化するのでトナー粒子中に制電性組成物が微細に分散しやすくなり、均質なトナー粒子を製造するために好ましいとともに、トナー定着時の固化速度の向上にも寄与し、前記高温オフセットの防止と印刷速度の高速化とに寄与する効果がさらに期待できるので好ましい。結晶核剤の粒子径を小さくするには、種々の粉砕機などを用いることができる。
【0032】
また、結晶核剤が含有されているPHAは制電性組成物としての特性を発現しやすく、これを使用したトナー粒子の帯電量が適度に抑制され安定した低めの帯電量分布となりやすい効果があることを独自に見い出した。特に結晶核剤を含むPHAを含有するトナーの帯電量分布が低めに安定化するメカニズムは明らかでないものの、該結晶核剤の電気抵抗率がトナーを構成する結着樹脂よりも低めであることとも関係があると推測される。
トナーが結晶核剤を含むPHAを含有していると、静電荷像現像法において印刷時には低現像電位、低転写電位でも充分な画像濃度が得られ、トナー消費量が少なく、トナーのトナー落ちが起こらず、印刷画像においては地カブリを生じない静電荷現像用トナーを得ることができる。特に、結晶核剤として糖アルコール類を選択すると、固体状態のPHAにおける結晶領域が微小化が特に良好に進行するために上記トナー粒子へPHAが均一に分散され均質なトナー粒子が得られる効果、印刷速度の高速化に寄与する効果が顕著となるとともに、糖アルコール類が天然物由来で生分解性を有しPHAの優れた生分解性を損ねないという利点もあるので好ましい。
【0033】
特に、前記糖アルコール類として、例えばD−ソルビトール、D−マンニトール、myo−イノシトール、キシリトール、meso−エリトリトール、リビトール、ガラクチトール、scyllo-イノシトール、L−マンニトール、D−アラビトールのいずれかを選択すると前記効果が顕著であり好ましい。
【0034】
本発明にかかるトナーに含有される制電性組成物の構成について、PHAに対する結晶核剤としての糖アルコールの添加量は、PHA100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の範囲が好ましい。前記糖アルコールの添加量が0.1質量部未満では、結晶核数が不十分で、十分な結晶化促進効果が得られず、10質量部を越えると、添加効果が飽和に達してしまうだけでなく、混練して均一に分散させるのが困難になる。結晶核剤としての糖アルコールのさらに好ましい添加量範囲は、0.3質量部以上7質量部以下である。また、制電性組成物には、他の成分として酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、可塑剤、滑剤、無機充填剤、帯電防止剤などを含有していてもよい。これらの他の成分の添加量は、前記PHAや結晶核剤の作用及び本発明にかかるトナーの諸特性を損なわない程度であればよく、特に限定はない。
【0035】
制電性組成物は、公知の樹脂組成物の調製方法として一般に用いられる公知の方法により容易に調製できる。例えば、P3AHなどのPHAと糖アルコール類からなる結晶核剤と、さらに必要であれば他の成分とを混合した後、押出機、ロールミル、バンパリーミキサーなどにより混練してペレットとし、成形に供する方法、糖アルコール類からなる結晶核剤の高濃度のマスターバッチを予め調製しておき、これを生分解性脂肪族ポリエステルに所望の割合で混合して成形に供する方法、などが利用できる。また、例えばクロロホルム等の溶剤に糖アルコール類からなる結晶核剤の微粉末を分散させた上、PHAを加えて撹拌しつつキャスト(溶媒を飛ばす)して混合物とする方法などが利用できる。
【0036】
本発明のトナーにおいては、外添剤を除くトナー粒子100質量%中、制電性組成物に含まれるPHAの割合が5〜70質量%である。より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは15〜40質量%である。このようなPHA範囲となるように制電性組成物を配合し、結着樹脂と併用することにより、帯電量が安定した正帯電トナーを得ることができる。PHAの割合が5質量%未満では、連続印刷時にトナー帯電量が大きくなる方向に変動しやすく、現像工程及び転写工程において現像電位及び転写電位をそれぞれ高く設定する必要がある。さらに印刷されたトナーの層が厚くなりやすいのでトナーの消費量が印字濃度に対し過剰となりやすくなる。PHAの割合を70質量%を超えて多くしても、それ以上の制電効果、すなわち帯電量の上限を抑制ずる効果や帯電量の経時的な変化を抑制する効果は顕著に改善されない恐れがある。またPHAの分子量分布が狭い場合には、トナー粒子中のPHAの割合が過剰であると定着可能温度幅を狭めてしまう恐れもある。
【0037】
また、本発明に適用するポリエステルの酸価は30mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは20mgKOH/g以下であり、更に好ましくは10mgKOH/g以下である。酸価が30mgKOH/gより大きい場合、耐ブロッキング性(保存性)が悪化することがあるため好ましくない。
【0038】
(正荷電性帯電制御剤)
本発明には正荷電性の帯電制御剤を添加することが必要である。
添加できる正荷電性帯電制御剤としては、例えばニグロシン系染料、アジン系化合物、4級アンモニウム塩系化合物、トリフェニルメタン系化合物、イミダゾール系化合物、ポリアミン樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂などがある。これらの帯電制御剤は、トナー帯電性の設計に応じて単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
トナーにおける帯電制御剤の含有量は、トナー100質量%に対して総量で0.10〜10質量%程度が好ましい。帯電制御剤の含有量が上記範囲未満ではトナーの帯電量分布が広くなりすぎて廃棄トナー量が増えてしまう等の恐れがあり、上記範囲を超えると帯電しにくくなったり色目が悪くなったりして画質が低下する可能性がある。
【0039】
その他、任意成分として、離型剤、着色剤、負帯電制御剤、磁性粉、添加剤等を添加することができる。赤外線照射によるフラッシュ定着用トナーとする場合には赤外線吸収剤も添加することができる。以下、任意成分について説明する。
【0040】
(離型剤)
トナーの構成成分として離型剤を添加する場合は、トナーを構成する結着樹脂よりも融点が低い物質を選択し、結着樹脂の組成や熱特性に応じて適当な離型剤を選択すれば良い。具体的には、軟化点(融点)が50〜170℃、より好ましくは70〜150℃を有する物質が離型剤として好ましく使用できる。離型剤の軟化点が50℃よりも低いとトナーの耐ブロッキング性や貯蔵安定性が不十分となりやすく、170℃を超えると定着温度が高くなりすぎる恐れがある。70℃以上であればトナーの帯電ブレードへの融着が顕著に改善され、150℃以下であれば定着温度の低温化により有利となる。
【0041】
本発明に用いることができる離型剤としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブテンワックス、変性ポリエチレンワックス等のポリオレフィン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン等のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、硬化ひまし油、酸性オレフィンワックス、マレイン酸エチルエステル、マレイン酸ブチルエステル、ステアリン酸メチルエステル、ステアリン酸ブチルエステル、パルミチン酸セチルエステル、モンタン酸エチレングリコールエステル等の脂肪酸エステル又はその部分ケン化物よりなるエステルワックス、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリル酸アミド、ベヘニン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等のアミド系ワックス等が挙げられる。
また、これらの離型剤は、単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。必要に応じて軟化点(融点)が異なる離型剤を併用、混合することも可能である。
【0042】
本発明のトナー中の離型剤の含有量は、熱定着方式用トナーとして使用する場合には結着樹脂の熱特性や離型剤分散のしやすさなどに応じて適宜設計すれば良く、溶融混練粉砕法によりトナーを製造する場合には、全トナー質量を基準として、0.1〜15質量%の範囲が好適であり、好ましくは0.5〜10質量%が好適であり、さらに好ましくは1〜8質量%である。離形剤の含有量が上記範囲未満であると、トナーが溶融したときの粘度が下がりにくいために画像の定着強度が弱くなる可能性や、熱定着ローラにトナーが融着しやすいために画像のオフセットや紙(記録媒体)の巻きつきが起きる可能性がある。一方、上記範囲を超えると、トナーの流動性が悪くなり帯電しにくい可能性があること及び離型剤がトナー粒子から離脱して感光体や現像ローラなど電子写真装置内部の部材に付着する可能性があることにより、電子写真による画像形成を阻害する恐れがある。一方、フレッシュ定着方式用トナーとして使用する場合の本発明のトナー中の離型剤の含有量は、光による溶融の効率を考慮して適宜設計すれば良く、溶融混練粉砕法によりトナーを製造する場合には、全トナー質量を基準として、0.1〜50質量%の範囲が好適である。
【0043】
(着色剤)
本発明のトナーには公知の着色剤を添加することができる。
イエロー着色剤としては、例えば縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物等が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロ−1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、24、60、62、65、73、74、75、83、93、94、95、97、99、100、101、104、108、109、110、111、117、122、123、128、129、138、139、147、148、150、155、166、168、169、177、179、180、181、183、185、191:1、191、192、193、199等の顔料系、C.l.solventYellow33、56、79、82、93、112、162、163、C.I.disperseYellow42.64.201.211等の染料系が使用できる。これらのイエロー着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
マゼンタ着色剤としては、例えば縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物等が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48、48:2、48:3、48:4、49、50,51、52、53、54、55、57、57:1、58、60、63、64、68、81、81:1、83、87、88、89、90、112、114、122、123、146、163、166、169、177、184、185、202、206、207、209、220、221、238、254、269、;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バットレット1、2、10、13、15、23、29、35等が使用できる。これらのマゼンタ着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0045】
シアン着色剤としては、例えば銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。
具体的には、C.I.ピグメントブルー1、2、3、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17、60、62、66;C.I.バットブル−6;C.I.アシッドブル−45等が使用できる。これらのシアン着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0046】
カラートナー用の着色剤として、予め結着樹脂となり得る樹脂中に高濃度で分散させたいわゆるマスターバッチを使用してもよい。
【0047】
黒色着色剤としては、例えばアセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、ニグロシン、鉄黒、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケル等の磁性粒子等が利用できるほか、上記イエロー/マゼンタ/シアン着色剤を用い黒色に調色されたものが利用できる。
前記カーボンブラックとしては、個数平均粒子径、吸油量、PH等に制限されることなく使用できるが、市販品として以下のものが挙げられる。例えば、米国キャボット社製の商品名:リーガル(REGAL)400、660、330、300、SRF−S、ステリング(STERLING)SO、V、NS、Rが挙げられる。また、コロンビア・カーボン日本社製の商品名:ラーベン(RAVEN)H20、MT−P、410、420、430、450、500、760、780、1000、1035、1060、1080が挙げられる。また、三菱化学社製の商品名:#5B、#10B、#40、#2400B、MA−100等が挙げられる。これらのカーボンブラックは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
カラートナーにおける着色剤の含有量は、各色ごとに最適な量をそれぞれ決定すれば良いが、トナー100質量%中1〜20質量%の範囲が好適であり、特に好ましくは4〜9質量%である。OHPフィルムなどの光透過性を考慮する場合は11質量%以下が好ましい。着色剤の含有量が1質量%未満では画像濃度を高めにくくトナー消費量が増える可能性がある。20質量%を超えると帯電が不安定となりやすく画質が悪化しやすい。
黒トナーにおける黒色着色剤の含有量は、黒トナー100質量%中0.1〜20質量%の範囲が好適であり、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜3質量%である。カーボンブラックの含有量が上記範囲未満では画像濃度が低下しトナー消費量が増える可能性がある。上記範囲を超えると画質が低下しやすく、トナー成形性も低下する。
【0049】
(負荷電性帯電制御剤)
正荷電性帯電制御剤と負荷電性帯電制御剤とを併用すると帯電量を安定化できる場合がある。
本発明においても負荷電性帯電制御剤として、例えばCr、Co、Al、Fe等の金属含有アゾ系染料、サリチル酸金属化合物、アルキルサリチル酸金属化合物、カーリックスアレーン化合物、ホウ素錯体、高分子タイプ帯電制御剤などを併用することができる。
これらの帯電制御剤は、トナー帯電性の設計に応じて単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0050】
(外添剤)
本発明のトナーは、流動性を高めることにより安定した摩擦帯電状態を得ること及びトナー粒子同士の凝集(ブロッキング)を防止することに効果があることから、外添剤を混合してトナー母粒子表面に外添剤が付着した状態であることが好ましい。
外添剤としては無機または有機の各種外添剤を使用することができるが、特にトナーの流動性向上、凝集防止のためにシリカ、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、金属石鹸(ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等)等の無機微粉末が好ましく使用することができる。
外添剤の混合、付着量は、使用する外添剤及びトナー粒子の平均粒径、粒度分布などにより異なり適宜設計すればよいが、一般的にはトナー母粒子100質量部に対して0.05〜10質量部、更には0.1〜8質量部が好適である。
混合量が0.05質量部未満では流動性改善効果、夏場などの保管に伴う凝集の凝集防止効果が得られにくい恐れがあり、また混合量が10質量部より多いとトナー母粒子に付着しないで遊離した外添剤が発生する恐れがあり、該遊離した外添剤が感光体に付着してフィルミングを発生したり、現像槽内部に堆積して現像剤の帯電機能劣化等の障害を引き起こしたりして好ましくない。
また、外添剤は湿度環境の影響を受けにくいことから疎水性微粒子がより好ましく、例えば疎水性シリカがより好適である。疎水性シリカとしては、例えば、メチルクロロシラン、シランカップリグ剤、高分子量オルガノポリシロキサン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、オルガノポリシロキサン、ポリエチレンワックス、等を反応もしくは付着させて疎水化した親水性シリカ、アミノアルキルシラン化合物とジイソシアネート化合物等を順次反応させて疎水化した親水性シリカなどが例示でき、中でも疎水化成分がシリカ表面に化学反応により化学結合しているアミノアルキルシラン処理物などがトナー及びトナー画像への耐久性を付与する点で好ましい。外添剤により帯電性を調節することができ、例えば負荷電性を付与する処理剤としてはジメチルジクロルシラン、モノオクチルトリクロルシラン、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイルなどを使用してもよく、正荷電性を付与する処理剤としてはアミノシランなどを使用してもよい。
【0051】
この他、外添剤としてトナーの電気抵抗調整、研磨剤などの目的で、流動性改善用以外のマグネタイト、フェライト、導電性チタン、酸化アンチモン、酸化錫、酸化セリウム、ハイドロタルサイト類化合物、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、ポリエチレンビーズなどの微粉末を適量混合してもよく、その混合量はトナー100質量部に対して0.005〜10質量部が好ましい。
【0052】
さらに、外添剤としてポリ4フッ化エチレン樹脂粉末、ポリフッ化ビニリデン樹脂粉末などの樹脂微粉末を付着してもよい。トナーに対してこれらの樹脂微粉末を添加する割合は、トナー100質量部対して、0.01〜8質量部の範囲から適宜選択でき、好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜4質量部である。
【0053】
本発明の静電荷像現像用トナーは溶融混練粉砕法によって製造することができる。以下にその製造方法について説明する。
【0054】
(混練工程)
混練工程では、原材料の混合物を熱溶融混練することにより、結着樹脂に前記制電性組成物及び必要に応じて前記その他任意成分が分散された混練物を得る。
本発明のトナーを溶融混練粉砕法で作製する場合は、まずあらかじめ結着樹脂、静電組成物及び必要に応じて前記任意成分を、ダブルコーン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等の混合装置を用い、粗粉砕物状態の原料混合物を調製する
混練工程にはバッチ式(例えば、加圧ニーダー、バンバリィミキサー等)または連続式の熱溶融混練機を用いるが、連続生産できる優位性から1軸または2軸の連続式押出機が好ましい。例えば、神戸製鋼所社製KTK型2軸押出機、東芝機械社製TEM型2軸押出機、ケイ・シー・ケイ社製2軸押出機、池貝鉄工社製PCM型2軸押出機、栗山製作所社製2軸押出機、ブス社製コ・ニーダー、オープンロール型連続混練機などが使用できる。特にオープンロール型連続混練機を用いると混練における原材料の分散を高度に進めることができ均一な粉砕トナー粒子を得ることにつなげられるだけでなく、混練工程が完了した混練物の形状が疎粉砕物として得られるために次の粉砕分級工程にそのまま投入できるので取り扱いに都合がよく、さらに清掃も容易であることから、他の装置と比較して総合的に生産効率が高く好適である。
【0055】
オープンロール型連続混練機は、フロントロールとバックロールの2のロールが平行に配置されており、この2本のロール間隙を原材料が通過し、その際の機械的せん断力により混練を行うものである。また、このロールは、スパイラル溝及び横溝を有しており、これらの溝は、原材料をロール間隙に食い込ませる作用と、ロール一端の近傍に設けられた原材料供給部から、ロール他端の近傍に設けられた混練物排出部まで混練物を搬送することを促進する作用を奏する。原材料は、ロール端部からの供給のみならず、原材料の特性に応じて、ロールの前半部、中間部及び後半部からも適宜供給することができる。
そして、フロントロール内にオイルや熱水等の加熱媒体を、バックロール内に水等の冷却媒体をそれぞれ通すことで、オープンロール型連続混練機は加熱及び冷却機能を発揮することができる。これにより、適切な温度で混練を行うことができ、また、混練とともに冷却を行うことで、別工程として冷却工程を採用する必要がなく、そのまま粉砕工程へ進むことができる。オープンロール型連続混練機としては、日本コークス工業社製「ニーデックス(商品名)」等を好適に用いることができる。
【0056】
(冷却工程)
その後、冷却工程により混練物を冷却固化する。
【0057】
(粉砕分級工程)
そして、粉砕分級工程では冷却固化した混練物を粉砕分級して分級トナーを得る。
まず、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミル等で粗粉砕し、ジェットミル、カウンタージェットミル、高速ローター回転式ミル等で微粉砕し、段階的に所定トナー粒度まで粉砕する。
そして、慣性分級方式のエルボージェット、遠心力分級方式のミクロプレックス、DSセパレーター、乾式気流分級機等でトナーを分級し、体積平均粒子径3〜18μmの分級トナーを得る。
分級時に得られた粗粉は粉砕分級工程に戻し、微粉は混練工程に戻して再利用してもよい。微粉を再利用する場合には、トナー化後の組成及び樹脂の分子量分布が適正になるよう、微粉の添加量をはじめとする製造条件を適切に制御する。
【0058】
次に、必要に応じて分級トナーに外添剤を付着させる外添工程を行う。
分級トナーと各種外添剤を所定量配合して、ドライブレンドによる攪拌・混合を行うことにより、トナー粒子に外添剤を付着(外添)させることができる。攪拌・混合装置(外添機)の一例としては、ダブルコーン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等の粉体にせん断力を与える高速攪拌機が挙げられる。
外添工程は、外添機内部におけるトナー粒子や各種外添剤粒子が、粒子どうしあるいは外添機内部構造物との衝突や擦れ合いによる摩擦熱で凝集してしまうことを防止するために、外添機の内部にある各材料の温度が高くなりすぎないように留意して行う。外添機内部の温度上昇を防止する方法としては、例えば外添機の内壁を外側から流水等で冷却する水冷機能がある外添機を用いてもよい。
【0059】
本発明のトナーは、上述の方法により得られ、体積平均粒径は3μm〜15μmが好ましく、さらに好ましくは5μm〜10μmである。体積平均粒径が3μm未満では、2μm未満の超微粉が多くなるので、カブリ、画像濃度低下、感光体での黒点やフィルミングの発生、現像スリーブや層厚規制ブレードでの融着の発生、等を引き起こす。一方15μmを超えると解像度が低下し、高画質画像が得られない。
【0060】
なお、本発明において、体積平均粒径は、コールターカウンターTA−II型(コールター社製)を用い、100μmのアパチャーチューブで体積分布を測定することにより求めた。
【0061】
また、本発明のトナーの円形度は0.80〜0.98であって、好ましくは0.90〜0.96である。円形度が0.80未満では流動性が劣るため帯電量が不足して画像濃度の低下をもたらしやすく、0.98を超えると帯電量が過剰となりトナー消費量が増大しやすいだけでなくトナー粒子が転がりやすいためクリーニングブレードでトナー粒子をかき集めにくくなり感光体のクリーニング不良及びこれに伴う画像不良が生じやすくなる。
なお、円形度は、
円形度=π・(粒子像の面積と等しい円の直径)/(粒子像の周囲長)
で表されるもので、フロー式粒子像分析装置(Sysmex社製、商品名:FPIA−2000により求めるものである。
【0062】
得られたトナーは、磁性体を含有しない場合は非磁性一成分現像方式、非磁性二成分現像方式に使用でき、磁性粉を含有する場合は磁性一成分現像方式、磁性二成分現像方式に使用できる。非磁性か磁性かに関わらず二成分現像方式の場合はトナーとキャリアとを混合した現像剤として使用する。
二成分現像方式でのキャリアとしては、例えば、ニッケル、コバルト、酸化鉄、フェライト、鉄、ガラスビーズなどが使用できる。これらのキャリアは単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。キャリアの平均粒子径は20〜150μmであるのが好ましい。また、キャリアの表面は、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂などの被覆剤で被覆されていていてもよい。
【0063】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
次の原材料をヘンシェルミキサーにて均一に混合した後、オープンロール連続混練造粒機(日本コークス工業社製、製品名:ニーデックスMOS型)で溶融混練造粒した。
・結着樹脂
ポリエステル: 27.0質量部(トナー粒子中含有比率24.9質量%)
(三菱レイヨン社製 商品名: FC−916)
・制電性組成物
PHBH: 73.0質量部(トナー粒子中含有比率67.3質量%)
(Mw400000、Mn5000)
・着色剤
マゼンタ顔料: 4.5質量部(トナー粒子中含有比率4.1質量%)
(大日化成工業社製 商品名: ピグメントレッド)
・正荷電性帯電制御剤
アゾ含金属化合物: 1.0質量部(トナー粒子中含有比率0.9質量%)
(オリエント化学工業社製 商品名:BONTRON S−34)
・ワックス
ポリエチレンワックス: 3.0質量部(トナー粒子中含有比率2.8質量%)
(ヘキスト社製 商品名: PE−130)
次いで混練造粒物を冷却し、ジェットミルにて粉砕、気流式分級機で分級して体積平均粒径9μmのトナー粒子を得た。該トナー粒子100質量部と疎水性シリカ(キャボット社製 商品名: TS−530)0.6質量部とをヘンシェルミキサーにて均一に混合して実施例1のトナーを得た。
【実施例2】
【0065】
実施例1の結着樹脂を92.0質量部(トナー粒子中含有比率84.8質量%)、制電性組成物を8.0質量部(トナー粒子中含有比率7.4質量%)に変更した以外は全て同じ質量部数とし、実施例2のトナーを得た。
【実施例3】
【0066】
実施例1の結着樹脂を70.0質量部(トナー粒子中含有比率64.5質量%)、制電性組成物を30.0質量部(トナー粒子中含有比率27.6質量%)に変更した以外は全て同じ質量部数とし、実施例3のトナーを得た。
【実施例4】
【0067】
実施例3の着色剤を下記黒色顔料に変更した以外は全て同じ質量部数とし、実施例4のトナーを得た。実施例4のトナーにおける制電性組成物のトナー粒子中含有比率は27.0質量%である。
・着色剤
カーボンブラック: 7.0質量部(トナー粒子中含有比率6.3質量%)
(キャボット社製 商品名: REGAL330R)
【実施例5】
【0068】
実施例3の結着樹脂を下記スチレンアクリル酸エステル共重合体(三洋化成社製 商品名: ハイマーST−305)70.0質量部に変更した以外は全て同じ配合とし、実施例5のトナーを得た。
【実施例6】
【0069】
実施例3の正荷電性帯電制御剤を0.18質量部(正荷電性帯電制御剤のトナー粒子中含有比率0.17質量%、制電性組成物のトナー粒子中含有比率27.9質量%)に変更した以外は全て同じ質量部数とし、実施例6のトナーを得た。
【実施例7】
【0070】
実施例3の正荷電性帯電制御剤を10.0質量部(正荷電性帯電制御剤のトナー粒子中含有比率8.5質量%、制電性組成物のトナー粒子中含有比率25.5質量%)に変更した以外は全て同じ質量部数とし、実施例7のトナーを得た。
【0071】
[比較例1]
実施例1の結着樹脂を20.0質量部(トナー粒子中含有比率18.4質量%)、制電性組成物を80.0質量部(トナー粒子中含有比率73.7質量%)とした以外は全て同じ質量部数とし、比較例1のトナーを得た。
【0072】
[比較例2]
実施例1の結着樹脂を95.0質量部(トナー粒子中含有比率87.6質量%)、制電性組成物を5.0質量部(トナー粒子中含有比率4.6質量%)とした以外は全て同じ質量部数とし、比較例2のトナーを得た。
【0073】
表1に、実施例及び比較例の各トナーの製造において配合した原材料比率(質量部)を示し、表2に実施例及び比較例の各トナー粒子(外添剤を除く)を100質量%として換算した原材料比率(質量%)を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
<トナーの評価>
実施例1〜5及び比較例1、2のトナーを非磁性一成分現像方式のプリンタに装填し、
記録媒体としてA4サイズの坪量65g/mの紙を使用して印字率5%のテスト用画像(25mm×25mmのベタ画像を含む)を使用し、室温25℃湿度50%の環境で、毎分30枚のプリント速度として、低現像電位、低転写電位条件(現像電圧:+250V、一次転写電圧:800V)で定着温度試験用の未定着画像を50枚印刷して定着試験用の試験用紙を得た。続いて定着機を作動させて5000枚の単色印刷を行った。印刷前後にトナーカートリッジの重量を測定し、その増加量からトナー消費量を評価した。画像濃度及び地カブリは5000枚め付近の印刷済み紙を無作為に10枚選び試験用紙とし、以下の測定を各試験用紙ごとに行って評価した。数値データは各試験用紙ごとに平均値を計算し、さらに試験用紙10枚の各平均値により評価を行った。
(画像濃度)
分光濃度計(X−RITE社製、商品名: 939分光濃度計)を用い、前記試験用紙10枚について、25mm×25mmのベタ画像の濃度を各10点測定し、合計100個の測定値の平均値を画像濃度の評価に使用した。画像濃度は以下のように評価した。
○ 画像濃度値が平均で1.0以上(十分な画像濃度であった)
× 画像濃度値が平均で1.0未満(画像濃度が不足していた)
(地カブリ)
白色度計(日本電色工業社製、商品名:ZE−2000)を用い、印刷前の紙を白色度の基準として使用し、前記試験用紙10枚について、白色部について白色度(△WB値)を各10点測定し、合計100個の測定値の平均値を地カブリの評価に使用した。
○ 白色度(△WB値)が2.0未満であり地カブリは観察されなかった
× 白色度(△WB値)が2.0以上であり地カブリが観察された
(トナー消費量)
5000枚の単色印刷前後にトナーカートリッジの重量を測定し、その増加量から5000枚印刷時のトナー消費量を評価した。
○ 5000枚印刷時のトナー消費量が150g以下であり良好である
× 5000枚印刷時のトナー消費量が150gを超えており過剰である
(トナー落ち)
トナー落ちはトナー粒子の帯電量が低すぎるために発生する現象である。5000枚印刷後のプリンタ内部を目視観察し、現像機周辺からのトナー落ちの有無を目視確認した。
○ トナー落ちは観察されなかった
× トナー落ちが観察された
(トナー飛散)
トナー飛散はトナーの平均帯電量が高すぎるために発生する現象である。5000枚印刷後のプリンタ内部を目視観察し、感光体周辺からのトナー飛散の有無を目視確認した。
○ トナー飛散は観察されなかった
× トナー飛散が観察された
(定着温度試験)
シリコンラバーローラーを有する外部定着機を用い、毎秒130mmの定着速度でローラー温度を80℃から5℃刻みで設定し、前記定着試験用の試験用紙を定着し、オフセットが発生しないかどうかを目視評価し、オフセットが発生しない温度領域を定着温度幅とした。
(電気抵抗値)
実施例および比較例のトナーを、200kgf/cmの圧力で径が2.5cmで厚みが5.0mmになるようにペレット成形し、電気抵抗値を測定した。
【0077】
表3に、実施例及び比較例の各トナーの評価結果を示す。
【0078】
【表3】

【0079】
実施例1〜3、5〜7(カラートナー)及び実施例4(黒トナー)は、いずれのトナーも画像濃度が高く、地カブリは発生せず、トナーの消費量が抑制され、トナー落ちがなく、トナー飛散がなく、定着温度幅は低温から高温まで広く良好であった。実施例のトナーはいずれも電気抵抗値が1.0×1010〜5.0×1010Ω・cmの低めの範囲に入っており、トナーを連続的に使用した場合にも帯電が高くなり続けることがなく適切な帯電量で飽和するために安定した印刷が継続できると推察される。
このように、トナー粒子が適切な濃度範囲の制電性組成物を含んでいれば、実施例6のトナーのように帯電制御剤の量が0.17質量%と少なめであったり、実施例7のトナーのように帯電制御剤の量が8.5質量%と多めであったりしても、連続印刷における帯電量分布の変動を抑制して安定な画像を得ることができるトナーを得ることができるのである。
これに対し、制電性組成物がトナー粒子全体の70質量%を超える比較例1は、トナー飛散は認められなかったが、画像濃度は低めで、地カブリが認められ、トナーの消費量が過剰であり、トナー落ちが認められた。制電性組成物の量が多すぎたために帯電の絶対値が低めになったためではないかと思われる。電気抵抗値が小さすぎるトナーを連続的に使用した場合に帯電量が適切な範囲に達せず画像濃度の不足、地カブリの増大、トナー落ちが発生する傾向にあることがわかっており、比較例1のトナーの電気抵抗値0.87×1010Ω・cmの値が小さすぎたことを示唆している。なお、画像濃度が高かったことについて、一般にトナーの帯電量が低いと画像は薄くなる傾向があり、比較例1でも画像は不鮮明であったが、同時に地カブリが発生したことにより印刷紙面全体の見かけの画像濃度が高くなったものである。
また、比較例1は、定着試験において、高温オフセットが顕著であった。これは、制電性組成物の分子量分布が結着樹脂より低めであった可能性があり、高温オフセットの防止に有効な高分子量成分が不足していたためではないかと推測される。
一方、制電性組成物がトナー粒子全体の5質量%未満である比較例2は、画像濃度は良好であり、地カブリ、トナー落ちは認められなかったが、トナーの消費量が多かった。トナー消費量が多かった原因として2つ考えられる。1つ目の原因は、比較例2のトナーは制電性組成物の量が少なすぎたために帯電が高くなりすぎ、感光体上の潜像にトナーが過剰に付着したことが考えられる。トナー消費量が多かった2つ目の原因は、比較例2のトナーが高帯電であったためにトナーの帯電量分布が広く、相対的に低帯電のトナー粒子も無視できない程度に存在し、該低帯電のトナー粒子が感光体上のトナー粒子層から脱離して感光体の周辺を汚染するトナー飛散が発生したために見かけのトナー消費量が増大してしまったことが考えられる。電気抵抗値が大きいトナーを連続的に使用した場合にこのトナーの帯電量が適切な範囲を超えて増加する結果としてトナー消費量が増大する傾向がある。比較例2のトナーにおいてトナー消費量が過剰であった結果から、このトナーの電気抵抗値10.7×1010Ω・cmは適正範囲より大きいと考えられる。
本発明のトナーに使用する制電性組成物(PHA)は、基本構造としては一般的な合成ポリエステル樹脂と構造であるにもかかわらず、トナーの帯電量の絶対値を低めに維持しつつ安定した帯電量の制御を行うという制電性組成物として顕著な効果があった。この理由について明らかではないが、微生物が生産した高分子化合物を精製する段階で除去しきれずに残留している不純物、あるいは意図的に添加されている何らかの添加剤が、制電性組成物としての作用効果を発現させる有効成分として働く可能性が考えられる。該添加剤としては、微生物が生産した高分子化合物に対して溶融状態からの固化を促進する目的で添加される場合がある結晶核剤である可能性も考えられる。
以上のように、本発明の静電荷像現像用トナーによれば、各色のトナーにおいて、トナー製造時には非石油系の化合物で代替できるすなわちカーボンニュートラルである樹脂成分を添加することができ、帯電制御剤の添加量を少なくすることができ、印刷時には、帯電量の上限を抑制ずる効果や帯電量の経時的な変化を抑制する効果を有することにより、現像電位及び転写電位が低くても現像及び転写が可能で、トナーが消費量が少なく、トナーのトナー落ちが起こらず、印刷画像においては充分な画像濃度が得られ、地カブリを生じず、長期にわたり帯電量変化が少ないという、特性の優れた静電荷現像用トナーを提供できる。その結果、この発明によれば、地球環境に配慮した省エネルギー、低コストのカラートナーを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、制電性組成物及び正荷電性帯電制御剤を少なくとも含有する静電荷像現像用トナーであって、該制電性組成物として微生物が生産したポリヒドロキシアルカノエートを用い、該制電性組成物を5〜70質量%含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエートがポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。

【公開番号】特開2012−247628(P2012−247628A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119283(P2011−119283)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】