説明

静電荷像現像用トナー

【課題】 低温定着性が得られながら定着分離性および耐ホットオフセット性が得られ、さらに、画質安定性に優れる静電荷像現像用トナーの提供。
【解決手段】 静電荷像現像用トナーは、結着樹脂と、モノエステル化合物からなる化合物Aと、ジエステル化合物およびトリエステル化合物から選択される少なくとも1種からなる化合物Bとを含有するトナー粒子よりなり、当該静電荷像現像用トナーにおけるモノエステル化合物の溶解度パラメーター値をSP(A)、融点をTm(A)、ジエステル化合物および/またはトリエステル化合物の溶解度パラメーター値をSP(B)、融点をTm(B)としたときに、SP(A)<SP(B)かつTm(A)<Tm(B)を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置において一層の省エネルギー化を図るために、より低い温度で熱定着を行うことができる静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が必要とされており、このようなトナーにおいてさらに高画質性・高耐久性を満足するトナーが求められている。
低温定着性を有するトナーとしては、例えば定着助剤として結晶性の材料、具体的には高級アルコールや高級脂肪酸、あるいはそれらから合成することができるエステル化合物を含有させたトナー粒子よりなるトナーが広く知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような定着助剤を含有するトナーにおいては、トナー粒子中の結晶性の材料の存在によって熱定着時にトナーの急激な粘度低下が生じることにより、溶融したトナーによる画像が破断されてその一部が定着部材に移行してしまういわゆるホットオフセット現象や、定着部材に画像支持体が巻き付く現象などが生じやすい、という問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、低温定着性と耐ホットオフセット性などの離型性とが両立して得られるよう、その構造やエステル結合数の異なる2種以上のエステル化合物を併用したトナーが提案されている。例えば、特許文献2には、エステル結合数が1〜2である1〜2官能のエステル化合物と、エステル結合数が4〜6である4〜6官能のエステル化合物とを併用したトナーが開示されており、また、特許文献3には、4官能以下のエステル化合物と8官能以上のエステル化合物とを併用したトナーが開示されている。
【0005】
しかしながら、このようなトナーにおいては、高画質性・高耐久性を十分に満足することができない。具体的には、エステル結合数の多い、例えば4官能以上のエステル化合物を含むトナーにおいては、当該トナーが吸湿性が高いものとなり、これに起因して帯電特性が不安定なものとなり、その結果、高湿度において連続プリントを行った場合に画像濃度の低下やカブリの発生が生じるなど、画質安定性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−106174号公報
【特許文献2】特開2010−145553号公報
【特許文献3】特開2011−133648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、低温定着性が得られながら定着分離性および耐ホットオフセット性が得られ、さらに、画質安定性に優れる静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂と、モノエステル化合物からなる化合物Aと、ジエステル化合物およびトリエステル化合物から選択される少なくとも1種からなる化合物Bとを含有するトナー粒子よりなる静電荷像現像用トナーであって、
当該静電荷像現像用トナーにおける化合物Aの溶解度パラメーター値をSP(A)、融点をTm(A)、化合物Bの溶解度パラメーター値をSP(B)、融点をTm(B)としたときに、
SP(A)<SP(B)かつTm(A)<Tm(B)を満たすことを特徴とする。
【0009】
本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子において、前記化合物Aと前記化合物Bとの合計の含有量が、5〜20質量%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記SP(A)とSP(B)との差が、0.1以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記Tm(A)とTm(B)との差が、4℃以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の静電荷像現像用トナーにおいては、前記トナー粒子が、化合物Aおよび化合物Bおよび結晶核剤を含有することが好ましい。前記結晶核剤は、有機酸塩またはソルビトール誘導体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の静電荷像現像用トナーによれば、溶解度パラメーター値および融点がそれぞれ特定の関係を満たすよう規定されたモノエステル化合物からなる化合物Aとジエステル化合物およびトリエステル化合物から選択される少なくとも1種からなる化合物Bとを含有するので、低温定着性が得られながら定着分離性および耐ホットオフセット性が得られる。
【0014】
また、トナー粒子に結晶核剤が含まれるトナーにおいては、当該結晶核剤の存在によって当該ジ・トリエステル化合物のトナー粒子中における結晶状態を制御することができ、これにより、優れた耐熱保存性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
〔トナー〕
本発明のトナーは、結着樹脂、並びに、モノエステル化合物からなる化合物Aおよびジエステル化合物およびトリエステル化合物から選択される少なくとも1種からなる化合物B(以下、「ジ・トリエステル化合物」という。)を含有するトナー粒子よりなり、モノエステル化合物の溶解度パラメーター値をSP(A)、融点をTm(A)、ジ・トリエステル化合物の溶解度パラメーター値をSP(B)、融点をTm(B)としたときに、モノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物がSP(A)<SP(B)かつTm(A)<Tm(B)を満たすことを特徴とするものである。
【0017】
〔結着樹脂〕
トナー粒子を構成する結着樹脂としては、スチレン−アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂などのビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリスルホン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂などが挙げられ、特に、スチレン-アクリル系樹脂およびポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
結着樹脂は、その溶解度パラメーター値をSP(樹脂)としたときに、SP(樹脂)がSP(A)よりもSP(B)に近い値となることが好ましく、0≦|SP(樹脂)−SP(B)|<2.0を満たすことが好ましい。具体的には、8.4<SP(樹脂)<11.5を満たすことが好ましく、8.8<SP(樹脂)<10.5を満たすことがより好ましい。SP(樹脂)が過度に低い場合は、モノエステル化合物との相溶化によって十分な定着分離性が得られないおそれや、十分な耐熱保管性が得られないおそれがあり、また、SP(樹脂)が過度に高い場合は、ジ・トリエステル化合物の可塑化効果が得られないことに起因する定着性の悪化や、吸湿性が高まることに起因する長期使用時の画像不良の発生という不具合が生じるおそれがある。
【0019】
本発明において、溶解度パラメーター値(SP値:(cal/cm3 1/2 )とは、25℃における溶解度パラメーター値であって、物質に固有の値であり、物質の溶解性を予測するための一つの有用な尺度である。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。そして、2種の物質を混合する場合に、両者のSP値の差が小さいほど、溶解度が大きくなる。
結着樹脂のSP値は、結着樹脂を形成する各単量体のSP値とモル比との積として算出されるものである。例えば、結着樹脂がX、Yの2種類の単量体より形成されるものと仮定した場合、各単量体の質量比をx、y(質量%)、分子量をMx、My、SP値をSPx、SPyとすると、この結着樹脂のSP値は下記式(1)で表される。
式(1):SP={(x×SPx/Mx)+(y×SPy/My)}×{1/(x/Mx+y/My)}
単量体のSP値は、その単量体の分子構造中の原子または原子団に対して、Fedorsによって提案された「Polym.Eng.Sci.Voll14.p114(1974)」から蒸発エネルギー(Δei)およびモル体積(Δvi)を求め、下記式(2)から算出される。但し、重合時開裂する二重結合については、開裂した状態をその分子構造とする。
式(2):σ=(ΣΔei/ΣΔvi1/2
上記式(2)によって単量体のSP値を算出することができない場合は、具体的な値として、ポリマーハンドブック(ワイリー社刊)第4版等の文献または独立行政法人「物質・材料研究機構」提供のデータベース PolyInfo(http://polymer.nims.go.jp)に記載の溶解度パラメータの項目(http://polymer.nims.go.jp/guide/guide/p5110.html)を参照することができる。
【0020】
また、結着樹脂の軟化点は、トナーに低温定着性を得る観点から、80〜140℃であることが好ましく、より好ましくは90〜120℃である。
【0021】
結着樹脂の軟化点は、下記に示すフローテスターによって測定されるものである。
具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、結着樹脂1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cm2 の力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作成し、次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、結着樹脂の軟化点とされる。
【0022】
また、結着樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mw)が好ましくは3,000〜100,000、より好ましくは5,000〜70,000、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが1.5〜6.0、好ましくは2.0〜4.0である。
【0023】
結着樹脂の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるものであり、具体的には、以下のように行われる。
すなわち、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料(結着樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical社製の分子量が6×10、2.1×10、4×10、1.75×10、5.1×10、1.1×10、3.9×10、8.6×10、2×10、4.48×10のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を測定し、検量線を作成する。また、検出器には屈折率検出器を用いる。
【0024】
〔モノエステル化合物〕
本発明のトナーに含有されるモノエステル化合物は、1価のアルコールと1価のカルボン酸とから得られるものであって、熱定着時に主として離型性を発揮する離型剤として機能するものである。モノエステル化合物としては、下記一般式(M)で表されるものを用いることが好ましい。
一般式(M):R1 −COO−R2
〔上記一般式(M)において、R1 およびR2 は、各々、置換基を有していてもいなくてもよい炭素数が13〜30、好ましくは17〜22の炭化水素基を示す。R1 およびR2 は、互いに同一であっても異なっていてもよい。〕
モノエステル化合物は、低動粘度で浸み出しやすく、離型性に優れるという観点から、上記一般式(M)における基R1 および基R2 が直鎖状の脂肪族炭化水素基であるものであることが好ましいが、分岐鎖状の脂肪族炭化水素基であるものを用いてもよい。
【0025】
モノエステル化合物の具体例としては、例えばステアリン酸ステアリル、ステアリン酸ベヘニル、ベヘン酸ベヘニル、パルミチン酸ベヘニル、アラキジン酸ベヘニル、テトラコサン酸ステアリル、ヘキサコサン酸ステアリルなどが挙げられる。
以上のモノエステル化合物は、SP(A)<SP(B)、Tm(A)<Tm(B)を満足するものであれば、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、SP(A)<SP(B)、Tm(A)<Tm(B)を満足するモノエステル化合物に加えて、SP(A)<SP(B)、Tm(A)<Tm(B)を満足しないモノエステル化合物が含まれていても構わない。
【0026】
〔ジ・トリエステル化合物〕
本発明のトナーに含有されるジ・トリエステル化合物は、結着樹脂との親和性の高さによって熱定着時に主として結着樹脂に対して可塑剤として作用し、低温定着性に寄与する定着助剤として機能するものである。
本発明において、ジエステル化合物とは、カルボン酸とアルコールとから得られて分子内にエステル結合を2つ含有する化合物であって、例えば2価のアルコールと1価のカルボン酸との組み合わせ、1価のアルコールと2価のカルボン酸との組み合わせから得ることができる。また、トリエステル化合物とは、カルボン酸とアルコールとから得られて分子内にエステル結合を3つ含有する化合物であって、例えば3価のアルコールと1価のカルボン酸との組み合わせ、1価のアルコールと3価のカルボン酸との組み合わせから得ることができる。
【0027】
ジエステル化合物の具体例としては、例えばアジピン酸ジステアリル、コハク酸ジベヘニル、エチレングリコールジステアレート、コハク酸ジステアリル、アジピン酸ジベヘニル、セバシン酸ジステアリル、エチレングリコールジベヘネート、1,4−ブタンジオールジステアレート、1,4−ブタンジオールジベヘネート、1,6−ヘキサンジオールジステアレート、1,6−ヘキサンジオールジベヘネート、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジシクロへキシル、フタル酸ジヒドロアビエチル、イソフタル酸ジメチル、二安息香酸エチレングリコールなどが挙げられる。
【0028】
トリエステル化合物としては、アルコールとしてグリセリンやソルビタンを用いて合成されたものや、カルボン酸としてクエン酸やトリメリット酸を用いて合成されたものなどが挙げられ、具体的には、グリセリントリベヘネート、グリセリントリステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリベヘネート、クエン酸トリステアリル、クエン酸トリベヘニル、三安息香酸トリメチロールエタン、三安息香酸グリセリド、クエン酸トリシクロへキシルなどが挙げられる。
【0029】
以上のジ・トリエステル化合物は、SP(A)<SP(B)、Tm(A)<Tm(B)を満足するものであれば、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、SP(A)<SP(B)、Tm(A)<Tm(B)を満足するジ・トリエステル化合物に加えて、SP(A)<SP(B)、Tm(A)<Tm(B)を満足しないジ・トリエステル化合物が含まれていても構わない。
【0030】
モノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物は、SP(A)<SP(B)を満たし、具体的にはそれらの差が0.1以上であることが好ましい。さらに、0.1≦SP(B)−SP(A)≦1.0を満たすことがより好ましく、0.2≦SP(B)−SP(A)≦0.7を満たすことが特に好ましい。
モノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物が上記の関係を満たすことにより、モノエステル化合物による離型性と、ジ・トリエステル化合物による結着樹脂の可塑化を促進する効果がそれぞれ確実に得られる。
【0031】
モノエステル化合物は、併用するジ・トリエステル化合物の溶解度パラメーター値によっても異なるが、具体的にはその溶解度パラメーター値SP(A)が8.1<SP(A)<8.9を満たすものであることが好ましく、特に8.4<SP(A)<8.7を満たすものであることがより好ましい。SP(A)が上記の範囲内にあることにより、熱定着時に良好な離型性を発揮させることができる。SP(A)が過度に低い場合は、結着樹脂中に保持することができずにブリードが生じることによって十分な耐熱保管性が得られないおそれや、機内汚染による画像不良が生じるおそれがあり、また、SP(A)が過度に高い場合は、十分な離型性が得られず定着分離性が十分に得られないおそれがある。
【0032】
ジ・トリエステル化合物は、併用するモノエステル化合物の溶解度パラメーター値によっても異なるが、具体的には8.5<SP(B)<9.8を満たすことが好ましく、8.7<SP(B)<9.3を満たすものであることがより好ましい。
ジ・トリエステル化合物の溶解度パラメーター値SP(B)が8.5以下である場合は低温定着性が十分に得られないことがあり、また、ジ・トリエステル化合物の溶解度パラメーター値SP(B)が9.8以上である場合は結着樹脂と完全に相溶してトナーに耐熱保管性が得られないおそれがある。
【0033】
また、ジ・トリエステル化合物は、その溶解度パラメーター値SP(B)が結着樹脂の溶解度パラメーター値SP(樹脂)と同じもしくは近い、具体的には0≦|SP(樹脂)−SP(B)|<2.0を満たすものであることが好ましく、特に、0<|SP(樹脂)−SP(B)|<1.2を満たすものであることが好ましい。結着樹脂およびジ・トリエステル化合物が上記の関係を満たす、すなわち両者の溶解度パラメーター値が近いことにより、ジ・トリエステル化合物による結着樹脂に対する可塑剤としての作用が確実に得られて、十分な低温定着性が得られる。結着樹脂とジ・トリエステル化合物との溶解度パラメーター値の差が大きい場合は、ジ・トリエステル化合物による結着樹脂に対する可塑剤としての作用が確実に得られずに、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0034】
また、モノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物は、Tm(A)<Tm(B)を満たし、具体的にはTm(A)とTm(B)との差が4℃以上であることが好ましく、60℃<Tm(A)<Tm(B)<110℃を満たすことがより好ましい。
モノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物がTm(A)<Tm(B)を満たすことにより、熱定着時にモノエステル化合物が先行して浸み出し、その後、ジ・トリエステル化合物が溶解して結着樹脂の可塑化が促進されるので、優れた定着分離性および耐ホットオフセット性が得られる。
【0035】
モノエステル化合物の融点Tm(A)は、具体的には60〜90℃であることが好ましく、64〜80℃であることがより好ましい。
モノエステル化合物の融点Tm(A)が過度に低い場合は、ブリードが生じることによってトナーに十分な耐熱保管性が得られないおそれがあり、また、モノエステル化合物の融点Tm(A)が過度に高い場合は、モノエステル化合物をジ・トリエステル化合物に十分に先行して溶融させることができず、優れた定着分離性および耐ホットオフセット性が満足に得られないおそれがある。
【0036】
モノエステル化合物の融点は、吸熱ピークのピークトップの温度を示し、示差走査カロリメーター「DSC−7」(パーキンエルマー製)および熱分析装置コントローラー「TAC7/DX」(パーキンエルマー製)を用いて示差走査熱量分析によってDSC測定したものである。
具体的には、モノエステル化合物0.5mgをアルミニウム製パン(KITNO.0219−0041)に封入し、これを「DSC−7」のサンプルホルダーにセットし、測定温度0〜200℃で、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分の測定条件で、Heat−cool−Heatの温度制御を行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行った。ただし、リファレンスの測定には空のアルミニウム製パンを使用した。
【0037】
ジ・トリエステル化合物の融点Tm(B)は、具体的には60〜110℃であることが好ましく、67〜100℃であることがより好ましい。
ジ・トリエステル化合物の融点Tm(B)が過度に低い場合は、モノエステル化合物をジ・トリエステル化合物に十分に先行して溶融させることができず、優れた定着分離性および耐ホットオフセット性が満足に得られないおそれがあり、また、ジ・トリエステル化合物の融点Tm(B)が過度に高い場合は、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
ジ・トリエステル化合物の融点は、測定試料をジ・トリエステル化合物として上述の通りに測定したものである。
【0038】
本発明に係るトナー粒子において、モノエステル化合物とジ・トリエステル化合物との合計の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは8〜17質量%である。
モノエステル化合物とジ・トリエステル化合物との合計の含有量が過少である場合は、十分な離型性および低温定着性が得られないおそれがあり、また、モノエステル化合物とジ・トリエステル化合物との合計の含有量が過多である場合は、ブリードが生じることによってトナーに十分な耐熱保管性が得られないおそれがある。
【0039】
また、モノエステル化合物とジ・トリエステル化合物の質量比A/Bは、30/70〜80/20であることが好ましく、より好ましくは40/60〜70/30である。
ジ・トリエステル化合物に対するモノエステル化合物の質量比が過少である場合は、離型性を十分に得ることができないおそれがある。ジ・トリエステル化合物に対するモノエステル化合物の質量比が過多である場合は、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0040】
以上のように、溶解度パラメーター値および融点がそれぞれ特定の関係を満たすよう規定されたモノエステル化合物とジ・トリエステル化合物とを含有するトナーによれば、低温定着性が得られながら定着分離性および耐ホットオフセット性が得られる。
この理由としては、まず、高極性のジ・トリエステル化合物によって結着樹脂の可塑化が促進されることによって低温定着性が得られるものと推測される。また、低極性および低融点を有するモノエステル化合物によって離型性による定着分離性および耐ホットオフセット性が得られ、しかも、融点の高低の関係から、熱定着時にモノエステル化合物が先行して浸み出し、その後、ジ・トリエステル化合物が溶解して結着樹脂の可塑化が促進されるので、優れた定着分離性および耐ホットオフセット性が得られるものと推測される。
さらに、エステル結合数の多いエステル化合物を含まないことから、長期使用時の画質安定性に優れる。
【0041】
〔結晶核剤〕
本発明に係るトナー粒子には、モノエステル化合物およびジエステル化合物および/またはトリエステル化合物の結晶化を制御する結晶核剤が含有されていることが好ましい。
この理由は以下の通りである。まず、当該トナー粒子に含有されるジ・トリエステル化合物は、結着樹脂に対して可塑剤として作用するものであることに起因して、製造工程においてこれが加熱された段階において結着樹脂にその一部が相溶してしまうことがある。そのため、当該製造工程において再結晶化が促されたときにも所期の結晶化度が得られず、製造されたトナーに所期の耐熱保管性が得られないおそれがある。一方、結晶核剤は、結晶化を促進する効果を有するものであるので、製造工程においてジ・トリエステル化合物が溶融された場合においても、当該結晶核剤の存在によって当該ジ・トリエステル化合物の結晶化を促進させることができ、これにより、優れた耐熱保存性が得られる。
【0042】
結晶核剤としては、無機系のものおよび有機系のものが挙げられ、無機系のものとしてはタルク、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられ、有機系のものとしては安息香酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸塩タイプのものや、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトールなどのソルビトール誘導体などが挙げられ、特に、エステル化合物に対する親和性が高いことから、有機系のものを用いることが好ましい。
【0043】
トナー粒子において、結晶核剤の含有割合は、トナー粒子中におけるモノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物の合計の含有量によっても異なるが、0.5〜8質量%とされることが好ましい。
結晶核剤の含有割合が過少である場合は、トナーの製造工程においてジ・トリエステル化合物に十分な結晶性を与えることができず、トナーが十分な耐熱保管性を有さないものとなるおそれがあり、結晶核剤の含有割合が過多である場合は、十分な低温定着性が得られないおそれがある。
【0044】
本発明に係るトナー粒子中には、結着樹脂並びにモノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物の他に、必要に応じて着色剤や荷電制御剤などの内添剤が含有されていてもよい。
【0045】
〔着色剤〕
着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
黒色のトナーを得るための着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの公知の種々のものを任意に使用することができる。
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、具体的には、有機顔料としては例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15;3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
着色剤の含有割合としては、トナー粒子中に1〜10質量%とされることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。
【0046】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、摩擦帯電により正または負の帯電を与えることのできる物質であれば特に限定されず、公知の種々の正帯電性の荷電制御剤および負帯電性の荷電制御剤を用いることができる。
トナー粒子中における荷電制御剤の含有割合としては、結着樹脂に対して通常0.1〜10質量%とされ、好ましくは0.5〜5質量%とされる。
【0047】
〔トナー粒子の粒径〕
トナーの平均粒径は、例えば体積基準のメジアン径で3〜8μmであることが好ましく、より好ましくは5〜8μmである。この平均粒径は、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成などによって制御することができる。
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することなどができる。
【0048】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0049】
〔トナー粒子の平均円形度〕
また、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、0.950〜0.995であることがより好ましい。
平均円形度が上記の範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、記録材に転写されたトナー層におけるトナー粒子の充填密度が高くなって定着性が向上し、定着オフセットが発生しにくくなる。
【0050】
トナー粒子の平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、トナーを界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式(y)に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
式(y):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子役影像の周囲長)
【0051】
〔トナーの製造方法〕
本発明のトナーを製造する方法としては、特に限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法などが挙げられる。
これらの中でも、高画質化、高安定性に有利となる粒子径の均一性、形状の制御性、コアシェル構造形成の容易性の観点より、乳化凝集法を採用することが好ましい。
乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された樹脂微粒子の分散液を、必要に応じて着色剤微粒子などのトナー粒子構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナーの粒子径となるまで凝集させ、その後または凝集と同時に、樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー粒子を製造する方法である。
ここで、樹脂微粒子を、任意に離型剤、荷電制御剤などの内添剤を含有したものとしてもよく、組成の異なる樹脂によりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
また、凝集時に、異種の樹脂微粒子を添加し、コアシェル構造のトナー粒子とすることもトナー構造設計の観点から好ましい。
樹脂微粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、転相乳化法などにより製造、またはいくつかの製法を組み合わせて製造することができる。樹脂微粒子に内添剤を含有させる場合には、中でもミニエマルション重合法を用いることが好ましい。
【0052】
結着樹脂としてスチレン−アクリル系樹脂を用いる場合、これを得るための重合性単量体としては、以下のものが挙げられる。
・スチレン系単量体(スチレンあるいはスチレン誘導体)
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。
・メタクリル酸系単量体(メタクリル酸あるいはメタクリル酸エステル誘導体)
メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
・アクリル酸系単量体(アクリル酸あるいはアクリル酸エステル誘導体)
アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニルおよびこれらの誘導体など。
これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
また、上記のスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸系単量体と共に、以下のビニル系の重合性単量体を用いることもできる。
・オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレンなど;
・ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど;
・ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど;
・ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど;
・N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど;
・その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0054】
また、上記のスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸系単量体と共に、以下の例えばカルボキシル基、リン酸基などのイオン性解離基を有する重合性単量体を使用とすることが好ましい。
・カルボキシ基を有する重合性単量体
アクリル酸、メタクリル酸、αーエチルアクリル酸、クロトン酸等の(メタ)アクリル酸、およびα−アルキル誘導体あるいはβ−アルキル誘導体;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;コハク酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、コハク酸モノアクリロイルオキシエチレンエステル、フタル酸モノアクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノメタクリロイルオキシエチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸モノエステル誘導体など。
・リン酸基を有する重合性単量体
アシドホスホオキシエチルメタクリレートなど。
【0055】
さらに、上記のスチレン系単量体および/または(メタ)アクリル酸系単量体と共に、以下の多官能性ビニル類を使用して結着樹脂を架橋構造のものとすることもできる。
・多官能性ビニル類
エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなど。
【0056】
〔分散安定剤〕
トナーの製造に分散安定剤を用いる場合には、分散安定剤としては、例えばリン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナなどが挙げられる。また、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、エチレンオキサイド付加物、高級アルコール硫酸ナトリウムなどの一般に界面活性剤として使用されるものも分散安定剤として使用することができる。
このような界面活性剤としては、従来公知の種々のイオン性界面活性剤やノニオン系界面活性剤などを用いることができる。
イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アリールアルキルポリエーテルスルフォン酸ナトリウム、3,3−ジスルフォンジフェニル尿素−4,4−ジアゾ−ビス−アミノ−8−ナフトール−6−スルフォン酸ナトリウム、オルト−カルボキシベンゼン−アゾ−ジメチルアニリン、2,2,5,5−テトラメチル−トリフェニルメタン−4,4−ジアゾ−ビス−β−ナフトール−6−スルフォン酸ナトリウムなどのスルフォン酸塩;
ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウムなどがあり、脂肪酸塩には、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウムなどの硫酸エステル塩;脂肪酸塩などが挙げられる。
また、ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドの組み合わせ、ポリエチレングリコールと高級脂肪酸とのエステル、アルキルフェノールポリエチレンオキサイド、高級脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、高級脂肪酸とポリプロピレンオキサイドのエステル、ソルビタンエステルなどが挙げられる。
【0057】
〔重合開始剤〕
トナーの製造に重合開始剤を用いる場合には、適宜の油溶性または水溶性の重合開始剤を使用することができる。
油溶性の重合開始剤の具体例としては、例えば、
(1)アゾ系またはジアゾ系重合開始剤
2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなど;
(2)過酸化物系重合開始剤
ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルペルオキシ)トリアジンなどが挙げられる。
また、水溶性の重合開始剤の具体例としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸及びその塩、過酸化水素などが挙げられる。
【0058】
〔連鎖移動剤〕
トナーの製造に結着樹脂の重合を伴う場合おいては、結着樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばn−オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチル−3−メルカプトプロピオン酸エステル、ターピノーレン、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマーなどを挙げることができる。
【0059】
〔凝集剤〕
トナーの製造に凝集剤を用いる場合には、凝集剤としては、1価、2価または3価の金属イオンが挙げられるが、2価または3価の金属イオンを用いることが好ましく、このような金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオンなどが挙げられる。これらの中でも、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンが特に好ましく用いられる。なお、これらの金属イオンを組み合わせて用いることもできる。また、上記の金属イオンの塩化物、臭化物、硫化物、およびそれらの水和物も用いることができる。
また、凝集剤の添加量は、樹脂微粒子450質量部に対して、40〜100質量部であることが好ましい。
【0060】
〔外添剤〕
上記のトナーを構成するトナー粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加した状態で使用してもよい。
流動化剤としては、例えば、数平均1次粒子径が10〜1000nm程度の、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化鉛、酸化アンチモン、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸亜鉛、フェライト、ベンガラ、フッ化マグネシウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、窒化ジルコニウム、マグネタイト、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム微粒子、ステアリン酸亜鉛などよりなる無機微粒子などが挙げられる。
これら無機微粒子はシランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、トナー粒子の表面への分散性向上、環境安定性向上のために、表面処理が行われていることが好ましい。
クリーニング助剤としては、例えば、数平均1次粒子径が10〜2000nm程度の、ポリスチレン微粒子、ポリメチルメタクリレート微粒子、スチレン−メチルメタクリレート共重合体微粒子などの有機微粒子が挙げられる。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
これらの外添剤の添加量は、その合計の添加量がトナー粒子100質量部に対して好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部とされる。
外添剤の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を使用することができる。
【0061】
本発明のトナーにおいて、結着樹脂がポリエステル系樹脂である場合は、ポリエステル系樹脂を常法に従って合成し、例えば乳化凝集法を用いる場合は、得られたポリエステル系樹脂を水系媒体中に分散させて樹脂微粒子の分散液を作製し、この分散液を用いて凝集融着後、外添剤を添加することにより、トナーを製造することができる。
【0062】
結着樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる場合、これを合成するための重合性単量体としては、多価カルボン酸およびその誘導体、並びに、多価アルコールおよびその誘導体が用いられる。
多価カルボン酸およびその誘導体としては、2価以上のカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸などのジカルボン酸類;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上のカルボン酸類;これらの酸無水物、あるいは酸塩化物などを挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、多価アルコールおよびその誘導体としては、2価以上のアルコール、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタングリコール、1,6−ヘキサングリコール、1,7−ヘプタングリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ピナコール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZ、水素添加ビスフェノールAなどのジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、トリスフェノールPA、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの3価以上の多価脂肪族アルコール類;上記3価以上の多価脂肪族アルコール類のアルキレンオキサイド付加物などを挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
ポリエステル系樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、当該ポリエステル系樹脂を有機溶媒中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0064】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましく、100〜1,000質量部であることがより好ましい。
水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させることができる。
【0065】
水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また、この水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
分散安定剤としては、上記と同じものを用いることができる。
【0066】
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
有機溶媒の使用量は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、通常1〜300質量部、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは25〜70質量部である。
【0067】
油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機などが挙げられ、具体的には例えばTK式ホモミキサー(特殊機化工業社製)などを挙げることができる。
油滴の分散径は60〜1000nmとされることが好ましく、さらに好ましくは80〜500nmである。
油滴の分散径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−750」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した体積基準のメジアン径である。この油滴の分散径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさによりコントロールすることができる。
【0068】
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、トナー粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、徐々に層流の撹拌状態で昇温し、一定の温度域において強い撹拌を与えた後、脱溶媒を行うなどの操作により行うことができる。
また、分散安定剤を用いてトナー粒子を形成する場合は、有機溶媒の除去処理に加えて、酸やアルカリを添加して混合することにより、当該分散安定剤の除去処理も行う。
【0069】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径としては20〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは25〜80μmとされる。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0070】
好ましいキャリアとしては、磁性粒子の表面が樹脂により被覆されている樹脂被覆キャリア、樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアを挙げることができる。樹脂被覆キャリアを構成する樹脂としては、特に限定はないが、例えばオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル系樹脂、フッ素含有重合体系樹脂などが挙げられる。また、樹脂分散型キャリアを構成する樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えばアクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0071】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して画像支持体に転写する転写手段と、画像支持体上のトナー像を熱定着させる定着手段を有するものを用いることができる。このような構成を有する画像形成装置の中でも、複数の感光体に係る画像形成ユニットが中間転写体に沿って設けられた構成のカラー画像形成装置、特に、感光体が中間転写体上に直列配置させたタンデム型カラー画像形成装置に好適に用いることができる。
また、本発明のトナーは、定着温度(定着部材の表面温度)が100〜200℃とされる比較的低温のものにおいて好適に用いることができる。
【0072】
〔画像支持体〕
本発明のトナーによる画像が形成される画像支持体は、トナー像を保持する支持体であって、具体的には、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙あるいはコート紙などの塗工された印刷用紙、市販されている和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布などの各種を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1:トナーの製造例1〕
(1)樹脂微粒子の作製
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水2900質量部に溶解させた溶液を添加し、反応容器を80℃に加熱後、
スチレン 630質量部
n−ブチルアクリレート 164質量部
メタクリル酸 46質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 7質量部
モノエステル化合物:ステアリン酸ステアリル 80質量部
ジ・トリエステル化合物:アジピン酸ジステアリル 80質量部
を混合してなる重合性単量体混合液をそのまま添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEAMIX」(エム・テクニック社製)を用いて1時間混合分散させることにより、乳化粒子(油滴)を含有する分散液を調製した。
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム3質量部をイオン交換水100質量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を添加し、82℃の温度下で2時間にわたって加熱撹拌して重合を行うことにより、樹脂微粒子〔1〕の分散液を得た。これを「樹脂微粒子分散液〔1〕」とする。
この樹脂微粒子においてモノエステル化合物およびジ・トリエステル化合物を含まない場合のスチレン-アクリル系樹脂のSP値を算出したところ、9.5であった。
【0076】
(2)着色剤微粒子分散液の調製
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加し、この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「リーガル330R」(キャボット社製)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子が分散されてなる着色剤微粒子分散液〔1〕を調製した。
この着色剤微粒子分散液〔1〕における着色剤微粒子の粒子径を電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子杜製)を用いて測定したところ、110nmであった。
【0077】
(3)トナー粒子の作製
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、
樹脂微粒子分散液〔1〕(固形分換算) 1200質量部
着色剤微粒子分散液〔1〕 120質量部
イオン交換水 1400質量部
ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水120質量部に添加した水溶液
を添加し、液温を30℃に調整した。
次に、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10に調整し、塩化マグネシウム35質量部をイオン交換水35質量部に溶解させた30℃の水溶液を、撹拌状態にある反応系中に10分間かけて添加した。添加後3分経過してから昇温を開始し、反応系を60分間かけて85℃まで昇温し、凝集を進行させた。凝集により形成される粒子の大きさは「マルチサイザー3」によって観察し、体積基準におけるメディアン径(D50)が6.5μmになった時点で20%塩化ナトリウム水溶液500質量部を添加して凝集を停止させた。20%塩化ナトリウム水溶液添加後、液温を80℃にして撹拌を継続し、フロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」によって粒子の平均円形度を観察しながら、凝集した樹脂微粒子の融着を進行させ、平均円形度が0.965になったことを確認して液温を30℃まで冷却し、塩酸を添加してpHを3.0に調整し、撹拌を停止し、トナー粒子〔1X〕を得た。
トナー粒子〔1X〕を、バスケット型遠心分離機「MARKIII 型式番号60×40」(松本機械社製)によって固液分離し、トナー粒子のウェットケーキを形成し、これを前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで45℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥した。
【0078】
(4)外添剤の添加
乾燥されたトナー粒子〔1X〕に、疎水性シリカ(数平均1次粒子径=12nm)を1質量%、疎水性チタニア(数平均1次粒子径=20nm)を0.3質量%添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー〔1〕を作製した。
このトナー〔1〕の体積基準のメディアン径は6.5μm、平均円形度は0.965であった。
【0079】
〔実施例2〜6:トナーの製造例2〜6〕
トナーの製造例1において、モノエステル化合物並びにジ・トリエステル化合物として表1に従った種類および量を用いたことの他は同様にして、トナー〔2〕〜〔6〕を作製した。
【0080】
【表1】

【0081】
〔実施例7:トナーの製造例7〕
トナーの製造例1において、モノエステル化合物並びにジ・トリエステル化合物と共に結晶核剤:ジベンジリデンソルビトール30質量部を用いて樹脂微粒子を作製したことの他は同様にして、トナー〔7〕を作製した。
【0082】
〔実施例8:トナーの製造例8〕
(1)ポリエステル樹脂の合成
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えたフラスコに、
テレフタル酸 370質量部
ビスフェノールA・P02モル付加物 520質量部
ビスフェノールA・E02モル付加物 110質量部
を仕込み、これの温度を1時間かけて190℃まで上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した後、触媒Ti(OBu)4 (多価カルボン酸の全量に対し、0.003質量%)を投入した。さらに、生成する水を留去しながら同温度から6時間かけて240℃まで昇温し、240℃に維持してさらに6時間脱水縮合反応を継続し、重合を行わせることにより、ポリエステル樹脂〔1〕を得た。
このポリエステル樹脂のSP値を算出したところ、10.0であった。
【0083】
(2)樹脂微粒子の作製
撹拌装置、温度センサー、冷却管を取り付けた反応容器に、酢酸エチル1500質量部を投入して75℃に加熱後、
ポリエステル樹脂〔1〕 840質量部
モノエステル化合物:ステアリン酸ベヘニル 80質量部
ジ・トリエステル化合物:コハク酸ジベヘニル 80質量部
を添加した後、別個に用意して加温しておいた、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部が溶解されたイオン交換水3000質量部を投入した。これを循環経路を有する機械式分散機「CLEAMIX」(エム・テクニック社製)を用いて1時間混合分散させることにより乳化粒子(油滴)を含有する分散液を調製した。その後、減圧蒸留を行うことにより、樹脂微粒子〔8〕が分散されてなる樹脂微粒子分散液〔8〕を得た。
【0084】
以下、トナーの製造例1のトナー粒子の形成工程において、樹脂微粒子〔1〕の代わりに樹脂微粒子〔8〕を用いたことの他は同様にしてトナー粒子の形成工程および外添剤の添加工程を行うことにより、トナー〔8〕を作製した。
【0085】
〔実施例9:トナーの製造例9〕
トナーの製造例8において、モノエステル化合物並びにジ・トリエステル化合物と共に結晶核剤:ジベンジリデンソルビトール20質量部を用いて樹脂微粒子を作製したことの他は同様にして、トナー〔9〕を作製した。
【0086】
〔実施例10:トナーの製造例10〕
トナーの製造例8において、モノエステル化合物並びにジ・トリエステル化合物と共に結晶核剤:ステアリン酸マグネシウム40質量部を用いて樹脂微粒子を作製したことの他は同様にして、トナー〔10〕を作製した。
【0087】
〔比較例1:トナーの製造例11〕
トナーの製造例1において、ジ・トリエステル化合物を用いなかったことの他は同様にして、トナー〔11〕を作製した。
【0088】
〔比較例2:トナーの製造例12〕
トナーの製造例1において、モノエステル化合物を用いなかったことの他は同様にして、トナー〔12〕を作製した。
【0089】
〔比較例3:トナーの製造例13〕
トナーの製造例1において、モノエステル化合物並びにジ・トリエステル化合物として表1に従った種類および量を用いたことの他は同様にして、トナー〔13〕を作製した。
【0090】
〔比較例4:トナーの製造例14〕
トナーの製造例1において、モノエステル化合物を用いず、ジ・トリエステル化合物としてエチレングリコールジステアレート80質量部およびコハク酸ジベヘニル80質量部の2種を用いたことの他は同様にして、トナー〔14〕を作製した。
【0091】
〔比較例5:トナーの製造例15〕
トナーの製造例1において、ジエステル化合物およびトリエステル化合物を用いず、ペンタエリスリトールテトラステアレート80質量部を用いたことの他は同様にして、トナー〔15〕を作製した。
【0092】
〔現像剤の製造例1〜15〕
トナー〔1〕〜〔15〕の各々に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメディアン径が60μmのフェライトキャリアを、トナー濃度が6質量%となるよう混合することにより、現像剤〔1〕〜〔15〕を作製した。
【0093】
〔評価1、2:低温定着性および耐ホットオフセット性〕
現像剤〔1〕〜〔15〕について、市販の複合プリンター「bizhub C652」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、定着装置を加熱ローラの表面温度を120〜200℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、常温常温(温度20℃、相対湿度55%)において、加熱ローラの軸方向に伸びる5mm幅のベタ黒帯状画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度(加熱ローラの表面温度)を120℃、125℃・・・と5℃刻みで増加させるよう変更しながら繰り返し行った。
目視で低温オフセットによる画像汚れが観察されない定着実験のうち、最低の定着温度に係る定着実験の当該定着温度を、最低定着温度として評価した。また、目視で高温オフセットによる画像汚れが観察された定着実験のうち、最低の定着温度に係る定着実験の当該定着温度を高温オフセット温度として評価した。結果を表2に示す。
最低定着温度が140℃以下である場合が合格と判断される。また、高温オフセット温度が未発生または190℃以上である場合が合格と判断される。なお、「未発生」とは、定着温度が200℃である定着実験においても高温オフセットによる画像汚れが観察されなかったことを意味する。
【0094】
〔評価3:定着分離性〕
現像剤〔1〕〜〔15〕について、市販の複合プリンター「bizhub C652」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)を用いて、定着装置を加熱ローラの表面温度を190℃に設定し、常温常温(温度20℃、相対湿度55%)において、縦送りで搬送したA4サイズの記録紙「PODグロスコート紙」(王子製紙社製)上に、トナー付着量0.5mg/cm2 の加熱ローラの軸方向に伸びる10cm幅のベタ黒帯状画像を定着させ、その分離性を下記の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
なお、「◎」、「○」、「△」が合格レベルとされる。
−評価基準−
◎:記録紙がカールすることなく加熱ローラと分離する。
○:記録紙が加熱ローラと分離爪で分離するが、画像上に分離爪跡はほとんど目立たない。
△:記録紙が加熱ローラと分離爪で分離し、画像上に分離爪跡が残る。
×:加熱ローラヘの巻付きが発生してしまい当該加熱ローラと分離できない。
【0095】
〔評価4:耐熱保管性〕
上記のトナー〔1〕〜〔15〕について、それぞれ、トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めてタップデンサー「KYT−2000」(セイシン企業社製)で室温にて600回振とうした後、蓋を取った状態で温度55℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないよう注意しながら載せて、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存した残存トナー量を測定し、下記式(3)によりトナー凝集率を算出し、これにより評価した。結果を表2に示す。
式(3):トナー凝集率(質量%)={残存トナー量(g)/0.5(g)}×100
なお、トナー凝集率が15質量%未満である場合が優良、15質量%以上20質量%以下である場合が良好として判断され、20質量%を超える場合は、実用上使用不可であり、不合格と判断される。
【0096】
〔評価5:画質安定性〕
高温高湿環境(温度30℃、湿度85%RH)において印字率10%の文字画像を10万枚連続してプリントした後、白画像およびハーフトーン画像を含むテスト画像をプリントし、当該プリントにおけるカブリを観察すると共にハーフトーン画像の画像荒れを観察し、下記の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
−評価基準−
◎:画像濃度の低下およびカブリはいずれも目視で観察されない。
○:画像濃度の低下および/またはカブリが20倍のルーペで若干観察されるが、実用上問題のないレベル。
△:画像濃度の低下および/またはカブリが目視で観察されるが、実用上問題のないレベル。
×:画像濃度の低下およびカブリが目視で発生し、実用上問題があるレベル。
【0097】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂と、モノエステル化合物からなる化合物Aと、ジエステル化合物およびトリエステル化合物から選択される少なくとも1種からなる化合物Bとを含有するトナー粒子よりなる静電荷像現像用トナーであって、
当該静電荷像現像用トナーにおける化合物Aの溶解度パラメーター値をSP(A)、融点をTm(A)、化合物Bの溶解度パラメーター値をSP(B)、融点をTm(B)としたときに、
SP(A)<SP(B)かつTm(A)<Tm(B)を満たすことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
前記トナー粒子において、前記化合物Aと前記化合物Bとの合計の含有量が、5〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記SP(A)とSP(B)との差が、0.1以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記Tm(A)とTm(B)との差が、4℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記トナー粒子が、化合物Aおよび化合物Bおよび結晶核剤を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記結晶核剤が、有機酸塩またはソルビトール誘導体であることを特徴とする請求項5に記載の静電荷像現像用トナー。



【公開番号】特開2013−105128(P2013−105128A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250462(P2011−250462)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】