説明

静電荷像現像用トナー

【課題】低温定着性及び耐熱保存性に優れ、さらに印字物の保管性及び画像濃度も良好な静電荷像現像用トナーを提供すること。
【解決手段】炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である原料モノマーを用いて得られる結晶性ポリエステル(1-1)と、アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)を含有してなる結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネの要望から、トナーには低温定着性能が求められており、低温定着の向上には、結晶性ポリエステルの使用が有効であるという報告が多く挙がっている。これは結晶性ポリエステルが特に非晶質ポリエステルに対して相容性が高く、結晶性ポリエステルを微小分散させることが容易であるためである。
【0003】
しかしながら、非晶質ポリエステルに微小分散し、相溶化した結晶性ポリエステルは、結晶化速度が遅いため、通常のトナーの製法では、十分に結晶化せず、可塑剤的に働いてしまい、結果として、トナーのガラス転移温度が低下し、耐熱保存性の悪化を引き起こすという課題を有している。
【0004】
この課題に対しては、トナー化の際アニーリング工程を導入する(特許文献1参照)、結晶核剤の導入(特許文献2〜5参照)が有効であることが報告されているが、アニーリングについては、新たな設備投資が必要なこと、工程時間が長くなるといった課題が、結晶核については、新たな原料導入によるコスト増加とともに、着色、光沢度及び透明度への影響といった課題がある。さらに、近年ではトナーにコア・シェル構造を持たせることによって、結晶成分をトナー中に封じ込めることによって保存性を悪化させないという手法もとられている。
【0005】
また、近年、電子写真方式プリンターの広まり、コストダウンの流れから、缶・ドラム用のラベルに用いられることがあり、60℃程度の温度でラベルをつけると、ラベルと他のドラムがくっつく等の問題が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−308995号公報
【特許文献2】特開2004−309517号公報
【特許文献3】特開2006−113473号公報
【特許文献4】特開2006−227539号公報
【特許文献5】特開2007−093809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アニーリング、コア・シェル構造によってトナーの耐熱保存性は解決されるが、これらの手法は、上記の印字物の保管性についてはなんらの効果もない。
【0008】
さらに、非晶質ポリエステルとの相溶性の低い結晶性ポリエステルを含有したトナーには、結晶性ポリエステルの分散性が低いため、低温定着性を十分に発揮できない、着色剤の分散不良により画像濃度が低下する等の課題があり、相溶性の制御のみでは、可塑化と効果の両立ができないことが確認された。
【0009】
本発明の課題は、低温定着性及び耐熱保存性に優れ、さらに印字物の保管性及び画像濃度も良好な静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である原料モノマーを用いて得られる結晶性ポリエステル(1-1)と、
アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)
を含有してなる結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記の結晶性ポリエステル(1-1)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の重量比(結晶性ポリエステル(1-1)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-1))が1/99〜40/60である、静電荷像現像用トナー、並びに
〔2〕 炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である結晶性ポリエステルの原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の結晶性ポリエステルの原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、結晶性ポリエステル成分と付加重合系樹脂成分とを含む結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と、
アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、2〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)
を含有してなる結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記の結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の重量比(結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-2))が1/99〜40/60である、静電荷像現像用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の静電荷像現像用トナーは、低温定着性及び耐熱保存性に優れ、さらに印字物の保管性及び画像濃度も良好であるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の静電荷像現像用トナーの結着樹脂の第一の態様は、
炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である原料モノマーを用いて得られる結晶性ポリエステル(1-1)と、
アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)
を含有するものである。
【0013】
結晶性ポリエステル(1-1)は、炭素鎖の長い原料モノマーを用いて得られているため、疎水性が高く、他のポリエステルとの相溶性が低く、トナーの製造工程においてアニーリング工程に供さずとも結晶化させることができ、保存性の低下を抑制することができる。
【0014】
また、結晶性ポリエステル(1-1)を特定の付加重合系樹脂部分を持つ非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)と組み合わせることにより、結晶性ポリエステルの分散性が向上し、低温定着性の効果がより高くなるとともに、非晶質ポリエステルと組み合わせた場合よりも、画像濃度の低下が抑制され、耐熱保存性も良好であることが判明した。これは、結晶性ポリエステル(1-1)は、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の非晶質縮重合系樹脂部分とは相溶性は低いが、付加重合系樹脂部分とは相溶性が高いことによるものと推定される。即ち、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)中に微小分散している付加重合系樹脂部分に結晶性ポリエステル(1-1)が分散するため、結果、結晶性ポリエステル(1-1)の非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)中での微小分散が可能となるものと考えられる。
【0015】
さらに、結晶性ポリエステル(1-1)が速やかに結晶化し、かつ微小分散するという特性を有するため、印字後も結晶が微小分散するという状態を維持することができ、印字物の保管性が非常に高いという効果を奏する。60℃の高温に曝されても印字物同士の接着が抑制されるという特性が見出されているが、これは、結晶部分が溶けないため、結晶部分がフィラー的に働いていることによるものと推察される。
【0016】
本発明において、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち、「軟化点/吸熱の最高ピーク温度」で定義される結晶性指数によって表される。一般に、この結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6未満では結晶性が低く非晶質部分が多い。本発明において、「非晶質」の樹脂とは、結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満の樹脂をいう。一方、「結晶性」の樹脂とは、結晶性指数が0.6〜1.4の樹脂をいう。
【0017】
「吸熱の最高ピーク温度」とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度のことを指す。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、最高ピーク温度を結晶性樹脂の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質樹脂のガラス転移に起因するピークとする。
【0018】
樹脂の結晶性は、用いる原料モノマーの種類と組み合わせにより、容易に調整することができる。具体的には、分岐鎖構造を有するカルボン酸成分やアルコール成分、3価以上のカルボン酸成分やアルコール成分、例えば、アルキル又はアルケニルコハク酸や第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール、トリメリット酸、無水トリメリット酸、グリセリン等を適量用いることで、非晶質化を促進することができる。また、アルコール成分に、α,ω−直鎖アルカンジオールを適量用いることで、樹脂の結晶化を容易に促進することができる。
【0019】
結晶性ポリエステル(1-1)は、前記の如く、炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含む原料モノマー(アルコール成分及びカルボン酸成分)を用いて得られる。
【0020】
炭素数8〜12のジオールとしては、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,11-ウンデカンジオール等が挙げられ、これらの中では1,12-ドデカンジオールが好ましい。
【0021】
炭素数10〜12のジカルボン酸化合物としては、トナーの低温定着性及び画像濃度を向上する観点から、セバンシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、これらの酸無水物、アルキル(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中ではセバシン酸が好ましい。本明細書中、カルボン酸化合物は、カルボン酸、カルボン酸と好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールとのアルキルエステル及び酸無水物を含む。なお、カルボン酸化合物の炭素数には、カルボキル基の炭素は含まれるが、アルキルエステルのアルキル基の炭素は含まれない。
【0022】
なお、炭素数8〜12のジオール及び炭素数10〜12のジカルボン酸化合物はいずれも、得られる結晶性ポリエステルに高い結晶性を付与するため、両末端に官能基(水酸基又はカルボキシル基)を有する化合物が好ましい。
【0023】
炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物の総含有量は、結晶性向上の観点から、結晶性ポリエステル(1-1)の原料モノマー、即ちアルコール成分とカルボン酸成分の総量中、80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上である。
【0024】
結晶性ポリエステル(1-1)は、原料モノマーとして、アルコール成分とカルボン酸成分とを用い、これらを縮重合させて得られる。
【0025】
炭素数8〜12のジオール以外のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0026】
炭素数8〜12のジオールの含有量は、結晶性を向上し、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、アルコール成分中、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。
【0027】
炭素数10〜12のジカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸等が挙げられる。
【0028】
炭素数10〜12のジカルボン酸化合物の含有量は、結晶性を向上し、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、カルボン酸成分中、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。
【0029】
なお、結晶性ポリエステル(1-1)の原料モノマーは、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、炭素数8〜24の1価の脂肪族アルコール及び炭素数8〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の長鎖モノマーを含有していることが好ましい。1価の長鎖モノマーを併用することにより、結晶性ポリエステル(1-1)の末端部分のカルボキシル基、水酸基等の極性基を減らすことができ、これによって、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)中の非晶質縮重合系樹脂部分との相溶性はより低く、付加重合系樹脂部分との相溶性はより高くなるため、結晶性ポリエステルを微小分散させる効果がより高まる。
【0030】
炭素数8〜24の1価の脂肪族アルコールとしては、1-ドデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール)等が挙げられる。上記1価の脂肪族アルコールの炭素数は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、及び画像濃度を向上する観点から、10〜22が好ましく、14〜20がより好ましい。
【0031】
炭素数8〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物としては、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、これらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。上記1価の脂肪族カルボン酸化合物の炭素数は、10〜22が好ましく、14〜20がより好ましい。
【0032】
1価の長鎖モノマーの含有量は、原料モノマー中、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、0.1〜10モル%が好ましく、2〜6モル%がより好ましく、3〜6モル%がさらに好ましい。
【0033】
カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、反応性及び分子量調整の観点から、0.75〜1.3が好ましく、0.8〜1.3がより好ましい。
【0034】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、好ましくは160〜250℃、より好ましくは180〜230℃の温度で行うことが好ましい。
【0035】
錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、縮重合系樹脂中での分散性が良好である観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0036】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、2-エチルヘキサン酸錫(II)がさらに好ましい。
【0037】
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、総炭素数2〜28のアルケニルオキシ基又は総炭素数1〜28のアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0038】
上記錫(II)化合物及びチタン化合物は、1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0039】
エステル化触媒の存在量は、反応性の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0040】
エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、反応性の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.001〜0.5重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部がより好ましい。
【0041】
結晶性ポリエステル(1-1)の軟化点は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、50〜150℃が好ましく、60〜120℃がより好ましく、70〜110℃がさらに好ましく、80〜100℃がさらにより好ましく、80〜95℃がさらにより好ましい。
【0042】
結晶性ポリエステル(1-1)の融点は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、60〜170℃が好ましく、70〜120℃がより好ましく、75〜95℃がさらに好ましい。
【0043】
結晶性ポリエステル(1-1)の酸価は、トナーの生産性向上の観点から、2〜20mgKOH/gが好ましく、3〜15mgKOH/gがより好ましい。
【0044】
なお、結晶性ポリエステル(1-1)の融点は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。例えば、縮重合の反応温度を高めたり、反応時間を長くしたり、触媒量を増加させたり、助触媒を併用したりすることで、縮重合反応を進め、融点を高めることができる。
【0045】
結晶性ポリエステル(1-1)は、アルコール成分とカルボン酸成分の縮重合による結晶性ポリエステルユニットを含む樹脂をいい、結晶性ポリエステルだけでなく、実質的にその特性を損なわない程度に変性された結晶性ポリエステルであってもよい。
【0046】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)は、アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーを重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む樹脂である。
【0047】
非晶質縮重合系樹脂としては、トナーの低温定着性の観点から、非晶質のポリエステル、ポリエステル・ポリアミド等が挙げられるが、トナーの耐久性及び帯電安定性の観点からは、非晶質ポリエステルが好ましい。
【0048】
アミド成分を形成するための原料モノマーとしては、公知の各種ポリアミン、アミノカルボン酸類、アミノアルコール等が挙げられる。
【0049】
非晶質ポリエステルを形成するための原料モノマーとしては、アルコール成分と、カルボン酸成分を含む原料モノマー等が挙げられる。
【0050】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)において、非晶質縮重合系樹脂成分の原料モノマーとして用いられるカルボン酸成分は、ポリエステルのガラス転移温度、即ちトナー保管性の観点から、芳香族ジカルボン酸成分を含む。
【0051】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸無水物、アルキル(好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0052】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、カルボン酸成分中、10〜80モル%が好ましく、20〜60モル%がより好ましく、25〜45モル%がさらに好ましい。
【0053】
カルボン酸成分は、さらに、結晶性ポリエステルの分散性、即ち、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、フマル酸を含むことが好ましい。
【0054】
フマル酸の含有量は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、カルボン酸成分中、10〜70モル%が好ましく、20〜60モル%がより好ましく、30〜50モル%がさらに好ましい。
【0055】
本発明において、カルボン酸成分は、樹脂の分子量を上げ、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び印字物の保管性の観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物、好ましくはトリメリット酸化合物、より好ましくは無水トリメリット酸を含有していることが望ましい。3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、縮重合系樹脂のカルボン酸成分中、0.1〜30モル%が好ましく、1〜30モル%がより好ましく、5〜30モル%がさらに好ましい。
【0056】
その他のカルボン酸化合物として、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、これらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜6)エステル等のフマル酸以外の脂肪族ジカルボン酸化合物;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;ロジン;フマル酸、マレイン酸又はアクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0057】
アルコール成分としては、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、式(I):
【0058】
【化1】

【0059】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0060】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0061】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度の向上及び樹脂の非晶質化の促進の観点から、アルコール成分中、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、実質的に100モル%がさらにより好ましい。
【0062】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物以外のアルコール成分としては、通常のポリエステルのアルコール成分として用いられる脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0063】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量の調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0064】
カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、反応性及び分子量調整の観点から、0.7〜1.5が好ましく、0.7〜1.4がより好ましく、0.8〜1.1がさらに好ましい。
【0065】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、180〜250℃が好ましい。
【0066】
エステル化触媒及びエステル化助触媒としては、結晶性ポリエステル(1-1)と同様のものが用いられる。
【0067】
一方、付加重合系樹脂としては、結晶性ポリエステルとの相容性の向上により分散性が向上することにより、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、スチレン系樹脂が好ましい。従って、好適な付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体が好ましい。
【0068】
スチレン誘導体の含有量は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、50〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましく、80〜100重量%がさらに好ましく、80〜90重量%がさらにより好ましい。
【0069】
スチレン誘導体以外に用いられ得る付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0070】
これらの中では、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数は、上記の観点から、1〜22が好ましく、8〜18がより好ましい。なお、該アルキルエステルの炭素数は、エステルを構成するアルコール成分由来の炭素数を言う。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。「(イソ又はターシャリー)」、「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの双方の場合を含むことを示す。
【0071】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0072】
なお、スチレン誘導体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む原料モノマーを付加重合させて得られる樹脂をスチレン−(メタ)アクリル樹脂ともいう。
【0073】
付加重合系樹脂の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、温度条件は、反応性の観点から、110〜200℃が好ましく、140〜170℃がより好ましい。
【0074】
付加重合反応の際に用いられる有機溶媒としては、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、反応性の観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、10〜50重量部程度が好ましい。
【0075】
ハイブリッド樹脂は、縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させることにより得られる複合樹脂の一種である。かかる複合樹脂は、例えば、縮重合系樹脂の原料モノマーによる縮重合反応と付加重合系樹脂の原料モノマーによる付加重合反応とを並行して、又は順次、同一反応容器中で行うことにより得ることができる。縮重合反応と付加重合反応の進行及び完結は、時間的に同時である必要はなく、それぞれの反応機構に応じて反応温度及び時間を適当に選択し、反応を進行、完結させればよい。
【0076】
縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、それらのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られる樹脂がハイブリッド樹脂である。従って、縮重合系樹脂の原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーを重合させて複合樹脂を得る際に、縮重合反応と付加重合反応は、両反応性モノマーの存在下で行うことが好ましい。これにより、複合樹脂は、縮重合系樹脂と付加重合系樹脂とが部分的に両反応性モノマーを介して結合したハイブリッド樹脂となり、縮重合系樹脂成分中に付加重合系樹脂成分がより微細に、かつ均一に分散したものとなる。
【0077】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、このような両反応性モノマーを用いることにより、分散相となる樹脂の分散性をより一層向上させることができる。両反応性モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましいが、反応性の観点から、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。なお、フマル酸も両反応性モノマーと機能し得る化合物の一種であるが、非晶質縮重合系樹脂成分のカルボン酸成分としてフマル酸が用いられる場合は、両反応性モノマーからフマル酸を除く。
【0078】
両反応性モノマーの使用量は、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の付加重合系樹脂成分の原料モノマー100重量部に対して、過度な分散を防止し、トナーの耐熱保存性、低温定着性及び画像濃度を向上させる観点から、3重量部以上であり、3.5重量部以上が好ましく、4重量部以上がより好ましい。また、分散不良を防止し、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び印字物保管性を向上させる観点から、15重量部以下であり、10重量部以下が好ましく、7重量部以下がより好ましい。これらの観点から、両反応性モノマーの使用量は、付加重合系樹脂成分の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部であり、好ましくは3.5〜10重量部、より好ましくは4〜7重量部である。なお、重合開始剤を使用している場合、両反応モノマーの使用量の基準となる付加重合系樹脂成分の原料モノマーの量は、重合開始剤の量を含むものとする。
【0079】
複合樹脂の具体的な製造方法としては、
(i) 縮重合反応を行う工程(A)の後に、付加重合反応を行う工程(B)を行う方法、
(ii) 縮重合反応を行う工程(A)の後に、付加重合反応を行う工程(B)を行い、工程(B)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上の縮重合系樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の縮重合反応をさらに進める方法、
(iii) 付加重合反応に適した温度条件下で、縮重合反応を行う工程(A)と付加重合反応を行う工程(B)とを並行して行い、反応温度を前記条件下で保持して工程(B)を完結させた後、反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上の縮重合系樹脂の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の縮重合反応をさらに進める方法
等が挙げられる。(i)、(ii)の方法において、縮重合反応を行う工程(A)の代わりに、予め重合した縮重合系樹脂を用いてもよい。(iii)の方法において、工程(A)と工程(B)を並行して行う際には、縮重合系樹脂の原料モノマーを含有した混合物中に、付加重合系樹脂の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることもできる。
【0080】
また、複合樹脂が両反応性モノマーを用いて得られるハイブリッド樹脂の製造において、両反応性モノマーは、付加重合系樹脂の原料モノマーとともに用いることが好ましい。
【0081】
なお、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)のカルボン酸成分としてフマル酸を用いる場合、フマル酸は、分子内にカルボキシル基とエチレン性不飽和結合を有しているため、両反応性モノマーとして作用し得ることから、付加重合反応終了後に反応系に添加して、縮重合反応に供することが好ましく、付加重合反応を行う工程(B)の後の縮重合反応は、両反応性モノマーの反応性及びモノマー分解による揮発性有機化合物(VOC)発生抑制、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、190〜220℃の温度で行うことが好ましい。
【0082】
本発明においては、非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーの付加重合系樹脂の原料モノマーに対する重量比(非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー/付加重合系樹脂の原料モノマー)は、連続相が非晶質縮重合系樹脂であり、分散相が付加重合系樹脂であることが好ましいこと、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、65/35〜97/3が好ましく、70/30〜90/10がより好ましく、75/25〜85/15がさらに好ましい。ここで、非晶質重合系樹脂の原料モノマーの量は両反応性モノマーの量を、付加重合系樹脂の原料モノマーの量は重合開始剤の量を、それぞれ含むものとする。
【0083】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の軟化点は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、90〜160℃が好ましく、95〜155℃がより好ましく、115〜150℃がさらに好ましく、125〜145℃がさらにより好ましい。
【0084】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)のガラス転移温度は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましく、58〜75℃がさらに好ましく、58〜70℃がさらにより好ましい。
【0085】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の吸熱の最高ピーク温度は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、50〜100℃が好ましく、50〜75℃がより好ましく、60〜70℃がさらに好ましい。
【0086】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の酸価は、トナーの生産性を向上する観点から、1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、5〜88mgKOH/gがさらに好ましく、15〜30mgKOH/gがさらにより好ましい。
【0087】
結晶性ポリエステル(1-1)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の重量比(結晶性ポリエステル(1-1)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-1))は、結晶性ポリエステルの分散不良を防止し、トナーの低温定着性及び印字物保管性を向上する観点から、1/99以上であり、トナーの低温定着性、耐熱保存性、画像濃度の向上及び印字物保管性を向上する観点から、40/60以下である。これらの観点から、結晶性ポリエステル(1-1)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の重量比(結晶性ポリエステル(1-1)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-1))は、1/99〜40/60であり、3/97〜35/65が好ましく、10/90〜30/70がより好ましく、15/85〜25/75がさらに好ましい。
【0088】
さらに、本発明のトナーに、結晶性ポリエステル(1-1)の代わりに、結晶性ポリエステル(1-1)を形成する原料モノマーを成分として含む結晶性ハイブリッド樹脂を用いることにより、結晶性ポリエステル(1-1)成分を非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の付加重合系樹脂成分中により選択的に分散させることができる。従って、本発明のトナーの結着樹脂の第二の態様は、
炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である結晶性ポリエステルの原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の結晶性ポリエステルの原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、結晶性ポリエステル成分と付加重合系樹脂成分とを含む結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と、
アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、2〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)
を含有するものである。
【0089】
結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)について、非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーの代わりに第一の態様に記載した結晶性ポリエステル(1-1)の原料モノマーが用いられる以外、即ち付加重合系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー及び製造方法は、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)と同様である。
【0090】
結晶性ポリエステル(1-2)の軟化点は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、50〜150℃が好ましく、60〜120℃がより好ましく、70〜110℃がさらに好ましく、70〜100℃がさらにより好ましく、70〜95℃がさらにより好ましい。
【0091】
結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)の融点は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、50〜170℃が好ましく、60〜120℃がより好ましく、65〜90℃がさらに好ましい。
【0092】
結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)の酸価は、印字物保管性の観点から、2〜20mgKOH/gが好ましく、3〜15mgKOH/gがより好ましい。
【0093】
なお、結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)の融点は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。例えば、縮重合の反応温度を高めたり、反応時間を長くしたり、触媒量を増加させたり、助触媒を併用したりすることで、縮重合反応を進め、融点を高めることができる。
【0094】
また、非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)は、第一の態様の非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の、アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の両反応性モノマーの代わりに、2〜15重量部の両反応性モノマーを用いること以外、即ち非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー及び製造方法は、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)と同様である。
【0095】
両反応性モノマーの使用量は、非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の付加重合系樹脂成分の原料モノマー100重量部に対して、過度な分散を防止し、トナーの耐熱保存性、低温定着性、画像濃度及び印字物保管性の向上の観点から、2重量部以上であり、分散不良を防止し、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物保管性の向上の観点から、15重量部以下である。これらの観点から、両反応性モノマーの使用量は、付加重合系樹脂成分の原料モノマー100重量部に対して、2〜15重量部であり、好ましくは3〜15重量部であり、より好ましくは3.5〜10重量部、さらに好ましくは4〜7重量部であり、さらにより好ましくは4〜6重量部である。なお、重合開始剤を使用している場合、両反応モノマーの使用量の基準となる付加重合系樹脂成分の原料モノマーの量は、重合開始剤の量を含むものとする。
【0096】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の軟化点は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、90〜160℃が好ましく、95〜155℃がより好ましく、115〜150℃がさらに好ましく、125〜145℃がさらにより好ましい。
【0097】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)のガラス転移温度は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましく、58〜75℃がさらに好ましく、58〜70℃がさらにより好ましい。
【0098】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の吸熱の最高ピーク温度は、トナーの低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、50〜100℃が好ましく、50〜75℃がより好ましく、60〜70℃がさらに好ましい。
【0099】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の酸価は、トナーの生産性向上の観点から、1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、5〜88mgKOH/gがさらに好ましく、15〜30mgKOH/gがさらに好ましい。
【0100】
結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の重量比(結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-2))は、結晶性ポリエステルの分散不良を防止し、トナーの低温定着性及び印字物保管性を向上する観点から、1/99以上であり、トナーの低温定着性、耐熱保存性、画像濃度及び印字物保管性の向上の観点から、40/60以下である。これらの観点から、結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の重量比(結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-2))は、1/99〜40/60であり、3/97〜35/65が好ましく、10/90〜30/70がより好ましく、15/85〜25/75がさらに好ましい。
【0101】
本発明のトナーの結着樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、第一の態様においては結晶性ポリエステル(1-1)及び非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)以外の公知の樹脂、第二の態様においては結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)及び非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)以外の公知の結着樹脂、例えば、非晶質ポリエステルが併用されていてもよい。その場合、非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)又は非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の含有量は、非晶質樹脂の総量中、15重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましく、80重量%以上がさらにより好ましく、95重量%以上がさらにより好ましく、実質的に100重量%がさらにより好ましい。非晶質ポリエステル以外の樹脂としては、上記以外のポリエステル、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂が挙げられる。本発明の結着樹脂の含有量は、低温定着性、耐熱保存性、印字物の保管性及び画像濃度を向上する観点から、全結着樹脂中、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がさらにより好ましい。
【0102】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0103】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、黒色顔料、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾイエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0104】
着色剤の含有量は、画像品質を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0105】
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、サリチル酸金属錯体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0106】
荷電制御剤の含有量は、画像品質を向上させる観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜8重量部が好ましく、0.5〜7重量部がより好ましい。
【0107】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0108】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0109】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0110】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、結晶性ポリエステル(1-1)及び結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)の分散性(トナーの帯電性)の観点から、少なくとも結晶性ポリエステル(1-1) と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)、又は、結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)、とを溶融混練する工程を含む方法により得られるものが好ましく、さらに、得られた溶融混練物を粉砕する工程を含む方法により得られる粉砕トナーであることがより好ましい。粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕した後、適宜分級して製造することができる。
【0111】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、画像品質を向上する観点から、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0112】
トナーの表面には、外添剤が添加されていてもよい。外添剤としては、トナーには、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、樹脂微粒子等の有機微粒子等が挙げられ、これらの表面には疎水化処理が施されていてもよい。外添剤の添加量は、保存性向上の観点から、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましい。
【0113】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0114】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0115】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、アルミパンに計量した試料0.01〜0.02gを室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのまま1分間静止させる。その後、昇温速度50℃/分で測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、そのピーク温度を融点とする。
【0116】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、アルミパンに計量した試料を0.01〜0.02gを200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0117】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0118】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0119】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0120】
樹脂製造例1〔樹脂A〜M、U、V〕
表1〜3に示すセバシン酸及び1,10-デカンジカルボン酸以外の結晶性ポリエステルの原料モノマーを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、120℃に加熱した。120℃にて、表1〜3に示すセバシン酸又は1,10-デカンジカルボン酸から1.5kgを添加し、さらに160℃まで加熱し、6時間反応させた。
その後、表1〜3に示すスチレン系樹脂の原料モノマー及び両反応性モノマーを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。160℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、8.3kPaにて1時間スチレン系樹脂の原料モノマーの除去を行った。
さらに、残りのセバシン酸又は1,10-デカンジカルボン酸を添加し、200℃まで8時間かけて昇温、8.3kPaにて30分反応させた。
さらに、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを添加し、1時間200℃にて反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ハイブリッド樹脂を得た。
【0121】
樹脂製造例2〔樹脂N〜R、T〕
表2、3に示す結晶性ポリエステルの原料モノマーを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、140℃へ加熱した。さらに200℃まで加熱し、10時間反応させた後、8.3kPaにて30分反応させた。
さらに、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを添加し、1時間200℃にて反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0122】
樹脂製造例3〔樹脂S〕
表3に示す結晶性ポリエステルの原料モノマー及びターシャリブチルカテコール5g、2-エチルヘキサン酸錫(II)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、140℃へ加熱した。さらに200℃まで加熱し、10時間反応させた。その後8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0123】
【表1】

【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【0126】
樹脂製造例4〔樹脂AA〜AJ〕
表4、5に示すフマル酸及び無水トリメリット酸以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー、2-エチルヘキサン酸錫(II)40g及び没食子酸1gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、230℃にて8時間反応を行った後、8.3kPaにて1時間反応させた。
170℃に降温し、スチレン系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー及びジクミルパーオキサイドを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。170℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、210℃に昇温し、8.3kPaにて1時間スチレン系樹脂の原料モノマーの除去及び、両反応性モノマーとポリエステル部位の反応を行った。
さらに、210℃にて、無水トリメリット酸、フマル酸及びターシャリブチルカテコール5gを添加し、所望の軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ハイブリッド樹脂を得た。
【0127】
樹脂製造例4〔樹脂AK〕
表5に示すフマル酸及び無水トリメリット酸以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー、2-エチルヘキサン酸錫(II)40g及び没食子酸1gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、230℃にて8時間反応を行った後、8.3kPaにて1時間反応させた。
170℃に降温し、スチレン系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー及びジクミルパーオキサイドを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。170℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、180℃に昇温し、8.3kPaにて1時間スチレン系樹脂の原料モノマーの除去を行った。
さらに、180℃にて、無水トリメリット酸、フマル酸及びターシャリブチルカテコール5gを添加し、軟化点が137.1℃に達するまで反応を行い、非晶質ハイブリッド樹脂を得た。
【0128】
樹脂製造例4〔樹脂AL〕
表5に示すトリメリット酸以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー、2-エチルヘキサン酸錫(II)40g及び没食子酸2gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、230℃にて12時間反応を行った後、8.3kPaにて1時間反応させた。
160℃に降温し、スチレン系樹脂の原料モノマー、両反応性モノマー及びジクミルパーオキサイドを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。160℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、210℃に昇温し、8.3kPaにて1時間スチレン系樹脂の原料モノマーの除去を行った。
さらに、210℃にて、無水トリメリット酸を添加し、軟化点が134.5℃に達するまで反応を行い、非晶質ハイブリッド樹脂を得た。
【0129】
樹脂製造例4〔樹脂AM〕
表5に示すフマル酸及び無水トリメリット酸以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー、2-エチルヘキサン酸錫(II)40g及び没食子酸1gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、230℃にて8時間反応を行った。反応後、8.3kPaにて1時間反応させた。
さらに、210℃に降温して、無水トリメリット酸、フマル酸及びターシャリブチルカテコール5gを添加し、軟化点が138.1℃に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステルを得た。
【0130】
【表4】

【0131】
【表5】

【0132】
実施例1〜43及び比較例1〜11
表6、7に示す結晶性樹脂と非晶質樹脂を混合した結着樹脂100重量部、着色剤「ECB-301」(大日精化社製、C.I.ピグメントブルー15:3)5重量部、負帯電性荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部、離型剤「カルナウバワックス C1」(加藤洋行社製、融点:83℃)1重量部、及び離型剤「パラフリントH105」(サゾールワックス社製、融点:110℃)1重量部を、ヘンシェルミキサーによく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)6.5μmの粉体を得た。
【0133】
得られた粉体100重量部に、外添剤「アエロジル R-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製)1.0重量部及び「SI-Y」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、体積中位粒径(D50)6.5μmのトナーを得た。
【0134】
試験例1〔耐熱保存性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、50℃及び相対湿度60%の環境で72時間保持した。パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。篩いA上に残存したトナー重量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー重量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー重量WC(g)を、それぞれ測定し、下記式に従って算出される値(α)をもとに、耐熱保存性を評価した。値(α)が100に近いほど、耐熱保存性に優れる。結果を表6、7に示す。
【0135】
α=100-(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
【0136】
試験例2〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ社製)にトナーを実装し、未定着の状態で画像を取り出した(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。前記複写機の定着機をオフラインで、90℃から240℃へ5℃ずつ順次定着温度を上昇させながら、400mm/secで用紙に定着させた。なお、定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ社製、75g/m2)を使用した。
【0137】
定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、低温定着性の指標とした。結果を表6、7に示す。
【0138】
試験例3〔画像濃度〕
複写機「AR-505」(シャープ社製)にトナーを実装し、未定着の状態で画像を取り出した(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。前記複写機の定着機をオフラインで、160℃で200mm/secで用紙に定着させた。なお、定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ社製、75g/m2)を使用した。
【0139】
定着画像の画像濃度を、透過濃度計「TR-927」(グレタグマクベス社製)を用いて測定した。結果を表6、7に示す。なお、画像濃度の測定に透過濃度計を利用したのは、反射濃度計ではある一定以上の濃度になるとすぐに飽和してしまうのに対し、透過濃度計は着色剤の分散等を敏感に感知するためである。
【0140】
試験例4〔印字物保管性〕
各トナーについて、最低定着温度+10℃の温度で、試験例1の未定着画像1枚の定着を行った。定着画像の上に紙を100枚乗せ、さらにその上に2kgの重りを載せ、60℃のホットプレートの上にのせ、5分、10分、20分の3つの条件で放置した。定着画像の紙への融着の程度から、以下の評価基準に従って、短期間高熱暴露における印字物保管性を評価した。結果を表6、7に示す。
【0141】
〔評価基準〕
A:20分の放置でも融着しなかった。
B:10分の放置では融着しなかったが、20分の放置では一部融着した。
C:5分放置後は融着しなかったが、10分放置では、一部融着した。
D:5分放置後一部融着した。
E:5分放置後完全融着し、紙と紙が剥がれなかった。
【0142】
【表6】

【0143】
【表7】

【0144】
以上の結果より、実施例1〜43のトナーは、比較例1〜11のトナーに比べて、保存性及び低温定着性に優れ、さらに画像濃度及び印字物保管性も良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の静電荷像現像用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である原料モノマーを用いて得られる結晶性ポリエステル(1-1)と、
アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)
を含有してなる結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記の結晶性ポリエステル(1-1)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の重量比(結晶性ポリエステル(1-1)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-1))が1/99〜40/60である、静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である結晶性ポリエステルの原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の結晶性ポリエステルの原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、結晶性ポリエステル成分と付加重合系樹脂成分とを含む結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と、
アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、2〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)
を含有してなる結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記の結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の重量比(結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-2))が1/99〜40/60である、静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の非晶質縮重合系樹脂成分のカルボン酸成分又は非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の非晶質縮重合系樹脂成分のカルボン酸成分が、さらに、フマル酸を含有してなる、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)又は非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)における、非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーの付加重合系樹脂の原料モノマーに対する重量比(非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー/付加重合系樹脂の原料モノマー)が65/35〜97/3である、請求項1〜3いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の非晶質縮重合系樹脂成分のアルコール成分又は非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)の非晶質縮重合系樹脂成分のアルコール成分が、式(I):
【化1】

(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を80モル%以上含有してなる、請求項1〜4いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
結晶性ポリエステル(1-1)の原料モノマー又は結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)の結晶性ポリエステルの原料モノマーが、炭素数8〜24の1価の脂肪族アルコール及び炭素数8〜24の1価の脂肪族カルボン酸化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の1価の長鎖モノマーを、0.1〜10モル%含有してなる、請求項1〜5いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
少なくとも結晶性ポリエステル(1-1)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)又は結晶性ハイブリッド樹脂(1-2)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-2)、とを溶融混練する工程を含む方法により得られる、請求項1〜6いずれか記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
さらに、得られた溶融混練物を粉砕する工程を含む、請求項7記載の静電荷像現像用トナー。

【公開番号】特開2013−109237(P2013−109237A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255453(P2011−255453)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】