説明

静電荷像現像用トナー

【課題】粉砕性及び定着性に優れ、かつフィルミングも生じ難い静電荷像現像用トナーを提供すること。
【解決手段】実質的に脂肪族アルコールのみからなるアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合させて得られた、軟化点が120〜160℃の高軟化点ポリエステルと軟化点が75〜120℃の低軟化点ポリエステルとを含有してなり、前記高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルの軟化点の差が10℃以上である静電荷像現像用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される静電潜像の現像に用いられる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは本質的に定着性に優れているが、更なる定着性の改善を目的として、アルコール成分として、実質的に脂肪族アルコールのみを使用して得られるポリエステルからなるトナー用結着樹脂が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2、特許文献3等には、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジオール及び3価以上の多価単量体を含む単量体混合物を縮重合させて得られるポリエステルを結着樹脂として含有したトナーが開示されている。しかしながら、これらのトナーでは、定着性が良好なもののフィルミングが生じやすい。
【0004】
なお、軟化点の異なる樹脂の混合物を結着樹脂として、各樹脂の欠点を改良したトナーも多数報告されており、中でも芳香族アルコール系ポリエステルの組み合わせが最も多く検討されている(特許文献4、特許文献5、特許文献6等)。また、特許文献7及び特許文献8では、脂肪族アルコール系ポリエステルと芳香族アルコール系ポリエステルとを結着樹脂としたトナーも開示されているが、いずれも粉砕性、定着性及び耐フィルミング性の改善が不十分と言わざるを得ず、高速機対応トナーにおいてはさらなる性能向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−204065号公報
【特許文献2】特開平2−161467号公報
【特許文献3】特開平10−268558号公報
【特許文献4】特開平4−362956号公報
【特許文献5】特開平4−313760号公報
【特許文献6】特開平8−320593号公報
【特許文献7】特開平11−305486号公報
【特許文献8】特開平12−39738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粉砕性及び定着性に優れ、かつフィルミングも生じ難い静電荷像現像用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、実質的に脂肪族アルコールのみからなるアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合させて得られた、軟化点が120〜160℃の高軟化点ポリエステルと軟化点が75〜120℃の低軟化点ポリエステルとを含有してなり、前記高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルの軟化点の差が10℃以上である静電荷像現像用トナーに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、粉砕性及び定着性に優れ、かつフィルミングも生じ難い静電荷像現像用トナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のトナーの結着樹脂は、実質的に脂肪族アルコールのみからなるアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合させて得られた、高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルとを含有している。アルコール成分が実質的に脂肪族アルコールのみからなるポリエステルは、芳香族アルコールを使用したポリエステルと比較して、より一層優れた定着性を有している。さらに、ワックスとの相溶性にも優れているため、離型剤としてワックスを含有する際にもフィルミングを生じることなく、ワックスの特性を十分に発揮することができる。なお、本明細書において、「実質的に脂肪族アルコールのみからなるアルコール成分」とは、アルコール成分中、脂肪族アルコールが、98モル%以上、好ましくは99モル%以上、より好ましくは100モル%含有されているものをいう。
【0010】
脂肪族アルコールとしては、エチレングリコール、1,2 −プロピレングリコール、1,3 −プロピレングリコール、1,4 −ブタンジオール、1,5 −ペンタンジオール、1,6 −ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、1,4 −ブテンジオール、1,4 −シクロヘキサンジメタノール等の2価の多価アルコール、ソルビトール、1,2,3,6 −ヘキサンテトロール、1,4 −ソルビタン、ペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4 −ブタントリオール、1,2,5 −ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2 −メチル−1,2,4 −ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられ、これらの中では、炭素数2〜6の2価の直鎖又は分岐鎖の多価アルコール及びそれらの二量体が好ましい。また、非晶質ポリエステルとするために、アルコール成分には、2〜5種、より好ましくは3〜4種のアルコールが含有されているのが好ましく、複数のアルコールが含まれている場合には、それぞれのアルコールの含有量が、1〜70モル%、より好ましくは5〜60モル%であるのが好ましい。
【0011】
また、2価のカルボン酸化合物としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、イソオクチルコハク酸、イソオクテニルコハク酸等の炭素数1〜20のアルキル基または炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;及びこれらの酸の無水物、もしくは低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中では、定着性及びワックスとの相溶性の観点から、少なくとも1種のポリエステルには、脂肪族ジカルボン酸が含有されていることが好ましく、マレイン酸、フマル酸及びコハク酸が含有されていることがより好ましい。脂肪族ジカルボン酸の含有量は、カルボン酸成分中、0.1〜70モル%が好ましく、0.1〜50モル%がより好ましい。
【0012】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、例えば1,2,4 −ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7 −ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0013】
なお、高軟化点ポリエステルは架橋樹脂が好ましく、3価以上の単量体を使用して得られた樹脂が好ましい。3価以上の単量体の含有量は、高軟化点ポリエステルのカルボン酸成分中、好ましくは0.1〜40ル%、より好ましくは5〜30モル%である。
【0014】
アルコール成分とカルボン酸成分の縮重合は、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒を用いて、180〜250℃の温度で縮重合することにより製造することができる。
【0015】
本発明におけるポリエステルは、高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルとからなる。高軟化点ポリエステルの軟化点は、120〜160℃、好ましくは125〜160℃、より好ましくは135〜160℃であり、低軟化点ポリエステルの軟化点は、75〜120℃、好ましくは80〜115℃である。高軟化点ポリエステルは、耐オフセット性等を、低軟化点ポリエステルは、定着性、粉砕性等を、それぞれ向上させるが、本発明では、ポリエステルのアルコール成分が実質的に脂肪族アルコールのみからなるために、高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルとが絡みやすく、特に、粉砕性、定着性及び耐フィルミング性において、双方の特性がより効果的に発揮される。
【0016】
高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルの軟化点の差は、10℃以上、好ましくは20〜80℃、より好ましくは30〜60℃である。
【0017】
なお、本発明において、高軟化点ポリエステル及び低軟化点ポリエステルのいずれもが、非晶質ポリエステルであるのが好ましく、軟化点とガラス転移点の差は20℃以上が好ましく、30〜100℃がより好ましい。
【0018】
ポリエステルの軟化点及びガラス転移点は、モノマー組成、架橋度、分子量等により調整することができる。
【0019】
ポリエステルの酸価は、高軟化点ポリエステル及び低軟化点ポリエステルにかかわらず、好ましくは3〜60mgKOH/g、より好ましくは5〜50mgKOH/gである。また、水酸基価は5〜60mgKOH/g、好ましくは10〜50mgKOH/gである。
【0020】
高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルとの重量比(高軟化点ポリエステル/低軟化点ポリエステル)は、好ましくは20/80〜90/10、より好ましくは20/80〜70/30である。
【0021】
結着樹脂中のポリエステルの含有量は、50〜100重量%が好ましく、80〜100重量%がより好ましく、100重量%が特に好ましい。なお、結着樹脂中には、スチレン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂が適宜含有されていてもよい。
【0022】
本発明のトナーには、さらにワックスが含有されているのが好ましい。本発明では、ワックスとの相溶性に優れた低軟化点ポリエステルと、ワックスの分散性を向上させる高軟化点ポリエステルとが併用されているため、離型剤としてワックスが含有されていても、フィルミング等の問題を生じることなく、ワックスの特性が十分に発揮される。ワックスとしては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス等のポリオレフィンワックス、カルナウバワックス、はぜろう、密ろう、鯨ろう、モンタンワックス等のエステル系ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス、脂肪酸アミドワックス等のアミド系ワックス等が挙げられる。ワックスの含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましい。
【0023】
さらに、本発明のトナーには、結着樹脂に加えて、着色剤、荷電制御剤、離型剤、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0024】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナー、フルカラートナーのいずれとしても使用することができる。着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜60重量部が好ましく、1〜10重量部がより好ましい。
【0025】
本発明のトナーは、混練粉砕法等により得られる粉砕トナーが好ましく、例えば、結着樹脂、着色剤等をボールミル等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー又は1軸もしくは2軸の押出機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。トナーの体積平均粒子径は、3〜15μmが好ましい。さらに、トナーの表面には、疎水性シリカ等の流動性向上剤等が外添剤として添加されていてもよい。
【0026】
本発明の静電化像現像用トナーは、磁性体微粉末を含有するときは単独で現像剤として、また磁性体微粉末を含有しないときは非磁性一成分系現像剤として、もしくはキャリアと混合して二成分系現像剤として使用され得る。
【0027】
本発明の静電荷像現像用トナーは、定着性及び耐フィルミング性が良好であることから、線速が280mm/sec以上、好ましくは370mm/sec以上の複写機及び160mm/sec以上、好ましくは280mm/sec以上のレーザービームプリンターに好適に用いられうる。
【実施例】
【0028】
〔軟化点〕
高化式フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルを押し出すようにし、これによりフローテスターのプランジャー降下量(流れ値)−温度曲線を描き、そのS字曲線の高さをhとするときh/2に対応する温度(樹脂の半分が流出した温度)を軟化点とする。
【0029】
〔ガラス転移点〕
示差走査熱量計「DSC210」(セイコー電子工業社製)を用いて昇温速度10℃/分で測定する。
【0030】
〔酸価及び水酸基価〕
JIS K0070の方法により測定する。
【0031】
樹脂製造例
表1に示す原料モノマーを、酸化ジブチル錫の存在下で、窒素気流下、230℃にて真空下のもとで攪拌しつつ反応させ、ASTM E28−67に準ずる軟化点が所望の軟化点に達したとき、反応を終了した。得られた樹脂の軟化点、ガラス転移点、酸価及び水酸基価を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1〜6、比較例1〜10
表2に示す結着樹脂、カーボンブラック「Regal330」(キャボット社製)6重量部、荷電制御剤「T−77」(保土ヶ谷化学社製)1.5重量部及び離型剤(低分子量ポリプロピレンワックス、融点:140℃)2重量部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機により溶融混練りした。得られた溶融混練物を、高速ジェットミル粉砕分級機「IDS−2型」(日本ニューマチック社製)を用いて、体積平均粒径が8.5μmとなるように、粉砕、分級した。なお、粉砕、分級する際に、以下に示す方法により粉砕性を評価した。
【0034】
〔粉砕性〕
16メッシュの篩(目開き:1.0mm)は通過するが、22メッシュの篩(目開き:710μm)は通過しない樹脂粉体を得る。分級した樹脂粉体30gを、コーヒーミル(PHILIPS社製、HR−2170タイプ)で10秒間粉砕した後、30メッシュの篩(目開き:500μm)にかけ、通過しない樹脂粉体の重量(A)gを精秤する。この重量から次式により残存率を求め、この操作を3回行って平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0035】
残存率(%)=(A〔g〕/30.0〔g〕)×100
【0036】
(評価基準)
◎:平均残存率が10.0%未満である。
○:平均残存率が10.0%以上15.0%未満である。
△:平均残存率が15.0%以上20.0%未満である。
×:平均残存率が20.0%以上である。
【0037】
次に、得られた粉体100重量部に疎水性シリカ「R−972」(日本アエロジル社製)0.5重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合してトナーを得た。
【0038】
試験例1
複写機「AR−505」(シャープ社製)を改造した装置(線速:370mm/sec)にトナーを実装し、定着ローラの温度を90〜240℃へと順次上昇させながら画像出しを行い、最低定着温度より、トナーの定着性を評価した。結果を表2に示す。ここで、最低定着温度とは、底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムに500gの荷重を載せ、定着機(100〜240℃)を通して定着された画像の上を5往復こすり、こする前後でマクベス社の反射濃度計にて光学反射密度を測定し、以下の定義による定着率が70%を超える際の定着ローラーの温度をいう。
定着率(%)=[(こすった後の像濃度)/(こする前の像濃度)]×100
【0039】
試験例2
複写機「AR−505」(シャープ社製)を改造した装置(線速:370mm/sec)にトナーを実装し、50万枚の連続印刷を行い、感光体ドラム表面への残留トナーの融着の発生状況とプリントアウトした画像への影響を目視で観察し、フィルミングの発生程度を下記の評価基準で評価した。結果を表2に示す。
【0040】
〔評価基準〕
◎:未発生
○:トナー融着が感光体上に極わずかみられるが、画像への影響はない。
×:感光体上へのトナー融着が10点以上みられ、画像に欠陥を生じる。
【0041】
【表2】

【0042】
以上の結果より、実施例1〜6のトナーは、比較例1〜10のトナーと対比して、いずれの評価においても優れた性能を発揮していることが分かる。特に、脂肪族アルコールのみからなるアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られた樹脂は、芳香族アルコールを含むアルコール成分を用いて得られた樹脂と比較して、軟化点の異なる樹脂を併用することにより、大幅に粉砕性、定着性及び耐フィルミング性が向上すること、また樹脂のカルボン酸成分には脂肪族カルボン酸を含むものが好ましいことが、それぞれ分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に脂肪族アルコールのみからなるアルコール成分と、カルボン酸成分とを縮重合させて得られた、軟化点が120〜160℃の高軟化点ポリエステルと軟化点が75〜120℃の低軟化点ポリエステルとを含有してなり、前記高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルの軟化点の差が10℃以上である静電荷像現像用トナー。
【請求項2】
高軟化点ポリエステルと低軟化点ポリエステルとの重量比(高軟化点ポリエステル/低軟化点ポリエステル)が、20/80〜90/10である請求項1記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
高軟化点ポリエステルが、3価以上の単量体を使用して得られた樹脂である請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
さらに、ワックスが含有されている請求項1〜3いずれか記載の静電荷像現像用トナー。

【公開番号】特開2013−80254(P2013−80254A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−283843(P2012−283843)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2012−163266(P2012−163266)の分割
【原出願日】平成13年3月28日(2001.3.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】