説明

静電誘導型機械電気変換素子

【課題】 エレクトレットを用いた静電誘導型機械電気変換素子において、より優れた耐久性や出力を備えたものを提供すること。
【解決手段】 静電誘導型機械電気変換素子は、エレクトレットと、第一対向電極と、第二対向電極と、を備えている。エレクトレットは、第一の領域と第二の領域とを有している。第一の領域は、厚さ方向に沿った分極方向が第一の方向となる領域である。第二の領域は、厚さ方向に沿った分極方向が第一の方向と反対の第二の方向となる領域である。第一の領域と第二の領域とは、厚さ方向と直交する表面である主面と平行な方向である主面方向に沿って、互いに隣接するように設けられている。第一対向電極と第二対向電極とは、エレクトレットの両面にそれぞれ設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電誘導型機械電気変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、エレクトレット(合成樹脂等の絶縁材料に電荷を注入したもの)を用いたものが知られている(例えば、特開昭58−6118号公報、特開2001−177899号公報、特開2006−180450号公報、特開2007−298297号公報、特開2010−136598号公報、等参照。)。
【発明の概要】
【0003】
従来のこの種の装置においては、耐久性や出力の点で、まだまだ改善の余地があった。本発明は、かかる課題に対処するためになされたものである。
【0004】
<構成>
本発明の静電誘導型機械電気変換素子は、エレクトレットと、第一対向電極と、第二対向電極と、を備えている。
【0005】
前記エレクトレットは、強誘電体からなる膜状あるいは板状の部材である。このエレクトレットにおいては、第一の領域と第二の領域とが、主面方向に沿って互いに隣接するように交互に配列されている。ここで、前記第一の領域とは、厚さ方向(当該エレクトレットの厚さを規定する方向)に沿った分極方向が第一の方向である領域をいう。また、前記第二の領域とは、前記厚さ方向に沿った前記分極方向が第二の方向である領域をいう。前記第二の方向は、前記第一の方向とは反対の方向である。前記主面方向は、主面(当該エレクトレットにおける前記厚さ方向と直交する表面)と平行な方向である。なお、前記第一の領域又は前記第二の領域においては、前記厚さ方向における全体にわたってほぼ一様に分極が形成されていることが好適である。
【0006】
前記主面方向に沿って、前記分極方向が周期的に反転するように、複数の前記第一の領域及び複数の前記第二の領域が設けられていてもよい。この場合、前記分極方向の反転構造は、3〜600μm周期のストライプ状であってもよい。
【0007】
前記第一対向電極は、前記エレクトレットと前記主面方向に沿って相対移動可能に設けられている。この第一対向電極は、前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうち一方と対向するように、前記第一の領域又は前記第二の領域に対応する位置に配置されている。
【0008】
前記第二対向電極は、前記エレクトレットと前記主面方向に沿って相対移動可能に設けられている。この第二対向電極は、前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうちの前記一方とは異なる他方と対向するように、前記第一の領域又は前記第二の領域に対応する位置に配置されている。
【0009】
本発明の前記静電誘導型機械電気変換素子においては、典型的には、前記第一対向電極が前記第一の領域に対応する位置に配置されている一方、前記第二対向電極が前記第二の領域に対応する位置に配置されている。あるいは、前記第一対向電極が前記第一の領域及び前記第二の領域に対応する位置に配置されているとともに、前記第二対向電極も前記第一の領域及び前記第二の領域に対応する位置に配置されている。
【0010】
本発明の前記静電誘導型機械電気変換素子は、第一対向基板と、第二対向基板と、をさらに備えていてもよい。この場合、前記第一対向基板は、前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうちの前記一方と対向するように配置されていて、前記第一対向電極を支持するように設けられている。また、前記第二対向基板は、前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうちの前記他方と対向するように配置されていて、前記第二対向電極を支持するように設けられている。
【0011】
前記第一対向基板と前記第二対向基板とは、前記主面方向に沿って相対移動可能に設けられていてもよい。あるいは、前記第一対向基板と前記第二対向基板とは、前記主面方向に沿って相対移動不能に設けられていてもよい。
【0012】
<作用・効果>
本発明の前記エレクトレットにおいては、隣り合う領域毎に正負の電荷が互い違いになるため、分極状態を長期間安定的に保持することが可能になる。一方、特開2007−298297号公報等に開示されている従来の強誘電体エレクトレットにおいては、分極処理が単純に一様に行われており、一対の前記主面における同一側に、同極性の電荷が集中する。このため、かかる従来の強誘電体エレクトレットにおいては、電荷同士の反発によって分極構造が不安定になり、脱分極が発生する。
【0013】
また、本発明の前記静電誘導型機械電気変換素子においては、前記エレクトレットが上述の通りの構成を有しているため、前記エレクトレットの一対の前記主面における前記一方の側に設けられた前記第一対向電極によって機械電気変換が行われるとともに、前記エレクトレットの一対の前記主面における前記一方とは異なる前記他方の側に設けられた前記第二対向電極によっても機械電気変換が行われる。よって、従来のこの種の装置よりも出力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の静電誘導型機械電気変換素子の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の具体的な構成の一例を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示されている静電誘導型機械電気変換素子の一部分解斜視図である。
【図4】図2及び図3に示されている静電誘導型機械電気変換素子の全体の外観を示す斜視図である。
【図5】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の一変形例の概略構成を示す断面図である。
【図6】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の概略構成を示す断面図である。
【図7】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の概略構成を示す断面図である。
【図8】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の概略構成を示す断面図である。
【図9】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の概略構成を示す断面図である。
【図10】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の一部分の概略構成を示す断面図である。
【図11】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の一部分の概略構成を示す断面図である。
【図12】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の一部分の概略構成を示す断面図である。
【図13】図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子の他の変形例の一部分の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を、実施例及び比較例を用いつつ説明する。なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。
【0016】
よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態や実施例の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態や実施例に対して施され得る各種の変更の例示(変形例:modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、主として末尾にまとめて記載されている。
【0017】
<概略構成>
図1は、本発明の静電誘導型機械電気変換素子の一実施形態の概略構成を示す断面図である。図1を参照すると、本実施形態の静電誘導型機械電気変換素子1は、発電素子(環境振動で発電する機械電気変換素子)であって、エレクトレット2と、第一対向電極3と、第一対向基板4と、第二対向電極5と、第二対向基板6と、第一出力部7と、第二出力部8と、を備えている。
【0018】
エレクトレット2は、強誘電体からなる膜状あるいは板状の部材であって、複数の第一の領域21及び第二の領域22を有している。第一の領域21と第二の領域22とは、分極方向の厚さ方向(図中z軸方向)における成分が、互いに逆となるように分極されている。ここで、「厚さ方向」とは、エレクトレット2の「厚さ」を規定する方向である。すなわち、「厚さ方向」とは、エレクトレット2における図中xy平面と平行な表面である一対の主面(第一主面MS1及び第二主面MS2)と直交する方向である。具体的には、本実施形態においては、第一の領域21は、厚さ方向と平行な一方向(図中z軸正方向)に分極されている。一方、第二の領域22は、厚さ方向と平行な他の一方向(図中z軸負方向)に分極されている。また、第一の領域21及び第二の領域22においては、厚さ方向における全体にわたってほぼ一様に分極が形成されている。
【0019】
本実施形態においては、エレクトレット2は、第一主面MS1及び第二主面MS2の沿面方向である主面方向における一方向(図中x軸方向)に往復移動可能に設けられている。また、エレクトレット2においては、第一の領域21と第二の領域22とが、当該エレクトレット2の往復移動方向(図中x軸方向:後述の「領域配列方向」と同一)に沿って互いに隣接するように交互に配列されている。すなわち、第一の領域21及び第二の領域22は、上述の往復移動方向と直交し且つ厚さ方向と直交する方向(以下、「電極長手方向」と称する:図中y軸方向)に長手方向を有するとともに、上述の往復移動方向に沿って分極方向が所定の周期(具体的には3〜600μm)で周期的に反転するような、ストライプ状に設けられている。
【0020】
第一対向電極3は、上述の電極長手方向に沿って形成された細線状の導電性膜であって、第一主面MS1と対向するように設けられている。本実施形態においては、複数の第一対向電極3のそれぞれは、複数の第一の領域21のそれぞれに対応する位置に配置されている。また、複数の第一対向電極3は、第一主面MS1と対向するように設けられた第一対向基板4における、第一主面MS1と対向する面上に形成されている。なお、複数の第一対向電極3は、電極長手方向における端部にて、互いに結合(電気的に接続)されている。
【0021】
第二対向電極5は、上述の第一対向電極3と同様にして形成された細線状の導電性膜であって、第二主面MS2と対向するように設けられている。本実施形態においては、複数の第二対向電極5のそれぞれは、複数の第二の領域22のそれぞれに対応する位置に配置されている。また、複数の第二対向電極5は、第二主面MS2と対向するように設けられた第二対向基板6における、第二主面MS2と対向する面上に形成されている。なお、複数の第二対向電極5は、電極長手方向における端部にて、互いに結合されている。
【0022】
本実施形態においては、第一対向基板4及び第二対向基板6は、互いに相対移動しないように固定されている。すなわち、本実施形態においては、静電誘導型機械電気変換素子1は、エレクトレット2が第一対向基板4及び第二対向基板6に対して領域配列方向(複数の第一の領域21及び第二の領域22の配列方向:図中x軸方向)に沿って相対移動することで、機械電気変換動作を行うように構成されている。
【0023】
第一出力部7は、第一出力端子71と、第一接地側端子72と、を備えている。第一出力端子71は、複数の第一対向電極3と結合(電気的に接続)されている。同様に、第二出力部8は、第二出力端子81と、第二接地側端子82と、を備えている。第二出力端子81は、複数の第二対向電極5と結合されている。
【0024】
<具体例>
図2は、図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子1の具体的な構成の一例を示す分解斜視図である。図3は、図2に示されている静電誘導型機械電気変換素子1の一部分解斜視図である。図4は、図2及び図3に示されている静電誘導型機械電気変換素子1の全体の外観を示す斜視図である。以下、図2〜図4を用いて、本具体例の静電誘導型機械電気変換素子1の構成の詳細について説明する。
【0025】
静電誘導型機械電気変換素子1のケーシング110は、ガイド部材111を備えている。ガイド部材111は、絶縁性のセラミックスからなる板状の部材であって、エレクトレット2を図中x軸方向に往復移動可能に支持するとともに、第一対向基板4及び第二対向基板6を固定的に支持するように構成されている。
【0026】
具体的には、ガイド部材111には、エレクトレットガイド孔111aと、第一基板支持溝111bと、第二基板支持溝111cと、が形成されている。エレクトレットガイド孔111aは、ガイド部材111の厚さ方向(図中z軸方向)に沿って形成された貫通孔であって、その内部にてエレクトレット2を図中x軸方向に往復移動可能にガイドするように設けられている(図3における矢印参照)。
【0027】
第一基板支持溝111bは、ガイド部材111の一方の面(図中上面)にて第一対向基板4の厚さに対応する深さに形成された溝であって、エレクトレット2の往復移動方向(図中x軸方向)に沿って設けられている。また、第一基板支持溝111bは、エレクトレット2と、第一対向基板4上に形成された第一対向電極3と、の間に所定のギャップが設けられるような深さに形成されている。
【0028】
第二基板支持溝111cは、ガイド部材111の他方の面(図中底面)にて第二対向基板6の厚さに対応する深さに形成された溝であって、エレクトレット2の往復移動方向(図中x軸方向)に沿って設けられている。また、第二基板支持溝111cは、エレクトレット2と、第二対向基板6上に形成された第二対向電極5と、の間に所定のギャップが設けられるような深さに形成されている。
【0029】
エレクトレット2の往復移動方向(図中x軸方向)における第一対向基板4の一方の端部には、第一出力端子71が設けられている。また、上述の往復移動方向における第一対向基板4の他方の端部側にて、当該第一対向基板4と隣接するように、ストッパ112が設けられている。第一対向基板4は、第一出力端子71が上述の往復移動方向における一方(図中x軸正方向)側に突出するように、第一基板支持溝111b内に嵌め込まれている。ストッパ112は、絶縁性のセラミックスからなる板状の部材であって、第一対向基板4における上述の他方の端部と当接するように、第一基板支持溝111b内に配置されている。
【0030】
同様に、エレクトレット2の往復移動方向(図中x軸方向)における第二対向基板6の一方の端部には、第二出力端子81が設けられている。また、上述の往復移動方向における第二対向基板6の他方の端部側にて、当該第二対向基板6と隣接するように、ストッパ113が設けられている。第二対向基板6は、第二出力端子81が上述の往復移動方向における他方(図中x軸負方向)側に突出するように、第二基板支持溝111c内に嵌め込まれている。ストッパ113は、絶縁性のセラミックスからなる板状の部材であって、第二対向基板6における上述の他方の端部と当接するように、第二基板支持溝111c内に配置されている。
【0031】
すなわち、本具体例においては、第一対向基板4及び第二対向基板6は、第一出力端子71と第二出力端子81とが互いに逆方向に突出するように配置されている。
【0032】
ガイド部材111は、絶縁性のセラミックスからなる板状の部材である第一カバー板114及び第二カバー板115と接合されている。第一カバー板114は、第一対向基板4側に設けられている。すなわち、第一対向基板4は、ガイド部材111と第一カバー板114とによって挟持されている。同様に、第二対向基板6は、ガイド部材111と第二カバー板115とによって挟持されている。
【0033】
<作用・効果>
かかる構成を有する、本実施形態の静電誘導型機械電気変換素子1(図1〜図4参照)においては、第一対向電極3が設けられた第一対向基板4及び第二対向電極5が設けられた第二対向基板6に対して、エレクトレット2が、上述の往復移動方向(図中x軸方向)に相対移動する。かかる相対移動により、第一対向電極3及び第二対向電極5に誘起される電荷の変動が生じる。このようにして、当該相対移動の機械的エネルギーが電気エネルギーに変換される(特開2010−136598号公報等参照)。
【0034】
この点、本実施形態の静電誘導型機械電気変換素子1においては、分極方向が反転した第一の領域21及び第二の領域22が、領域配列方向に沿って互い違いに配列されている。このため、第一主面MS1及び第二主面MS2において、隣り合う領域毎に正負の電荷が互い違いになる。これにより、エレクトレット2の分極状態を長期間安定的に保持することが可能になる。したがって、本実施形態の構成によれば、より優れた耐久性を実現することが可能になる。
【0035】
かかる観点からすれば、第一の領域21及び第二の領域22の配列周期が大きすぎると、第一の領域21又は第二の領域22の領域配列方向におけるサイズが大きくなりすぎるため、分極構造の安定化の効果が小さくなる。一方、第一の領域21及び第二の領域22の配列周期が小さすぎる構成は、安定的に(工業的に)作成することが困難である。よって、分極方向の反転周期、すなわち、第一の領域21及び第二の領域22の配列周期は、3〜600μmであることが好適である。
【0036】
また、本実施形態の静電誘導型機械電気変換素子1においては、エレクトレット2における第一主面MS1側及び第二主面MS2側の双方にて生じる電荷を利用することで、第一出力部7及び第二出力部8の双方にて出力を得ることができる。したがって、かかる構成によれば、同一の機械的エネルギーからの電気エネルギーへの変換量が倍増される。
【0037】
このように、本実施形態の構成によれば、静電誘導型機械電気変換素子1における良好な耐久性と、高出力とが、ともに達成され得る。
【0038】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態や具体例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具現化の一例を単に示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態や具体例によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態や具体例に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0039】
以下、変形例について幾つか例示する。以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、本変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0040】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0041】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成の全部又は一部が、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0042】
本発明は、上述の具体的な構成に何ら限定されない。すなわち、上述の具体的な構成に対して、本発明の範囲内において種々の変更が施され得ることは、当然である。例えば、各部材の形状や材質についても、上述の具体例に何ら限定されるものではない。
【0043】
図1に示されているように、第一対向電極3が第一の領域21に対応する位置にのみ配置される一方、第二対向電極5が第二の領域22に対応する位置にのみ配置されている場合、第一対向電極3に誘起される電圧波形と、第二対向電極5に誘起される電圧波形とは、ほぼ一致する。
【0044】
したがって、この場合、図1に示されているような、第一出力端子71と第一接地側端子72とを有する第一対向電極3側の第一出力部7と、第二出力端子81と第二接地側端子82とを有する第二対向電極5側の第二出力部8と、を別個に設ける構成に代えて、図5に示されているような構成が採用され得る。かかる図5に示されている変形例の構成においては、複数の第一対向電極3と接続された第一出力端子71と、複数の第二対向電極5と接続された第二出力端子81と、の間に、負荷を直接接続可能となっている。
【0045】
図1〜図4に示されている構成においては、第一対向基板4及び第二対向基板6がケーシング110に対して固定的に設けられていて、エレクトレット2が自由に往復移動するようになっていた。もっとも、本発明は、かかる構成に限定されない。すなわち、図6に示されているように、上述の例とは逆に、第一対向基板4及び第二対向基板6が一体的に往復移動するようになっていてもよい。
【0046】
また、第一出力端子71と第一接地側端子72とを有する第一対向電極3側の第一出力部7と、第二出力端子81と第二接地側端子82とを有する第二対向電極5側の第二出力部8と、を別個に設ける構成においては、図7に示されているように、第一対向基板4と第二対向基板6とが別々に往復移動可能となっていてもよい。この場合、図8に示されているように、第一対向基板4側と第二対向基板6側とが別々の固有振動数を有していてもよい。かかる構成によれば、環境振動の周波数変化に広く対応した発電動作が可能になる。
【0047】
第一対向電極3と第二対向電極5との配置は、図1等に示されているような「互い違い」の状態に限定されない。具体的には、例えば、第一対向電極3と第二対向電極5とが、ともに、第一の領域21に対応する位置にのみ配置されていてもよい。
【0048】
図9は、図1に示されている静電誘導型機械電気変換素子1の他の変形例の概略構成を示す断面図である。図9を参照すると、第一対向基板4上には、第一の領域21に対応する位置に配置された第一対向電極3aと、第二の領域22に対応する位置に配置された第一対向電極3bと、が形成されている。同様に、第二対向基板6上には、第一の領域21に対応する位置に配置された第二対向電極5aと、第二の領域22に対応する位置に配置された第二対向電極5bと、が形成されている。
【0049】
また、本変形例においては、第一出力部7は、第一出力端子71aと、第一出力端子71bと、第一接地側端子72aと、第一接地側端子72bと、を備えている。第一出力端子71aは、複数の第一対向電極3aと結合されている。第一出力端子71bは、複数の第一対向電極3bと結合されている。
【0050】
同様に、本変形例においては、第二出力部8は、第二出力端子81aと、第二出力端子81bと、第二接地側端子82aと、第二接地側端子82bと、を備えている。第二出力端子81aは、複数の第二対向電極5aと結合されている。第二出力端子81bは、複数の第二対向電極5bと結合されている。
【0051】
かかる構成においては、第一対向基板4及び第二対向基板6上における電極密度を可及的に高くすることができる。したがって、かかる構成によれば、よりいっそうの高出力化が可能になる。
【0052】
図10〜12に示されているように、第一対向基板4側には、第一対向電極3を覆う絶縁性の第一電極カバー層901が設けられていてもよい。同様に、第二対向基板6側には、第二対向電極5を覆う絶縁性の第二電極カバー層902が設けられていてもよい。なお、第一電極カバー層901と第二電極カバー層902とは、同材質から構成されていてもよいし、異なる材質から構成されていてもよい。あるいは、静電誘導型機械電気変換素子1の設置態様によっては、第一電極カバー層901と第二電極カバー層902とのうちのいずれか一方のみが形成されていてもよい。
【0053】
この場合、第一電極カバー層901は、図10に示されているように、第一対向基板4の表面(主面)における第一対向電極3が形成されている面の全体を覆うようなコーティング層として設けられていてもよい。あるいは、第一電極カバー層901は、図11に示されているように、第一対向電極3とエレクトレット2(図1等参照)との間に介在する絶縁シートあるいは絶縁膜として、第一対向基板4の表面(主面)における第一対向電極3が形成されている面から「浮いた」状態で設けられていてもよい。あるいは、第一電極カバー層901は、図12に示されているように、第一対向電極3上にのみ設けられていてもよい。
【0054】
同様に、第二電極カバー層902は、図10に示されているように、第二対向基板6の表面(主面)における第二対向電極5が形成されている面の全体を覆うようなコーティング層として設けられていてもよい。あるいは、第二電極カバー層902は、図11に示されているように、第二対向電極5とエレクトレット2(図1等参照)との間に介在する絶縁シートあるいは絶縁膜として、第二対向基板6の表面(主面)における第二対向電極5が形成されている面から「浮いた」状態で設けられていてもよい。あるいは、第二電極カバー層902は、図12に示されているように、第二対向電極5上にのみ設けられていてもよい。
【0055】
図13に示されているように、エレクトレット2には、第一主面MS1を覆う絶縁性のエレクトレットカバー層903aが形成されていてもよい。同様に、エレクトレット2には、第二主面MS2を覆う絶縁性のエレクトレットカバー層903bが形成されていてもよい。なお、静電誘導型機械電気変換素子1の設置態様によっては、エレクトレットカバー層903aとエレクトレットカバー層903bとのうちのいずれか一方のみが形成されていてもよい。
【0056】
図10〜図13のうちの少なくともいずれか1つに示されている構成を採用することにより、エレクトレット2と第一対向電極3又は第二対向電極5との絶縁状態が、良好に確保され得る。なお、図10〜図12の構成と図13の構成とが組み合わされる場合、第一電極カバー層901及び/又は第二電極カバー層902を構成する材質と、エレクトレットカバー層903a及び903bを構成する材質とは、摩擦帯電列上にて近接するように選択され得る。
【0057】
また、静電誘導型機械電気変換素子1の設置態様によっては、上述の各種のカバー層を用いた構成に代えて、第一対向電極3及び/又は第二対向電極5と、エレクトレット2と、の間にゲル状の絶縁材料を充填した構成が採用され得る。
【0058】
本発明は、上述の例のような発電素子(環境振動で発電する機械電気変換素子)に限定されず、マイクロフォンや各種センサ等にも用いられ得る(この場合、電極等の形状や配置等が適宜変更される。)。また、振動(相対移動)方向も、厚さ方向であってもよい。すなわち、エレクトレット2は、各電極に対して二次元的あるいは三次元的に相対移動可能であってもよい。
【0059】
第一の領域21及び第二の領域22は、領域配列方向における幅が同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第一の領域21及び第二の領域22は、上述の各例のような、平面視にていわゆる「ストライプ状」でなくてもよい。具体的には、例えば、平面視にていわゆる「市松模様」であってもよい。具体的には、平面視にて略矩形状(典型的には略正方形状)の第一の領域21及び第二の領域22が、互い違いに二次元的に配置されていてもよい。
【0060】
分極方向も、厚さ方向と平行でなくてもよい。すなわち、第一の領域21における分極方向とz軸正方向とのなす角度α[°]が−45≦α≦+45であって、第二の領域22における分極方向とz軸負方向とのなす角度βが[°]が−45≦β≦+45であればよい(このときαの絶対値とβの絶対値とは同じであってもよいし異なっていてもよい)。
【0061】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。
【0062】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した先行出願や各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0063】
1…静電誘導型機械電気変換素子
110…ケーシング
111…ガイド部材 111a…エレクトレットガイド孔
111b…第一基板支持溝 111c…第二基板支持溝 112…ストッパ
113…ストッパ 114…第一カバー板 115…第二カバー板
2…エレクトレット 21…第一の領域 22…第二の領域
3…第一対向電極 3a…第一対向電極 3b…第一対向電極
4…第一対向基板
5…第二対向電極 5a…第二対向電極 5b…第二対向電極
6…第二対向基板
7…第一出力部
71…第一出力端子 71a…第一出力端子 71b…第一出力端子
72…第一接地側端子 72a…第一接地側端子 72b…第一接地側端子
8…第二出力部
81…第二出力端子 81a…第二出力端子 81b…第二出力端子
82…第二接地側端子 82a…第二接地側端子 82b…第二接地側端子
901…第一電極カバー層 902…第二電極カバー層
903a…エレクトレットカバー層 903b…エレクトレットカバー層
MS1…第一主面 MS2…第二主面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【特許文献1】特開昭58−6118号公報
【特許文献2】特開2001−177899号公報
【特許文献3】特開2006−180450号公報
【特許文献4】特開2007−298297号公報
【特許文献5】特開2010−136598号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に沿った分極方向が第一の方向である第一の領域と、前記厚さ方向に沿った前記分極方向が前記第一の方向とは反対の第二の方向である第二の領域と、が、前記厚さ方向と直交する表面である主面と平行な方向である主面方向に沿って、互いに隣接するように交互に配列された、強誘電体膜からなるエレクトレットと、
前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうち一方と対向するように、前記第一の領域又は前記第二の領域に対応する位置に配置されていて、前記エレクトレットと前記主面方向に沿って相対移動可能に設けられた、第一対向電極と、
前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうちの前記一方とは異なる他方と対向するように、前記第一の領域又は前記第二の領域に対応する位置に配置されていて、前記エレクトレットと前記主面方向に沿って相対移動可能に設けられた、第二対向電極と、
を備えたことを特徴とする、静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記エレクトレットにおける前記第一の領域又は前記第二の領域は、前記厚さ方向における全体にわたってほぼ一様に分極が形成されていることを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記第一対向電極は、前記第一の領域に対応する位置に配置されていて、
前記第二対向電極は、前記第二の領域に対応する位置に配置されていることを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記第一対向電極は、前記第一の領域及び前記第二の領域に対応する位置に配置されていて、
前記第二対向電極は、前記第一の領域及び前記第二の領域に対応する位置に配置されていることを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか1項に記載の、静電誘導型機械電気変換素子において、
前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうちの前記一方と対向するように配置されていて、前記第一対向電極を支持するように設けられた、第一対向基板と、
前記エレクトレットにおける一対の前記主面のうちの前記他方と対向するように配置されていて、前記第二対向電極を支持するように設けられた、第二対向基板と、
をさらに備えたことを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記第一対向基板と、前記第二対向基板とが、前記主面方向に沿って相対移動可能に設けられたことを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項7】
請求項5に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記第一対向基板と、前記第二対向基板とが、前記主面方向に沿って相対移動不能に設けられたことを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のうちのいずれか1項に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記主面方向に沿って、前記分極方向が周期的に反転するように、複数の前記第一の領域及び複数の前記第二の領域が設けられていることを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。
【請求項9】
請求項8に記載の、静電誘導型機械電気変換素子であって、
前記分極方向の反転構造が、3〜600μm周期のストライプ状であることを特徴とする、
静電誘導型機械電気変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−115921(P2013−115921A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259824(P2011−259824)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)