説明

静電霧化装置

【課題】アーク放電が生じることを抑制しつつ、多量の帯電微粒子水を発生させることができる静電霧化装置を提供する。
【解決手段】放電電極1を備える。放電電極1に液体10を供給する液供給手段を備える。放電電極1に供給された液体10に電圧を印加して静電霧化を生じさせる電圧印加手段4を備える。電圧印加手段4が高周波で且つ中心値が負である電圧を液体10に印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電微粒子水を発生させる静電霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、静電霧化装置が開示されている。この静電霧化装置は、霧化電極と、霧化電極に対向する対向電極と、霧化電極の先端に液体を搬送する搬送供給体を備え、霧化電極の先端と対向電極の間に電圧を印加することで、霧化電極の先端に搬送された液体を静電霧化して帯電微粒子水を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−272092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示す静電霧化装置において、多量の帯電微粒子水を発生させるには、液体に大きなエネルギーを与えるために霧化電極の先端と対向電極の間に印加される電圧を大きくすることが考えられるが、この場合、アーク放電が生じる恐れがある。このようにアーク放電に移行すると、エネルギーが無駄に消費されて結果として帯電微粒子水を多量に発生させることができず、また、放電の制御が不能になったり、音鳴りが生じたりすることも懸念される。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、アーク放電が生じることを抑制しつつ、多量の帯電微粒子水を発生させることができる静電霧化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の静電霧化装置は、放電電極と、この放電電極に液体を供給する液供給手段と、前記放電電極に供給された液体に電圧を印加して静電霧化を生じさせる電圧印加手段を備えた静電霧化装置であって、前記電圧印加手段が高周波で且つ中心値が負である電圧を前記液体に印加するものであることを特徴とする。
【0007】
また、前記電圧印加手段によって前記液体に印加される電圧が交流であることが好ましい。
【0008】
また、前記放電電極に対向する対向電極を備えることが好ましい。
【0009】
また、前記電圧印加手段によって前記液体に印加される電圧の周波数が50kHz〜250kHzであることが好ましい。
【0010】
また、前記電圧印加手段が圧電素子を用いたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、アーク放電が生じることを抑制しつつ、多量の帯電微粒子水を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の静電霧化装置を示す説明図である。
【図2】電圧印加手段によって印加される電圧を高周波で且つ正方向の最大値が0Vとなるものとしたときの電圧波形を示すグラフである。
【図3】電圧印加手段によって印加される電圧を高周波の交流電圧としたときの電圧波形を示すグラフである。
【図4】電圧印加手段によって印加される電圧を高周波で且つ正方向の最大値を負としたときの電圧波形を示すグラフである。
【図5】電圧印加手段によって印加される電圧が負で且つ放電開始電圧が印加電圧の振幅の間にあるときの電圧波形を示すグラフである。
【図6】電圧印加手段によって印加される電圧が負で且つ印加電圧が放電開始電圧よりも大きいときの電圧波形を示すグラフである。
【図7】同上のペルチェユニットを示す断面図である。
【図8】比較例の印加電圧の電圧波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示す本実施形態の静電霧化装置は、放電電極1と、放電電極1に対向する対向電極2を備えている。また、静電霧化装置は、放電電極1に液体10を供給するペルチェユニット7で構成された液供給手段と、放電電極1に供給された液体に電圧を印加して静電霧化を生じさせる電圧印加手段4を備えている。
【0015】
放電電極1は棒状に形成されてその先端部が霧化部となる。対向電極2は円環状に形成され、放電電極1の先端に対向する位置に設けられ、接地されている。
【0016】
液供給手段を構成するペルチェユニット7には、冷却部を構成する絶縁板5と、放熱部を構成する放熱フィン6が設けられている。
【0017】
ペルチェユニット7は、図7に示すように、一対のペルチェ回路板8と、両ペルチェ回路板8で挟持されたBiTe系の熱電素子9とで構成されている。各ペルチェ回路板8は、熱伝導性の高いアルミナや窒化アルミニウムからなる絶縁板の片面側に回路を形成したものであり、両ペルチェ回路板8は互いの回路が向き合うように対向している。熱電素子9は両ペルチェ回路板8の間において多数並べて設けられており、隣接する熱電素子9同士は両側のペルチェ回路板8が有する回路で電気的に接続されている。
【0018】
一方のペルチェ回路板8の外側には絶縁板5が接続され、他方のペルチェ回路板8の外側には放熱フィン6が接続されている。図1に示すように絶縁板5のペルチェユニット7と反対側の面には放電電極1が立設され、この放電電極1は絶縁板5を介して前記一方のペルチェ回路板8に熱的に接続されている。
【0019】
ペルチェユニット7の熱電素子9に図示しないペルチェ入力リード線を介して通電がなされると、絶縁板5が設けられた一方のペルチェ回路板8側から放熱フィン6が設けられた他方のペルチェ回路板8側に向けて熱が移動し、これによって絶縁板5が冷却される。そして、このように絶縁板5が冷却されることで放電電極1が冷却され、これにより空気中の水蒸気が放電電極1の先端部に結露して放電電極1に水(結露水)が付着する。
【0020】
電圧印加手段4は例えば圧電素子を用いた発振回路等で構成されている。電圧印加手段4は放電電極1に接続されている。電圧印加手段4によって放電電極1に印加される電圧は、周波数が50kHz〜250kHzの範囲内で設定された高周波の電圧であり、図2に示すように中心値が負となる。なお、図2の例では正方向の最大値が0Vに設定されているが、前記印加電圧は図3のように正方向の最大値が正に設定された交流電圧であってもよく、また、図4のように正方向の最大値が負に設定されるものであってもよい。また、前記印加電圧は高周波であればよく、その波形は正弦波に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態の静電霧化装置を用いて静電霧化を生じさせるには、ペルチェユニット7を駆動して前述のように放電電極1の先端部に結露水を供給しつつ、電圧印加手段4によって放電電極1に前記高周波の電圧を印加する。すると、放電電極1と対向電極2との間に印加された高周波の電圧により、放電電極1の先端部に保持された水と対向電極2との間にクーロン力が働き、水の液面が局所的に錐状に盛り上がり(テーラーコーン)が形成される。このテーラーコーンの先端には電荷が集中してこの部分における電界強度が大きくなって、当該部分に生じるクーロン力が大きくなり、更にテーラーコーンを成長させる。そして、このようにテーラーコーンが成長してテーラーコーンの先端に電荷が集中すると、テーラーコーンの先端部分の水が大きなエネルギー(高密度となった電荷の反発力)を受け、表面張力を超えて分裂・飛散を繰り返す。これにより負に帯電したナノメータサイズの帯電微粒子水が発生する。
【0022】
このように生成された帯電微粒子水はナノメータサイズのミストであって非常に小さいため、長時間浮遊し、また、拡散性も高い。また、この帯電微粒子水にはヒドロキシラジカルやスーパーオキサイド等の活性種を有しているため、臭いの成分やアレルゲン物質、ウイルスや菌を効果的に分解、不活性化あるいは抑制あるいは除菌することができる。
【0023】
ここで、本実施形態では、前記静電霧化を生じさせるにあたって、電圧印加手段4が放電電極1に対して前記高周波で且つ中心値が負である電圧を印加するため、アーク放電が生じることを抑制できる。
【0024】
すなわち、放電電極1に印加される電圧が図2や図3に示されるように、高周波で且つ正方向の最大値が正(すなわち交流電圧)又は0Vであると、印加電圧は一時的に放電開始電圧を下回るためアーク放電が継続して生じることが防止される。また、このようにアーク放電が生じ難いため、エネルギーを帯電微粒子水の生成に用いることができ、多量の帯電微粒子水を発生させることが可能になる。なお、電圧印加手段4により放電電極1に印加される高周波の電圧が図8のように中心値が0Vの交流電圧であると、前述のテーラーコーンが形成され難くなる。このため、多量の帯電微粒子水を発生させるには、前記高周波の印加電圧の中心値が負であることが好ましい。
【0025】
また、特に前記印加電圧が図3に示すうように正負が繰り返し入れ換わる交流電圧であると、電圧印加時に生じる電場の静電気力によって放電電極1近傍の空気イオンが補足されるので、多量の活性種を含む帯電微粒子水を生成することができる。
【0026】
また、放電電極1に印加される電圧が図4に示すように常に負となる場合も放電がアーク放電に移行することを抑制できる。このうち、例えば図5のように、放電開始電圧が印加電圧の振幅の間にある場合、上記図2や図3に示す例と同様、印加電圧は一時的に放電開始電圧を下回るためアーク放電が継続して生じることが防止される。
【0027】
また、図5のように印加電圧が放電開始電圧よりも大きくても、以下の理由によりアーク放電が継続して生じにくくなる。すなわち、印加電圧が直流電圧であると、電極間距離の最も小さなところが最も小さいのでその1点のみで放電する。しかし、印加電圧が高周波の電圧であると、電極間の抵抗値だけでなくコンデンサー容量等も考慮されて、電極間距離の多少の違いではインピーダンス(抵抗)に違いが現れず多数の点で放電が生じる。このため、印加電圧が高周波の電圧であると、アーク放電には移行し難くなる。
【0028】
また、本実施形態では、電圧印加手段3によって印加される電圧の周波数が50kHz〜250kHzであるので、電圧印加手段3のコストとサイズを抑えたまま、大量の酸性成分を生成することができる。また、本実施形態では、電圧印加手段4を圧電素子を用いたものとすることで、電圧印加手段4のコストとサイズを抑制できる。
【0029】
なお、本実施形態の対向電極2は放電電極1との間の電界強度を高めて帯電微粒子水を多量に発生させるために設けたものであり、省略可能である。
【0030】
また、本実施形態では、電圧印加手段4から放電電極1に高周波の電圧を印加したが、上記実施形態と同様の高周波の電圧が放電電極1に供給された液体10にかかるように対向電極2に電圧を印加しても構わない。すなわち、電圧印加手段4は放電電極1に供給された液体10に前記高周波の電圧を印加するものであればよい。
【0031】
また、前記実施形態において電圧印加手段3によって放電電極1又は対向電極2に印加される電圧の周波数は50kHz〜250kHzの範囲外の高周波であってもよい。また、液供給手段はペルチェユニット7に限定されるものではなく、タンク等で構成される水溜部から放電電極1に毛細管等を利用して水を供給する等の公知の技術を用いてもよい。また、液供給手段によって放電電極1に供給される液体10は水に限定されない。
【符号の説明】
【0032】
1 放電電極
2 対向電極
4 電圧印加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極と、この放電電極に液体を供給する液供給手段と、前記放電電極に供給された液体に電圧を印加して静電霧化を生じさせる電圧印加手段を備えた静電霧化装置であって、前記電圧印加手段が高周波で且つ中心値が負である電圧を前記液体に印加するものであることを特徴とする静電霧化装置。
【請求項2】
前記電圧印加手段によって前記液体に印加される電圧が交流であることを特徴とする請求項1に記載の静電霧化装置。
【請求項3】
前記放電電極に対向する対向電極を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電霧化装置。
【請求項4】
前記電圧印加手段によって前記液体に印加される電圧の周波数が50kHz〜250kHzであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の静電霧化装置。
【請求項5】
前記電圧印加手段が圧電素子を用いたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の静電霧化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−75265(P2013−75265A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217340(P2011−217340)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】