説明

非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】本発明の目的は、角膜上皮細胞の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの接着を抑制できる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することである。
【解決手段】トラニラスト及び/又はその塩には、角膜上皮細胞の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの接着を抑制する作用があるので、これを配合して非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制することができる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また、本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制する方法に関する。更に本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる方法、並びに非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法に関する。更に本発明は、トラニラスト及び/又はその塩により増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一般に、ソフトコンタクトレンズに適用される眼科組成物については、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、適用されるソフトコンタクトレンズの性質に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0005】
また、ソフトコンタクトレンズは一般にハードコンタクトレンズに比べて大きく、その装用中には、角膜表面はほぼ全面的に覆われ、角膜周辺の結膜の一部までをも被覆する状態となる。そしてソフトコンタクトレンズ装用中には、ソフトコンタクトレンズと眼表面の間から涙液の流入及び流出(即ち、ポンプ作用による涙液交換)は殆ど行われず、ソフトコンタクトレンズ下の涙液交換はソフトコンタクトレンズを介した涙液の透過に依存していることが分かっている(非特許文献1−2参照)。このようにソフトコンタクトレンズ下の涙液交換の殆どはソフトコンタクトレンズを介した涙液の透過により行われるため、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に対して適用される点眼剤の場合、その点眼剤の薬効を十分に発揮させるためには、薬理成分のソフトコンタクトレンズへの透過性を高めておくことが求められる。
【0006】
更に、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの表面には、通常のハイドロゲルコンタクトレンズの表面には見られない顕著な凹凸が存在することが近年報告されている(非特許文献3)。このような顕著な凹凸は、滑らかな表面を有するものに比べて生体由来物質や汚れ等を付着させ易いだけでなく、摩擦の増大を生じさせることも予想され、とりわけ過敏な眼組織では、装用中に異物感や乾燥感などの不快感を引き起こすことも十分に考えられる。
【0007】
一方、トラニラスト及び/又はその塩は、抗アレルギー効果の付与を目的として、これまでにも内服剤や点眼剤等に使用されている。しかしながらこれまで、トラニラスト及び/又はその塩が非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに及ぼす影響については全く知られていない。ましてや、従来技術からは、トラニラスト及び/又はその塩と他の成分を組み合わせて非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに適用した場合の影響については、全く推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本コンタクトレンズ学会誌、第39巻、111〜115、1997
【非特許文献2】日本コンタクトレンズ学会誌、第44巻、34-37、2002
【非特許文献3】針谷明美等、第51回日本コンタクトレンズ学会総会プログラム講演抄録集、110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、各種ソフトコンタクトレンズについて種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと略記することもある)のレンズ表面は、角膜上皮細胞の接着性が著しく高いという全く新しい知見を得た。このような角膜上皮細胞の接着性が高いコンタクトレンズは、コンタクトレンズの装用中にレンズに角膜細胞が接着して角膜上でレンズが動く度に、又はレンズを外す際等に、眼組織から該細胞を剥離させて、角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを発生させる恐れがあり、ひいてはコンタクトレンズ使用者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させることにもなる。更に、SHCLは、他のソフトコンタクトレンズに比して比較的長期に亘って連続装用される場合が多いことを考慮すると、長期間の連続装用によって生じる角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着は、重大な眼疾患又は眼粘膜症状を引き起こす一因にもなりかねない。そこで、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を抑制できる非イオン性SHCL用眼科組成物の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、トラニラスト及び/又はその塩を非イオン性SHCLに対して適用することにより、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を著しく抑制できることを見出した。また、本発明者等は検討を更に進めた結果、トラニラスト及び/又はその塩は非イオン性SHCLに対する透過性が非常に低いこと、そしてその透過性は、トラニラスト及び/又はその塩に対して界面活性剤を組み合わせて用いることにより著しく改善できることを見出した。更に、本発明者等は、トラニラスト及び/又はその塩と共に、界面活性剤及び/又はテルペノイドとを組み合わせて用いることにより、トラニラスト及び/又はその塩の接触により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大を効果的に抑制できることをも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供する。
項1-1. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の配合割合が0.005〜5w/v%である、項1-1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3. 更に、界面活性剤を含有する、項1-1又は1-2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4. 界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-3に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5. 界面活性剤の配合割合が0.001〜1w/v%である、項1-3又は1-4に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6. 更に、テルペノイドを含有する、項1-1〜1-5のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7. テルペノイドとしてメントールを含む、項1-6に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8. テルペノイドの配合割合が0.0001〜0.2w/v%である、項1-6又は1-7に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9. 更に、溶解補助剤を含有する、項1-1〜1-8のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10. 溶解補助剤として、ポリビニルピロリドン及びモノエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-9に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11. 更に、緩衝剤を含有する、項1-1〜1-10のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12. 緩衝剤としてホウ酸緩衝剤を含む、項1-11に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-13. 点眼剤である、項1-1〜1-12のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0012】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。
項2. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物と、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法。
【0013】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項3. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法。
【0014】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性向上方法を提供する。
項4. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、界面活性剤とを併用することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させる方法。
【0015】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性向上作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項5. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、界面活性剤を配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させる作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0016】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させるための剤を提供する。
項6. 界面活性剤を含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへのトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤。
【0017】
また、本発明は、下記に掲げるトラニラスト及び/又はその塩により増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法を提供する。
項7. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、界面活性剤及びテルペノイドからなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦低減作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項8. トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、界面活性剤及びテルペノイドからなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げるトラニラスト及び/又はその塩を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤を提供する。
項9.界面活性剤及びテルペノイドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる物質のスクリーニング方法を提供する。
項10. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のトラニラスト類の透過性を向上させる透過性向上物質のスクリーニング方法であって、
(a)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のトラニラスト類を含むコントロール溶液、並びにトラニラスト類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの片側面のみに所定時間接触させ、該非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したトラニラスト類の量を測定することにより、各試験溶液のトラニラスト類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたトラニラスト類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程
を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLに対して角膜上皮細胞が接着するのを効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの使用による角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを改善することできる。また、SCL装用時には角膜は障害が起きても自覚し難いことが知られているため、非イオン性SHCLの長期間の連続装用を繰り返すと、重症になるまで放置してしまうことがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、このような悪影響についても改善でき、高い安全性をもって非イオン性SHCLを長期間連続装用することが可能になる。
【0022】
また、SCLは非常にレンズサイズが大きく、その装用中には角膜はおろか結膜の一部も覆われる状態となるため、SCL装用者の眼に対して適用される眼科組成物(点眼剤)がその薬効を十分に発揮させるためには、その薬理成分のSCLへの透過性を高めておくことが望まれる。これに対して、本発明者等の検討によって、非イオン性SHCLでは、他のSCLと比較してトラニラスト及び/又はその塩のレンズ透過量が著しく少ないことが明らかにされている。そのため、非イオン性SHCL装用中の眼に対して、トラニラスト及び/又はその塩を含有する点眼剤を適用しても、所期の効果が得られない惧れがある。これに対して、本発明によれば、トラニラスト及び/又はその塩と共に界面活性剤を併用することによって、非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を顕著に向上させることができるので、非イオン性SHCL装用中に点眼しても、非イオン性SHCL下の角結膜へのトラニラスト及び/又はその塩の到達量を増加させることができ、角結膜において抗アレルギー作用を有効に発揮させることができる非イオン性SHCL用眼科組成物の提供が可能になる。
【0023】
更に、本発明者等は、各種ソフトコンタクトレンズの表面の摩擦について評価を行ったところ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、通常のハイドロゲルコンタクトレンズに比べて著しく摩擦が大きいことを確認した。更に、非イオン性SHCLに対してトラニラスト及び/又はその塩を適用すると、摩擦が更に増大してしまうことも見出した。こうした摩擦の増大は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の疲れ等を引き起こす原因となり得る。さらに、摩擦の大きなコンタクトレンズは、眼瞼の裏側の粘膜とコンタクトレンズ表面とが擦れあう際に、又は眼球表面上でコンタクトレンズが動くたびに、角結膜に上皮障害を引き起こす惧れもある。これに対して、本発明によれば、トラニラスト及び/又はその塩と共に、界面活性剤及び/又はテルペノイドを併用することによって、トラニラスト及び/又はその塩を含んでいながら、該トラニラスト及び/又はその塩により引き起こされる非イオン性SHCL表面の摩擦増大が顕著に抑制された非イオン性SHCL用眼科組成物を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズの角膜上皮細胞接着性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、試験液(実施例1及び比較例1)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【図3】参考試験例2において、トラニラストの各種ソフトコンタクトレンズへの透過性を評価した結果を示す図である。
【図4】参考試験例4において、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦(剛体振り子物性試験により測定される対数減衰率)を評価した結果を示す図である。
【図5】試験例3において、試験液(実施例4−5、参考例2、及び比較例2−4)が非イオン性SHCLの摩擦に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.非イオン性SHCL用眼科組成物
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。このようにトラニラスト及び/又はその塩を使用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することが可能になる。
【0026】
トラニラストは、N−(3,4−ジメトキシシンナモイル)アントラニル酸とも称される公知化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0027】
トラニラストの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらのトラニラストの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、これらのトラニラスト及びその塩の中から、一種のものを選択して単独で使用してもよく、二種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着をより一層有効に抑制するという観点から、好ましくはトラニラストが用いられる。トラニラストは、界面活性剤による非イオン性SHCL透過性向上効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適であり、また界面活性剤及び/又はテルペノイドによる非イオン性SHCLの摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適である。
【0029】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、トラニラスト及び/又はその塩の配合割合については、当該トラニラスト及び/又はその塩の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、トラニラスト及び/又はその塩が総量で0.005〜5w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%、更に好ましくは0.02〜0.6w/v%が例示される。
【0030】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に界面活性剤を含有することが好ましい。このように界面活性剤を含むことによって、非イオン性SHCLに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性を高めることができ、更にはトラニラスト及び/又はその塩によって引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦の増大を低減させることも可能になる。
【0031】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に使用される界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0032】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
これらの界面活性剤の中でも、トラニラスト及び/又はその塩の非イオン性SHCL透過性をより一層高めるという観点から、好ましくは、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤;更に好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類及びPOE硬化ヒマシ油類;特に好ましくはポリソルベート80及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が例示される。ここで例示する界面活性剤は、トラニラスト及び/又はその塩により引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦増大を抑制する効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適である。
【0034】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、界面活性剤の配合割合については、当該界面活性剤の種類、該眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、界面活性剤が総量で0.001〜1w/v%、好ましくは0.005〜1w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
【0035】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、トラニラスト及び/又はその塩に対する界面活性剤の比率については、特に制限されるものではないが、トラニラスト及び/又はその塩の非イオン性SHCL透過性をより一層高めるという観点から、トラニラスト及び/又はその塩の総量100重量部当たり、界面活性剤が総量で0.5〜10000重量部、好ましくは0.8〜4000重量部、更に好ましくは1.6〜2000重量部となる範囲が例示される。このような比率は、トラニラスト及び/又はその塩により引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦増大を抑制する効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適である。
【0036】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、テルペノイドを含有することが好ましい。このように、テルペノイドを含有すること、とりわけテルペノイドと界面活性剤とを組み合わせて含有することによって、トラニラスト及び/又はその塩によって引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦の増大を効果的に抑制させることが可能になる。
【0037】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に使用されるテルペノイドについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されない。かかるテルペノイドとして、具体的には、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイドとして、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0038】
これらのテルペノイドの内、トラニラスト及び/又はその塩により引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦増大を抑制する効果を一層高めるという観点から、好ましくはメントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ローズ油等が例示される。更に好ましくは、メントール、特に好ましくはl-メントールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。
【0039】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物にテルペノイドを配合する場合、テルペノイドの配合割合については、特に制限されないが、トラニラスト及び/又はその塩により引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦増大を抑制する効果を一層高めるという観点から、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、テルペノイドが総量で0.0001〜0.2w/v%、好ましくは0.0005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.07w/v%が挙げられる。とりわけ、テルペノイドとしてメントールを用いる場合には、特に制限はされないが、一般に、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、メントールが総量で0.0001〜0.1w/v%、好ましくは0.0005〜0.07w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%が例示される。なお、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記配合割合を満たすように設定される。
【0040】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、トラニラスト及び/又はその塩に対するテルペノイドの比率については、特に制限されるものではないが、トラニラスト及び/又はその塩により引き起こされる非イオン性SHCLの摩擦増大を抑制する効果をより一層高めるという観点から、トラニラスト及び/又はその塩の総量100重量部当たり、テルペノイドが総量で0.01〜1000重量部、好ましくは0.08〜400重量部、更に好ましくは0.1〜280重量部となる範囲が例示される。とりわけ、テルペノイドとしてメントールを用いる場合には、特に制限はされないが、一般に、トラニラスト及び/又はその塩の総量100重量部当たり、メントールが総量で0.01〜1000重量部、好ましくは0.08〜280重量部、更に好ましくは0.1〜200重量部となる範囲が例示される。なお、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記比率を満たすように設定される。
【0041】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、溶解補助剤を更に含有することが好ましい。
【0042】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に使用される溶解補助剤は、トラニラスト及び/又はその塩が水溶液中に溶解するのを補助する作用を有する成分であればよく、例えば、ポリビニルピロリドン、トロメタモール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロピレングリコール、カフェイン等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0043】
これらの溶解補助剤の中でも、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着をより一層有効に抑制するという観点から、好ましくはポリビニルピロリドン及びモノエタノールアミン、より好ましくはポリビニルピロリドンが用いられる。ポリビニルピロリドンは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、分子量は特に限定されないが、一般的には、フィケンチャー法によるK値が15〜100、好ましくは20〜99、より好ましくは22〜98程度のものを使用することができる。ポリビニルピロリドンは、界面活性剤による非イオン性SHCL透過性向上効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適であり、また界面活性剤及び/又はテルペノイドによる摩擦低減効果をより一層有効に奏させるという観点からも好適である。
【0044】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記成分以外に、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層高めるという観点、界面活性剤による非イオン性SHCL透過性向上効果をより一層高めるという観点、或いは界面活性剤及び/又はテルペノイドによる摩擦低減効果を一層高めるという観点から、ホウ酸緩衝剤、特にホウ酸とホウ砂の組合せが好ましい。
【0045】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2.5w/v%となる割合が例示される。
【0046】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有してもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、本発明の各効果をより一層有効に奏させるという観点から、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられ、更に好ましくは、塩化ナトリウム、及び塩化カリウムが挙げられる。
【0047】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0048】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.5〜9.0、更に好ましくは6.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0049】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0050】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0051】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0052】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、各配合成分を所望量添加することにより調製される。
【0053】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、非イオン性SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0054】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであって非イオン性SHCLに接触するように使用されるものであれば、その形態や用途については制限されない。例えば、非イオン性SHCL用点眼剤(非イオン性SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、非イオン性SHCL用洗眼剤(非イオン性SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、非イオン性SHCL装着液、非イオン性SHCLケア用液剤(非イオン性SHCL消毒液、非イオン性SHCL保存液、非イオン性SHCL洗浄液、及び非イオン性SHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。これらの中でも、非イオン性SHCL用点眼剤又は非イオン性SHCL装着液、特に非イオン性SHCL用点眼剤は、眼球表面に非イオン性SHCLが接触している際に又は接触する直前(例えば、接触させることとなる装着行為前の10分以内)に使用されるものであり、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制作用が強く望まれる製剤形態である。また点眼剤の場合、トラニラスト及び/又はその塩を接触させることにより生じる非イオン性SHCL表面の摩擦増大とそれに伴う装用感の悪化は、患者のコンプライアンス(投薬遵守)を大きく害することとなりかねない。従って、点眼剤の場合は、適正な投薬指示を遵守させるために、そのような装用感悪化を生じさせる要因を可能な限り排除することが求められる製剤形態といえる。以上のような観点に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の好適な一例として、非イオン性SHCL用点眼剤及び非イオン性SHCL装着液が挙げられ、特に好適な例として非イオン性SHCL用点眼剤を挙げることができる。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物がトラニラストと共に界面活性剤を含む場合には、非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性が顕著に高められており、非イオン性SHCL用点眼剤として特に好適である。
【0055】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全ての非イオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、コンタクトレンズ素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。また、角膜上皮細胞の接着に関しては、含水率が35%以下の非イオン性SHCLは特に角膜上皮細胞に対する接着性が強い傾向がある。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、このように角膜上皮細胞に対する接着性が強い非イオン性SHCLに対しても、角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に奏することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の好適な適用対象の一例として、含水率が35%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
【0056】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0057】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率はISO18369-4:2006の記載に従って、重量測定方法により測定され得る。
【0058】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、トラニラスト及び/又はその塩に基づいて抗アレルギー作用をも発揮できるので、アレルギー症状の緩和剤としても有用である。とりわけ、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物が、トラニラスト及び/又はその塩と共に界面活性剤を含有する場合には、トラニラスト及び/又はその塩のレンズ透過量が増大され角結膜への到達量が増加するため、非イオン性SHCLを装用したままでも十分な薬効を得ることが可能となる。
【0059】
また、従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のハードコンタクトレンズの装着によって、角膜へのレンズの固着等に起因して角膜上皮障害(3時−9時ステイニング)が惹起され易いことが知られている。また、SCLの装用でも、目が乾く症状等を有する者(例えば、ドライアイ患者)ではレンズにより角膜が損傷され易く、角膜ステイニングが生じ易い傾向があることが知られている。一方、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞と著しく接着する特性があり、更にはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの固有の性質として通常の非シリコーンSCLよりも一般に固いため、角膜上皮に物理的損傷を与え易い傾向がある。このような非イオン性SHCLの特性を鑑みれば、非イオン性SHCLの装用によっても上述のような角膜上皮障害を生じさせ易いことが明らかである。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの装用によって引き起こされる角膜上皮障害を予防することができる。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLの装用により生じる角膜上皮障害の予防剤として用いられることができ、とりわけ、目が乾く症状を有する者用(例えば、ドライアイ患者用)として好適に用いられる。
【0060】
また、角膜上皮細胞はアレルゲン等に対するバリアー機能も有しているので、上述のような非イオン性SHCL装用により引き起こされる角膜上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー症状等を発症させ易くする畏れがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着を抑制することによって、角膜上皮細胞を正常な状態に保持し、角膜上皮細胞のバリアー機能を維持させることが可能である。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー症状を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー症状の予防剤)として好適に用いられる。
【0061】
2.非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法、及び非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用の付与方法
前述するように、トラニラスト及び/又はその塩を使用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
【0062】
従って、本発明は、更に別の観点から、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物と、非イオン性SHCLとを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制する方法を提供する。更には、非イオン性SHCL用眼科組成物に、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、非イオン性SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制作用を付与する方法を提供する。
【0063】
これらの方法において、トラニラスト及び/又はその塩の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0064】
3.非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性の向上方法、並びに非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる作用の付与方法
前述するように、非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を界面活性剤によって向上させることができる。
【0065】
従って、本発明は、更に別の観点から、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、界面活性剤とを併用することを特徴とする、非イオン性SHCLへのトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させる方法を提供する。また、本発明は、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物に、界面活性剤を配合することを特徴とする、非イオン性SHCLへのトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させる作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0066】
当該方法において、トラニラスト及び/又はその塩の種類や配合割合、界面活性剤の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0067】
4.非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させるための剤
前述するように、非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を界面活性剤によって向上させることができる。
【0068】
従って、本発明は、更に別の観点から、界面活性剤を有効成分として含有する、非イオン性SHCLへのトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の透過性を向上させるための剤を提供する。
【0069】
該剤において、界面活性剤の種類、適用対象となる非イオン性SHCL、非イオン性SHCLへの透過性の対象となるトラニラスト及び/又はその塩の種類、これらの配合割合等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0070】
5.非イオン性SHCLの摩擦低減方法;及び非イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、トラニラスト及び/又はその塩と、界面活性剤及び/又はテルペノイドを併用することによって、トラニラスト及び/又はその塩によって増大される非イオン性SHCL表面の摩擦を低減することができる。従って、本発明は、更に別の観点から、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、界面活性剤及びテルペノイドからなる群より選択される少なくとも1種とを併用することを特徴とする、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減させる方法を提供する。
【0071】
また本発明は、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する非イオン性SHCL用眼科組成物に、界面活性剤及びテルペノイドからなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0072】
なお、上記摩擦低減方法及び上記付与方法において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類、トラニラスト及び/又はその塩の種類、界面活性剤の種類、テルペノイドの種類、これらの配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物に配合される他の成分の種類と配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物と非イオン性SHCLとを接触させる手法等についても、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0073】
6.非イオン性SHCLの摩擦を低減させるための剤
前述するように、トラニラスト及び/又はその塩を接触させることにより引き起こされる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦増大を、界面活性剤及び/又はテルペノイドによって抑制させることができる。
【0074】
従って、本発明は、更に別の観点から、界面活性剤及びテルペノイドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を接触させることにより増大される非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させるための剤を提供する。
【0075】
該剤において、界面活性剤やテルペノイドの種類、適用対象となる非イオン性SHCL、非イオン性SHCLの摩擦増大を引き起こすトラニラスト及び/又はその塩の種類、これらの配合割合等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0076】
7.非イオン性SHCLに対するトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させる物質のスクリーニング方法
また、前述するように、本発明者等によって、トラニラスト及び/又はその塩は非イオン性SHCLへの透過性が著しく低いという新たな知見が得られている。そこで、更に、本発明は、非イオン性SHCLに対するトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のトラニラスト類の透過性を向上させる透過性向上物質をスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、本スクリーニング方法は、下記(a)〜(c)工程を包含する方法である。
(a)トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のトラニラスト類を含むコントロール溶液、並びにトラニラスト類と被験物質とを含む被験溶液を、試験溶液として各々調製する工程、
(b)上記試験溶液を各々、非イオン性SHCLの片側面のみに所定時間接触させ、該非イオン性SHCLの上記試験溶液を接触させていない他方の片側面から滲出したトラニラスト類の量を測定することにより、各試験溶液のトラニラスト類の透過量を求める工程、並びに
(c)上記工程(b)において測定されたトラニラスト類の透過量が、コントロール溶液よりも多い被験溶液を選び、該被験溶液に含まれる被験物質を上記透過性向上物質として選択する工程。
【0077】
本スクリーニング方法において、被験物質とは、スクリーニングに供される上記透過性向上物質の候補物質である。また、候補物質は、非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できるように、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであることが望ましい。
【0078】
上記(a)工程において、被験溶液は、水や緩衝液等の水性担体にトラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のトラニラスト類を例えば0.05〜1.0w/v%となるように添加し、更に被験物質を適当量添加することにより調製される。ここで、被験物質は段階的に希釈しておき、複数の濃度の被験物質を含む被験溶液を調製しておくことが望ましい。また、トラニラスト類を含有するコントロール溶液は、被験物質を添加しないこと以外は、被験溶液と同組成とすることが望ましい。斯くして調製した被験溶液及びコントロール溶液を試験溶液として用いて、次の(b)工程に供する。
【0079】
上記(b)工程は、溶液を収容可能な2つの区画(セル)を有し且つこれらの2つの区画は非イオン性SHCLを介して隔てられている装置等を用いて実施することができる。このような装置としては、例えばビードレックス社製の膜透過実験装置が使用できる。具体的には、上記装置の一方の区画に上記試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)を充填し、更に他方の区画には何も充填しないか、或いは好ましくはトラニラスト類を含まない溶液(以下、ブランク溶液と表記する)等を充填して、所定時間(例えば4〜48時間程度)経過後に、非イオン性SHCLを介して上記他方の区画(ブランク溶液を充填した場合には、該ブランク溶液)側に移行したトラニラスト類の量を定量する。斯くして定量されるトラニラスト類の量が、上記(b)工程で求められるトラニラスト類の透過量である。なお、上記ブランク溶液は、充填される試験溶液(コントロール溶液又は被験溶液)と浸透圧が同等であることが望ましい。
【0080】
また、上記透過性向上物質の選択に関する工程(c)において、非イオン性SHCLへのトラニラスト類の透過性を向上させる作用が強い透過性向上物質を選択するには、(b)工程において求められたトラニラスト類の透過量がコントロール溶液よりも多い被験溶液を選べばよい。
【0081】
本スクリーニング方法により得られる透過性向上物質は、非イオン性SHCLへのトラニラスト及び/又はその塩の透過性を向上させることを目的として、トラニラスト及び/又はその塩を含む非イオン性SHCL用眼科組成物に配合することができる。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0083】
参考試験例1:各種ソフトコンタクトレンズの角膜上皮細胞の接着性評価
表1に示す5種類のソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズ表面の角膜上皮細胞接着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0084】
【表1】

【0085】
具体的に以下の方法により評価した。増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を900μLずつ入れた24ウェルマイクロプレートに、各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ凸面が上になるように一枚ずつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/mL)を100μLずつ播種し、37℃、5%CO条件下で48時間培養後、ソフトコンタクトレンズに接着した生存細胞数を計測した。なお、コントロールとして、いずれのレンズも浸漬させず、マイクロプレートの底面で細胞を培養し、ウェル中の生細胞数を計測した(コントロール群)。なお、生存細胞数の測定にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所製)を用いた。コントロール群のウェル中に含まれる生存細胞の総数に対して、各ソフトコンタクトレンズ表面に接着している生存細胞数の割合(コントロール群に対する生存細胞数の割合;%)をそれぞれ算出した。
【0086】
得られた結果を図1に示す。図1から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズA及びBは、イオン性のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズCや非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズD又はEと比較して、顕著な角膜上皮細胞接着性があることが確認された。また、細胞のソフトコンタクトレンズへの接着状況を顕微鏡で観察したところ、レンズC、D及びEには細胞接着が殆ど確認できなかったものの、レンズA及びBの表面には一面に角膜上皮細胞が接着していることが確認された。以上の結果より、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞の接着性が他の種類のレンズと比較して顕著に高いことが確認され、非イオン性SHCLの装用は角膜表面に損傷等の悪影響を与え得ることが明らかとなった。
【0087】
試験例1:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験:
表2に示す試験液(実施例1及び比較例1)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を評価した。
【0088】
【表2】

【0089】
表1に示すレンズB(非イオン性SHCL)を、表2に示す各試験液3mLに一枚ずつ浸漬し、34℃条件下で24時間振とうした。各試験液から取り出したレンズBを生理食塩水で十分に洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が900μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚ずつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/mL)を100μLずつ播種し、37℃、5%CO条件下で48時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所製)を用い、450nmの波長の吸光度を測定した。各試験液について測定したA450値をブランク群のA450値で補正し、比較例1の接着細胞数を100%とした場合の実施例1の接着細胞数の割合を、細胞接着率(%)として算出した。
【0090】
得られた結果を図2に示す。図2から明らかなように、トラニラストを用いることにより、非イオン性SHCLへの角膜細胞の接着を著しく抑制することができることが明らかとなった。
【0091】
参考試験例2:トラニラストのソフトコンタクトレンズ透過性の比較評価:
表3に示す3種類のソフトコンタクトレンズを用いて、トラニラストのレンズ透過性について評価を行った。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズも全て市販品である。
【0092】
【表3】

【0093】
トラニラストのSCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表3に示す各ソフトコンタクトレンズを膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5mL、他方のセルIIには0.5w/v%トラニラスト含有溶液(1.30w/v%ホウ酸、0.75w/v%ホウ砂、3.00w/v%ポリビニルピロリドン;pH7.5)を5mL充填した。試験開始から24時間後に、生理食塩水側の液を1mL採取し、常法に従いHPLC法にてトラニラストの濃度を測定し、セルIに移行したトラニラストの量を算出した。
【0094】
結果を図3に示す。図3から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズ3では、ハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズ1や2と比較して、著しくトラニラストのレンズ透過性が悪いことが判明した。
【0095】
試験例2:トラニラストのレンズ透過試験1:
表4に示す試験液(参考例1及び実施例2−3)を用いて、トラニラストのSHCL透過性について評価した。
【0096】
【表4】

【0097】
トラニラストの非イオン性SHCL透過性評価の測定は、膜透過実験装置(ビードレックス社製)を用いて以下の方法に従い実施した。表3に示すレンズ3(非イオン性SHCL)を膜透過実験装置にセットし、一方のセルIには生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を5mL、他方のセルIIには表4に示す各試験液(参考例1及び実施例2−3)を5mL正確に充填した。次いで、24時間後に生理食塩水側の液を1mL採取し、常法に従いHPLC法によりトラニラストの濃度を定量した。定量した結果から、トラニラストのレンズ透過量(μg)を求めた。参考例1のトラニラストのレンズ透過量を100%とした場合の実施例2及び3のトラニラストのレンズ透過量の割合を、トラニラスト透過率(%)として算出した。
【0098】
結果を表5に示す。表5から明らかなように、実施例2及び3の試験液ではトラニラストのレンズ透過率が参考例1の試験液と比較して著しく増加することが判明した。即ち、トラニラストと界面活性剤(ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を併用することによって、非イオン性SHCLへのトラニラストの透過性が著しく向上し、非イオン性SHCL装用中に点眼しても本来のトラニラスト配合量から想定される程度により近い薬効が得られる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供可能になることが明らかとなった。
【0099】
【表5】

【0100】
参考試験例3:トラニラストのレンズ透過試験2:
表3に示すレンズ1及び2(ハイドロゲルコンタクトレンズ)、並びにイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(素材分類:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ、USAN:BalafilconA、性質:イオン性、含水率:36.0%、BC:8.6、DIA:14.0mm;レンズ4とする)を用いて、上記試験例2と同様の実験を行い、トラニラストのレンズ透過性について評価を行った。試験液としては、上記表4に示す試験液(参考例1及び実施例2)を用いて実験を行った。参考例1のトラニラストのレンズ透過量を100%とした場合の実施例2のトラニラストのレンズ透過量の割合を、トラニラスト透過率(%)として算出した。
【0101】
この結果を表6に示す。表6より明らかなように、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの場合には、トラニラストと共に界面活性剤を併用すると(実施例2)、トラニラスト単独(参考例1)よりも、トラニラストの透過性向上効果が全く認められないか、反って透過性が悪化する場合もあることが明らかとなった。また、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの場合には、トラニラストと共に界面活性剤を併用しても(実施例2)、トラニラスト単独(参考例1)と比べて透過性向上効果は殆ど認められないことが確認された。
【0102】
以上の結果より、トラニラストと界面活性剤との併用により認められるトラニラストのレンズ透過性の著しい向上効果は、対象レンズを非イオン性SHCLとした場合に特異的に認められる効果であることが明らかとなった。
【0103】
【表6】

【0104】
参考試験例4:非イオン性SHCL表面の摩擦の評価
非イオン性SHCL表面の物性を測定するために、粘着性、粘弾性、乾燥性等の様々な表面物性変化を摩擦の増減の面から評価することが知られている剛体振り子物性試験器RPT−3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、各非イオン性SHCL表面の摩擦力の評価を行った。試験に使用した非イオン性SHCLは、表7に示す2種の非イオン性SHCLである。
【0105】
【表7】

【0106】
これらの非イオン性SHCLを生理食塩水中に一晩浸漬させたものを試験サンプルとして用いた。測定条件は、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で測定を実施し、測定開始から5分後の対数減衰率を以って、各非イオン性SHCL表面の摩擦の評価を行った。
【0107】
この結果を図4に示す。ここで測定される対数減衰率はレンズ表面の摩擦の大小を示し、対数減衰率が高いほど摩擦が大きいことを示す。図4に示されるように、非イオン性SHCLは対数減衰率が高く、摩擦が非常に大きいことが認められた。
【0108】
試験例3:非イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価
非イオン性SHCLとして表7に示すレンズIを用い、レンズ表面の摩擦低減効果について評価を行った。
【0109】
先ず、表8に示される各試験液(実施例4−5、参考例2、及び比較例2−4)を調製した。非イオン性SHCL表面を生理食塩水で十分にすすいだ後、20mLの各試験液中に非イオン性SHCLを2枚ずつ浸漬させ、一晩室温で静置した。翌日、非イオン性SHCL表面の水分を軽くふき取り、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で、対数減衰率を10秒毎に計3分間測定した。
【0110】
【表8】

【0111】
この結果を図5に示す。図5に示されるように、トラニラストを配合した場合(参考例2)には、非イオン性SHCL表面の摩擦が更に大きくなってしまうことが明らかとなった。また、ポリソルベート80のみを用いた場合(比較例3)でも非イオン性SHCL表面の摩擦は増大し、またポリソルベート80とl-メントールを組み合わせて配合した場合(比較例4)に更に摩擦が増大してしまうことも明らかとなった。一方、全く予想外のことに、トラニラストとポリソルベート80を組み合わせて配合した場合(実施例4)には、トラニラストにより悪化する非イオン性SHCL表面の摩擦は抑制され、更にトラニラストとポリソルベート80とl-メントールを組み合わせて配合した場合(実施例5)では、トラニラストを含んでいながらコントロール(比較例2)と殆ど同じレベルにまで顕著に摩擦が抑制されることが明らかとなった。
【0112】
製剤例
表9に記載の処方で、非イオン性SHCL用点眼剤(実施例6−12)、非イオン性SHCL装着液(実施例13)、非イオン性SHCL装着液兼点眼液(実施例14)、及び非イオン性SHCL用洗眼剤(実施例15)が調製される。
【0113】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニラスト及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
更に、界面活性剤を含有する、請求項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
更に、テルペノイドを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項5】
テルペノイドとしてメントールを含む、請求項4に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項6】
点眼剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116690(P2011−116690A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274908(P2009−274908)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】