説明

非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法

【課題】透明で水不溶性部分が少ない非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】シート状パルプをシート状のまま又はチップ状とした後に乾燥する工程と、乾燥したパルプをアルカリ金属水酸化物溶液と接触させてアルカリセルロースを得る接触工程と、上記アルカリセルロースを脱液する脱液工程と、脱液されアルカリセルロースとエーテル化剤と反応させる工程とを少なくとも含む非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未溶解繊維分が少なくエーテル化剤利用率の高い非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非イオン性水溶性セルロースエーテルは、水に溶解すると増粘状態となることから、透明なシャンプー及びリンス、整髪料、目薬、コンタクトレンズ洗浄剤等の増粘剤に用いられる。例えば、非イオン性水溶性セルロースエーテルであるメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等は、分子内に親水基や疎水基が存在することで界面活性を示し、塩化ビニルや塩化ビニリデンの懸濁重合における懸濁安定剤として用いられ、家庭用の透明ラップ剤の原料としても用いられる。これらの用途では、製品が透明であることが望まれることから、水溶液中において、分子レベルで溶解して透明な状態なものでないと、製品に欠陥部分が生じて透明性が劣ったり、機能が劣ったりすることがあった。非イオン性水溶性セルロースエーテルの水溶液粘度は高粘性のものが望まれるが、高粘性の非イオン性水溶性セルロースエーテルは低粘性のセルロースエーテルに比して未溶解繊維分が多くなり、透明なものを得るのは困難と考えられていた。
【0003】
これらの問題点解決のため特許文献1では、原料パルプに濃度15〜75質量%のアルカリ水溶液を温度5〜80℃で吸着させ、10秒以内に圧搾して過剰のアルカリ水溶液を除去する工程を2回繰り返す方法によってアルカリセルロースを得、それとエーテル化剤を反応させる方法が提示されている。
特許文献2では、ジクロロメタン抽出分が0.07質量%以下のパルプに水酸化ナトリウムを含浸させた後、圧搾してアルカリセルロースを得た後エーテル化する方法が提示されている。
【0004】
特許文献3では、シート密度0.4〜1.0g/mlのシート状パルプを粉砕して平均粒径1000μm以下の粉末状とし、これにアルカリを加えてアルカリセルロースとし、更に塩化メチル、酸化プロピレン等を加えて反応させ非イオン性水溶性セルロースエーテルを得ている。
非特許文献1には、シート密度0.47〜1.17g/mlのシート状パルプをアルカリ溶液が入ったバスに0.5〜4.5秒間浸漬させアルカリセルロースを得る方法が記載されている。
特許文献4では、パルプを水酸化ナトリウム水溶液に2時間浸漬した後圧搾している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53-12954号公報
【特許文献2】特開平10-259201号公報
【特許文献3】特開2001−354701号公報
【特許文献4】米国特許第2102205号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.W.Anderson及び R.W.Swinehart,Tappi,Vol.39,No.8,548〜553, August 1956
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者は、特許文献1の方法では、アルカリ水溶液の吸着・除去を2回繰り返すため、2回目の吸着・除去の際にパルプがふやけて切れやすくなるためトラブルを起こしやすく、また非イオン性水溶性セルロースエーテルの品質は満足のいくものではなく、特許文献2及び特許文献3の方法では、粉末状パルプを使用するためアルカリの分布が不均一になりやすく、未溶解繊維分は満足するものが得られないことを見出した。また、非特許文献1の方法では、短時間の浸漬時間によりアルカリの分布が不均一になり、満足のいく非イオン性水溶性セルロースエーテルは得られないことを見出した。さらに、特許文献4の方法により得られるアルカリセルロースはその水酸化ナトリウム/セルロース質量比が3.0と極めて高く、副反応率が高まるためセルロースエーテルの製造には不向きであることを見出した。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、透明で水不溶性部分が少ない非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シート状パルプをシート状のまま又はチップ状とした後に乾燥する工程と、乾燥したパルプをアルカリ金属水酸化物溶液と接触させてアルカリセルロースを得る接触工程と、上記アルカリセルロースを脱液する脱液工程と、脱液されアルカリセルロースとエーテル化剤と反応させる工程とを少なくとも含む非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明で未溶解繊維分が少ない非イオン性水溶性セルロースエーテルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明で用いるシート状パルプは、木材パルプ、コットンリンターパルプである。未溶
解繊維分の少ない非イオン性水溶性セルロースエーテルを得るためには木材由来パルプが特に好ましい。木材の樹種は、マツ、トウヒ、ツガ等の針葉樹及びユーカリ、カエデ等の広葉樹を用いることができる。
【0011】
本発明で用いるチップ状パルプは、シート状パルプを裁断することにより得られるチップ状の形態を持つパルプである。チップ状パルプの製造方法は限定されないが、スリッターカッターの他、既存の裁断装置を利用することができる。使用する裁断装置は、連続的に処理できるものが投資コスト上有利である。
チップの形状は、通常一辺が好ましくは2〜100mm、より好ましくは3〜50mmである。2mmより小さいとセルロース繊維がダメージを受け繊維内部にアルカリ金属水酸化物溶液が浸入しづらくなり均質なアルカリセルロースを得られなくなる場合がある。逆に100mmより大きいと、取り扱い特に浸漬装置への投入、装置内部の送り、分離機への投入が困難になる場合がある。
【0012】
アルカリ金属水酸化物溶液との接触に供するシート状パルプ又はチップ状パルプを乾燥させる工程は、バッチ式、連続式のいずれの方法を用いることができる。具体的な乾燥方法としては、熱風による方法、金属壁を通じて加熱する方法、赤外線電球を熱源として乾燥させる方法、3〜50MHzの高周波又はマイクロ波を用いて乾燥させる方法、乾燥した気体中に放置する方法、乾燥した気体を通気する方法を用いることができる。
【0013】
熱風や金属壁を通じて加熱する方法の場合、熱風や金属壁温度は、好ましくは300℃未満、より好ましくは200℃未満である。300℃を超えるとパルプが熱により分解し、品質の劣化を引き起こす場合がある。熱風を用いる場合は送風オーブン内で乾燥する方法や、配管内の気流輸送時に加熱気流を用いることにより乾燥する方法を用いることができる。金属壁を通じて加熱する方法では、具体例としてジャケット構造を有する回転乾燥機やスクリューコンベア型乾燥機、パドル式乾燥機が挙げられる。
【0014】
乾燥した気体中に放置する方法においては、パルプの平衡吸湿量が5質量%未満となる相対湿度に調湿された保管庫、チャンバー、サイロ等に放置する。放置する気温が常温の場合、相対湿度は好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満である。乾燥した気体として窒素、空気などを用いることができる。
乾燥した気体を通気する方法においては同様にパルプの平衡吸湿量が5質量%未満となる相対湿度の気体を用いる。通気する気体の気温が常温の場合、相対湿度は好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満である。乾燥した気体として窒素、空気等を用いることができる。
【0015】
このパルプを乾燥させる工程によって、パルプの含水率は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下に低減される。
ここで、含水率とは、JIS P8203:1998 パルプ−絶乾率の試験方法により求められた絶乾率より、下記の式によって計算される値である。
含水率(%)=100 − 絶乾率(%)
上式中、絶乾率(dry matter content)は、試料を105±2℃で乾燥し、恒量に達したときの質量と乾燥前の質量の比率であり、%で表示する。
パルプの含水率は、通常6.5〜12質量%であるが、パルプの含水率を5質量%以下にすることにより、セルロースエーテルの未溶解繊維分の数が減少する。その理由は推測ではあるが、後のパルプとアルカリ水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロースを得る工程において、パルプの含水率が高いとパルプの内部に浸入したアルカリ水酸化物溶液がパルプに含まれる水分により希釈されるため、その希釈熱によりセルロース分子が変質すると考えられる。従って、パルプの含水率を低下させることにより、希釈熱を減少させ、変質の度合いを低下させることが可能であると考えられる。一方、パルプの含水率が高いと、アルカリセルロースの中に高濃度のアルカリ水酸化物溶液でアルカリ化された部分及び低濃度のアルカリ水酸化物溶液でアルカリ化された部分が混在し、結果的にエーテル化が不均一となるため、置換度が高い部分と低い部分が混在し、主に置換度が低い部分が未溶解繊維分になると考えられる。
【0016】
次に、パルプとアルカリ水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロースを得る接触工程において使用されるアルカリ金属水酸化物溶液は、パルプをアルカリセルロースにすることができれば特に限定されないが、経済的理由から好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液から選ばれる。その濃度は、好ましくは23〜60質量%、より好ましくは35〜55質量%である。アルカリ金属水酸化物溶液は水溶液が好ましいが、エタノール等のアルコール溶液や水溶性アルコールと水との混合溶液であってもよい。
接触させるための容器は、バス型、ベルト型、ロータリーフィーダー型、スクリューコンベア型、バケットコンベア型、パイプ型などを用いることができる。
【0017】
接触させる温度は、好ましくは5〜70℃、更に好ましくは15〜60℃である。5℃未満では、アルカリ金属水酸化物溶液が高粘性となるためパルプが吸収する速度が遅くなる場合があり、生産性が好ましくない場合がある。70℃を超えると、アルカリ金属水酸化物溶液の粘性が低いためパルプが吸収する速度が速くなり、アルカリセルロースの組成のバラツキが大きくなる場合があり、品質上好ましくない場合がある。
【0018】
パルプと過剰のアルカリ金属水酸化物とを接触させる時間は、好ましくは10秒を超えて600秒であり、より好ましくは15〜120秒である。10秒以下だとアルカリセルロースの組成のバラツキが大きくなり、品質上好ましくない場合がある。600秒を超えるとパルプのアルカリ金属水酸化物吸収量が過大となり、所望の組成のアルカリセルロースを得られなくなる場合がある。
【0019】
接触させる金属水酸化物水溶液の量は、最終的にエーテル化反応に供するアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物溶液とセルロースとの質量比より多いアルカリ金属水酸化物水溶液量であることが好ましく、アルカリ金属水酸化物溶液とパルプ中の固体成分との質量比(アルカリ金属水酸化物溶液/パルプ中の固体成分)が、好ましくは3〜5,000、より好ましくは10〜200、更に好ましくは20〜60とする値を有するものである。これより少ないとアルカリ金属酸化物とパルプの均一な接触が困難になる場合がある。上限は特に定めないが、アルカリ金属水酸化物溶液の量が多すぎると設備が過大になるため、経済性を考慮して、通常5000程度が好ましい。
なお、アルカリ金属水酸化物ではなくアルカリ金属水酸化物溶液の質量を用いるのは、物理的にパルプがムラなくアルカリ金属水酸化物溶液に接触している(漬かっている)ことが重要であり、アルカリ金属水酸化物溶液が少なすぎて接触していない(濡れていない)パルプが存在するような状況を避けるためである。
【0020】
次に、アルカリセルロースを脱液する脱液工程においては、ローラーその他の装置で加圧圧搾する方法や、遠心分離や他の機械的方法により圧搾する方法を用いることができる。好ましくは遠心分離による方法である。
本発明によれば、脱液工程で得られたアルカリセルロースに中和滴定法を用いて得られたアルカリ金属水酸化物成分の質量と上記パルプ中の固体成分の質量の比(アルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分)が、好ましくは0.3〜1.5、より好ましくは0.65〜1.30、更に好ましくは0.90〜1.30の範囲となるように、接触工程に用いるアルカリ金属水酸化物溶液の量が選択される。
出発原料のパルプは、通常、セルロースと水からなるため、パルプ中の固体成分はセルロースである。上記質量比が0.3〜1.5の場合、得られる非イオン性水溶性セルロースエーテルの透明性が高くなる。
なお、パルプ中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。
【0021】
脱液工程で得られたアルカリセルロースに関して、アルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分は、例えばアルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムの場合、以下に示す中和滴定法を用いて求めることができる。
脱液工程で得られたアルカリセルロースのケーキ全量の質量を測定する。脱液工程で得られたアルカリセルロースのケーキ4.00gを採取し、中和滴定によりケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を求める(0.5mol/L HSO、指示薬:フェノールフタレイン)。同様の方法で空試験を行う。
アルカリ金属水酸化物質量%
=規定度係数×(HSO滴下量(ml)−空試験でのHSO滴下量(ml))
なお、上式は、水酸化ナトリウムの分子量を40としている。
上記アルカリ金属水酸化物質量%で算出できれば、脱液工程で得られたアルカリセルロースのケーキ全量中の「アルカリ金属水酸化物成分」を算出できる。
「パルプ中の固体成分」は、例えば、パルプ約2gを採取し105℃で4時間乾燥させた後の質量が、採取した質量に占める割合(質量%)を求めて算出することができる。
【0022】
脱液工程で得られたアルカリセルロースにおけるアルカリ金属水酸化物成分/パルプ中の固体成分の質量比は、以下に示すように、脱液工程で得られたアルカリセルロースにおけるアルカリ金属水酸化物成分/狭義のアルカリセルロース成分の質量比に近似する。
得られたケーキ中のアルカリ金属水酸化物質量%を用いて、次式に従いアルカリ金属水酸化物成分/狭義のアルカリセルロース成分を求めることができる。
(アルカリ金属水酸化物の質量)/(狭義のアルカリセルロース成分の質量)
=(アルカリ金属水酸化物質量%)÷[{100−(アルカリ金属水酸化物質量%)
/(B/100)}×(S/100)]
ここで、Bは用いたアルカリ金属水酸化物溶液の濃度(質量%)であり、Sはパルプ中の固体成分の濃度(質量%)である。式中、100−(アルカリ金属水酸化物質量%)/(B/100)は、ケーキ中のアルカリ金属水酸化物溶液以外の質量%であるが、これにはパルプ中の固体成分の質量%と同じ割合で狭義のアルカリセルロースが存在するとしてS/100をかけてアルカリセルロースの質量%としたものである。
狭義のアルカリセルロースは、脱液工程で得られたアルカリ金属水酸化物を含むアルカリセルロースよりも狭い概念であり、脱液工程で得られたアルカリ金属水酸化物を含むアルカリセルロースからアルカリ金属水酸化物溶液を除いたアルカリセルロース自体を意味する。
【0023】
得られたアルカリセルロースとエーテル化剤を反応させる工程においては、アルカリセルロースを適当な大きさに、例えばチップ状に裁断してエーテル化反応装置に供給することができる。エーテル化反応装置としては、アルカリセルロースを機械的な力によりチップの形態がなくなるまで解砕しながらエーテル化反応するものが好ましい。このため内部に撹拌機構を持つものが好ましく、例としてスキ型ショベル羽根式混合機が挙げられる。また、アルカリセルロースをエーテル化反応機に投入するよりも前に、別の内部に撹拌機構を持つ装置やカッターミル等の解砕装置で予め解砕しておくことも可能である。
【0024】
エーテル化剤としては、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等が挙げられる。
パルプとアルカリ金属水酸化物とが接触した後、均一化及びマーセル化反応が進行し熟成が進行するが、短時間では熟成が不十分となりこれをエーテル化して得られるセルロースエーテルの未溶解繊維分が増加する。このためエーテル化剤と反応させるアルカリセルロースのうち、パルプと過剰のアルカリ金属水酸化物との接触がなされてからの経過時間が60分以下のものの割合が、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。60分以下のものの割合がこれより多いアルカリセルロースは、熟成が不十分なものの比率が高くなり非イオン性水溶性セルロースエーテルの未溶解繊維分が増加する場合がある。
【0025】
本発明の非イオン性水溶性セルロースエーテルとしては、水溶性のメチルセルロース(MC)等のアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)等のヒドロキシアルキルアルキルセルロースが挙げられる。
アルキルセルロースとしては、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2のメチルセルロース、エトキシ基(DS)が2.0〜2.6のエチルセルロース等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.05〜3.0のヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.05〜3.3のヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの例としては、メトキシ基 (DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルメチルセルロース、メトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシプロピルメチルセルロース、エトキシ基(DS)が1.0〜2.2、ヒドロキシエトキシ基(MS)が0.1〜0.6のヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられる。
なお、通常、アルキル置換にはDSを用い、ヒドロキシアルキル置換にはMSを用い、それぞれグルコース単位に結合したエーテル化剤の平均モル数であり、日本薬局方の測定方法を用いて測定された結果から算出できる。
【0026】
本発明によれば、エーテル化剤の利用率を向上させることができる。その結果、目的の置換度を得るために必要とされる高価なエーテル化剤の使用量を削減でき、生産コストを削減できる。また、ハロゲン化アルキルから生じるアルコール、エーテルの他、アルキレンオキサイドから生じるアルキレングリコールといった反応副生成物の生成量を削減でき、これらの処理コスト(焼却、微生物処理)を削減あるいは環境への負荷を低減できる。ここで、エーテル化剤の利用率の計算方法は、以下の通りである。
塩化メチル等のハロゲン化アルキルがセルロースと反応する際に等モルの水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が消費される。アルカリ金属水酸化物の反応率をほぼ100%としたいため、通常アルカリ金属水酸化物に対して過剰のハロゲン化アルキルを反応機に仕込む。ハロゲン化アルキルの利用率はアルカリ金属水酸化物量を基準に計算される。
ハロゲン化アルキルの利用率(%)
={DS/(セルロースに対するアルカリ金属水酸化物の仕込みモル比)}×100
また、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドがセルロースと反応する際のアルキレンオキサイドの利用率も同様に水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物量を基準に計算される。
アルキレンオキサイドの利用率(%)
={MS/(セルロースに対するアルカリ金属水酸化物の仕込みモル比)}×100
【0027】
本発明の非イオン性水溶性セルロースエーテルは、溶解性を高めるため必要に応じてJIS Z8801に定められている標準篩いの100号(目開き150μm)により関西金網社製429型ロータップ篩い振とう機により非イオン性水溶性セルロースエーテル粉100gを振とう数200回/分、打数156回/分、振とう幅50mmの条件で30分間、振とうした後に、篩い上の残留物が25質量%以下となるものを使用することが好ましい。
得られた非イオン性水溶性セルロースエーテルの2質量%水溶液の20℃における粘度は、好ましくは2〜30000mPa・s、更に好ましくは300〜30000mPa・sである。
【0028】
置換度が不足したり、均一な置換反応が行われないで製造された非イオン性水溶性セルロースエーテルは、水に溶解しようとした時に16〜200μm程度の大きさの未溶解な繊維状物が多数残存してしまうことになる。このため、得られた非イオン性水溶性セルロースエーテルの0.1質量%水溶液2ml中に存在する16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は、好ましくは100個以下、より好ましくは60個以下である。
未溶解繊維数の測定方法は、0.1質量%水溶液となるようにコールターカウンター用電解質水溶液ISOTON II(コールター社製)に25℃の恒温槽内で溶解し、この溶液2ml中に存在する16μm以上200μm以下の未溶解繊維数を径400μmのアパーチャーチューブを用いてコールター社製のコールターカウンターTA II型又はマルチサイザー機により測定することができる。なお、非イオン性水溶性セルロースエーテルの濃度が希薄で測定できない場合は、適宜高濃度溶液で測定し、0.1質量%換算数値として測定できる。
また、本発明の非イオン性水溶性セルロースエーテルの30℃における2質量%水溶液の透光度は、光電比色計PC−50型、セル長20mm、可視光線を用いて測定した場合、96%以上、特に97%以上が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施
例に限定されるものではない。
[実施例1]
含水率が8.0質量%で20cm×30cmの大きさのシート状パルプを80℃送風オーブンで30分乾燥し、含水率を5.0質量%とした。直ちにこのシート状パルプを40℃の49質量%NaOH水溶液に30秒間浸漬した後にプレスすることにより、余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。浸漬工程の49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分質量比は100だった。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.23だった。
得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9.4kg、プロピレンオキサイド2.90kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシ基(DS)が1.90、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.24だった。また、16μm以上200μm以下の未溶解繊維数は40個だった。結果を表1に示す。
【0030】
[実施例2]
含水率が8.0質量%で10mm×10mmの大きさのチップ状パルプに25℃の乾燥した窒素ガスを20分間通気し、含水率を4.0質量%とした。直ちにこのチップ状パルプを40℃の49質量%NaOH水溶液に28秒間浸漬した後に遠心分離することにより余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。浸漬工程の49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分質量比は30だった。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.21だった。得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9.2kg、プロピレンオキサイド2.86kgを加えて反応させ、実施例1と同様に洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
結果を表1に示す。
【0031】
[実施例3]
含水率が8.0質量%で10mm×10mmの大きさのチップ状パルプに25℃の乾燥した窒素ガスを30分間通気し、含水率を2.0質量%とした。直ちにこのチップ状パルプを40℃の49質量%NaOH水溶液に27秒間浸漬した後に遠心分離することにより余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。浸漬工程の49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分質量比は30だった。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.205だった。得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9.17kg、プロピレンオキサイド2.81kgを加えて反応させ、実施例1と同様に洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例4]
含水率が8.0質量%で10mm×10mmの大きさのチップ状パルプに100℃の空気と60秒間接触させ、含水率を0.5質量%とした。直ちにこのチップ状パルプを40℃の49質量%NaOH水溶液に25秒間浸漬した後に遠心分離することにより余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。浸漬工程の49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分質量比は30だった。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.20だった。得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9.1kg、プロピレンオキサイド2.76kgを加えて反応させ、実施例1と同様に洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
結果を表1に示す。
【0033】
[実施例5]
シート状パルプを20℃の49質量%NaOH水溶液に10秒間浸漬した後にプレスする以外は、実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は0.670だった。
得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル5.10kg、プロピレンオキサイド1.22kgを加えて反応させ、洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度はメトキシ基(DS)が1.
50、ヒドロキシプロポキシ基(MS)が0.20だった。
【0034】
[比較例1]
含水率が8.0質量%で20cm×30cmの大きさのシート状パルプを乾燥させず、40℃の49質量%NaOH水溶液に32秒間浸漬した後にプレスする以外は、実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は1.24だった。
得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル9.5kg、プロピレンオキサイド3.03kgを加えて反応させ、実施例1と同様に洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。評価結果を表1に示す。
【0035】
[比較例2]
含水率が8.0質量%で20cm×30cmの大きさのシート状パルプを乾燥させず、20℃の49質量%NaOH水溶液に10秒間浸漬した後にプレスする以外は、実施例1と同様の方法でアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースのNaOH成分/パルプ中の固体成分質量比は0.673だった。
得られたアルカリセルロースをセルロース分として5.5kgを内部撹拌型耐圧反応器に仕込み、真空引き後、塩化メチル5.14kg、プロピレンオキサイド1.23kgを加えて反応させ、実施例1と同様に洗浄、乾燥、粉砕を経てヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。評価結果を表1に示す。
【0036】
表1に示されるとおり、パルプを乾燥させて使用した場合は、パルプを乾燥させずに使用した場合に比べ、一定のメトキシ基置換度、ヒドロキシプロポキシ基置換度を得るために使用されたエーテル化剤(塩化メチル、プロピレンオキサイド)の量が減少し、低コストで製造することができた。各々のエーテル化剤の利用率が上昇したためである。また透光度が上昇し、未溶解繊維数が減少した。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状パルプをシート状のまま又はチップ状とした後に乾燥する工程と、
乾燥したパルプをアルカリ金属水酸化物溶液と接触させてアルカリセルロースを得る接触工程と、
上記アルカリセルロースを脱液する脱液工程と、
脱液されたアルカリセルロースとエーテル化剤と反応させる工程と
を少なくとも含む非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項2】
上記乾燥が、上記シート状パルプ又はチップ状パルプの含水率を5質量%以下とする請求項1に記載の非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法。
【請求項3】
上記非イオン性水溶性セルロースエーテルが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、又はヒドロキシアルキルアルキルセルロースである請求項1又は請求項2に記載の非イオン性水溶性セルロースエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2013−57002(P2013−57002A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196091(P2011−196091)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】