非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法
【課題】本発明は、不純物の少ない非イヌリン型フルクタン抽出物を効率よく安定して製造する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明に係る非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法は、非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体を粉砕し、pH調整剤を添加した抽出用の水に前記植物体を添加してpHが8〜10の抽出液を調製し、前記抽出液を加熱処理して殺菌した後強制冷却し、冷却した前記抽出液を活性炭処理した後濾過して非イヌリン型フルクタン抽出物を作製する。
【解決手段】本発明に係る非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法は、非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体を粉砕し、pH調整剤を添加した抽出用の水に前記植物体を添加してpHが8〜10の抽出液を調製し、前記抽出液を加熱処理して殺菌した後強制冷却し、冷却した前記抽出液を活性炭処理した後濾過して非イヌリン型フルクタン抽出物を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イヌリン型フルクタンを含有するネギ属の可食性植物体を原料としてフルクタンを抽出して製造する非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルクタンは、ネギ属に属する植物、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部、キク科オグルマ属の植物(Inula)のキクイモ等をはじめ、ダリア、ゴボウ、アザミ、タンポポ、ヤムイモ、アーティチョーク(朝鮮あざみ)、チコリー、葛芋、リュウゼツラン(竜舌蘭)、アスパラガス、サヤマメ、リーキ、ヤーコン、小麦といった可食性植物体に含まれる水溶性の食物繊維で、貯蔵多糖として植物体内に蓄積されている。こうした植物由来のフルクタンは、ヒトにとっては難消化性の糖類で食物繊維として作用し、コレステロール低下作用、血糖値上昇抑制作用、便通改善効果などを介して生活習慣病の予防効果があると考えられている。このうちチコリやダリアの根部などから抽出したフルクタンは果糖がβ2→1結合した直鎖状のフルクタンでイヌリンと呼ばれ、工業的な製造が行われている。一方、ラッキョウやニンニク、タマネギなどのネギ属の植物にもフルクタンは含まれ、とくにラッキョウに多量に含まれるフルクタンは、イヌリンとは異なり冷水可溶で、イヌリンよりも高分子で、分子量分布の幅も広く、結合様式にβ2→6結合を持つ非イヌリン型のフルクタンであることが知られている。
【0003】
こうしたフルクタンを製造する方法として、例えば、特許文献1では、フルクタンを含有する球根部に水を加えて破砕し搾汁を得た後冷蔵放置することでガム質を析出させ、可溶性タンパク質を沈殿させてフルクタンを製造する点が記載されている。また、特許文献2では、乾燥地に生育するアガベ植物から付加価値の高い、高水溶性のイヌリンを製造するために、アガベ植物のピーニャと呼ばれる球茎を細断し、常温で又は加熱して酵素類を不活化すると共に組織を軟化させた後、搾って液汁を抽出し、吸着樹脂を用いて精製したものを濃縮液として、又は乾燥させることによって粉末として製造する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3111378号公報
【特許文献2】国際公開第2007/142306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、冷水に溶けやすいフルクタンを球根部から抽出することが可能であるが、球根部に含まれる有機酸及びアンモニアによりフルクタンを安定的に抽出することが難しく、特にアンモニアの影響でpHの安定に時間がかかり量産化の点から問題があった。また、特許文献1では、水酸化カルシウムによるアルカリ処理で除蛋白し、過剰な水酸化カルシウムを炭酸ガスで中和しているが、中和時に生じる炭酸カルシウムが濾過分別を妨げ、フルクタンの分離が難しくなって量産化の面で障害となる。
【0006】
また、特許文献2では、イヌリンの抽出方法が記載されているが、こうしたイヌリンは冷水に溶けにくく、特許文献1に開示されたような冷水に溶けやすい非イヌリン型フルクタンとは抽出条件及び安定化条件が異なるものとなっている。
【0007】
そこで、本発明は、不純物の少ない非イヌリン型フルクタン抽出物を効率よく安定して製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法は、非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体を粉砕し、pH調整剤を添加した抽出用の水に前記植物体を添加してpHが8〜10の抽出液を調製し、前記抽出液を加熱処理して殺菌した後強制冷却し、冷却した前記抽出液を活性炭処理した後濾過して非イヌリン型フルクタン抽出物を作製することを特徴とする。さらに、pH調整剤として水酸化カルシウムを用い、pHが9.3〜9.7の前記抽出液を調製することを特徴とする。さらに、乾燥した前記植物体を用いて粉砕し、粉砕された前記植物体1重量部に対して5〜10重量部の抽出用の水を添加して前記抽出液を調製することを特徴とする。さらに、作製した非イヌリン型フルクタン抽出物を高濃度のエタノールで精製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような構成を有することで、pH調整を必要最小限に抑えて不純物の少ない非イヌリン型フルクタン抽出物を効率よく安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る製造方法に関する工程説明図である。
【図2】実施例1における測定結果を示す表である。
【図3】実施例1における分析結果を示す表である。
【図4】実施例2における測定結果を示す表である。
【図5】実施例2における分析結果を示す表である。
【図6】実施例2におけるフルクタン分子量分布を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるフルクタン分子量分布を示すグラフである。
【図8】実施例3における測定結果を示す表である。
【図9】実施例3における分析結果を示す表である。
【図10】実施例5における分析結果を示す表である。
【図11】実施例5におけるフルクタン分子量分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明に係る製造方法に関する工程説明図である。まず、原料は粉砕して使用する。原料には、非イヌリン型フルクタンを含有する可食性植物が用いられる。原料としては、ネギ属に属する植物、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部、キク科オグルマ属の植物(Inula)のキクイモ等をはじめ、ダリア、ゴボウ、アザミ、タンポポ、ヤムイモ、アーティチョーク(朝鮮あざみ)、チコリー、葛芋、リュウゼツラン(竜舌蘭)、アスパラガス、サヤマメ、リーキ、ヤーコン、小麦といった可食性植物が挙げられる。抽出効率の面からみると、非イヌリン型フルクタンを乾燥物中に60%以上含有するラッキョウが好ましい。
【0012】
こうした原料は、生のままで使用してもよいが、収穫後凍結処理したものや乾燥させたものでも使用できる。なお、生のままで使用する場合には、時間が経過するとともにフルクタンの含有量が低下するので、収穫後できるだけ早期に処理することが望ましい。原料は、予め粉砕処理するか、ホモジナイザー、パルパー粉砕器等の処理装置を用いて細かく粉砕することでフルクタンの抽出効率を向上させることができる。粉砕処理後の粒子のサイズは、10μm〜1000μmが好ましく、10μm〜100μmがより好ましい。
【0013】
原料には水を添加して抽出処理を行う。添加する水量は、生の原料又は凍結した原料の場合には、原料1重量部に対して1〜4重量部の水を加えることが望ましいが、水を加えることなく処理することもできる。乾燥した原料の場合には、1重量部に対して5〜10重量部の水を加えることが望ましい。水は、飲料用の水を使用すればよく、水道水でもかまわない。
【0014】
ネギ属に属する植物、例えば、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部を用いる場合には、アンモニアが含まれるが、原料を投入した溶液では球根部中に多く含まれる有機酸により酸性を呈する。そして、抽出工程中にアンモニアが揮発するとさらに溶液の酸性化が進行するようになる。フルクタンは、酸性の溶液中では分解して低分子化するため、処理中はアルカリ性の状態を維持することが望ましい。そのため、抽出用の水にpH調整剤を添加しpHを調整して予めアルカリ性の状態に調製しておく。このことにより、植物体に含まれる蛋白質は変性して、沈殿となり、加熱工程を組み合わせることで除去することができる。原料に抽出用の水を添加した初期状態での抽出液のpHは8〜10の範囲に設定しておくことが好ましい。また、最終的に得られるフルクタンを食品用として用いる場合、pHを5.5〜7.5に調整しておくことが望ましいと言われているが、初期状態の抽出液を予め上記のpHの範囲に設定してアルカリ性に調製しておくことで、以後の工程でできるだけpH調整を行なわずに最終的なpHを5.5〜7.5とすることができ、pH調整工程を最小限に抑えて製造工程を簡略化することが可能となる。
【0015】
初期状態の抽出液のpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムといったものが挙げられる。水酸化カルシウムは、抽出液の蛋白質成分や余分なミネラル成分を除去する特性を備えていることから、pH調整剤として好ましい。また、抽出液を加熱する場合抽出液内の有機酸(クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等)がカルシウムと結合するようになり、結合物質は温度が高い程溶解しにくくなって沈殿するようになるので、有機酸の除去の観点からも水酸化カルシウムは好適である。また、抽出液を食品用に用いる場合でも、水酸化カルシウムに含まれるカルシウムが液中に残留しても問題ない。
【0016】
なお、抽出液の濾過処理後に、脱塩装置、アニオン樹脂及びカチオン樹脂等により処理して上述した水酸化カルシウムと同様の除去工程を行うのであれば、水酸化カルシウム以外のpH調整剤を用いても構わない。また、水酸化カルシウムを用いる場合、抽出用の水に溶解しにくいので、予め抽出用の水に添加して撹拌した後原料に添加すれば、pHが上記の範囲に設定されたアルカリ性で安定した初期状態の抽出液を得ることができる。
【0017】
粉砕した原料に、pH調整剤を添加した抽出用の水を加えて、常温状態で1時間程度撹拌して抽出液を調製する。次に、調製した抽出液を加熱温度40℃〜100℃及び加熱時間30分〜1440分、より好ましくは加熱温度65℃〜95℃及び加熱時間30分〜300分で加熱処理する。加熱処理では、原料から十分にフルクタンの抽出を行い、抽出液の殺菌処理を行うとともに抽出液に含まれるアンモニアを揮発させることができる。また、アルカリ性の抽出液を加熱することでカルシウムが沈殿するようになり、カルシウムを除去することができる。
【0018】
加熱処理後、抽出液が60℃になるまで強制的に冷却処理を行う。60℃まで抽出液を冷却することで、メイラード反応を抑制するとともにフルクタンの分解による低分子化を抑止することができる。冷却処理した抽出液を常温状態で一晩放置した後、抽出液に活性炭を添加して撹拌し、活性炭に臭み成分や着色物質を吸着させる処理を行う。使用する活性炭の量は、乾燥重量に換算した原料1重量部に対して0.1〜1重量部が好ましく、0.3〜1.0重量部がより好ましい。処理時間は30分〜120分が望ましく、処理温度は20℃以下又は40℃以上に設定すれば微生物等の影響を抑制することができるが、臭み成分及び着色物質の吸着には、20℃以下又は40℃〜50℃が好ましい。処理温度を40℃〜50℃に設定すれば、以後の濾過処理の際に抽出液の粘度を低くして処理時間を短縮することができる。
【0019】
次に、抽出液の濾過処理を行い、抽出液中の原料の残渣等の沈殿物や処理に用いた活性炭等の物質を除去する。濾過処理には、綿布ろ過、有効壁遠心分離機、デラバル型遠心分離機、スクリューデカンタ、シャープレス型遠心分離器といった公知のものを使用することができる。また、こうした濾過処理の後、フィルタープレス、精密濾過器による精密濾過処理を行うようにしてもよい。濾過処理の際の温度は、20℃以下又は40℃以上に設定して微生物等の影響を抑制することが望ましい。なお、濾過処理は、活性炭処理と同時に行うこともできる。
【0020】
次に、濾過処理した抽出液を減圧濃縮する。減圧濃縮処理には、グローバル濃縮機、薄膜遠心濃縮機、フラッシュエバポレーター、凍結濃縮機といった公知の装置を使用することができる。減圧濃縮時には抽出液からアンモニアが揮発するようになるが、上述したように抽出液をアルカリ性に調製しておくことで、抽出液が酸性化せずにフルクタンの分解を防止することができる。原料によっては減圧濃縮の際に抽出液が酸性とならないようにpH調整が必要な場合があるが、その場合には濃縮処理前に水酸化カルシウム等のpH調整剤を再度添加すればよい。濃縮処理の際の温度は、減圧下で35℃〜65℃が望ましい。濃縮処理により得られる濃縮固形分の濃度は、Brix=10%〜70%が望ましい。乾燥粉末を製造する場合には、Brix=10%〜50%が望ましく、濃縮液として保存する場合には、Brix=50%〜70%が望ましい。なお、濃縮処理の際に処理液を80℃以上に加熱して殺菌処理することが望ましい。
【0021】
濃縮処理後、凍結乾燥又は噴霧乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥処理する。また、乾燥処理前に加熱温度80℃以上加熱時間30分で濃縮液を加熱しながら撹拌して殺菌することが望ましい。殺菌処理には、プレートヒーター、チューブラ殺菌機を使用するとよい。
【0022】
以上のように処理することで、大量の原料を抽出液のpHをアルカリ性で安定させた状態で効率よく処理することができ、品質の安定した非イヌリン型フルクタン抽出物を高い収率で量産化することが可能となる。なお、非イヌリン型フルクタン抽出物は、用途に応じて、上述の濾過処理した抽出液、上述の減圧濃縮した抽出液又は乾燥させた粉末として製造すればよい。
【0023】
また、フルクタンの品質を高めるためには、濃縮液を膜精製して低分子化したフルクタンを除去するようにすればよい。フルクタンの純度を高めるためには、抽出液に高濃度のエタノールを添加してフルクタンを沈殿させ、沈殿したフルクタンを濾過処理により回収する精製処理を繰り返すことで、低分子の不純物を除去した高純度のフルクタンを製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明が実施例によって限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕して用い、原料100gに対して6倍量、10倍量、15倍量又は20倍量の抽出用の水を添加して抽出液を作製した。抽出用の水として水道水を用い、pH調整剤として水酸化カルシウム1.375gを用いた。抽出用の水に水酸化カルシウムを添加して撹拌した後原料を投入し、常温で1時間撹拌して抽出液を調製した後、95℃で3時間加熱処理して抽出液を殺菌した。加熱処理した抽出液を60℃になるまで強制冷却した後一晩放置した。放置した抽出液に活性炭50gを投入し1時間撹拌して活性炭処理を行い、45℃に加温した後珪藻土による濾過処理を行った。処理された抽出液を減圧濃縮した後、85℃の温水浴中で1時間加熱処理した。
【0026】
抽出液の製造工程の各工程におけるpH及び溶液中の固形分濃度(Brix;%)を測定した。pHの測定にはpHメータ(株式会社堀場製作所製F−51型)を用い、固形分濃度には、抽出液の糖度をデジタル糖度計(アタゴ社製Spittzシリーズ)を用いて測定して得られたBrix値を固形分濃度とした。測定結果を図2に示す。
【0027】
図2の測定結果をみると、抽出用の水量の増加に伴い、最初の加熱処理(95℃)後及び濾過処理後のpHが高くなる傾向がみられるが、濃縮処理後の加熱処理(85℃)後ではpHに水量の増加との相関関係はみられなかった。6倍量の水量で抽出を行った場合、他の水量の場合と比較して固形分量の低下がみられるが、15倍量及び20倍量の水を使用した場合、10倍量の水量の場合と比較してわずかな固形分量の増加がみられる。また、抽出水量の増加に伴い、抽出液の褐変が進行していることが見受けられた。
【0028】
また、得られた抽出液について以下の項目について分析を行った。
<フルクタン含有量>
抽出液に含まれるフルクタンの量は、フルクタンを加水分解して得られた果糖の量より算出した。フルクタンの加水分解は、希釈した抽出液に10%クエン酸溶液を添加してpH3.0以下に調整し、100℃で150分間加熱した後、1モル/リットルの水酸化ナトリウム溶液で中和し、定容した。その後、F−キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)で加水分解物の果糖含量と、加水分解前の抽出液の果糖、スクロース含量を測定し、次式によりフルクタン含量を算出した。
フルクタン含有量(g/100ミリリットル)=0.9×{加水分解後果糖含量−加水分解前果糖含量−(加水分解前スクロース含量×180.16/342.3)}
<参考純度>
抽出液の参考純度を、フルクタン含有量と固形分濃度から、次式により算出した。
参考純度(%)=フルクタン含有量/Brix値×100
<カルシウム含有量>
抽出液に含まれるカルシウムの量は、カルシウムE−テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を使用して測定した。
<カルシウム濃度>
抽出液のカルシウム濃度を、カルシウム含有量と固形分濃度から、次式により算出した。
カルシウム濃度(%)=カルシウム含有量/Brix値×100
【0029】
分析した結果を図3に示す。図3の分析結果をみると、抽出水量が6倍量の場合にカルシウム及びフルクタンの含有量の低下がみられるが、10倍量以上では大きな差はみられなかった。参考純度に関しては、各抽出水量の間で明確な差はみられなかった。6倍量以上の抽出水量を使用することで、乾燥原料から多量のフルクタンを抽出できることがわかったが、より高い収率で抽出するためには、10倍量以上の抽出水量を使用することが望ましい。ただし、抽出水量が増加すると、濃縮時間が長くなって、加温による褐変が進行し、製造コスト負担も増加することが考えられることから、乾燥原料からフルクタン抽出物を製造する場合には、原料1重量部に対して10重量部の抽出水量で抽出処理を行うことが望ましい。
【0030】
[実施例2]
次に、原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕したものを用い、原料200gに対して10倍量の抽出用の水を添加して抽出液を調製する場合、水に予め添加するpH調整剤である水酸化カルシウムの添加量を変化させた。添加量は、原料200gに対して2.0g〜3.2gの間で変化させた。製造工程では、抽出用の水である水道水に水酸化カルシウムを加えて撹拌し十分溶解させた後原料を投入し、常温で1時間撹拌した。撹拌後95℃で1時間加熱処理して抽出液を調製した。抽出液を60℃の温度状態で16時間撹拌して冷却した後、活性炭100gを投入し1時間撹拌して活性炭処理を行い、45℃に加温した後珪藻土による濾過処理を行った。処理された抽出液を減圧濃縮した後、85℃の温水浴中で1時間加熱処理した。
【0031】
そして、各工程におけるpH及び固形分濃度(Brix;%)を実施例1と同様に測定した。測定結果を図4に示す。図4の測定結果をみると、固形分濃度では添加量の変化に対して大きな変化はみられなかった。また、2.5g以上の添加量の場合、添加量の増加に伴いpHの上昇がみられるとともに各工程でpHが安定してアルカリ性を維持しており、最終的な抽出液のpHがほぼ中性となって食品用として好適なpHに調整されている。それに対して、添加量が2.5gより少なくなると、pHは特に添加量に依存せずに不安定な状態となっており、酸性状態になるとフルクタンが分解して抽出液の品質に影響が出る可能性がある。いずれの添加量でも、85℃の加熱処理後において抽出液にカルシウムの析出が確認されたが、添加量が3.2gの場合にはカルシウムが多量に析出し、それ以外の添加量では微量であった。また、添加量が3.2gの場合にはそれ以外の添加量の場合よりも抽出液に強い渇変を呈していた。
【0032】
また、得られた抽出液を実施例1と同様に分析した。分析結果を図5に示す。また、抽出液に含まれるフルクタンの分子量分布を以下のように測定した。
<フルクタンの分子量分布>
フルクタンの分子量分布の分析は、高速液体クロマトグラフにより行った。分析条件は以下の通りである。分析用の試料は、抽出液(粉末の場合には0.2モル/リットルの硝酸ナトリウム溶液で希釈)を0.45μmのメンブレンフィルタに通して調製した。
装 置:CCP&8020シリーズ(東ソー株式会社製)
カラム:TSK guardcolumn PWXL, TSKgel G4000 PWXL, G3000 PWXL, G2500 PWXL(東ソー株式会社製)
検出器:示差屈折計RI−8020(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2モル硝酸ナトリウム溶液
流 速:1.0ミリリットル/分
アプライ量:100μリットル
カラム温度:40℃
測定した分子量分布を図6及び図7に示す。図5、図6及び図7をみると、水酸化カルシウムの添加量の増加に伴い抽出液のpHの上昇がみられた。また、各抽出液において、フルクタンの含有量及び固形分濃度に大きな差はみられず、フルクタンの明確な低分子化も生じていないと考えられる。抽出液に含まれるカルシウム量は、添加量が2.0gの場合に他の添加量より低い値となったが、添加量が2.3g以上では大きな変化はみられなかった。こうした分析結果から添加量が2.0g以上でフルクタンの分子量が低分子化せずに抽出可能と考えられるが、pHの安定性、ロットによる差、再度加熱する場合の低分子化を考慮すると、抽出液のpHを安定させてフルクタンの低分子化を抑えるためには添加量を2.5g以上とすることが好ましい。
【0033】
したがって、乾燥原料からフルクタンを抽出する場合には、原料1重量部に対して原料投入前の抽出用の水を10重量部とし、原料に抽出用の水を添加した初期状態の抽出液のpHが9.3〜9.7となるように水酸化カルシウムを添加することが望ましい。このように初期状態の抽出液をアルカリ性に調整することで、最終的に生成される抽出液のpHを6.2〜7.3の中性に調整することができ、良質で安定した品質の非イヌリン型フルクタン抽出物を作製することができる。
【0034】
[実施例3]
次に、天然物である植物性原料を用いて量産化する場合、ロット間で原料の品質が異なってくるため、ロット間での抽出液の品質の違いについて検討した。
【0035】
原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕したものを用い、原料200gに対して10倍量の抽出用の水を添加して抽出液を調製した。水には予め添加するpH調整剤である水酸化カルシウムを1.375g添加した。原料となる乾燥ラッキョウは、複数種類のラッキョウを乾燥させたものを別ロットとして、原料AからGの7種類について抽出液を製造した。なお、抽出液の製造は、実施例2と同様に行った。
【0036】
各工程におけるpH及び固形分濃度(Brix;%)を実施例1と同様に測定した。測定結果を図8に示す。原料Fで製造工程中のpHの低下がみられるものそれ以外の原料ではpHがアルカリ性で安定しており、また各原料における固形分濃度に大きな差はみられなかった。また、得られた抽出液を実施例1と同様に分析した。分析結果を図9に示す。原料FでpHの低下がみられたものの、各原料のpHは中性でバラツキが少なく、フルクタンの含有量に大きな差はみられなかった。カルシウム含有量では、原料Fがわずかに高い値を示すものの、いずれも低い値であった。
【0037】
以上の結果からみると、原料である乾燥ラッキョウの品質の違いに対してもほとんど影響を受けることなく良質で安定した品質の抽出液が得られることがわかる。なお、使用する原料については、事前に原料をpH調整していない水に投入してpHを測定しておき、測定されたpHに基づいて水酸化カリウム等のpH調整剤の添加量を調整するようにしてもよい。
【0038】
[実施例4]
次に、原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕したものを用い、原料500kgに対して10倍量の抽出用の水を添加して量産化に近い状態で非イヌリン型フルクタン抽出物を作製した。
【0039】
まず、抽出用の水には予めpH調整剤である水酸化カルシウムを6.9kg添加して撹拌し、十分溶解させた状態で用いる。水酸化カルシウムを溶解させて抽出用の水に原料を投入し、常温で1時間撹拌して抽出液を調製した。抽出液のpHは9.5であった。調製された抽出液を95℃の温度状態で1時間加熱処理した。加熱後の抽出液のpHは8.5であった。加熱後の抽出液を60℃に強制冷却して3時間撹拌した。撹拌後の抽出液のpHは8.5であった。抽出液に250kgの活性炭を添加し1時間撹拌して活性炭処理を行い、40℃〜45℃の温度状態を維持しながら珪藻土により濾過処理を行った。濾過後の抽出液のpHは8.45であった。次に、抽出液を減圧濃縮処理した。濃縮後の抽出液のpHは6.8であった。濃縮した抽出液を85℃の温度状態で1時間加熱して殺菌した。加熱処理後の抽出液のpHは6.53であった。加熱後抽出液を噴霧乾燥してフルクタンを含有する粉末を254kg得た。乾燥ラッキョウからフルクタンの収率を計算すると50.8%であった。以上の製造工程にかかった処理時間は、2.5日であった。
【0040】
製造された粉末について分析したところ、粉末の10%水溶液のpHは6.57であった。また、粉末のカルシウム含有量は0.44%で、フルクタンの含有量は製造された粉末中において81.5%であった。したがって、量産化の規模で処理した場合でも効率よく良質の非イヌリン型フルクタン抽出物を作製できることが確認できた。
【0041】
[実施例5]
原料である可食性植物体から製造されたフルクタンの抽出物には、原料に含まれるスクロース等の低分子の糖類や、製造工程での添加物から派生するカルシウム等の様々な低分子不純物が含まれる。そこで、フルクタンの純度の高い粉末を得るために、エタノール処理によりフルクタン分子を沈殿させた後、回収して再溶解させることで、高濃度のエタノールに溶解可能な低分子不純物を除去する方法を行った。フルクタンの抽出物として実施例4において作製された粉末を用い、粉末を水に投入して10%水溶液を調製した。エタノールとフルクタン水溶液の配合比は、重量比で以下の通りに設定した。
エタノール濃度70%の場合;エタノール:水溶液=7:3
エタノール濃度80%の場合;エタノール:水溶液=8:2
エタノール濃度90%の場合;エタノール:水溶液=9:1
【0042】
撹拌しているエタノール中に水溶液を徐々に添加してしばらく撹拌を行った後、4℃の温度状態で一晩静置した。得られた沈殿を珪藻土濾過により回収し、蒸留水に溶解した後、再度珪藻土濾過を行い、不溶性成分の除去を行った。得られた精製液に対して、更に2回、同様の処理を行い、精製された抽出液を凍結乾燥させて粉末化した。得られた粉末について実施例1と同様の分析を行った。分析結果を図10に示す。なお、比較のため使用した食品用粉末についても同様の分析を行った。
【0043】
分析結果をみると、いずれの濃度でもエタノールで精製することで、乾燥ラッキョウからのフルクタン抽出粉末に対して、pHの上昇、フルクタンの含有量の向上、低分子不純物である糖類の含有量の低下がみられた。フルクタンの含有量は、70%の濃度で処理した場合が最も高く、濃度の上昇に伴い低分子不純物の沈殿量も増加するためにフルクタンの含有量の低下がみられた。一方、収率については、70%濃度の場合よりも80%及び90%濃度の場合のほうが向上した。
【0044】
図11は、実施例2と同様に測定した各粉末に含まれるフルクタンの分子量分布を示すグラフである。90%濃度では大部分のフルクタンが沈殿から回収されているが、70%濃度では、分子量約6,000以下の範囲の低分子領域のフルクタンが減少している。
【0045】
以上の実験結果からフルクタン溶液にエタノールを添加して沈殿させることで、フルクタン粉末中の低分子不純物の除去が可能であり、より高純度なフルクタン粉末の調製が可能であると考えられる。また、精製時のエタノールの濃度によっては、低分子領域のフルクタンが減少するため、収率を考慮すると、80%以上の濃度のエタノールで精製処理を行うことが望ましい。一方、80%未満の濃度のエタノールで精製処理を行った場合には、純度の向上が期待されるとともに高分子領域で狭い分子量分布範囲を有するフルクタンの調製が可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明に係る非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法は、非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体、例えば、ネギ属に属するラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部に含有するフルクタンを効率よく抽出して良質の抽出物を安定して製造することができ、大量に処理することで量産化を図ることが可能となる。そのため良質のフルクタン抽出物を安価に安定して製造することができ、食品用にとどまらず、化粧品、医薬品といった幅広い用途の原料として使用することが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イヌリン型フルクタンを含有するネギ属の可食性植物体を原料としてフルクタンを抽出して製造する非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルクタンは、ネギ属に属する植物、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部、キク科オグルマ属の植物(Inula)のキクイモ等をはじめ、ダリア、ゴボウ、アザミ、タンポポ、ヤムイモ、アーティチョーク(朝鮮あざみ)、チコリー、葛芋、リュウゼツラン(竜舌蘭)、アスパラガス、サヤマメ、リーキ、ヤーコン、小麦といった可食性植物体に含まれる水溶性の食物繊維で、貯蔵多糖として植物体内に蓄積されている。こうした植物由来のフルクタンは、ヒトにとっては難消化性の糖類で食物繊維として作用し、コレステロール低下作用、血糖値上昇抑制作用、便通改善効果などを介して生活習慣病の予防効果があると考えられている。このうちチコリやダリアの根部などから抽出したフルクタンは果糖がβ2→1結合した直鎖状のフルクタンでイヌリンと呼ばれ、工業的な製造が行われている。一方、ラッキョウやニンニク、タマネギなどのネギ属の植物にもフルクタンは含まれ、とくにラッキョウに多量に含まれるフルクタンは、イヌリンとは異なり冷水可溶で、イヌリンよりも高分子で、分子量分布の幅も広く、結合様式にβ2→6結合を持つ非イヌリン型のフルクタンであることが知られている。
【0003】
こうしたフルクタンを製造する方法として、例えば、特許文献1では、フルクタンを含有する球根部に水を加えて破砕し搾汁を得た後冷蔵放置することでガム質を析出させ、可溶性タンパク質を沈殿させてフルクタンを製造する点が記載されている。また、特許文献2では、乾燥地に生育するアガベ植物から付加価値の高い、高水溶性のイヌリンを製造するために、アガベ植物のピーニャと呼ばれる球茎を細断し、常温で又は加熱して酵素類を不活化すると共に組織を軟化させた後、搾って液汁を抽出し、吸着樹脂を用いて精製したものを濃縮液として、又は乾燥させることによって粉末として製造する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3111378号公報
【特許文献2】国際公開第2007/142306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、冷水に溶けやすいフルクタンを球根部から抽出することが可能であるが、球根部に含まれる有機酸及びアンモニアによりフルクタンを安定的に抽出することが難しく、特にアンモニアの影響でpHの安定に時間がかかり量産化の点から問題があった。また、特許文献1では、水酸化カルシウムによるアルカリ処理で除蛋白し、過剰な水酸化カルシウムを炭酸ガスで中和しているが、中和時に生じる炭酸カルシウムが濾過分別を妨げ、フルクタンの分離が難しくなって量産化の面で障害となる。
【0006】
また、特許文献2では、イヌリンの抽出方法が記載されているが、こうしたイヌリンは冷水に溶けにくく、特許文献1に開示されたような冷水に溶けやすい非イヌリン型フルクタンとは抽出条件及び安定化条件が異なるものとなっている。
【0007】
そこで、本発明は、不純物の少ない非イヌリン型フルクタン抽出物を効率よく安定して製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法は、非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体を粉砕し、pH調整剤を添加した抽出用の水に前記植物体を添加してpHが8〜10の抽出液を調製し、前記抽出液を加熱処理して殺菌した後強制冷却し、冷却した前記抽出液を活性炭処理した後濾過して非イヌリン型フルクタン抽出物を作製することを特徴とする。さらに、pH調整剤として水酸化カルシウムを用い、pHが9.3〜9.7の前記抽出液を調製することを特徴とする。さらに、乾燥した前記植物体を用いて粉砕し、粉砕された前記植物体1重量部に対して5〜10重量部の抽出用の水を添加して前記抽出液を調製することを特徴とする。さらに、作製した非イヌリン型フルクタン抽出物を高濃度のエタノールで精製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような構成を有することで、pH調整を必要最小限に抑えて不純物の少ない非イヌリン型フルクタン抽出物を効率よく安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る製造方法に関する工程説明図である。
【図2】実施例1における測定結果を示す表である。
【図3】実施例1における分析結果を示す表である。
【図4】実施例2における測定結果を示す表である。
【図5】実施例2における分析結果を示す表である。
【図6】実施例2におけるフルクタン分子量分布を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるフルクタン分子量分布を示すグラフである。
【図8】実施例3における測定結果を示す表である。
【図9】実施例3における分析結果を示す表である。
【図10】実施例5における分析結果を示す表である。
【図11】実施例5におけるフルクタン分子量分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明に係る製造方法に関する工程説明図である。まず、原料は粉砕して使用する。原料には、非イヌリン型フルクタンを含有する可食性植物が用いられる。原料としては、ネギ属に属する植物、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部、キク科オグルマ属の植物(Inula)のキクイモ等をはじめ、ダリア、ゴボウ、アザミ、タンポポ、ヤムイモ、アーティチョーク(朝鮮あざみ)、チコリー、葛芋、リュウゼツラン(竜舌蘭)、アスパラガス、サヤマメ、リーキ、ヤーコン、小麦といった可食性植物が挙げられる。抽出効率の面からみると、非イヌリン型フルクタンを乾燥物中に60%以上含有するラッキョウが好ましい。
【0012】
こうした原料は、生のままで使用してもよいが、収穫後凍結処理したものや乾燥させたものでも使用できる。なお、生のままで使用する場合には、時間が経過するとともにフルクタンの含有量が低下するので、収穫後できるだけ早期に処理することが望ましい。原料は、予め粉砕処理するか、ホモジナイザー、パルパー粉砕器等の処理装置を用いて細かく粉砕することでフルクタンの抽出効率を向上させることができる。粉砕処理後の粒子のサイズは、10μm〜1000μmが好ましく、10μm〜100μmがより好ましい。
【0013】
原料には水を添加して抽出処理を行う。添加する水量は、生の原料又は凍結した原料の場合には、原料1重量部に対して1〜4重量部の水を加えることが望ましいが、水を加えることなく処理することもできる。乾燥した原料の場合には、1重量部に対して5〜10重量部の水を加えることが望ましい。水は、飲料用の水を使用すればよく、水道水でもかまわない。
【0014】
ネギ属に属する植物、例えば、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部を用いる場合には、アンモニアが含まれるが、原料を投入した溶液では球根部中に多く含まれる有機酸により酸性を呈する。そして、抽出工程中にアンモニアが揮発するとさらに溶液の酸性化が進行するようになる。フルクタンは、酸性の溶液中では分解して低分子化するため、処理中はアルカリ性の状態を維持することが望ましい。そのため、抽出用の水にpH調整剤を添加しpHを調整して予めアルカリ性の状態に調製しておく。このことにより、植物体に含まれる蛋白質は変性して、沈殿となり、加熱工程を組み合わせることで除去することができる。原料に抽出用の水を添加した初期状態での抽出液のpHは8〜10の範囲に設定しておくことが好ましい。また、最終的に得られるフルクタンを食品用として用いる場合、pHを5.5〜7.5に調整しておくことが望ましいと言われているが、初期状態の抽出液を予め上記のpHの範囲に設定してアルカリ性に調製しておくことで、以後の工程でできるだけpH調整を行なわずに最終的なpHを5.5〜7.5とすることができ、pH調整工程を最小限に抑えて製造工程を簡略化することが可能となる。
【0015】
初期状態の抽出液のpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムといったものが挙げられる。水酸化カルシウムは、抽出液の蛋白質成分や余分なミネラル成分を除去する特性を備えていることから、pH調整剤として好ましい。また、抽出液を加熱する場合抽出液内の有機酸(クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等)がカルシウムと結合するようになり、結合物質は温度が高い程溶解しにくくなって沈殿するようになるので、有機酸の除去の観点からも水酸化カルシウムは好適である。また、抽出液を食品用に用いる場合でも、水酸化カルシウムに含まれるカルシウムが液中に残留しても問題ない。
【0016】
なお、抽出液の濾過処理後に、脱塩装置、アニオン樹脂及びカチオン樹脂等により処理して上述した水酸化カルシウムと同様の除去工程を行うのであれば、水酸化カルシウム以外のpH調整剤を用いても構わない。また、水酸化カルシウムを用いる場合、抽出用の水に溶解しにくいので、予め抽出用の水に添加して撹拌した後原料に添加すれば、pHが上記の範囲に設定されたアルカリ性で安定した初期状態の抽出液を得ることができる。
【0017】
粉砕した原料に、pH調整剤を添加した抽出用の水を加えて、常温状態で1時間程度撹拌して抽出液を調製する。次に、調製した抽出液を加熱温度40℃〜100℃及び加熱時間30分〜1440分、より好ましくは加熱温度65℃〜95℃及び加熱時間30分〜300分で加熱処理する。加熱処理では、原料から十分にフルクタンの抽出を行い、抽出液の殺菌処理を行うとともに抽出液に含まれるアンモニアを揮発させることができる。また、アルカリ性の抽出液を加熱することでカルシウムが沈殿するようになり、カルシウムを除去することができる。
【0018】
加熱処理後、抽出液が60℃になるまで強制的に冷却処理を行う。60℃まで抽出液を冷却することで、メイラード反応を抑制するとともにフルクタンの分解による低分子化を抑止することができる。冷却処理した抽出液を常温状態で一晩放置した後、抽出液に活性炭を添加して撹拌し、活性炭に臭み成分や着色物質を吸着させる処理を行う。使用する活性炭の量は、乾燥重量に換算した原料1重量部に対して0.1〜1重量部が好ましく、0.3〜1.0重量部がより好ましい。処理時間は30分〜120分が望ましく、処理温度は20℃以下又は40℃以上に設定すれば微生物等の影響を抑制することができるが、臭み成分及び着色物質の吸着には、20℃以下又は40℃〜50℃が好ましい。処理温度を40℃〜50℃に設定すれば、以後の濾過処理の際に抽出液の粘度を低くして処理時間を短縮することができる。
【0019】
次に、抽出液の濾過処理を行い、抽出液中の原料の残渣等の沈殿物や処理に用いた活性炭等の物質を除去する。濾過処理には、綿布ろ過、有効壁遠心分離機、デラバル型遠心分離機、スクリューデカンタ、シャープレス型遠心分離器といった公知のものを使用することができる。また、こうした濾過処理の後、フィルタープレス、精密濾過器による精密濾過処理を行うようにしてもよい。濾過処理の際の温度は、20℃以下又は40℃以上に設定して微生物等の影響を抑制することが望ましい。なお、濾過処理は、活性炭処理と同時に行うこともできる。
【0020】
次に、濾過処理した抽出液を減圧濃縮する。減圧濃縮処理には、グローバル濃縮機、薄膜遠心濃縮機、フラッシュエバポレーター、凍結濃縮機といった公知の装置を使用することができる。減圧濃縮時には抽出液からアンモニアが揮発するようになるが、上述したように抽出液をアルカリ性に調製しておくことで、抽出液が酸性化せずにフルクタンの分解を防止することができる。原料によっては減圧濃縮の際に抽出液が酸性とならないようにpH調整が必要な場合があるが、その場合には濃縮処理前に水酸化カルシウム等のpH調整剤を再度添加すればよい。濃縮処理の際の温度は、減圧下で35℃〜65℃が望ましい。濃縮処理により得られる濃縮固形分の濃度は、Brix=10%〜70%が望ましい。乾燥粉末を製造する場合には、Brix=10%〜50%が望ましく、濃縮液として保存する場合には、Brix=50%〜70%が望ましい。なお、濃縮処理の際に処理液を80℃以上に加熱して殺菌処理することが望ましい。
【0021】
濃縮処理後、凍結乾燥又は噴霧乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥処理する。また、乾燥処理前に加熱温度80℃以上加熱時間30分で濃縮液を加熱しながら撹拌して殺菌することが望ましい。殺菌処理には、プレートヒーター、チューブラ殺菌機を使用するとよい。
【0022】
以上のように処理することで、大量の原料を抽出液のpHをアルカリ性で安定させた状態で効率よく処理することができ、品質の安定した非イヌリン型フルクタン抽出物を高い収率で量産化することが可能となる。なお、非イヌリン型フルクタン抽出物は、用途に応じて、上述の濾過処理した抽出液、上述の減圧濃縮した抽出液又は乾燥させた粉末として製造すればよい。
【0023】
また、フルクタンの品質を高めるためには、濃縮液を膜精製して低分子化したフルクタンを除去するようにすればよい。フルクタンの純度を高めるためには、抽出液に高濃度のエタノールを添加してフルクタンを沈殿させ、沈殿したフルクタンを濾過処理により回収する精製処理を繰り返すことで、低分子の不純物を除去した高純度のフルクタンを製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明が実施例によって限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕して用い、原料100gに対して6倍量、10倍量、15倍量又は20倍量の抽出用の水を添加して抽出液を作製した。抽出用の水として水道水を用い、pH調整剤として水酸化カルシウム1.375gを用いた。抽出用の水に水酸化カルシウムを添加して撹拌した後原料を投入し、常温で1時間撹拌して抽出液を調製した後、95℃で3時間加熱処理して抽出液を殺菌した。加熱処理した抽出液を60℃になるまで強制冷却した後一晩放置した。放置した抽出液に活性炭50gを投入し1時間撹拌して活性炭処理を行い、45℃に加温した後珪藻土による濾過処理を行った。処理された抽出液を減圧濃縮した後、85℃の温水浴中で1時間加熱処理した。
【0026】
抽出液の製造工程の各工程におけるpH及び溶液中の固形分濃度(Brix;%)を測定した。pHの測定にはpHメータ(株式会社堀場製作所製F−51型)を用い、固形分濃度には、抽出液の糖度をデジタル糖度計(アタゴ社製Spittzシリーズ)を用いて測定して得られたBrix値を固形分濃度とした。測定結果を図2に示す。
【0027】
図2の測定結果をみると、抽出用の水量の増加に伴い、最初の加熱処理(95℃)後及び濾過処理後のpHが高くなる傾向がみられるが、濃縮処理後の加熱処理(85℃)後ではpHに水量の増加との相関関係はみられなかった。6倍量の水量で抽出を行った場合、他の水量の場合と比較して固形分量の低下がみられるが、15倍量及び20倍量の水を使用した場合、10倍量の水量の場合と比較してわずかな固形分量の増加がみられる。また、抽出水量の増加に伴い、抽出液の褐変が進行していることが見受けられた。
【0028】
また、得られた抽出液について以下の項目について分析を行った。
<フルクタン含有量>
抽出液に含まれるフルクタンの量は、フルクタンを加水分解して得られた果糖の量より算出した。フルクタンの加水分解は、希釈した抽出液に10%クエン酸溶液を添加してpH3.0以下に調整し、100℃で150分間加熱した後、1モル/リットルの水酸化ナトリウム溶液で中和し、定容した。その後、F−キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)で加水分解物の果糖含量と、加水分解前の抽出液の果糖、スクロース含量を測定し、次式によりフルクタン含量を算出した。
フルクタン含有量(g/100ミリリットル)=0.9×{加水分解後果糖含量−加水分解前果糖含量−(加水分解前スクロース含量×180.16/342.3)}
<参考純度>
抽出液の参考純度を、フルクタン含有量と固形分濃度から、次式により算出した。
参考純度(%)=フルクタン含有量/Brix値×100
<カルシウム含有量>
抽出液に含まれるカルシウムの量は、カルシウムE−テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を使用して測定した。
<カルシウム濃度>
抽出液のカルシウム濃度を、カルシウム含有量と固形分濃度から、次式により算出した。
カルシウム濃度(%)=カルシウム含有量/Brix値×100
【0029】
分析した結果を図3に示す。図3の分析結果をみると、抽出水量が6倍量の場合にカルシウム及びフルクタンの含有量の低下がみられるが、10倍量以上では大きな差はみられなかった。参考純度に関しては、各抽出水量の間で明確な差はみられなかった。6倍量以上の抽出水量を使用することで、乾燥原料から多量のフルクタンを抽出できることがわかったが、より高い収率で抽出するためには、10倍量以上の抽出水量を使用することが望ましい。ただし、抽出水量が増加すると、濃縮時間が長くなって、加温による褐変が進行し、製造コスト負担も増加することが考えられることから、乾燥原料からフルクタン抽出物を製造する場合には、原料1重量部に対して10重量部の抽出水量で抽出処理を行うことが望ましい。
【0030】
[実施例2]
次に、原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕したものを用い、原料200gに対して10倍量の抽出用の水を添加して抽出液を調製する場合、水に予め添加するpH調整剤である水酸化カルシウムの添加量を変化させた。添加量は、原料200gに対して2.0g〜3.2gの間で変化させた。製造工程では、抽出用の水である水道水に水酸化カルシウムを加えて撹拌し十分溶解させた後原料を投入し、常温で1時間撹拌した。撹拌後95℃で1時間加熱処理して抽出液を調製した。抽出液を60℃の温度状態で16時間撹拌して冷却した後、活性炭100gを投入し1時間撹拌して活性炭処理を行い、45℃に加温した後珪藻土による濾過処理を行った。処理された抽出液を減圧濃縮した後、85℃の温水浴中で1時間加熱処理した。
【0031】
そして、各工程におけるpH及び固形分濃度(Brix;%)を実施例1と同様に測定した。測定結果を図4に示す。図4の測定結果をみると、固形分濃度では添加量の変化に対して大きな変化はみられなかった。また、2.5g以上の添加量の場合、添加量の増加に伴いpHの上昇がみられるとともに各工程でpHが安定してアルカリ性を維持しており、最終的な抽出液のpHがほぼ中性となって食品用として好適なpHに調整されている。それに対して、添加量が2.5gより少なくなると、pHは特に添加量に依存せずに不安定な状態となっており、酸性状態になるとフルクタンが分解して抽出液の品質に影響が出る可能性がある。いずれの添加量でも、85℃の加熱処理後において抽出液にカルシウムの析出が確認されたが、添加量が3.2gの場合にはカルシウムが多量に析出し、それ以外の添加量では微量であった。また、添加量が3.2gの場合にはそれ以外の添加量の場合よりも抽出液に強い渇変を呈していた。
【0032】
また、得られた抽出液を実施例1と同様に分析した。分析結果を図5に示す。また、抽出液に含まれるフルクタンの分子量分布を以下のように測定した。
<フルクタンの分子量分布>
フルクタンの分子量分布の分析は、高速液体クロマトグラフにより行った。分析条件は以下の通りである。分析用の試料は、抽出液(粉末の場合には0.2モル/リットルの硝酸ナトリウム溶液で希釈)を0.45μmのメンブレンフィルタに通して調製した。
装 置:CCP&8020シリーズ(東ソー株式会社製)
カラム:TSK guardcolumn PWXL, TSKgel G4000 PWXL, G3000 PWXL, G2500 PWXL(東ソー株式会社製)
検出器:示差屈折計RI−8020(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2モル硝酸ナトリウム溶液
流 速:1.0ミリリットル/分
アプライ量:100μリットル
カラム温度:40℃
測定した分子量分布を図6及び図7に示す。図5、図6及び図7をみると、水酸化カルシウムの添加量の増加に伴い抽出液のpHの上昇がみられた。また、各抽出液において、フルクタンの含有量及び固形分濃度に大きな差はみられず、フルクタンの明確な低分子化も生じていないと考えられる。抽出液に含まれるカルシウム量は、添加量が2.0gの場合に他の添加量より低い値となったが、添加量が2.3g以上では大きな変化はみられなかった。こうした分析結果から添加量が2.0g以上でフルクタンの分子量が低分子化せずに抽出可能と考えられるが、pHの安定性、ロットによる差、再度加熱する場合の低分子化を考慮すると、抽出液のpHを安定させてフルクタンの低分子化を抑えるためには添加量を2.5g以上とすることが好ましい。
【0033】
したがって、乾燥原料からフルクタンを抽出する場合には、原料1重量部に対して原料投入前の抽出用の水を10重量部とし、原料に抽出用の水を添加した初期状態の抽出液のpHが9.3〜9.7となるように水酸化カルシウムを添加することが望ましい。このように初期状態の抽出液をアルカリ性に調整することで、最終的に生成される抽出液のpHを6.2〜7.3の中性に調整することができ、良質で安定した品質の非イヌリン型フルクタン抽出物を作製することができる。
【0034】
[実施例3]
次に、天然物である植物性原料を用いて量産化する場合、ロット間で原料の品質が異なってくるため、ロット間での抽出液の品質の違いについて検討した。
【0035】
原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕したものを用い、原料200gに対して10倍量の抽出用の水を添加して抽出液を調製した。水には予め添加するpH調整剤である水酸化カルシウムを1.375g添加した。原料となる乾燥ラッキョウは、複数種類のラッキョウを乾燥させたものを別ロットとして、原料AからGの7種類について抽出液を製造した。なお、抽出液の製造は、実施例2と同様に行った。
【0036】
各工程におけるpH及び固形分濃度(Brix;%)を実施例1と同様に測定した。測定結果を図8に示す。原料Fで製造工程中のpHの低下がみられるものそれ以外の原料ではpHがアルカリ性で安定しており、また各原料における固形分濃度に大きな差はみられなかった。また、得られた抽出液を実施例1と同様に分析した。分析結果を図9に示す。原料FでpHの低下がみられたものの、各原料のpHは中性でバラツキが少なく、フルクタンの含有量に大きな差はみられなかった。カルシウム含有量では、原料Fがわずかに高い値を示すものの、いずれも低い値であった。
【0037】
以上の結果からみると、原料である乾燥ラッキョウの品質の違いに対してもほとんど影響を受けることなく良質で安定した品質の抽出液が得られることがわかる。なお、使用する原料については、事前に原料をpH調整していない水に投入してpHを測定しておき、測定されたpHに基づいて水酸化カリウム等のpH調整剤の添加量を調整するようにしてもよい。
【0038】
[実施例4]
次に、原料として乾燥ラッキョウを粒径2mm以下となる程度に粉砕したものを用い、原料500kgに対して10倍量の抽出用の水を添加して量産化に近い状態で非イヌリン型フルクタン抽出物を作製した。
【0039】
まず、抽出用の水には予めpH調整剤である水酸化カルシウムを6.9kg添加して撹拌し、十分溶解させた状態で用いる。水酸化カルシウムを溶解させて抽出用の水に原料を投入し、常温で1時間撹拌して抽出液を調製した。抽出液のpHは9.5であった。調製された抽出液を95℃の温度状態で1時間加熱処理した。加熱後の抽出液のpHは8.5であった。加熱後の抽出液を60℃に強制冷却して3時間撹拌した。撹拌後の抽出液のpHは8.5であった。抽出液に250kgの活性炭を添加し1時間撹拌して活性炭処理を行い、40℃〜45℃の温度状態を維持しながら珪藻土により濾過処理を行った。濾過後の抽出液のpHは8.45であった。次に、抽出液を減圧濃縮処理した。濃縮後の抽出液のpHは6.8であった。濃縮した抽出液を85℃の温度状態で1時間加熱して殺菌した。加熱処理後の抽出液のpHは6.53であった。加熱後抽出液を噴霧乾燥してフルクタンを含有する粉末を254kg得た。乾燥ラッキョウからフルクタンの収率を計算すると50.8%であった。以上の製造工程にかかった処理時間は、2.5日であった。
【0040】
製造された粉末について分析したところ、粉末の10%水溶液のpHは6.57であった。また、粉末のカルシウム含有量は0.44%で、フルクタンの含有量は製造された粉末中において81.5%であった。したがって、量産化の規模で処理した場合でも効率よく良質の非イヌリン型フルクタン抽出物を作製できることが確認できた。
【0041】
[実施例5]
原料である可食性植物体から製造されたフルクタンの抽出物には、原料に含まれるスクロース等の低分子の糖類や、製造工程での添加物から派生するカルシウム等の様々な低分子不純物が含まれる。そこで、フルクタンの純度の高い粉末を得るために、エタノール処理によりフルクタン分子を沈殿させた後、回収して再溶解させることで、高濃度のエタノールに溶解可能な低分子不純物を除去する方法を行った。フルクタンの抽出物として実施例4において作製された粉末を用い、粉末を水に投入して10%水溶液を調製した。エタノールとフルクタン水溶液の配合比は、重量比で以下の通りに設定した。
エタノール濃度70%の場合;エタノール:水溶液=7:3
エタノール濃度80%の場合;エタノール:水溶液=8:2
エタノール濃度90%の場合;エタノール:水溶液=9:1
【0042】
撹拌しているエタノール中に水溶液を徐々に添加してしばらく撹拌を行った後、4℃の温度状態で一晩静置した。得られた沈殿を珪藻土濾過により回収し、蒸留水に溶解した後、再度珪藻土濾過を行い、不溶性成分の除去を行った。得られた精製液に対して、更に2回、同様の処理を行い、精製された抽出液を凍結乾燥させて粉末化した。得られた粉末について実施例1と同様の分析を行った。分析結果を図10に示す。なお、比較のため使用した食品用粉末についても同様の分析を行った。
【0043】
分析結果をみると、いずれの濃度でもエタノールで精製することで、乾燥ラッキョウからのフルクタン抽出粉末に対して、pHの上昇、フルクタンの含有量の向上、低分子不純物である糖類の含有量の低下がみられた。フルクタンの含有量は、70%の濃度で処理した場合が最も高く、濃度の上昇に伴い低分子不純物の沈殿量も増加するためにフルクタンの含有量の低下がみられた。一方、収率については、70%濃度の場合よりも80%及び90%濃度の場合のほうが向上した。
【0044】
図11は、実施例2と同様に測定した各粉末に含まれるフルクタンの分子量分布を示すグラフである。90%濃度では大部分のフルクタンが沈殿から回収されているが、70%濃度では、分子量約6,000以下の範囲の低分子領域のフルクタンが減少している。
【0045】
以上の実験結果からフルクタン溶液にエタノールを添加して沈殿させることで、フルクタン粉末中の低分子不純物の除去が可能であり、より高純度なフルクタン粉末の調製が可能であると考えられる。また、精製時のエタノールの濃度によっては、低分子領域のフルクタンが減少するため、収率を考慮すると、80%以上の濃度のエタノールで精製処理を行うことが望ましい。一方、80%未満の濃度のエタノールで精製処理を行った場合には、純度の向上が期待されるとともに高分子領域で狭い分子量分布範囲を有するフルクタンの調製が可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明に係る非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法は、非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体、例えば、ネギ属に属するラッキョウ、ニンニク、タマネギ等の球根部に含有するフルクタンを効率よく抽出して良質の抽出物を安定して製造することができ、大量に処理することで量産化を図ることが可能となる。そのため良質のフルクタン抽出物を安価に安定して製造することができ、食品用にとどまらず、化粧品、医薬品といった幅広い用途の原料として使用することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体を粉砕し、pH調整剤を添加した抽出用の水に前記植物体を添加してpHが8〜10の抽出液を調製し、前記抽出液を加熱処理して殺菌した後強制冷却し、冷却した前記抽出液を活性炭処理した後濾過して非イヌリン型フルクタン抽出物を作製することを特徴とする非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法。
【請求項2】
pH調整剤として水酸化カルシウムを用い、pHが9.3〜9.7の前記抽出液を調製することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
乾燥した前記植物体を用いて粉砕し、粉砕された前記植物体1重量部に対して5〜10重量部の抽出用の水を添加して前記抽出液を調製することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
作製した非イヌリン型フルクタン抽出物を高濃度のエタノールで精製することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項1】
非イヌリン型フルクタンを含む可食性植物体を粉砕し、pH調整剤を添加した抽出用の水に前記植物体を添加してpHが8〜10の抽出液を調製し、前記抽出液を加熱処理して殺菌した後強制冷却し、冷却した前記抽出液を活性炭処理した後濾過して非イヌリン型フルクタン抽出物を作製することを特徴とする非イヌリン型フルクタン抽出物の製造方法。
【請求項2】
pH調整剤として水酸化カルシウムを用い、pHが9.3〜9.7の前記抽出液を調製することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
乾燥した前記植物体を用いて粉砕し、粉砕された前記植物体1重量部に対して5〜10重量部の抽出用の水を添加して前記抽出液を調製することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
作製した非イヌリン型フルクタン抽出物を高濃度のエタノールで精製することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−193256(P2012−193256A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57475(P2011−57475)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21〜23年度、農林水産省、「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(591084447)株式会社エル・ローズ (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21〜23年度、農林水産省、「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(591084447)株式会社エル・ローズ (20)
【Fターム(参考)】
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