説明

非クロム型表面処理金属材

【課題】 6価クロムを含むことなく耐食性に優れた非クロム型表面処理金属材を提供する。
【解決手段】 この金属材は、金属材料の表面に形成した、インヒビター成分を含む下層防錆皮膜と、更にその上に形成した、インヒビター成分を含む上層防錆皮膜とを有し、下層防錆皮膜は、厚さが0.1〜5μmであり、固形分として、(1)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物0.2〜500重量部、又は(2)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のバナジウム酸化合物0.2〜200重量部を含み、上層防錆皮膜は、厚さが0.1〜5μmで、固形分として、(3)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物0.1〜50重量部、又は(4)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のバナジウム酸化合物0.1〜20重量部を含む。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、家電用、建材用、自動車用等に用いられる、6価クロムを含有せずに耐食性に優れた非クロム型表面処理金属材に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば亜鉛めっき鋼板あるいは亜鉛合金めっき鋼板は、海水等の塩分を含む雰囲気又は高温多湿の雰囲気では、表面に白錆が発生して外観を著しく損ねたり、素地鉄面に対する防錆力が低下したりする。
【0003】白錆の防止には、従来よりクロメート系の防錆処理剤が利用されており、例えば特開平3−131370号公報には、オレフィン−α,β−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体樹脂ディスパージョンに水分散性クロム化合物と水分散性シリカを含有させた樹脂系処理剤が記載されている。
【0004】このようなクロメート系処理剤による皮膜は、既知の処理剤の中で耐食性が最も良好なものとして認識されている。とは言え、クロメート処理による皮膜は有害元素であることが知られている6価クロムを含有しており、そのため6価クロムを含有しない表面処理金属板への要求が高まっている。
【0005】有害なクロムを含まないノンクロム防錆処理剤が、特開平8−239776号公報、特開平8−67834号公報に記載されており、これらでは硫化物やイオウを用いている。しかし、イオウはもちろん硫化物の中には特有な臭気を放つものがあり、これらの処理剤の取扱いは必ずしも容易でなかった。
【0006】イオウ原子を含むが臭気性も毒性もないトリアジンチオール化合物を用いた処理剤も提案されており、例えば特開昭53−31737号公報には、ジチオール−S−トリアジン誘導体を添加した水溶性防食塗料が開示されている。ところが、この水溶性防食塗料は、軟鋼、銅、真ちゅうなどの防食を目的としており、特に基材が銅や真ちゅうの場合により密着しやすいように調製されている。従って、亜鉛等の金属表面に対する防錆剤としては不十分である。
【0007】特開昭61−223062号公報には、チオカルボニル基含有化合物と、水に難溶又は不溶性の有機化合物を混合して得られる金属との反応性エマルションが記載されている。しかし、このエマルションも、銅、ニッケル、スズ、コバルト、アルミニウム等及びそれらの合金と反応するものであり、亜鉛等の金属表面に対する防錆剤としてはやはり不十分である。
【0008】本願の出願人らは、特願平9−2557号でもって、亜鉛系めっき鋼板の防錆にも有効なトリアジンチオール含有防錆コーティング剤を開示した。しかし、トリアジンチオールは高価な化合物であり、そのためもっと安価な防錆処理剤が利用できることは有益なことである。
【0009】クロムを含有せず、トリアジンチオールも使用しない、亜鉛又は亜鉛合金の表面処理方法として、特開昭54−71734号公報及び特開平3−226584号公報に記載されているものがある。特開昭54−71734号公報に記載の処理法は、ミオイノシトールの2〜6個の結合リン酸エステル又はその塩類を0.5〜100g/lと、チタン弗化物及びジルコニウム弗化物のうちの少なくとも一方を金属換算で0.5〜30g/lと、チオ尿素又はその誘導体1〜50g/lとを含有する水溶液で、亜鉛又は亜鉛合金を表面処理するものである。この方法は、亜鉛表面に保護層としての不動態皮膜を形成するためにチタン弗化物又はジルコニウム弗化物を必要としている。特開平3−226584号公報では、Ni2+とCo2+の一方又は両方を0.02g/l以上と、アンモニア及び1級アミン基を有する化合物のうちの少なくとも1種とを含有しているpH5〜10の水溶液である表面処理剤が使用されている。この処理剤は、塗装密着性及び塗装後の耐食性をコバルト又はニッケルの析出によって付与するため、Ni2+とCo2+の一方又は両方を必要としている。これらの金属イオンを含有する処理剤は、廃水処理時の負荷が大きくなる等の不都合があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このように、クロムを含まないこれまでの防錆剤は、耐食性の点でクロム含有防錆剤に及ばず、そのほかにも上述のように不都合な点があった。そこで、クロム含有防錆剤に取って代わり、しかも上述の不都合のない新しい防錆剤の開発が強く望まれていた。
【0011】これらの要望を満たすための新しい技術として、本願の出願人らは、水性樹脂、チオカルボニル基含有化合物及びリン酸イオンを含み、且つ任意に微粒シリカを含む防錆コーティング(特願平10−36265号)を開発した。また、水性樹脂、チオカルボニル基含有化合物及び微粒シリカを含有し、リン酸イオンを含まない防錆コーティング(特願平10−36264号)を開発した。更に、水性樹脂とバナジウム酸化合物とを含み、且つ任意に、チオカルボニル基含有化合物、リン酸イオン及び微粒シリカのうちの少なくとも1種を更に含む防錆コーティング(特願平10−36267号)を開発した。
【0012】このような新しい防錆コーティング剤は、クロムを含まず、且つ耐食性に優れているので、従来のクロメート系処理剤に代わって、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼等の亜鉛被覆鋼はもちろん、アルミニウム被覆鋼(Al被覆鋼)や無被覆鋼等の防錆剤としての利用が期待される。そしてこれらの新しい防錆コーティング剤固有の耐食性を更に向上させることは、これらの防錆コーティング剤で表面処理した金属材の実用性を更に高めてその利用を促進する上で、大変有益なことである。
【0013】そこで、本発明は、耐食性がより向上した非クロム型表面処理金属材を提供することを目的とするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の非クロム型表面処理金属材は、金属材料の表面に形成した、インヒビター成分を含む下層防錆皮膜と、更にその上に形成した、インヒビター成分を含む上層防錆皮膜とを有し、下層防錆皮膜は、厚さが0.1〜5μmであって、固形分として、(1)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物0.2〜500重量部、又は(2)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のバナジウム酸化合物0.2〜200重量部を含み、上層防錆皮膜は、厚さが0.1〜5μmであって、固形分として、(3)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物0.1〜50重量部、又は(4)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のバナジウム酸化合物0.1〜20重量部を含むことを特徴とする。
【0015】上記(1)の固形分を含有する下層防錆皮膜は更に、0.1〜200重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分と1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を任意に含むことができ、上記(2)の固形分を含有する下層防錆皮膜は更に、0.2〜500重量部のチオカルボニル基含有化合物のインヒビター成分、0.1〜200重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分及び1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を任意に含むことができる。
【0016】また、上記(3)の固形分を含有する上層防錆皮膜は更に、0.01〜20重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分と1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を任意に含むことができ、上記(4)の固形分を含有する上層防錆皮膜は更に、0.1〜50重量部のチオカルボニル基含有化合物のインヒビター成分、0.01〜20重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分及び1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を任意に含むことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明で防錆皮膜により表面処理する金属材材料は、亜鉛被覆鋼、アルミニウム被覆鋼(Al被覆鋼)及び無被覆鋼である。亜鉛被覆鋼は、具体的には、亜鉛めっき、亜鉛とFe、Ni、Co、Cr、Mg、Al、Si、Mn等の1種又は2種以上とからなる合金めっきを施した鋼材をさし、めっき方法は特に限定されるものではなく、電気めっき法、溶融めっき法、真空めっき法等いずれでもよい。鋼材としては、特に限定されないが冷延鋼板、熱延鋼板、厚板、棒鋼、鋼管、線材等の鋼材でよい。
【0018】これらの金属材料には、防錆皮膜を形成する前に、例えば脱脂等の任意の表面処理を施してもよい。
【0019】本発明の非クロム型表面処理金属材は、下層防錆皮膜と上層防錆皮膜からなる積層構造の防錆皮膜層を有する。下層防錆皮膜は、固形分として、(1)有機樹脂100重量部とチオカルボニル基含有化合物0.2〜500重量部、又は(2)有機樹脂100重量部とバナジウム酸化合物0.2〜200重量部を含む、厚さ0.1〜5μmの皮膜である。上層防錆皮膜は、固形分として、(3)有機樹脂100重量部とチオカルボニル基含有化合物0.1〜50重量部、又は(4)有機樹脂100重量部とバナジウム酸化合物0.1〜20重量部を含む、厚さ0.1〜5μmの皮膜である。
【0020】本発明においては、(1)の固形分を含む下層皮膜の上に、(3)の固形分を含む上層皮膜が存在してもよく、あるいは(4)の固形分を含む上層皮膜が存在してもよい。同様に、(2)の固形分を含む下層皮膜の上に、(3)の固形分を含む上層皮膜が存在してもよく、あるいは(4)の固形分を含む上層皮膜が存在してもよい。
【0021】更に、本発明における下層及び上層皮膜中には、その必須のインヒビター成分がチオカルボニル基含有化合物である場合、追加のインヒビター成分であるリン酸化合物と、耐食性促進作用のある微粒シリカのうちの少なくとも1種以上が共存してもよい。下層及び上層皮膜の必須のインヒビター成分がバナジウム酸化合物である場合には、追加のインヒビター成分であるチオカルボニル基含有化合物及びリン酸化合物と、耐食性促進作用のある微粒シリカのうちの少なくとも1種以上が共存してもよい。いずれの場合にも、下層皮膜中の追加のインヒビター成分のバナジウム酸化合物の含有量は0.2〜200重量部、リン酸化合物含有量は0.1〜200重量部(PO4 として)が好ましく、微粒シリカ含有量は1〜500重量部が好ましく、その一方、上層皮膜中の追加のインヒビター成分のバナジウム酸化合物含有量は0.1〜20重量部、リン酸化合物含有量は0.01〜20重量部(PO4 として)が好ましく、微粒シリカ含有量は1〜500重量部が好ましい。
【0022】このように、本発明において重要な点は、下層被膜中に上層皮膜より高濃度のインヒビター成分が存在することにある。
【0023】これらの防錆皮膜は、有機樹脂をベースとしている。この有機樹脂は、水中に水性樹脂と防錆皮膜のその他の成分とを含む組成物を塗布後に乾燥して得られるものである。ここでの水性樹脂とは、水溶性樹脂のほか、本来不水溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように不溶性樹脂が水中に微分散された状態になり得るもの(水分散性樹脂)を含めていう。
【0024】本発明において水性樹脂として使用できる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、フェノール系樹脂、その他の加熱硬化型の樹脂などを例示でき、架橋可能な樹脂であることがより好ましい。特に好ましい樹脂は、アクリルオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及び両者の混合樹脂である。水性樹脂は2種類以上を混合してあるいは共重合して使用してもよい。
【0025】本発明における防錆皮膜は、チオカルボニル基含有化合物又はバナジウム酸化合物を必須成分として含むことにより、その防錆効果が著しく向上する。
【0026】チオカルボニル基含有化合物は、硫化物であって、金属表面に吸着し易く、また酸化力も優れているので、金属表面を不動態化することにより防錆効果を奏する。特に、チオカルボニル基含有化合物におけるチオール基のイオンは、金属表面の活性なサイトに吸着されて防錆効果を発揮すると考えられる。
【0027】また、チオカルボニル基含有化合物は、樹脂皮膜の架橋促進剤として作用し、樹脂皮膜のミクロポアを少なくして、水や塩素イオンなどの有害イオンを効率よく遮断する効果も有し、これも防錆効果に寄与すると考えられる。
【0028】本発明においてチオカルボニル基含有化合物とは、下式で表されるチオカルボニル基
【0029】
【化1】


【0030】を有する化合物をいうが、更に、水溶液中や酸又はアルカリの存在する条件においてチオカルボニル基含有化合物を放出することのできる化合物をも含むことができる。代表的には、
【化2】


【0031】で表されるチオ尿素及びその誘導体、例えば、メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、エチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジフェニルチオ尿素、チオペンタール、チオカルバジド、チオカルバゾン類、チオシアヌル酸類、チオヒダントイン、2−チオウラミル、3−チオウラゾールなどや、下式
【0032】
【化3】


【0033】で表されるチオアミド化合物(式中のRは、例えば−H、−CH3 、−CH2 CH3 、−C6 5 等を表す)、例として、チオホルムアミド、チオアセトアミド、チオプロピオンアミド、チオベンズアミド、チオカルボスチリル、チオサッカリンなどや、下式
【0034】
【化4】


【0035】で表されるチオアルデヒド化合物(式中のRは、例えば−H、−CH3 等を表す)、例として、チオホルムアルデヒド、チオアセトアルデヒドなどや、下式
【0036】
【化5】


【0037】で表されるカルボチオ酸類(式中のRは、例えば−CH3 、−C6 5 等を表す)、例として、チオ酢酸、チオ安息香酸、ジチオ酢酸などや、下式
【0038】
【化6】


【0039】で表されるチオ炭酸類や、その他の式(1)の構造を有する化合物、例えば、チオクマゾン、チオクモチアゾン、チオニンブルーJ、チオピロン、チオピリン、チオベンゾフェノンなど、が例示される。
【0040】チオカルボニル基含有化合物が下層皮膜に含まれる場合、その量は、固形分として、有機樹脂100重量部に対して0.2〜500重量部がよく、上層皮膜に含まれる場合は有機樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部がよい。下層及び上層皮膜中のチオカルボニル基含有化合物の含有量がそれぞれ上記の下限値より少ないと、そのインヒビターとしての効果が目立たなくなり、上記の上限値より多いと、それに伴う経費の上昇に見合うだけの効果が期待できなくなる。
【0041】チオカルボニル基含有化合物は、必須のインヒビター成分として防錆皮膜中に単独に含ませることができ、あるいはバナジウム酸化合物を必須インヒビター成分とする防錆皮膜中に追加の任意成分として含ませてもよい。チオカルボニル基含有化合物とバナジウム酸化合物が共存する場合には、それらの共同作用により防錆作用を発揮するもの考えられる。
【0042】防錆皮膜がバナジウム酸化合物を含む場合、それはクロム酸化合物と同様の防錆作用を奏する。すなわち、バナジウム酸化合物は、防錆皮膜形成用の組成物の塗布時に金属材の表面に不動態皮膜を形成して防錆効果を奏する。更に、バナジウム酸化合物は、金属表面(特に亜鉛めっき表面)に腐食部位が発生した場合にも、皮膜中に存在するバナジウム酸イオンが腐食部位に作用して腐食反応を抑制する効果もあるものと考えられる。
【0043】バナジウム酸化合物としては、例えば、バナジウム酸アンモニウム、バナジウム酸ナトリウム、バナジウム酸カリウムなどを用いることができる。
【0044】バナジウム酸化合物が下層皮膜に含まれる場合、その量は、固形分として、有機樹脂100重量部に対して0.2〜200重量部がよく、上層皮膜に含まれる場合は有機樹脂100重量部に対して0.1〜20重量部がよい。下層及び上層中のバナジウム酸化合物含有量がそれぞれ上記の下限値より少ないと防錆効果が十分でなく、上記の上限値より多くても防錆効果は飽和して不経済になる。
【0045】本発明の防錆皮膜は、必須インヒビター成分であるチオカルボニル基含有化合物あるいはバナジウム酸化合物のほかに、任意の追加のインヒビター成分を含むことができる。チオカルボニル基含有化合物が必須成分の場合には、防錆皮膜は任意のインヒビター成分としてリン酸化合物を含むことができ、一方、バナジウム酸化合物が必須成分の場合には、チオカルボニル基含有化合物及びリン酸化合物のうちの少なくとも1種以上を含むことができる。
【0046】本発明の防錆皮膜において必須とされるインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物あるいはバナジウム酸化合物は、先に述べたように、金属表面の活性なサイトに吸着されて防錆効果を発揮するが、任意成分のリン酸化合物は、金属表面の不活性なサイトに作用して活性な表面を形成し、そこにチオカルボニル基含有化合物又はバナジウム酸化合物が吸着されるようにすることで防錆効果を発揮するものと考えられる。また、リン酸化合物も樹脂皮膜の架橋促進剤として作用し、樹脂皮膜のミクロポアを少なくして、水や塩素イオンなどの有害イオンを効率よく遮断する効果を有し、これも防錆効果に寄与すると考えられる。
【0047】リン酸化合物としては、リン酸イオンを含む化合物であればよいが、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどを使用することができる。
【0048】リン酸化合物が下層皮膜に含まれる場合、その量は、固形分として、有機樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部(PO4 として)がよく、上層皮膜に含まれる場合は有機樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部(PO4として)がよい。下層及び上層中のリン酸化合物含有量がそれぞれ上記の下限値未満では十分な防錆効果が得られず、その一方上記の上限値を超えるとかえって防錆効果が低下したり、コーティング溶液の状態で樹脂がゲル化したりして不具合が生じることがある。
【0049】本発明の下層及び上層の防錆皮膜とも、上述の任意のインヒビター成分と一緒に、あるいは任意のインヒビター成分を含むことなく、微粒シリカを含むことができる。防錆皮膜が微粒シリカを含む場合、その防錆作用(耐食性)は著しく促進される。しかも耐食性に加えて、皮膜形成時の乾燥性、形成した皮膜の耐擦傷性、密着性も改良できる。
【0050】本発明において微粒シリカとは、微細な粒径をもつために水中に分散させた場合に安定に水分散状態を維持でき、半永久的に沈降が認められないような特性を有するシリカを総称していうものである。上記微粒シリカとしては、ナトリウムなどの不純物が少なく、弱アルカリ系のものであれば、特に限定されない。例えば、「スノーテックスN」(日産化学工業社製)、「アデライトAT−20N」(旭電化工業社製)などの市販のシリカゲル、または市販のアエロジル粉末シリカなどを用いることができる。
【0051】微粒シリカが含まれる場合、その含有量は、下層皮膜においても上層皮膜においても、固形分として、有機樹脂100重量部に対して1〜500重量部であることが好ましい。1重量部未満では添加の効果が少なく、500重量部を超えると耐食性向上の効果が飽和して不経済であるほか、皮膜が硬くなりすぎ皮膜割れや剥離などが発生して耐食性が低下することもある。
【0052】微粒シリカをバナジウム酸化合物と併用すると、バナジウム酸化合物が微粒シリカの表面に吸着して、相乗的に防錆効果が奏せられる。この意味で、微粒シリカがアンモニウム吸着型や酸化アルミニウム被覆型の場合には、吸着し易いので防錆効果が向上して好適である。
【0053】先に述べたとおり、本発明において重要な点は、下層被膜中に上層皮膜より高濃度のインヒビター成分が存在することにある。このように、金属材料表面に近い部分にインヒビター濃度のより高い皮膜が存在することとによって、特に、金属材の加工部(皮膜に亀裂が入りやすい)、キズ入り部、端面部の耐食性が向上する。このような部分では、防錆皮膜の下地の金属材料が外部雰囲気に露出されやすく、腐食が発生しやすくなるが、本発明によれば金属表面近くにインヒビター成分が濃縮されているので、その防錆作用が促進されるものと考えられる。この防錆作用の促進は、特に、水の存在する腐食環境において顕著に認められる。これは、金属材料に近い領域の濃縮されたインヒビター成分が水に溶出して、露出された金属面に対する防錆効果を発揮するためと考えられる。
【0054】本発明における防錆皮膜は、下層皮膜においても上層皮膜においても、上記の成分以外の成分を含むこともできる。例えば、顔料、界面活性剤などを挙げることができる。また、有機樹脂とシリカ粒子、顔料との親和性を向上させ、更に有機樹脂と下地金属との密着性などを向上させるためにシランカップリング剤もしくはその加水分解縮合物又はそれらの両方を配合してもよい。ここでの「シランカップリング剤の加水分解縮合物」とは、シランカップリング剤を原料とし、加水分解重合させたシランカップリング剤のオリゴマーのことをいう。
【0055】顔料としては、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2 )、炭化カルシウム(CaCO3 )、硫酸バリウム(BaSO4 )、アルミナ(Al2 3 )、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe2 3 、Fe3 4 )などの無機顔料や、有機顔料などの各種着色顔料などを用いることができる。
【0056】本発明で使用できる上記のシランカップリング剤としては特に制限はないが、好ましいものとしては、例えば以下のものを挙げることができる:ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N,N’−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0057】特に好ましいシランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N,N’−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミンである。これらシランカップリング剤は1種類を単独で使用してもよいし、または2種類以上を併用してもよい。
【0058】本発明では、上記シラン化合物は、固形分として、有機樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましい。シラン化合物の添加量が0.01重量部未満になると添加効果の低下が認められ、耐食性、上塗り塗装密着性向上効果が不足し、20重量部を越えるとコーティング溶液の状態で樹脂がゲル化したりして不具合が生じることがある。
【0059】本発明の積層構造の防錆皮膜層を形成するには、水中に所定の成分(有機樹脂のもとになる水性樹脂、インヒビター成分、その他の任意成分)を含むコーティング剤組成物を調製し、下地の金属材料に塗布し、塗膜を加熱、乾燥して、まず下層皮膜を形成する。次いで、同様に水中に所定成分を含む別のコーティング剤組成物を調製し、下層被膜上に塗布して塗膜を加熱、乾燥し、上層皮膜を形成する。コーティング剤組成物は、任意の濃度で調製して差し支えない。一般には、固形分(水以外の成分)を1〜80重量部、水を99〜20重量部含有するコーティング剤組成物が、塗布とその後の加熱・乾燥の観点から好ましい。コーティング剤組成物の塗布方法は、特に限定されず、一般に公知の塗布方法、例えばロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬などが採用できる。
【0060】それぞれの塗膜の加熱により、硬化性樹脂の場合は樹脂を硬化させ、架橋性樹脂の場合は樹脂を架橋させる。塗膜の加熱・乾燥(焼付け)は、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、直火炉などを用いる公知の方法、又はこれらを組み合わせた方法で行えばよい。あるいは、これらの強制乾燥を用いずに、自然乾燥してもよく、金属材を予熱しておいてこれにコーティング剤組成物を塗布後自然乾燥してもよい。また、使用する水性樹脂の種類によっては、紫外線や電子線などのエネルギー線により硬化させることもできる。加熱温度としては、50〜250℃がよい。50℃未満では水分の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られないので、防錆力が不足する。一方250℃を超えると、有機樹脂の熱分解などが生じるので、防食性、耐水性が低下し、また外観も黄変する問題がある。70〜200℃がより好ましい。また、加熱・乾燥後の冷却は、水冷、空冷、自然冷却等の公知の方法、又はこれらを組み合わせた方法で行えばよい。
【0061】形成する防錆皮膜の膜厚(乾燥)は、下層及び上層皮膜とも0.1μm以上が好適である。0.1μm未満の皮膜は、形成するのが困難である。また、下層及び上層の皮膜の合計の厚さが0.2μm未満では、十分な防錆力(耐食性)が得られない。一方膜厚が厚くなると、防錆力(耐食性)にそれ以上の向上がそれほど認められなくなり、不経済である。そこで、下層及び上層皮膜とも膜厚は5μmを上限とするのが適当である。好適には、下層と上層の皮膜の合計の厚さを0.4〜5μm程度とする。
【0062】
【実施例】次に、実施例により本発明を更に説明する。言うまでもなく、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】めっき付着量が片面あたり20g/m2 の板厚0.8mmの電気亜鉛めっき鋼板を下地とし、表1〜4に示す下層防錆皮膜組成の表面処理剤を全固形分として20重量%含む水性コーティング液をロールコーターで塗布し、熱風乾燥炉で乾燥して下層防錆皮膜を形成した。その上に、表1〜4に示す上層防錆皮膜組成の表面処理剤を全固形分として20重量%含む水性コーティング液をロールコーターで塗布し、熱風乾燥炉で乾燥して上層防錆皮膜を形成した。それぞれの皮膜の厚み(μm)と乾燥条件(焼付板温)は表1〜4中に示した。処理液の安定性は良好で、常温で3ケ月放置した後も、初期とほぼ同等の品質を保持していた。また、めっき付着量が片面あたり60g/m2 の板厚0.8mmの溶融亜鉛めっき鋼板、めっき付着量が片面あたり40g/m2 の板厚0.8mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板、めっき付着量が片面あたり20g/m2 の板厚0.8mmの亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板(ニッケル含有率11重量%)を原板とした表面処理鋼板も同じ方法で評価した。表1〜4にめっき種類を表示した。EGは電気亜鉛めっき鋼板、GIは溶融亜鉛めっき鋼板、GAは合金化溶融亜鉛めっき鋼板、ZNは亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板である。表1〜4中に示した表面処理剤の内容は以下の通りである。
【0064】1.水性樹脂種類オレフィン系:「ハイテックS−7024」(東邦化学社製)
ウレタン系:「ボンタイターHUX−320」(旭電化社製)
アクリル系:「AP−1058(12)」(東亜合成社製)
エポキシ系:「ポリゾール8500」(昭和高分子社製)
ポリエステル系:「ペスレジンA−124G」(高松油脂社製)
ウレタンオレフィン系:上記オレフィン系とウレタン系を固形分換算で1:1に混合したもの
【0065】2.コロイダルシリカST−N:「スノーテックスN」(日産化学工業社製)
ST−S:「スノーテックスS」(日産化学工業社製)
ST−C:「スノーテックスC」(日産化学工業社製)
AT−20N:「アデライトAT−20N」(旭電化工業社製)
【0066】3.リン酸イオンリン酸アンモニウム:リン酸水素二アンモニウム1級(関東化学社製)をリン酸イオン濃度が表1〜4中の重量部になるように処理剤に溶かした。
【0067】4.チオカルボニル基含有化合物チオ尿素:チオ尿素1級(関東化学社製)
【0068】5.バナジウム酸化合物バナジウム酸アンモニウム:バナジウム酸アンモニウム1級(関東化学社製)
【0069】6.シラン化合物A:γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン「KBE−403」(信越化学社製)
B:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM−403」(信越化学社製)
C:ビニルトリメトキシシラン「KBM−1003」(信越化学社製)
D:N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン「KBE−603」(信越化学社製)
E:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン「KBM−803」(信越化学社製)
【0070】作製した表面処理鋼板について、以下の評価を行い、表5〜8に示した結果を得た。
1.仕上がり外観目視による処理膜の外観を判定し、評点を付けた。評点は、5は均一、4は極く僅かにムラあり、3は部分的にムラあり、2は全体的にムラあり、1は全面にムラがひどい、とした。
【0071】2.防錆皮膜の密着性平板密着性はJIS K 5400の8.5.2に記載の碁盤目テープ法(すきま間隔1mm)によって判定した。以下に示した基準によって評点付けした。加工部耐食性は、JIS K 5400の8.2に規定されるエリクセン試験機で押し出して、押し出した部分をテープ剥離して皮膜の剥離を目視によって判定した。平板及び加工部密着性を以下の基準によって評点付けした。
【0072】10点:剥離なし9点:3%以下の剥離面積8点:3%超5%以下の剥離面積7点:5%超8%以下の剥離面積6点:8%超10%以下の剥離面積5点:10%超15%以下の剥離面積4点:15%超30%以下の剥離面積3点:30%超50%以下の剥離面積2点:50%超75%以下の剥離面積1点:75%超の剥離面積
【0073】なお、目視によって判定しにくい場合には、メチルバイオレットの0.1%アセトン溶液で皮膜を染色し、染色された部分には皮膜が存在し、染色されない部分には皮膜が存在しない、として皮膜の密着性を判定した。処理膜の外観評価についても同様である。
【0074】3.上塗り塗膜密着性メラミンアルキッド塗料であるオルガセレクト100(日本ペイント社製)を、防錆皮膜上に乾燥皮膜25μmとなるようにスプレーで塗布して、150℃で20分間熱風炉で乾燥焼付後、密着性を評価した。評価は、平板密着性はJISK 5400の8.5.2に記載の碁盤目テープ法(すきま間隔1mm)によって判定した。加工部耐食性は、JIS K 5400の8.2に規定されるエリクセン試験機で7mm押し出して、押し出した部分をテープ剥離して皮膜の剥離を目視によって判定した。平板及び加工部密着性とも、以下の基準によって評点付けした。
【0075】10点:剥離なし9点:3%以下の剥離面積8点:3%超5%以下の剥離面積7点:5%超8%以下の剥離面積6点:8%超10%以下の剥離面積5点:10%超15%以下の剥離面積4点:15%超30%以下の剥離面積3点:30%超50%以下の剥離面積2点:50%超75%以下の剥離面積1点:75%超の剥離面積
【0076】また、二次密着性として表面処理鋼板を沸騰水に30分浸漬し24時間放置した後に、上述の方法でオルガセレクト100を塗装した後の塗膜の密着性を調べた。
【0077】4.耐指紋性表面処理鋼板の皮膜に指紋を付着させ、指紋の見え易さを目視で判定し、評点を付けた。評点は、5は指紋跡が見えない、4は極く僅かに指紋跡が見える、3は指紋跡が見える、2は指紋跡が目立つ、1は指紋跡が非常に目立つ、とした。
【0078】5.耐エタノール性プレス油をガーゼにしみこませて表面処理鋼板の皮膜上に塗布し、この油をエタノールをしみこませたガーゼで拭き取り、皮膜の跡残りを目視で判定して評点を付けた。油汚れ等をきれいにするために、エタノールでふき取る作業が行われることがあり、このときに皮膜が損傷を受けないかどうかを評価するための試験である。評点は、5は跡残りなし、4は極く僅かに跡残りあり、3は跡残りあり、2は跡残りが目立つ、1は跡残りが非常に目立つ、とした。
【0079】6.耐食性(SST)
平板(切断したままの鋼板の端面部と裏面をシール)と、エリクセン7mm加工部(エリクセンで7mm押し出した鋼板の端面部と裏面をシール)と、クロスカット部(カッターナイフで素地金属板に達する深さまで×印のようにキズをつけた鋼板の端面部と裏面をシール)について、塩水噴霧試験(JIS Z 2371に規定されるもの)を、平板とエリクセン7mm加工部は168時間、クロスカット部は120時間行った。評価基準は下記のものとした。
【0080】・平板及びエリクセン7mm加工部の評価基準10点:異常なし9点:10点と8点の間8点:僅かに白錆発生7〜6点:8点と5点の間5点:面積の半分に白錆発生4〜2点:5点と1点の間1点:全面に白錆発生
【0081】・クロスカット部の評価基準クロスカット部の四辺の錆進行幅の最大値の平均値が、◎:10mm以下○:10〜15mm△:15〜20mm×:20mm以上
【0082】実施例においては下層及び上層防錆皮膜厚みが薄い実施例1、46ではやや耐指紋性と耐食性が劣り、下層及び上層防錆皮膜中チオ尿素添加量が少ない実施例6では耐食性がやや劣り、下層及び上層防錆皮膜中バナジウム酸アンモニウム添加量が少ない実施例51では耐食性がやや劣り、上層防錆皮膜中チオ尿素添加量が少ない実施例13では耐食性がやや劣り、上層防錆皮膜中バナジウム酸アンモニウム添加量が少ない実施例53では耐食性がやや劣り、下層防錆皮膜中シリカ添加量が少ない実施例10、59では耐食性がやや劣り、下層防錆皮膜中シリカ添加量がない実施例11、58では耐食性がやや劣り、上層防錆皮膜中シリカ添加量が少ない実施例18、63では耐食性がやや劣り、上層防錆皮膜中シリカ添加量がない実施例20、65では耐食性がやや劣り、上層防錆皮膜中バナジウム酸アンモニウム添加量が多い実施例54は耐エタノール性がやや劣り、上層防錆皮膜の焼付板温が低い実施例44、88は耐エタノール性がやや劣るが、いずれも実用に耐えうるものである。また、原板のめっきを変更した例においても、本発明によれば、耐食性、上塗り塗膜密着性、耐指紋性、耐エタノール性、耐かじり性に優れた表面処理鋼板が得られる。
【0083】これに対し、本発明の範囲にない例として、下層及び上層防錆皮膜の厚みの薄い比較例1〜3では耐指紋性、耐食性が劣り、下層及び上層防錆皮膜中へのチオ尿素、バナジウム酸アンモニウムの添加がない比較例4では密着性、耐食性が劣り、下層及び上層防錆皮膜中チオ尿素添加量が少ない比較例5では耐食性が劣り、下層及び上層防錆皮膜中バナジウム酸アンモニウム添加量が少ない比較例6では密着性、耐食性が劣り、下層防錆皮膜中リン酸イオンの添加量が多い比較例7、11、15では耐食性が劣り、上層防錆皮膜中リン酸イオンの添加量が多い比較例8、12、16では耐食性、耐エタノール性が劣り、下層防錆皮膜中シリカの添加量が多い比較例9、13、17では耐食性、密着性が劣り、上層防錆皮膜中シリカの添加量が多い比較例10、14、18では耐食性、密着性、耐エタノール性が劣る。
【0084】
【表1】


【0085】
【表2】


【0086】
【表3】


【0087】
【表4】


【0088】
【表5】


【0089】
【表6】


【0090】
【表7】


【0091】
【表8】


【0092】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、有害な6価クロムを含まず、耐食性に優れた非クロム型表面処理金属材の利用が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属材料の表面に形成した、インヒビター成分を含む下層防錆皮膜と、更にその上に形成した、インヒビター成分を含む上層防錆皮膜とを有し、下層防錆皮膜は、厚さが0.1〜5μmであって、固形分として、(1)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物0.2〜500重量部、又は(2)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のバナジウム酸化合物0.2〜200重量部を含み、上層防錆皮膜は、厚さが0.1〜5μmであって、固形分として、(3)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のチオカルボニル基含有化合物0.1〜50重量部、又は(4)有機樹脂100重量部とインヒビター成分のバナジウム酸化合物0.1〜20重量部を含むことを特徴とする非クロム型表面処理金属材。
【請求項2】 下層防錆皮膜が(1)の固形分を含有する皮膜であり、この下層防錆皮膜が更に、0.1〜200重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分と1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を含む、請求項1記載の非クロム型表面処理金属板。
【請求項3】 下層防錆皮膜が(2)の固形分を含有する皮膜であり、この下層防錆皮膜が更に、0.2〜500重量部のチオカルボニル基含有化合物のインヒビター成分、0.1〜200重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分及び1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を含む、請求項1記載の非クロム型表面処理金属板。
【請求項4】 上層防錆皮膜が(3)の固形分を含有する皮膜であり、この上層防錆皮膜が更に、0.01〜20重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分と1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を含む、請求項1から3までのいずれか一つに記載の非クロム型表面処理金属材。
【請求項5】 上層防錆皮膜が(4)の固形分を含有する皮膜であり、この上層防錆皮膜が更に、0.1〜50重量部のチオカルボニル基含有化合物のインヒビター成分、0.01〜20重量部(PO4 として)のリン酸化合物のインヒビター成分及び1〜500重量部の微粒シリカのうちの少なくとも1種以上を含む、請求項1から3までのいずれか一つに記載の非クロム型表面処理金属材。