説明

非ニュートン挙動を示す組成物

本発明は、マトリックスフォーマー、及び、酸または塩基との反応により表面電荷が増加されているナノスケール固体粒子を含み、非ニュートン挙動を示す組成物に関する。本発明は、該組成物の製造方法及び材料のレオロジーを調節するのに適した方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ニュートン挙動を示す組成物、その調製方法、該組成物と共に得られ得るコーティングされた基材(substrate)、及びこれらのコーティングされた基材の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固体粒子を加えることにより、コーティング溶液のレオロジーが影響を受け得ることは広く知られている。この知見は、例えば、顔料または他の粒子(例えばアエロジル(Aerosil))を使用し、滴らないように、及び、広がらないように、偽可塑性の配合を与えられた壁用塗料の場合に利用される。同様の効果は、ナノスケール固体粒子を含むナノコンポジットについても知られている。ここでの一般則は、粒子の量が多ければ、レオロジーが受け得る影響の程度が大きくなるということである。しかしながら、そのような高い粒子濃度を用いることは、必ずしも可能ではなく、または不都合である。例えば、コンポジット材料は、結果として脆くなりすぎる、または高価になりすぎ、あるいは、高い粒子含有量は粒子の性状により望まれない副作用にさえ結び付き得る。従って、粒子濃度に依存しないレオロジーを調節するための手段の必要性がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
この目的は、驚くべきことに、例えばゾルを構成し得るナノ粒子分散体中の粒子の表面電荷を意図的に変えることにより、達成することができる。従って、本発明は、バインダーのような明確な粘度を有するマトリックスフォーマー及び、好ましくは無機性であり粒子の表面電荷が例えば酸または塩基の濃度によって調整されるナノスケール固体粒子を含む、非ニュートン挙動の組成物を提供する。全く同様の方法により、粒子は、表面基、好ましくは、酸または塩基とともに、酸/塩基の濃度に従って電荷を変化または生成することができるプロトン性表面基で、あらかじめ改質することができる。組成物は、例えば、塊または流体であり得る。
【0004】
本発明はさらに、適切な場合に溶媒を一部または完全に除去した後に非ニュートン挙動を有する組成物を得るために、固体粒子または固体粒子のゾルを、(例えば)可溶性、液体または溶解したマトリックスフォーマー及び、必要であれば、溶媒と混合し、該プロセスが塩基または酸を添加することにより粒子の表面電荷を増加させることを特徴とする、ナノスケール固体粒子を含む組成物を調製する方法を提供する。
【0005】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、レオロジーの変化の現象は、粒子の表面電荷の、従って粒子のゼータポテンシャルの変化をもたらすpHの変化として説明することができると推測される。従って、粒子間の相互作用の力は影響を受け、または、所望の方向に導かれ、それによって、組成物のレオロジーに影響を及ぼす。使用されるナノスケール固体粒子(ナノ粒子)の非常に小さな寸法の結果として、それらの平均粒子間距離は、与えられた体積分率に対して比較的小さく、その結果、例えば、クーロン相互作用だけでなく、水素結合のような他の形態の相互作用が、顕著にあらわれる。
【0006】
本発明の表面電荷の増加により、そのような組成物のレオロジーに有利な影響を及ぼすことは、以下に説明された比較実験からも明白であり、それは図1及び2中で例証される。それらから、表面電荷(従ってゼータポテンシャル)を増加させるための塩基または酸の添加が、組成物のレオロジー挙動に、強い影響を与えることは明白である。より長く以下に説明されるように、増加は、当然のことながら、表面電荷の絶対量と関係する。
【0007】
先行技術組成物(図1)とは対照的に、本発明の組成物(図2)では、表面電荷の増加は、例えばエンボシングまたは印刷プロセスの場合に特に重要な、粘度の緩和時間の短縮(それは剪断速度の低下としてよりいっそう明白な)を、特にもたらす。非ニュートンコーティングについて、より長い緩和時間は、より迅速な構造の平滑化をもたらし、従って、より広がりやすい性質または形状の正確さの低下をもたらすため、短い粘度の緩和時間が一般に有利である。
【0008】
非ニュートン挙動を示す組成物及びそれらの調製のための手段は当業者によく知られている。例えば、非ニュートン材料は、フローにおいて理想的な粘度挙動を示さない。非ニュートン挙動を示す本発明の組成物は、好ましくは偽可塑性またはチキソトロピー性組成物である。組成物が非ニュートン組成物に変換されている場合、それはしばしばゲルの形態で存在し得る。
【0009】
組成物はマトリックスを形成する成分を含む。該マトリックスフォーマーは例えばバインダーであり得る。マトリックスフォーマーまたはバインダーとして、例えば、塗料またはワニスに使用されるような、当業者によく知られているものを使用することができる。これらは、例えば、有機ポリマーもしくは有機的にまたは非有機的に修飾された無機重縮合物に基づく、あるいは、それらの組み合わせである、マトリックスフォーマー及び/またはバインダーである。マトリックスフォーマーは、有機ポリマーもしくは有機的にまたは非有機的に修飾された無機重縮合物の前駆物質の形態でも使用することができる。マトリックスフォーマーまたはバインダーは、好ましくは架橋性である;すなわち、架橋を可能とする官能基を有する。マトリックスフォーマーまたはバインダーは、ナノ粒子が含まれているマトリックスを形成する。この種の系はナノコンポジットと称される。酸または塩基の添加に関連してレオロジーに影響を及ぼすナノ粒子と同様に、不活性なナノ粒子も、この文脈(context)において、当然のことながら存在することができ、それは後に説明されるだろう。
【0010】
マトリックスフォーマーまたは、バインダーとして、当業者に知られている有機ポリマー(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン(例えばポリブタジエン、ポリスチレン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニルのようなポリビニル化合物及び対応する共重合体(例えばポリ(エチレン−酢酸ビニル)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレートまたはポリジアリルフタレート)、ポリアリーレート、ポリカーボネート、ポリエーテル(例えばポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシドまたはポリフェニレンオキシド)、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエポキシド、及びフッ素重合体(例えばポリテトラフルオロエチレン))を使用することができる。それらの前駆物質を使用することも可能である。好ましくは、そこに架橋を可能とする官能基が存在する。
【0011】
純粋な無機重縮合物に基づくマトリックスフォーマーまたはバインダーは、加水分解性開始化合物、特に金属アルコキシドまたはアルコキシシランから形成し得る。使用することができる加水分解性開始化合物及びそれらの調製方法の例は、以下に示される。
【0012】
特に良い結果は、有機的に修飾された無機重縮合物(有機的に修飾されたセラミック(ormocers))、好ましくはポリオルガノシロキサンまたはそれらの前駆物質に基づくマトリックスフォーマーで得られる。さらなる改良は、有機的に修飾された無機重縮合物またはそれらの前駆物質が、架橋を可能とする官能基を含む有機基を含む場合に得られ得る。有機的に修飾された無機重縮合物に基づく、本発明に好適なバインダーは、例えば、DE19613645、WO92/21729及びWO98/51747に記載されており、参照により本明細書に組込まれる。これらの成分は、以下に詳しく説明される。
【0013】
有機的に修飾された無機重縮合物またはそれらの前駆物質は、特に、既知のゾル・ゲル法に従って、加水分解性開始化合物を加水分解及び縮合することによって調製される。この文脈において、前駆物質により、特に、前加水分解物(prehydrolysates)及び/または比較的低い縮合度を有する前縮合物(precondensates)が意味される。加水分解性開始化合物は、加水分解性基を含む元素化合物を含み、少なくともそれらの化合物のいくつかはさらに非加水分解性基またはそれらのオリゴマーを有する。好ましくは少なくとも50モル%、特に好ましくは少なくとも80モル%の使用される加水分解性開始化合物は、少なくとも1つの非加水分解性基を含む。
【0014】
有機的に修飾された無機重縮合物またはそれらの前駆物質を調製するために使用される加水分解性開始化合物は、特に、元素周期表の主族III、IV及びV族及び/または遷移族II〜Vの少なくとも一つの元素Mの化合物である。元素は好ましくは金属であり、それはここで、Si及びBを含む。化合物は、好ましくは、Si、Al、B、Sn、Ti、Zr、VまたはZn、特にSi、Al、TiまたはZr、もしくは2以上のこれらの元素の混合物の加水分解性化合物である。この点においては、当然のことながら、他の加水分解性化合物、特に、周期表の主族I及びII(例えば、Na、K、Ca及びMg)及び周期表の遷移族VI〜VIII(例えば、Mn、Cr、Fe及びNi)の元素の加水分解性化合物を同様に使用できることが示される。ランタニド元素の加水分解性化合物も使用し得る。しかしながら、最後に言及された化合物は、使用される加水分解性モノメリック(monomeric)化合物の合計の、好ましくは40モル%を超えない、特に好ましくは20モル%を超えない割合を占める。
【0015】
少なくとも1つの非加水分解性基を含んでいる加水分解性開始化合物としては、加水分解性オルガノシランまたはそれらのオリゴマーの使用が好ましい。従って、使用することができるオルガノシランはより詳細に以下に説明される。他の上述の元素に対応する加水分解性開始化合物は、適切な場合に元素の異なる原子価を計算にいれることにより、以下に列挙された加水分解性及び非加水分解性基から同じように得られる。
【0016】
1つの好ましいマトリックスフォーマーは、重縮合物またはそれらの前駆物質を含み、例えば、ゾル・ゲル方法によって、得ることができ、そして、1以上の一般式RSiX(4−a)(I)(ここで、基Rは同一または異なって非加水分解性基であり、基Xは同一または異なって加水分解性基またはヒドロキシル基であり、aは1、2または3、好ましくは1である。)のシランまたはそれらから得られるオリゴマーに基づく。
【0017】
一般式(I)において、加水分解性基X(互いに同一でも異なっていてもよい)は、例えば、水素またはハロゲン(F、Cl、BrまたはI)、アルコキシ(好ましくは、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ及びブトキシのような、C1−6アルコキシ)、アリールオキシ(好ましくは、例えばフェノキシのような、C6−10アリールオキシ)、アシルオキシ(好ましくは、例えばアセトキシ又はプロピオニルオキシのような、C1−6アシルオキシ)、アルキルカルボニル(好ましくは、例えばアセチルのような、C2−7アルキルカルボニル)、アミノ、好ましくは1〜12、特に好ましくは1〜6の炭素原子を有するモノアルキルアミノまたはジアルキルアミノである。好ましい加水分解性基は、ハロゲン、アルコキシ基及びアシルオキシ基である。特に好ましい加水分解性基は、C1−4アルコキシ基であり、特にメトキシ及びエトキシである。
【0018】
非加水分解性基R(互いに同一でも異なっていても良い)は、架橋を可能とする官能基
を含む非加水分解性基Rであり得、または官能基を有しない非加水分解性基Rであり得る。
【0019】
官能基を有しない非加水分解性基Rは、例えばアルキル(好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル及びt−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチルまたはシクロヘキシルのようなC1−8アルキル)、アリール(好ましくは、例えば、フェニル及びナフチルのようなC6−10アリール)、並びに、さらに対応するアルキルアリール及びアリールアルキルである。基R及びXは適切な場合、例えばハロゲンまたはアルコキシのような、1以上の慣用の置換基を含み得る。
【0020】
架橋を可能とする官能基の特定の例は、例えば、エポキシド、ヒドロキシル、エーテル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、必要に応じて置換されたアニリノ、アミド、カルボキシル、ビニル、アリル、アルキニル、アクリロイル、アクリロイルオキシ、メタクリロイル、メタクリロイルオキシ、メルカプト、シアノ、アルコキシ、イソシアナト、アルデヒド、アルキルカルボニル、酸無水物及びリン酸基である。これらの官能基は、アルキレン、アルケニレンまたはアリーレン架橋基(それらは酸素または−NH−基によってさえぎられ得る)を介してケイ素原子に結合される。ビニルまたはアルキニル基を含む非加水分解性基Rの例は、例えば、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル及びブテニルのようなC2−6アルケニル基、並びに、アセチレニル及びプロパルギルのようなC2−6アルキニル基である。上述の架橋基及び存在するいかなる置換基も、アルキルアミノ基の場合のように、例えば、上述のアルキル、アルケニルまたはアリール基から誘導される。もちろん、基Rはさらに1以上の官能基を含み得る。
【0021】
架橋を可能とする官能基を含む非加水分解性基Rの特定の例は、β−グリシジルオキシエチル、γ−グリシジルオキシプロピル、δ−グリシジルオキシブチル、ε−グリシジルオキシペンチル、ω−グリシジルオキシヘキシル、及び、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルのような、グリシジル−またはグリシジルオキシ−(C1−20)−アルキレン基、(メタ)アクリロイルオキシ−(C1−6)−アルキレン基(ここで(C1−6)−アルキレンは例えば、メチレン、エチレン、プロピレンまたはブチレンである)、及び、3−イソシアナトプロピル基である。
【0022】
対応するシランの特定の例は、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS)、γ−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルジメチルクロロシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−[N’−(2’−アミノエチル)−2−アミノエチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、ビス(ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン及び3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランである。本発明により使用することができる加水分解性シランのさらなる例は、例えば、EP−A−195493においてとりわけ見出すことができる。
【0023】
そのような官能基の好ましい例は、上述のグリシジルオキシ及び(メタ)アクリロイルオキシ基である。1つの好ましい実施形態において、加水分解性開始化合物に基づく有機的に修飾された無機重縮合物またはそれらの前駆物質は、架橋可能な官能基を含んでいる非加水分解性基を少なくとも1つ有する、少なくともいくつかの使用される加水分解性化合物とともに使用される。例えば、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも80モル%の使用される加水分解性開始化合物は、少なくとも1つのそのような架橋性の基を含む。特に好ましくは、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS)、γ−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン及び3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0024】
少なくとも一部にフッ素によって置換された有機基を含む、有機的に修飾された無機重縮合物またはそれらの前駆物質を使用することも可能である。この目的のために、炭素原子に結合し、好ましくはSiから少なくとも2原子隔てられている1〜30のフッ素原子を有する非加水分解基を少なくとも1つ有する加水分解性シランを使用することができる。この場合使用することができる加水分解性基は、例えば、一般式(I)中のXについて特定されたものを含む。フルオロシランの特定の例は、C−CHCH−SiZ、n−C13−CHCH−SiZ、n−C17−CHCH−SiZ及びn−C1021−CHCH−SiZ(Z=OCH、OCまたはCl);iso−CO−CHCHCH−SiCl(CH)、n−C13−CHCH−SiCl(CH)及びn−C13−CHCH−SiCl(CHを含む。この種のフルオロシラン使用の結果は、対応するコーティングが、さらに疎水性、疎油性の特性を与えられることである。この種のシランは、DE4118184に詳細に記述されている。
【0025】
既に上記で述べたように、有機的に修飾された無機重縮合物は、非加水分解性基を含まない加水分解性開始化合物を部分的に使用しても、調製し得る。使用することができる加水分解性基、及び使用することができる元素Mに関しては、上記の注釈を参照。この目的のためには、例えば、Si、Zr及びTiのアルコキシドを使用するのが特に好ましい。これらの化合物は、例えば、式MX(ここで、Mは上記で定義されたのと同様であり、Xは一般式(I)において定義されたのと同様であり、好ましくはハロゲンまたはアルコキシであり、そして、bは元素の原子価に対応する。)を有する。好ましい化合物は、式MX(M=Si、TiまたはZr)であり、特にSi(OMe)またはSi(OEt)である。排他的に非加水分解性基を有しないこれらの化合物が使用される場合、生成物は純粋に無機重縮合物である。非加水分解性な基を含まない加水分解性開始化合物を有する縮合物も、例えばWO95/31413(DE4417405)に、記載されている。
【0026】
マトリックスフォーマーは、加水分解性化合物から、特にゾル・ゲル法により得ることができる。ゾル・ゲル法(それはナノ粒子の調製のためにも使用することができる)において、適切な場合には酸性または塩基性触媒の存在下で、加水分解性化合物は水で加水分解され、そして必要であれば、少なくとも部分的に縮合される。加水分解及び/または縮合反応は、ヒドロキシルまたはオキソ基及び/またはオキソブリッジを有する化合物または縮合物の形成をもたらし、それらは前駆物質として役立つ。化学量論量の水だけでなく、より少量のまたはより多量の水も使用することができる。生じるゾルは、適切なパラメーター(例えば、縮合度、溶媒またはpH)によって、組成物について望ましい粘度に調節することができる。ゾル・ゲル法のさらなる詳細は、例えば、C. J. Brinker, G. W. Scherer:”Sol-Gel Science - The Physics and Chemistry of Sol-Gel Processing”, Academic Press, Boston, San Diego, New York, Sydney (1990)に記載されている。
【0027】
マトリックスフォーマーは、通常、溶媒を含み得る。好適に使用することができる溶媒は、水だけでなく有機溶媒または混合物を含む。これらは、コーティングの分野で使用される慣用の溶媒である。好適な有機溶媒の例は、アルコール、好ましくはメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール及び1−ブタノールのような低級脂肪族アルコール(C−Cアルコール)、ケトン、好ましくはアセトン及びメチルイソブチルケトンのような低級ジアルキルケトン、エーテル、好ましくはジエチルエーテルのような低級ジアルキルエーテル、またはジオールモノエーテル、ジメチルホルムアミドのようなアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、スルホキシド、スルホンまたはブチルグリコール及びそれらの混合物である。好ましくは、アルコールが使用される。高沸点の溶媒も使用することができる。ゾル・ゲル方法の場合には、溶媒は、適切な場合、加水分解中に形成されるアルコールであり得る。
【0028】
組成物中に存在するナノスケール固体粒子は、いかなる望ましい有機または無機材料からも構成され得る。有機固体粒子は、例えば、プラスチック[例えば、上記で言及された有機ポリマー(例えばカルボキシル基のような追加の官能基を含み得る)由来の]から構成され得る。しかしながら、好ましくは、ナノスケール固体粒子は無機性である。
【0029】
ナノスケール無機固体粒子は、好ましくは、金属または金属化合物、例えば、ZnO、CdO、SiO、TiO、ZrO、CeO、SnO、Al、In、La、Fe、CuO、Ta、Nb、V、MoOまたはWOのような、水和されていてもよい(possibly hydrated)酸化物;例えば、硫化物(例えばCdS、ZnS、PbS及びAgS)、セレン化物(例えばGaSe、CdSe及びZnSe)及びテルル化物(例えばZnTeまたはCdTe)のようなカルコゲニド、AgCl、AgBr、AgI、CuCl、CuBr、CdI及びPbIのようなハロゲン化物;CdCまたはSiCのようなカーバイド;AlAs、GaAs及びGeAsのようなヒ化物;InSbのようなアンチモン化物;BN、AlN、Si及びTiのような窒化物;GaP、InP、Zn及びCdのようなリン化物;ホスフェート、シリケート、ジルコネート、アルミネート、スズ酸塩、及び対応する混合酸化物(例えば、インジウム−錫酸化物(ITO)、アンチモン−錫酸化物(ATO)、のような金属−錫酸化物、フッ素ドープされた錫酸化物(FTO)、ZnドープされたAl、YまたはEu化合物を有する蛍光顔料、もしくは、BaTiO及びPbTiOのようなペロブスカイト構造を有する混合酸化物)から構成される。異なるナノスケール固体粒子の混合物を使用することも可能である。
【0030】
ナノスケール無機固体粒子は、好ましくはSi、Al、B、Zn、Cd、Ti、Zr、Ce、Sn、In、La、Fe、Cu、Ta、Nb、V、MoまたはW、特に好ましくはSi、Al、B、Ta、Ti及びZrの酸化物、酸化物水和物(oxide hydrate)、窒化物または炭化物を含む。酸化物または酸化物水和物を使用するのが特に好ましい。好ましいナノスケール無機固体粒子は、ベーマイト及びコロイド状のSiOのような、SiO、Al、ITO、ATO、Ta、AlOOH、ZrO及びTiOである。ナノ粒子は、市販されており、例えば;例えばナノスケールSiO粒子は、市販のシリカ製品(例えばLevasils(登録商標)のようなシリカゾル)、Bayer AGのシリカゾルまたはDegusaのAerosil製品を例とする熱分解法シリカである。ナノ粒子は、例えば、ゾル・ゲル法または当業者に知られている他の方法により調製することができる。
【0031】
ナノスケール固体粒子は、1μmより小さい、通常500nmより小さい平均粒径(X線ラジオグラフィーにより測定された体積平均)を有する。ナノスケール固体粒子は、好ましくは300nm以下、好ましくは200nm以下、そして、特に好ましくは50nm以下、及び、1nmより大きい、好ましくは2nmより大きい(例えば1〜20nm)、平均粒径(X線ラジオグラフィーにより測定された体積平均)を有する。この材料は粉末の形態で使用することができるが、好ましくはゾルまたは懸濁液の形態で使用される。
【0032】
ゾルまたは懸濁液に適した溶媒は、特定のナノ粒子に従い、そのようなゾルまたは懸濁液について選択される任意の溶媒である。溶媒は、好ましくはプロトン性溶媒、特に水またはアルコールである。好適な溶媒の例は、上に列挙されたものである。溶媒は、後に加えられるマトリックスフォーマーを溶解、懸濁または混合するためにも好適であるのが好ましい。
【0033】
ナノスケール固体粒子は、組成物の総重量に基づいて、例えば、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、さらに好ましくは少なくとも15重量%の量で存在することができる。ナノ粒子の密度に依存して、組成物は、50重量%までの、または75重量%までの、もしくはそれを超えるナノ粒子を含み得る。
【0034】
ナノスケール粒子は、炎熱分解、プラズマ処理、コロイド技術、ゾル・ゲル操作、制御された核形成及び成長操作、MOCVDプロセス並びにエマルジョンプロセスによるような従来の方法で製造することができる。これらのプロセスは、文献中に詳細に記載されている。
【0035】
特に重要な1つの実施形態において、ナノ粒子は表面改質形態であり得る。例えばWO93/21127(DE4212633)に記載されているように、ナノスケール固体粒子の表面改質は先行技術プロセスである。表面基が改質されたこの種のナノ粒子及びそれらの製造は、当分野で知られており、例えばWO98/51747(DE19746885)及びWO01/51220に記載されている。
【0036】
ナノ粒子は架橋された有機の表面基により表面改質され得る。しかしながら、表面基は、添加された酸または塩基による反応を受けることができ、その結果、この方法によりナノ粒子の電荷を変更することができる基が、特に好ましい。それを別のやり方でするために、表面基自体は、酸性または塩基性基(ルイスまたはブロンステッドによる酸/塩基機能)を有する。問題の基は、好ましくはプロトン性基である。プロトン性基は、(プロトン性溶媒と類似して)プロトンを含むまたは放出することができ、及び/または水素結合を形成することができる基を意味する。問題の基は、プロトトロピックな(prototropic)基でもあり得る。
【0037】
表面改質は、好ましくは、ナノ粒子が、表面基のpK値の関数として表面電荷効果を強めるまたは弱めることができる酸性または塩基性基の「シェル(shell)」で表面改質される、エレクトロステリック(electrosteric)表面改質である。
【0038】
表面基の適切な選択によりpHの関数として正確にナノ粒子間の相互作用を調節すること、及び、レオロジーを適応させることが、表面改質により可能となる。表面改質なしの場合、文献によって示される異なる粒子懸濁液のゼータポテンシャルのように、ある材料と別の材料とでは異なる物理定数である、粒子の化学的表面特性に依存することが必要である。したがって、表面改質により、例えば、カルボキシル基またはアミノ基はナノ粒子に適用することができ、そして、pH値のセットにおいて非常に異なる特性を生じさせ得る。
【0039】
表面改質されたナノスケール粒子の製造は当業者に知られており、原則として2つの異なる方法で行なうことができる:すなわち第1は、既に製造されたナノスケール固体粒子の表面改質により、そして第2は、表面改質に好適な1以上の化合物を使用してこれらの無機の固体粒子を製造することによる。後の表面改質について下記に明示された化合物もすべて、粒子製造中の直接の表面改質に適している。
【0040】
表面改質が既に製造されたナノスケール粒子上で実施される場合、少なくとも1つの反応可能な基、または、少なくともナノスケール固体粒子の表面に存在する(官能)基(例えば、酸化物の場合のOH基のような)と相互作用することができる基を有し、少なくとも1つの、好ましくは(表面電荷を形成するために)使用される酸または塩基と反応することができる官能基をさらに有する、二官能性の表面改質剤(例えば500より下の分子量を有する)は、この目的に適している。
【0041】
好ましくは、共有及び/または配位(coordinative)結合は、ナノ粒子との結合の発達のために形成される。ナノ粒子への結合をもたらす表面改質剤の官能基の例は、−SiX(ここで、Xは一般式(I)に定義されるのと同様であり、そして、好ましくはアルコキシであり、そして、cは1、2または3、好ましくは3である)、β−ジケトン基、カルボン酸基、アミノ基、アミノ酸残基、ラクタム基及びタンパク質構造である。必要であれば、真の二官能性表面改質剤のための適切なカップリング基を生じさせる目的で、一次(primary)表面改質を行うこともできる。
【0042】
好ましくは表面電荷を増加させるために使用される酸または塩基との反応を生じることができる第2の基は、例えば、酸性/塩基性の作用を有する基もしくはプロトトロピックな(prototropic)またはプロトン性基であり得、例としては、例えば、−COOH、−SOH、−POOHまたはCH−酢酸基のような酸残基、ルイス酸性またはルイス塩基性基、アミン、アンモニウム基、SiO基、AlOOH基及び他の両性酸化物である。
【0043】
ナノスケール固体粒子の表面改質のために使用することができる有機化合物の特定の例は、例えば、飽和または不飽和のジカルボン酸、アミノカルボン酸、ジアミン、カルボキシルまたはアミノ基のような、好適な官能基を基Rに有する上述の一般式(I)のシラン、β−カルボニルカルボン酸のような、好適な官能基を有するβ−ジカルボニル化合物、及びこれらに類するものである。
【0044】
本発明によると、ナノ粒子の表面電荷は、絶対値としてのゼロポイントの関数として、酸または塩基の添加及び反応によって増加される。当業者は、粒子の表面が一般に比較的反応性の基を通常有していることを認識している。そのような粒子上に存在する表面基の例は、金属酸化物粒子の場合には、例えば、ヒドロキシル基及びオキシ基のような、または、金属硫化物の場合には、例えば、チオール基及びチオ基、または、窒化物の場合には、例えば、アミノ、アミド及びイミド基のような、残余原子価(residue valencies)を含む。酸/塩基と反応することができる表面基のこの取り合わせは、上記の表面改質を用いて、及び、特定の必要条件に適当な方法により、目的にかなうように拡張することができる。
【0045】
アニオン及び/またはカチオン基の存在の結果、ナノ粒子は一般に明確な表面電荷を有する。本発明によれば、pHの変更により、及び/または、塩基または酸を添加することにより、その表面電荷調節することができるナノ粒子が使用される。問題の反応は、例えば、負の電荷を帯びたOの表面基を形成する、ナノ粒子上のヒドロキシル基を有する塩基の反応であり得る。反対に、例えば、カチオン表面基は、酸−アンモニウム基から生成され得る。それに代わって、または加えて、反応は、上述の表面改質されたナノ粒子の表面基で起こり得る。本発明によれば、ナノ粒子の表面電荷は、酸または塩基との反応によって増加される。
【0046】
ここでの増加は、当然のことながら、粒子上に存在する全ての電荷の絶対値をいう。酸または塩基との反応によって、表面電荷の符号も変わり得、本発明によれば、重要な要素は絶対値である。従って、最初の粒子が正の総表面電荷を有する場合、負の総表面電荷は、その絶対値が最初の粒子(例えば|−10|>|+5|)の場合よりも大きければ、酸/塩基との反応の結果として、表面電荷の増加にうまく結びつき得る。
【0047】
表面電荷の1つの基準は、ゼータポテンシャルであり、それは当業者によく知られている。与えられたいかなる材料についても、ゼータポテンシャルは、粒子表面の化学的性質の関数であり、そして、pHの変化は表面電荷の変化をもたらし得るので、ゼータポテンシャルは、pH経由で大きさを変え得る。酸または塩基は、ナノスケール粒子のゼータポテンシャルが、好ましくは、0.3mV以下または+3mV以上、より好ましくは、さらに−1.0mV以下または+1.0mV以上であるような方法で添加される。表面電荷の増加に従って、塩基または酸の添加は、ゼータポテンシャルの絶対値を増加させる。
【0048】
ゼータポテンシャルを決定するための測定法は当業者に知られている。本発明では、ゼータポテンシャルは、電場(直流)におけるナノ粒子の速度を測定(電気泳動)することにより決定された。測定は、例えば、音泳動(acoustophoresis)によって行うことができる。ゼータポテンシャルは調製された組成物上で測定される。
【0049】
酸または塩基は、表面電荷を増加させるのに好適な、当業者に知られているいかなる化合物でもあり得る。問題の化合物は、ルイス酸またはルイス塩基であり得、特に、ブロンステッド酸またはブロンステッド塩基であり得る。酸の例は、塩酸、リン酸、酢酸、ギ酸またはアンモニウム塩である。塩基の例は、アンモニア、アミン及び第4級アンモニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、NaOH及びKOHのようなアルカリ金属水酸化物、並びに、Ca(OH)のようなアルカリ土類金属水酸化物である。好ましい塩基は、第4級アンモニウム水酸化物、例えば、NR’OH(ここでR’は、同一または異なって、例えば1〜6の炭素原子を有するアルキル、例えば5〜12の炭素原子を有するシクロアルキル、または、例えば6〜12の炭素原子を有するアリール基であり、または、窒素原子は、複素環、例えばイミダゾリニウムまたはピリジニウム化合物の一部であり得る)である。アミンの例は、式NR’’を有し、ここでR’’はHまたは上記で定義されたR’である。
【0050】
負の表面電荷(負のゼータポテンシャル)を生じるためには、塩基を使用するのが好ましい。その強さと量の点では、例えば、表面電荷が適切に増加されるように、使用される塩基または酸は選択される。有利な酸/塩基及びその適切な量は、使用される材料、これらの材料の量及び特定の必要条件、特に非ニュートン挙動に依存し、本発明に基づき、当業者によって容易に決定できる。
【0051】
表面基との反応による表面電荷の増加を目的とした、ナノ粒子への酸または塩基の添加は、非ニュートン組成物の調製の間の、いかなる所望の時にも行うことができる。好ましくは、添加は、ナノ粒子のゾルに対して行われ、言い換えれば、マトリックスフォーマーとの混合に先立って行われる。酸/塩基の反応を促進するために望まれれば、加熱は可能であるが、一般に加熱の必要はない。
【0052】
組成物中の非ニュートン挙動の発現は、使用される成分間の、及び/または溶媒含量の複雑な相互作用の結果である。これは当業者に知られている。非ニュートン挙動を得るために、例えば、溶媒を除去することが必要となり得る。本発明によって、当業者は、他の既知の手段と組み合わせて組成物のレオロジーを所望の状態にするための他のパラメーター(すなわちナノ粒子の表面電荷の増加)を提供される。
【0053】
組成物中には、目的及び所望の特性に従って当分野で通常添加される、さらなる添加剤が存在し得る。特定の例は、チキソトロープ剤、架橋剤、溶媒、上記で言及した例えば、有機及び無機の有色顔料、金属コロイド、光学的機能の担体として例えば、染料、UV吸収剤、潤滑剤、レベリング剤(leveling agent)、湿潤剤、接着促進剤、不活性なナノ粒子及び開始剤である。
【0054】
不活性なナノ粒子は、本発明の組成物が効を奏する条件下で、酸または塩基と反応せず、従って、その表面電荷が変化しないナノスケール固体粒子である。組成物のレオロジーは、少なくとも酸または塩基の添加の関数としては、不活性なナノ粒子によって変化しない。ナノ粒子に好適な材料は、原則として、規定された制限を伴って、上述の全てのナノ粒子のための材料を含む。
【0055】
開始剤は、熱によりまたは光化学的に引き起こされる架橋のために役立ち得る。好適な開始剤は、当業者によく知られている開始剤/開始剤システムをすべて含み、フリーラジカル光開始剤、フリーラジカル熱開始剤、カチオン性光開始剤、カチオン性熱開始剤及びこれらのいかなる任意の組み合わせをも含む。
【0056】
架橋剤として、少なくとも2つの官能基を有する、当分野で慣用の有機化合物を使用することができる。当然、官能基は、組成物の架橋がそれらを介して起こることができるよう、適切に選択されるべきである。
【0057】
有機的に修飾された無機のバインダーは、適切な場合には、添加剤として、適切な場合には架橋のための官能基を有する有機ポリマーをさらに含み得る。言及し得る例は、上記の有機ポリマーの例である。
【0058】
上記で説明されるように、当業者は非ニュートン挙動を得るための手段を認識している。そのような手段についての特定の範囲は、例えば、WO01/51220で見出すことができる。既に使用(例えば、コーティングに)された後、組成物は単に非ニュートン性になり得る。例えば、組成物は基材に塗布することができ、塗布後まで、例えば溶媒の除去によって、非ニュートン組成物に変換されることができない。組成物はその後、非ニュートン状態で、例えばエンボシングまたは印刷により、さらに処理される。
【0059】
この種の非ニュートン組成物は、使用の多様な可能性を有する。組成物は、例えばスロットコーティング、ナイフコーティングまたはブラッシングのようなコーティングのために、またはフィルムキャスティングのために、または印刷ペーストとして好適であり、
上記で説明されるように、組成物が基材に塗布された後まで、非ニュートン挙動は発現し得ない。発明のプロセスによるレオロジーに対するコントロールは、とりわけ表面レリーフに、特に微細構造表面レリーフのコーティングに好適である。これらは、例えば、WO01/51220に記述されたプロセスによって得られ得る。
【0060】
組成物が、コーティング組成物として、または印刷インクとして基材に塗布される場合、いかなる任意の基材をも使用し得る。そのようなものの例は、例えば、金属、ガラス、セラミック、紙、プラスチック、織物または木のような天然材料である。言及し得る金属基材の例は、銅、アルミニウム、黄銅、鉄及び亜鉛を含む。プラスチック基材の例は、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリレート及びポリエチレンテレフタレートである。基材は、例えば、シートまたはフィルムのような任意の形態であり得る。当然のことながら、表面処理された基材は、微細構造化された表面(例えば、ペイントされた(painted)、または金属化された表面)を製造するのに好適である。
【0061】
組成物は従来の方法で塗布することができる。この場合、ウェットケミカルコーティング法(wet-chemical coating method)を使用することができる。例は、スピンコーティング(spin coating)、(電気)堆積コーティング((electro) deposition coating)、ナイフコーティング(knife coating)、スプレー(spraying)、吹き付け(squirting)、流し込み(pouring)、はけ塗り(brushing)、フローコーティング(flow coating)、フィルムキャスティング、ブレードコーティング(blade coating)、スロットコーティング(slot coating)、メニスカスコーティング(meniscus coating)、カーテンコーティング(curtain coating)、ローラー塗布(roller application)もしくはスクリーン印刷またはフレキソ印刷のような慣用の印刷方式である。好ましくは、平面スプレー(flat spraying)、フレキソ印刷、ローラー塗布またはウェットケミカルコーティングテクニック(wet-chemical film coating technique)のような連続的なコーティング法である。
【0062】
表面レリーフは、印刷及びエンボシングプロセスにより好適に生産される。好適な印刷プロセスは、文字プレス及びグラビア印刷の全ての慣用のプロセス、特にスクリーン印刷プロセスを含む。
【0063】
好ましくは微細構造化された表面レリーフが製造される場合、塗布された組成物におけるエンボシングは、慣用のエンボシングデバイスにより行われる。これは例えば、ダイまたはローラーであり得る。既知のエンボシングプロセスの詳細は、例えば、WO01/51220で見出すことができる。
【0064】
当分野で知られているのは、ホットエンボシング及びリアクティブエンボシング(reactive embossing)である。エンボシングデバイスがコーティング組成物中に存在する間に硬化(curing)が起こるリアクティブエンボシングとは対照的に、本発明の組成物では、本発明によりもたらされる非ニュートン挙動により、エンボシングデバイスがコーティング組成物から取り除かれるまで硬化を行う必要がない。その後の硬化は、例えば、放射架橋(radiation crosslinking)、好ましくはUV放射(UV radiation)による照射(irradiation)によって行われる。この方法では、非常に高い処理速度を達成することができる。
【0065】
組成物の特定の使用に関係なく、それは最終硬化(final curing)または圧縮ステップにより完了される。硬化は、好ましくはマトリックスフォーマー中に存在する官能基による架橋を包含する。硬化は、特に熱硬化、放射硬化、またはそれらの組み合わせの形態で行われる。好ましくは、UV硬化である。
【0066】
不透明または透明な、導電性、光伝導性または断熱性の、コーティングまたは材料が得られるように、組成物は選択することができる。それは、透明コーティングを製造するためのホログラフィック塗布(holographic application)を含む光学的塗布(optical application)について特に好ましい。
【0067】
本発明の組成物は、光学的または電子的な微細構造を製造するために、微細構造化された表面レリーフを有するコーティングされた基材に、利点を伴って使用することができる。例は、マイクロレンズ及びマイクロレンズアレイ、フレネルレンズ、マイクロフレネルレンズ及びアレイのような光学部品、光ガイドシステム、光学導波管及び導波管部品、光学格子、回折格子、ホログラム、データ保存メディア、デジタル式の光学読み取りメモリ、抗反射(モスアイ(motheye))構造、光起電性塗布(application)のための遮光装置(light trap)、ラベリング、エンボシングされた防眩コーティング、マイクロリアクター、マイクロタイタープレート、空気力学的及び流体力学的表面並びに特殊な触知性を備えた表面上のレリーフ構造、透明な導電性レリーフ構造、PCまたはPMMAシート上の光学的レリーフ、セキュリティマーク(security mark)、交通標識のための反射コーティング、フラクタル下部構造(ハス葉構造)を有する確率的な微細構造、及び、半導体材料のパターン成形のためのエンボシングされた抵抗構造である。
【0068】
ガラス上に製造されることができるホログラフィック光学マイクロパターンは、例えば、建築上のガラスの取り付けのため、装飾目的のため、製品の識別のための光ガイドとして、もしくは、ウィンドウ内の画像スクリーンのため、または、自動車及び航空機での実用におけるヘッドアップディスプレイのためのホログラフィックミラーとして、好適である。そのようなパターンの例は、それらの機械可読性及びすばらしい光学的特性である。プレーナー化(planerization)については、実例は、耐摩耗性とコピープロテクトを改善するための、異なる屈折率を有するトップコートにより与えられる。
【0069】
本発明の組成物は、比較的低い粘度及びガラスに対して低い屈折率を有し、フレキシブルダイを使用して処理することもできる材料を、エンボシングに好適にする。
【0070】
以下の実施例は、本発明をさらに例証するのに役立つ。
【実施例】
【0071】
A)調製
a)コーティング組成物の調製
ナノスケールSiOゾルを得るために、20.48g(0.098mol)のテトラエチルオルトシリケート(TEOS)を50.85gのエタノールに添加する(溶液A)。1.75gの1モーラーアンモニア溶液を34.41gの水で希釈する(溶液B)。1時間を通じて溶液Bへ溶液Aを添加することにより、加水分解及び前縮合(precondensation)が起こる。70℃で24時間後、5nmの平均粒子半径を有するナノ粒子が、5.5重量%の固体含有量を有するゾル中に形成される。
【0072】
コーティングマトリックスは、236.12g(1モル)の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTS)に27g(1.5モル)の水を添加することにより、調製された。還流下で24時間加熱した後、減圧蒸留により溶媒(メタノール)を除去した。
【0073】
ナノスケールSiO粒子のゼータポテンシャルを変更するため、24mg、48mg、192mg及び216mgのテトラヘキシルアンモニウム水酸化物(THAH、40%水溶液)をそれぞれ、25℃で30分以上、勢いよく攪拌しながら、107.5gの得られたSiOゾルに添加した。2.5gのGPTSゾルを該混合物に添加し、攪拌を30分間行った。24mgのTHAHで8.4、48mgのTHAHで9.2、192mgのTHAHで9.8及び216mgのTHAHで10.4のpHを有するGPTS/SiO/THAHゾルが得られた。
【0074】
剪断速度の関数としての粘度は、回転粘度計(Physica; Rheolab MC 120)を使用して測定された。ゼータポテンシャルは、Zetasizer ESA−Sample SSP−1、MATEC(電場(直流)での音泳動(acoustophoresis)測定によるナノ粒子の速度)を使用して測定された。
【0075】
B)非ニュートン挙動の評価
上記で調製されたSiO粒子を有する組成物は、剪断応力速度の関数として粘度を測定することにより、それらの非ニュートン挙動に関して分析された。図1は、表面電荷の増加を伴わない先行技術の組成物の結果を示し、図2は、可変量の塩基(THAH)と反応された本発明の組成物について得られた結果を示す。
【0076】
従って、SiOナノ粒子含有量が20重量%に達する場合、図1に示される先行技術の組成物は、初期領域における増加から明白に、偽可塑性の挙動を示す。観察されたカーブの上昇は、SiO30重量%の場合よりも、20重量%のSiOナノ粒子を含む組成物について非常に急激である。このことは、より大きな偽可塑性効果を有する組成物(30重量%)が、より長い粘度の緩和時間を示すことを意味する。
【0077】
図2に示されているのは、30重量%のSiOナノ粒子含み、24mg、48mgまたは192mgのTHAHをそれぞれ添加した、本発明の組成物である。ゼータポテンシャルの測定は、THAHが24mgの組成物について−5.0mV、48mgについて−12.3mV、及び、192mgについて−14.7mVの結果を与えた。これらの組成物で、結果は、上昇及び下降剪断速度において異なっており、その結果、それぞれのカーブは2つの枝を形成する;すなわち、その挙動はチキソトロピー性であった。低い剪断速度の領域では、ゾルは、−5mVのゼータポテンシャルで70Pa・s、−12.3mvのゼータポテンシャルで78Pa・s、及び−14.7mVのゼータポテンシャルで93Pa・sの粘度を有する。D=100[1/s]において、18Pa・sのずれが存在し、それは測定精度の範囲内である。
【0078】
図1の結果との比較は、偽可塑性効果のレベルが、匹敵するまたはわずかに増加することを示す。特に、本発明の組成物については、THAHの添加の増加に伴う上昇が、先行技術についてよりも、はるかに急激である。これは、下降剪断速度についての枝の場合に特に明白であり、それはエンボシング操作にとって特に重要な意義を持つ。これは、塩基を添加することによって、より短い緩和時間を得ることができ、最も短い緩和時間は最も高いTHAH添加量について観察されることを意味する。
【0079】
構造化について、ダイが硬化前に除去されるのであれば、高い偽可塑性効果及び短い緩和時間は効果的な構造化を可能にするために必要である。長い緩和時間は、エンボシングデバイスの除去から硬化までの期間における、エンボシングされた構造のより速やかな平滑化につながり、それによって、該構造の精密性を損なう。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、表面電荷の増加を伴わない先行技術の組成物の結果を示す。
【図2】図2は、可変量の塩基(THAH)と反応させられた本発明の組成物について得られた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の表面電荷が、酸または塩基との反応により増加されていることを特徴とする、マトリックスフォーマー及びナノスケール固体粒子を含み、非ニュートン挙動を示す組成物。
【請求項2】
粒子の表面電荷が、ゼータポテンシャルの絶対値が増加されるような方法で、酸または塩基との反応により増加されたことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ナノスケール固体粒子が、組成物の全重量の少なくとも5重量%を構成することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
マトリックスフォーマーが、架橋性マトリックスフォーマーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
マトリックスフォーマーが、有機ポリマーまたは有機的に修飾された無機重縮合物もしくはそれらの前駆物質であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
有機的に修飾された無機重縮合物またはその前駆物質が、ポリオルガノシロキサンまたはその前駆物質であることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
有機ポリマーまたは有機的に修飾された無機重縮合物もしくはそれらの前駆物質が、架橋を可能とする官能基を有する有機基を含んでいることを特徴とする、請求項3〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
ナノスケール固体粒子が、金属酸化物粒子、特に、SiO、Al、ITO、ATO、AlOOH、Ta、ZrO及び/またはTiOであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
該組成物が、不活性なナノスケール固体粒子をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
ナノスケール固体粒子が、200nm以下の平均粒径(X線ラジオグラフィーにより測定された体積平均(volume mean))を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
ナノスケール固体粒子が、表面改質された形態、好ましくはエレクトロステリック(electrosteric)基及び/またはプロトン性基であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
該組成物が、チキソトロピー性または偽可塑性であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
コーティングまたはフィルムキャスティング用の組成物あるいは印刷用ペーストであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
塩基または酸を添加することにより粒子の表面電荷が増加されることを特徴とする、マトリックスフォーマー及びナノスケール固体粒子を含む組成物を調製する方法であって、ここで、該固体粒子または該固体粒子のゾルがマトリックスフォーマー及び、必要であれば溶媒と混合され、適切な場合には溶媒が一部または完全に除去された後に、非ニュートン挙動を示す組成物を与える、方法。
【請求項15】
固体粒子の表面電荷が、酸または塩基を添加することにより、マトリックスフォーマーが添加される前に固体粒子のゾル中で増加されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ゾルが、プロトン性溶媒(該溶媒中においてマトリックスフォーマーが溶解性または分散性である、もしくは該溶媒とマトリックスフォーマーが混和性である)を含むことを特徴とする、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
酸が、表面電荷を増加させるために使用されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
塩基が、表面電荷を増加させるために使用され、好ましくはアミンまたは第四級アンモニウム水酸化物であることを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
組成物が基材(substrate)に塗布され(applied)、その後非ニュートン化されることを特徴とする、請求項14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
粒子の表面電荷が塩基または酸を添加することにより増加させられることを特徴とする、マトリックスフォーマー及びナノスケール固体粒子を含む組成物のレオロジー挙動を調節する方法であって、ここで、該固体粒子または該固体粒子のゾルが、マトリックスフォーマー及び、必要であれば溶媒と混合され、適切な場合には溶媒が一部または完全に除去された後に、非ニュートン挙動を示す組成物を与える、方法。
【請求項21】
コーティングが、硬化(cured)または圧縮(compacted)された請求項1〜13に記載の組成物である、コーティングされた基材。
【請求項22】
コーティングが、微細構造化された表面レリーフ(microstructured surface relief)を有することを特徴とする、請求項21に記載のコーティングされた基材。
【請求項23】
ホログラフィック、エレクトロニック、マイクロメカニカル及び/または防汚(dirt repellency)用途(application)を含む、光学的用途のための、請求項21または22に記載の基材の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−513207(P2007−513207A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529914(P2006−529914)
【出願日】平成16年5月25日(2004.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005619
【国際公開番号】WO2004/104082
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(500449008)ライプニッツ−インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク (22)
【Fターム(参考)】