説明

非ニュートン流体の粘度測定方法及びこれを用いた非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法

【課題】補正式が存在しない回転体を用いる場合であっても、非ニュートン流体の正確な粘度及びせん断粘性を求めることができる。
【解決手段】非ニュートン流体である測定試料2を収容可能な収容容器10と、収容容器10内に中心軸が共通するように設けられ、測定試料2に浸漬された状態で回転する回転体20とを備える回転式粘度計1を用いて測定試料2の粘度を測定する方法であって、回転体20の形状に対応した非ニュートン流体補正式を導出する非ニュートン流体補正式導出工程と、測定試料2から測定されたせん断速度を実測見かけせん断速度と仮定し、非ニュートン流体補正式を用いて、測定試料2の実測見かけせん断速度を非ニュートン流体せん断速度に補正する非ニュートン流体せん断速度算出工程と、非ニュートン流体せん断速度を用いて測定試料2の非ニュートン流体粘度を算出する非ニュートン流体粘度算出工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ニュートン流体である測定試料の粘度及びせん断粘度特性を回転式粘度計を用いて測定及び算出する非ニュートン流体の粘度測定方法及びこれを用いた非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、流体の粘度を測定するための粘度計として、例えば共軸円筒形粘度計が用いられている(特許文献1)。この共軸円筒形粘度計100は、例えば図9に示すように、流体を収容する有底円筒状の収容容器110と、この収容容器110と中心軸が共通するように設けられ、収容容器110内の流体中で回転する円柱状の回転体120とを備え、この回転体120に対する回転抵抗又は回転体120に生じる回転トルクから流体の粘度を算出するものである。
【0003】
しかしながら、従来の共軸円筒形粘度計100では、せん断速度によって粘度が変化する非ニュートン流体の性質を有する流体については、収容容器10内で流体を均一なせん断速度とすることができないため、正確な粘度を求めることが難しいという問題がある。
【0004】
このため、従来から、このような共軸円筒形粘度計100により非ニュートン流体の粘度を測定する際には、共軸円筒形粘度計100により測定したせん断速度を実測見かけのせん断速度と仮定して、この実測見かけのせん断速度を例えば下記補正式(0)のような補正式を用いて非ニュートン流体のせん断速度に補正し、この非ニュートン流体せん断速度と、回転体120の壁面に作用する壁面応力とから、非ニュートン流体の粘度を計算により求めている(非特許文献1)。
【0005】
【数1】

【0006】
【数2】

【0007】
【数3】

【0008】
【数4】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−76280号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本レオロジー学会編、「講義・レオロジー 第1版第3刷」、西口守 (株)高分子刊行会発行、1996年11月1日発行、第66頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の補正式(0)は、従来の共軸円筒形粘度計100のような、回転体120の半径Rと回転体120の中心軸から収容容器110の内壁までの距離Rとの差が小さい、円柱状の回転体120を用いた場合の補正式であり、円柱状以外の複雑な形状の回転体を使用する場合や、回転体の半径Rと回転体の中心軸から収容容器の内壁までの距離Rとの差が大きい場合には、当該補正式を用いることができないという問題がある。このため、円柱状以外の形状の回転体を使用する場合には、その形状に対応した補正式が存在せず、これにより、多くの材料の粘度を測定して補正式を実験的に求める必要があるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、補正式が存在しない回転体を用いる場合であっても、非ニュートン流体の正確な粘度及びせん断粘性を求めることができる非ニュートン流体の粘度測定方法及びこれを用いた非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明に係る非ニュートン流体の粘度測定方法は、非ニュートン流体である測定試料を収容可能な収容容器と、前記収容容器内に中心軸が共通するように設けられ、前記測定試料に浸漬された状態で回転する回転体とを備える回転式粘度計を用いて前記測定試料の粘度を測定する方法であって、前記回転体の形状に対応した、補正式(1)のパラメータαが特定された非ニュートン流体補正式を導出する非ニュートン流体補正式導出工程と、前記測定試料から測定されたせん断速度を実測見かけせん断速度と仮定し、前記非ニュートン流体補正式を用いて、前記測定試料の実測見かけせん断速度を非ニュートン流体せん断速度に補正する非ニュートン流体せん断速度算出工程と、前記非ニュートン流体せん断速度を用いて前記測定試料の非ニュートン流体粘度を算出する非ニュートン流体粘度算出工程とを備え、前記非ニュートン流体補正式導出工程は、任意のシミュレーションにより、任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた、非ニュートン流体である評価試料の理想のせん断速度を求める理想せん断速度算出工程と、前記理想せん断速度及び任意の粘度式から、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた壁面応力を求める壁面応力算出工程と、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた見かけせん断速度及び前記壁面応力から、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた見かけ粘度を求める見かけ粘度算出工程と、前記見かけせん断速度、前記見かけ粘度、前記壁面応力及び補正式(1)を用いて、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた見かけせん断速度を、パラメータαが特定されていない非ニュートン流体せん断速度に補正する非ニュートン流体せん断速度補正工程と、前記理想せん断速度算出工程、前記壁面応力算出工程、前記見かけ粘度算出工程及び前記非ニュートン流体せん断速度補正工程を2以上の回転速度について行い、これにより求められた各理想せん断速度と、パラメータαが特定されていない各非ニュートン流体せん断速度とが一致する最適なパラメータαを求めるパラメータ算出工程と、前記パラメータαを補正式(1)に導入して非ニュートン流体補正式とするパラメータ導入工程とを備えることを特徴とする。ここで、実測見かけせん断速度、見かけせん断速度及び見かけ粘度とは、非ニュートン流体のせん断速度及び粘度をニュートン流体のせん断速度及び粘度と仮定して取り扱う場合のせん断速度及び粘度のことをいい、非ニュートン流体せん断速度及び非ニュートン流体粘度とは、実測見かけせん断速度、見かけせん断速度及び見かけ粘度を所定の補正式を用いて非ニュートン流体のせん断速度及び粘度に補正したもののことをいい、理想せん断速度とは、任意のシミュレーションにより求めた非ニュートン流体の理想的なせん断速度のことをいい、壁面応力とは、非ニュートン流体中における回転体の壁面に作用する応力のことをいう。また、測定試料とは、実際に非ニュートン流体粘度を測定しようとする試料のことをいい、評価試料とは、シミュレーションを稼働させるために必要な各パラメータが定められることによって規定される試料のことをいう。
【0014】
【数5】

【0015】
【数6】

【0016】
【数7】

【0017】
【数8】

【0018】
また、本発明に係る非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法は、上記非ニュートン流体の粘度測定方法の前記非ニュートン流体せん断速度算出工程により求められた2以上の非ニュートン流体せん断速度と、前記非ニュートン流体粘度算出工程より求められた2以上の非ニュートン流体粘度とから、前記測定試料のせん断粘度特性を求めることを特徴とする。
【0019】
このように、本発明に係る非ニュートン流体の粘度測定方法によれば、シミュレーションにより求めた理想せん断速度を基に、回転体の形状に応じた最適な非ニュートン流体補正式を導出し、この非ニュートン流体補正式を用いて、測定試料から実際に測定した見かけせん断速度を非ニュートン流体せん断速度に適切に補正して、正確な非ニュートン流体粘度を算出することが可能となるため、補正式が存在しない回転体を用いる場合であっても、非ニュートン流体の正確な粘度を測定することができる。また、本発明に係る非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法によれば、非ニュートン流体補正式を用いて求められた正確な非ニュートン流体せん断速度及び非ニュートン流体粘度を用いて非ニュートン流体のせん断粘度特性を求めるため、補正式が存在しない回転体を用いる場合であっても、非ニュートン流体の正確なせん断粘度特性を導出することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、補正式が存在しない回転体を用いる場合であっても、非ニュートン流体の正確な粘度及びせん断粘度特性を求めることができる非ニュートン流体の粘度測定方法及びこれを用いた非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】回転式粘度計の概略構成を説明するための説明図である。
【図2】シミュレーションに用いた回転式粘度計の形状モデルを示す説明図である。
【図3】シミュレーションに用いた粘度モデル(せん断粘度特性)を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるせん断速度の回転速度−せん断速度特性を示すグラフである。
【図5】実施例2におけるせん断速度の回転速度−せん断速度特性を示すグラフである。
【図6】比較例1におけるせん断速度の回転速度−せん断速度特性を示すグラフである。
【図7】比較例2におけるせん断速度の回転速度−せん断速度特性を示すグラフである。
【図8】回転体の形状の他の例を示す説明図である。
【図9】従来の回転式粘度計の概略構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係るせん断粘度特性算出方法について、図面に基づいて説明する。本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法は、図1に示すような、測定対象となる測定試料(非ニュートン流体)2を収容可能な収容容器10と、収容容器10内に中心軸が共通するように設けられ、測定試料2に浸漬された状態で回転する回転体20とを備える回転式粘度計1に応じた非ニュートン流体補正式を適切な方法で導出し(非ニュートン流体補正式導出工程)、この非ニュートン流体補正式を適宜用いて非ニュートン流体のせん断速度及び粘度を算出し(非ニュートン流体せん断速度算出工程及び非ニュートン流体粘度算出工程)、これら算出された非ニュートン流体せん断速度及び非ニュートン流体粘度を用いて非ニュートン流体の正確なせん断粘度特性を算出するものである。以下、本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法について、非ニュートン流体補正式導出工程、非ニュートン流体せん断速度算出工程、非ニュートン流体粘度算出工程及び非ニュートン流体せん断粘度特性算出工程に分けて詳細に説明する。また、以下、実測見かけせん断速度、見かけせん断速度及び見かけ粘度とは、非ニュートン流体のせん断速度及び粘度をニュートン流体のせん断速度及び粘度と仮定して取り扱う場合のせん断速度及び粘度のことをいい、非ニュートン流体せん断速度及び非ニュートン流体粘度とは、実測見かけせん断速度、見かけせん断速度及び見かけ粘度を所定の補正式を用いて非ニュートン流体のせん断速度及び粘度に補正したもののことをいい、理想せん断速度とは、シミュレーションにより求めた非ニュートン流体の理想的なせん断速度のことをいい、壁面応力とは、非ニュートン流体中における回転体の壁面に作用する応力のことをいうものとする。また、測定試料2とは、実際に非ニュートン流体せん断速度、非ニュートン流体粘度及びせん断粘度特性を測定しようとする試料のことをいい、評価試料3とは、シミュレーションを稼働させるために必要な各パラメータが定められることによって規定される試料のことをいう。
【0023】
[非ニュートン流体補正式導出工程]
本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法の非ニュートン流体補正式導出工程は、概略的には、シミュレーションにより求めた理想せん断速度を基に、回転式粘度計1の回転体20の形状に応じた最適な非ニュートン流体補正式を導出する工程であり、主に、理想せん断速度算出工程、壁面応力算出工程、見かけ粘度算出工程、非ニュートン流体せん断速度補正工程、パラメータ算出工程及びパラメータ導入工程からなる。
【0024】
理想せん断速度算出工程は、例えばPolyflow(アンシス・ジャパン株式会社製)等の市販の流動解析ソフトを用いたシミュレーションによって、回転体20の形状及び回転体20の回転速度に応じた、任意の評価試料(非ニュートン流体)3の理想的なせん断速度を求める工程である。この理想せん断速度は、種々の方法で算出可能であるが、例えばPolyflow(アンシス・ジャパン株式会社製)を用いる場合には、例えば収容容器10の形状、回転体20の形状及び評価試料3の体積等を設定することにより解析形状モデルを設定すると共に、例えば下記式(5)に示す指数則モデル等の任意の粘度式(粘度モデル)を設定することによって算出することができる。ここで、η、λは、それぞれ粘性係数、緩和時間を表しており、また、nは、せん断速度による粘度変化を決定するための任意の値であり、この値が小さい程非ニュートン性が強いことを意味している。これらのパラメータは、いずれも評価試料3として用いる材料に応じて適宜選択されるものである。なお、粘度の大きさはパラメータηで調節可能であり、せん断速度による粘度変化はパラメータnで調節可能であるため、パラメータλ(緩和時間)は、省略することができる。
【0025】
【数9】

【0026】
壁面応力算出工程は、理想せん断速度算出工程により求められた所定の回転速度(以下、「第1回転速度」という)における理想せん断速度と、任意の粘度式とから、第1回転速度において回転体20の壁面に作用する応力(壁面応力)を求める工程である。この壁面応力は、非ニュートン流体の場合の壁面応力であり、例えば下記式(6)に示すように、理想せん断速度に粘度式を乗じることにより求めることができる。
【0027】
【数10】

【0028】
見かけ粘度算出工程は、回転体20の形状に応じた第1回転速度における見かけせん断速度と、壁面応力算出工程によって求めた壁面応力とから、非ニュートン流体をニュートン流体と仮定した場合の粘度である見かけ粘度を求める工程である。この見かけせん断速度は、種々の方法で求めることが可能であり、例えば市販の回転式粘度計の内部換算方法により理論的に算出しても良いし、ニュートン流体から実験的に求めても良い。この回転式粘度計の内部換算方法としては、例えば米国BROOKFIELD社製粘度計(DVII−Pro)の場合には、「見かけせん断速度=SRC×回転速度[rpm]」が挙げられる。ここで、SRCとは、回転体の種類に応じて設定される固有値であり、通常、用いる回転体(ロータ、スピンドル)のカタログ等を参照することにより、容易に把握することができるものである。このように、見かけせん断速度を計算により算出する場合には、実験を一切行うことなく非ニュートン流体補正式を導出することができる。また、見かけ粘度は、下記式(7)に示すように、壁面応力を見かけせん断速度で除することにより求めることができる。
【0029】
【数11】

【0030】
非ニュートン流体せん断速度補正工程は、上述した方法により求めた見かけせん断速度と、壁面応力算出工程により求めた壁面応力と、見かけ粘度算出工程により求めた見かけ粘度を下記非ニュートン流体補正式(1)に導入し、回転体20の形状に応じた第1回転速度における見かけせん断速度を、パラメータαが特定されていない非ニュートン流体せん断速度に補正する工程である。
【0031】
【数12】

【0032】
【数13】

【0033】
【数14】

【0034】
【数15】

【0035】
パラメータ算出工程は、上述した理想せん断速度算出工程、壁面応力算出工程、見かけ粘度算出工程及び非ニュートン流体せん断速度補正工程を2以上の回転速度について行い、これにより求められた各理想せん断速度と、パラメータαが特定されていない各非ニュートン流体せん断速度とが一致する最適なパラメータαを求める工程である。すなわち、パラメータ算出工程は、例えば、2以上の回転速度について上述した理想せん断速度算出工程を繰り返すことにより理想的な回転速度−せん断速度特性を特定する工程と、同じ2以上の回転速度について上述した壁面応力算出工程、見かけ粘度算出工程及び非ニュートン流体せん断速度補正工程を繰り返すことによりパラメータαが不特定な回転速度−補正後せん断速度特性を求める工程と、パラメータαが不特定な回転速度−補正後せん断速度特性が、理想的な回転速度−せん断速度特性と一致するようなパラメータαを、例えば最小二乗法等のパラメータフィッティングにより算出する工程とを備えている。このパラメータ算出工程における2以上の回転速度は、最低速度と最高速度との差が大きく、かつ測定数が多い方が、より精度の高い非ニュートン流体の補正式を導出することができるため好ましい。
【0036】
パラメータ導入工程は、パラメータ算出工程によって算出されたパラメータαを上記補正式(1)に導入する工程であり、これにより、回転式粘度計1の回転体20の形状に応じた最適な非ニュートン流体補正式が導出される。
【0037】
本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法の非ニュートン流体補正式導出工程は、回転式粘度計1の回転体20の一の形状に対応する一の非ニュートン流体補正式を導出する工程である。そのため、一度導出された非ニュートン流体補正式は、対応する形状の回転体20を用いる限り、以下で説明する非ニュートン流体せん断速度算出工程、非ニュートン流体粘度算出工程及び非ニュートン流体せん断粘度特性算出工程に繰り返し用いることができる。
【0038】
[非ニュートン流体せん断速度算出工程]
本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法のせん断速度補正工程は、測定試料(非ニュートン流体)2から測定されたせん断速度を実測見かけせん断速度と仮定し、非ニュートン流体補正式導出工程により算出された非ニュートン流体補正式を用いて、測定試料2の実測見かけせん断速度を非ニュートン流体せん断速度に補正する工程である。これにより、評価対象となる測定試料2から測定された見かけせん断速度、壁面応力及び見かけ粘度から、測定試料2の非ニュートン流体せん断速度(真のせん断速度)を容易に算出することができる。
【0039】
[非ニュートン流体粘度算出工程]
本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法の粘度算出工程は、補正された非ニュートン流体せん断速度(真のせん断速度)を用いて測定試料2の非ニュートン流体粘度(真の粘度)を算出する工程である。具体的には、非ニュートン流体粘度は、下記式(9)に示すように、壁面応力を非ニュートン流体せん断速度で除することにより求めることができる。これにより、評価対象となる測定試料(非ニュートン流体)2の上記非ニュートン流体補正式により算出された非ニュートン流体せん断速度(真のせん断速度)と、壁面応力とから、測定試料2の非ニュートン流体粘度(真の粘度)を容易に算出し、測定することができる。
【0040】
【数16】

【0041】
[非ニュートン流体せん断粘度特性算出工程]
本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法のせん断粘度特性算出工程は、非ニュートン流体せん断速度算出工程により求められた2以上の非ニュートン流体せん断速度(真のせん断速度)と、これに対応する、非ニュートン流体粘度算出工程より求められた2以上の非ニュートン流体粘度(真の粘度)とから、測定試料2のせん断粘度特性を求める工程である。これにより、測定対象となる測定試料(非ニュートン流体)2のせん断粘度特性を容易に算出し、特定乃至予測することができる。このせん断粘度特性算出工程における2以上の非ニュートン流体せん断速度及び非ニュートン流体粘度は、非ニュートン流体せん断速度の最低速度と最高速度との差が大きく、かつ測定数が多い方が、より精度の高いせん断粘度特性を導出することができるため好ましい。
【0042】
以上のように、本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法によれば、シミュレーションにより求めた理想せん断速度を基に、回転体20の形状に応じた最適な非ニュートン流体補正式を導出し、この非ニュートン流体補正式を用いて、実際に測定された測定試料2のせん断速度(見かけせん断速度)を真のせん断速度(非ニュートン流体せん断速度)に適切に補正して、正確な真の粘度(非ニュートン流体粘度)を算出することが可能となるため、補正式が存在しない回転体20を用いる場合であっても、非ニュートン流体の正確な真の粘度(非ニュートン流体粘度)を測定乃至予測することができる。また、本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法によれば、非ニュートン流体補正式を用いて求められた正確な真のせん断速度(非ニュートン流体せん断速度)及び真の粘度(非ニュートン流体粘度)を用いることにより、非ニュートン流体の正確なせん断粘度特性を特定乃至予測することができる。
【0043】
[解析シミュレーション]
次に、市販の流動解析ソフト(Polyflow、アンシス・ジャパン株式会社製)を用いて、CAE解析によるシミュレーションを実施し、そのシミュレーション結果から、図2に示す回転粘度計1の回転体20に対応する最適な非ニュートン流体補正式の導出を行った。本シミュレーションにおいては、解析形状モデルの作成、解析形状モデルの要素分割、計算条件(解析形状モデルのタイプ、境界条件、粘度モデル)の入力、計算、アウトプットという通常の手順により、所定の回転速度における回転体の形状に応じた理想せん断速度を算出した。
【0044】
解析形状モデルとしては、図2に示すように、収容容器10の形状と、回転体20の形状と、評価試料(非ニュートン流体)3の体積とを指定した。収容容器10の形状及び構成は、米国BROOKFIELD社製粘度計(DVII−Pro)を基に設定し、具体的には、内径が19mmφ、軸方向の長さが46.56mmの円筒状部分12と、この円筒状部分12の下端に連続して設けられた、高さ5.17mm、内壁における底面の直径が4.41mmφの断面略U字状部分14とからなる、中心軸と平行な断面が略U字状の有底円筒状の形状として設定した。また、回転体20の形状及び構成は、米国BROOKFIELD社製スピンドル(SC4−27)を基に設定し、具体的には、直径が11.85mmφ、軸方向の長さが32mmの円柱状部分22と、この円柱状部分22の下端から下方に向けて頂点の内角が90度となるように突出した円錐状部分24とからなる形状として設定した。さらに、評価試料3は、10.0ccの体積として設定した。またさらに、本実施形態では、図2のPの点、すなわち、回転体20の円柱状部分22の壁面上におけるせん断速度を理想せん断速度として求めた。
【0045】
評価試料3の粘度式(粘度モデル)としては、下記式(5)に示す指数則モデルを設定した。本シミュレーションにおいては、η=1[poise]、λ=1.0に設定すると共に、nを0.25(実施例1及び比較例1)並びに0.5(実施例2及び比較例2)の2種類に設定した。これら実施例1及び2並びに比較例1及び2のせん断粘度特性を図3に示す。ここで、η、λは、それぞれ粘性係数、緩和時間を表している。また、n=0.25のサンプルは、n=0.5のサンプルよりも非ニュートン性が強いことを意味している。
【0046】
【数17】

【0047】
以上のような設定において実施したシミュレーションで得た理想せん断速度を用いて、上述した非ニュートン流体補正式導出工程を行った結果、パラメータα=0.45が算出され、パラメータαが特定された下記非ニュートン流体補正式(8)が得られた。ここで、非ニュートン流体補正式導出工程における見かけせん断速度は、米国BROOKFIELD社製粘度計(DVII−Pro)の内部換算方法、すなわち、見かけせん断速度=SRC×回転速度[rpm]を用いて計算した。また、回転体20のSRCは、米国BROOKFIELD社カタログに記載された米国BROOKFIELD社製スピンドル(SC4−27)のSRCの値(0.34)を用いた。
【0048】
【数18】

【0049】
[実施例1]
図4は、n=0.25のサンプル(実施例1)における、見かけのせん断速度の回転速度−せん断速度特性と、理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性と、見かけのせん断速度を非ニュートン流体補正式(8)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性とを比較したグラフを示している。図4から明らかであるように、見かけのせん断速度を非ニュートン流体補正式(8)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性は、本シミュレーションにより求めた理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性とほぼ一致しており、そのずれは1%以下であった。
【0050】
[実施例2]
図5は、n=0.5のサンプル(実施例2)における、見かけのせん断速度の回転速度−せん断速度特性と、理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性と、見かけのせん断速度を非ニュートン流体補正式(8)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性とを比較したグラフを示している。図5から明らかであるように、見かけのせん断速度を非ニュートン流体補正式(8)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性は、実施例1の場合と同様に、本シミュレーションにより求めた理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性とほぼ一致しており、そのずれは1%以下であった。
【0051】
これら実施例1及び実施例2の結果から、本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法の非ニュートン流体補正式導出工程により導出された非ニュートン流体補正式(8)は、測定対象となるサンプルの非ニュートン性の強弱(大小)に拘わらず、非常に高い精度(ずれが1%以下)で、見かけせん断速度を非ニュートン流体のせん断速度に補正できることが明らかである。また、これにより、本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法は、非常に高い精度で、非ニュートン流体の粘度及びせん断粘度特性を測定乃至予測することができることが明らかである。
【0052】
[比較例1]
図6は、n=0.25のサンプル(比較例1)における、見かけのせん断速度の回転速度−せん断速度特性と、理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性と、見かけのせん断速度を従来の補正式(0)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性とを比較したグラフを示している。図6から明らかであるように、見かけのせん断速度を従来の補正式(0)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性は、本シミュレーションにより求めた理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性から大きくずれており、そのずれは最大10%程度であった。
【0053】
【数19】

【0054】
[比較例2]
図7は、n=0.5のサンプル(比較例2)における、見かけのせん断速度の回転速度−せん断速度特性と、理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性と、見かけのせん断速度を従来の補正式(0)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性とを比較したグラフを示している。図7から明らかであるように、見かけのせん断速度を従来の補正式(0)を用いて補正することにより求められたせん断速度の回転速度−せん断速度特性は、本シミュレーションにより求めた理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性と概ね一致していた。
【0055】
これら比較例1及び比較例2の結果から、従来の補正式(0)では、非ニュートン性の弱いサンプルであれば、ある程度の精度で見かけせん断速度を非ニュートン流体のせん断速度に補正できる可能性があるが、非ニュートン性の強いサンプルの場合には、理想せん断速度の回転速度−せん断速度特性から大きく外れてしまい、補正の精度が著しく低下していることが明らかである。また、このような補正の精度の低下は、測定対象となるサンプルの非ニュートン性が強くなる程顕著になると推察できる。このように、従来の補正式(0)を用いて補正したせん断速度からは、精度の高い非ニュートン流体の粘度(真の粘度)及びせん断粘度特性を測定乃至予測することができないことが明らかである。
【0056】
本発明に係る非ニュートン流体の粘度測定方法及びせん断粘度特性算出方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内において種々の改変を行なうことができる。例えば、本実施形態に係るせん断粘度特性算出方法は、円柱状部分及び円錐状部分からなる回転体に対応する非ニュートン流体補正式を導出し、非ニュートン流体の粘度及びせん断粘度特性を求めるとしたが、これに限定されず、対象となる回転体は、シミュレーションにより理想せん断速度を求めることができるものであればいかなる形状であっても良く、例えば図8に示すような棒状部分32及び円盤状部分34からなる回転体30であっても、その形状に対応する非ニュートン流体補正式を導出し、非ニュートン流体の正確な粘度及び正確なせん断粘度特性を求めることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 回転式粘度計、2 非ニュートン流体、10 収容容器、20 回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ニュートン流体である測定試料を収容可能な収容容器と、前記収容容器内に中心軸が共通するように設けられ、前記測定試料に浸漬された状態で回転する回転体とを備える回転式粘度計を用いて前記測定試料の粘度を測定する方法であって、
前記回転体の形状に対応した、補正式(1)のパラメータαが特定された非ニュートン流体補正式を導出する非ニュートン流体補正式導出工程と、
前記測定試料から測定されたせん断速度を実測見かけせん断速度と仮定し、前記非ニュートン流体補正式を用いて、前記測定試料の実測見かけせん断速度を非ニュートン流体せん断速度に補正する非ニュートン流体せん断速度算出工程と、
前記非ニュートン流体せん断速度を用いて前記測定試料の非ニュートン流体粘度を算出する非ニュートン流体粘度算出工程と
を備え、
前記非ニュートン流体補正式導出工程は、
任意のシミュレーションにより、任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた、非ニュートン流体である評価試料の理想のせん断速度を求める理想せん断速度算出工程と、
前記理想せん断速度及び任意の粘度式から、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた壁面応力を求める壁面応力算出工程と、
前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた見かけせん断速度及び前記壁面応力から、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた見かけ粘度を求める見かけ粘度算出工程と、
前記見かけせん断速度、前記見かけ粘度、前記壁面応力及び補正式(1)を用いて、前記任意の回転速度における前記回転体の形状に応じた見かけせん断速度を、パラメータαが特定されていない非ニュートン流体せん断速度に補正する非ニュートン流体せん断速度補正工程と、
前記理想せん断速度算出工程、前記壁面応力算出工程、前記見かけ粘度算出工程及び前記非ニュートン流体せん断速度補正工程を2以上の回転速度について行い、これにより求められた各理想せん断速度と、パラメータαが特定されていない各非ニュートン流体せん断速度とが一致する最適なパラメータαを求めるパラメータ算出工程と、
前記パラメータαを補正式(1)に導入して非ニュートン流体補正式とするパラメータ導入工程とを備える
ことを特徴とする非ニュートン流体の粘度測定方法。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【請求項2】
請求項1に記載の非ニュートン流体の粘度測定方法の前記非ニュートン流体せん断速度算出工程により求められた2以上の非ニュートン流体せん断速度と、前記非ニュートン流体粘度算出工程より求められた2以上の非ニュートン流体粘度とから、前記測定試料のせん断粘度特性を求める
ことを特徴とする非ニュートン流体のせん断粘度特性算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−101024(P2013−101024A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244360(P2011−244360)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)