説明

非ヒト血清中におけるヒト抗体の検出

本発明は、標的特異的分子を使用する必要のない、ヒト、ヒトキメラ、ヒト化抗体又はその断片の定量法を提供する。特に本発明は、ウシγグロブリン(BGG)等の非ヒト哺乳動物グロブリンを含有するブロッキングバッファーを用い、キャプチャー試薬の非特異的結合部位をブロックする工程を含む、定量アッセイ法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
この出願は、合衆国を除く全ての国の指定に対する出願人として、合衆国法人ジェネンテック社名義で、また中国国民Jihong Yang、合衆国国民Valerie Elizabeth Quarmbyの名義で、PCT国際特許出願として2005年12月30日に出願されたもので、2004年12月31日出願の米国仮特許出願第60/640948号に基づく優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
ヒト化モノクローナル抗体を含む抗体は、ヒトにおけるその潜在的治療用途のために、幅広く研究されている。治療用抗体の開発の初期段階では、分子の有効性と安全性が研究されている。一般的に、そのような研究では、非ヒト霊長類のような非ヒト種に抗体を投与することが必要となる。非ヒト種から得られた体液、例えば血清が、対象抗体の存在及び濃度について分析される。この分析を実施するためには、非ヒト種の体液中の抗体を特異的に検出し定量することができる高感度の血清薬物動態(PK)アッセイが必要である。
【0003】
一般に、血清のような生体マトリックス中における標的分子の濃度を測定するのに有用な薬物動態アッセイは、特に標的分子が、カニクイザル等の非ヒト霊長類の血清中に存在するヒト化IgGである場合、一又は複数の標的特異的分子を使用することが必要である。生体マトリックスは、アッセイにおいてマトリックス成分が非特異的に相互作用するために、高いアッセイバックグラウンドを生じる傾向がある。密接に関連した第2の種の体液中に存在する第1の種の抗体の分析は、2つの種のIgG間の配列同一性が高いために、特に困難である。例えば、カニクイザルIgGとヒトIgGの間の配列同一性は、κ定常ドメイン(Cκ)で約83%、κ可変ドメイン(Vκ)フレームワーク領域で88−99%、重鎖可変ドメイン(V)フレームワーク領域で93%、重鎖定常ドメイン(C)で93−95%であると報告されている。例えば、Lewisら, 1993, Developmental and Comparative Immunology, 17:549-60;D'Ovidioら, 1994, Folia Primatol 63:221-25;Paceら, 1996, Immunol, Lett. 50:139-42を参照。カニクイザルIgGの血中濃度は一般的に10〜16mg/mlの範囲であり、20ng/mlまで低い可能性がある分析中のカニクイザル血清中に存在する標的ヒト抗体の濃度よりもかなり高い(Biaginiら, 1988, Laboratory Animal Science, 38:194;Tryphonasら, 1991, J Med Primatol, 20:58)。
【0004】
例示的なヒト抗体は、マウス前駆体2H7から誘導された完全にヒト化されたモノクローナル抗体で、κ軽鎖を有するヒトIgG1ファミリーに属するrhuMAb2H7である(Clarkら, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82:1766-70)。rhuMAb2H7抗体は、正常、悪性双方のB細胞において発現されるCD20抗原の細胞外ドメインに対するものである(Stashenkoら, 1980, J. Immunol. 125:1678-85;Clarkら, 1989, Adv. Cancer Res. 52:81-149;Tedderら, 1994, Immunol. Today 15:450-54;Tedderら, 1988, J. Biol. Chem. 263:10009-10015;Rileyら, 2000, Semin. Oncol. 27:17-24)。
【0005】
B細胞枯渇試薬は、悪性B細胞媒介性癌、例えば非ホジキンリンパ腫(McLaughlinら, 1988, Oncology 12:1763-69);及び慢性リンパ性白血病(Jensenら, 1998, A. Ann Hematol 77:89-91;Gopalら, 1999, J. Lab. Clin. Med. 134:445-50;von Schilling, 2003, Semin. Cancer Biol., 2003, 13:211-22)の治療に成功裏に使用されている。また、B細胞は自己免疫疾患、例えば関節リウマチ(Dornerら, 2003, Opin. Rheumatology 15, 246-52;Looney, 2002, Ann. Rheum. Dis. 61, 863-6;Shawら, 2003)、全身性エリテマトーデス(Anolikら, 2003, Current Rheum. Reports. 5, 350-6)、及び多発性硬化症(Hafler, 2004, J Clin Invest. 113(6):788-94)にも関与している。
【0006】
CD20抗原にrhuMAb2H7が結合すると、インビボにおいてB細胞の枯渇が生じる(Vugmeysterら, 2004, Int Immunopharmacol. 4(8):1117-24)。rhuMAb2H7によるB細胞枯渇の正確なメカニズムは未知であるが、他の抗CD20治療からのデータと共に、インビボでの効果データでは、rhuMAb2H7がB細胞媒介性自己免疫疾患及びオンコロジー適応のための潜在的治療剤であることが示されている。
【0007】
rhuMAb2H7の初期開発中、実際に可能であることを示す第一の研究を、分子の効能及び安全性を評価するため、カニクイザルにおいて実施した。カニクイザル血清中におけるrhuMAb2H7を検出し定量する高感度のPKアッセイが、薬物動力学的評価を支持するために必要であった。このようなアッセイの開発には、利用できる標的特異的分子の欠如を含む明確な課題が提起されている。
【0008】
カニクイザルIgGからヒト化IgGを特異的に区別する課題を解決するために、カニクイザル血清中におけるヒト化IgG分子を検出するために利用できるアッセイでは、一又は複数の標的特異的分子を利用する。例えば、rhuMAb2H7カニクイザルのパイロット実験においては、20ng/mlのアッセイ感度が必要であった。抗CD20抗体への結合に対するこのような標的特異的分子は、直ぐには入手できなかった。
【0009】
この問題を解決するために、代替アッセイを開発した。本発明は、標的特異的キャプチャー又は検出試薬を使用することなく、体液のような生体マトリックス中における例えば抗体のような分子を定量するための新規な方法を提供する。開示したアッセイは高い感度を持ち、抗体のようなポリペプチドを含む広範囲の分子に適用可能である。開示されているアッセイは、ヒトIgGと非ヒト霊長類IgGのような、第2の動物種、さらには密接に関連した種の体液中に配されている第1の動物種の抗体を検出するのに特に有用である。
【0010】
(発明の概要)
本発明は、第1の種の分子の存在又は量を第2の種の類似分子の存在下で検出するための方法を提供する。例えば血清又は他の体液等の第2の種の生体マトリックス中に配されている第1の種の抗体等の分子は、ここに記載された方法を使用することにより、検出し定量することが可能である。アッセイされるサンプルは、密接に関連した霊長類種、例えばカニクイザルを含む非ヒト種等の第2の種の体液に配されている、例えば第1の種の抗体、特にヒト、ヒトキメラ、又はヒト化抗体、又はその抗原-結合断片でありうる。一実施態様では、抗体断片は定常ドメインを含む。
【0011】
一般に、リガンド結合アッセイのブロッキング工程において特定のブロッキング剤として哺乳動物のグロブリンタンパク質、例えばウシγグロブリン(BGG)を添加すると、アッセイにおける血清バックグラウンド及びバックグラウンド変動が低減することにより、アッセイ感度が大きく改善されることが今見出された。また、例えば第2の種(又は第2の種に密接に関連した種)の生体マトリックスを、キャプチャー試薬に前吸着させるさらなる工程によっても、アッセイバックグラウンドは低減し、さらにアッセイの感度も増す。
【0012】
一実施態様では、血清等の非ヒト体液中に配されているヒト、ヒト化、又はキメラ抗体、又はその断片を検出するための高感度アッセイは、一般に次の工程を含む:
(1)アッセイ表面にキャプチャー試薬を適用し;
(2)ウシγグロブリン等の非ヒト哺乳動物グロブリンを含むブロッキングバッファーで、キャプチャー試薬の非特異的結合部位をブロックし;
(3)ブロックされたキャプチャー試薬とサンプルを反応させ;
(4)検出剤、例えば検出可能なシグナルを発生可能な検出剤で、捕捉された抗体を検出する。
【0013】
キャプチャー試薬及び検出剤のそれぞれが、検出される分子に結合可能である。キャプチャー試薬と検出剤は、検出される分子の同一又は異なったリガンド又はエピトープに結合可能である。例えば、キャプチャー試薬と検出剤は同じ抗体を含有可能である。
【0014】
キャプチャー試薬には、第2の種、又は第2の種に密接に関連した種の生体マトリックス、例えば体液を前吸着させることができる。一実施態様では、第1の種はヒトであり、第2の種は非ヒト種、例えば霊長類等の非ヒト哺乳動物、例えば霊長類で、特にサル、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ等でありうる。密接に関連した種は、典型的には同じ科のものであり、また同じ属のものとすることができる。
【0015】
一実施態様では、ブロッキングバッファーは、非特異性ブロッキング剤として哺乳動物グロブリンを含有する。ヒト、ヒト化、又はヒトキメラ抗体を検出するためのアッセイにおいて、例えば、ブロッキングバッファーは非ヒト哺乳動物グロブリン、例えばウシγグロブリン(BGG)、マウスIgG、ウサギIgG、又はロバIgGを含む。ブリッジングELISA形式が使用される場合、哺乳動物グロブリンはブロッキングバッファー中に存在しうるが、サンプルバッファー及び/又は検出バッファー中には存在しない。直接ELISA形式が使用される場合、哺乳動物グロブリンは、ブロッキングバッファー、サンプルバッファー、及び検出剤バッファーのいずれにも存在可能である。
【0016】
ここに記載されたアッセイ方法は、抗体又は抗体断片等の分子が、第2の種の生体マトリックス、例えば非ヒト血清等の体液に配されている場合、抗体、例えばヒト、ヒトキメラ、及びヒト化抗体及びその断片、特にFab断片等のポリペプチドを含む、第1の種の分子を検出し及び/又は定量するために使用することができる。組換え、ヒト化モノクローナル抗体、例えば抗HER2抗体ハーセプチン(登録商標)、抗CD20抗体rhuMAb2H7等は、ここに記載されたアッセイ方法を使用することにより、標的特異的キャプチャー試薬を用いることなく、非ヒト霊長類血清中において、高感度で検出し及び/又は定量することができる。
【0017】
(好ましい実施態様の詳細な記載)
1.定義
「アッセイ表面」とは、ここに記載されたアッセイ系において使用されるキャプチャー試薬を固定するのに有用な任意の表面を含むことを意味する。アッセイ表面は、表面、粒子、多孔質マトリックス等の形態の支持体を含み、本質的に水不溶性であり、例えば免疫アッセイに有用な不活性支持体又は担体を含んでもよい。特定のアッセイ表面には、例えばマイクロタイタープレート、クロマトグラフィー樹脂、センサーチップ等が含まれる。
【0018】
「キャプチャー試薬」なる用語は、サンプル中の検出される標的分子又は分析物に結合し捕捉しうる試薬を意味する。典型的には、キャプチャー試薬は、例えば微小粒子又はビーズ、マイクロタイタープレート、カラム樹脂等の固体基体のようなアッセイ表面に固定される。キャプチャー試薬は、アッセイにおいて検出され定量される分子(標的分子又は分析物)に結合する分子である。検出される分子が抗体である場合、キャプチャー試薬は、例えば、標的抗体に結合する抗原、可溶型レセプター、抗体、抗体断片、種々の抗体の混合物でありうる。
【0019】
「検出」なる用語は最も広義で使用され、特定の分子の定性的及び定量的測定の双方で、ここでは、ヒト化抗体のような特定の標的分子の測定を含む。ここに記載されるアッセイ法はサンプル中における標的分子の単なる存在を同定するために使用することができる。また本アッセイ法は、サンプル中における標的分子の量を定量するためにも使用することもできる。さらに、本アッセイ法は、標的分子のその結合パートナーに対する相対的結合親和性、例えば抗体のそのリガンドに対する相対的結合親和性を測定するために使用することもできる。
【0020】
「検出剤」なる用語は、検出剤に結合可能な、蛍光、酵素、放射性又は化学発光標識等の標識を介して直接的に、又は検出剤と特異的に結合する抗体又はレセプター等の標識結合パートナーを介して間接的に、アッセイの標的分子を検出する薬剤を意味する。直接的及び間接的検出剤は既知である。検出剤の例には、限定されるものではないが、抗体、抗体断片、可溶型レセプター、レセプター断片等が含まれる。
【0021】
一実施態様では、検出剤は、ファージのコート上で発現可能である。一実施態様では、検出剤は、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートした抗体等の、直接標識である。一実施態様では、検出剤は間接的であり、ビオチンコンジュゲート抗体とストレプトアビジンHRPコンジュゲートを含む。
【0022】
ここで使用される「標識」なる用語は、検出剤より生じるシグナルを増幅させる薬剤を含む。標識は、放射性、フォトルミネセンス、化学発光性(例えばHRP)、又は電気化学発光性化学部分、無色の基質を有色生成物に転換させる酵素等でありうる。酵素標識の例には、限定されるものではないが、西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-D-ガラクトシターゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルタマートデカルボキシラーゼ、カタラーゼ、ウレアーゼ、アデノシン電極、リゾチーム、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、β-アミラーゼ、及びホスホリパーゼCが含まれる。蛍光標識の例には、限定されるものではないが、クマリン誘導体、フルオレセイン、ローダミン、ユーロピウム、フィコエリトリン、サマリウム、テルビウム、及びウンベリフェロンが含まれる。発光標識の例には、限定されるものではないが、アクリジニウムエステルとイソルミノール誘導体が含まれる。また、例えばリガンド標識、特にアビジン又はビオチン誘導体、粒子標識、放射性同位体標識、ベシクル標識、コロイド金属標識、及びスピン標識、例えばニトロキシドラジカルを含む他の標識も使用することができる。
【0023】
ここで使用される場合、「抗体」なる用語は最も広義に使用され、特に無傷のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、少なくとも2の抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物学的活性を示す抗体断片を含む。抗体は天然又は合成のものであってよく、例えば抗体の結合活性を除去しない置換のようなアミノ酸変異を含んでもよい。「キメラ抗体」は、種又は抗体クラスもしくはサブクラスにおける抗体の残余部分とは異なる重鎖及び/又は軽鎖の少なくとも一の部分を含み、所望の生物活性を示す断片を含む(米国特許第4816567号;Morrisonら, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855)。
【0024】
非ヒト化(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小配列を含むキメラ抗体である。一般に、ヒト化抗体は、レシピエントの抗体の高頻度可変領域(Kabatら, 1991, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MDの配列により定まる相補性決定領域(CDRs)、又はChothia及びLesk, 1987, J. Mol. Biol. 196:901-917により構造的に定まる高頻度可変ループ(HVLs))由来の残基が、非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット、ウサギ、又は所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト霊長類の対応する高頻度可変領域由来の残基で置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンの特異的な可変ドメインフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見出されない残基を含んでいてもよい。そのような修飾により、一般的には抗体性能がさらに精巧になる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも一の重鎖又は軽鎖可変ドメインの実質的に全てを含み、典型的には、全て又は実質的に全ての高頻度可変ループ又はCDRが、非ヒト免疫グロブリンのものに相当し、全て又は実質的に全てのFR領域が、ヒト免疫グロブリン配列又はヒトコンセンサス配列のものである重鎖及び軽鎖可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを含む。例えば、Jonesら, 1986, Nature 321:522-525;Riechmannら, 1988, Nature 332:323-329;及びPresta, 1992, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596を参照。
【0025】
キメラ及びヒト化抗体の断片を含む抗体の「断片」は、無傷抗体の一部、例えば無傷抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例には、抗体断片(類)から形成された多重特異性抗体、単鎖抗体分子、直鎖状抗体、ダイアボディー、Fab、Fab'、F(ab')、及びFv断片等が含まれる。
「密接に関連した種」は、同じ科の範囲内、好ましくは同じ属の範囲内のものである。
「霊長類」は、ヒト、類人猿、ヒヒ、チンパンジー、サル、及び関連した型のもの、例えばキツネザル及びメガネザルを含む任意の目の哺乳動物を意味するものと解釈される。サルには、例えばアカゲザル、カニクイザル、及びアフリカミドリザルが含まれる。
【0026】
II.発明の実施形態
本発明は、関心ある標的分子、例えばヒト、ヒト-キメラ、又はヒト化抗体、又はこのような抗体の断片を検出し及び/又は定量するための、精確で高感度のスクリーニング方法を提供する。本発明のアッセイ法は、キャプチャー試薬として標的特異的分子を必要とすることなく、非ヒト血清等の複合生化学的媒質中に存在する、ヒト抗体を含む標的分子の高感度スクリーニングを提供する。
【0027】
一般に、本発明の一アッセイ法は、次の工程を含む:
(1)アッセイ表面に第1の種のキャプチャー試薬を適用し;
(2)第2の種のグロブリンを含むブロッキングバッファーで、キャプチャー試薬の非特異的結合部位をブロックし;
(3)ブロックされたキャプチャー試薬をサンプルと反応させて、非ヒト血清、例えばサル血清等のサンプル中に存在する任意の標的分子、例えばヒト、ヒト化、又はキメラ抗体を捕捉し;
(4)検出剤で、捕捉された標的分子抗体を検出する。
【0028】
本発明は、部分的には、アッセイブロッキングバッファー中で非ヒト哺乳動物グロブリンを使用することにより、標的分子に対する高い感度を維持しながら、比較的低いバックグラウンド、並びにサンプル間の比較的低いバックグラウンド変動を示す、ヒト、ヒト化、又はキメラ抗体の定量アッセイが可能になるという発見に基づいている。本発明の方法は、第2の種の生体マトリックスの存在下でのヒト又は非ヒト(第1の種)の標的分子の分析に有用でありうることが予想される。
【0029】
A.キャプチャー試薬
ここに記載された方法に使用されるキャプチャー試薬の選択は、一般に、定量又は検出される標的分子に応じて決定される。キャプチャー試薬は、標的分子に結合しサンプルから標的分子を捕捉するその能力によって選択される。標的分子が抗体である場合、例えば、キャプチャー試薬は抗ヒトIgG等の抗体でありうる。例えば非ヒト血清中におけるヒト化抗体を定量する一実施態様では、キャプチャー試薬は、例えばヒツジ又はヤギの抗ヒトIgGでありうる。キャプチャー試薬はマイクロタイタープレート、クロマトグラフィー樹脂、センサーチップ等の、任意の適切なアッセイ表面に適用することができる。
【0030】
B.キャプチャー試薬の前吸着
生体マトリックス、例えば非ヒト体液は、非特異的なタンパク質相互作用のため、高く、所望されないアッセイバックグラウンドを生じる傾向にある。
一実施態様では、キャプチャー試薬には、生体マトリックスからの潜在的に干渉する物質が前吸着される。例えば、サル血清中に存在するヒト抗体を分析する方法では、サンプル体液がキャプチャー試薬と接触せしめられる場合の非特異的相互作用を低減させるために、キャプチャー試薬には、非ヒト血清等の非ヒト体液が前吸着される。キャプチャー試薬の前吸着は、前吸着されていないキャプチャー試薬と比較して、アッセイバックグラウンドを低減させることができる。
【0031】
キャプチャー試薬には、第2の種、例えば非ヒト種、又は第2の種に密接に関連した種からの体液、例えば血清を前吸着させることができる。例えば、サル血清中に配されているヒト化抗体(第1の種)の分析では、体液はサル血清であり、キャプチャー試薬は、非特異的相互作用を低減させるために、サル血清(第2の種)又は密接に関連した種、例えば異なる霊長類の血清が前吸着された結合リガンドである。
【0032】
C.ブロッキングバッファー
ここに記載される方法での使用に適したキャプチャー試薬は、検出及び/又は定量される所望の標的分子(例えば抗体)とは異なるサンプルの成分と、非特異的相互作用を生じる可能性を有している。定量される標的分子(例えば抗体)を含むサンプルとキャプチャー試薬を反応させる前に、キャプチャー試薬の非特異的結合部位を、ブロッキングバッファーを使用してブロックすることができる。ブロッキングバッファーは、非特異的部位と結合してこれを飽和させ、アッセイ表面上の過剰な結合部位への遊離のリガンドの所望されない結合を防止するように作用する。
【0033】
様々なブロッキングバッファーが知られており、活性なブロッキング成分として、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチン、スーパーブロック(Pierce, Rockford, IL)、カゼイン(Pierce)等を含みうる。ブロッキングバッファーに添加することができる他の成分には、例えば、塩、金属キレート試薬、非特異的結合試薬、非変性双性イオン性洗浄剤等が含まれる。
【0034】
本発明の方法は、部分的には、非ヒト血清中のヒト又はヒト化抗体を検出するためのアッセイ系のブロッキングバッファーにBGG等の非ヒト哺乳動物グロブリンを使用すると、バックグラウンドシグナル及び変動が有意に低下するという発見に関する。
【0035】
従って、本発明の実施態様は、非ヒト生体マトリックス中のヒト標的分子を検出するためのアッセイ系を含み、ここでブロッキング剤は非ヒト哺乳動物グロブリンを含む。非ヒト哺乳動物グロブリンは、例えばウシγグロブリン(BGG)でありうる。他の非ヒト哺乳動物グロブリンをブロッキングバッファーに使用することもできる。これらには、限定されるものではないが、マウスIgG、ウサギIgG、ロバIgG等が含まれる。ブロッキングバッファーは、一般的なブロッキング剤、例えばウシ血清アルブミン、ゼラチン、卵アルブミン、カゼイン、脱脂乳等を、さらに含有していてもよい。本発明のアッセイ法は、標的分子がヒト化抗体である実施態様と共にここに例証されている。しかしながら、記載された実施態様は、例えば非ヒト(第1の種の)分子が異なる(第2の種の)生体マトリックス中に配されている、非ヒト標的分子を検出するために使用することもできることが理解される。第2の種の生体マトリックス中における非ヒト分子を検出するために、第2の種のもの以外の種のグロブリン分子を使用することができる。
【0036】
一実施態様では、非ヒト哺乳動物グロブリン、例えばBGGは、ブロッキングバッファーの一成分として存在する。非ヒト哺乳動物グロブリンは、サンプルバッファー及び/又は検出バッファー中において欠如している場合がある。ブリッジングELISA形式を利用する一実施態様では、非ヒトグロブリンは、ブロッキングバッファー中にのみ存在し、サンプルバッファー又は検出バッファー中には存在しない。直接ELISA形式においては、非ヒトグロブリンは、ブロッキングバッファー中、及びサンプル及び検出剤バッファー中に存在可能である。
【0037】
D.適切なアッセイ
本発明の方法では、哺乳動物グロブリンを含むブロッキングバッファーを用いてキャプチャー試薬をブロックし、ブロックされたキャプチャー試薬を、標的分子を捕捉するために、関心ある分子を含むサンプルとさらに反応させると、捕捉された標的分子が、例えば検出可能なシグナルを生じる検出剤を用いて、検出され及び/又は定量される。
抗体を含む捕捉された分子を定量するために検出剤を利用するアッセイ系は、よく知られている。本発明において有用な免疫アッセイの例には、限定されるものではないが、ラジオイムノアッセイ(RIA)、フルオロルミネセンス(FLA)、化学発光アッセイ(CA)、酵素結合免疫測定法(ELISA)等が含まれる。例えば、Johnstone及びThorpe, 1996, Blackwell, Immunochemistry in Practice, 3版(Blackwell Publishing, Malden, MA);Ausbulら編, 2003, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons(Hoboken, NJ);Ghindilisら編, 2003, Immunoassay Methods and Protocols, (Blackwell Publishing, Malden, MA);及び米国特許公開第20030044865号を参照。免疫アッセイは、固相アッセイ、液相アッセイ等とすることができる。
【0038】
1.ELISA
免疫アッセイ系には、例えば固相ELISA及びキャプチャーELISAが含まれる。キャプチャーELISAにおいて、固相への標的分子の固定化は、既知の方法で達成することができる。標的分子は、水不溶性マトリックス又は表面にキャプチャー試薬を吸着させる等によって、例えばアッセイ手順の前にキャプチャー試薬を不溶化させることにより、固定化される(米国特許第3720760号を参照)。また、キャプチャー試薬は、例えば硝酸及び還元剤等で、アッセイ表面を前もって活性化させ又は活性化させないで、グルタルアルデヒド又はカルボジイミド架橋を使用し、水不溶性マトリックス又は表面に非共有又は共有カップリングさせて不溶化することもできる。例えば、米国特許第3645852号、及びRotmansら, 1983, J. Immunol. Methods, 57:87-98を参照。また標的分子は、例えば免疫沈降によるアッセイ手順後に固定化することもできる。
キャプチャー試薬は、例えば標的抗原と結合する抗体又は種々の抗体の混合物であってもよい。キャプチャー試薬は、抗体/抗原複合体であってもよく、ここで複合体の抗原は、サンプル中における標的分子との結合に利用される。さらなる実施態様では、キャプチャー試薬は、治療用抗体と特異的に結合する抗体に複合化した抗アイソタイプ特異的抗体であってもよい。例えば、キャプチャー試薬は、抗治療用IgGモノクローナル抗体に複合化したヤギ抗ヒトIgG Fc特異的抗体であってもよい。一実施態様では、抗治療用IgGモノクローナル抗体は、抗2H7抗体である。
【0039】
a)固相
キャプチャー試薬は、固相ELISAアッセイに使用するために、固相に固定化することができる。本質的に水不溶性で、免疫アッセイに有用な、例えば表面、粒子、多孔性マトリックス、センサーチップ等の形態の支持体を含む任意の不活性支持体又は担体を、固相又はアッセイ表面として使用することができる。一般的に使用される支持体の例には、小シート、セファデックス、ポリ塩化ビニル、プラスチックビーズ、微小粒子、アッセイプレート、又は試験管で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等で作製されたものが含まれる。このような支持体は、96ウェルマイクロタイタープレート、及びバイオセンサーチップ、例えばバイアコア・センサー・チップ(BiaCore Sensor chips)、並びに粒子材料、例えば濾紙、アガロース、架橋デキストリン、及び他の多糖類を含む。また、米国特許第3969287号;同第3691016号;同第4195128号;同第4247642号;同第4229537号;及び同第4330440号に記載されている反応性で水不溶性のマトリックス、例えば臭化シアン活性化炭水化物及び反応性基質が、キャプチャー試薬の固定化に適切に使用される。一実施態様では、固定化されたキャプチャー試薬は、マイクロタイタープレート上をコーティングされる。マルチウェルマイクロタイタープレートのような固相は、一度でいくつかのサンプルを分析するために使用することができる。
【0040】
所望される場合、非共有結合的又は共有結合的相互作用又は物理的結合により結合していてもよいキャプチャー試薬で、固相をコーティングすることができる。結合技術には米国特許第4376110号、及びそこに引用されている文献に記載されているものが含まれる。アッセイ表面へのキャプチャー試薬の共有結合が利用されるならば、プレート又は他の固相を、キャプチャー試薬と共に架橋剤とインキュベートしてもよい。固相基質へのキャプチャー試薬の結合に一般的に使用される架橋剤には、例えば1,1-ビス(ジアゾアセチル)-2-フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、例えば4-アジドサリチル酸とのエステル、ジスクシンイミジルエステルを含むホモ二官能性イミドエステル、例えば3,3'-ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)、及び二官能性マレイミド、例えばビス-N-マレイミド-1,8-オクタンが含まれる。誘導体化剤、例えばメチル-3-[(p-アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミダートは、光の存在下で架橋を形成可能な光活性化中間体を生じる。
【0041】
ポリスチレン又はポリプロピレンプレートが利用されるならば、プレートのウェルは、少なくとも約10時間、例えば少なくとも一晩、約4−20℃、例えば約4−8℃の温度、約8−12、例えば約9−10、又は約9.6のpHでインキュベートすることにより、キャプチャー試薬(典型的には、0.05Mの炭酸ナトリウム等のバッファーに希釈されている)でコーティングすることができる。より短いコーティング時間(1−2時間)が所望されるならば、プレートを37℃でコーティングするか、又はプレートが、例えばミリポアMULTISCREENTM等の、ニトロセルロースフィルター底部を有していてもよい。プレートを積層し、アッセイに先だってコーティングし、例えばロボット工学を使用することにより、手動、半自動又は自動様式にて、免疫アッセイをいくつかのサンプルについて同時に実施できるようにしてもよい。
【0042】
b)ブロッキング
コーティングされたアッセイ表面(固相)、例えばマイクロタイタープレートは、固相の過剰な結合部位への遊離のリガンドの所望しない結合が防止されるように、典型的には、非特異的部位と結合してそれを飽和するブロッキング剤で処理される。非ヒト哺乳動物グロブリンは、例えばヒト又はヒト化抗体等のヒト標的分子を検出するためのアッセイにおいて、ブロッキングバッファーのブロッキング剤として使用することができる。ブロッキング処理は、典型的には、周囲温度で、約1−4時間の期間、例えば約1.5〜3時間、又は2時間といった条件下でなされる。
【0043】
c)サンプル添加
コーティング及びブロッキング後、分析されるサンプル(例えば血清)を、例えば約10容量%に希釈することができる。希釈に使用され得るバッファーには、例えば、
(a)0.5%のBSA、0.05%のトゥイーン(TWEEN)20TM洗浄剤(P20)、5mMのEDTA、0.25%のChaps界面活性剤、0.35MのNaCl、及び0.05%のプロクリン(Proclin)-300を含み、pH8.01のリン酸緩衝食塩水(PBS);
(b)0.5%のBSA、0.05%のプロクリン-300、及び0.05%のP20を含み、pH7.3のPBS;
(c)0.5%のBSA、0.05%のP20、0.05%のプロクリン-300、5mMのEDTA、及び0.35MのNaClを含み、pH6.39のPBS;
(d)0.5%のBSA、0.05%のP20、0.05%のプロクリン-300、5mMのEDTA、0.2%のベータ-ガンマグロブリン、0.25%のChaps、及び0.35MのNaClを含むPBS;
(f)2%のBSA、0.05%のプロクリン-300、及び0.05%のP20を含み、pH7.3のPBS;
(g)0.5%のBSA、0.05%のプロクリン-300、及び0.05%のP20、pH7.3、0.1%のトリトン(Triton)X-100を含むPBS;
(h)0.5%のBSA、0.05%のプロクリン-300、及び0.05%のP20、pH7.3、0.1%のトゥイーン-80を含むPBS;
(i)0.5%のBSA、0.05%のプロクリン-300、及び0.05%のP20、pH7.3、0.1%のn-オクチル-b-D-グルコピラノシドを含むPBS;
が含まれる。
【0044】
十分な感度のためには、固定化されたキャプチャー試薬は、一般的に、適切に希釈された後のサンプルにおいて予期される標的分子の最大モル濃度よりも過剰のモル濃度で存在する。標的分子によっては、キャプチャー試薬は検出抗体と結合部位に対して競合し、不正確な結果が生じるおそれがある。よって、キャプチャー試薬の最終濃度は、通常は、関心ある範囲にわたってアッセイの感度が最大になるように実験的に決定されるであろう。
いくつかの実施態様では、サンプルバッファーは、付加的な成分を含んでもよい。例えばBGG等の哺乳動物グロブリンを、いくつかの実施態様におけるサンプルバッファーに添加することができる。
【0045】
d)インキュベーション
サンプル及びキャプチャー試薬のインキュベーション条件は、アッセイの感度が最大になり、解離が最小になるように選択される。インキュベーション時間は主として温度に依存し、インキュベート時間は一般に温度の増加と共に減少する。インキュベーション時間は、例えば一晩とすることができ、例えば室温とすることができる。温度を、例えば約30℃まで高くすると、インキュベーション時間は、例えば約1−3時間まで短くすることができる。インキュベーション温度が、例えば約4℃まで低下すると、インキュベーション時間は、例えば約24−48時間まで増加させることができる。サンプルが体液であるならば、体液中のプロテアーゼによる分析物の分解を防止するために、サンプルにプロテアーゼインヒビターを添加して、インキュベーション時間を長くしてもよい。
【0046】
インキュベーションバッファーのpHは、捕捉される分析物に対するキャプチャー試薬の特異的結合の有意なレベルが維持されるように選択される。インキュベーションバッファーのpHは、一般的に約6−9.5、例えば約7−8である。この工程中、所望するpHを達成し維持するために、ボラート、ホスファート、カルボナート、トリス-HCl又はトリス-ホスファート、アセタート、バルビタール等を含む種々のバッファーを用いることができる。使用される特定のバッファーは、通常は重要ではない;しかしながら、個々のアッセイでは、あるバッファーが、他のものよりも好ましい場合がある。
【0047】
e)洗浄
系から未捕捉分析物を取り除くため、洗浄液を用い、固定化されたキャプチャー試薬からサンプルを分離させることができる。洗浄液は一般にバッファーであり、例えば、上述したインキュベーションバッファーの一つとすることができる。洗浄液のpHは、インキュベーションバッファーに対して上述したようにして決定され、約6−9、例えば約7−8とすることができる。洗浄は一又は複数回実施してもよい。しかしながら、洗浄の回数を最小にすると、低親和性で標的分子に結合する分子を保持する助けにはなるが、洗浄を最小にすると、アッセイのバックグラウンドが増加するおそれがある。一実施態様では、3回の洗浄が使用される。洗浄液の温度は典型的には約0−40℃であり、約4−30℃とすることができる。自動プレート洗浄機を利用してもよい。架橋剤又は他の適切な薬剤を洗浄液に添加して、捕捉された分析物をキャプチャー試薬に共有的に結合させてもよい。
【0048】
f)検出
例えば洗浄により、系から未捕捉標的分子を除去した後、捕捉された標的分子を、例えば室温で、捕捉された抗体等の、捕捉された標的分子に結合して検出を可能にする検出剤と接触させることができる。標的分子がヒト化治療用抗体である場合、検出剤は、例えば異なった種の抗アイソタイプ抗体でありうる。治療用抗体が例えばヒトIgGであるならば、検出剤はマウス抗ヒトIgG抗体でありうる。一実施態様では、標的分子はマウスモノクローナル抗体であり、検出剤はヒツジ抗マウスIgGである。
【0049】
標的分子を検出剤と接触させる温度及び時間は、主として使用される検出手段に依存する。例えば、ヒツジ抗マウスIgGにコンジュゲートした西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)が検出手段として使用される場合、検出剤は、約0.5−2時間、例えば約1時間、捕捉された標的分子と共にインキュベートすることができる。未結合の検出剤を系から除去するために、系を上述したように洗浄し、ペルオキシダーゼ基質を添加し、室温で約5分、又は良好な色調が可視されるまで、プレートをインキュベートすることにより、系を反応させることができる。
【0050】
未結合標的分子を系から洗浄した後、典型的には、モル過剰の検出剤を添加する。検出剤はポリクローナル又はモノクローナル抗体であってよく、例えばマウスモノクローナル抗体等のモノクローナル抗体とすることができる。検出剤は直接的又は間接的に検出可能なものであってよい。検出剤が直接的に検出可能ではない、例えば標識されていない抗体である場合、検出抗体は、検出抗体のアイソタイプ及び動物種に対するモル過剰の第2の標識抗体を添加することにより、検出することができる。
【0051】
g)親和性
検出剤の親和性は、少量の標的分子を検出することができる程、十分に高くなければならない。蛍光分析又は化学発光用の標識部分は、一般的な比色分析標識と比較して、免疫アッセイにおいてより高い感度を有する。検出剤がキャプチャー試薬から標的分子をはぎ取らないように、選択された検出剤の結合親和性を、キャプチャー試薬の結合親和性の観点から考慮しなければならない。
【0052】
h)標識
標識部分は、検出剤への捕捉標的分子の結合に干渉しない任意の検出可能な官能性とすることができる。適切な標識部分の例には、直接的に検出され得る部分、例えば蛍光色素、化学発光、及び放射性の標識、並びに検出のために反応又は誘導体化されなければならない酵素のような部分が含まれる。そのような標識の例には、放射性同位元素32P、14C、125I、H及び131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート、又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルセリフェラーゼ(luceriferase)、例えばホタルルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン類、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリ性ホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスファートデヒドロゲナーゼ、複素環オキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼで、HPP等の染料前駆物質を酸化させるために過酸化水素を使用する酵素とカップリングしたもの、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、ビオチン/ストレプトアビジン-β-ガラクトシダーゼ及びMUG、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定なフリーラジカル等が含まれる。
【0053】
例えば抗体等の検出剤への標識部分のコンジュゲーションは、免疫アッセイ技術における標準的な操作手順である、例えば、O'Sullivanら, 1981, 「Methods for the Preparation of Enzyme-antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay」, Methods in Enzymology, Langone 及び Van Vunakis編, Vol.73(Academic Press, New York, N.Y.)pp.147-166を参照。タンパク質又はポリペプチドへ標識部分を共有結合させる一般的な方法が利用できる。例えば、カップリング剤、特にジアルデヒド類、カルボジイミド類、ジマレイミド類、ビス-イミダート類、ビス-ジアゾ化ベンジジン等を、上述した蛍光、化学発光及び酵素標識で抗体を標識するのに使用することができる。例えば、米国特許第3940475号(蛍光定量法)及び同第3645090号(酵素);Hunterら, 1962, Nature, 144:945;Davidら, 1974, Biochemistry, 13:1014-1021;Painら, 1981, J. Immunol Methods, 40:219-230;及びNygren J, 1982, Histochem. and Cytochem., 30:407-412を参照。蛍光又は化学発光標識は、約5−10pg/mlまで増幅及び感度を増加させるのに使用することができる。
【0054】
キャプチャー試薬に結合する標的分子の量は、固定化相から未結合検出剤を洗い流し、標識に適した検出方法を使用し、標的分子に結合した検出剤の量を測定することにより決定することができる。標識部分は、例えば酵素であってよい。酵素部分の場合には、例えば色調等の発現シグナルの量は、捕捉された標的分子の直接測定による。例えば、HRPが標識部分である場合、色調は、650nm吸光度での光学密度(O.D.)を定量することにより検出される。他の実施態様では、キャプチャー試薬に結合した標的分子の量は、間接的に測定することができる。未標識検出剤のシグナルは、標識部分にコンジュゲートした抗検出剤抗体を用いた検出のために増幅させてもよい。例えば、標的分子に結合する未標識マウス抗体のシグナルは、HRPで標識されたヒツジ抗マウスIgG抗体で増幅されうる。標識部分は標識に適した検出方法を使用して検出される。例えば、HRPは、HRPを発色基質と反応させ、反応した基質の650nm吸光度での光学密度を測定することにより検出され得る。
【0055】
2)ブリッジング形式ELISA
一般的な直接ELISA系では、キャプチャー試薬及び検出剤は、構造及び/又は種において互いに異なっている。例えば、キャプチャー試薬はヒツジ抗ヒトIgGとすることができ、検出剤はヤギ抗ヒトIgGを含みうる。
ブリッジングELISA系では、キャプチャー試薬及び検出剤は、構造及び/又は種において類似しており、同じポリクローナル抗体から誘導することができる。ブリッジングELISAは、種々のアッセイにおいて、低下した非特異的バックグラウンド及びバックグラウンド変動を示すことが観察された。本発明の一実施態様では、キャプチャー試薬と検出剤の双方が、同じポリクローナル抗体を含んでおり、例えばヒツジ抗ヒトIgGであるか又はそれを含むことができる。
【0056】
E.非哺乳動物γグロブリンを使用するアッセイ
標的特異的結合分子は、典型的には、高感度が必要とされる生体マトリックス中におけるサンプルをアッセイするのに必要である。標的特異的分子は、通常、アッセイバックグラウンドと個々のバックグラウンド変動の双方を低減させることに役立ち、よって高いアッセイ感度をもたらす。本研究においては、ポリクローナル及びモノクローナル抗rhuMAb2H7イディオタイプ分子の双方が開発されたが、高親和性でrhuMAb2H7により特異的に認識されうるCD20分子を使用するrhuMAb2H7用のアッセイの開発に最初は努力が集中せしめられていた。これらの努力は、rhuMAb2H7に対して高感度で精密なアッセイを得るには至らなかった。
【0057】
しかしながら、以下の実施例に記載された研究では、高感度及び精確さを有し、如何なる標的特異的分子にも依存しない、非ヒト血清中におけるrhuMAb2H7等の抗体を定量することができるELISAアッセイの発見に至った。ここに開示された方法は、第2の種、特に密接に関連した種の生体マトリックス中における第1の種の分析物を定量する一般的方法を提供する。一実施態様では、本方法は、第2の種の生体マトリックス中、例えばカニクイザル体液等の非ヒト種の血清中における、第1の種の分子、例えばヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等の検出及び定量法を提供する。
【0058】
ここに開示されたアッセイ法は、検出及び/又は定量される標的分子に特異的なキャプチャー試薬(すなわち、標的特異的分子)を使用する必要がなく、ヒト抗体、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、その断片等を含む、多様な分析物を定量するのに使用することができる。これらの方法は、例えばヒト化抗体薬物動態アッセイの開発、特に動物研究が必須であるが、試薬が容易に入手できない薬剤開発の初期段階において、広い用途がある。
【0059】
適切な標的特異性分子が入手できない場合、ここに記載された2H7治療用抗体を検出するためのCD20の場合におけるように、可能な限り多くの潜在的干渉成分を除去することに努力を集中することができる。潜在的干渉物質をキャプチャー試薬に前吸着させることにより、前吸着していないキャプチャー試薬と比較した場合のバックグラウンド、例えば血清タンパク質の存在によるバックグラウンドを、大きく低下させることができる。以下の実施例では、使用されるキャプチャー試薬、ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)には、サル血清を吸着させた。これにより、他のキャプチャー試薬と比較して、比較的低いバックグラウンドに至った。しかしながら、カニクイザルIgGが、ヒトIgGに対して強い類似性を有しており、干渉に対する主たる寄与物質であると思われる事実にもかかわらず、キャプチャー試薬中のカニクイザルIgG結合成分を単に除去するだけでは、不十分であることが見出された。さらに、高バックグラウンドの個体から精製されたカニクイザルIgGをキャプチャー試薬に吸着させても、さらなるバックグラウンドの低減には至らず、IgG以外の血清タンパク質がまたアッセイに干渉していることが示唆される。個々のカニクイザル血清のうちで留意されるバックグラウンドの高変動は、IgGそれ自体以外の血清タンパク質からの干渉に原因があると考えられていた。これらの成分はキャプチャー試薬に対して異なる濃度及び/又は親和性を有している可能性があり、よって高バックグラウンド変動をもたらす。
【0060】
血清中に存在する全ての干渉成分を見つけ出し、除去することは現実的ではないが、免疫アッセイ系の戦略として、バックグラウンド変動を低減させるために、バックグラウンドを最大にすることが研究された。血清濃度の増加は、バックグラウンドを最大にし、バックグラウンド変動を低下させる一方法であるが、バックグラウンドを顕著に増加させると、アッセイ感度がまた低減する。
【0061】
ここに開示したように、ブロッキングバッファーに非ヒトγグロブリン(BGG)を添加すると、血清バックグラウンドの比較的小さい増加のみを伴いバックグラウンド変動が劇的に低減されることが発見された。理論に拘束されるわけではないが、BGGはキャプチャー試薬(例えば、ヒツジ抗ヒトIgG(H+L))と弱く相互作用し、アッセイブランクで証明されたように、バックグラウンドの一般的な増加を生じたと考えられる。しかし、相互作用があまりに弱いため、ヒトIgG結合を完全になくすることはできないし、又はカニクイザル血清で実質的に高いバックグラウンドを引き起こすこともできない。
【0062】
しかしながら、サンプル及び/又は検出剤の希釈バッファーにBGGを添加すると、シグナルの低減を引き起こすことにより、例えばrhuMAb2H7検出等、ヒト抗体検出に干渉することが見出された。BGGのキャプチャー試薬との相互作用により、キャプチャー試薬の結合部位のいくつかがマスクされ、また検出剤と潜在的に相互作用し、よって、rhuMAb2H7の絶対シグナルに低減が生じた。他方、BGGとキャプチャー試薬との相互作用は、カニクイザル血清タンパク質からのものよりはいくらか強く、よってバックグラウンド変動が低減する結果に至る。いくつかの要因が、ヒト抗体、例えばrhuMAb2H7と、BGG、例えばバッファー中の比較的高濃度のBGGとのより強い相互作用、BGGのヒト抗体、例えばrhuMAb2H7に対する高親和性、又はこれらの要因の組合せに潜在的に寄与しうる。
【0063】
サンプル及び検出剤バッファーの双方からBGGを除去すると、ヒト抗体絶対シグナル、例えばrhuMAb2H7シグナルが高まり、さらにシグナル対ノイズ比が改善されることが見出された。この知見は、rhuMAb2H7等のヒト抗体に対し、キャプチャー試薬と検出剤の双方のいくつかの結合部位をBGGがマスクするという仮説に一致する。よって、ブロッキング工程にBGGを使用すると、バックグラウンド変動が低下する結果になり、バッファーからBGGを除去すると、シグナル対ノイズ比が高まる結果になる。
【0064】
キャプチャー試薬と検出剤の双方に対して同じ試薬(例えば、ヒツジ抗ヒトIgG)を使用するブリッジング形式により、一般的な直接ELISA形式よりも、低いバックグラウンド及びより小さな個々の血清バックグラウンドが生じることが見出された。いくつかの可能性のある説明を提起することができる。第1に、検出剤ヒツジ抗ヒトIgGにサル血清が吸着されているため、サンプルのインキュベーション中に捕捉された非特異的タンパク質への結合機会が低減した。第2に、検出剤がキャプチャー試薬から誘導されたブリッジング形式では、2つの同一の結合部位を含む分析物が優先的に検出された。IgG以外のカニクイザル血清タンパク質は、前吸着実験で示唆されるように、バックグラウンドにまた寄与している。しかしながら、これらの血清タンパク質は、キャプチャー試薬と検出剤の双方が同じ分子から誘導されている場合に、効果的にはブリッジとして作用せず、よってブリッジング形式におけるそれらの認識は最小で、血清バックグラウンドがさらに低減する結果となる。
【0065】
以下の実施例に示すように、カニクイザル血清rhuMAb2H7の高感度PKアッセイが開発された。プールしたカニクイザル血清が添加されていないバッファーが、サンプル及び検出剤バッファーに成功裏に使用され、またバッファーにおける標準曲線が作成された。実施ではコストが低下し、自動化のためのアッセイの準備が簡略化され、再現可能な結果を確実にするために見合う試薬を得る及び/又は維持する際の潜在的な危険性が最小になる。1:10の最小血清希釈度を使用することで、アッセイは高感度である。また、アッセイはまた非常にロバストで、アッセイ間及びアッセイ内変動は小さい。rhuMAb2H7分子について、アッセイにより、いくつかのカニクイザル研究、並びに齧歯動物種での研究において、分子の薬物動態が明らかとなった。
【0066】
本発明のアッセイは、如何なる特定の標的分子にも依存せず、ヒト/ヒト化IgGを含む様々な分子を定量するために使用することができる。ここに開示されたrhuMAb2H7アッセイの開発に重要な最適化は、以下の実施例に示すように、他のヒト/ヒト化IgGを含む他の分子に対するアッセイにも適用することができる。アッセイは一般的適用性を有し、例えばサル、ラット及びマウスの血清中のrhuMAb2H7を測定するために使用した(表1を参照)。

ラット及びマウスにおいて実施された研究の結果を表1に示す。データには、本発明の最適化された一般的(非標的特異性)アッセイを使用し、これらの2つの種からのスパイク回収率が高率であることが示されている。さらに、予備結果でも、rhuMAb2H7を、非ヒト霊長類、例えばヒヒ、アカゲザル、及びアフリカミドリザルの血清中において検出可能であることが示唆された(表2を参照)。
表2

表2に示したように、データには、これら3つの種にわたって、81−93%の範囲の回収率が示されている。
次の実施例は、例証のために提供するもので、限定するものではない。本明細書における全ての引用文献の開示を、出典明示によりここに明示的に援用する。
【実施例】
【0067】
実施例1
バックグラウンド/変動を低減するための前吸着
1.カニクイザルIgG交差反応性を除くための前吸着
種々のキャプチャー試薬を、本発明で開示する方法に使用するためにスクリーニングした。カニクイザル血清吸着ヒツジ抗ヒトIgG重(H)及び軽(L)鎖(Cat#CUS1684)はBinding Site(San Diego, CA)から商業的に入手可能であり、将来の有望性を示した。しかしながら、以下で検討し、表3に示すように、このキャプチャー試薬を使用すると、高く変動のあるバックグラウンドになってしまった。よって、バックグラウンド及びバックグラウンド変動を低減させる試みで、サル血清吸着ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)に、問題のある個々のサルの血清(高バックグラウンド)から得られた精製カニクイザルIgGをさらに吸着させ、キャプチャー試薬中の任意のIgG結合成分を除去した。
【0068】
まず、カニクイザルIgGを、製造者が推奨する手順に従い、HiTrap Protein Gカラム(Pharmacia)により精製した。簡単に述べると、カラムを水で洗浄し、20mMのリン酸ナトリウム、pH7.0で平衡にした。最初のスクリーニングで高バックグラウンドをもたらした個々のカニクイザル血清を約1ml、シリンジを用いてカラムに注入した。ついで、カラムを、5カラム容量の20mMのリン酸ナトリウムバッファーで洗浄し、0.1Mのグリシン、pH2.7で溶出させた。溶離液をPBSに対して4℃で一晩透析し、概算した減衰係数1.36を使用し、280nmでの吸光度により濃度を測定した。
【0069】
ついで、標準的な手法を使用し、精製されたカニクイザルIgGを、制御された多孔質ガラス(CPG)ビーズにカップリングさせた。簡単に述べると、まず、蒸留水を含むスナップ-キャップチューブ(snap-cap tube)中でビーズを膨潤させた。上清を真空吸引により除去し、廃棄した。新たに調製した1%メタ過ヨウ素酸ナトリウムを、湿ったビーズと同容量でチューブに添加し、室温で30分、懸濁液をゆっくりと回転させた。ビーズを静置させた後、上清をデカントし、ビーズをPBSで5回洗浄し、過剰の過ヨウ素塩を除去した。精製されたカニクイザルIgGを活性化ビーズに添加し、ビーズが静置する前に、懸濁液を十分に混合した。2ミリグラムの固形シアノホウ化水素ナトリウムを添加し、混合物を4℃で40時間混合した。pH8.0で一晩、1Mのエタノールアミンでブロックする前に、カップリングされた樹脂をPBSで数回洗浄した。ついで、樹脂を洗浄し、PBS中に保存した。
【0070】
ついで、以下の手順に従い、精製カニクイザルIgGをキャプチャー試薬に前吸着させた。キャプチャー試薬(炭酸ナトリウムに1μg/mlを100μl(pH9.6))を、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに添加し、プレートを4℃で一晩インキュベートし、キャプチャー試薬を固定化させた。ついで、プレートを、0.05%のポリソルベート-20を含むPBSで3回洗浄した。固定化されたキャプチャー試薬を、プールされたカニクイザルIgG血清、又はプールされたカニクイザル血清と、高バックグラウンドを生じる傾向のある一又は二の個々のサルからの血清との組合せに、表3に示すように、1%又は10%の血清濃度で吸着させた。
【0071】
バッファーA(0.5%のBSA、0.05%のトゥイーン-20、及び0.05%のプロクリン-300を含むPBS)を、洗浄したプレートに添加し、室温で約2時間インキュベートして、プレートをブロックした。プレートを3回洗浄し、吸い取って乾かした。また、バッファーAを、サンプル及び検出剤の双方を希釈するためにも使用した。
【0072】
2.結果
表3

キャプチャー試薬は、The Binding Site(San Diego, CA)から得られたヒツジ抗ヒトIgG重(H)及び軽(L)鎖(Cat#CUS1684)であった。商業的に入手可能なこのキャプチャー試薬には、カニクイザル血清が既に前吸着されている。よって、この欄に列挙した前処理は、付加的な前処理吸着工程と呼ぶ。
【0073】
表3に示すように、1%のカニクイザル血清でのキャプチャー試薬の前吸着により、平均バックグラウンドが0.181O.D.となり、10%血清(0.308O.D.)よりもかなり低下した。しかしながら、1%血清を使用したバックグラウンド変動は85CV%と極めて高かった。表3を参照。
10%血清で観察された低変動により、高濃度の血清でのバックグラウンドの最大化効果が示唆される。カニクイザル血清からのバックグラウンドは、非特異的タンパク質のキャプチャー試薬への結合に起因すると思われる。個々のカニクイザル血清中に異なる濃度で存在する、これらの非特異的タンパク質が、個々の血清バックグラウンド変動の一因であった。血清をさらに希釈すると、バックグラウンド変動及び平均血清バックグラウンドを低減できるかもしれないが、PK分析に対しては感度が十分ではないアッセイになるであろう。
【0074】
これに対して、表3に示すデータには、血清濃度が増加すればする程、バックグラウンド変動が抑制されることが示されている。キャプチャー試薬が限定試薬になる場合、アッセイに使用される血清のパーセンテージが増加すると、プレートに捕捉される非特異的に相互作用するタンパク質の全量が、最大量に達するまで増加する。非特異的相互作用は通常は弱いため、最大化されたシグナルは、実施可能なアッセイを作り出すのに十分低い。
【0075】
しかしながら、10%のカニクイザル血清を用いると、個々のバックグラウンド変動は、1%の血清よりも大きく低いのにかかわらず、非常に高い。10%を超える血清濃度を使用すると、変動をさらに抑制し得るが、それ自体がアッセイ開発に他の課題をもたらすおそれのあるさらに高いバックグラウンドになると思われる。
全体的には、キャプチャー試薬中のIgG結合成分をさらに除去するために、カニクイザルIgGをキャプチャー試薬抗体に前吸着させても、個々のカニクイザル血清バックグラウンドの変動の最小化には有意な改善が得られなかった。この観察により、本形式を用いると、個々の血清バックグラウンドの変動が、カニクイザル免疫グロブリン以外のタンパク質から生じることが示唆された。
【0076】
実施例2
ブロッキングバッファーでのBGG(ウシγグロブリン)
バックグラウンドレベル及びバックグラウンド変動が改善されうるかどうかを調べるために、ブロッキングバッファー、サンプル希釈液、及び検出剤希釈液におけるBGGの使用を分析した。ヒツジ抗ヒトIgG重(H)及び軽(L)鎖キャプチャー試薬(Cat#CUS1684)と、ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)HRPコンジュゲート検出試薬(Cat#CUS1684.H)を、The Binding Site(San Diego, CA)から購入した。ヒト化mAbsは、既知の方法で作製することができる。rhuMAb2H7は、国際公開第04/056312号に記載されているようにして産生した。ハーセプチン(登録商標)、ゾレア(登録商標)、アバスチン(Avastin)TM、及びラプティバ(Raptiva)(登録商標)を、それぞれ、Carterら, PNAS 89:4285-4289(1992)、米国特許第6172213号、Prestaら, Cancer Research 57:4593-4599(1997)、及び米国特許第6037454号に記載の手順に従って産生した。ヤギ抗ヒトIgG(H+L)西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)(検出剤)を、American Qualex(San Clemente, CA)から購入した。個々のカニクイザル血清をBiochemMed(VA)から得た。Maxisorp Nunc-immuno96-ウェルマイクロタイタープレートを、Nalge Nunc International(Rochester, NY)から購入した。HRP検出剤基質3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)とHを、KPL(Gaithersburg, MA)から得た。ウシ血清アルブミン(bovuminar Cohn Fraction V, pH7)をSerologicals Corp(cat#3322-90, Ontario, Canada)から得、プロクリン300をSupelco(Bellefonte, PA)から得た。1%のポリソルベート20を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)の20x溶液を、MediaTech Cellgro(Herndon, VA)から購入した。ウシ-γ-免疫グロブリン(BGG)及び3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン-スルホナート(CHAPS)の双方は、Sigma(St. Louis, MO)からのものであった。Bio-Tek Instruments, Inc.(Winooski, VT)からのEL 404マイクロプレート自動洗浄機を、ELISAにおける全ての洗浄工程に使用した。Spectra Max250プレートリーダー(Molecular Devices Corporation, Sunnyvale, CA)を使用し、650nmでの吸光度から450nmでの吸光度を引いたものを使用し、ELISAにおけるシグナルを記録した。
【0077】
1.ELISAのための形式:カニクイザルIgG交差反応性を除くためのヒツジ抗ヒトIgG(重+軽鎖)の吸着
a.アッセイ表面へのキャプチャー試薬の適用及びキャプチャー試薬の前吸着
炭酸ナトリウム(pH9.6)に100μl容量のキャプチャー試薬(1μg/mlのヒツジ抗ヒトIgG(H+L))が入ったものを、96ウェルマイクロタイタープレートに添加し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。ついで、プレートを洗浄バッファー(0.05%のポリソルベート20を含有するPBS)で3回洗浄した。
【0078】
b.キャプチャー試薬へのサンプルの適用
ブロッキングバッファー(200μl、PBS/0.5%のBSA/0.05%のP20、0.05%のプロクリン300、0.25%のCHAPS、0.2%のBGG、5mMのEDTA、0.35MのNaCl、pH8.0)を、洗浄され、前吸着されたキャプチャー試薬に添加した。このプレートをシールし、穏やかに攪拌しつつ、室温で2時間インキュベートした。3回洗浄し、吸い取って乾燥した後、バッファーに100μlのrhuMAb2H7標準体、コントロール、血清ブランク、及び血清サンプルが入ったもの(ブロッキングバッファーと同じ組成を有する)を、プレートに添加した。続いて、プレートをプレートシーラーでシールした。穏やかに攪拌しつつ、室温でさらに1時間インキュベートした後、プレートを洗浄バッファーで6回洗浄し、吸い取って乾燥した。
【0079】
c.検出剤でのサンプル分析物の定量
希釈した検出剤(100μl)を添加し、プレートをシールし、穏やかに攪拌しつつ、室温で1時間インキュベートした。ついで、プレートをさらに6回洗浄し、100μlの同容量のTMBとHを添加する前に、吸い取って乾燥した。攪拌しないで、室温で15分インキュベートした後、さらに1MのHPOを100μl添加することにより、反応を停止させた。450nmでの吸光度を、650nmでの吸光度から引き、Spectra Max250プレートリーダー(Molecular Devices Corporation, CA)で読み取り、製造者より提供されるSoftmaxProソフトウェアを使用して、データを処理した。
【0080】
2.全てのバッファー(ブロッキングバッファー、サンプルバッファー、及び検出バッファー)中でのBGGの使用
バックグラウンド変動に対して良好な制御を確立しつつ、アッセイバックグラウンドを最小にするためのさらなる試みで、BGG(ウシガンマグロブリン)を含む、種々のバッファー添加剤を含むいくつかのバッファー溶液(表4に示すバッファーA-E)を調製し、ブロッキングバッファー、サンプルバッファー、及び検出剤バッファーに使用した。ついで、これらのバッファーを、上述したようにELISAアッセイにおいてスクリーニングし、バックグラウンド及び変動の低減におけるそれらの効果を究明した。データを表4に示す。

基本バッファー成分はPBS/0.5% BSA、0.05% トゥイーン-20、及び0.05% プロクリン-300であった。
基本バッファー成分は、55mM HEPES/0.5% BSA、25mM HEPESナトリウム塩、2% トリトンX-100、及び0.05% プロクリン-300であった。
240ng/ml濃度のrhuMAb2H7での450−650nmのO.D.測定値。n=8。
450−650nmでのO.D.測定値。n=8。
450−650nmで測定された平均血清バックグラウンド。
バックグラウンドのCV%。
【0081】
表4には、各バッファーの成分が列挙されている。バッファーAを、標準的なアッセイバッファーとして調製し、これは0.5%のBSA、0.05%のトゥイーン-20、及び0.05%のプロクリン-300を含んでいる。バッファーAと同じ成分を含むが、さらに、BGGを含む表4列挙のバッファー添加剤を含むバッファーC及びDを調製した。全ての実験についてN=8。
【0082】
バッファーを、上述したELISAアッセイで試験した。キャプチャー試薬(ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)、サル血清吸着)のコーティング後にプレートをブロックし、サンプル(10%の個々のカニクイザル血清及びrhuMAb2H7)及び検出剤(ヤギ抗ヒトIgG・HRP)の双方を希釈するために、バッファーを使用した。表4に列挙したアッセイブランクとは、血清又はrhuMAb2H7を含まないバッファーサンプルを意味する。
【0083】
3.結果
rhuMAb2H7シグナルと、アッセイブランク及び10%のカニクイザル血清の双方に対するアッセイバックグラウンドの比較を、ELISAを使用する種々のバッファー条件下で行った。
スクリーニングされたバッファーのなかで、バッファーBのみが、標準的なアッセイ希釈液Aと比較して、アッセイブランクからバックグラウンド及び平均血清バックグラウンドの双方が低下していた(表4)。しかしながら、個々のカニクイザル血清の変動は62%であり、標準的なアッセイ希釈液A(47%)を使用した場合に見られるよりも、変動が高かった。
【0084】
またバッファーEは、アッセイブランクと比較して、バックグラウンドを低下させることが見出された。このバッファーは、平均血清バックグラウンドにおいて観察された増加により示されるように、カニクイザル血清とキャプチャー試薬/検出剤との間の非特異的な相互作用を高めると思われる。この増加は、個々の血清バックグラウンドの観察される変動がバッファーAのものに類似しているため、実験での全ての個々のカニクイザルに対して類似していた(表4)。
【0085】
バッファーCとDは同じバッファー組成を含んでいるが、異なるpH値(それぞれ8.98及び8.01)を有する。バッファーC及びDの双方は、アッセイブランクのバックグラウンドに増加を引き起こし、一又は複数のバッファー成分がキャプチャー試薬及び検出剤の双方と弱く相互作用していたことが示される。これらのバッファーは付加的な添加剤を含有しているため、平均カニクイザル血清のバックグラウンドが増加したことは、驚くべきことではない。
【0086】
バッファーC及びDを、それぞれ22%及び18%で使用した場合、個々のカニクイザル血清の間の変動は顕著に低下した(表4)。この減少は、相互作用がバックグラウンドを最大にし、個々のサル血清における差異をマスクし、低減したバックグラウンドを生じるため、バッファー添加剤とキャプチャー試薬/検出剤との間のさらなる相互作用に起因していると思われる。
【0087】
また、表4に示されるように、バッファーC及びDそれぞれのアッセイブランクとバックグラウンドとの間の差異は、顕著に狭くなっている。バックグラウンドとアッセイブランクとの間のこの少ない差異は、これらのバッファーの使用により得られる血清バックグラウンド変動の低減の観察と組合せて、バッファーC及びDを用いると、これらのバッファー中に存在する付加的な成分の寄与と比較して、カニクイザル血清からキャプチャー試薬/検出剤への非特異的な相互作用が血清のバックグラウンドに対して小さな原因となることが示唆される。
【0088】
バッファーC及びDが使用される場合の主たるバックグラウンド原因における変化は、個々の血清において変動が低減し、並びにアッセイブランクに対し血清バックグラウンドが酷似していることに原因がある。この結果により、標準曲線及びサンプルを希釈するためにアッセイバッファーを単独で使用可能で、バッファーに添加するための、適切で代表的なプールされたカニクイザル血清を見出す必要性を除くことができる。
また、バッファーC(8.01)と比較して、高pHのバッファーD(8.98)は、個々のカニクイザル血清の変動においてさらなる低減を引き起こすことも見出された(表4)。
さらに、バッファーC及びDの使用で、rhuMAb2H7シグナルも低減した(表4)。この観察についてのさらなる考えられる解釈は、rhuMAb2H7の検出を効果的にマスクする検出剤に、これらのバッファー中の付加的な添加剤が相互作用し、結果としてシグナルが低減するということである。キャプチャー試薬と検出剤(2つの異なる種からの抗-ヒトIgG)との間の類似性により、バッファーC及びD中の付加的な添加剤が、双方の試薬と相互作用可能であるということは驚くべきことではない。
【0089】
4.rhuMAb2H7シグナルを復元するためのバッファーDの最適化
rhuMAb2H7シグナルを復元する試みで、シグナル低減の原因であるパラメータを分離するために、バッファーD中における各添加剤の寄与の体系的調査に取りかかった。
バッファーDは、バッファーA中に存在しない4つの付加的な添加剤を含有している。それぞれ、元のバッファーA中には存在しないバッファーDから一の付加的な添加剤を有するバッファーA1−A4を調製した。検出剤希釈工程におけるシグナル対ノイズ比に対する付加的な添加剤の効果を測定した。ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)(サル血清吸着)をキャプチャー試薬として使用した。検出剤はヤギ抗ヒトIgG(H+L)・HRPであった。バッファー組成は表4に記載の通りであった。結果を表5に示す。
表5

【0090】
ELISAを上述したようにして実施し、検出剤希釈工程では新たなバッファーを使用した。シグナル(240ng/mlのrhuMAb2H7)とノイズ(10%のカニクイザル血清のバックグラウンド)についての光学密度(O.D.)測定値を算出した。シグナル対ノイズ比もまた各バッファーについて算出した(表5)。
塩分の多いキレート試薬、例えばEDTA、及び洗浄剤(CHAPS)は、予期していたように、それぞれバックグラウンドを低下させた。またこれらの添加剤は、親バッファーA(表3)で得られたシグナルと比較して、rhuMAb2H7シグナルを低減させたが、バックグラウンド低減量よりも少ない程度であった。
【0091】
全体的に、添加剤はシグナル対ノイズ比を増加させた(表5)。しかしながら、親バッファーA中にBGGを添加すると、カニクイザル血清のバックグラウンドとrhuMAb2H7シグナルの双方に増加を生じさせた。rhuMAb2H7シグナルにおいてよりも、バッファーA2(BGGを含むバッファー)を使用する血清バックグラウンドにおけるより大きな増加により、シグナル対ノイズ比が親バッファーでは約20であるのと比較して、約16まで低下した。
【0092】
これらの観察を確認するために、バッファーA、A1、A2、A3及びA4を、等容量のバッファーAで希釈し、ついで、検出剤希釈工程で使用した。シグナル対ノイズ比を、希釈及び未希釈バッファーの双方について算出した。結果を図2にまとめるが、これにはバッファーA1、A3及びA4の全てで、親バッファーAと比較して、シグナル対ノイズ比が改善されていることが示されている。未希釈バッファーでは、希釈バッファーよりも、シグナル対ノイズ比がわずかに多く改善されていた。しかしながら、希釈A2バッファーでは、未希釈バッファーA2よりもシグナル対ノイズ比が高まっているが、親バッファーAよりはまだ低かった(図2)。
【0093】
バッファーC及びD中における付加的な添加剤の全体的評価からのこれらの観察により、検出剤希釈工程からBGGを除くと、シグナル対ノイズ比もまた改善しながら、rhuMAb2H7シグナルを回復させるかもしれないことが示唆された。この仮説を試験するために、BGGを欠いていること以外は、バッファーDと同じ成分を有するバッファーD1を調製した。ついで、バッファーD1を、ELISAアッセイの検出剤希釈工程に使用した。予想したように、バッファーD1では、バッファーDと比較して、rhuMAb2H7シグナル及びシグナル対ノイズ比がさらに高まっていた(表5及び図2)。
【0094】
サンプル希釈液からBGGを除去することの効果を測定するために他のアッセイを実施した。アッセイ用のサンプルバッファー希釈液は、10%のカニクイザル血清と256ng/mlの2H7を含む。ブリッジング形式を使用する以外は、実施例2に記載したようにしてELISAを実施したが、ここでキャプチャー試薬と検出剤は双方ともヒツジ抗ヒトIgG(H+L)を含む。キャプチャー試薬に、実施例1に記載したようにして、サル血清を前吸着させた。バッファーDをブロッキングバッファー及びサンプルバッファー希釈液に使用した。バッファーDを検出剤希釈液として使用した場合、アッセイのシグナル対ノイズ比は39であり、バッファーD1を使用した場合は44であった。よって、サンプル希釈工程からBGGを除去すると、シグナル対ノイズ比がさらに高まった。
ブロッキング工程でのバッファーD(BGGを含有)と、それぞれサンプル及び希釈剤用のアッセイ希釈液としてのバッファーD1(BGGを欠く)との組合せにより、個々のカニクイザル血清の変動が低く、シグナル対ノイズ比が高いことを含む、最も好ましいアッセイ性能が得られることが見出された。
【0095】
実施例3
直接ELISAとのブリッジングELISAの比較
実施例2に記載したアッセイは、直接ELISA手順であり、そこでは、検出剤がキャプチャー試薬と異なる。検出剤とキャプチャー試薬が同じ薬剤(例えば同じ抗体)を含むブリッジングELISA形式は、いくつかのアッセイにおいて非特異的バックグラウンドを低減させることが知られている。
ブリッジング式アッセイ系を試験し、得られたバックグラウンド及びバックグラウンド変動を直接ELISA手順のものと比較した。
【0096】
種々の検出剤を用い、カニクイザル血清のバックグラウンドと変動の比較を、2つの希釈液において実施した。ヤギ抗ヒトIgG(H+L)・HRPとサル血清吸着ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)・HRPを、それぞれ直接及びブリッジング形式において使用した。ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)をキャプチャー試薬として使用した。バッファーDを使用してプレートをブロックし、サンプルを希釈した。ELISAアッセイを、実施例2に記載したようにして実施した。ポジティブが確実に類似のシグナルを有するように、rhuMAb2H7サンプルを各実験に導入した。
【0097】
結果を表6に示す。6匹の個々のカニクイザルからの10%血清のバックグラウンドをスクリーニングすることで、ブリッジング形式により、血清バックグラウンドが低下し、個々の血清バックグラウンドにおける変動が低減することが示唆された(表6)。
親バッファーAを実施例2に記載の検出剤希釈液D1で置き換え可能かどうかを決定するために、ブリッジング形式のELISAを繰り返した。側側比較により、ブリッジング形式を用いた場合でさえ、バッファーAがカニクイザル血清の平均バックグラウンドをかなり低下させるという事実にかかわらず、バッファーD1の付加的な添加剤(例えばBGG)を含むバッファーが、低いバックグラウンド変動の維持に必要であることが示唆された(表6)。

【0098】
また、上述のアッセイ法を、直接ELISA形式を使用してまた実施し、そこでは、キャプチャー試薬はヒツジ抗ヒトIgG、サル血清吸着であり、検出剤はヤギ抗ヒトIgG(H+L)であった。
結果を表7に示す。このアッセイにおいて、各バッファーにバッファーD(BGGを含有)を使用すると、3つのバッファーの一又はそれ以上にBGGが存在しない場合に50%−63%の範囲であるのと比べて、21%のCV%が生じた。このデータにより、直接ELISA形式を使用する場合、BGGは、ブロッキングバッファー、サンプル希釈液バッファー、及び検出剤希釈液バッファーのそれぞれにおいて、有用な成分であることが示唆される。直接ELISA形式において3つ全てのバッファーにBGGを使用することから観察されるポジティブな結果から考えられる解釈は、キャプチャー試薬とBGGとの相互作用が弱いため、サンプル希釈液バッファーに含まれないならば、BGGは洗い流されうることである。
表7

【0099】
本アッセイ方法におけるキャプチャー試薬の最適濃度を決定するために、アッセイにおいて、0.25μg/ml〜2μg/mlの濃度で、キャプチャー試薬をスクリーニングした。0.25と0.5μg/ml濃度のキャプチャー試薬では、満足できない程の低い応答しか生じなかったが、1−2μg/ml濃度では、良好な応答曲線が生じた。高い応答性及び経済的検討事項を考慮し、抗体の最適濃度を1μg/mlに決定した。
【0100】
実施例4
rhuMAb2H7カニクイザル血清PKアッセイの感度、精度及び線形性の測定
条件の評価後、ブリッジングELISA形式、ブロッキングバッファーとしてバッファーD、及びサンプル及び検出バッファーとしてバッファーD1を使用する、最適化アッセイの特質を、アッセイ感度、精度及び線形性を含むいくつかの基準を使用して分析した。

【0101】
1.標準曲線の範囲と感度:
バッファー中におけるrhuMAb2H7の標準曲線を、1.56ng/nl〜400ng/mlの範囲で作成した(図3)。定量の下限及び上限(それぞれLLOQ及びULOQ)の双方を決定するために、10%のカニクイザル血清中におけるrhuMAb2H7-スパイクサンプルを種々の濃度で調製した。アリコートを作製し、凍結させ、分析まで実サンプルの保存条件を模倣した。
各濃度につき20のサンプルを、4日以上かけて分析した。各濃度の分散成分を表8にまとめる。分散成分分析に基づき、LLOQ及びULOQは、それぞれ1.56ng/ml及び100ng/mlであると決定した。
【0102】
2.アッセイの精度:
アッセイの精度を決定するために、低(15.6ng/ml)、中(300ng/ml)及び高(1000ng/ml)濃度のrhuMAb2H7を、バッファー又は個々のカニクイザル血清中にスパイクした。サンプルを1:10に希釈し、分析した。カニクイザル血清サンプルの回収率を、バッファー回収率より補正し、表9にまとめた。試験された3つの異なる濃度において、rhuMAb2H7のスパイク回収率は、2%〜8%の範囲のCV%で、91%、87%及び95%の平均値を有していた。
表9

【0103】
3.希釈の線形性
PK研究からの実サンプルは、広範囲のrhuMAb2H7濃度を有しており、よって、アッセイ範囲内で分析されるいくつかの工程で希釈する必要がある。濃度が、大きな希釈係数後に正確に測定可能かどうかを評価するために、アッセイの線形性を試験する実験を実施した。この実験において、2つの異なる濃度(1000及び300ng/ml)のrhuMAb2H7を、個々のカニクイザル血清にスパイクし、実験により決定される希釈-補正濃度を、各サンプルの連続希釈と比較した。連続希釈された各サンプルについての希釈-補正濃度値のパーセンテージ差は18%未満であり、サンプルが試験範囲内で線形的に希釈されていることが示唆される。
【0104】
4.アッセイ内及びアッセイ間精度:
アッセイ内及びアッセイ間精度の双方を測定するために、30、300及び800ng/mlの濃度で、質の良いカニクイザルの血清にrhuMAb2H7を希釈することによって、コントロールサンプルを調製した。各セットのコントロールの複製を、同じ日に、異なるプレートで新たに調製された標準曲線を用いて分析し、数日間、本手順を繰り返した。各濃度でのコントロールサンプルについて、分散成分(%CV)を算出し、表10に示した。「アッセイ内精度」とは、同じ日の実験内で、各濃度で得られたCV%を意味するが、アッセイ間精度は、数日間にわたるデータを使用して得られた。
表10
アッセイ内及びアッセイ間精度のまとめ

【0105】
実施例5
他の抗体に対するアッセイの適用性
a.種々のヒト化抗体用の標準曲線の作製のためのアッセイの使用
実施例1−4に記載されたアッセイに使用された試薬のいずれも、rhuMAb2H7に対して特異的ではなかった。アッセイが他のヒト化抗体を定量するのに有用であるかどうかを決定するために、ブロッキングバッファーとしてバッファーDを、サンプル及び検出剤バッファーとしてバッファーD1を用い、実施例1−4に記載のrhuMAb2H7カニクイザルブリッジングELISA PKアッセイを使用して、アバスチンTM、ラプティバ(登録商標)、ゾレア(登録商標)、及びハーセプチン(登録商標)を含むいくつかの他のヒト化抗体用の標準曲線を作成した。図3及び4に示される結果には、試験された全ての抗体が、本発明のアッセイで良好な交差反応性を示したアッセイ方法を使用して、高度な特異性にて定量されたことが実証されている。
【0106】
b.1%及び10%のカニクイザル血清においてハーセプチン(登録商標)を定量するための非標的特異的、架橋ELISAアッセイの使用

ハーセプチン-特異的アッセイを使用するスパイク回収率(%)
rhuMAb2H7アッセイを使用するハーセプチンのスパイク回収率(%)
【0107】
ここに記載されたアッセイ方法の有用性をさらに試験するために、ブロッキングバッファーとしてバッファーDを、サンプル及び検出剤バッファーとしてバッファーD1を用いて、実施例1−4に記載のブリッジングELISAアッセイを、ハーセプチン用の標的特異的アッセイと並べて試験し、1%及び10%のカニクイザル血清中のハーセプチンを定量した。標的特異的アッセイでは、キャプチャー試薬としてHER2の細胞外ドメイン(ECD)を、希釈剤としてヤギ抗ヒトFc・HRPを使用した。種々の濃度のハーセプチンを1%及び10%のカニクイザル血清中にスパイクし、2つの異なるアッセイで回収率を測定した。
比較結果を表11に示す。双方のアッセイにより、試験された全ての濃度で、非常に類似したハーセプチンのスパイク回収率が得られた。
【0108】
c.本発明の最適化されたブリッジングELISA形式アッセイでのmAb 2H7を検出するためのヤギ抗ヒトIgGの使用
表12

10%のカニクイザル血清でのもの。
(50ng/mlの2H7のO.D.よりも高い)。
(1.56ng/mlの2H7のO.D.よりも低い)。
10% カニクイザル血清中30ng/mlの2H7のもの。
【0109】
キャプチャー試薬として、他のポリクローナル抗ヒトIgGでヒツジ抗ヒトIgGを置き換えることができるかどうか試験するために、キャプチャー試薬としてヤギ抗ヒトIgGを使用するさらなるアッセイを実施した。mAb 2h7で免疫化したヤギから得られた抗血清を2H7カラム、続いてカニクイザル血清タンパク質カラムを用いて又はこれを用いずに精製した。カニクイザル血清のバックグラウンドを、2つのアッセイで比較したが、ここで、アッセイ#1では2H7カラムのみで精製された試薬を使用し、アッセイ#2では双方のカラムから精製された試薬を使用した。双方の方法で、ブリッジング形式、及び実施例1−4において検討された最適化アッセイのバッファー系(ブロッキングバッファーとして使用されるバッファーD、サンプル及び検出バッファーとしてのバッファーD1)を使用した。結果を表12にまとめる。その結果は、他のポリクローナル抗ヒトIgGが、本発明のアッセイにおけるキャプチャー試薬として成功裏に使用可能であることが示されている。
【0110】
さらなる種からの血清を、齧歯動物からの10%血清及び他の非ヒト霊長類の血清中における100ng/mlのrhuMAb2H7のスパイク回収率について評価した。結果を表13にまとめる。
表13

データには、非標的特異的アッセイが、カニクイザル血清ばかりでなく、ラット、マウス、ヒヒ、アフリカミドリザル、及びアカゲザルを含む他の血清中においても、正確にrhuMAb2H7を検出することが示されている。
【0111】
実施例6
他のブロッキング液と共に、ブロッキングバッファーとしてBGG-含有バッファーDを使用する、非標的特異性直接ELISA形式のhuMAb2H7カニクイザル血清PKアッセイの比較

【0112】
高濃度のBSAとゼラチンの付加は、バックグラウンドの制御において有効であることが既に示されている(Pruslinら, 1991;Harlowら, 1988)。よって、個々のカニクイザル血清を用いて、バックグラウンドとバックグラウンド変動を最小にする試みにおいては、ブロッキングバッファーとサンプル/検出バッファーの双方について異なる条件を、BGGの使用に加えて試験した(実施例2に記載したようにして)。これらの試験を、キャプチャー試薬としてヒツジ抗ヒトIgG(H+L)(サル血清吸着)と、検出剤としてヤギ抗ヒトIgG(H+L)HRPを用い、直接ELISA形式を使用して実施した。アッセイ希釈液を使用し、サンプルと検出剤の双方を希釈した。洗浄工程、インキュベーション時間、及び検出工程は、実施例2に記載された通りであった。結果を表14に示す。
【0113】
データから、試験されたブロッキング液中の成分のいくつかがバックグラウンドを低減させるが、いずれの溶液もカニクイザル血清のバックグラウンドを有意には低減させないことが示唆される。よって、容易に入手可能なバッファーは、開発された改善されたキャプチャー試薬(ヒツジ抗ヒトIgG(H+L)、サル血清吸着)を使用しても、高バックグラウンドの問題を解決するには不十分であった。さらに、商業的に入手可能なブロッキング液であるスーパーブロック及びカゼイン(双方ともPierceから)も、バックグラウンドレベルをほとんど改善しなかった。最後に、0.1%の洗浄剤トリトンX-100、トゥイーン80及びn-オクチル-β-D-グルコピラノシドを含むブロッキング液により、カニクイザル血清においては、0.05%のトゥイーン-20を用いたものに類似した結果になった。
【0114】
実施例7
ブロッキングバッファー中での魚ゼラチンと哺乳動物IgGの使用
ここに記載されたアッセイ方法において、BGGを魚ゼラチン、又はマウスIgG、ウサギIgG、ロバIgGを含む他の哺乳動物免疫グロブリンで置き換えることができるかどうかを決定するためにさらなる実験を実施した。ブリッジングELISA形式を使用する以外は、実施例2に記載した手順と同様にしてアッセイを実施した。キャプチャー試薬として、ヒツジ抗ヒトIgG(1μg/ml、サル血清を前吸着)を使用した。魚ゼラチン又は他の哺乳動物免疫グロブリンを、BGGの代わりに、ブロッキングバッファー及び/又はサンプルバッファー及び検出剤バッファーに使用した。結果を表15に示す。
表15

10%のカニクイザル血清のバックグラウンドでのもの。
240ng/mlでの2H7のシグナル。
256ng/mlの2H7でのもの。
【0115】
その結果には、ブロッキングバッファーに魚ゼラチン、ロバIgG、ウサギIgG、又はマウスIgGを使用すると、標的特異的キャプチャーアッセイで得られたものより、大幅に高いシグナルが生じることが示されている。これらの薬剤を使用した場合に生じるシグナルは、ブロッキングバッファーにBGGを使用して得られたものより大幅に低かった。またデータにより、ブリッジング形式ELISAアッセイを使用したアッセイでは、CV%により測定されるバックグラウンド変動が、ブロッキングバッファーにBGGが不在である場合に、大幅に増加していることが明らかとなった(表15)。
また、ブリッジングELISA形式において関心あることに、ブロッキングバッファーには保持されているが、サンプルバッファー及び検出剤バッファーからBGGが除去されると、血清バックグラウンド変動(CV%)が同程度のままであるにもかかわらず、BGGがブロッキングバッファー及び双方のバッファーに使用される場合よりも、シグナル対ノイズ比が高くなる結果となった(表15)。
【0116】
実施例8
rhuMAb2H7に対するCO20ペプチド及び完全長CD20の結合親和性
一般に、血清等の体液中の標的分子の濃度を定量する薬物動態(PK)アッセイには、キャプチャー試薬となる一又は複数の標的特異的分子が必要である。よって、本研究の過程で、キャプチャー試薬として、rhuMAb2H7に対して標的特異的である、可溶型CD20ペプチドの使用を介して、カニクイザルのrhuMAb2H7 PKアッセイを開発する試みがなされた。完全長CD20ポリペプチド、並びにCD20のC末端細胞外ドメインと類似しているペプチドの双方を合成し、rhuMAb2H7についてのアッセイにおけるその有用性を評価した。
【0117】
4つのCD20ペプチドを合成した:
(1)配列ビオチン-FIRAHTPYINIYNCEPANPSEKNSPSTQYCYSGGK-アミド[配列番号:1]を有する、ジスルフィド環化モノ-ビオチン35mer、
(2)配列ビオチン-FIRAHTPYINIYNCEPANPSEKNSPSTQYCYSGGK(ビオチン)-アミド[配列番号:2]を有する、ビス-ビオチンジスルフィド-環化35mer、
(3)配列ビオチン-GKISHFLKMESLNFIRAHTPYINIYNCEPANPSEKNSPSTQYCYSIQSGGK-アミド[配列番号:3]を有する、ジスルフィド-環化モノ-ビオチン51mer、
(4)配列ビオチン-GKISHFLKMESLNFIRAHTPYINIYNCEPANPSEKNSPSTQYCYSIQSGGK(ビオチン)-アミド[配列番号:4]を有する、ジスルフィド-環化ビス-ビオチン51mer。
【0118】
1.CD20ECDペプチドの合成
CD20ペプチドを、Fmocアミン保護を利用する固相法を使用し、リンクアミド樹脂において合成した。1時間のカップリング時間、4当量のアミノ酸、4当量のHBTU、及び5当量のジイソプロピルエチルを使用し、ABIのPioneerペプチドシンセサイザにて、N,N-ジメチルホルムアミド中で合成を実施した。2回のカップリングサイクル後、N,N-ジメチルホルムアミド中において10%のピペリジンを使用し、Fmocを除去した。4当量のPyBOPを用いて1:1のジメチルスルホキシド:ジメチルホルムアミドに溶解させた4当量のビオチン、及び5当量のジイソプロピルエチルアミンを使用し、一晩、ビオチンを遊離の窒素にカップリングさせた。ビオチン結合が開始して直ぐに、DMFに5%のヒドラジンが入ったもので処理することにより、C末端リジンのε-窒素上のivDdeの除去を介して、C末端ビオチンを結合させた。1時間、5%のトリイソプロピルシランと共に、TFA中で振盪することにより、ペプチドを樹脂から切断した。濾過により樹脂を分離し、減圧下でTFAを除去した。エチルエーテルを用いてペプチドを沈殿させ、0.1%のTFAを含む0−60の水:アセトニトリル勾配を使用し、HPLCクロマトグラフィーにより精製した。凍結乾燥後、白色パウダーとして精製ペプチドが得られた。ペプチドのLCMSは単一ピークを生じ、ペプチドが予測された質量を有していることが明らかとなった。
【0119】
2.CD20完全長分子の発現と精製
材料
全ての洗浄剤を、Anatrace Inc.(Maumee, OH)から得た。特に言及しない限り、全ての薬品は、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)から得た。リツキシマブ(登録商標)(C2B8)を、米国特許第5736137号に開示されているようにして産生した。
【0120】
クローニング及び発現
ヒト及びマウスCD20のcDNAを、標準的な分子生物学技術(Ausubelら編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons(2003))を使用し、3つの珍しい大腸菌コドン(argU、glyT及びpro2)に対するtRNA遺伝子及びβ-ラクタマーゼ遺伝子を含むBR322誘導プラスミド中にサブクローニングした。短いMKHQHQQ配列をCD20のN末端に添加し、確実に高翻訳を開始させ、検出及び精製を補助するためにオクタ-His配列をC末端に配した。phoAプロモータの制御下、遺伝子転写がなされた。C.R.A.Pホスファート制限培地中に飽和LBカルベニシリン培養物を希釈することにより、遺伝子発現を誘発させ(Simmonsら, 2002, J. Immunol. Methods 263, 133-147)、培養物を30℃で24時間成長させた。システイン残基111及び220を、部位特異的突然変異誘発によりセリンに変異させ、タンパク質の挙動(C2S変異体)を改善した。ついで、CD20の発酵発現を実施した(Simmonsら, 上掲)。
【0121】
タンパク質単離
大腸菌中で発現されるhis-タグヒトCD20の洗浄剤抽出条件を決定するために、50mLのバッファーA(20mLのトリス、pH8.0、5mMのEDTA)に、ポリトロン(Polytron)(Brinkmann, Westbury, NY)を使用して、5gの細胞を再懸濁させ、125000×gで1時間、遠心分離した。ついで、細胞ペレットをバッファーAに再懸濁させ、マイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp, Newton, MA)を使用して細胞破壊により溶解させ、125000×gで1時間遠心分離した。EDTAを含まない同じバッファーにおいて、ペレットを1度洗浄し、前のようにしてペレット化した。ペレットを20mLのバッファーB(20mMのトリス、pH8.0、300mMのNaCl)に再懸濁させ、アリコートに等分し、洗浄剤を、次の濃度:1%のSDS、1%のn-ドデシル-N,N-ジメチルアミン-N-オキシド(LADO)、1%のドデシルホスホコリン(DDPC、Fos-コリン(登録商標)12)、1%のn-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)、1%のトリトン-X100、及び2.5%のCHAPSで個々のアリコートに添加した。室温で抽出されたSDSサンプルを除き、ペレットを4℃で一晩抽出した。翌日、サンプルを遠心分離し、上清を除去した。ペレットと上清を、同容量の還元SDS充填バッファーに再懸濁させ、SDS-PAGEにより分析し、ニトロセルロース膜上の免疫ブロットを、西洋わさびペルオキシダーゼ-コンジュゲート抗his抗体で探索した(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)。
【0122】
大規模抽出では、100から200gの細胞を溶解させ、過去に記載されたようにして、不溶性フラクションを調製した。不溶性フラクションからCD20を抽出するために、最終的なペレットを、出発細胞湿重量から約1:2.5wt/volで、バッファーBに再懸濁させ、DDPCを1%まで添加し、溶液を4℃で一晩攪拌した。次の日、洗浄剤の不溶性フラクションを、12500×gで1時間、超遠心分離することによりペレット状にした。バッファーBと5mMのDDPCで予め平衡化したNi-NTAスーパーフローカラムに、上清を充填した。カラムを、20mMのイミダゾールを含む10CVのバッファーAを用いて洗浄し、250mMのイミダゾールを含むバッファーAで溶出させた。カラム充填からの全ての精製工程を4℃で実施した。
【0123】
CD20を含む溶出フラクションを濃縮し、5mMのDDPCを含むバッファーAで予め平衡化されたスーパーデックス200カラム(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)に充填した。his-タグヒトCD20及びマウスCD20を、ゲル濾過の前に、5mLのHiTrap HP Q(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)カラム上で、さらに精製した。洗浄剤交換のために、サンプルを、バッファーB(0.1%のDDM、150mMのNaCl、20mMのHEPES、pH7.2)中でスーパーデックス200カラムに通した。また、サンプルを、小さなNi-NTAカラムに結合させ、バッファーBで洗浄し、300mMのイミダゾールを含むバッファーBで溶出させた。これらのサンプルをバッファーBに対して透析し、イミダゾールを除去した。
【0124】
ヒトCD20のアフィニティー精製のために、リツキシマブ(登録商標)を、10mLのアクチゲル(Actigel)ALDスーパーフロー樹脂(Sterogene, Carlsbad, CA)に、6mg/mlで固定化した。この樹脂をカラムに配し、バッファーBで平衡化した。天然hCD20について過去に記載されているようにして精製されたヒトCD20 C2S変異体をカラムに通し、バッファーBで広範囲に洗浄することにより、未結合タンパク質を除去した。タンパク質を、0.1%のDDM、150mMのNaCl、及び20mMのクエン酸ナトリウム、pH3.5において溶出させた。溶出したサンプルを直ぐに中和し、濃縮し、バッファーBに対して透析した。タンパク質濃度をBCA(20)(Pierce Biotechnology, Rockford, IL 61101)により測定し、サンプルを使用前に−80℃で保存した。
【0125】
完全長リツキシマブ(登録商標)抗体を、米国特許第5736137号に開示されているようにして産生した。リツキシマブ(登録商標)Fabを大腸菌において発現させ、プロテインA及びカチオン交換クロマトグラフィーにより精製した。
回収された完全長CD20分子は、次の配列:
MTTPRNSVNGTFPAEPMKGPIAMQSGPKPLFRRMSSLVGPTQSFFMRESKTLGAVQIMNGLFHIALGGLLMIPAGIYAPICVTVWYPLWGGIMYIISGSLLAATEKNSRKCLVKGKMIMNSLSLFAAISGMILSIMDILNIKISHFLKMESLNFIRAHTPYINIYNCEPANPSEKNSPSTQYCYSIQSLFLGILSVMLIFAFFQELVIAGIVENEWKRTCSRPKSNIVLLSAEEKKEQTIEIKEEVVGLTETSSQPKNEEDIEIIPIQEEEEEETETNFPEPPQDQESSPIENDSSP[配列番号:5]
を有していた。
【0126】
3.バイアコア3000により測定されるCD20ペプチドの結合親和性
CD20ペプチドの合成後、rhuMAb2H7に対する結合親和性を、バイアコア3000でのバイオセンサーシステムを用いて測定した。2つの異なる方法を使用し、rhuMAb2H7に対するCD20ペプチドの結合親和性を測定した。第1の方法では、95RUで固定化されたモノ-ビオチン化CD20-35mer、又は94RUでモノ-ビオチン化CD20-51merのいずれかを使用するストレプトアビジンチップにおいて、バイアコア3000を用いて、親和性を測定した。ここで、RUは、任意のスケールに基づく、比表面プラズモン共鳴単位である。ランニングバッファーは、再生用にはpH2.5であり、2μlの10mMグリシン-HClを用い、50μL/分で流れるHBS-EPであった。2H7-IgGを注入し、得られたデータを、Biaevaluation3.0ソフトウェア(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を用いて、1:1の結合モデルに適合させ、見かけの平衡解離定数を得た。
【0127】
第2の方法では、親和性を、685RUで固定化されたCD20-35mer、ビス(ビオチン))、1637RUでCD20(51mer、モノ(ビオチン))、又は1037RUでCD20(51-mer、ビス(ビオチン))のいずれかを使用するストレプアビジンチップにおいて、バイアコア3000を用いて測定した。再生のため、20mMのHClと共に、20μL/分で、ランニングバッファーとして、RBS/トゥイーン/アジドを使用した。2H7-IgGを注入し、得られたデータを二価の分析物モデルに適合させた。
【0128】
表16

結合親和性実験の結果を表16に示す。rhuMAb2H7分子と比較して、ペプチドが非常に小さいので、使用された形式のみでペプチドが固定化されており、rhuMAb2H7分子が分析物である。結合活性のために、この形式では見かけの親和性のみが得られた。完全長rhuMAb2H7分子を用いてさえも、ペプチドと抗体との間の相互作用は弱かった(表16)。さらに、Ori-タグ標識rhuMAb2H7とビオチン化ペプチドが、電気化学発光法で使用される場合、10μg/mlまでの濃度では、検出可能な相互作用は観察されなかった。
表17

【0129】
ビオチン化CD20ペプチドを捕捉するため、ストレプトアビジンマイクロタイタープレートを使用する他のELISAアッセイも実施した。プレートを、PBS中において2-20μg/mlのペプチドと共にインキュベートした。ついで、プレートを通常のアッセイ希釈液(0.5%のBSA、0.05%のプロクリン-300、及び0.05%のP20を含むPBS、pH7.3)でさらにブロックした。洗浄し、吸い取って乾燥した後、2.5−160μg/mlのrhuMAb2H7をウェルに添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。洗浄し、吸い取って乾燥した後、プレートを洗浄前の1時間、ヤギ抗ヒトIgG(H+L)HRPコンジュゲートと共にインキュベートした。結果を表17に示す。その結果には、最小洗浄サイクルを用いた場合でさえ、rhuMAb2H7のシグナルは極めて低く、ストレプトアビジン/CD20ビオチン化ペプチドは、rhuMAb2H7アッセイの開発での使用には適切ではないことが示唆されている。
【0130】
観察された弱い相互作用は、細胞で発現したCD20抗原の細胞外ドメイン(ECD)と比較して、CD20ペプチドが特有の3次構造を欠いていることにより説明することができる。抗原の余分な細胞ドメインが小さいことを考慮すると、細胞膜がいくつかの種類のアンカー支持体を提供し、ECDを良好に構築させていると思われる。さらに、分子のECD上のジスルフィド結合が、その抗体に対する抗原の結合活性にとって重要であることが示されている。このジスルフィド結合の存在が、rhuMAb2H7を含むいくつかの抗CD20抗体により認識される3次構造の形成及び維持に関与していると思われる。
【0131】
4.キャプチャー試薬として完全長CD20分子を使用するELISA
a.ELISA形式
炭酸ナトリウム(pH9.6)にキャプチャー試薬(1μg/mlの完全長CD20が100μl)が入ったものを、96ウェルマイクロタイタープレートに添加し、プレートを4℃で一晩インキュベートした。ついで、プレートを洗浄バッファー(0.05%のポリソルベート-20を含むPBS)で3回洗浄した。ブロッキングバッファー(200μl)を添加し、プレートをシールし、穏やかに攪拌しつつ、室温で2時間インキュベートした。3回洗浄し、続いて吸い取って乾燥した後、100μlのrhuMAb2H7標準体、コントロール、血清ブランク及びサンプル希釈液に入ったサンプルをプレートに添加し、続いてプレートシーラーでシールした。穏やかに攪拌しつつ、室温でさらに1時間インキュベートした後、プレートを再度6回、洗浄バッファーで洗浄し、吸い取って乾燥した。検出剤希釈液で希釈された100μl容量の検出剤を添加し、プレートをシールし、穏やかに攪拌しつつ、室温で1時間インキュベートした。ついで、プレートをさらに6回洗浄し、100μlの同容量のTMB及びHの添加前に、吸い取って乾燥させた。攪拌しないで、室温で15分インキュベートした後、さらに100μlの1MのHPOを添加することにより反応を停止させた。650nmの吸光度から450nmの吸光度を引いたものを、Spectra Max250プレートリーダー(Molecular Devices Corporation, Sunnyvale, CA)から読み取り、データをSoftmaxPro(Molecular Devices Corporation, Sunnyvale, CA)を使用して処理した。
【0132】
b.CD20を使用するrhuMAb2H7の標準曲線
キャプチャー試薬として全長CD20の適合性を決定するために、キャプチャー試薬として、1及び5μg/ml濃度の全長CD20分子を使用し、rhuMAb2H7標準曲線を作製した。しかしながら、シグナルは、むしろ400ng/ml濃度の抗体(図1)にとっては弱かった。カニクイザル血清のブランクサンプルのスクリーニングにより、高バックグラウンドが示された。分子の疎水性を考慮すると、血清バックグラウンドが高いことは驚くべきことではない。さらに、分子が、rhuMAb2H7にあまり接近しないCD20細胞外ドメインと共に、マイクロタイタープレートをコーティングする場合、分子は凝集した形態であるように思われ、よってシグナルが低下する結果になる。
【0133】
c.キャプチャー試薬としてCD20を使用するrhuMAb2H7の定量
特定のキャプチャー試薬が、本発明の一般的アッセイと比較して、同様の、さらには良好な結果を生じるかどうかを決定するために、rhuMAb2H7又はリツキサン(登録商標)を定量するためのELISAアッセイにおけるキャプチャー試薬としてCD20を使用する試験も実施した。結果を表18に示す。表18に示される低シグナルは、CD20が、rhuMAb2H7又はリツキサン(登録商標)の定量におけるキャプチャー試薬として有用ではないことを示している。よって、本発明の一般的アッセイの適用性は、標的特異的試薬が入手できないシナリオを越えて広がっている。本発明の最適化された一般的アッセイは、標的特異的キャプチャー試薬を使用するアッセイで、許容可能な結果が得られない場合においても、抗体を定量することができる。この結論は、多くの薬剤標的が膜結合性抗原であり、CD20のように、標的特異的キャプチャー試薬を使用するアッセイの効果を低減させるであろう類似した高血清バックグラウンドをもたらし得るという事実に鑑み、特に重要である。
【0134】

10%のカニクイザル血清のバックグラウンドでのもの(O.D.450nm)。
247ng/mlの2H7のもの(O.D.450nm)。
247ng/mlのリツキサンのもの(O.D.450nm)。
【0135】
6.検討
CD20は、小さな細胞外ドメインを有する4つの膜貫通ドメインを有する。カニクイザル血清を使用する場合、CD20完全長分子の固有の疎水性が、高バックグラウンドの原因となっていた。完全長CD20分子はバッファーベースアッセイに成功裏に使用されるが、高感度を有するカニクイザル血清をベースにしたPKアッセイの開発には適切でなかった。よって、生体マトリックス用のアッセイの開発において、標的特異的分子の選択には注意が必要である。標的分子のリガンドは、バッファーベースアッセイにおいてはよく働くが、特にリガンドが不溶性である場合、血清ベースアッセイでは潜在的に失敗する可能性がある。本実施例では、rhuMAb2H7に対し、比較的低親和性であることは、合成された全てのペプチドで観察された。
上で検討したようなCD20結合親和性研究の残念な結果は、本発明で開示されたように、抗体血清を定量するための代替アッセイ系を開発する必要性を強調することとなった。
上では特定の実施態様に言及しているが、本発明はそれらには限定されないと理解される。当業者であれば、本発明の全体的な概念から逸脱することなく、開示された実施態様に様々な変更をなすことができることは分かるであろう。このような全ての変更は、本発明の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】標的特異的キャプチャー試薬として全長CD20抗原分子を使用する、rhuMAb2H7を検出するための標的特異的アッセイのrhuMAb2H7標準曲線を示すグラフである。
【図2】カニクイザル血清中におけるrhuMAb2H7を検出するためのELISAアッセイでの、シグナル対ノイズ比を示すグラフである。該アッセイは、種々のバッファー成分及び希釈及び非希釈形態のバッファーを試験するために計画された。
【図3】ブロッキングバッファーにBGGを使用し、サンプル希釈液又は検出バッファーには使用しないアッセイ系で産生されるrhuMAb2H7(抗CD20)、アバスチンTM(抗VEGF)、及びラプティバ(登録商標)(抗CD11a)抗体の標準曲線を示すグラフである。
【図4】ブロッキングバッファーにBGGを使用し、サンプル希釈液又は検出バッファーには使用しないアッセイ系で産生されるrhuMAb2H7、ゾレア(登録商標)(抗IgE)、及びハーセプチン(登録商標)(抗HER2)抗体の標準曲線を示すグラフである。
【図5】ブロッキングバッファーにBGGを使用し、サンプル希釈液又は検出バッファーには使用しないアッセイ系で産生されるリツキサン(登録商標)抗体(抗CD20)の標準曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト種の体液を含むサンプル中におけるヒト、ヒト-キメラ、ヒト化抗体、又は定常領域を含むその断片を検出するための方法であって、
a)アッセイ表面にキャプチャー試薬を適用し;
b)非ヒト哺乳動物グロブリンを含有するブロッキングバッファーで、キャプチャー試薬の非特異的結合部位をブロックし;
c)ブロックされたキャプチャー試薬をサンプルと反応させて、サンプル中に存在する抗体を捕捉し;
d)検出可能なシグナルを有する検出剤で、捕捉された抗体を検出する;
工程を含む方法。
【請求項2】
同一又は密接に関連した非ヒト種の非ヒト体液をキャプチャー試薬に前吸着させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
検出剤とキャプチャー試薬が、同じ抗体-結合部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
検出剤とキャプチャー試薬がそれぞれ、ヒト、ヒト-キメラ、又はヒト化抗体と結合する抗体を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
検出剤抗体がキャプチャー試薬抗体を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
検出剤が検出可能な標識にコンジュゲートされた抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
標識が、アルカリ性ホスファターゼ又は西洋わさびペルオキシダーゼを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
サンプルが非ヒト霊長類血清を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
キャプチャー試薬が、同一又は密接に関連した非ヒト霊長類種の非ヒト霊長類血清で前吸着される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ブロッキングバッファーがウシγグロブリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ブロッキングバッファーがマウスIgGを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ブロッキングバッファーが、ウサギIgG又はロバIgGの少なくとも一を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
検出剤が非ヒト哺乳動物グロブリンを含むバッファーに配されている、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
サンプルがサンプルバッファーに配され、検出剤が検出バッファーに配され、サンプルバッファー、検出バッファー、又はその双方が、非ヒト哺乳動物グロブリンを含んでいない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ヒト、キメラ、ヒト化抗体、又はその断片が、キメラ抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ヒト、キメラ、ヒト化抗体、又はその断片が、F(ab)断片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ヒト、キメラ、ヒト化抗体、又はその断片が、ヒト化抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
抗体が、ヒト化抗-HER2抗体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
抗体が、ヒト化抗-CD20抗体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
抗体が、ヒト化抗-VEGF抗体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
非ヒト体液を含有するサンプル中におけるヒト、ヒト-キメラ、ヒト化抗体、又は定常領域を含むその断片を検出するための方法であって、
a)同一又は密接に関連した非ヒト種の非ヒト体液を、非ヒト抗体を含むキャプチャー試薬に前吸着させ;
b)非ヒト哺乳動物グロブリンを含むブロッキングバッファーで、キャプチャー試薬の非特異的結合部位をブロックし;
c)ブロックされたキャプチャー試薬をサンプルと反応させて、サンプル中に存在する抗体を捕捉し;
d)キャプチャー試薬と同じ非ヒト抗体を含む検出剤で、捕捉された抗体を検出する;
工程を含み、
キャプチャー試薬がキャプチャーバッファーに配され、サンプルがサンプルバッファーに配され、キャプチャーバッファー、サンプルバッファー、又はその双方が、非ヒト哺乳動物グロブリンを含んでいない方法。
【請求項22】
キャプチャー試薬がアッセイ表面にコーティングされている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記アッセイ表面が、ポリマー基質、センサーチップ、樹脂ビーズ、又はマイクロタイタープレートを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
非ヒト哺乳動物グロブリンがウシγグロブリンである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記検出が、サンプル中の抗体量を定量することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記検出が、サンプル中の抗体量を定量することを含む、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−527332(P2008−527332A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549645(P2007−549645)
【出願日】平成17年12月30日(2005.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/047441
【国際公開番号】WO2006/074076
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】