説明

非フッ素系耐油紙

【課題】 安全で、環境に優しい耐油性を有する食品用包装紙などに使用できる非フッ素系耐油紙を提供することを目的とする。
【解決手段】 顔料塗工層/原紙/顔料塗工層からなる紙支持体の少なくとも片面にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする耐油層を設けた非フッ素系耐油紙であって、該エチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂のエチレン変性度が2〜12モル%、重合度が800〜1500であり、かつエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂の塗工量が固形分で0.2〜2.0g/mであることを特徴とする非フッ素系耐油紙である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系の材料を用いなくても耐油性に優れる非フッ素系耐油紙に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などの包装材料には、紙あるいは板紙が幅広く用いられている。それらの中でもチョコレートやピザ、ドーナッツなど、油や油脂成分が多く含まれる食品には油が紙に浸透しないように耐油性を有する紙や板紙が使用される。
食品に含まれる油類が紙に浸透すると紙の表面にまで油が浸透して表面に油しみができ、外観を損ねて商品価値を下げたり、印刷部分が油しみで黒くなり文字が判別できなくなったり、手や衣服に油が転移したりするなどの問題があるため、食品に接する部分に耐油性を付与した紙や板紙が使用される。
従来、該耐油性を発現させるため、フッ素系化合物、特にパーフルオロフッ素系化合物の耐油剤が使用されてきた。しかし、パーフルオロフッ素系化合物は加熱処理によってパーフルオロオクタン酸やパーフルオロスルホン酸を発生するため、安全性に懸念が持たれている。
そのため、安全性を高めたフッ素系樹脂も各種開発されつつあるが、耐油性が不十分であったり、安全性に不安が残っているのが現状である。
他方、非フッ素系耐油剤としてアクリル系耐油剤も開発されている。アクリル系耐油剤の作用機序としては紙の表面に皮膜を形成して油の浸透を防ぐメカニズムである。アクリル系耐油剤は耐油性に優れるものの、アクリル系樹脂特有の臭気、あるいは巻取にした際のブロッキングなどの問題がある。
さらに、非フッ素系耐油剤としてポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂は親水性樹脂であり、強固な皮膜を形成するため油の浸透性を防ぎ、耐油性に優れることが知られている。しかし、ポリビニルアルコール系樹脂は塗工しても紙に浸透してしまいピンホールを発生しやすいため、塗工量を多くする必要があるが、塗工量を多くすると乾燥負荷が大きくなり過ぎて、生産性が極端に落ちるという問題もある。
【0003】
紙素材に耐油性を付与する方法としては、単層抄きの内添サイズ紙の少なくとも一方の面にノニオン性あるいはカチオン性のポリビニルアルコールの塗工層とフッ素系の耐油剤の塗工層を順次設けた耐油紙の使用が提案されている(特許文献1)。
また、フッ素化合物を使用しないものとしてポリビニルアルコール層とシリコーン樹脂層とを有する食品加熱用包装紙が提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、特定のフッ素共重合体、非フッ素界面活性剤、媒体及び特定の水溶性高分子を必須成分とする撥水耐油剤組成物が提案されている(特許文献3)。
コッブ吸水度100g/m以下の単層抄きである内添サイズ紙の少なくとも一方の面にノニオン性あるいはカチオン性のポリビニルアルコールの塗工層、並びにフッ素系耐油剤の塗工層を順次設けてなる耐油紙が提案されている(特許文献4)。
【0005】
けん化度が85〜100モル%であり、かつ平均重合度が500〜2500であるポリビニルアルコールに架橋剤を添加したものを使用し、アスペン材が30重量%以上含む木材パルプを主体とした原紙の少なくとも片面に1〜8g/mの処理層を設けた耐油紙が提案され、その好ましい実施態様としてシラノール変性されたポリビニルアルコールを使用することも提案されている(特許文献5)。
【0006】
紙基材の外面に、耐油コート層とクレイコート層(最外層)が順に積層されている耐油コート紙を用い、該耐油コート紙の内面を内側にして製函してなる吸油機能を有する耐油性紙容器が提案されている(特許文献6)。
基材シートの少なくとも一方の面に、少なくともポリビニルアルコールとセラック(シェラック)を含む塗工層を有する耐油性・耐水性シートが提案されている(特許文献7)。
【0007】
基材シートの少なくとも一方の面に、少なくともイソシアネート化合物を用いて硬化させたポリビニルアルコールを含む塗工層を有する耐油性・耐水性シートが提案されている(特許文献8)。
基材シートの少なくとも一方の面に、少なくともポリビニルアルコールとシリコーンオイルを含む塗工層を有する耐油性・耐水性シートが提案されている(特許文献9)。
【0008】
紙支持体の少なくとも片面に、水素結合性樹脂(ポリビニルアルコール)と吸油性粒子(デンプン粒子)を含む耐油層を有する耐油性紙が提案されている(特許文献10)。
2層以上の紙層からなる板紙の表層に、アクルリ系樹脂と多孔質無機粒子を有する塗工液を塗布して塗工層を設けた吸湿・耐油板紙が提案されている(特許文献11)。
【0009】
また、α−オレフィンを1〜20モル%含有し、重合度200〜5000、けん化度80〜100モル%のポリビニルアルコール系樹脂を165〜220℃で加熱して製造する耐油性を有する加工紙の製造技術が提案されている(特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−12849号公報
【特許文献2】特開平8−232194号公報
【特許文献3】国際公開WO2002/031261号公報
【特許文献4】特開平08−209590号公報
【特許文献5】特開平2004−68180号公報
【特許文献6】特開2004−217286号公報
【特許文献7】特開2004−256926号公報
【特許文献8】特開2004−270049号公報
【特許文献9】特開2004−270050号公報
【特許文献10】特開2006−183221号公報
【特許文献11】特開2009−13506号公報
【特許文献12】特開2001−254292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記した背景技術のうち、フッ素系化合物を含む耐油剤を使用した耐油紙は、高温条件において、耐油剤からフッ化水素、フッ化カルボニル、フッ酸などのフッ素化合物が発生するとされており、かかる耐油紙は食品包装に使用した場合は加熱調理中、あるいは使用後に廃棄されて焼却される際に、有毒なフッ素化合物が発生する可能性があり、安全性の面では問題がある。
また、ポリビニルアルコール系化合物を塗工・含浸した積層紙は、耐油性の向上には塗工量あるいは含浸量が非常に多くなるという問題がある。また、アクリル系樹脂を塗工するタイプもあるが、耐油性が不十分であったり、アクリル系樹脂の臭気が問題になったりしている。
本発明の目的は、安全で、環境に優しい耐油性を有する食品用包装紙などに使用できる耐油紙であり、かつ耐油剤の塗工量が少なくても優れた耐油性を発揮する非フッ素系耐油紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために以下の各発明を包含する。
(1)顔料塗工層/原紙/顔料塗工層からなる紙支持体の少なくとも片面にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする耐油層を設けた非フッ素系耐油紙であって、該エチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂のエチレン変性度が2〜12モル%、重合度が800〜1500であり、かつエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂の塗工量が固形分で0.2〜2.0g/mである非フッ素系耐油紙。
【0013】
(2)顔料塗工層/原紙からなる紙支持体の顔料塗工層上に(1)に記載のエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする耐油層を設けた非フッ素系耐油紙。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非フッ素系耐油紙は、チョコレート、ピザ、ドーナッツなどの油や油脂成分を多く含む食品について安全で、環境に優しい耐油性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、ポリビニルアルコール水溶液を紙や板紙に塗工し、乾燥して、耐油性を調べたところ、塗工量が固形分で1g/m程度であると全く耐油性が発現しなかった。そこで、塗工量を5g/m以上としたところ耐油性が発現することがわかった。しかしながら、ポリビニルアルコールを固形分で5g/m以上塗工するためにはポリビニルアルコールの濃度を高くする必要があるが、濃度を高くすると粘度が高くなり、塗工が困難となる。
【0016】
本発明者らは上記課題について鋭意検討したところ、エチレン変性ポリビニルアルコールは少ない塗工量、例えば3g/m程度で耐油性を発現することを見出した。しかし、この塗工量でも実際に耐油紙を製造するとなると、塗工液の濃度を高くする必要があったり、2段塗工する必要があり、製造上問題となることがあった。
【0017】
さらに本発明者らが検討したところ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等を含む顔料塗工層を3g/m以上設けた上にポリビニルアルコールを塗工すると、1g/m程度の塗工量でも十分耐油性が発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明の耐油紙は、紙支持体の少なくとも片面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設け、さらに該顔料塗工層の少なくとも片面に耐油層を設けたものである。該顔料塗工層は1層であってもよく、複数の層であってもよい。
【0019】
<原紙>
原紙としては、植物由来のパルプを主成分とするものであれば特に制限はないが、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、または他の化学パルプや機械パルプを主原料として用い、各種抄紙機で抄紙された上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒または未晒クラフト紙(酸性紙または中性紙)、または段ボール用、建材用、白ボール用、チップボール用等に用いられる板紙、白板紙等が好適である。原紙の坪量は特に制限はないが、150〜500g/mが好適である。また、原紙中には、填料など製紙用の補助薬品が含まれていてもよい。
【0020】
パルプの叩解度はJIS P 8121−1995に規定されるカナダ標準濾水度試験方法で300〜600mlであり、好ましくは400〜550mlである。叩解度を大きくすると、すなわち、濾水度を300mlより小さくすると繊維長が短くなり、寸法変化率が大きくなる。逆に叩解度を小さくすると、すなわち、濾水度を600mlより大きくすると、繊維同士の絡み合いが弱くなり、強度が低下し易い。したがって、上記パルプの叩解度を制御すること等により、基紙の寸法安定性を向上させ、耐油紙の寸法変化を低く抑えることができる。特に、横方向の伸縮率は変形やカール等の問題に対して重要な因子となる。横方向の伸縮率は1.2%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。横方向の伸縮率が1.2%を越えて大きくなると、カールが大きくなったり、トンネリング等の問題が生じるおそれがある。
【0021】
また、上記パルプに内添されるサイズ剤は特に限定されないが、優れた強度が得られることから中性サイズ剤が好ましい。中性サイズ剤とは、耐油紙のpHが6以上でサイズ効果が発現するサイズ剤のことであり、例えばアルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、アルケニルコハク酸、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ワックス等の中から適宜選択使用することができる。具体的には、荒川化学社製「サイズパインK−287」、日本PMC社製「AS−211」を代表的な材料として挙げることができる。
【0022】
原紙のステキヒトサイズ度(JIS P 8122−1976)としては良好な塗工性が得られ、また、原紙としての強度を確保する上で、3秒以上、特に10〜200秒であることが好ましい。通常使用されるサイズ剤と定着剤である硫酸バンドを添加してもよい。また、その他必要に応じて染料、紙力剤、湿潤紙力増強剤、耐水化剤、架橋剤、電位調整剤等の公知の内添薬品を添加することができる。
【0023】
原紙を得るための抄紙機としては、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機、オントップフォーマー、コンビネーション型フォーマー、セパレート型フォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機が使用でき、多層を抄き合せて原紙を抄造してもよい。
【0024】
<顔料塗工層>
顔料塗工層は、主として耐油層に用いられるエチレン変性ポリビニルアルコール塗液の浸透を抑制する機能(バリヤー性)を発揮する。
【0025】
(顔料)
顔料としては、その種類、配合率については特に制限はなく、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化珪素、二酸化チタン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、雲母等の無機顔料を適宜選択して用いることができる。顔料は最密充填する場合、一般に板状顔料の空隙率は球状顔料に比較して低く、緻密な塗布層が形成される。したがって、上記顔料の中でも、特に板状顔料を用いることが好ましく、中でもカオリンが好ましい。
【0026】
(バインダー)
バインダーとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体または共重合体ラテックス等のアクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系(共)重合体ラテックス、あるいはこれらの各種(共)重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性した重合体または共重合体ラテックス等の水分散性接着剤、ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂等の合成樹脂系接着剤、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の水溶性接着剤が例示される。バインダーとしては、これら水分散性および/または水溶性接着剤から1種または2種以上を適宜選択して使用できる。
【0027】
顔料塗工層中における顔料とバインダーの比率は30/70〜95/5が好ましく、50/50〜90/10がさらに好ましく、60/40〜85/15が特に好ましい。顔料の比率が30質量%未満であると、顔料層が油を保持する能力が低下し、耐油性が悪化して好ましくない。顔料の比率が95質量%を超えると、顔料層の塗膜強度が低下して好ましくない。
【0028】
原紙に設ける顔料塗工層は、一般の塗工紙製造分野で使用される塗工装置が使用でき、例えば、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールサイズプレスコーター、カーテンコーター等の塗工装置が、オンマシンあるいはオフマシンで使用できる。
【0029】
顔料塗工層の塗工量は、1〜10g/mが好ましく、2〜7g/mがさらに好ましく、3〜6g/mが特に好ましい。顔料塗工層の塗工量が1g/m未満であると、耐油性向上効果が発現しないおそれがある。塗工量が10g/mを超えると、耐油性向上効果が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
【0030】
<紙支持体>
本発明において、紙支持体は上記原紙の少なくとも片面に、上記顔料塗工層を設けて構成したものである。
【0031】
<耐油層>
本発明で使用できるエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール中の主鎖にエチレン基を導入したポリビニルアルコールである。エチレン単位の含有量(エチレン変性度)は、モノマー単位全体(エチレン単位+ビニルアルコール単位)に対するモル%で表される(ただし、ビニルアルコール単位には、けん化されていない酢酸ビニル単位も含まれる)。エチレン変性度は、2〜12モル%が好ましく、4〜8モル%がさらに好ましい。エチレン変性度が2モル%未満になると耐油性が悪化して好ましくない。また、エチレン変性度が12モル%を超えても耐油性が悪化して、好ましくない。
【0032】
本発明のエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度(JIS K 6726−1994に準拠して測定)は、800〜1500が好ましい。平均重合度が800未満では耐油性が不足する。逆に、平均重合度が1500を越えると、水への溶解性が低下したり、粘度が高くなり過ぎて塗工することが困難となるため好ましくない。
【0033】
本発明のエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上が特に好ましい。けん化度が80モル%未満では水溶性が低下したり、耐油性が低下するため好ましくない。
【0034】
本発明のエチレン変性のポリビニルアルコール系樹脂を含むポリビニルアルコール系水性液には、粘度の調整など必要に応じて他のポリビニルアルコールを混合しても良い。他のポリビニルアルコールを2種以上混合してもかまわない。混合比率はエチレン変性ポリビニルアルコール100質量部に対して他のポリビニルアルコールは5〜200質量部が好ましい。5質量部未満であると混合の効果がない。200質量部を超えると、耐油性が低下することがあり、好ましくない。
【0035】
本発明においては、エチレン変性ポリビニルアルコール系水性液に、必要に応じてポリカルボン酸などの分散剤、シリコーン系化合物等の消泡剤、界面活性剤、保水剤、色合い調整剤等を適宜添加することができる。
【0036】
本発明において、エチレン変性ポリビニルアルコール系水性液を紙支持体の顔料塗工層上に塗工して耐油層(ガスバリア層)を形成する。塗工設備として特に限定はないが、ブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、スロットダイコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ゲートロールコーター、ロールコーター、サイズプレスなどの方式が好ましい。
【0037】
本発明においてエチレン変性ポリビニルアルコール塗工量は0.2〜2.0g/mであることが必要である。塗工量が0.2g/mであると、本発明が所望する耐油性が発現しない。塗工量が2.0g/mであると、耐油性向上効果が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の部及び%は特に断らない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0039】
<変性ポリビニルアルコール1>
撹拌機、温度計、エチレン導入管、窒素導入管、及び冷却機を備えた耐圧反応容器に、酢酸ビニル100部とメタノール30部を仕込み、次いで、窒素置換した後、圧力5.0kg/cmになるようにエチレンを注入した。重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルをメタノールに溶解した溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングによって窒素置換した。上記単量体を仕込んだ反応容器を昇温し、内温が60℃に達したとき開始剤溶液を注入し、重合を開始した。3時間後に冷却した。脱エチレンし、次いで、減圧下に未反応酢酸ビニル単量体を除去し、エチレン変性されたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。これにNaOHのメタノール溶液(NaOHの含有量10質量%)を添加してけん化反応を開始した。アルカリ溶液を添加して1分経過後、生成したゲル化物を粉砕機で粉砕し、さらに1時間放置してけん化反応を進行させた後、反応系内に酢酸メチルを加えて、残存するアルカリを部分的に中和した。白色固体の変性ポリビニルアルコールを濾別し、これにメタノールを加えて室温で3時間放置し、洗浄し、遠心分離法により脱液した。洗浄後の変性ポリビニルアルコールを遠心脱液し、次いで内温が90℃に保たれた乾燥機を用いて、窒素気流下(酸素濃度8%)に1日間乾燥処理を行い、チップ状の変性ポリビニルアルコールを得た。これを変性ポリビニルアルコール1とする。
該変性ポリビニルアルコール1は、重合度1200、けん化度98.6モル%、エチレン変性度6.2モル%であった。
なお、本発明において重合度およびけん化度は、JIS K 6726−1994「ポリビニルアルコール試験方法」の「3.7 平均重合度」および「3.5 けん化度」に従って求めた。また、エチレン変性度については、H−NMRおよび13C−NMRによって解析して求めた。なお、エチレン変性度については市販のエチレン変性ポリビニルアルコール(クラレ社製「エバールL101」など)を標準物質とした。
【0040】
<変性ポリビニルアルコール2>
圧力を5.5kg/cmになるようにエチレンを注入したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性PVA2とする。
該変性ポリビニルアルコール2は、重合度1200、けん化度98.2モル%、エチレン変性度8.7モル%であった。
【0041】
<変性ポリビニルアルコール3>
圧力を6.0kg/cmになるようにエチレンを注入したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール3とする。
該変性ポリビニルアルコール3は、重合度1200、けん化度98.4モル%、エチレン変性度11.2モル%であった。
【0042】
<変性ポリビニルアルコール4>
圧力を6.5kg/cmになるようにエチレンを注入したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール4とする。
該変性ポリビニルアルコール4は、重合度1200、けん化度98.4モル%、エチレン変性度14.5モル%であった。
【0043】
<変性ポリビニルアルコール5>
圧力を4.0kg/cmになるようにエチレンを注入したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール5とする。
該変性ポリビニルアルコール5は、重合度1200、けん化度98.0モル%、エチレン変性度4.5モル%であった。
【0044】
<変性ポリビニルアルコール6>
圧力を3.0kg/cmになるようにエチレンを注入したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール6とする。
該変性ポリビニルアルコール6は、重合度1200、けん化度98.8モル%、エチレン変性度2.1モル%であった。
【0045】
<変性ポリビニルアルコール7>
重合時の内温を100℃、圧力を5.0kg/cmになるようにエチレンを注入し、重合開始後、5時間後に冷却したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール7とする。
該変性ポリビニルアルコール7は、重合度2400、けん化度98.5モル%、エチレン変性度6.2モル%であった。
【0046】
<変性ポリビニルアルコール8>
重合時の内温を100℃、圧力を6.0kg/cmになるようにエチレンを注入し、重合開始後、4時間後に冷却したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール8とする。
該変性ポリビニルアルコール8は、重合度1500、けん化度98.5モル%、エチレン変性度6.2モル%であった。
【0047】
<変性ポリビニルアルコール9>
重合時の内温を100℃、圧力を6.0kg/cmになるようにエチレンを注入し、重合開始後、2時間後に冷却したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール9とする。
該変性ポリビニルアルコール9は、重合度800、けん化度98.5モル%、エチレン変性度6.2モル%であった。
【0048】
<変性ポリビニルアルコール10>
重合時の内温を100℃、圧力を6.0kg/cmになるようにエチレンを注入し、重合開始後、1時間後に冷却したこと以外は、変性ポリビニルアルコール1と同様にして変性ポリビニルアルコールを製造した。これを変性ポリビニルアルコール10とする。
該変性ポリビニルアルコール10は、重合度500、けん化度98.5モル%、エチレン変性度6.2モル%であった。
【0049】
<実施例1>
水80部にカオリン(商品名:「HG90」、ウルトラハート社製)50部と炭酸カルシウム(商品名:「ソフトン2200」、備北粉化社製)50部を攪拌しながら加えた後、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:「S12」、日本ゼオン社製、固形分50%)を40部加えて顔料層Aの塗料とした。
坪量350g/mの白板紙(商品名:「コラボW」、王子特殊紙製、顔料層B/紙支持体(白色パルプA層/古紙層/白色パルプB層)、顔料層Bは顔料層Aと同じ組成で塗工量は15g/m)の白色パルプB層上に、顔料層Aの塗料を塗工量5g/mとなるようにメイヤーバーで塗工し、120℃で1分間乾燥した後、エチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂である変性ポリビニルアルコール1の水溶液(固形分7%)を、固形分で1.0g/mとなるように、メイヤーバーを用いて塗工した後、熱風乾燥機を用いて110℃で1分間乾燥して耐油層を形成し、本発明の耐油紙を得た。
【0050】
<実施例2>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール2としたこと以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0051】
<実施例3>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール3としたこと以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0052】
<実施例4>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール5としたこと以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0053】
<実施例5>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール6としたこと以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0054】
<実施例6>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール9としたこと以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0055】
<実施例7>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール8としたこと以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0056】
<実施例8>
変性ポリビニルアルコール1の塗工量を0.8g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0057】
<実施例9>
変性ポリビニルアルコール1の塗工量を0.4g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0058】
<実施例10>
変性ポリビニルアルコール1の塗工量を0.2g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0059】
<実施例11>
変性ポリビニルアルコール1の塗工量を2.0g/mとしたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。ただし、乾燥時間は2分とした。
【0060】
<実施例12>
原支持体として坪量330g/mの板紙(王子特殊紙製:コラボWの顔料層Bがない構成、白色パルプA層/古紙層/白色パルプB層)を使用したこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0061】
<実施例13>
実施例1で得た耐油紙の顔料層A上にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂である変性ポリビニルアルコール1の水溶液(固形分7%)を固形分で1.0g/mとなるようにメイヤーバーを用いて塗工した後、熱風乾燥機を用いて110℃で1分間乾燥して耐油層を形成し耐油紙を得た。
【0062】
<比較例1>
水80部にカオリン(商品名:「HG90」、ウルトラハート社製)50部と炭酸カルシウム(商品名:「ソフトン2200」、備北粉化社製)50部を攪拌しながら加えた後、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:「S12」、日本ゼオン社製、固形分50%)を40部加えて顔料層Aの塗料とした。
【0063】
坪量350g/mの白板紙(商品名:「コラボW」、王子特殊紙製、顔料層B/紙支持体(白色パルプA層/古紙層/白色パルプB層)、顔料層Bは顔料層Aと同じ組成で塗工量は15g/m)の白色パルプB層上に、顔料層Aの塗料を塗工量5g/mとなるようにメイヤーバーで塗工し、120℃で1分間乾燥した後、無変性のポリビニルアルコール水溶液(固形分7%、クラレ社製「ポリビニルアルコール117(けん化度98〜99%、重合度1700)」を95℃のイオン交換水で溶解させ冷却させた水性液)を、固形分で1.0g/mになるように、メイヤーバーを用いて塗工した後、熱風乾燥機を用いて110℃で1分間乾燥して耐油層を形成し、耐油紙を得た。
【0064】
<比較例2>
坪量350g/mの白板紙(商品名:「コラボW」、王子特殊紙製、顔料層B/紙支持体(白色パルプA層/古紙層/白色パルプB層)、顔料層Bは顔料層Aと同じ組成で塗工量は15g/m)の白色パルプB層上に、エチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂である変性ポリビニルアルコール1の水溶液(固形分7%)を、固形分で1.0g/mになるように、メイヤーバーを用いて塗工した後、熱風乾燥機を用いて110℃で1分間乾燥して耐油層を形成し、耐油紙を得た。
【0065】
<比較例3>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール4としたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0066】
<比較例4>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール10としたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0067】
<比較例7>
耐油層に使用するエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を変性ポリビニルアルコール10としたこと以外は実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0068】
実施例、比較例で得た各耐油紙を以下の方法で評価、結果を表1に示す。
[評価方法]
(A)耐油性
旭硝子Eキット液で耐油性を評価した。評価方法は次のとおりである。(ア)実施例および比較例で得た耐油紙の耐油層を上にして、清潔かつ水平な場所に置く。(イ)適当なEキット液をスポイトで滴下(約0.05ml)し、1分後に耐油紙表面に残存する過剰分を静かにふき取り、評価液の浸透具合(紙の濡れ色)を観察する。(ウ)(イ)を他のEキット液で行い、浸透していない評価液のもっとも大きい番号を判定値とする。
なお、Eキット値の値が大きいほど耐油性が強く、様々な油に適用できたり、油との長時間の接触にも耐えられる。なお、Eキット1液に相当する耐油性がない場合は「0」とした。Eキット値およびその組成を表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明による非フッ素系耐油紙は、耐油剤の塗工量が少なくても安全で、環境に優しい耐油性を発揮することができ、チョコレート、ピザ、ドーナッツなどの油や油脂成分を多く含む食品の包装紙として使用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料塗工層/原紙/顔料塗工層からなる紙支持体の少なくとも片面にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする耐油層を設けた非フッ素系耐油紙であって、該エチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂のエチレン変性度が2〜12モル%、重合度が800〜1500であり、かつエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂の塗工量が固形分で0.2〜2.0g/mであることを特徴とする非フッ素系耐油紙。
【請求項2】
顔料塗工層/原紙からなる紙支持体の顔料塗工層上に請求項1に記載のエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする耐油層を設けたことを特徴とする非フッ素系耐油紙。

【公開番号】特開2010−275647(P2010−275647A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127278(P2009−127278)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】