説明

非ホロノミックマニピュレータ

【課題】 劣駆動マニピュレータは、軽量、低コスト化が見込まれて種々の研究がなされているが、制御が難しく実用化の例は少ない。劣駆動マニピュレータの利点を活かしかつ制御をやさしくするような構成法が課題であった。
【解決手段】 遊星ギアユニットのプラネタリギアキャリアに第一リンクを固定し、リングギアに第二リンクを固定し、これらに第三リンク、第四リンクを追加してパンタグラフを構成する.またサンギア回転軸にアクチュエータを設けた構成とする。こうすると劣駆動マニピュレータでありながら、簡単な比例制御でハンド部を任意の円軌道や任意角度の直径軌道を動かすことができることを確認した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
非ホロノミック拘束を利用した劣駆動マニピュレータの構造に関する.
【背景技術】
【0002】
マニピュレータ先端のハンド部を2次元平面の許容範囲内において任意の位置に移動させる平面マニピュレータは、一般に2つの独立したアクチュエータが必要である。ここでアクチュエータが一つの場合は劣駆動マニピュレータと称され、軽量、低コスト化が見込まれて種々の研究がなされている。しかし、所定の位置に物体を持っていくための制御が難しく実用化の例は少ない。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
劣駆動マニピュレータは、軽量、低コスト化が見込まれて種々の研究がなされているが、制御が難しく実用化の例は少ない。劣駆動マニピュレータの利点を活かしかつ制御をやさしくするような構成法が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
図1に示すように、サンギア1とリングギア2とプラネタリギアとそのキャリア3とからなる遊星ギアユニットを有し、プラネタリギアキャリアに第一リンク4を固定し、リングギアに第二リンク5を固定し、これらに第三リンク6、第四リンク7を追加してパンタグラフを構成する.また図3に示すようにサンギア回転軸にアクチュエータを設けて能動的に回転させる機能を持たせた構成とする。パンタグラフの先端にはハンド部8が設けられている。
遊星ギアユニットの単独の特性を図2に示す。サンギアの回転速度をω、プラネタリギアキャリアの回転速度をω、リングギアの回転速度をωとすると、プラネタリギアがサンギア上を転がる長さとリングギア上を転がる長さが等しい条件から図のような関係式が得られる。
【0005】
本マニピュレータの各座標とパラメータを図3に示す。モータ9はサンギアを直接駆動する。こうすると、マニピュレータの運動に関する数式が(1)〜(8)のように記述できる。
まず、ラグランジアンは次のようになる。
【数式1】

ここで、
【数式2】

【数式3】

【数式4】

【数式5】

【数式6】

運動方程式は、

【数式7】

【数式8】

ここで式(7),(8)のθとθの2次微分項(慣性項)に非駆動変数θが含まれるため、非特許文献1に示されているように、この系は非ホロノミック系であることが明らかであり一般に一つのアクチュエータでパンタグラフ先端を平面上の任意の位置に移動できる可能性を有する。
さらに、式(4)よりrはθにより直接制御可能であり、構成からθはアクチュエータトルクTにより直接制御可能であるため、rはTにより制御可能であることがわかる。次に、式(7),(8)を加算すると、θの2次微分項はIのみとなることから、Iを小さく設定すればθはTにより制御可能であることがわかる。
このようにrもθもそれぞれ単独の制御なら比較的簡単な制御で目標値に達する制御が可能であることが予測できる。
非特許文献1:G.Oriolo,Y.Nakamura,Control of Mechanical System with Second−order Nonholonomic Constraints:Underactuated Manipulators, Proc.30th IEEE Int.Conf.On Decision and Control,2398/2403(1991)
【発明の効果】
【0006】
次に、性能をシミュレーションにより確認する.シミュレーションはMATLAB/SIMULINKで行った。図1に示す形態のマニピュレータを考え、図2に示す遊星ギアを用い、図3のように各パラメータと変数を定義し、式(7),(8)で示されるモデルを用いてシミュレーションを行った。
初期状態r=1.0,θ=0.0から、θを1.0に近づける制御を行った結果を図4〜7に示す。設定したパラメータと制御則も同時に図4に示す。
初期状態r=1.0,θ=0.0から、rを0.3に近づける制御を行った結果を図8〜11に示す。
設定したパラメータと制御則も同時に図8に示す。
いずれも、簡単な比例+微分制御のみにより、目標を達成していることが分かる。
一般の劣駆動マニピュレータ、例えば水平面内におかれた2本のリンクを有する回転2軸マニピュレータは中心軸を駆動すると非ホロノミックマニピュレータになるが、簡単な比例制御により上記のような制御結果を得たという報告はないし、比例制御では不可能と思われる。
【0007】
図12は、アクチュエータで1つのギア軸を駆動する場合と、2つのギア軸の相対角を駆動する場合の比較を示す。これより、1つのギア軸を駆動する場合は、慣性マトリクスに非駆動変数θが含まれるためこの系は非ホロノミック系であるが、2つのギア軸の相対角を駆動する場合は、慣性マトリクスに非駆動変数θが含まれないためこの系はホロノミック系となり1つのアクフエータでは制御できないことがわかる。
【0008】
図13は、本発明を検査作業の支援ロボットに適用した例を示す。図では円卓状の作業台10で3人の作業者が、組立工程から来た製品11の最終検査を行っている。この製品の検査は、高度の熟練を要するため、熟練工が検査を行なわなければならない場合である。検査後はOK、NG品を分別して梱包工程あるいは修理工程へ運ばれる。
本発明のロボット本体は、円卓状の作業台10の中央部あるいは天井に固定されており、パンタグラフ先端のハンド部の移動範囲は円卓全体をカバーしている。
ここでロボットの役割は、組立工程から来た製品11を作業者の所へ運び、作業が完了した製品を梱包工程へ渡す役割を行っている。図では作業者12がロボットに製品を運んでくるように指示を出し、ロボットが組立工程から来た製品11を把持し作業者Cの所へ運んできた状況を表わしている。制御は図10に示したrを一定にする制御をしているため、図13において非ホロノミックな運動をしながら図の一点鎖線の軌道に沿って製品を運ぶ。ここで作業者12はロボットハンド部8に設けられた取っ手を掴んでロボットハンドを手前に引き自分の作業しやすい位置まで移動してから製品を作業台に降ろす。このようにロボットが製品を円軌道に沿って制御している状況下で人間が割り込んで自分の欲する位置まで動かすような割り込み操作は、非ホロノミック機構でないと困難である。非ホロノミック機構は、モータで直接rやθを制御しておらず慣性力を介して制御しているため、作業者はr、θ方向には比較的自由に製品を動かすことができる。
【0009】
このように、人間とロボットの協調作業において、制御中のロボットに作業者が割り込んで作業者の操作を優先させる機能を与えることで、作業者が作業しやすい位置に自在に製品を降ろすことが出来、また作業者が自分の意思で作業位置をフレキシブルに決められるため作業者の環境改善や負担低減につながる。また、作業者12が初心者の場合に作業者詔が手本を見せるために13の位置を12に近づけて作業を行ったり、一時的にラインの稼働率を上げる必要が生じスペースが許す限りの作業者を投入しなければならない場合もマニピュレータの制御方法はそのままで図の点線で示すように作業者を投入することで、フレキシブルな対応が可能になるといったメリットもある。
【0010】
さらには図14,15に比較して示すように、基本的に非ホロノミックマニピュレータはハンド部に外力が加わると逃げるように動くため、誤って作業者がハンド部に腕や顔をぶつけても衝撃が小さく負傷しにくい。このため人間とロボットの協調作業における安全性確保の効果も大きい。図14(a),(b)に示すように、従来の2次元マニピュレータは、r一定で回転中に障害物に当たってもモータトルクが直接障害物に加わるため、製品や障害物にダメージを与えるが、図15(a),(b)に示すように本考案の2次元マニピュレータは、r一定で回転中に障害物に当たった場合にモータトルクや回転速度が変わらなくても製品はr方向に逃げてくれるため、モータトルクが直接障害物に加わらず、製品や障害物にダメージを与えない。なお図14,15いずれの場合も、マニピュレータの回転速度は十分小さくて運ばれる製品が障害物に当たった時の慣性力による衝撃は考慮しなくてよいものとする。
【0011】
以上は検査工程に適用した例であるが、組み立て工程の中で適用することも出来る。
また、このような人間とロボットの協調作業における非ホロノミックマニピュレータのメリットは、レストランなどのサービス業や家庭の介護支援に活用しても活かすことが出来る。
従来の位置制御マニピュレータでこのようなことをやろうとすると一端クラッチでハンド部とアクチュエータ間の伝達機構を解除する必要があり構成が複雑になってしまうため、非ホロノミックマニピュレータでないと実現困難である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図16に形態を示す。基本構成は図1と同じであるが、ハンド部とプラネタリギアキャリア部14とを上下方向にクリアランスを持たせて設定することでr=0付近でもハンド部とキャリア部が干渉せず、ハンド部がr=1の円内の任意の位置へ移動できるように構成した。
【産業上の利用可能性】
【0013】
マニピュレータの先端をギア軸を中心とする任意の円軌道あるいは直径線上を移動させることができるためハンド部分の操作をうまく連動させれば、ペイントや物のハンドリングや部品供給などで有用性の高いマニピュレータとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のマニピュレータの全体図である。
【図2】遊星ギアの構成と特性の説明図である。
【図3】パラメータと変数と座標の説明図である。
【図4】θが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲1▼である。(ハンド部の平面軌跡)
【図5】θが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲2▼である。(θとその速度、加速度の時間波形)
【図6】θが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲3▼である。(rの時間波形)
【図7】θが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲4▼である。(制御トルクTの時間波形)
【図8】rが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲1▼である。(ハンド部の平面軌跡)
【図9】rが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲2▼である。(θとその速度、加速度の時間波形)
【図10】rが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲3▼である。(rの時間波形)
【図11】rが一定になるような制御を行った場合のシミュレーション結果▲4▼である。(制御トルクTの時間波形)
【図12】アクチュエータ配置の違いによる特性差の比較図である。
【図13】本マニピュレータを検査作業に適用した場合の実施例である。
【図14(a)】従来のマニピュレータが障害物に当たる前の状態を示す図である。
【図14(b)】従来のマニピュレータが障害物に当たった時の状態を示す図である。
【図15(a)】本考案のマニピュレータが障害物に当たる前の状態を示す図である。
【図15(b)】本考案のマニピュレータが障害物に当たった時の状態を示す図である。
【図16】実施するための最良の形態を示す。
【符号の説明】
【0015】
1 サンギア
2 リングギア
3 プラネタリギアキャリア
4 第一リンク
5 第二リンク
6 第三リンク
7 第四リンク
8 ハンド部
9 モータ
10 円卓状作業台
11 製品
12 作業者
13 作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギアとリングギアとプラネタリギアとからなる遊星ギアユニットを有し、サンギア、リングギアあるいはプラネタリギアキャリアに第一リンクを固定し、残りのギアのあるいはキャリアに第二リンクを固定し、これらに第三、四リンクを追加してパンタグラフを構成する.前記3種類のいずれかのギアあるいはキャリアにアクチュエータを設けて能動的に回転させる機能を持たせたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項2】
請求項1において、前記パンタグラフの先端に物体の把持機能を有するハンドユニットを設けたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項3】
請求項1において、前記パンタグラフの先端に流体の放出とその調整機能を有するユニットを設けたことを特徴とするマニピュレータ。
【請求項4】
前記パンタグラフの先端の極座標を(r,cosθ)(ここでrはギア中心軸からパンタグラフ先端までの長さ、θは前記ギア中心軸を通る基準線とギア中心軸からパンタグラフ先端を結ぶ直線のなす角度である)としたとき、任意のr一定の円軌道を描くように制御することを特徴としたマニピュレータ。
【請求項5】
前記パンタグラフの先端の極座標を(r,cosθ)としたとき、任意のθ一定の直線軌道を描くように制御することを特徴としたマニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【図16】
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