説明

非侵襲的に皮膚の色素の除去を促進するための組成物

【課題】皮膚の色素を積極的に除去することができる組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の組成物は、有効成分としてイブプロフェンピコノールを含む。本発明の組成物は、その他任意の成分を含んでいてもよい。本発明の組成物は、例えば紫外線照射や外傷、熱傷、にきびなどを原因とする色素沈着の治療に有効な皮膚外用剤となりうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非侵襲的に皮膚の色素の除去を促進するための組成物に関する。特に、本発明は、非侵襲的に皮膚のメラニンの除去を促進するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シミやそばかす、日やけなどの色素沈着は、皮膚にメラニンが沈着することにより生じる。メラニンは、メラノサイト内においてチロシンを原料としてチロシナーゼなどの働きにより生成される。このような色素沈着は、特に女性にとって美容上好ましくないものである。
【0003】
色素沈着を予防する美白剤としては、コウジ酸やアルブチン、エラグ酸、ビタミンCなどがよく知られている。これらの化合物は、チロシナーゼの活性を阻害することでメラニン生成を抑制する。また、アセチルサリチル酸やメフェナム酸などの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)がチロシナーゼの発現を抑制することにより、またはチロシナーゼの活性を阻害することによりメラニン生成を抑制することが報告されている(例えば、非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sato, K., et al., "Down-regulation of tyrosinase expression by acetylsalicylic acid in murine B16 melanoma", Biol. Pharm. Bull.., Vol.31 (2008), No.1, pp.33-37.
【非特許文献2】佐藤一臣、外2名、「B16メラノーマにおけるNSAIDsのメラニン生成抑制効果」、日本薬学会第129年会要旨集、3号、p.223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の美白剤は、メラニン生成を抑制して色素沈着を予防するものであり、皮膚に沈着してしまった色素を積極的に除去することはできなかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、皮膚の色素を積極的に除去することができる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、イブプロフェンピコノールが皮膚の色素を積極的かつ非侵襲的に除去できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の組成物に関する。
[1]イブプロフェンピコノールを含む、非侵襲的に皮膚の色素の除去を促進するための組成物。
[2]皮膚のメラニンの除去を促進するための組成物である、[1]に記載の組成物。
[3]皮膚外用剤である、[1]または[2]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮膚の色素を積極的かつ非侵襲的に除去できる組成物を提供することができる。本発明の組成物は、皮膚の色素を積極的に除去できるため、本発明によれば、紫外線照射や外傷、熱傷、にきびなどを原因とする色素沈着の治療や、刺青の除去などに有効な皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】モルモット背部製剤塗布領域の変化を示す写真
【図2】モルモット背部製剤塗布領域のL*値の変化を示すグラフ
【図3】モルモット背部製剤塗布領域のa*値の変化を示すグラフ
【図4】チロシナーゼ阻害試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組成物は、皮膚の色素を積極的かつ非侵襲的に除去するための組成物であって、有効成分としてイブプロフェンピコノールを含むことを特徴とする。本発明の組成物は、その他任意の成分を含んでいてもよい。
【0012】
本明細書において「皮膚の色素」とは、特に限定されないが、例えばメラニンや皮膚内に人為的に定着させられた色素などである。また、「皮膚の色素を非侵襲的に除去する」とは、色素を皮膚から排出させることや、皮膚の色素を分解または変化させること、これらを促進させることなどを含む。
【0013】
イブプロフェンピコノール(2−ピリジルメチル(RS)−2−(4−イソブチルフェニル)プロピオネート)は、急性湿疹、接触皮膚炎、アトピー皮膚炎などに有効な非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)として知られているが、これまで皮膚の色素を除去する作用は知られていなかった。本発明者は、イブプロフェンピコノールが皮膚の色素を積極的に除去できることを見出した。実施例に示すように、イブプロフェンピコノールは、チロシナーゼの阻害作用をほとんど有していないと考えられる。したがって、イブプロフェンピコノールの色素除去作用は、メラニン生成を阻害しつつ皮膚のターンオーバーによりメラニンを徐々に排出させるという消極的な除去ではなく、皮膚の色素(例えばメラニン)を積極的に除去するものであると推測される。
【0014】
本発明の組成物中のイブプロフェンピコノールの含有率は、特に限定されないが、0.01〜20重量%以下が好ましく、1〜10重量%の範囲内が特に好ましい。本発明の組成物に含まれるイブプロフェンピコノールは、公知の方法を用いて製造したものでもよいが、市販品を利用してもよい。
【0015】
本発明の組成物は、例えば、医薬品、医薬部外品または化粧品として使用されうる。また、本発明の組成物は、任意の公知の投与経路で投与されうる。たとえば、本発明の組成物は、非経口投与剤または経口投与剤として使用されうる。非経口投与剤の剤形の例には、エキス剤、硬膏剤、酒精剤、坐剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、点眼剤、注射剤などが含まれる。経口投与剤の剤形の例には、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤などが含まれる。また、本発明の組成物は、ローション、クリーム、化粧水、乳液、フォーム剤、ファンデーション、パック剤、皮膚洗浄剤、シャンプー、リンス、コンディショナーなどの化粧料組成物の形態とすることも可能である。本発明の組成物の好ましい実施形態としては、皮膚外用剤が挙げられる。
【0016】
製剤化は、公知の製剤技術により行うことができ、製剤中には適当な製剤添加物を加えることができる。製剤添加物の例には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、保湿(湿潤)剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味剤、甘味剤、色素、香料、噴射剤などが含まれる。製剤添加物は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して、適当量を加えればよい。
【0017】
本発明の組成物の投与量は、被投与者の性別、年齢、症状、投与方法、投与回数、投与時期など応じて適宜設定すればよい。
【0018】
本発明の組成物は、皮膚の色素を積極的に除去するため、色素沈着の治療に有用である。実施例で示されるように、本発明の組成物を皮膚に塗布することによりメラニンが除去されて皮膚のメラニン量が減少し、皮膚が白くなった。このように、本発明の組成物は、皮膚の色素を除去するために使用されうる。
【0019】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
1.製剤の調製
当該分野で通常行われる方法に従って、以下の表1に示す配合の材料を混合してエマルションを調製した。
【表1】

【0021】
調製したエマルションにイブプロフェンピコノール(以下「IBP」という)を最終濃度が10%となるように混和し、実施例の製剤として10%IBP含有エマルションを調製した。また、比較例の製剤として、IBP非含有のエマルション(ネガティブコントロール)およびレチノイン酸製剤(ポジティブコントロール;基剤は皮膚に対して薬理効果がないことが知られている水分散性ジェル)も準備した。
【0022】
2.メラニン排出効果試験
メラニン色素産生細胞を持つ有色モルモット(Weiser-Maples、11週齢、オス;東京実験動物)に紫外線を照射して、シミモデルモルモットを4匹作成した。具体的には、各個体の背部を毛剃りし、UV−A(1日あたり11J/cm;617μW/cm×5時間)およびUV−B(1日あたり33mJ/cm;0.55mW/cm×1分間)を照射する工程を、1日1回、週5日間(月曜日から金曜日まで)、6週間弱繰り返した(合計28回照射)。UV−Aランプは、FL20S・BLB−A(波長範囲315〜380nm、ピーク波長352nm;東芝)を使用し、UV−Bランプは、UVM−28(ピーク波長302nm;UVP Inc.)を使用した。UV照度測定器は、UVX Digital Radiometer(UVP Inc.)を使用した。照射期間終了後、紫外線照射による炎症の影響を抑えるために1週間放置した。
【0023】
色素沈着が生じた各個体の背部に、2cm×2cmの大きさの塗布領域を1匹あたり6区画設定した。各個体の塗布領域の毛を刈り、ぬるま湯で洗浄し、余分な水分を拭き取ってから30分経過した後、各塗布領域に製剤(10%IBP含有エマルション、レチノイン酸製剤またはIBP非含有エマルション)を30mg、1日1回塗布した。この製剤の塗布を15日間で合計11回行った(1,2週目:月〜金、3週目:月)。比較のために、無塗布領域(紫外線照射のみ)も設けた。
【0024】
図1は、塗布開始日、塗布開始後7日目、11日目、15日目のモルモット背部製剤塗布領域の写真である。これらの写真に示されるように、レチノイン酸製剤および10%IBP含有エマルションを塗布した領域では、塗布開始後11日目には大幅な明度の回復が観察された。レチノイン酸製剤を塗布した領域では、赤みを伴う炎症が観察されたが、10%IBP含有エマルションを塗布した領域では、そのような炎症は認められなかった。一方、IBP非含有エマルションを塗布した領域では、無塗布領域(紫外線照射のみ)と大きな差は認められなかった。
【0025】
各個体の皮膚におけるメラニン産生の指標として、色彩色差計(CR−400;ミノルタ)を用いて皮膚の明度(L値)を測定した。測定した皮膚の明度の増加量を色素沈着からの回復の程度の指標とした。L値は、値が大きいほど色が白いことを示す。本実施例で用いた色彩色差計は、L表色系を採用している。L表色系では、明度をL、色相と彩度を示す色度をaおよびbで表す。aおよびbは、色の方向を示しており、aは赤方向、−aは緑方向、bは黄方向、−bは青方向を示す。
【0026】
図2は、製剤塗布開始日からの各塗布領域のL値の変化を示すグラフである(n=6)。各塗布領域のL値は、1つの塗布領域あたり10箇所測定し、その平均値を採用した。レチノイン酸製剤を塗布した領域では、塗布開始日から7日目には大幅な明度の回復が認められた。また、10%IBP含有エマルションを塗布した領域では、塗布開始日から9日目には大幅な明度の回復が認められた。一方、IBP非含有エマルションを塗布した領域では、無塗布領域と大きな差は認められなかった。
【0027】
製剤塗布開始日から15日目の10%IBP含有エマルションを塗布した領域と無塗布領域の結果を比較すると、10%IBP含有エマルションの塗布により、L値が有意に大きくなっていることがわかる(**:p<0.01)。また、10%IBP含有エマルションを塗布した領域とIBP非含有エマルションを塗布した領域の結果を比較すると、10%IBPを含有させることにより、L値が有意に大きくなっていることがわかる(*:p<0.05)。
【0028】
また、各個体の皮膚における炎症の指標として、前述の色彩色差計を用いて皮膚の赤み(a値)を測定した。測定した皮膚の赤みの変化を皮膚の炎症の程度の指標とした。前述の通り、a値は、値が大きいほど赤みが強いことを示す。
【0029】
図3は、製剤塗布開始日からの各塗布領域のa値の変化を示すグラフである(n=6)。各塗布領域のa値は、1つの塗布領域あたり10箇所測定し、その平均値を採用した。レチノイン酸製剤を塗布した領域では、塗布開始日から4日目から11日目にかけて赤みが大幅に増加した。一方、10%IBP含有エマルションを塗布した領域およびIBP非含有エマルションを塗布した領域では、無塗布領域と大きな差は認められなかった。
【0030】
製剤塗布開始日から9日目および11日目のレチノイン酸製剤を塗布した領域と10%IBP含有エマルションを塗布した領域の結果を比較すると、レチノイン酸製剤の塗布により、a値が有意に大きくなっていることがわかる(**:p<0.01)。
【0031】
以上の結果により、IBPはレチノイン酸で知られる強い皮膚炎症反応(副作用)を惹起することなしに、皮膚の色素の除去を著しく促進することが確認された。IBP塗布開始時には、紫外線照射による炎症反応は沈静化していることから(a値による確認済み)、このIBPによる皮膚の色素除去促進効果は、IBPの抗炎症作用以外の作用によるものである。
【0032】
3.チロシナーゼ阻害試験
本発明の組成物の美白効果が、メラニン生成の抑制によるものかどうかを調べるために、チロシナーゼ阻害試験を行った。チロシナーゼ阻害試験は、論文(Roh, J.S. et al., Biol. Pharm. Bull., Vol.27 (2004), No.12, pp.1976-1978)に記載されている手順に従って行った。
【0033】
まず、所定量のIBPを0.1%エタノール水溶液に溶解してIBP水溶液(濃度:0〜1000μM)を調製した。また、ポジティブコントロールとして、チロシナーゼ阻害剤として知られているコウジ酸(114−00493;和光純薬)を水に溶解してコウジ酸水溶液(濃度:0〜1000μM)を調製した。
【0034】
サンプル溶液(IBP水溶液またはコウジ酸水溶液)10μLに2.5mM L−DOPA(シグマ)65μLおよび0.1M リン酸緩衝液(pH6.8)105μLを加えた。室温で10分間静置した後、吸光度(405nm)を測定した。次いで、混合液に200U/mLマッシュルームチロシナーゼ(T3824;シグマ) 20μLを加えた。室温で10分間静置した後、吸光度(405nm)を測定した。吸光度の変化からチロシナーゼの酵素活性を計算した。
【0035】
図4は、チロシナーゼ阻害試験の結果を示すグラフである。このグラフから、コウジ酸の濃度が高くなるとチロシナーゼの活性が阻害されるが、IBPの濃度が高くなってもチロシナーゼの活性は変化しないことがわかる。すなわち、IBPは、チロシナーゼの阻害作用を有していないことがわかる。この結果から、IBPによるメラニン除去作用は、メラニン生成の抑制によるものではなく、メラニンの積極的除去によるものであることが示唆される。
【0036】
[実施例2]
表1に示す組成のエマルションにIBPを最終濃度が1%または3%となるように混和し、1%IBP含有エマルションからなる皮膚外用剤および1%IBP含有エマルションからなる皮膚外用剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の組成物は、非侵襲的に皮膚の色素を除去できるため、例えば紫外線照射や外傷、熱傷、にきびなどを原因とする色素沈着の治療や、刺青の除去などに有効な皮膚外用剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェンピコノールを含む、非侵襲的に皮膚の色素の除去を促進するための組成物。
【請求項2】
皮膚のメラニンの除去を促進するための組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
皮膚外用剤である、請求項1に記載の組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−82631(P2013−82631A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4250(P2010−4250)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(506151235)株式会社ナノエッグ (11)
【出願人】(000102496)エスエス製薬株式会社 (50)
【Fターム(参考)】