説明

非保存性タンパク質内の、保存性のコンビナトリアルエピトープまたは複合エピトープを検出するための融合ポリペプチド

本発明は、生物学的サンプル中のヒト免疫不全ウイルス(HIV)の存在を検出するための方法に使用する、多重エピトープ結合性融合ポリペプチドを提供する。さらに本発明は、多重エピトープ結合性融合ポリペプチドの製造方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性の抗体結合エピトープを欠失した高多様性タンパク質について、信頼性の高い診断用検出を行うための融合ポリペプチドを提供する。これは、同一の標的タンパク質内の独立しているものの互いに連結した複数の構造決定基を、2個または3個以上の結合単位を含むポリペプチドによって認識することで達成する。この方法において標的とする構造決定基は、それ以外の部分が可変なタンパク質内の短い(3〜5残基の)保存アミノ酸配列からなる。これらのトリペプチド、テトラペプチドおよびペンタペプチドは、バイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)によって効率的にターゲティングすることができるが、このような短い配列は対象となる検体(例えば、血清サンプル)に含まれる他の多くのタンパク質内にも存在し得るので、この結合の診断的な価値は限られたものでしかない。しかし、複数の保存性のトリペプチド、テトラペプチドまたはペンタペプチドに結合することが可能な、2種または3種以上のBHAPを含む多重エピトープ結合性融合ポリペプチド(MEBIP)の協同的な結合は、上記の問題を解決し、対象となるタンパク質の診断用検出を可能にする該タンパク質に対する高度な親和性を伴う特異的なターゲティングを保証するために使用することができる。組み換え抗体断片は、MEBIPの1個または全てのBHAPサブユニットとなりうる数種の結合性タンパク質の1例である。これらの結果として、本発明は、HIVなどの高い突然変異能を有するウイルスのコードするタンパク質について、信頼性の高い定量的な検出を行うための新規な手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
Schupbach et al.(Journal of Medical Virology, 2001, 65:225-232)は、熱変性した、増幅によって高濃度化したp24抗原が、HIV感染の治療をモニターするためのHIV RNA試験の代りに使用できることを開示している。Respess et al.(Journal of Clinical Microbiology, 2005, 43(l):506-508)およびKnuchel et al.(Journal of Clinical Virology, 2006, 36:64-67)も、高感度p24抗原アッセイをHIV RNA試験の代替として開示している。
【0003】
Boder et al.(PNAS, 2000, 97(20):10701-10705)は、一価であり、フェムトモル量の抗原−結合親和性を有する抗体断片の特異的な進化について開示している。Holliger and Hudson(Nature Biotechnology, 2005, 23(9): 1126-1136)は、組み換え抗体断片について記載している。Nygren and Uhlen(Current Opinion in Structural Biology, 1997, 7:463-469)およびHosse et al.(Protein Science, 2006, 15:14-27)は、分子認識のためのタンパク質ディスプレイ骨格の作製について記載している。
【0004】
Binz et al.(Nature Biotechnology, 2005, 23(10): 1257-1268)およびHey et al.(Trends in Biotechnology, 2005, 23(10):514-422)は、非免疫グロブリンドメインからの新規結合性タンパク質の作製について記載している。
【0005】
2つの異なるリガンドを認識して組み合わせることができる二重特異性組み換え抗体分子は、文献においてよく知られている(例えば、Albrecht et al., J Immunol Meth 310: 100-16, 2006を参照)。また、同じタンパク質の2つの異なるエピトープに結合する二重特異性組み換え抗体も知られている(例えば、Neri et al., J Mol Biol 246: 367-73, 1995 および Zhou, J Mol Biol 329: 1-8, 2003を参照)。このような組み合わせによる結合は、2種の組み換え抗体をそれぞれ単独で用いた結合と比べて、結合親和性が顕著に増加した。MEBIPは、二重特異性組み換え抗体の構造と類似性を有することもあるが、本発明は新規であって、文献に記載された二重特異性組み換え抗体の設計や用途とは無関係であることをよく理解することが重要である。
【0006】
複数の互いに共有結合したBHAP(組み換え抗体でもよいし、他の種類の分子でもよい)の協同的結合に伴う親和性の増加は、対象となるタンパク質内の複数の領域のターゲティングを補助するものの、これを実現しているわけではない。一方、本発明の要諦は、検出における診断用特異性を実現するために必要な構造上の複雑性を提供するために、多様なタンパク質内に散らばった短い保存ペプチドを組み合わせて「仮想エピトープ」にすることである。このような構造上の複雑性を提供するためには、線状ペプチドエピトープは少なくとも6残基からなるものでなければならない。しかし、公知の配列データベースを調べると、保存性の高い連続した6残基からなるアミノ酸伸長鎖は、多くの高多様性微生物タンパク質、特にRNAウイルスのタンパク質、には見出し難い。例えば、HIV−1 p24タンパク質には、公知のHIV−1配列の99%超において保存されるヘキサペプチド(6量体)が1つも含まれていないため、信頼性の高い免疫学的検出を困難にしている。以下に説明するように、MEBIP法を用いた、保存性のトリペプチド、テトラペプチドまたはペンタペプチドの組み合わせの統合的検出が、この問題を解決するのに役立つ。したがって、本発明の新規な方法は、HIV−1 p24などの高多様性の微生物タンパク質の診断用検出のための改良手段の開発を可能にする。
【0007】
発明の詳細な説明
以下に、本明細書で使用した用語の一部について、その定義を提供する。
【0008】
本明細書において使用した種々の活用形の「抗体」という用語は集合名詞であり、免疫グロブリン分子および/または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部位、即ち、抗原結合部位またはパラトープ、の総称である。
【0009】
「エピトープ」とは、ポリペプチドなどの高分子の一部分であって、免疫系(具体的には抗体、B細胞または細胞傷害性T細胞)によって認識されるものである。抗体によって認識される大部分のエピトープを、抗原分子の三次元的な表面構造特性と考えることができる。これらの構造は抗体と正確に適合するため、抗体に結合する。これらの表面は、四次タンパク質構造に依存するため、エピトープを形成する残基は、タンパク質のアミノ酸配列において互いに離れた位置にあってもよいし(立体配座エピトープ)、タンパク質内の連続するペプチド領域によって形成されていてもよい(線状エピトープ)。したがって、抗体を診断に用いる場合によく行われるようにタンパク質を変性した場合は、線状エピトープのみを検出に使用することができる。抗体の認識する線状エピトープを形成する連続したアミノ酸残基の数はいろいろであるが、典型的には6〜10個の範囲にある。しかし、天然の抗体はより短いエピトープを顕著な親和性で認識することができるので、たった1種のアミノ酸残基さえも標的とするように組み換え抗体を設計することもできる。
【0010】
「抗原結合性部位」または「パラトープ」とは、抗体分子における、抗原に特異的に結合する構造上の部位である。
【0011】
「一本鎖抗体」(scFv)とは、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれの可変ドメインがリンカーペプチドを介して結合した連続したアミノ酸鎖であって、一本鎖mRNA分子(転写物)から合成されたものである。
【0012】
「免疫アッセイ」とは、生物学的な液体、典型的には血清、血漿、尿またはその他の体液に含まれる物質のレベルを、1種または複数種の抗体とそれに対する抗原との反応を利用して測定する生化学的な試験である。このアッセイは、抗体のその抗原に対する特異的結合を利用する。モノクローナル抗体は、通常、検出すべき分子の単一部位にのみ結合するため、サンプル中の他の分子による干渉を受けることなく、より特異的で正確な試験を提供することから頻繁に利用されている。使用する抗体は抗原に対して高親和性を有していなければならない。抗原の存在は、例えば、感染症の診断において、微生物特異的な分子構造を検出することで測定する。抗原の定量化は種々の方法で達成することができる。最も頻繁に実施されている方法の1つは、抗原または抗体を標識する方法である。標識は、酵素(酵素免疫アッセイ,EIA)、蛍光物質(FIA)または発光物質(LIA)からなるか、あるいは、凝集、比濁分析、濁度測定またはイムノブロッティング(ウエスタンブロット)に基づくものである。
【0013】
免疫アッセイは、競合的でも非競合的でもよく、均一系でも非均一系でもよい。競合アッセイにおいては、サンプル中の抗原は抗体と結合するために標識抗原と競合する。次に、抗体部位に結合した標識抗原の量を測定する。標識抗原と競合しうるサンプル中の抗原が少ないほど応答は大きくなるので、この応答はサンプル中の抗原濃度と反比例する。
【0014】
「サンドイッチアッセイ」と頻繁に呼ばれる非競合免疫アッセイにおいては、サンプル中の抗原を「捕捉」抗体に結合し、結合部位上の標識抗体の量を測定する。競合アッセイの場合とは異なり、結果は抗原濃度に直接比例する。
【0015】
不均一系における免疫アッセイの場合、通常は固相材料を用いた、結合部位から未結合の抗体または抗原を除去するための余分な工程が必要となる。均一系におけるアッセイの場合は、未結合の抗体分子または抗原分子を除去するための分離相を必要としない。免疫アッセイは、HIVの診断において特に重要な役割がある。
【0016】
「MEBIP」という略語は、「多重エピトープ結合性融合ポリペプチド(multiepitope-binding fusion polypeptide)」を意味する。これは、共通の標的タンパク質内のそれぞれ異なる部位に結合する2つまたは3つ以上の独立した結合単位を含む、遺伝子工学的に得られたタンパク質構築物である。MEBIP内の結合単位の1つまたは2つ以上が、scFvであってもよい。
【0017】
「仮想エピトープ」とは、その他の部分の可変性が高いタンパク質(例えば、多くのウイルスタンパク質)においても比較的一定である、典型的には、それぞれが3〜5個の連続したアミノ酸残基からなる2つのアミノ酸鎖によって形成された構造であり、MEBIPのリガンドとして機能するものである。「仮想エピトープ」は抗原エピトープと重複してもよいが、従来の抗体の標的にならなくともよい。
【0018】
本明細書において使用する「特異的結合」、「特異的認識」や「エピトープに対して結合特異性を有する」などの表現は、MEBIPまたはその断片もしくは誘導体とその標的分子との間で生じる、バックグラウンド値が低く高親和性の結合(即ち、非特異的結合のない結合)を意味する。言い換えれば、上記用語(および同等の表現)は、結合分子(例えば、受容体、抗体、リガンドやアンチリガンド)が、タンパク質や他の生物学的物質からなる不均一な集団の存在下で、特定の標的分子(例えば、リガンドや抗原)に対して好ましく結合する(即ち、試験サンプル中の他の成分に対して顕著な結合を示さない)ことを意味する。典型的には、2つの物質、例えば、リガンドと受容体、の間の特異的結合は、結合親和性が少なくとも約106-1であり、好ましくは少なくとも約107-1、108-1、109-1または1010-1であり、より好ましくは少なくとも約1011-1、1012-1、1013-1、1014-1または1015-1である。
【0019】
「特異性」または「高特異性」とは、MEBIPなどの結合性タンパク質が、対応する非保存性ポリペプチドリガンドの変異体の95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%に結合する能力も意味する。
【0020】
本明細書において、「バイオパニング」および「ファージディスプレイライブラリー」という用語は、米国特許出願第2005/0074747号(Arap et al.)と同様に使用した。
【0021】
さらに、抗原の古典的な定義は、感受性のある動物の組織に導入した際に、免疫応答(例えば、特異的抗体分子の産生)を誘引し、産生された特異的抗体と会合しうる「全ての外来物質」である。抗原は、一般的には高分子量であり、通常は、タンパク質または多糖である。ポリペプチド、脂質、核酸および他の種々の材料も抗原として機能しうる。ハプテンと呼ばれるより小さな物質であっても、より大きな担体タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン、スカシガイヘモシアニン(KLH)や他の合成マトリクス)とカップリングされていれば、免疫応答を誘導することができる。種々の分子、例えば、薬剤、単糖、アミノ酸、小さなペプチド、リン脂質またはトリグリセリドはハプテンとして機能しうる。したがって、十分な時間があれば、ほぼ全ての外来物質が免疫系によって同定され、特異的抗体の産生が誘発される。しかし、この特異的免疫応答は高度に可変であり、抗原のサイズ、構造および組成によるところが大きい。強力な免疫応答を誘発する抗原を、免疫原性の強い抗原と言う。
【0022】
優れた抗原の特徴を以下に列挙する。
− 1つの分子内に、構造的に安定な領域と化学的に複雑な領域が存在する。
− 広範にわたる繰り返し単位を含まない、広大な伸長鎖である。
− 最低分子量が8,000〜10,000ダルトンであるが、担体タンパク質の存在下では、分子量が200Daまで低いハプテンでもよい。
− 免疫系によって処理されうる性質を有する。
− 抗体形成メカニズムに利用されやすい免疫原性領域を有する。
− 宿主とは十分に異なる構造因子である。
− ペプチド抗原については、免疫原性アミノ酸であるK、R、E、D、Q、Nを少なくとも30%含む領域を含んでいる。
− ペプチド抗原については、顕著に親水性の残基または荷電した残基を含んでいる。
【0023】
抗体結合性エピトープは数個のアミノ酸からなる場合もあるため、診断的な価値を有しないこともある。というのは、同じエピトープが同じ検体(例えば、血清サンプル)に含まれる他の多くのタンパク質にも存在し得るからである。したがって、ヒト血液中の微生物タンパク質の検出などにおいて有用なエピトープは、10,0000種の異なるタンパク質を含むと推定されるヒト血清に存在するものではならない。血清タンパク質の平均サイズが50kD(約500個のアミノ酸)であり、20種の天然アミノ酸の全てがヒト タンパク質において等しく使用されていると仮定すると、任意に与えられたジペプチド、トリペプチドまたはテトラペプチドが血清中から検出される確率はほぼ100%と計算できる。任意のペンタペプチド(5個のアミノ酸)について同様に計算した確率は、10,000個の仮説的な50kDのタンパク質内で79%であり、ヘキサペプチド(6個のアミノ酸)が存在する確率は7.5%である。
【0024】
したがって、微生物病原体の抗体エピトープの内、全5量体の79%、そして全6量体の7.5%が、正常な血清に存在するエピトープによって、診断的有用性を失うと見積もられる。換言すれば、5量体線状エピトープを認識することによって微生物タンパク質に十分に強く結合することができる抗体(または他の種類の特異的結合性タンパク質)のうちの21%のみが、ヒト血清中に存在するエピトープには結合せず、この微生物の診断用検出に有用であると考えられる。一方、6個または7個以上の残基からなる線状エピトープを認識する抗微生物抗体の大多数には、この問題は生じない。もちろん、診断用抗体が関連のないペプチドにコードされているエピトープと交差反応することによって、診断用抗体の有用性が失われる可能性はあるが、この場合には、標的エピトープの長さはあまり関係がない。
【0025】
上記の計算から明らかなように、5残基からなる線状エピトープには限られた価値しかなく、5残基よりも短いエピトープは微生物診断における検出用標的としては有用でない。しかし、単一のタンパク質におけるそのような短いエピトープの組み合わせの存在を考慮するならば、状況は変わってくる。1,000種または10,000種の長さ500残基の仮説的なポリペプチドについて、単一タンパク質内にトリペプチド、テトラペプチドおよびペンタペプチドの種々の組み合わせが存在する確率を計算した結果を以下に示す(表1)。
【0026】
【表1】

【0027】
上記の結果は、3残基または4残基ほどの短いエピトープであっても、最適下限の長さの他のエピトープ(4量体または5量体)との組み合わせの存在が検出されるのであれば、診断には大いに有用であり得るということを示している。このような短い、したがって診断用にはならないエピトープも、組み合わせることによって診断的価値を有する「仮想エピトープ」になり得ると考えられる。この概念は、互いに隣接し且つ大部分のウイルス株や疑似種(quasispecies)において保存されるアミノ酸残基をほとんど含まない、高多様性の微生物タンパク質(例えば、HIV p24抗原)の信頼できる検出を行う際に大いに有用にとなる。
【0028】
上記の説明から分かるように、本発明は、多様性の存在が知られているポリペプチド抗原の少なくとも2つのエピトープに対して同時且つ特異的に結合しうる融合ポリペプチド、即ち、MEBIP、の製造方法であって、それぞれの連続エピトープは該抗原内の3個、4個または5個の隣接する保存アミノ酸残基からなり、下記の工程を包含することを特徴とする方法を提供する。
a)該抗原の公知のアミノ酸配列のコンピューター解析によって、該抗原内の3〜5個のアミノ酸からなる保存領域を選択し、
b)該抗原から選択した保存領域に基づいて、ペプチドを調製し、
c)結合タンパク質を発現する粒子のライブラリー(例えば、一本鎖抗体のファージライブラリー)に、該ペプチドを接触させ、
d)該ペプチドに対する結合活性を有する結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
e)上記工程d)で単離した粒子から得た核酸または該粒子から誘導した核酸に変異を導入して変異粒子を得、
f)上記工程e)で得た変異粒子に基づいて、結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーを作製し、
g)上記工程f)で得たライブラリーに、該ペプチドまたはその断片を接触させ、
h)該ペプチドまたはその断片に対する結合活性が改良された結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
i)上記工程e)〜h)を1回または2回以上繰り返して粒子を得、
j)上記工程i)で得た粒子から、該抗原内の少なくとも3〜5個の隣接するかまたは隣接しないアミノ酸からなるエピトープに対して特異的に結合しうる粒子を得、そして
k)上記工程j)で得た該粒子に基づいて、該抗原の少なくとも2つの異なるエピトープに対して特異性を示す2種の粒子の結合特異性を1つの融合ポリペプチドに組み込むことによって、該抗原の変異体に対して高い特異性を有する融合ポリペプチドを調製する。
【0029】
上記工程k)で得られるMEBIPは、該抗原の変異体の95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%または99%超に特異的に結合することが好ましい。
【0030】
上記工程b)で調製したペプチドは、NAWVK、FRDY、RAEQ、NPDC、VGGP、AWVK、NAWV、RDY、FRD、AEQ、RAE、PDC、NPD、GGP、VGG、WVK、AWV、NAW、SDI、PVG、GLN、WMT、TLL、EMMおよびHKAからなる群より選ばれる、HIV p24ポリペプチドの3〜5個のアミノ酸からなる保存領域であることが好ましい。
【0031】
本発明はまた、多様性の存在が知られているポリペプチド抗原の少なくとも2つのエピトープに対して同時且つ特異的に結合しうる融合ポリペプチド、即ち、MEBIPであって、それぞれのエピトープが該抗原内の3〜5個の隣接する保存アミノ酸残基からなり、該抗原の変異体に対して高い特異性を示すことを特徴とする融合ポリペプチドにも関する。このようなMEBIPは上記の方法で得ることができる。
【0032】
HIVアッセイ
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の検出の場合、問題は、ウイルスの抗原部位が絶えず且つ急激に変化していることである。本発明による解決手段は、MEBIPを製造するための手段を提供することである。このMEBIPは、従来の抗体では検出が困難または不可能であった、それぞれがp24ポリペプチドの保存性の高い、長さが3〜5アミノ酸残基であるエピトープからなる2つの異なるアミノ酸伸長鎖に特異的に結合する。本発明の方法で得たMEBIPは、抗体と同様に検出方法に使用することができるため、生物学的サンプル中のヒト免疫不全ウイルスの存在の検出に有用である。
【0033】
当業者は、上記の方法を他の抗原アッセイにも容易に適用することができる。したがって、本発明は、生物学的サンプル中の抗原の存在を検出するための一般的な方法であって、下記の工程を包含することを特徴とする方法を提供する。
a)MEBIPを、生物学的サンプルまたはその画分と接触させ、そして
b)該ポリペプチドと抗原との複合体を検出し、該複合体の存在を、サンプル中の抗原の存在の指標とする。
【0034】
好ましくは、該抗原はHIVのp24ポリペプチドであり、該方法はサンプル中のHIVの存在を検出するための方法である。
【0035】
本発明の技術背景を明確にし、特にその実施方法についてさらなる詳細を提供するために本明細書で使用した出版物およびその他資料の内容は、本明細書の記載を以って本願に組み込まれたものとする。本発明について以下の実施例でさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0036】
HIV p24の仮想エピトープとして有用な保存領域を同定するために、http://www.hiv.lanl.gov/content/indexなどの公知のデータベースから入手可能な大量の個々のアミノ酸配列について、互いにアラインメントを実施し、各アミノ酸残基の相対保存性を評価した。この分析に基づいて、99%以上の配列で保存されている3個または4個以上のアミノ酸残基からなるペプチド伸長鎖をさらなる分析のために選択した(図1を参照)。
【0037】
MEBIP前駆体となるポリペプチドの大きなライブラリーに対して、親和性に基づく選択方法によるスクリーニングを行うために、HIV p24の仮想エピトープのための1種または数種の潜在的保存領域を含む合成ペプチドを使用した。例えば、Neriとその同僚ら(Proteomics 5:2340-2350, 2005)が作製した、30億個の個別の組み換え抗体クローンを含有するETH-2-Goldファージディスプレイライブラリーに対して、保存領域含有ペプチドと特異的に相互作用するポリペプチドのスクリーニングを行った。非Ig誘導性ポリペプチドに基づく、潜在的なリガンド結合性ポリペプチドを含有するライブラリーは、既にいくつか存在するし(例えば、Nature Biotechnology 23:1257-1268, 2005を参照)、de novoで設計することもできる。これらライブラリーを、MEBIPの開発を目的としたポリペプチドのスクリーニングに使用する。さらに、合成ペプチドによるこのようなMEBIP前駆体ライブラリーのスクリーニングに加え、少なくとも1種の潜在的保存領域のみならず、変性HIVキャプシドタンパク質(p24)も含む組み換えタンパク質をリガンドとしてアフィニティー選択に使用した。後者の場合、上記保存領域を有するペプチドに対する結合のターゲティングは、例えば、これらのペプチドを用いて、所望の結合特異性を示すファージを溶出することによって行うことができる。
【0038】
これらペプチドに結合する潜在的なMEBIP分子を、例えば、scFvファージライブラリーのスクリーニング(組み換え抗体ライブラリーのスクリーニングの基本原理については、Hoogenboom, Nature Biotechnology 23(9): 1105-1116の論文を参照)によって産生した後に、上記結合に関与する残基をペプチドアレイ技術で同定した。図1に示したエピトープの2個または3個以上からなるいかなる組み合わせも、HIV p24の検出に使用することが可能なMEBIPのための潜在的なコンビナトリアルな標的である。
【実施例2】
【0039】
変性p24および定義した仮想エピトープ含有ペプチドの両方に結合するBHAP前駆体を、さらなる開発のために選択した。SCA工学に関連した本発明者らの過去の報告(Biochemistry 41:12729-12738, 2003)に記載されている変異導入法の反復およびアフィニティー選択によって、pre−MEBIPの結合親和性を最大にした。上述したBiochemistryの記事に記載されているエラー導入用PCRまたは類似の方法を用いたランダム変異導入法、およびpre−MEBIP内の結合表面に対するターゲット変異導入法の両方、あるいはこれらを組み合わせた手法を用いた。M13誘導ファージミドとヘルパーバクテリオファージ介在手法に基づく典型的なファージディスプレイを、アフィニティー選択および改良pre−MEBIPの増幅に使用したが、他の関連スクリーニング方法も使用することができる。
【0040】
続いて、p24内の仮想エピトープの保存領域に対して特異性を示す2種のpre−MEBIPの結合特異性を1つの融合ポリペプチドに組み込むことによって、融合タンパク質を調製し(例えば、Albrecht et al., 2006, Journal of Immunological Methods 310:100-116を参照)、融合タンパク質であるMEBIPを得た。最後に、組み立てたMEBIPの複合標的に対する結合親和性を、pre−MEBIPサブユニットの結合性を操作するために初めに用いたのと同一の方法を用いてさらに好適化した。
【0041】
その後、結合親和性および他の顕著な特性を詳細に特徴付けた。新規なp24検出アッセイを構築するために、そのまま、あるいは種々の融合タンパク質誘導体として使用する至適MEBIPの性質には、以下のものが含まれる。1)熱変性HIV p24タンパク質に対する高親和性、好ましくは、解離定数で表して10-12M未満の高親和性、2)関連ウイルス株の99%超における、仮想エピトープの絶対的な保存、および3)良好な溶解性と組み換え体の容易な大規模製造。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】代表的なHIV−1株のp24タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)。図は、クレードA〜Kおよび最も優勢なM型HIV−1の蔓延している種々の組み換えウイルスのみならず、O型とN型のウイルスおよび関連したチンパンジーのSIVウイルスについての、p24に見られる相対的な保存性残基を示す。スコア1は、保存性が99.75%を超えることを意味し、スコア2は、保存性が99.50%を超えることを意味し、スコア3は、保存性が99.00%を超えることを意味し、スコア4は、保存性が98.00%を超えることを意味し、スコア5は、保存性が97.00%を超えることを意味する(スコアは各残基の上に示した)。保存性が97%未満の残基にはスコアをつけなかった。全体としての保存性が99.00%を超える連続したペプチド伸長鎖は太字で示し、下線を付した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多様性の存在が知られているポリペプチド抗原の少なくとも2つのエピトープに対して同時且つ特異的に結合する融合ポリペプチドであって、それぞれのエピトープは該抗原内の3〜5個の隣接する保存アミノ酸残基からなり、該エピトープに結合することによって、該抗原の変異体に対する該融合ポリペプチドの結合が高特異性で広範に及ぶものとなることを特徴とする、融合ポリペプチド。
【請求項2】
該少なくとも2つのエピトープの合計が、該抗原内の少なくとも8個の保存アミノ酸残基となることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
該抗原の変異体の95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%に特異的に結合することを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
互いに共有結合によって結合した2種の一本鎖抗体を包含することを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
それぞれのエピトープが3〜4個または4〜5個の隣接するアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
1つまたは2つのエピトープが3個、4個または5個の隣接するアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項5に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
該抗原に対する親和性が10-12M〜10-15Mであることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
該抗原がヒト免疫不全ウイルス(HIV)のp24ポリペプチドであり、それぞれのエピトープが、NAWVK、FRDY、RAEQ、NPDC、VGGP、AWVK、NAWV、RDY、FRD、AEQ、RAE、PDC、NPD、GGP、VGG、WVK、AWV、NAW、SDI、PVG、GLN、WMT、TLL、EMMおよびHKAからなる群より選ばれる、HIV p24ポリペプチドの3〜5個のアミノ酸からなる領域であることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
結合性ポリペプチドを継続的なバイオパニングに付すことによって得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
該バイオパニングが、ファージディスプレイシステムに基づくものであることを特徴とする、請求項9に記載の融合ポリペプチド。
【請求項11】
該エピトープが非免疫原性であることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項12】
標識されていることを特徴とする、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項13】
多様性の存在が知られているポリペプチド抗原の少なくとも2つのエピトープに対して同時且つ特異的に結合しうる融合ポリペプチドの製造方法であって、それぞれのエピトープは該抗原内の3〜5個の隣接する保存アミノ酸残基からなり、下記の工程を包含することを特徴とする方法。
a)該抗原の公知のアミノ酸配列のコンピューター解析によって、該抗原内の3〜5個のアミノ酸からなる保存領域を選択し、
b)該抗原から選択した保存領域に基づいて、ペプチドを調製し、
c)結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーに、1種または2種以上の該ペプチドを接触させ、
d)該ペプチドに対する結合活性を有する結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
e)上記工程d)で単離した粒子から得た核酸または該粒子から誘導した核酸に変異を導入して変異粒子を得、
f)上記工程e)で得た変異粒子に基づいて、結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーを作製し、
g)上記工程f)で得たライブラリーに、1種または2種以上の該ペプチドまたはその断片を接触させ、
h)該ペプチドまたはその断片に対する結合活性が改良された結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
i)上記工程e)〜h)を1回または2回以上繰り返して粒子を得、
j)上記工程i)で得た粒子から、該抗原内の少なくとも3〜5個の隣接するアミノ酸からなるエピトープに対して特異的に結合しうる粒子を得、そして
k)上記工程j)で得た該粒子に基づいて、該抗原の少なくとも2つの異なるエピトープに対して特異性を示す2種の粒子の結合特異性を1つの融合ポリペプチドに組み込むことによって、該抗原の変異体に対して高い特異性を有する融合ポリペプチドを調製する。
【請求項14】
上記工程k)で得られる融合ポリペプチドが、該抗原の変異体の95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%に特異的に結合することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該ライブラリーが、一本鎖抗体のファージライブラリーであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
該抗原がHIVのp24ポリペプチドであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
該ペプチドが、NAWVK、FRDY、RAEQ、NPDC、VGGP、AWVK、NAWV、RDY、FRD、AEQ、RAE、PDC、NPD、GGP、VGG、WVK、AWV、NAW、SDI、PVG、GLN、WMT、TLL、EMMおよびHKAからなる群より選ばれる、HIV p24ポリペプチドの3〜5個のアミノ酸からなる領域であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
それぞれのエピトープが3〜4個または4〜5個の隣接するアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
1つまたは2つのエピトープが3個、4個または5個の隣接するアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
該融合ポリペプチドの該抗原に対する親和性が10-12M〜10-15Mであることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
多様性の存在が知られているポリペプチド抗原の少なくとも2つのエピトープに対して同時且つ特異的に結合しうる融合ポリペプチドであって、それぞれのエピトープが該抗原内の3〜5個の隣接する保存アミノ酸残基からなり、該抗原の変異体に対して高い特異性を有することを特徴とする、請求項13の方法によって得られた融合ポリペプチド。
【請求項22】
該抗原の変異体の95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.5%または100%に特異的に結合することを特徴とする、請求項21に記載の融合ポリペプチド。
【請求項23】
生物学的サンプル中の抗原の存在を検出するための方法であって、下記の工程を包含することを特徴とする方法。
a)請求項1の融合ポリペプチドを、生物学的サンプルまたはその画分と接触させ、そして
b)該融合ポリペプチドと抗原との複合体を検出し、該複合体の存在を、サンプル中の抗原の存在の指標とする。
【請求項24】
該ポリペプチドが請求項8のポリペプチドであり、該抗原がHIVのp24ポリペプチドであり、該方法がサンプル中のHIVの存在を検出するための方法であることを特徴とする、請求項23に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−520266(P2010−520266A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552239(P2009−552239)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050111
【国際公開番号】WO2008/107523
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(508324237)ネクスト バイオメド テクノロジーズ エヌビーティー オイ (2)
【Fターム(参考)】