非共有結合高分子
【課題】化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子を提供する。
【解決手段】下式
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。
【解決手段】下式
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な非共有結合高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数ナノ〜数十ナノオーダの規則構造あるいは原子配列を制御することが検討されている。この制御を現在の加工技術によって行うことは可能であるが、その制御は限定的である。また、加工に非常な長時間を要するか高コスト加工法が必要である。このため、金属錯体あるいは有機化合物を自己組織化した高分子が提案されている。そして、自己組織化した高分子が種々の機能性材料、例えば電子デバイス素子、エレクトロルミネッセンスあるいは触媒能、分光学的、磁気的又は電気化学的複合膜などの機能性材料として注目されている。
【0003】
例えば、金属錯体、トリフェニレン、トリフェニルアミン、トリフェニレンの誘導体及びトリフェニルアミンの誘導体から自己組織化によって得られる超分岐高分子は導電性を有し、この超高分子を用いて電子デバイス素子が提案されている(特許文献1参照)。また、両端に親水性基を有する双頭性脂質の中に金属錯体が埋め込まれた錯体化合物構造の磁性機能、エレクトロルミネッセンス機能、導電性機能、触媒能などの金属的特性を備えたナノワイヤーが提案された(特許文献2参照)。そして、配位子骨格に多重水素結合を導入して、その自己組織化能を利用して中心金属として様々な金属イオンを取り込んで形成される有機―無機複合膜組織が中心金属の種類によって色が変わる遷移金属錯体ナノ薄膜が提案された(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−75962号公報
【特許文献2】特開2005−255543号公報
【特許文献3】特開2006−124349号公報
【0005】
上記の特許文献1及び特許文献3に具体的に記載されている超分岐高分子及びナノ薄膜はいずれも出発原料が複雑な構造の多環芳香族化合物である。また、上記特許文献2に具体的に記載されているナノワイヤーは機能的に限定され、例えばイオン伝導性については期待できず、出発原料の構造が複雑であり合成工程に複数工程を要するものである。従って、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要とせずイオン構造を有する出発原料からの分子間相互作用に基く自己組織化を利用して形成されてなる新規な非共有結合高分子は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない、新規な非共有結合高分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明によれば、下式
【化1】
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、化学構造がシンプルでかつ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子を提供することができる。また本発明の非共有結合高分子は、そのプロトン伝導性及び液晶性を利用して分子デバイスに利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の非共有結合高分子は下式
【化2】
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる。
【0010】
上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基、すなわちメチル、エチルもしくはプロピルである。またR2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基、すなわちデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、セチル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、セリル等であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である。
【0011】
本発明の非共有結合高分子は、溶媒中で下式
【化3】
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
の脂肪族アミンと塩酸とを接触させて反応させた後、生成物を分離することによって得ることができる。
【0012】
前記の溶媒としては特に制限はなく、例えば水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、クロロホルムあるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0013】
前記の脂肪族アミンと塩酸とは、溶媒に均一に分散させて反応させることが好ましく、特にいずれかの成分を溶解させて反応させることが好ましい。
【0014】
また、前記の反応は20〜100℃、1分〜24時間の範囲内で適宜選択することができる。
【0015】
また、前記の分離は、抽出、濾過、洗浄、再結晶などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0016】
前記の脂肪族アミン塩酸塩の好ましい具体例としては、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアアミン塩酸塩、N−メチル−n−オクタデシルアミン塩酸塩、n−オクタデシルアミン塩酸塩、N,N−ジ−n−オクタデシルメチルアミン塩酸塩、n−ジオクタデシルアミン塩酸塩等を挙げることができる。
【0017】
本発明の非共有結合高分子は、前記の脂肪族アミンと塩酸とから得られる脂肪族アミン塩酸塩が自己組織化によって高分子化された高分子化合物である。この場合、塩酸アニオンを中心にして、その上に脂肪族アミンカチオンが螺旋状に重なって、高分子を形成すると考えられる。
【0018】
従って、本発明の非共有結合高分子は、概念的には塩酸のアニオンが螺旋状の中心軸を形成して重層の柱となり、その周りを脂肪族アミンカチオンが螺旋状に重層をなして形成される高分子化合物であると考えられる。
【0019】
本発明の非共有結合高分子は、無水状態でプロトン伝導性を有し、その性質を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
【0020】
また、本発明の非共有結合高分子は、融点から分解温度までの範囲内の温度において液晶状態を発現するので、その液晶性を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
【実施例】
【0021】
実施例1
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン1.00g(3.4mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.5mLを加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0022】
【化4】
【0023】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図1及び表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1中、TKCol、TColLC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKCol、ΔHColLC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSKCol、ΔSColLC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)からカラムナーヘキサゴナル(Col)への相転移を示し、bはカラムナーヘキサゴナル(Col)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0026】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図2に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0027】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表2に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0028】
【表2】
【0029】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図3に示す。
【0030】
実施例2
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、N−メチル−n−オクタデシルアミン1.00g(3.5mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.0mL(11mmol)を加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0031】
【化5】
【0032】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図4及び表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3中、TKCol、TColLC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKCol、ΔHColLC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSKCol、ΔSColLC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)からカラムナーヘキサゴナル(Col)への相転移を示し、bはカラムナーヘキサゴナル(Col)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0035】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図5に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0036】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表4に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0037】
【表4】
【0038】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図6に示す。
【0039】
実施例3
下式で表されるn−オクタデシルアミン塩酸塩(Tokyo Kasei)をエタノールで再結晶させた。
【0040】
【化6】
【0041】
得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図7及び表5に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表1中、TKCol、TColcol、TColLC3及びTLC3Iは相転移温度を、ΔHKCol、ΔHColcol、ΔHColLC3及びΔHLC3Iはエンタルピー変化を、ΔSKCol、ΔSColcol、ΔSColLC3及びΔSLC3Iははエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)からカラムナーテトラゴナル(Colt)への相転移を示し、bはカラムナーテトラゴナル(Colt)からカラムナーレクタンギュラー(Colr)への相転移を示し、cはカラムナーレクタンギュラー(Colr)から液晶(LC3)への相転移を示し、dは液晶(LC3)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0044】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図8に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0045】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表6に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0046】
【表6】
【0047】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図9に示す。
【0048】
実施例4
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、N,N−ジ−n−オクタデシルメチルアミン1.00g(1.8mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.0mL(11mmol)を加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0049】
【化7】
【0050】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図10及び表7に示す。
【0051】
【表7】
【0052】
表7中、TKLC1、TLC1LC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKLC1、ΔHLC1LC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSLC1、ΔSLC1LC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)から液晶(LC1)への相転移を示し、bは液晶(LC1)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0053】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図11に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0054】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表8に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0055】
【表8】
【0056】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図12に示す。
【0057】
実施例5
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、ジオクタデシルアミン1.00g(1.9mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.0mL(11mmol)を加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0058】
【化8】
【0059】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図13及び表9に示す。
【0060】
【表9】
【0061】
表9中、TKLC1、TLC1LC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKLC1、ΔHLC1LC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSLC1、ΔSLC1LC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)から液晶(LC1)への相転移を示し、bは液晶(LC1)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0062】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表10に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0063】
【表10】
【0064】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図14に示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1の生成物のDSCサーモグラムである。
【図2】実施例1生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図3】実施例1の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例2の生成物のDSCサーモグラムである。
【図5】実施例2生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図6】実施例2の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図7】実施例3の生成物のDSCサーモグラムである。
【図8】実施例3生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図9】実施例3の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図10】実施例4の生成物のDSCサーモグラムである。
【図11】実施例4生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図12】実施例4の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図13】実施例5の生成物のDSCサーモグラムである。
【図14】実施例5の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な非共有結合高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数ナノ〜数十ナノオーダの規則構造あるいは原子配列を制御することが検討されている。この制御を現在の加工技術によって行うことは可能であるが、その制御は限定的である。また、加工に非常な長時間を要するか高コスト加工法が必要である。このため、金属錯体あるいは有機化合物を自己組織化した高分子が提案されている。そして、自己組織化した高分子が種々の機能性材料、例えば電子デバイス素子、エレクトロルミネッセンスあるいは触媒能、分光学的、磁気的又は電気化学的複合膜などの機能性材料として注目されている。
【0003】
例えば、金属錯体、トリフェニレン、トリフェニルアミン、トリフェニレンの誘導体及びトリフェニルアミンの誘導体から自己組織化によって得られる超分岐高分子は導電性を有し、この超高分子を用いて電子デバイス素子が提案されている(特許文献1参照)。また、両端に親水性基を有する双頭性脂質の中に金属錯体が埋め込まれた錯体化合物構造の磁性機能、エレクトロルミネッセンス機能、導電性機能、触媒能などの金属的特性を備えたナノワイヤーが提案された(特許文献2参照)。そして、配位子骨格に多重水素結合を導入して、その自己組織化能を利用して中心金属として様々な金属イオンを取り込んで形成される有機―無機複合膜組織が中心金属の種類によって色が変わる遷移金属錯体ナノ薄膜が提案された(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−75962号公報
【特許文献2】特開2005−255543号公報
【特許文献3】特開2006−124349号公報
【0005】
上記の特許文献1及び特許文献3に具体的に記載されている超分岐高分子及びナノ薄膜はいずれも出発原料が複雑な構造の多環芳香族化合物である。また、上記特許文献2に具体的に記載されているナノワイヤーは機能的に限定され、例えばイオン伝導性については期待できず、出発原料の構造が複雑であり合成工程に複数工程を要するものである。従って、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要とせずイオン構造を有する出発原料からの分子間相互作用に基く自己組織化を利用して形成されてなる新規な非共有結合高分子は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない、新規な非共有結合高分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明によれば、下式
【化1】
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、化学構造がシンプルでかつ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子を提供することができる。また本発明の非共有結合高分子は、そのプロトン伝導性及び液晶性を利用して分子デバイスに利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の非共有結合高分子は下式
【化2】
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる。
【0010】
上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基、すなわちメチル、エチルもしくはプロピルである。またR2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基、すなわちデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、セチル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、セリル等であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である。
【0011】
本発明の非共有結合高分子は、溶媒中で下式
【化3】
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
の脂肪族アミンと塩酸とを接触させて反応させた後、生成物を分離することによって得ることができる。
【0012】
前記の溶媒としては特に制限はなく、例えば水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、クロロホルムあるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0013】
前記の脂肪族アミンと塩酸とは、溶媒に均一に分散させて反応させることが好ましく、特にいずれかの成分を溶解させて反応させることが好ましい。
【0014】
また、前記の反応は20〜100℃、1分〜24時間の範囲内で適宜選択することができる。
【0015】
また、前記の分離は、抽出、濾過、洗浄、再結晶などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0016】
前記の脂肪族アミン塩酸塩の好ましい具体例としては、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアアミン塩酸塩、N−メチル−n−オクタデシルアミン塩酸塩、n−オクタデシルアミン塩酸塩、N,N−ジ−n−オクタデシルメチルアミン塩酸塩、n−ジオクタデシルアミン塩酸塩等を挙げることができる。
【0017】
本発明の非共有結合高分子は、前記の脂肪族アミンと塩酸とから得られる脂肪族アミン塩酸塩が自己組織化によって高分子化された高分子化合物である。この場合、塩酸アニオンを中心にして、その上に脂肪族アミンカチオンが螺旋状に重なって、高分子を形成すると考えられる。
【0018】
従って、本発明の非共有結合高分子は、概念的には塩酸のアニオンが螺旋状の中心軸を形成して重層の柱となり、その周りを脂肪族アミンカチオンが螺旋状に重層をなして形成される高分子化合物であると考えられる。
【0019】
本発明の非共有結合高分子は、無水状態でプロトン伝導性を有し、その性質を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
【0020】
また、本発明の非共有結合高分子は、融点から分解温度までの範囲内の温度において液晶状態を発現するので、その液晶性を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
【実施例】
【0021】
実施例1
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン1.00g(3.4mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.5mLを加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0022】
【化4】
【0023】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図1及び表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1中、TKCol、TColLC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKCol、ΔHColLC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSKCol、ΔSColLC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)からカラムナーヘキサゴナル(Col)への相転移を示し、bはカラムナーヘキサゴナル(Col)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0026】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図2に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0027】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表2に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0028】
【表2】
【0029】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図3に示す。
【0030】
実施例2
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、N−メチル−n−オクタデシルアミン1.00g(3.5mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.0mL(11mmol)を加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0031】
【化5】
【0032】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図4及び表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3中、TKCol、TColLC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKCol、ΔHColLC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSKCol、ΔSColLC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)からカラムナーヘキサゴナル(Col)への相転移を示し、bはカラムナーヘキサゴナル(Col)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0035】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図5に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0036】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表4に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0037】
【表4】
【0038】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図6に示す。
【0039】
実施例3
下式で表されるn−オクタデシルアミン塩酸塩(Tokyo Kasei)をエタノールで再結晶させた。
【0040】
【化6】
【0041】
得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図7及び表5に示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表1中、TKCol、TColcol、TColLC3及びTLC3Iは相転移温度を、ΔHKCol、ΔHColcol、ΔHColLC3及びΔHLC3Iはエンタルピー変化を、ΔSKCol、ΔSColcol、ΔSColLC3及びΔSLC3Iははエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)からカラムナーテトラゴナル(Colt)への相転移を示し、bはカラムナーテトラゴナル(Colt)からカラムナーレクタンギュラー(Colr)への相転移を示し、cはカラムナーレクタンギュラー(Colr)から液晶(LC3)への相転移を示し、dは液晶(LC3)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0044】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図8に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0045】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表6に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0046】
【表6】
【0047】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図9に示す。
【0048】
実施例4
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、N,N−ジ−n−オクタデシルメチルアミン1.00g(1.8mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.0mL(11mmol)を加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0049】
【化7】
【0050】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図10及び表7に示す。
【0051】
【表7】
【0052】
表7中、TKLC1、TLC1LC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKLC1、ΔHLC1LC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSLC1、ΔSLC1LC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)から液晶(LC1)への相転移を示し、bは液晶(LC1)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0053】
得られた生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。この結果を図11に示す。固相から液晶相への転移により結晶構造が変化していることがわかる。
【0054】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表8に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0055】
【表8】
【0056】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図12に示す。
【0057】
実施例5
エタノール200mLを45℃で攪拌しながら、ジオクタデシルアミン1.00g(1.9mmol)を加熱溶解させ、そこに濃塩酸1.0mL(11mmol)を加え、24時間反応させた。エバポレータで溶媒を留去した後、エタノールで再結晶させた。この結晶を回収し、減圧下で乾燥させ、下式で表される化合物の高分子を得た。
【0058】
【化8】
【0059】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。この結果を図13及び表9に示す。
【0060】
【表9】
【0061】
表9中、TKLC1、TLC1LC2及びTLC2Iは相転移温度を、ΔHKLC1、ΔHLC1LC2及びΔHLC2Iはエンタルピー変化を、ΔSLC1、ΔSLC1LC2及びΔSLC2Iはエントロピー変化を示し、TdecomはN2中、昇温度変化10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。またaは結晶(K)から液晶(LC1)への相転移を示し、bは液晶(LC1)から液晶(LC2)への相転移を示し、cは液晶(LC2)からイソトロピック(I)への相転移を示す。
【0062】
さらにこの生成物について、プロトン伝導度を測定した。結果を以下の表10に示す。特に高温で高いプロトン伝導性を示した。
【0063】
【表10】
【0064】
さらに、得られた生成物について、偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡にて観察し、観察結果を図14に示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1の生成物のDSCサーモグラムである。
【図2】実施例1生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図3】実施例1の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例2の生成物のDSCサーモグラムである。
【図5】実施例2生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図6】実施例2の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図7】実施例3の生成物のDSCサーモグラムである。
【図8】実施例3生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図9】実施例3の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図10】実施例4の生成物のDSCサーモグラムである。
【図11】実施例4生成物の温度可変粉末X線回折測定結果のグラフである。
【図12】実施例4の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【図13】実施例5の生成物のDSCサーモグラムである。
【図14】実施例5の生成物の偏光顕微鏡像及び走査型電子顕微鏡像である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式
【化1】
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。
【請求項1】
下式
【化1】
(上式中、R1は水素又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、R2及びR3は独立に、水素又は炭素数1〜3又は炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、但し、R2及びR3のうち少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である)
で示される脂肪族アミン塩酸塩から自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図13】
【図3】
【図6】
【図9】
【図12】
【図14】
【図2】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図13】
【図3】
【図6】
【図9】
【図12】
【図14】
【公開番号】特開2010−53106(P2010−53106A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222374(P2008−222374)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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