説明

非共鳴2光子吸収材料、非共鳴2光子吸収記録材料、記録媒体、記録再生方法及び非共鳴2光子吸収化合物

【課題】700nmよりも短波長の領域の光による非共鳴2光子吸収を、高感度で行うことが可能で、かつ十分な記録再生特性を有する2光子吸収材料、2光子吸収記録材料、記録媒体およびそれに使用可能な2光子吸収化合物を提供する。
【解決手段】例えば、下記式(6)で表される化合物を含む非共鳴2光子吸収記録材料からなる記録層を有し、かつ入射光に対して奥側から、基板、ガイド層、反射層、スペーサー層、中間層に挟まれた記録層の積層構造、及び入射光表面側にカバー層、ハードコート層を有する光情報記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非共鳴2光子吸収材料、非共鳴2光子吸収記録材料、記録媒体、記録再生方法及び非共鳴2光子吸収化合物に関し、詳細には、非共鳴2光子吸収を用いて記録媒体内部に3次元に記録ピットを記録し、記録されたそれらの記録ピットを読み出し可能で、700nmよりも短波長領域の記録光を用いた非共鳴2光子吸収記録を可能にする材料および2光子吸収化合物を提供するとともに、高い溶解性を有する2光子吸収化合物を用いることで高感度の非共鳴2光子吸収材料を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に、非線形光学効果とは、印加する光電場の2乗、3乗あるいはそれ以上に比例する非線型な光学応答のことであり、印加する光電場の2乗に比例する2次の非線形光学効果としては、第二高調波発生(SHG)、光整流、フォトリフラクティブ効果、ポッケルス効果、パラメトリック増幅、パラメトリック発振、光和周波混合、光差周波混合などが知られている。また印加する光電場の3乗に比例する3次の非線形光学効果としては第三高調波発生(THG)、光カー効果、自己誘起屈折率変化、2光子吸収などが挙げられる。
【0003】
これらの非線形光学効果を示す非線形光学材料としては、これまでに多数の無機材料が見出されてきた。ところが無機物においては、所望の非線形光学特性や、素子製造のために必要な諸物性を最適化するためのいわゆる分子設計が困難であることから実用するのは非常に困難であった。一方、有機化合物は分子設計により所望の非線形光学特性の最適化が可能であるのみならず、その他の諸物性のコントロールも可能であるため、実用の可能性が高く、有望な非線形光学材料として注目を集めている。
【0004】
近年、有機化合物の非線形光学特性の中でも3次の非線形光学効果が注目されており、その中でも特に、非共鳴2光子吸収が注目を集めている。2光子吸収とは、化合物が2つの光子を同時に吸収して励起される現象であり、化合物の(線形)吸収帯が存在しないエネルギー領域で2光子の吸収が起こる場合を非共鳴2光子吸収という。なお、以下の記述において特に明記しなくても「2光子吸収」とは「非共鳴2光子吸収」を指す。また、「同時2光子吸収」の「同時」を略して単に「2光子吸収」と記すこともある。
【0005】
ところで、非共鳴2光子吸収の効率は印加する光電場の2乗に比例する(2光子吸収の2乗特性)。このため、2次元平面にレーザーを照射した場合においては、レーザースポットの中心部の電界強度の高い位置のみで2光子の吸収が起こり、周辺部の電界強度の弱い部分では2光子の吸収は全く起こらない。一方、3次元空間においては、レーザー光をレンズで集光した焦点の電界強度の大きな領域でのみ2光子吸収が起こり、焦点から外れた領域では電界強度が弱いために2光子吸収が全く起こらない。印加された光電場の強度に比例してすべての位置で励起が起こる線形吸収に比べて、非共鳴2光子吸収では、この2乗特性に由来して空間内部の1点のみで励起が起こるため、空間分解能が著しく向上する。
通常、非共鳴2光子吸収を誘起する場合には、化合物の(線形)吸収帯が存在する波長領域よりも長波でかつ吸収の存在しない、近赤外領域の短パルスレーザーを用いることが多い。いわゆる透明領域の近赤外光を用いるため、励起光が吸収や散乱を受けずに試料内部まで到達でき、非共鳴2光子吸収の2乗特性のために試料内部の1点を極めて高い空間分解能で励起できる。
【0006】
本出願人は、これまで、非共鳴2光子吸収を誘起する化合物を用いる2光子増感型3次元記録材料に関する種々の出願を行ってきた。この記録材料は、少なくとも(1)2光子吸収化合物(2光子増感剤)、(2)屈折率変調材料または蛍光強度変調材料、とを含み、(1)が効率よく2光子吸収を行い、獲得した光エネルギーを光誘起電子移動やエネルギー移動によって(2)へと受け渡して(2)の屈折率または蛍光強度を変化させることにより記録を行う記録材料である。光吸収過程に通常の光記録で用いる1光子吸収ではなく、非共鳴2光子吸収を用いることで、記録材料内部の任意の位置に3次元空間分解能を有して記録ピットを書き込むことができるようになる。
例えば、特許文献1には、(2)屈折率または蛍光強度変調材料として、色素を発色させることで屈折率を変調するものと、無蛍光から蛍光発光または蛍光発光から無蛍光にさせることで蛍光変調するもの(色素発色または蛍光色素発色により屈折率または蛍光変調する材料)を用いた技術が開示されている。また、特許文献2には、(2)屈折率または蛍光強度変調材料として、極微小に色素発色または蛍光変化した種(潜像核)を形成し、その後に光照射または加熱することにより記録増幅するもの(屈折率/蛍光変調;潜像増幅方式、色素発色により屈折率/蛍光変調する潜像を形成する材料)を用いた技術が開示されている。また、特許文献3等には、(2)屈折率変調材料として、重合によって高分子のポリマーを作って屈折率を変調するもの(重合により屈折率変調する材料)を用いた技術が開示されている。更に、特許文献4には、屈折率変調材料として、極微小の重合潜像核を形成した後に、重合の駆動を行うもの(屈折率変調;潜像重合方式、重合により屈折率変調する潜像を形成する材料)を用いた技術が開示されている。
【0007】
上記の特許文献1〜4に記載の2光子増感型3次元記録材料は、いずれも(1)2光子吸収化合物(2光子増感剤)として、700nm以上の光で2光子吸収を行うものを用いていた。しかし、さらに近年、様々な要望があり、その中でも、より高い記録密度を得るべく、記録材料中により小さいピットを形成するために700nmよりも短波長の領域の記録光を用いて非共鳴2光子吸収記録できるものが求められている。
このような要望から、特許文献5には、700nmよりも短波長の領域の記録光を用いて非共鳴2光子吸収記録でき、かつ十分な記録再生特性を有する2光子吸収記録材料及びそれに使用可能な、該短波長の領域に高い2光子吸収能を有するポリフェニル化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−87532号公報
【特許文献2】特開2005−320502号公報
【特許文献3】特開2005−29725号公報
【特許文献4】特開2005−97538号公報
【特許文献5】特開2010−108588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献5に記載の2光子吸収記録材料は、2光子吸収化合物の溶媒溶解性が低いことから、2光子吸収記録材料中の該化合物濃度を高くすることが困難であり、結果として、十分に満足できる感度を有するものではなかった。
【0010】
本発明は、上記の従来の技術の不足点を克服し、700nmよりも短波長の領域の光による非共鳴2光子吸収を、高感度で行うことが可能で、かつ十分な記録再生特性を有する2光子吸収材料、2光子吸収記録材料、記録媒体およびそれに使用可能な2光子吸収化合物を提供し、さらに、高い溶解性を有する2光子吸収化合物を用いる高感度な2光子吸収材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らの鋭意検討の結果、下記構成により、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
1.下記一般式(1)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【0013】
【化1】

【0014】
(一般式(1)中、ArからArはそれぞれ独立に芳香族炭化水素環あるいは芳香族ヘテロ環を表し、それぞれ独立に同一でも異なってもよい。m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、tは0又は1の整数を表し、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表し、m,n,p,q,sがそれぞれ独立に2以上の整数の場合には複数のR、R、R、R、Rはそれぞれ独立に同一でも異なってもよく、X、Yはハメットのシグマパラ値がゼロ以上の値を有する置換基を表し、同一でも異なってもよい。)
【0015】
2.前記1に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、下記一般式(2)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【0016】
【化2】

【0017】
(一般式(2)中、lは1〜4の整数を表し、m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、tは0又は1の整数を表し、Rは酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表し、lが2以上の場合には複数のRは同一でも異なってもよく、R、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に置換基を表し、m,n,p,q,sがそれぞれ独立に2以上の整数の場合には複数のR、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に同一でも異なってもよく、Xはハメットのシグマパラ値がゼロ以上の値を有する置換基を表す。)
【0018】
3.前記2に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、下記一般式(3)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【0019】
【化3】

【0020】
(一般式(3)中、l、m、n、p、q、s、t、R、R、R、R、R10、R11、Xは、前記一般式(2)と同じである。)
【0021】
4.前記1から3のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、非共鳴2光子吸収化合物の前記一般式(1)から(3)のXで表される置換基が、トリフルオロメチル基、シアノ基、または下記一般式(4)で表される基であることを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【0022】
【化4】

【0023】
(一般式(4)中、R12は酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表し、uは0〜4の整数を表し、uが2以上の場合には複数のR12は同一でも異なってもよい。)
【0024】
5.前記2から4のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、一般式(1)から(3)のいずれかで表される非共鳴2光子吸収化合物が下記一般式(5)で表される非共鳴2光子吸収化合物であることを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【0025】
【化5】

【0026】
(一般式(5)中、l、m、n、p、q、R、R、R、R、R10は、前記一般式(2)及び(3)と同じであり、Xはトリフルオロメチル基、シアノ基、または上記一般式(4)で表される置換基を表す。)
【0027】
6.前記1から5のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収材料を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【0028】
7.前記6に記載の非共鳴2光子吸収記録材料であって、(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【0029】
8.前記6に記載の非共鳴2光子吸収記録材料であって、(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【0030】
9.前記8に記載の非共鳴2光子吸収記録材料であって、(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料として、2光子記録波長に線形吸収を持たない高分子化合物を用いることを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【0031】
10.前記6から9のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収記録材料を含有する記録層を有する光情報記録媒体。
【0032】
11.下記式(6)で表される化合物。
【0033】
【化6】

【0034】
12.下記式(7)で表される化合物。
【0035】
【化7】

【0036】
13.非共鳴2光子吸収化合物を含む非共鳴2光子吸収記録材料からなる記録層を有し、かつ入射光に対して奥側から、基板、ガイド層、反射層、スペーサー層、中間層に挟まれた記録層の積層構造、及び入射光表面側にカバー層、ハードコート層を有する光情報記録媒体。
14.前記13に記載の光情報記録媒体であって、該記録層厚みが50nmから2μmの範囲である光情報記録媒体。
15.前記13に記載の光情報記録媒体であって、該記録層と中間層の屈折率差が0.01から0.5の範囲である光情報記録媒体。
16.前記13に記載の光情報記録媒体であって、該中間層厚みが2μmから20μmの範囲である光情報記録媒体。
17.前記13に記載の光情報記録媒体であって、基板厚みが0.02mmから2mmの範囲である光情報記録媒体。
18.前記13に記載の光情報記録媒体であって、該カバー層厚みが0.01mmから0.2mmの範囲である光情報記録媒体。
19.前記13に記載の光情報記録媒体であって、該スペーサー層厚みが5μmから100μmの範囲である光情報記録媒体。
20.前記13に記載の光情報記録媒体であって、マーキングを行うことを特徴とする光情報記録媒体。
21.前記13に記載の光情報記録媒体であって、カートリッジに収納された光情報記録媒体。
【0037】
22.前記10に記載の光情報記録媒体であって、かつ前記13から21のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【0038】
23.前記22に記載の光情報記録媒体に、400〜450nmの範囲の波長のレーザー光を照射して3次元に情報を記録する非共鳴2光子吸収記録方法。
【0039】
24.前記22に記載の光情報記録媒体への記録再生方法であって、記録用レーザのピークパワーが該光情報記録媒体の表面上で1Wから100Wの範囲であり、記録用レーザの平均パワーが該光情報記録媒体の表面上で100mW以下、かつ記録用レーザのパルス幅と発振周期の積が0.001から0.1の範囲である記録再生方法。
【0040】
25.情報の再生時に共焦点光学系を用いることを特徴とする前記24に記載の光情報記録媒体への記録再生方法。
【0041】
本発明の2光子吸収材料が、700nmよりも短波長の光を高感度で吸収可能な作用機構としては、明確ではないが、該2光子吸収材料に用いる2光子吸収化合物(一般式(1)で表されるポリフェニル化合物)が、2光子吸収効率への影響の少ないベンゾイル基末端に酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を有する置換基を有することにより、2光子吸収効率を損なうことなく溶媒への溶解性が向上し、該2光子吸収材料中に該2光子吸収化合物を高濃度に含有させることができるためと、推測される。
【発明の効果】
【0042】
本発明の2光子吸収材料の構成によれば、700nmよりも短波長の領域の光を、高感度で吸収可能にすることができた。
また、本発明の2光子吸収化合物は、700nmよりも短波長の領域の光で非共鳴2光子吸収特性を示し、高い2光子吸収断面積を得ることができた。さらに、本発明の2光子吸収化合物は2光子吸収効率を損なうことなく高い溶解性を有し、該化合物を用いると2光子吸収材料に高濃度に含有可能であることから、該2光子吸収材料により高い2光子吸収感度を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の2光子吸収記録材料の記録再生に用いる記録再生装置の1例の概略を示す図である。
【図2】本発明の2光子吸収記録材料を用いた光情報記録媒体の1例の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の2光子吸収材料について詳しく説明する。
本発明の2光子吸収材料は、下記一般式(1)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする。
【0045】
【化8】

【0046】
(一般式(1)中、ArからArはそれぞれ独立に芳香族炭化水素環あるいは芳香族ヘテロ環を表し、それぞれ独立に同一でも異なってもよい。m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、tは0又は1の整数を表し、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表し、m,n,p,q,sがそれぞれ独立に2以上の整数の場合には複数のR、R、R、R、Rはそれぞれ独立に同一でも異なってもよく、X、Yはハメットのシグマパラ値がゼロ以上の値を有する置換基を表す。)
【0047】
<非共鳴2光子吸収化合物>
本発明の非共鳴2光子吸収材料において用いる、(a)非共鳴2光子吸収化合物について、以下に説明する。
本発明の非共鳴2光子吸収記録材料において用いる、(a)非共鳴2光子吸収化合物は、上記の一般式(1)で表される構造を有する化合物である。
【0048】
一般式(1)中、ArからArはそれぞれ独立に芳香族炭化水素環あるいは芳香族ヘテロ環を表すが、芳香族炭化水素環としては具体的にベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどが挙げられ、ベンゼン、ナフタレンがより好ましく、ベンゼンがさらに好ましい。芳香族へテロ環としてはピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、プテリジン、クマリン、クロモン、インドール、ベンズイミダゾール、ベンゾフラン、プリン、アクリジン、フェノキサジン、フェノチアジンなどが挙げられ、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、インドール、ベンズイミダゾールがより好ましく、ピロール、チオフェン、ピリジンがさらに好ましい。
【0049】
一般式(1)中、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表すが、該置換基としては、水素原子を除いて特に限定されず、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシ基、などが挙げられる。
一般式(1)中、m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表すが、m,q,sは0であり、n,pはいずれも0又は1であることが好ましい。n,pが1である場合には、上記R、Rは同一の置換基であることが好ましく、その置換位置は、R、Rが置換するビフェニル構造部分において、互いにm−(メタ)位であることが好ましい。
一般式(1)中、tは、0又は1の整数を表すが、0であることが好ましい。
【0050】
一般式(1)中、X及びYはハメット式におけるσp値がゼロ以上の値を取るもの、所謂電子求引性の基を指し、好ましくは例えばトリフルオロメチル基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、カルバモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基などが挙げられ、より好ましくはトリフルオロメチル基、シアノ基、アシル基、アシルオキシ基、臭素原子またはアルコキシカルボニル基であり、最も好ましくは、トリフルオロメチル基、シアノ基、下記一般式(4)で表される基である。
【0051】
【化9】

【0052】
(一般式(4)中、R12は酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表し、uは0〜4の整数を表し、uが2以上の場合には複数のR12は同一でも異なってもよい。)
【0053】
一般式(4)中、R12は、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表すが、その好ましい事項、具体的なものとしては、後述の一般式(2)中のRと同様である。
一般式(4)中、uは、0〜4の整数を表すが、その好ましい事項としては、後述の一般式(2)中のlと同様である。
【0054】
また、上記一般式(1)で表される化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0055】
【化10】

【0056】
(一般式(2)中、lは1〜4の整数を表し、m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、tは0又は1の整数を表し、Rは酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表し、lが2以上の場合には複数のRは同一でも異なってもよく、R、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に置換基を表し、m,n,p,q,sがそれぞれ独立に2以上の整数の場合には複数のR、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に同一でも異なってもよく、Xはハメットのシグマパラ値がゼロ以上の値を有する置換基を表す。)
【0057】
一般式(2)中、Rは、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表すが、酸素原子と炭素原子とからなる置換基が好ましく、さらに、酸素原子を介してベンゼン環に結合する基であることが好ましい。酸素原子を介してベンゼン環に結合する基としては、具体的には、直鎖又は分岐したアルキルオキシ基、オキシアルキレン基が複数繰り返して結合する基(以下、ポリオキシアルキレン基とも称する)を含む基等が挙げられ、該ポリオキシアルキレン基を含む基としてはその末端にアシル基を有することが好ましい。上記のオキシアルキレン基としては、特に限定されないが、エチレンオキシ基が好ましい。上記の末端にアシル基を有するポリオキシアルキレン基を含む基における該アシル基としては、特に限定されないが、アセチル基が好ましい。
一般式(2)中、lは1〜4の整数を表すが、1〜3の整数が好ましい。lが2以上の場合には複数のRは同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。
【0058】
一般式(2)中、R、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に置換基を表すが、それぞれ一般式(1)のR、R、R、R、RあるいはR6で挙げたものと同様のものが挙げられる。
一般式(2)中、m,n,p,q,s,t、Xは一般式(1)と同様である。
【0059】
以下に、上記一般式(1)あるいは(2)で表される化合物において、XあるいはYが、ハメット式におけるσp値が正の値を取る、所謂電子求引性の基であることが望ましい理由については、特開2010−108588号公報の段落0034〜0038に記載されている。
即ち、T.Kogej, et al., Chem.Phys.Lett.,298,1(1998))によれば、有機化合物の2光子吸収効率、すなわち2光子吸収断面積δは、3次分子分極率(2次超分極率)γの虚数部と以下の関係にある。
【0060】
【数1】

【0061】
ここでc;光速、ν;周波数、n;屈折率、ε0;真空中の誘電率、ω;光子の振動数、Im;虚数部を表す。γの虚数部(Imγ)は、|g>と|e>間の双極子モーメント;Mge、|g>と|e’>間の双極子モーメント;Mge’、|g>と|e>間の双極子モーメントの差;Δμge、遷移エネルギー;Ege、ダンピングファクター;Γと以下の関係にある。
【0062】
【数2】

【0063】
ここでPは可換演算子を表す。
従って、数式(2)の値を計算すれば、化合物の2光子吸収断面積を予測することが可能である。そこで、基底状態の最安定構造を6-31G*を基底関数としてB3LYP汎関数を用いたDFT法により計算し、その結果を基にMge、Mee’およびEgeを計算してImγの値を算出することができる。例えば、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物において、Xに電子供与性置換基であるメトキシ基が置換したクアテルフェニル化合物の計算から得れたImγの極大値を1とした場合、その他の置換基として、ハメット式におけるσp値が正の値を取る、所謂電子求引性の基を有する分子のImγ極大値の相対値が大きいものとなる。
上記一般式(1)あるいは(2)で表される構造を有する化合物において、XあるいはYに電子供与性基のメトキシ基が置換するクアテルフェニル化合物では、Imγは小さく、XあるいはYが共に電子求引性置換基で置換された分子では総じてImγが大きく増大する。先にも述べたが、理論的に2光子吸収断面積δは3次超分極率γの虚数部、すなわちImγに比例するため、これらの計算よりXあるいはYは共に電子求引性置換基が置換した構造が望ましい。
【0064】
また、上記一般式(2)で表される化合物としては、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0065】
【化11】

【0066】
(一般式(3)中、l、m、n、p、q、s、t、R、R、R、R、R10、R11、Xは、前記一般式(2)と同じである。)
【0067】
また、上記一般式(2)または一般式(3)で表される化合物としては、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0068】
【化12】

【0069】
(一般式(5)中、l、m、n、p、q、R、R、R、R、R10は、前記一般式(2)及び(3)と同じであり、Xはトリフルオロメチル基、シアノ基、または上記一般式(4)で表される置換基を表す。)
【0070】
一般式(2)、一般式(3)または一般式(5)で表される化合物の具体例としては、特に限定されないが、下記のものが挙げられる。
【0071】
【化13】

【0072】
【化14】

【0073】
【化15】

【0074】
【化16】

【0075】
【化17】

【0076】
【化18】

【0077】
上記の化合物の中でも、D−6及び29は新規の化合物である。
【0078】
本発明の非共鳴2光子吸収材料を非共鳴2光子吸収記録材料とすることができる。具体的には、本発明の非共鳴2光子吸収材料を含む非共鳴2光子吸収記録材料とすることができる。
本発明の非共鳴2光子吸収記録材料としては、上記の本発明の非共鳴2光子吸収材料を含むものであれば、特に限定されないが、例えば、〔A〕(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料を含むものと、〔B〕(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料を含むもの、との2種の形態が挙げられる。以下、この2種の形態について順次説明する。
【0079】
〔A〕「(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料を含む2光子吸収記録材料」(以下、2光子吸収記録材料〔A〕又は記録材料〔A〕とも記す。)
以下、2光子吸収記録材料〔A〕、及び、該記録材料〔A〕を用いる2光子吸収記録媒体等について説明する。
【0080】
<(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料>
本発明の非共鳴2光子吸収記録材料〔A〕において用いる、(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料としては、例えば、
(I)蛍光色素発色により蛍光変調する材料
(II)色素発色により蛍光変調する潜像を形成する材料
(III)重合により蛍光変調する潜像を形成する材料
が挙げられる。以下、それぞれについて説明する。
【0081】
〔蛍光色素発色により蛍光変調する材料〕
蛍光色素発色により蛍光変調する材料としては、例えば、
(A)酸により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体
(B)塩基により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体
(C)酸化により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体
(D)還元により可視域に吸収が出現する色素前駆体
のうち、少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
以下、それぞれについて説明する。
【0082】
(A)酸により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体
当該色素前駆体は、酸発生剤により発生した酸により、元の状態から吸収が変化した発色体となることができる色素前駆体である。該酸発色前駆体としては、酸により吸収が長波長化する化合物が好ましく、酸により無色から発色する化合物がより好ましい。
【0083】
酸発色型色素前駆体として好ましくは、トリフェニルメタン系、フタリド系(インドリルフタリド系、アザフタリド系、トリフェニルメタンフタリド系を含む)、フェノチアジン系、フェノキサジン系、フルオラン系、チオフルオラン系、キサンテン系、ジフェニルメタン系、クロメノピラゾール系、ロイコオーラミン、メチン系、アゾメチン系、ローダミンラクタム系、キナゾリン系、ジアザキサンテン系、フルオレン系、スピロピラン系の化合物が挙げられる。これらの化合物の具体例は、例えば特開2002−156454号及びその引用特許文献、特開2000−281920号、特開平11−279328号、特開平8−240908号等に開示されている。
【0084】
酸発色型色素前駆体としてより好ましくは、ラクトン、ラクタム、オキサジン、スピロピラン等の部分構造を有するロイコ色素であり、フルオラン系、チオフルオラン系、フタリド系、ローダミンラクタム系、スピロピラン系の化合物が挙げられ、キサンテン(フルオラン)色素またはトリフェニルメタン色素であることがさらに好ましい。なお、これらの酸発色型色素前駆体は、必要に応じて任意の比率で2種以上の混合物として用いてもよい。
【0085】
前記酸発色型色素前駆体の好ましい具体例としては、特開2007−87532号公報に開示されている一般式(21)〜(23)、同段落0122で示される化合物(フタリド系色素前駆体(インドリルフタリド系色素前駆体、アザフタリド系色素前駆体を含む))、同一般式(24)、同段落0126(トリフェニルメタンフタリド系色素前駆体)、同一般式(25)、同段落0130(フルオラン系色素前駆体)、同段落0131(ローダミンラクタム系色素前駆体)、同段落0132(スピロピラン系色素前駆体)で開示されている化合物を用いることができる。
【0086】
また、該酸発色型色素前駆体としては、特開2008−284475号公報に開示されている一般式(6)で示されるBLD化合物や特開2000−144004号公報に開示されているロイコ色素、特開2007−87532号公報に開示されている〔化38〕で示される構造のロイコ色素も好適に用いることができる。
さらに該色素前駆体は、酸(プロトン)付加により発色する特開2007−87532号公報に開示されている一般式(26)、同〔化40〕で示される化合物を用いることができる。
本発明で用いられる酸発色型色素前駆体の好ましい具体例としては、上記特開2007−87532号公報に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(B)塩基により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体
当該色素前駆体は、塩基発生剤により発生した塩基により、元の状態から吸収が変化した発色体となることができる色素前駆体である。
本発明の塩基発色型色素前駆体としては、塩基により吸収が長波長化する化合物が好ましく、塩基によりモル吸光係数が大きく増加する化合物がより好ましい。
【0088】
本発明における塩基発色型色素前駆体は好ましくは解離型色素の非解離体である。なお、解離型色素とは、色素クロモフォア上にpKa12以下、より好ましくはpKa10以下の解離してプロトンを放出しやすい解離基を有しており、非解離型から解離型になることにより、吸収が長波長化、あるいは無色から有色となる化合物のことである。解離基として好ましくは、OH基、SH基、COOH基、PO基、SOH基、NR9192+基、NHSO93基、CHR9495基、NHR96基が挙げられる。
ここで、R91、R92、R96はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基(好ましくはC数1〜20、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル、ベンジル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、カルボキシメチル、5−カルボキシペンチル)、アルケニル基(好ましくはC数2〜20、例えば、ビニル、アリル、2−ブテニル、1,3−ブタジエニル)、シクロアルキル基(好ましくはC数3〜20、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル)、アリール基(好ましくはC数6〜20、例えば、フェニル、2−クロロフェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニル、1−ナフチル)、ヘテロ環基(好ましくはC数1〜20、例えば、ピリジル、チエニル、フリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ)、好ましくは水素原子またはアルキル基を表す。R93はアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはヘテロ環基を表し(置換基として好ましくはR91、R92、R96にて挙げた置換基の例と同じ)、好ましくは置換しても良いアルキル基または置換しても良いアリール基を表し、置換しても良いアルキル基であることがより好ましく、その際、置換基としては電子求引性であることが好ましく、フッ素であることが好ましい。
【0089】
94、R95は、それぞれ独立に置換基を表す(置換基として好ましくはR91、R92、R96にて挙げた置換基の例と同じ)が、電子求引性の置換基が好ましく、シアノ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アシル基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基であることが好ましい。
本発明の解離型色素の解離基としては、OH基、SH基、COOH基、PO基、SOH基、NR9192+基、NHSO93基、CHR9495基がより好ましく、OH基、CHR9495基がさらに好ましく、OH基が最も好ましい。
【0090】
本発明における塩基発色型色素前駆体として好ましい解離型色素非解離体としては、解離型アゾ色素、解離型アゾメチン色素、解離型オキソノール色素、解離型アリーリデン色素、解離型キサンテン(フルオラン)色素、解離型トリフェニルアミン型色素の非解離体であり、解離型アゾ色素、解離型アゾメチン色素、解離型オキソノール色素、解離型アリーリデン色素の非解離体であることがさらに好ましい。
塩基発色型色素前駆体の好ましい具体例としては、特開2007−87532号公報中、段落0144〜0146に開示されている化合物が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0091】
(C)酸化により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体
当該色素前駆体は、酸化反応により吸光度が増大する化合物であれば特に限定はないが、ロイコキノン化合物類、チアジンロイコ化合物類、オキサジンロイコ化合物類、フェナジンロイコ化合物類及びロイコトリアリールメタン化合物類のいずれかの化合物を少なくとも1種類以上含むことが好ましい。
ロイコキノン化合物としては、特開2007−87532号公報に開示されている一般式(6)〜(10)、同段落0149、0150に示される部分構造を有する化合物を用いることができる。
チアジンロイコ化合物類、オキサジンロイコ化合物類、フェノキサジンロイコ化合物類としては、特開2007−87532号公報に開示されている一般式(11)、(12)、同段落0156〜0160に示される化合物を用いることができる。
ロイコトリアリールメタン化合物類としては、特開2007−87532号公報に開示されている一般式(13)、同段落0166、0167に表される部分構造を有する化合物が好ましい。
【0092】
本発明で用いられる、酸化により可視域に吸収帯が出現する色素前駆体の好ましい具体例としては、特開2007−87532号公報の段落0152(ロイコキノン化合物)、同公報の段落0162〜0164(チアジンロイコ化合物類、オキサジンロイコ化合物類、フェナジンロイコ化合物類)、同公報の段落0169〜0170(ロイコトリアリールメタン化合物類)に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
(D)還元により可視域に吸収が出現する色素前駆体
当該色素前駆体としては、特開2007−87532号公報に開示されている一般式(A)で示される化合物を用いることができ、具体的には同公報段落0172〜0195に記載の化合物を用いることができる。
なお、本発明の「2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料」(以下、記録成分とも称する)が前記色素前駆体を含むとき、本発明の2光子吸収光記録材料〔A〕は、生成する解離型色素を解離させる目的で、必要によりさらに塩基を含むことも好ましい。塩基は有機塩基でも無機塩基でもよく、好ましくは例えば、アルキルアミン類、アニリン類、イミダゾール類、ピリジン類、炭酸塩類、水酸化物塩類、カルボン酸塩類、金属アルコキシドなどが挙げられる。あるいは、それらの塩基を含むポリマーも好ましく用いられ得る。
なお、上記の本発明に用いる色素前駆体は市販品であるか、あるいは公知の方法により合成することができる。
【0094】
2光子記録過程において、2光子吸収記録によって記録が行われた部位における色素前駆体の発色によるスペクトル変化は、2光子吸収色素の線形吸収スペクトルの極大波長よりも長波長領域で発現することが好ましい。あるいは、前記吸収スペクトル変化が読み出し波長よりも短波長領域において発現し、かつ読み出し波長での吸収スペクトル変化が存在しないことが好ましい。
2光子記録過程において、2光子吸収記録によって記録が行われた部位における色素の消色によるスペクトル変化は、読み出し波長または読み出し波長よりも短波長の波長領域で発現し、読み出し波長での色素吸収が存在しないことが好ましい。
【0095】
本発明の記録材料〔A〕には、上記成分以外のその他の成分として、2光子吸収化合物または/及び記録成分を構成する化合物へ電子を供与することのできる電子供与性化合物、酸発生剤、塩基発生剤を必要に応じて含むことができる。電子供与性化合物としては特開2007−87532号公報の段落0199〜0217に記載された化合物を、酸発生剤としては同段落0218〜0245に記載された化合物を、塩基発生剤としては同段落0246〜0267に記載された化合物を用いることができる。
以上、色素発色または蛍光色素発色により蛍光変調する材料については、特開2007−87532号公報により詳細に記載されている。
【0096】
〔色素発色により蛍光変調する潜像を形成する材料〕
色素発色により蛍光変調する潜像を形成する材料としては、酸化反応により発色する色素前駆体を含むものが挙げられる。
酸化反応により発色する色素前駆体は、酸化反応により吸光度が増大する化合物であれば特に限定はないが、ロイコキノン化合物類、チアジンロイコ化合物類、オキサジンロイコ化合物類、フェナジンロイコ化合物類及びロイコトリアリールメタン化合物類のいずれかの化合物を少なくとも1種類以上含むことが好ましい。
前記ロイコキノン化合物類、チアジンロイコ化合物類、オキサジンロイコ化合物類、フェナジンロイコ化合物類、ロイコトリアリールメタン化合物類の好ましい例としては、上記の化合物が挙げられ、それらを用いることができる。
以上、色素発色により蛍光変調する潜像を形成する材料については、特開2005−320502号公報により詳細に記載されている。
【0097】
〔重合により蛍光変調する潜像を形成する材料〕
重合により蛍光変調する潜像を形成する材料としては、
1)前記2光子吸収化合物の励起状態から、電子移動またはエネルギー移動することにより、元の状態から吸収が長波長化しかつ2光子吸収化合物の線形吸収のモル吸光係数が5000以下の波長域に吸収を有する発色体となることができる色素前駆体(以下単に色素前駆体とも称す)、
2)前記2光子吸収化合物の励起状態から電子移動またはエネルギー移動することにより、重合性化合物の重合を開始することができる重合開始剤(以下単に重合開始剤とも称す)、
3)重合性化合物、及び
4)バインダー
からなる。
【0098】
(色素前駆体)
本項目における色素前駆体は、2光子吸収化合物または発色体励起状態から直接電子移動またはエネルギー移動することにより、あるいは2光子吸収化合物または発色体励起状態から酸発生剤または塩基発生剤に電子移動またはエネルギー移動することにより発生した酸または塩基により、元の状態から吸収が長波長化した発色体となることができる色素前駆体であることが好ましい。
本項目における色素前駆体を用いた2光子吸収光記録材料〔A〕は、再生時には、発色体が再生光波長に吸収を有さないか、ほとんど吸収を有さないことが好ましい。
したがって、該色素前駆体は、再生光波長に吸収を有さずに、それよりも短波長側に吸収を有する発色体となることが好ましい。
または一方で、再生光波長に吸収を有する場合でも、潜像を励起することにより重合を起こす工程またはその後の定着の際に発色体が分解してその吸収及び増感機能を失うことも好ましい。
【0099】
本項目における色素前駆体として好ましくは、以下の組み合わせが挙げられる。
A)少なくとも色素前駆体としての酸発色型色素前駆体と、さらに酸発生剤を含む組み合わせ、必要によりさらに酸増殖剤を含む組み合わせ。
B)少なくとも色素前駆体としての塩基発色型色素前駆体と、さらに塩基発生剤を含む組み合わせ、必要によりさらに塩基増殖剤を含む組み合わせ。
C)2光子吸収化合物または発色体励起状態との電子移動またはエネルギー移動により共有結合を切断する機能を有する有機化合物部位と、共有結合している際と放出された際に発色体となる特徴を有する有機化合物部位が共有結合している化合物を含む場合。あるいはさらに塩基を含む組み合わせ。
D)2光子吸収化合物または発色体励起状態との電子移動により反応し、吸収形を変化させることができる化合物を含む場合。
【0100】
いずれの場合も2光子吸収化合物または発色体励起状態からのエネルギー移動機構による場合は、2光子吸収化合物または発色体の1重項励起状態からエネルギー移動が起こるフェルスター型機構でも、3重項励起状態からエネルギー移動が起こるデクスター型機構でもどちらでも良い。
その際、エネルギー移動が効率良く起こるためには、2光子吸収化合物または発色体の励起エネルギーが、色素前駆体の励起エネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0101】
一方、2光子吸収化合物または発色体励起状態からの電子移動機構の場合は、2光子吸収化合物または発色体の1重項励起状態から電子移動が起こる機構でも、3重項励起状態から電子移動が起こる機構でもどちらでも良い。
また、2光子吸収化合物または発色体励起状態が色素前駆体、酸発生剤または塩基発生剤に電子を与えても、電子を受け取っても良い。2光子吸収化合物または発色体励起状態から電子を与える場合、電子移動が効率良く起こるためには、2光子吸収化合物または発色体の励起状態における励起電子の存在する軌道(LUMO)エネルギーが、色素前駆体、酸発生剤または塩基発生剤のLUMO軌道のエネルギーよりも高いことが好ましい。
2光子吸収化合物または発色体励起状態が電子を受け取る場合、電子移動が効率良く起こるためには、2光子吸収化合物または発色剤の励起状態におけるホールの存在する軌道(HOMO)エネルギーが、色素前駆体、酸発生剤または塩基発生剤のHOMO軌道のエネルギーよりも低いことが好ましい。
【0102】
以下に色素前駆体の好ましい組み合わせについて詳しく説明していく。
まず、色素前駆体が酸発色型色素前駆体であり、さらに酸発生剤を含む場合について説明する。
その際、酸発生剤とは、2光子吸収化合物または発色体励起状態からのエネルギー移動または電子移動により酸を発生することができる化合物である。酸発生剤は暗所では安定であることが好ましい。本項目における酸発生剤は2光子吸収化合物または発色剤励起状態からの電子移動により酸を発生することができる化合物であることが好ましい。
本項目の色素前駆体における酸発生剤として好ましくは以下の6個の系が挙げられ、好ましい例は後述のカチオン重合開始剤と同じである。
【0103】
すなわち、1)トリハロメチル置換トリアジン系酸発生剤、2)ジアゾニウム塩系酸発生剤、3)ジアリールヨードニウム塩系酸発生剤、4)スルホニウム塩系酸発生剤、5)金属アレーン錯体系酸発生剤、6)スルホン酸エステル系酸発生剤が好ましく、より好ましくは、3)ジアリールヨードニウム塩系酸発生剤、4)スルホニウム塩系酸発生剤、6)スルホン酸エステル系酸発生剤、が挙げられる。
なお、カチオン重合と酸発色型色素前駆体を同時に用いる時は、カチオン重合開始剤と酸発生剤は同じ化合物がその機能を果たすことが好ましい。なお、これらの酸発生剤は、必要に応じて任意の比率で2種以上の混合物として用いてもよい。
【0104】
次に、本項目の色素前駆体が酸発色型色素前駆体であり、さらに酸発生剤を含む場合における酸発色型色素前駆体について説明する。
本項目における酸発色型色素前駆体は、酸発生剤により発生した酸により、元の状態から吸収が変化した発色体となることができる色素前駆体である。本項目の酸発色型色素前駆体としては、酸により吸収が長波長化する化合物が好ましく、酸により無色から発色する化合物がより好ましい。
【0105】
酸発色型色素前駆体として好ましくは、トリフェニルメタン系、フタリド系(インドリルフタリド系、アザフタリド系、トリフェニルメタンフタリド系を含む)、フェノチアジン系、フェノキサジン系、フルオラン系、チオフルオラン系、キサンテン系、ジフェニルメタン系、クロメノピラゾール系、ロイコオーラミン、メチン系、アゾメチン系、ローダミンラクタム系、キナゾリン系、ジアザキサンテン系、フルオレン系、スピロピラン系の化合物が挙げられ、より好ましくはラクトン、ラクタム、オキサジン、スピロピラン等の部分構造を有するロイコ色素であり、フルオラン系、チオフルオラン系、フタリド系、ローダミンラクタム系、スピロピラン系の化合物が挙げられる。これらの化合物の具体例は、例えば特開2002−156454及びその引用特許、特開2000−281920、特開平11−279328、特開平8−240908等に開示されている。
【0106】
本項目の酸発色型色素前駆体から生成する色素はキサンテン色素、フルオラン色素、トリフェニルメタン色素であることが好ましい。
なお、これらの酸発色型色素前駆体は、必要に応じて任意の比率で2種以上の混合物として用いてもよい。
本発明で用いる酸発色型色素前駆体の好ましい具体例としては、上記に記載した化合物が挙げられ、それらを用いることができる。
【0107】
本項目の色素前駆体群が、少なくとも色素前駆体としての酸発色型色素前駆体と、酸発生剤を含む時、さらに酸増殖剤を含んでも良い。
酸増殖剤は、酸が存在しない場合は安定であるのに対し、酸が存在すると分解して酸を放出し、その酸でまた別の酸増殖剤を分解させてまた酸を放出する、というように酸発生剤により発生した小量の酸をトリガーとして酸を増殖する化合物である。
該酸増殖剤の好ましい例としては、特開2005−97538号公報にて、一般式(34−1)〜(34−6)で示される構造の化合物が挙げられる。より好ましい具体例としては、同段落0299〜0301に示される化合物が挙げられる。
酸増殖時には加熱することが好ましいため、潜像を励起することにより重合を起こす工程またはそれとは別の定着工程にて熱処理することが好ましい。
【0108】
次に、色素前駆体が塩基発色型色素前駆体であり、さらに塩基発生剤を含む場合について説明する。
その際、塩基発生剤とは、2光子吸収化合物または発色体励起状態からのエネルギー移動または電子移動により塩基を発生することができる化合物である。塩基発生剤は暗所では安定であることが好ましい。本項目における塩基発生剤は、2光子吸収化合物または発色体励起状態からの電子移動により塩基を発生することができる化合物であることが好ましい。
本項目の塩基発生剤は、光によりブレンステッド塩基を発生することが好ましく、有機塩基を発生することがさらに好ましく、有機塩基としてアミン類を発生することが特に好ましい。
なお、アニオン重合と塩基発色型色素前駆体を同時に用いる時は、アニオン重合開始剤と塩基発生剤は同じ化合物がその機能を果たすことが好ましい。
なお、これらの塩基発生剤は、必要に応じて任意の比率で2種以上の混合物として用いてもよい。
【0109】
次に、本項目における色素前駆体が塩基発色型色素前駆体であり、さらに塩基発生剤を含む場合における塩基発色型色素前駆体について説明する。
本項目における塩基発色型色素前駆体は、塩基発生剤により発生した塩基により、元の状態から吸収が変化した発色体となることができる色素前駆体である。
本項目の塩基発色型色素前駆体としては、塩基により吸収が長波長化する化合物が好ましく、塩基により無色から発色する化合物がより好ましい。
本項目における塩基発色型色素前駆体の好ましい具体例としては、上記に記載した化合物が挙げられ、それらを用いることができる。
【0110】
本項目の色素前駆体が、塩基発色型色素前駆体であるとき、塩基発生剤の他に、さらに塩基増殖剤を含んでも良い。
本項目の塩基増殖剤は、塩基が存在しない場合は安定であるのに対し、塩基が存在すると分解して塩基を放出し、その塩基でまた別の塩基増殖剤を分解させてまた塩基を放出する、というように塩基発生剤により発生した小量の塩基をトリガーとして塩基を増殖する化合物である。
塩基増殖剤としては、特開2005−97538号公報にて、一般式(34−1)〜(34−6)、同段落0287より示される構造の化合物が挙げられる。より好ましい具体例としては、同段落0299〜0301に示される化合物が挙げられる。
塩基増殖時には加熱することが好ましいため、塩基増殖剤を用いる場合は、潜像を励起することにより重合を起こす工程またはそれとは別の定着工程にて熱処理することが好ましい。
【0111】
次に、本項目の色素前駆体が、2光子吸収化合物または発色体励起状態との電子移動またはエネルギー移動により共有結合を切断する機能を有する有機化合物部位と、共有結合している際と放出された際に発色体となる特徴を有する有機化合物部位が共有結合している化合物である場合について説明する。
本項目に用いることができる化合物としては、特開2005−97538号公報にて一般式(32)、より具体的には同段落0326〜0348で示された構造の化合物が挙げられる。
本発明の2光子吸収記録材料〔A〕は、生成する解離型色素を解離させる目的で、必要によりさらに塩基を含むことも好ましい。塩基は有機塩基でも無機塩基でも良く、好ましくは例えば、アルキルアミン類、アニリン類、イミダゾール類、ピリジン類、炭酸塩類、水酸化物塩類、カルボン酸塩類、金属アルコキシドなどが挙げられる。あるいは、それらの塩基を含むポリマーも好ましく挙げられる。
【0112】
次に、本項目の色素前駆体が2光子吸収化合物または発色体励起状態との電子移動により反応し吸収形を変化させることができる化合物である場合を説明する。前記の変化を起こすことができる化合物は、いわゆる「エレクトロクロミック化合物」として総称されている。
本項目で色素前駆体として用いるエレクトロクロミック化合物として好ましくは、ポリピロール類(好ましくは例えばポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(N−メチルインドール)、ポリピロロピロール)、ポリチオフェン類(好ましくは例えばポリチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリイソチアナフテン、ポリジチエノチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン)、ポリアニリン(好ましくは例えばポリアニリン、ポリ(N−ナフチルアニリン)、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(アニリン−m−スルホン酸)、ポリ(2−メトキシアニリン)、ポリ(o−アミノフェノール))、ポリ(ジアリ−ルアミン)、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、Coピリジノポルフィラジン錯体、Niフェナントロリン錯体、Feバソフェナントロリン錯体である。
【0113】
またさらに、ビオローゲン類、ポリビオローゲン類、ランタノイドジフタロシアニン類、スチリル色素類、TNF類、TCNQ/TTF錯体類、Ruトリスビピリジル錯体類等のエレクトロクロミック材料も好ましい。
また、色素前駆体が2光子吸収化合物または発色体励起状態との電子移動により反応し吸収形を変化させることができる化合物である場合、本項目の色素前駆体は少なくとも特開2005−97538号公報にて一般式(37)、より具体的には同段落0352〜0352で表される構造の化合物であることが好ましい。好ましい具体例としては、同段落0354の化合物が挙げられる。
本項目の色素前駆体は市販品であるか、あるいは公知の方法により合成することができる。
【0114】
(重合開始剤)
次に重合開始剤について説明する。本発明の重合開始剤とは、非共鳴2光子吸収により生じた2光子吸収化合物の励起状態からエネルギー移動または電子移動(電子を与えるまたは電子を受ける)を行うことによりラジカルまたは酸(ブレンステッド酸またはルイス酸)を発生し、重合性化合物の重合を開始することができる化合物のことである。
本発明の重合開始剤は好ましくは、ラジカルを発生して重合性化合物のラジカル重合を開始することができるラジカル重合開始剤と、ラジカルを発生することなく酸のみ発生して重合性化合物のカチオン重合のみを開始することができるカチオン重合開始剤と、ラジカル及び酸を両方発生して、ラジカル及びカチオン重合両方を開始することができる重合開始剤のいずれかである。
重合開始剤として好ましくは、以下の13個の系が上げられる。なお、これらの重合開始剤は、必要に応じて任意の比率で2種以上の混合物として用いてもよい。
【0115】
1)ケトン系重合開始剤
2)有機過酸化物系重合開始剤
3)ビスイミダゾール系重合開始剤
4)トリハロメチル置換トリアジン系重合開始剤
5)ジアゾニウム塩系重合開始剤
6)ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤
7)スルホニウム塩系重合開始剤
8)ホウ酸塩系重合開始剤
9)ジアリールヨードニウム有機ホウ素錯体系重合開始剤
10)スルホニウム有機ホウ素錯体系重合開始剤
11)金属アレーン錯体系重合開始剤
12)スルホン酸エステル系重合開始剤
【0116】
上記重合開始剤の好ましい例としては、特開2005−29725号公報の段落0117〜0120(ケトン系重合開始剤)、同公報段落0122(有機化酸化物系開始剤)、同0124〜0125(ビスイミダゾール系重合開始剤)、同0127〜0130(トリハロメチル置換トリアジン系重合開始剤)、同0132〜0135(ジアゾニウム塩系重合開始剤)、同0137〜0140(ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤)、同0142〜0145(スルホニウム塩系重合開始剤)、同0147〜0150(ホウ酸塩系重合開始剤)、同0153〜0157(ジアリールヨードニウム有機ホウ素錯体系重合開始剤)、同0159〜0164(スルホニウム有機ホウ素錯体系重合開始剤)、同0179(金属アレーン系重合開始剤)、同1081〜0182(スルホン酸エステル系重合開始剤)に記載の化合物が挙げられる。
【0117】
13)その他の重合開始剤
前記1)〜12)以外の重合開始剤としては、4,4’−ジアジドカルコンのような有機アジド化合物、N−フェニルグリシンなどの芳香族カルボン酸、ポリハロゲン化合物(CI4、CHI3、CBrCI3)、フェニルイソオキサゾロン、シラノールアルミニウム錯体、特開平3−209477号公報に記載されるアルミナート錯体などが挙げられる。
【0118】
ここで、本発明の重合開始剤は、
a)ラジカル重合を活性化できる重合開始剤
b)カチオン重合のみ活性化できる重合開始剤
c)ラジカル重合とカチオン重合を同時に活性化できる重合開始剤
に分類することができる。
【0119】
a)ラジカル重合を活性化できる重合開始剤とは、非共鳴2光子吸収により生じた2光子吸収化合物の励起状態からエネルギー移動または電子移動(2光子吸収化合物に電子を与えるまたは2光子吸収化合物から電子を受ける)を行うことによりラジカルを発生し、重合性化合物のラジカル重合を開始することができる重合開始剤のことである。
前記の中では、以下の系がラジカル重合を活性化することができる重合開始剤系である;1)ケトン系重合開始剤、2)有機過酸化物系重合開始剤、3)ビスイミダゾール系重合開始剤、4)トリハロメチル置換トリアジン系重合開始剤、5)ジアゾニウム塩系重合開始剤、6)ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤、7)スルホニウム塩系重合開始剤、8)ホウ酸塩系重合開始剤、9)ジアリールヨードニウム有機ホウ素錯体系重合開始剤、10)スルホニウム有機ホウ素錯体系重合開始剤、11)金属アレーン錯体系重合開始剤。
【0120】
ラジカル重合を活性化できる重合開始剤としてより好ましくは、1)ケトン系重合開始剤、3)ビスイミダゾール系重合開始剤、4)トリハロメチル置換トリアジン系重合開始剤、6)ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤、7)スルホニウム塩系重合開始剤が挙げられ、さらに好ましくは、3)ビスイミダゾール系重合開始剤、6)ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤、7)スルホニウム塩系重合開始剤、が挙げられる。
カチオン重合のみ活性化できる重合開始剤とは、非共鳴2光子吸収により生じた2光子吸収化合物の励起状態からエネルギー移動または電子移動を行うことによりラジカルを発生することなく酸(ブレンステッド酸またはルイス酸)を発生し、酸により重合性化合物のカチオン重合を開始することができる重合開始剤のことである。
前記の系の中では、以下の系がカチオン重合のみを活性化することができる重合開始剤系である。;12)スルホン酸エステル系重合開始剤。
【0121】
なお、カチオン重合開始剤としては、例えば「UV硬化;科学と技術(UV CURING;SCIENCE AND TECHNOLOGY)」[p.23〜76、S.ピーター・パーパス(S.PETERPAPPAS)編集、ア・テクノロジー・マーケッティング・パブリケーション(A TECHNOLOGY MARKETING PUBLICATION)]及び「コメンツ・インオーグ.ケム.(Co mments Inorg Chem.)」[B.クリンゲルト、M.リーディーカー及びA.ロロフ(B.KLINGERT、M.RIEDIKER and A.ROLOFF)、第7巻、No.3、p109−138(1988)]などに記載されているものを用いることもできる。
【0122】
ラジカル重合とカチオン重合を同時に活性化できる重合開始剤とは、非共鳴2光子吸収により生じた2光子吸収化合物の励起状態からエネルギー移動または電子移動を行うことによりラジカルまたは酸(ブレンステッド酸またはルイス酸)を同時発生し、発生するラジカルにより重合性化合物のラジカル重合を、また発生する酸により重合性化合物のカチオン重合を開始することができる重合開始剤のことである。
前記の系の中では、以下の系がラジカル重合とカチオン重合を同時に活性化できる重合開始剤系である;4)トリハロメチル置換トリアジン系重合開始剤、5)ジアゾニウム塩系重合開始剤、6)ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤、7)スルホニウム塩系重合開始剤、11)金属アレーン錯体系重合開始剤。
ラジカル重合とカチオン重合を活性化できる重合開始剤として好ましくは、6)ジアリールヨードニウム塩系重合開始剤、7)スルホニウム塩系重合開始剤、を挙げることができる。
【0123】
(重合性化合物)
重合性化合物とは、ラジカルまたは酸(ブレンステッド酸またはルイス酸)により、付加重合を起こしてオリゴマーまたはポリマー化が可能な化合物のことである。
重合性化合物としては、単官能性でも多官能性でもよく、一成分でも多成分でもよく、モノマー、プレポリマー(例えばダイマー、オリゴマー)でもこれらの混合物でもいずれでもよい。また、その形態は、液状であっても固体状であってもよい。
重合性化合物は、ラジカル重合可能な重合性化合物とカチオン重合可能な重合性化合物に大別される。
【0124】
ラジカル重合性化合物としては、少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を分子中に有する化合物が好ましく、具体的には以下の重合性モノマー及びそれから成るプレポリマー(ダイマー、オリゴマー等)が挙げられる。これらは単官能型であっても多官能型であってもよい。例としては、たとえばエチレン性不飽和酸化合物、脂肪族及び芳香族型官能基含有(メタ)アクリレート、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミドのモノマー等が挙げられる。具体例としては、特開2005−29725号公報の段落0019〜0026に記載の化合物を用いることができる。
さらに、該ラジカル重合性化合物としては、特開2005−29725号公報の段落0027(ポリイソシアネート化合物)、同段落0028(ウレタンアクリレート類)、同0030(リンを含むモノマー)、市販品としては同0031〜0032に記載された化合物を用いることができる。
さらに、日本接着協会誌Vol.20、No7、300〜330頁に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0125】
カチオン重合性化合物は、2光子吸収化合物とカチオン重合開始剤により発生した酸により重合が開始される化合物で、例えば「ケムテク・オクト(Chemtech.Oct.)」[J.V.クリベロ(J.V.Crivello)、第624頁(1980)]、特開昭62−149784号公報、日本接着学会誌[第26巻、No.5、第179−187頁(1990)]などに記載されているような化合物が挙げられる。
カチオン重合性化合物として好ましくは、オキシラン環、オキセタン環、ビニルエーテル部位を分子中に少なくとも1個有する化合物であり、より好ましくはオキシラン環を有する化合物である。具体的には、以下のカチオン重合性モノマー及びそれらからなるプレポリマー(例えばダイマー、オリゴマー等)が挙げられる。
【0126】
オキシラン環を有するカチオン重合性モノマーの具体例としては、特開2005−29725号公報の段落0035〜0036が挙げられる。
オキセタン環を有するカチオン重合性モノマーの具体例としては、前記のオキシラン環を有するカチオン重合性モノマーの具体例のオキシランをオキセタン環に置き換えた化合物等が挙げられる。具体的には、特開2005−29725号公報の段落0038が挙げられる。
【0127】
(バインダー)
バインダーとしては、重合前の組成物の成膜性、膜厚の均一性、保存時安定性を向上させる等の目的で通常使用される。バインダーとしては、重合性化合物、重合開始剤、2光子吸収化合物と相溶性の良いものが好ましい。
バインダーとしては、溶媒可溶性の熱可塑性重合体が好ましく、単独又は互いに組合せて使用することができる。
【0128】
好ましいバインダーの具体例としては、アクリレート及びアルファ−アルキルアクリレートエステル及び酸性重合体及びインターポリマー(例えばポリメタクリル酸メチル及びポリメタクリル酸エチル、メチルメタクリレートと他の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体)、ポリビニルエステル(例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸/アクリル酸ビニル、ポリ酢酸/メタクリル酸ビニル及び加水分解型ポリ酢酸ビニル)、エチレン/酢酸ビニル共重合体、飽和及び不飽和ポリウレタン、ブタジエン及びイソプレン重合体及び共重合体及びほぼ4,000〜1,000,000の重量平均分子量を有するポリグリコールの高分子量ポリ酸化エチレン、エポキシ化物(例えば、アクリレート又はメタクリレート基を有するエポキシ化物)、ポリアミド(例えば、N−メトキシメチルポリヘキサメチレンアジパミド)、セルロースエステル(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートサクシネート及びセルロースアセテートブチレート)、セルロースエーテル(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルベンジルセルロース)、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール及びポリビニルホルマール)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、米国特許3,458,311中及び米国特許4,273,857中に開示されている酸含有重合体及び共重合体、並びに米国特許4,293,635中開示されている両性重合体バインダーなどが挙げられ、より好ましくはセルロースアセテートブチレート重合体、セルロースアセテートラクテート重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル/メタクリル酸及びメタクリル酸メチル/アクリル酸共重合体を含むアクリル系重合体及びインターポリマー、メタクリル酸メチル/アクリル酸又はメタクリル酸C2〜C4アルキル/アクリル酸又はメタクリル酸の3元重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、並びにそれらの混合物などが挙げられる。
【0129】
また、フッ素原子含有高分子もバインダーとして好ましい。好ましいものとしては、フルオロオレフィンを必須成分とし、アルキルビニルエーテル、アリサイクリックビニルエーテル、ヒドロキシビニルエーテル、オレフィン、ハロオレフィン、不飽和カルボン酸及びそのエステル、及びカルボン酸ビニルエステルから選ばれる1種もしくは2種以上の不飽和単量体を共重合成分とする有機溶媒に可溶性の重合体である。好ましくは、その質量平均分子量が5,000〜200,000で、またフッ素原子含有量が5〜70質量%であることが望ましい。
【0130】
フッ素原子含有高分子におけるフルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが使用される。また、他の共重合成分であるアルキルビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなど、アリサイクリックビニルエーテルとしてはシクロヘキシルビニルエーテル及びその誘導体、ヒドロキシビニルエーテルとしてはヒドロキシブチルビニルエーテルなど、オレフィン及びハロオレフィンとしてはエチレン、プロピレン、イソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど、カルボン酸ビニルエステルとしては酢酸ビニル、n−酪酸ビニルなど、また不飽和カルボン酸及びそのエステルとしては(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸、及び(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸のC1からC18のアルキルエステル類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC2からC8のヒドロキシアルキルエステル類、及びN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらラジカル重合性単量体はそれぞれ単独でも、また2種以上組み合わせて使用しても良く、更に必要に応じて該単量体の一部を他のラジカル重合性単量体、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリルなどのビニル化合物と代替しても良い。また、その他の単量体誘導体として、カルボン酸基含有のフルオロオレフィン、グリシジル基含有ビニルエーテルなども使用可能である。
【0131】
前記したフッ素原子含有高分子の具体例として、例えば水酸基を有する有機溶媒可溶性の「ルミフロン」シリーズ(例えばルミフロンLF200、重量平均分子量:約50,000、旭硝子社製)が挙げられる。この他にも、ダイキン工業(株)、セントラル硝子(株)、ペンウオルト社などからも有機溶媒可溶性のフッ素原子含有高分子が上市されており、これらも使用することができる。
【0132】
これらのバインダーは、非3次元架橋構造を形成するものが多い。次に、3次元架橋構造を形成する構造のバインダーについて述べる。
【0133】
(3次元架橋構造を形成するバインダー)
また、上記のバインダーは非3次元架橋構造を形成するものが多いが、本発明の光記録材料には3次元架橋構造を形成する構造のバインダーを用いることもできる。3次元架橋構造を形成する構造のバインダーは、塗膜性、膜強度、記録性能の向上という点で好ましい。なお、「3次元架橋構造を形成する構造のバインダー」を「マトリックス」と呼ぶ。
上記マトリックスは、その3次元架橋構造を形成する成分を含み、本発明における該成分は熱硬化性化合物を含むことができる。前記硬化性化合物としては、熱硬化性化合物、触媒などを使用して光照射により硬化する光硬化性化合物を用いることができ、熱硬化性化合物が好ましい。
【0134】
本発明に用いる熱硬化性マトリックスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、イソシアネート化合物とアルコール化合物から形成されるウレタン樹脂やオキシラン化合物から形成されるエポキシ化合物、メラミン化合物、フォルマリン化合物、(メタ)アクリル酸やイタコン酸等の不飽和酸のエステル化合物やアミド化合物を重合して得られる重合体などが挙げられる。中でもイソシアネート化合物とアルコール化合物から形成されるポリウレタンマトリックスが好ましく、記録の保持性から考えて、多官能イソシアネートと多官能アルコールから形成されるポリウレタンマトリックスが最も好ましい。
【0135】
以下に、ポリウレタンマトリックスを形成することができる、多官能イソシアネート及び多官能アルコールについて具体例を述べる。
前記多官能イソシアネートとしては、具体的には、ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、フェニレン−1,4−ジイソシアネート、1−メトキシフェニレン−2,4−ジイソシアネート、1−メチルフェニレン−2,4−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ビフェニレン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシビフェニレン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニレン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、シクロブチレン−1,3−ジイソシアネート、シクロペンチレン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、1−メチルシクロヘキシレン−2,4−ジイソシアネート、1−メチルシクロヘキシレン−2,6−ジイソシアネート、1−イソシアネート−3,3,5−トリメチル−5−イソシアネートメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン−1,3−ビス(メチルイソシアネート)、シクロヘキサン−1,4−ビス(メチルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、ドデカメチレン−1,12−ジイソシアネート、フェニル−1,3,5−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,5,4’−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−2,4’,4”−トリイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,2’,4’−テトライソシアネート、ジフェニルメタン−2,5,2’,5’−テトライソシアネート、シクロヘキサン−1,3,5−トリイソシアネート、シクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアネート)、3,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアネート)、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリス(メチルイソシアネート)、ジシクロヘキシルメタン−2,4,2’−トリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4,4’−トリイソシアネートリジンジイソシアネートメチルエステル、またはこれらの有機イソシアネート化合物の化学量論的過剰量と多官能性活性水素含有化合物との反応により得られる両末端イソシアネートプレポリマー、などが挙げられる。これらの中でも、ビスシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが特に好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0136】
前記多官能アルコールとは、多官能アルコール単独であってもよく、他の多官能アルコールと混合状態であってもよい。多官能アルコールとしては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、テトラメチレングリコール等のジオール類;ビスフェノール類、またはこれらの多官能アルコールをポリエチレンオキシ鎖やポリプロピレンオキシ鎖で修飾した化合物、グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、デカントリオール等のトリオール類などのこれらの多官能アルコールをポリエチレンオキシ鎖やポリプロピレンオキシ鎖で修飾した化合物、などが挙げられる。
【0137】
上記の2光子吸収記録材料には、2光子吸収化合物または発色体のラジカルカチオンを還元する能力を有する電子供与性化合物、もしくは2光子吸収化合物または発色体のラジカルアニオンを酸化する能力を有する電子受容性化合物を好ましく用いることができる。特に電子供与性化合物の使用は発色速度向上の点でより好ましい。
本発明に用いる電子供与性化合物の好ましい例としては、特開2005−97538号公報の段落0357に示される化合物や、上記〔蛍光色素発色により蛍光変調する材料〕で用いることができる例として示した化合物が例として挙げられる。一方、本発明に用いる電子受容性化合物の好ましい例としては、同公報段落0358に示される化合物及び特開2007−87532号の段落2022〜0212に示される化合物が挙げられる。
電子供与性化合物の酸化電位は2光子吸収化合物または発色体の酸化電位、もしくは2光子吸収化合物または発色体の励起状態の還元電位よりも卑(マイナス側)であることが好ましく、電子受容性化合物の還元電位は2光子吸収化合物または発色体の還元電位、もしくは2光子吸収化合物または発色体の励起状態の酸化電位よりも貴(プラス側)であることが好ましい。
【0138】
以上、重合により蛍光変調する潜像を形成する材料については、特開2005−97538号公報により詳細に記載されている。
【0139】
〔その他の成分〕
本発明の2光子吸収記録材料〔A〕にはさらにバインダーを用いることができる。2光子吸収記録材料〔A〕に用いるバインダーとしては特に制限はなく、有機高分子化合物でも無機高分子化合物でもよい。有機高分子化合物としては、溶媒可溶性の熱可塑性重合体が好ましく、単独又は互いに組合せて使用することができ、該2光子吸収記録材料〔A〕に分散される各種成分と相溶性の良いものが好ましい。
【0140】
本発明の記録材料〔A〕に用いるバインダーとしては、上記〔重合により蛍光変調する潜像を形成する材料〕の項にて用いることができるバインダーの好ましい例を全て用いることができる。その他の具体例としては、特開2005−320502公報中、段落0022に記載されている化合物(アクリレート及びアルファーアルキルアクリレートエステル及び酸性重合体及びインターポリマー、ポリビニルエステル、エチレン/酢酸ビニル共重合体、飽和及び不飽和ポリウレタン、ブタジエン及びイソプレン重合体及び共重合体、ポリグリコールの高分子量ポリ酸化エチレン、エポキシ化合物、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリカーボネート、ノルボルネン系ポリマー、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)が挙げられる。また、同段落に記載のポリスチレン重合体及びその共重合体、コポリエステルのポリメチレングリコールと芳香族酸化合物の反応生成物から製造されたポリマーとその混合物、ポリN−ビニルカルバゾール及びその共重合体、カルバゾール含有重合体等が挙げられる。さらに、同公報中、段落0023〜0024に記載のフッ素原子含有高分子も好ましい具体例として挙げられる。
【0141】
本発明に用いるバインダーとしてはアクリレート及びアルファーアルキルアクリレートエステル、ポリスチレン、ポリアルキルスチレン、ポリスチレン共重合体が好ましく、アクリレート、アルファーアルキルアクリレート、ポリスチレン、ポリスチレン共重合体が検出感度の向上という点でさらに好ましい。これら具体例としては、アクリレート及びアルファーアルキルアクリレートエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンゼン環を持った(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート等が挙げられる。特に好ましいベンゼン環を持った(メタ)アクリレートは、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートである。これらの単量体は1種類のみ用いても2種類以上を併用してもよい。(メタ)アクリレート系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート、ベンゼン環を持った(メタ)アクリレート、窒素を含むラジカル重合性単量体と共重合可能な他の共重合性単量体を共重合させてもよく、そのような他の共重合性単量体としては、アリルグリシジルエーテル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(無水)マレイン酸、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、等が挙げられる。親水性極性基を持つ化合物を共重合してもよく、極性基としては、−SO3M、−PO(OM)2、−COOM(Mは水素原子、アルカリ金属あるいはアンモニウムを表す)等が挙げられる。
【0142】
ポリアルキルスチレン化合物としては、ポリメチルスチレン、ポリエチルスチレン、ポリプロピルスチレン、ポリブチルスチレン、ポリイソブチルスチレン、ポリペンチルスチレン、ヘキシルポリスチレン、ポリオクチルスチレン、ポリ2−エチルヘキシルスチレン、ポリラウリルスチレン、ポリステアリルスチレン、ポリシクロヘキシルスチレン、ベンゼン環を持った(メタ)アクリレートとしては、ポリベンジルスチレン、ポリフェノキシエチルスチレン、ポリフェノキシポリエチレングリコールスチレン、ポリノニルフェノールスチレン等が挙げられる。アルキルの位置はα、パラが好ましい。これらの単量体は1種類のみ用いても2種類以上を併用してもよい。ポリスチレン共重合体は、共役ジエン化合物、アルキルスチレン、ベンゼン環を持ったスチレン、窒素を含むラジカル重合性単量体と共重合可能な他の共重合性単量体を共重合させてもよく、そのような他の共重合性単量体としては、アセチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ポリエチレン、アリルグリシジルエーテル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、等が挙げられる。
【0143】
本発明の2光子吸収記録材料〔A〕には、保存時の保存性を向上させるために熱安定剤を添加することができる。
有用な熱安定剤にはハイドロキノン、フェニドン、p−メトキシフェノール、アルキル及びアリール置換されたハイドロキノンとキノン、カテコール、t−ブチルカテコール、ピロガロール、2−ナフトール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、フェノチアジン、及びクロルアニールなどが含まれる。Pazos氏の米国特許第4,168,982号中に述べられた、ジニトロソダイマ類もまた有用である。
本発明の2光子吸収記録材料〔A〕には、該記録材料の接着性、柔軟性、硬さ、及びその他の機械的諸特性を変えるために可塑剤を用いることができる。可塑剤としては例えば、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジエチルセバケート、ジブチルスベレート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフタレート等が挙げられる。
【0144】
本発明の2光子吸収記録材料〔A〕は通常の方法で調製されてよい。例えば上述の必須成分及び任意成分をそのままもしくは必要に応じて溶媒を加えて調製することができる。
溶媒としては例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート、乳酸エチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶媒、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールなどのフッ素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒などが挙げられる。
【0145】
本発明の2光子吸収記録材料〔A〕は、スピンコーター、ロールコーターまたはバーコーターなどを用いることによって基板上に直接塗布することも、あるいはフィルムとしてキャストしついで通常の方法により基板にラミネートすることもでき、それらにより2光子吸収記録媒体とすることができる。
ここで、「基板」とは、任意の天然又は合成支持体、好適には柔軟性又は剛性フィルム、シートまたは板の形態で存在することができるものを意味する。
基板として好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、火炎又は静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等である。
使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することができる。蒸発除去には加熱や減圧を用いても良い。
【0146】
さらに、2光子吸収記録材料の上に、酸素遮断等のための保護層を形成してもよい。保護層は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは板を静電的な密着、押し出し機を使った積層等により貼合わせるか、前記ポリマーの溶液を塗布してもよい。また、ガラス板を貼合わせてもよい。また、保護層と感光膜の間及び/または、基材と感光膜の間に、気密性を高めるために粘着剤または液状物質を存在させてもよい。
【0147】
さらに、本発明の2光子吸収光記録媒体は、記録成分を含む記録層と、記録成分を含まない非記録層が互いに積層した多層構造を有していてもよい。記録層と非記録層とが交互に積層された構造を有することで、記録層間に非記録層が介在するので、記録層面に垂直な方向での記録領域の拡大が遮断される。従って、記録層を照射光の波長オーダーの厚みに制約しても、クロストークを小さくすることが可能である。この結果、記録層自体の厚みを薄くすることができるとともに、非記録層を含めた記録層の層間距離を縮小することができる。
【0148】
以上の記録層の層厚としては、記録時における記録層の屈折率変化量と、光の入射方向に対する各記録層の表面及び裏面での反射光による干渉条件を満たす必要があるため、用いる記録層材料の屈折率変化量に応じて、50nm以上5000nm以下の範囲内とすることが好ましく、100nm以上1000nm以下の範囲内であることがより好ましく、100nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。
【0149】
非記録層は、記録光の照射によって吸収スペクトルまたは発光スペクトルに変化が生じない材料を薄膜状に形成した層である。
非記録層に用いる材料としては、多層構造形成における製造の容易さの観点から、記録層に用いられている材料を溶解しない溶媒に溶解する材料であることが好ましく、そのような材料の中でも、可視光領域に吸収をもたない透明ポリマー材料が好ましい。このような材料としては、水溶性ポリマーが好適に用いられる。
【0150】
前記水溶性ポリマーの具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ゼラチン等を挙げることができる。中でも、好ましくは、PVA、ポリビニルピリジン、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ゼラチンであり、最も好ましくは、PVAである。
【0151】
非記録層は、その材料として水溶性ポリマーを使用する場合、水溶性ポリマーを水に溶解して得られた塗布液を、例えば、スピンコートなどの塗布法により塗布することにより形成することができる。
【0152】
以上の非記録層の層厚としては、該非記録層を挟む記録層間のクロストークを低減するため、記録及び再生に用いる光の波長、記録パワー、再生パワー、レンズのNA、及び記録層材料の記録感度の観点から、1μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましく、1μm以上20μm以下の範囲内であることがより好ましく、1μm以上10μm以下あることがさらに好ましい。
【0153】
また、記録層と非記録層の交互に積層した対の数は、該2光子吸収記録媒体に求められる記録容量と、用いる光学系によりきまる収差の観点から、9以上200以下の範囲内であることが好ましく、10以上100以下の範囲であることがより好ましく、10以上30以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0154】
〔B〕「(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料を含む2光子吸収記録材料」(以下、2光子吸収記録材料〔B〕又は記録材料〔B〕とも記す。)
以下、2光子吸収記録材料〔B〕、及び、該記録材料〔B〕を用いる2光子吸収記録媒体等について説明する。
【0155】
本発明の2光子吸収記録材料〔B〕は、記録層として、支持基板の上にとして設けるか、あるいは、該記録層とは異なる屈折率を有する層と隣接させた層構造を有する、記録媒体として利用する。
本発明の2光子吸収記録材料〔B〕を記録層として用いた記録媒体の記録再生のメカニズムは明確ではないが、以下のように推定される。
2光子吸収化合物と「(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料」からなる記録材料〔B〕を用いた記録層において、2光子吸収部分で熱が発生し、記録層の屈折率が変化する、或は、記録層表面、又は、支持基板若しくは該記録層とは異なる屈折率の隣接層との界面が変形することにより反射率が変化することで記録が行われ、該記録により反射率が変化した箇所と、反射率が変化していない未記録箇所との反射率の差を比較することにより再生が行われる。
【0156】
また、記録層に、記録光の進行方向(以下、単に「深さ方向」とする。)における幅広い範囲で屈折率の変化を起こさせ、記録スポットが記録される。このとき、記録光の強度分布に応じて屈折率の変化が生じるので、再生時に記録スポットに再生のための読出光を照射すると、記録スポットがレンズとして働き、このレンズとしての働きが、読出光を記録スポットから逸らせたり、記録スポット内に収束させたりする。このため、情報の再生時に界面に合わせて読出光を照射すると、記録スポットから返ってくる光が弱くなったり(屈折率が小さくなった場合)強くなったり(屈折率が大きくなった場合)するので、非記録部分における界面から返ってきた光と強度の差が生じ、この強度の差の変調で情報を再生することができる。
【0157】
<(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料>
本発明の非共鳴2光子吸収記録材料〔B〕において用いる、(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料としては、例えば、高分子化合物が挙げられる。
該高分子化合物としては、2光子記録波長に線形吸収を持たないものが好ましい。
該高分子化合物は、前述の2光子吸収記録材料〔A〕において、バインダーとして記載したものと同じものを適宜用いることができる。
【0158】
また、本発明の2光子吸収記録材料〔B〕は、前述の2光子吸収記録材料〔A〕で用いられる、(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料を含まないものである。
【0159】
本発明の2光子吸収記録材料〔B〕は、前述の2光子吸収記録材料〔A〕と比べて、ポリマーバインダー等の含有比率が高く、この記録材料〔B〕を用いた記録媒体は、前述の2光子吸収記録材料〔A〕を用いた記録媒体を蛍光変調方式により記録した場合と比べて、記録感度が10倍以上も高いものである。
【0160】
また、本発明の2光子吸収記録材料〔B〕は、2光子吸収化合物として可視光に線形吸収を用いないものを使用する場合には、該記録材料〔B〕及び該記録材料〔B〕を用いた記録媒体は、遮光不要にできる。
【0161】
以下、本発明の2光子吸収記録材料〔B〕を含有する記録層を用いた光情報記録媒体及びその製造方法について、光情報記録媒体を構成する各要素ごとに、詳細に説明する。
【0162】
[基板]
本発明の記録媒体に用いられる基板としては、従来の光情報記録媒体の基板材料として用いられている各種の材料からなる基板を任意に選択して使用することができる。基板としては、円盤状基板を用いることが好ましい。
基板材料として、具体的には、ガラス;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;アモルファスポリオレフィン;ポリエステル;アルミニウム等の金属;等を挙げることができ、所望によりこれらを併用してもよい。
前記材料の中では、耐湿性、寸法安定性及び低価格等の点から、アモルファスポリオレフィン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
これらの樹脂を用いた場合、射出成型を用いて基板を作製することができる。また、樹脂をフィルム状に形成し、円盤状に切り抜くことで基板を形成することも可能である。
基板の厚さは、一般に0.02mm〜2mmの範囲であり、0.6mm〜2mmの範囲が好ましく、0.7mm〜1.5mmの範囲であることがより好ましく、0.9mm〜1.2mmとすることが更に好ましい。また、2枚の記録媒体を貼り合せて両面記録可能な媒体とすることも可能である。その場合、基板1枚の厚さは0.2mm〜0.7mmの範囲であり、0.3mm〜0.6mmの範囲であることが好ましく、0.4〜0.5mmとすることがより好ましい。
また、高速での記録再生可能かつ、体積あたりの記録容量を向上させるため基板の厚さを、一般的な光ディスクよりも大きく低減し、可撓性を持たせることも可能である。その場合基板の厚さは0.02mm〜0.4mmの範囲であり、0.05mm〜0.35mmの範囲であることが好ましく、0.01mm〜0.3mmとすることがより好ましい。
基板の中心には、チャッキング用の孔を設けることが一般的である。また、孔の代わりにハブを設けることも可能である。
【0163】
[ガイド層]
光記録媒体の記録時にトラッキングサーボによる半径位置制御を行うための、同心円状またはスパイラル状のガイド層を設けても良い。ガイド層は一般に、連続的または断続的な凹凸構造を有し、従来の光ディスクでは円盤状媒体の内周から外周まで一本の溝が連続してスパイラル状の形成されている。溝深さはトラッキングに用いるレーザー波長により好適な範囲が決まる。トラッキングにプッシュプル方式を用いる場合、溝から得られるトラッキング信号は、トラッキングレーザー波長をλ、溝内の屈折率をnとした場合、溝深さがλ/(8n)において最大となり、溝深さが0およびλ/(4n)において0となることから、溝深さdの範囲は0<d<λ/(4n)であり、溝深さdの範囲はλ/(12n)<d<λ/(6n)が好ましく、より好ましくはd=λ/(8n)である。
ガイド溝の幅はトラックピッチに応じて設定することが可能であり、一般にトラックピッチの半分程度にすることで強度の高いプッシュプル信号を得ることができる。
ガイド層には記録時の回転同期用クロック信号を生成する構造を設けることができる。一般には、溝を任意の周波数で蛇行させるウォブルグルーブ方式が用いられる。記録装置はウォブルグルーブから得られる周期的な信号変動を参照し、規定の記録線速度に制御することが可能である。
また、ガイド層にはアドレス情報を設けることができる。ウォブルグルーブ方式の場合、搬送周波数に対して大小の周波数を組み合わせることにより、任意のアドレス情報を持たせる周波数変調方式や、ウォブルの位相を変化させることによる位相変調方式、アドレス情報を重畳させる方式、などを用いることが可能である。また、溝の横にマークを設け、その位置によりアドレス情報を形成する、いわゆるランドプリピット方式も可能であり、これらを組み合わせて用いることが可能である。
また、アドレス情報と同様の方法を用いて、記録パワーのキャリブレーションや、対応線速度、信号極性等、記録再生制御に必要な情報を予めガイド層に記録しておくことも可能である。
ガイド層を設ける深さ方向の位置は、トラッキングレーザーにより再生可能な位置であればどこでも良く、ガイド層を基板表面に設ける場合は、基板成形時にガイド層形状が刻印されている金属スタンパを押し当てることにより、基板成形とガイド層形成を同時に行うことが可能である。また、成形基板に紫外線硬化樹脂等を塗布し、スタンパを押し当てた後樹脂を硬化させることにより形成することも可能である。各記録層と隣接して設ける場合、記録層の間の中間層に設ける場合、カバー層と隣接して設ける場合なども同様にガイド層を形成することが可能である。ガイド層を設ける樹脂層に樹脂の軟化温度以上に加熱した金属スタンパを押し当ててパターンを転写することも可能である。
【0164】
[反射層]
反射信号強度を向上するために、ガイド層または記録層に隣接して反射層を設けることができる。
反射層材料としては再生波長において必要な反射率が得られる材料種から選択可能であり、例えば、Mg、Se、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi等の金属、又は半金属を用いることが可能であり、中でもAg、Au、Alは高い反射率が得られ良好である。これら材料は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。また、改質のため少量の添加元素を加えることも可能である。
反射層として高屈折率または低屈折率材料を用いて、隣接する層との屈折率差を設けることにより反射光を生成することも可能である。高屈折率材料の例としては、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化タンタル(Ta25)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)などが挙げられる。低屈折率材料の例としては、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化ナトリウム(NaF)などが挙げられる。これら材料は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。これらの無機化合物を、スパッタリング、蒸着、イオンプレーティング、分子線エピタキシー等の方法により製膜することで反射層を形成することが可能である。
記録再生用レーザーとトラッキング用レーザーの波長が異なる場合、波長選択的な反射層材料を用いることにより、トラッキングレーザーの反射率を高く、記録再生レーザーの反射率を低く設定し、不要な反射光を低減することも可能である。具体的には、例えば記録再生レーザーとして波長405nmの光、トラッキング用レーザーとして波長660nmの光を用いる場合に、500nmよりも長波長においては高い反射率を示し、500nmよりも短波長において反射率が急激に低下するAuを反射層として用いることにより、トラッキング用レーザー光を強く反射し、記録再生光の反射率を下げ、記録再生光の反射による迷光成分を低減することが可能となる。
【0165】
[中間層]
隣接する記録層の間には記録層を物理的に隔て、膨張による記録マークを形成可能な界面を生成するための中間層を設ける。
記録層と中間層の界面反射は、主に両者の屈折率差により生成するため、記録層と中間層に屈折率差を設ける必要がある。多層構造で記録層両側に中間層が位置する場合、記録層と、両方の中間層の屈折率差を同じとし記録層上下から界面反射を生成することも可能であるし、記録層両側に位置する中間層片側の中間層の屈折率を記録層と同じとし、もう片側の中間層の屈折率を記録層と異なる中間層とすることで、記録層片側界面のみから反射光を生成することも可能である。この場合、記録層両側界面から反射光を生成した場合に比べ、光の干渉による記録層反射率の変動を低減可能となる。また、この場合、記録層上下の中間層が異なる素材でも良い。
記録層と中間層の屈折率差は、一般に0.01〜0.5の範囲であることが好ましく、0.04〜0.4の範囲であることがより好ましく、0.08〜0.25とすることが更に好ましい。小さすぎると必要な反射光が得られず、大きすぎると用いる材料が限られてしまう。
中間層膜厚は薄すぎると隣接する記録層同士の光学的な分離が困難となる、熱的な影響を受けるなどによりいわゆる層間クロストークが生じる問題があり、厚すぎると記録層数を増やすことが難しくなる。このため中間層厚みは、2μm〜20μmの範囲であることが好ましく、4μm〜15μmの範囲であることがより好ましく、6μm〜10μmとすることが更に好ましい。
【0166】
中間層は記録再生波長およびトラッキング波長に対して透明であることが好ましい。なお、「透明」とは、記録および再生に用いられる光に対して、透過率80%以上であることを意味する。
それぞれの中間層は膜厚が同じでも良いし、異なる膜厚でも良い。入射面からの距離が小さいほど光学系の収差が小さいことを考慮して、入射側に近い中間層をより薄くすることも有効である。
中間層材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化樹脂、粘着材等を用いることが可能である。紫外線硬化樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系ポリマーやポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系ポリマー、光重合開始剤などの混合物からなる。
光重合開始剤としては公知のものを用いることができ、光重合開始剤のうち、光ラジカル開始剤としては、例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、例えば、紫外線硬化樹脂剤組成物(固形分として)中に0.5〜5質量%程度である。
【0167】
また、必要に応じて、非重合性の希釈溶剤、光重合開始助剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料、ケイ素化合物などを含んでいても差し支えない。前記非重合性の希釈溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、エチルセロソルブ、トルエンなどが挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系、及びシアノアクリレート系の化合物を挙げることができる。
紫外線硬化樹脂層は既知の製膜方法により形成することができる。例えばエアドクタコート、ブレードコート、ロッドコート、ナイフコート、スクイズコート、含侵コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート、スプレーコート、スピンコート、ホットメルトコート、蒸着、エクストルージョン等を用いることができる。
【0168】
粘着層に使用される粘着剤としては、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコン系の粘着剤を使用することができる。透明性、耐久性の観点から、アクリル系の粘着剤が好ましい。
アクリル系の粘着剤としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、2−エチルヘキシルアクリレート等の低Tgモノマーを主モノマーとし、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基モノマーと共重合することで得られたアクリル共重合体をイソシアネート系、メラミン系、エポキシ系、ウレタン系等の架橋剤にて架橋することにより得ることができる。他の光硬化性のオリゴマー・モノマーや、重合開始剤、希釈溶剤、粘着付与剤、酸化防止剤、増感剤、架橋剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、充填材、熱可塑性樹脂・染料・顔料等が硬化や添加できる。これら粘着剤組成物をセパレータ上に塗工する。
【0169】
セパレータには離型処理された厚み25〜100μmのポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、トリアセチルセルロースフィルム等のプラスチックフィルムもしくは紙が使用できる。それらの中で、更に平滑な表面が得易く生産性に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましい。セパレータの粘着剤層と接する面には離型剤処理を行っている。この離型剤としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アルキル基を有する樹脂等の単体や変性体、混合物等が挙げられる。その中で、接着剤層の軽剥離が容易に得ることができるシリコーン樹脂が好ましく使用でき、特に熱や紫外線、電子線等で硬化したシリコーン樹脂は、接着剤層へのシリコーン樹脂の転着が少ない等の理由からより好ましく使用できる。
【0170】
粘着層は既知の製膜方法によりセパレータ上に塗工することができる。例えばエアドクタコート、ブレードコート、ロッドコート、ナイフコート、スクイズコート、含侵コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート、スプレーコート、スピンコート、ホットメルトコート等を用いることができる。塗工したのち乾燥、活性エネルギー線照射等により硬化させ、粘着材中間層とする。また、硬化を完全に終了しない状態で媒体上に積層し、積層後に加熱、紫外線照射などの方法により硬化を完了させることも可能である。
【0171】
中間層は媒体上に直接製膜しても良いし、あらかじめ記録層との積層構造を作成しておいてから、媒体上に積層しても良い。中間層に粘着層を用いる場合には例えば、特開2005−209328、特開2011−81860等記載の既存の方法により、記録層、中間層を圧着させることにより積層体を形成することができる。さらに積層体同士を積層することにより2層以上の記録層及び中間層を含む積層体を形成することも可能である。この積層体は粘着層を、基板、ガイド層、反射層、カバーシート、スペーサー層、すでに形成した記録層または中間層に対向させ、ローラー等で加圧接触させることにより媒体上に積層することができる。
【0172】
[記録層]
本発明の記録層は、記録光を照射すると、色素部分が記録光を吸収して発生する熱により高分子部分が変形し、隣接する層との界面に凸形状が形成されることで情報が記録される。
記録再生に必要な信号強度を得るための形状変化には、膨張させるための、ある程度の厚みの記録層が必要であり、その範囲は、50nm〜5μm、望ましくは100nm〜3μm、より望ましくは200nm〜2μmの厚さで形成されている。
記録層には必要に応じてバインダ、褪色防止剤、発熱剤、可塑剤、屈折率調整剤等の添加物を加えても良い。
【0173】
バインダとしては、例えばゼラチン、セルロース誘導体、デキストラン、ロジン、ゴム等の天然有機高分子物質;及びポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン等の炭化水素系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル・ポリ酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂;ポリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、ゴム誘導体、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の熱硬化性樹脂の初期縮合物等の合成有機高分子を挙げることができる。
褪色防止剤としては、有機酸化剤や一重項酸素クエンチャーを挙げることができる。褪色防止剤として用いられる有機酸化剤としては、特開平10−151861号公報に記載されている化合物が好ましい。一重項酸素クエンチャーとしては、既に公知の特許明細書等の刊行物に記載のものを利用することができる。その具体例としては、特開昭58−175693号、同59−81194号、同60−18387号、同60−19586号、同60−19587号、同60−35054号、同60−36190号、同60−36191号、同60−44554号、同60−44555号、同60−44389号、同60−44390号、同60−54892号、同60−47069号、同63−209995号、特開平4−25492号、特公平1−38680号、および同6−26028号等の各公報、ドイツ特許350399号明細書、そして日本化学会誌1992年10月号第1141頁などに記載のものを挙げることができる。
【0174】
可塑剤としては例えば、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート)、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、ジエチルセバケート、ジブチルスベレート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、ジブチルフタレート等が挙げられる。屈折率調整剤としては各種高分子材料やSiO2、TiO2等透明な無機物の微粒子等を用いることが可能である。
【0175】
記録層は既知の製膜方法により形成することができる。例えばエアドクタコート、ブレードコート、ロッドコート、ナイフコート、スクイズコート、含侵コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート、スプレーコート、スピンコート、ホットメルトコート、蒸着、エクストルージョン等を用いることができる。
溶剤コートを用いる場合は記録層成分を塗布溶媒に溶解もしくは分散させる。塗布溶媒は、記録層成分の溶解性、分解性と塗布適性等を考慮し選択することができ、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラフルオロプロパノール等のアルコール系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;四塩化炭素、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;水などが1種あるいは複数混合して用いられる。これら溶媒と記録層成分を混合した後、攪拌、超音波、加熱するなどして塗布溶剤を調整する。使用した溶媒は乾燥時に蒸発除去することができる。蒸発除去には加熱や減圧を用いても良い。
【0176】
記録層は基板上に直接形成しても良いし、あらかじめ中間層との積層構造を作成しておいてから、基板上に積層しても良い。中間層に粘着層を用いる場合には例えば、特開2005−209328、特開2011−81860等記載の既存の方法により、記録層をセパレータ上、もしくは剥離補助層上に塗布形成した後に、中間層と積層することにより、記録層、中間層の積層体を形成することができる。
記録層の層数は1層以上あれば良く、記録層は中間層を隔てて積層することにより層数を増やすことも可能である。
【0177】
[スペーサー層]
ガイド層は凹凸形状を設けてあることから、ガイド層からの反射光は周波数成分をもつこととなり、記録再生信号に影響を及ぼす。そのためガイド層とガイド層に最も近い記録層を空間的に分離し、ガイド層からの反射光の影響を低減するためのスペーサー層を設けることができる。
スペーサー層の厚みは5μm〜100μmの範囲であることが好ましく、10μm〜50μmの範囲であることがより好ましく、20μm〜40μmとすることが更に好ましい。
スペーサー層材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化樹脂、粘着材等を用いることが可能である。また中間層と同じ材料でも良い。
【0178】
[カバー層]
記録層の保護の観点から、記録層よりも光入射側表面側に、カバー層を設けても良い。カバー層は薄すぎると、記録再生時にカバー層表面の傷や汚れをコントラスト良く検出してしまい、一方、光学系の収差は入射側表面から記録層までの距離が大きくなるにつれ大きくなることから、カバー層厚みには好適な範囲がある。具体的には、一般にカバー層の厚さは0.01mm〜0.2mmの範囲であり、0.02mm〜0.1mmの範囲とすることが好ましく、0.03mm〜0.07mmの範囲であることがより好ましい。
カバー層形成手段としては従来の光ディスクで用いられている、紫外線硬化樹脂組成物を表面に形成し硬化する方式や、フィルムを接着剤、粘着材などを介して貼り付ける方式などを用いることができる。
紫外線硬化樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系ポリマーやポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系ポリマー、光重合開始剤などの混合物からなる。
光重合開始剤としては公知のものを用いることができ、光重合開始剤のうち、光ラジカル開始剤としては、例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、例えば、紫外線硬化樹脂剤組成物(固形分として)中に0.5〜5質量%程度である。
【0179】
また、必要に応じて、非重合性の希釈溶剤、光重合開始助剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料、ケイ素化合物などを含んでいても差し支えない。前記非重合性の希釈溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、n − ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸イソプロピル、酢酸n − ブチル、エチルセロソルブ、トルエンなどが挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系、及びシアノアクリレート系の化合物を挙げることができる。
また、紫外線硬化型組成物には、必要であれば、さらにその他の添加剤として、熱重合禁止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、ホスファイト等に代表される酸化防止剤、可塑剤およびエポキシシラン、メルカプトシラン、(メタ)アクリルシラン等に代表されるシランカップリング剤等を、各種特性を改良する目的で配合することもできる。これらは、硬化型成分への溶解性に優れたもの、紫外線透過性を阻害しないものを選択して用いることが好ましい。
これらの紫外線硬化樹脂は、フィルムを貼り付ける場合に、接着剤として用いることが可能である。
【0180】
粘着層に使用される粘着剤としては、例えば、アクリル系、ゴム系、シリコーン系の粘着剤を使用することができる。透明性、耐久性の観点から、アクリル系の粘着剤が好ましい。
アクリル系の粘着剤としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、2−エチルヘキシルアクリレート等の低Tgモノマーを主モノマーとし、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル等の官能基モノマーと共重合することで得られたアクリル共重合体をイソシアネート系、メラミン系、エポキシ系、ウレタン系等の架橋剤にて架橋することにより得ることができる。他の光硬化性のオリゴマー・モノマーや、重合開始剤、希釈溶剤、粘着付与剤、酸化防止剤、増感剤、架橋剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、充填材、熱可塑性樹脂・染料・顔料等が硬化や添加できる。これら粘着剤組成物をセパレータ上に塗工する。
セパレータには離型処理された厚み25〜100μmのポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム、トリアセチルセルロースフィルム等のプラスチックフィルムもしくは紙が使用できる。これらの中で、更に平滑な表面が得易く生産性に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましい。セパレータの粘着剤層と接する面には離型剤処理を行っている。この離型剤としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アルキル基を有する樹脂等の単体や変性体、混合物等が挙げられる。その中で、接着剤層の軽剥離が容易に得ることができるシリコーン樹脂が好ましく使用でき、特に熱や紫外線、電子線等で硬化したシリコーン樹脂は、接着剤層へのシリコーン樹脂の転着が少ない等の理由からより好ましく使用できる。
【0181】
粘着層は既知の製膜方法によりセパレータ上に塗工することができる。例えばエアドクタコート、ブレードコート、ロッドコート、ナイフコート、スクイズコート、含侵コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート、スプレーコート、スピンコート、ホットメルトコート等を用いることができる。塗工したのち乾燥、活性エネルギー線照射等により硬化させ、粘着層とする。その後、フィルム材料と粘着層をラミネータにより積層することで粘着層付きカバー層を形成することができる。
フィルムを貼り合せる場合、用いるフィルムは、透明な材質であれば、特に限定されないが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;アモルファスポリオレフィン;ポリエステル;三酢酸セルロース等を使用することが好ましく、中でも、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィンまたは三酢酸セルロースを使用することがより好ましい。
なお、「透明」とは、記録および再生に用いられる光に対して、透過率80%以上であることを意味する。
【0182】
[ハードコート層]
記録再生装置の対物レンズの接触や、ハンドリングによる傷、指紋等の汚れを防ぐために、光入射側表面にハードコート層を設けることができる。ハードコート層は予めカバー層表面に形成しておいても良いし、紫外線硬化樹脂組成物の形態で準備しておいてディスク製造工程においてスピンコート等を用いて表面に塗布、硬化させて形成しても良い。
ハードコート層は一般に、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系ポリマーやポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系ポリマー、SiOの微粒子、光重合開始剤などの混合物からなる。光重合開始剤としては公知のものを用いることができ、光重合開始剤のうち、光ラジカル開始剤としては、例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(いずれもチバスペシャルティケミカルズ社製)が挙げられる。光重合開始剤の含有量は、例えば、ハードコート剤組成物(固形分として)中に0.5〜5質量%程度である。
【0183】
また、ハードコート剤組成物はさらに、必要に応じて、非重合性の希釈溶剤、光重合開始助剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料、ケイ素化合物などを含んでいても差し支えない。前記非重合性の希釈溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、n − ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸イソプロピル、酢酸n − ブチル、エチルセロソルブ、トルエンなどが挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系、及びシアノアクリレート系の化合物を挙げることができる。
ハードコート材料としては具体的には特開2004−292430、特開2005−112900記載の化合物や、市販品例えばHC―3(DIC株式会社製)を用いることも可能である。
ハードコート層は上述したカバー層を兼ねていても良く、その場合、カバー層として必要な厚みにハードコート層を形成することで形成できる。
【0184】
[記録媒体の作成]
上述の各構成要素を必要に応じた組み合わせ、順序で積層することで、本発明の光情報記録媒体を製造することが可能である。
本発明の光情報記録媒体は、非共鳴2光子吸収化合物を含む非共鳴2光子吸収記録材料からなる記録層を有し、かつ入射光に対して奥側から、基板、ガイド層、反射層、スペーサー層、中間層に挟まれた記録層の積層構造、及び入射光表面側にカバー層、ハードコート層を有する光情報記録媒体であることが好ましい。
図2に本発明の光情報記録媒体の1例を示す。図2に記載の光情報記録媒体10は、基板上にガイド層12、反射層、スペーサー層、中間層、記録層11をこの順に有している。記録層は中間層に挟まれた構成となっている。また、入射光表面側にカバー層、ハードコート層を有している。
【0185】
[識別情報の形成]
記録媒体1枚毎に識別情報等を設ける目的で、媒体の一部にバーコード等によるマーキングを行うことが可能である。
マーキング方法としては、特許第3143454号、特許第3385285号等に記載の従来の光ディスクで用いられている反射層へのレーザー照射による熱破壊による方法の他、記録層へのレーザー照射や印刷等の方法を用いることが可能である。
【0186】
[カートリッジ]
記録媒体を落下やハンドリングによる傷から守る、耐光性を持たせる目的で、記録媒体をカートリッジに収納することも可能である。その場合、従来の光ディスクで用いられているカートリッジを用いることができる。
【0187】
次に、記録再生装置の構成について説明する。図1に示すように、記録再生装置1は、スピンドル50に保持された光情報記録媒体10に対し情報の記録・再生を行う装置である。
記録再生装置1は、光情報記録媒体10に対面して対物レンズ21を有し、対物レンズ21の光軸上に、対物レンズ21から順に、DBS(ダイクロイックビームスプリッタ)22、λ/4板23a、収差補正のためのビームエキスパンダ24、PBS(偏光ビームスプリッタ)25a、λ/2板26a、PBS25b、ミラー27を備えている。
【0188】
そして、ミラー27の、対物レンズ21の光軸方向に直交する方向には、λ/2板26b、コリメートレンズ28、ピンホール29、集光レンズ30、変調器31、および記録用レーザ32が順に配置されている。
また、PBS25bの反射方向にはλ/2板26c、コリメートレンズ33、再生用レーザ34が順に配置されており、PBS25aの反射方向にはビームスプリッタ35が配置されており、ビームスプリッタ35で分岐される一方には集光レンズ36、ピンホール37、再生光受光素子38が配置され、もう一方には集光レンズ39、シリンドリカルレンズ40、再生フォーカス用受光素子41が配置されている。
DBS22の対物レンズ21の光軸方向に直交する方向には、λ/4板23b、PBS25cが配置されており、PBS25cの一方、対物レンズ21の光軸方向に直交する方向に、λ/2板26d、コリメートレンズ42、ガイド層用レーザ光源43が順に配置され、PBS25cのもう一方、対物レンズ21の光軸方向に平行な方向には、集光レンズ44、シリンドリカルレンズ45、ガイド光用受光素子46が順に配置されている。
【0189】
対物レンズ21は、ガイド光をガイド層に、記録光および再生光を複数の記録層11のうちの一つに収束するレンズである。対物レンズ21は、制御装置60により駆動されるレンズアクチュエータ47により光軸方向に移動され、ガイド光をガイド層12に、記録光および再生光を任意の記録層11に焦点を合わせることができるようになっている。また、レンズアクチュエータ47により対物レンズ21を光軸に平行な方向に移動することによって、記録光および読出光のトラッキング位置を制御することができるようになっている。
【0190】
ビームエキスパンダ24は、制御装置60によって対物レンズ21に入射する光の収束、発散状態を変化させる光学素子であり、記録再生を行う記録層11の深さおよび、球面収差を補正する機能を果たす。
【0191】
λ/4板23a、23bは、直線偏光を円偏光に変換し、円偏光を回転方向に応じた向きの直線偏光に変換する光学素子であり、光情報記録媒体10に入射する光の直線偏光の方向と反射光の直線偏光の向きを90°異ならせる役割を果たす。
【0192】
λ/2板26a、26b、26c、26dはそれぞれ入射する直線偏光の偏光方向を回転させる光学素子であり、所定の偏光方向に制御することによってPBSを透過する際の透過率を制御することができる。
【0193】
PBS25a、25bは、特定の偏光の光を反射して分離する光学素子であり、記録用レーザ32から出射された記録光および再生用レーザ38から出射された読出光を通過させて光情報記録媒体10へ向けて進めるとともに、光情報記録媒体10から返ってきた再生光を反射してビームスプリッタ35に向けて進める機能を果たす。
同様に、PBS25cはガイド層用レーザ光源43からの光を光情報記録媒体10に向けて透過させるとともに、反射した光をガイド光用受光素子46に向けて反射させる。
【0194】
ビームスプリッタ35は、光の偏光状態によらず所定の分岐比で光を分割する光学素子であり、PBS25aによって導かれた再生光を再生フォーカス用受光素子41および再生光受光素子38に配分する機能を果たす。
【0195】
DBS22は、特定の波長域の光を反射し、その他の波長域の光を透過させる光学素子であり、記録光および再生光を透過し、ガイド層用レーザ光を反射するものが用いられている。本実施形態では、側方から入射されるガイド層用レーザ光を光情報記録媒体10へ向けるために配置されている。
【0196】
再生用レーザ34は、405nmのCW(Continuous Wave)レーザである。再生用レーザ34は、記録スポットと同等以下の小さなビームに絞れるのが望ましいため、記録用レーザ32と同じ波長または短い波長で発光するものを用いるとよい。再生用レーザ34の出力は、制御装置60により制御される。
【0197】
ガイド層用レーザ43は、650nmのCWレーザである。ガイド層用レーザ43からの光は対物レンズ21によって集光され、光情報記録媒体10のガイド層12に集光される。ガイド層用レーザ光は記録光および再生光と異ならせることにより、DBS22によって分離することができる。ガイド層用レーザ43の出力は、制御装置60により制御される
【0198】
記録用レーザ32は405nmのパルスレーザである。記録層11において多光子吸収反応を効率的に起こさせるため、記録用レーザ32としては、CWレーザよりもピークパワーが大きいパルスレーザを用いるのが望ましい。記録用レーザ32の出力は、制御装置60により制御される。記録用レーザとして好ましいピークパワーとしては光情報記録媒体10の表面上で1W〜100Wの範囲であることが望ましい。ピークパワーが1Wを下回ると記録スポットにおける光子密度が低下するため効率的な多光子吸収反応が生じなくなるという問題があり、また100W以上であると、記録用レーザの平均出力が高くなるため、記録に用いる記録用パルスレーザが大型になるという問題が生じる。このため好ましい記録用レーザ平均出力としては光情報記録媒体上で100mW以下が好ましい。パルスレーザの平均出力は、ピークパワーとパルス幅と発振周期の積で求められる。好ましいピークパワーが1W〜100Wの範囲であるので、平均パワーを100mW以下とするには、パルス幅と発振周期の積が0.001〜0.1の範囲であることが望ましい。記録用レーザとして好ましいパルス発振周期は、十分な記録速度を確保するために50MHz以上であることが望ましい。十分な発振周期としてより好ましい500MHzを選択すると、平均パワー100mW以下とするにはピークパワーが1W〜100Wのときパルス幅をそれぞれ200psec〜2psec以下の範囲で選択すれば良い。
非共鳴2光子吸収記録方法としては、本発明における光情報記録媒体に、400〜450nmの範囲の波長のレーザー光を照射して3次元に情報を記録する方法が好ましい。
【0199】
変調器31は、記録用レーザ32から発されたパルスレーザ光の内の一部のパルス光を間引いてパルスレーザ光に時間的な変調を与えて情報をエンコードする装置である。変調器42としては、音響光学素子(AOM)、マッハツェンダ(MZ)型光変調素子その他の電気光学変調素子(EOM)を用いることができる。変調器31として、これらの音響光学素子、電気光学素子を用いることで、メカニカルシャッタを用いる場合に比較して極めて高速に光のON・OFFを行うことができる。変調器31の動作は、制御装置60が、記録すべき情報に応じてエンコードした信号を変調器31に出力することで制御される。
【0200】
ガイド光用受光素子46および41は、4分割フォトディテクタ等を用い、非点収差法などによってフォーカス制御用の信号を得るための素子である。具体的には、集光レンズ39、44およびシリンドリカルレンズ40,45を通過することにより与えられた非点収差を最小化するよう制御装置60によってビームエキスパンダ24、またはレンズアクチュエータ47を制御することによってフォーカシングを行うことができる。
【0201】
再生光受光素子38は、再生された情報を含む再生光を受光する素子であり、再生光受光素子38で検出した信号は、制御装置60へ出力され、制御装置60において情報へと復調される。再生フォーカス用受光素子41が受光した光は、シリンドリカルレンズ40を通過しているので、光量分布を制御装置60に出力することで、制御装置60において、非点収差法により、記録光および再生光のフォーカシングサーボのための制御量を得ることができる。
【0202】
ピンホール板37は、集光レンズ36で収束された光の焦点付近に配置され、共焦点光学系を構成することで光情報記録媒体10の所定の深さ位置からの反射光のみを通過させ、不要な光をカットすることができる。
【0203】
また、制御装置60は、ガイド光用受光素子46で検出されるガイド層用レーザ光の非点収差によってレンズアクチュエータ47を制御し、対物レンズ21の光軸方向の位置をガイド光の焦点位置がガイド層上になるように制御し、また、ガイド光用受光素子46で検出される差動信号によるプッシュプル法(DPP法)または位相差信号による位相差法(DPD法)によってレンズアクチュエータ21を制御し、対物レンズ21の光軸に直行する方向の位置を制御しトラッキング位置を調整する。また、再生フォーカス用受光素子38で検出される再生光の非点収差によってビームエキスパンダ24を制御し、記録再生光の焦点位置が所定の記録層11にフォーカシングするように制御する。
【0204】
記録再生装置1は、上記した構成の他に、従来公知の光記録再生装置と同様の構成を有する。例えば、光情報記録媒体10の記録層11の平面内で記録スポットを多数記録するため、記録光および再生光と光情報記録媒体10を互いに記録層11の平面方向に相対的に移動させるアクチュエータなどを備えている。
【0205】
以上のように構成された記録再生装置1による記録再生方法について説明する。
情報の記録時において、記録再生装置1は、記録用レーザ32からパルスレーザ光を発し、変調器31によりパルスレーザ光の一部を間引いてパルスレーザ光に情報をエンコードする。情報をエンコードされた光は、PBS25b、λ/2板26a、PBS25aを透過し、ビームエキスパンダ24によって収束、発散状態が制御された後、λ/4板23a、DBS22を透過し、対物レンズ21で所定の記録層11に収束される。パルスレーザ光の照射と同時に、再生用レーザ34からCWレーザ光を発し、CWレーザ光は、PBS25bを反射した後、記録用レーザ光と同様に対物レンズ21で収束する。光情報記録媒体10から返ってきたCWレーザ光は、対物レンズ21、DBS22、λ/4板23a、ビームエキスパンダ24、を通過してPBS25aで反射され、集光レンズ36およびピンホール板37を通って再生光受光素子38に入射する。
【0206】
制御装置60は、ガイド光用受光素子46および再生フォーカス用受光素子41から受けた信号に基づき、ガイド光、記録光および再生光の焦点位置を計算し、レンズアクチュエータ21およびビームエキスパンダ24を駆動することで対物レンズの位置および、記録光と再生光が所定の記録層11にフォーカシングするように制御する。
【0207】
これにより、光の強度に応じて(2光子吸収反応であれば光の強度の2乗に比例して)、光の強度が高い焦点付近ほど光の吸収反応が多く起こり、この反応に応じて記録層が変化する。
【0208】
情報の再生時には、記録用レーザ32を停止し、再生用レーザ34を駆動して、CWレーザ光を光情報記録媒体10に照射する。このとき、記録時と同様に、光情報記録媒体10から返ってきたCWレーザ光(再生光)は、PBS25aで反射されて再生光受光素子38および再生フォーカス用受光素子41に入射する。
【0209】
このようにして、制御装置60は、記録部分における反射光強度と未記録部分における反射光強度との違いにより得られる変調から情報を復調することができる。すなわち、情報を再生することができる。
【0210】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することが可能である。
【実施例】
【0211】
以下に、本発明の具体的な実施例について実験結果を基に説明する。勿論、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0212】
本発明の化合物D−6及びD−29の合成法を以下に示す。
【0213】
<化合物D−6合成法>
化合物D−6は以下に示した方法で合成した。
【0214】
【化19】

【0215】
原料化合物1の合成
ヨウ化カリウム33.2g(200mmol)を純水150mlに溶解させ、内温0℃まで冷却した後、3回に分けてアゾイックジアゾコンポーネント48を10.0g(15.7mmol)添加して5時間攪拌した。反応溶液に酢酸エチルを加えて抽出した後に10質量%水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水、5質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。ろ別したろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラム(トルエン)で精製して白色の化合物1を5.4g(収率74%)得た。得られた化合物1はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0216】
原料化合物2の合成
アニソール27.0g(250mmol)と4−ブロモベンゾイルクロリド42.9g(200mmol)を塩化メチレン500mlに溶解させ、内温5℃まで冷却した後、6回に分けて塩化アルミニウムを33.4g(250mmol)添加して窒素雰囲気下で8時間攪拌した。反応溶液を水に注ぎ込んだ後に塩化メチレンで抽出し、ロータリーエバポレーターで蒸発乾固させて白色の化合物2を定量的に得た。得られた化合物2はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0217】
原料化合物3の合成
原料化合物2 35.0g(120mmol)に対して臭化水素酸140ml、酢酸220mlを加えて内温110℃で12時間半攪拌した。室温まで放冷した後、反応溶液を水に注ぎ込み室温で20分間攪拌した。沈殿をろ過した後に純水、ヘキサン:酢酸エチル=5:1で洗浄し減圧乾燥させて白色の化合物3を定量的に得た。得られた化合物3はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0218】
原料化合物4の合成
原料化合物3を10.0g(36.1mmol)、水酸化カリウム2.43g(43.3mmol)に対してジメチルアセトアミド240mlを加えて窒素雰囲気下、外温90℃で2時間攪拌した。その後2−エチルヘキシルブロミド8.36g(43.3mmol)を加えてさらに5時間攪拌した。室温まで放冷した後に反応溶液を水に注ぎ込み析出した沈殿をろ過し、シリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製して白色の化合物4を6.2g(収率44%)得た。得られた化合物4はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0219】
原料化合物5の合成
原料化合物4を6.00g(15.4mmol)、ビスピナコラートジボロン4.30g(16.9mmol)、[1、1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物628mg(0.77mmol)、酢酸カリウム4.53g(46.2mmol)に対してジメチルスルホキシド80mlを加え、窒素雰囲気下、内温90℃で5時間攪拌した。室温まで放冷した後、塩化メチレンで抽出しロータリーエバポレーターで濃縮した後にシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:2)で精製して白色の化合物5を6.32g(収率94%)得た。得られた化合物5はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0220】
原料化合物6の合成
原料化合物1を19.6g(42.0mmol)、原料化合物5を6.10g(14.0mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム808mg(0.70mmol)、炭酸カリウム5.80g(42.0mmol)に対してトルエン50ml、水10mlを加え、窒素雰囲気下、外温90℃で7時間攪拌した。室温まで放冷した後、塩化メチレンで抽出しロータリーエバポレーターで濃縮した後にシリカゲルカラム(トルエン)で精製して白色の化合物6を1.4g(収率15%)得た。得られた化合物6はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0221】
化合物D−6の合成
原料化合物6を1.40g(2.16mmol)、4−シアノフェニルボロン酸952mg(6.48mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム125mg(0.108mmol)、炭酸カリウム1.19g(8.64mmol)に対してトルエン12ml、水2.5mlを加え、窒素雰囲気下、外温90℃で4時間攪拌した。室温まで放冷した後、塩化メチレンで抽出しロータリーエバポレーターで濃縮した後にシリカゲルカラム(トルエン)で精製して白色の化合物D−6を850mg(収率63%)得た。
H NMR(CDCl3) 7.91−7.83(m,4H)、7.73−7.68(m,6H)、7.48(d,1H)、7.41(d,1H)、7.37−7.31(m,2H)、7.25(d,2H)、6.99(d,2H)、3.96(m,8H)、1.78(m,1H)、1.59−1.33(m,8H)、0.98−0.90(m,6H)
【0222】
<化合物D−29合成法>
化合物D−29は以下に示した方法で合成した。
【0223】
【化20】

【0224】
原料化合物7の合成
ジエチレングリコール105.1g(990mmol)とアセトニトリル200mlの溶液にトリエチルアミン36.7g(360mmol)を加えて内温5℃まで冷却した。その後アセトニトリル200mlに溶解したトシルクロリド62.9g(362mmol)を滴下しながら窒素雰囲気下で5時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル−水で抽出後、飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別した後ロータリーエバポレーターでろ液を濃縮した後にシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)で精製して無色の化合物7を59.7g(収率69%)得た。得られた化合物7はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0225】
原料化合物8の合成
原料化合物7を55.7g(214mmol)とアセトニトリル100mlの溶液に、トリエチルアミン23.8g(235mmol)を加えて内温5℃まで冷却した。その後アセトニトリル100mlに溶解したアセチルクロリド18.4g(235mmol)を滴下しながら窒素雰囲気下で3時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル−水で抽出後、飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別した後ロータリーエバポレーターでろ液を濃縮した後にシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製して無色の化合物8を46.4g(収率72%)得た。得られた化合物7はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0226】
原料化合物9の合成
1,2−ジメトキシベンゼン50.0g(362mmol)と4−ブロモベンゾイルクロリド63.6g(290mmol)を塩化メチレン1200mlに溶解させ、内温5℃まで冷却した後、6回に分けて塩化アルミニウムを48.3g(362mmol)添加して窒素雰囲気下で6時間攪拌した。反応溶液を水に注ぎ込んだ後に塩化メチレンで抽出し、ロータリーエバポレーターで蒸発乾固させて白色の化合物9を89.9g(収率97%)得た。得られた化合物9はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0227】
原料化合物10の合成
原料化合物9 32.3g(100mmol)に対して臭化水素酸120ml、酢酸210mlを加えて内温110℃で60時間攪拌した。室温まで放冷した後、反応溶液を水に注ぎ込み室温で20分間攪拌した。沈殿をろ過した後に純水、ヘキサン:酢酸エチル=5:1で洗浄し減圧乾燥させて白色の化合物10を定量的に得た。得られた化合物10はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0228】
原料化合物11の合成
原料化合物10を15.8g(54.0mmol)、原料化合物8を34.3g(113mmol)、炭酸カリウム18.0g(130mmol)に対してアセトニトリル250mlを加えて窒素雰囲気下、外温70℃で6時間攪拌した。反応溶液を酢酸エチル−水で抽出後、飽和食塩水で洗浄し硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別した後ロータリーエバポレーターでろ液を濃縮した後にシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製して白色の化合物11を21.2g(収率71%)得た。得られた化合物11はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0229】
原料化合物12の合成
原料化合物11を7.16g(12.9mmol)、ビスピナコラートジボロン3.61g(14.2mmol)、[1、1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物527mg(0.645mmol)、酢酸カリウム3.80g(38.7mmol)に対してジメチルスルホキシド65mlを加え、窒素雰囲気下、内温90℃で5時間攪拌した。室温まで放冷した後、塩化メチレンで抽出しロータリーエバポレーターで濃縮した後にシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製して白色の化合物12を4.85g(収率63%)得た。得られた化合物12はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0230】
化合物D−29の合成
原料化合物12を4.82g(8.03mmol)、原料化合物1を1.25g(2.68mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム123mg(0.134mmol)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’、6’−ジメトキシビフェニル220mg(0.536mmol)、リン酸カリウム1.71g(8.04mmol)に対してジメトキシエタン20mlを加え、窒素雰囲気下、内温80℃で4時間攪拌した。室温まで放冷した後、塩化メチレン、水で抽出しロータリーエバポレーターで濃縮した後にシリカゲルカラム(酢酸エチル・塩化メチレン)で精製して白色の化合物D−29を2.0g(収率65%)得た。得られた化合物D−29はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
H NMR(CDCl3) 7.85(d,4H)、7.71(d,4H)、7.54(d,2H)、7.48(d,4H)、7.35(dd,2H)、7.25(d,2H)、6.97(d,2H)、4.27(m,16H)、3.95(m,14H)、3.83(m,8H)、2.10(s,12H)
【0231】
<化合物D−1合成法>
化合物D−1は以下に示した方法で合成した。
【0232】
【化21】

【0233】
原料化合物13の合成
4,4’−ジブロモビフェニルを14.0g(45.0mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1.30g(1.13mmol)、炭酸カリウム9.33g(67.5mmol)に対してトルエン110ml、水20mlを加え、窒素雰囲気下、外温90℃で攪拌しながら4−シアノフェニルボロン酸3.32g(22.6mmol)を分割添加し、5時間攪拌した。室温まで放冷した後、析出した固体をろ別し酢酸エチルで洗浄し白色の化合物13を5.02g(収率67%)得た。得られた化合物13はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0234】
原料化合物14の合成
原料化合物13を5.01g(15.0mmol)、ビスピナコラートジボロン4.20g(16.5mmol)、[1、1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物614mg(0.75mmol)、酢酸カリウム4.41g(44.9mmol)に対してジメチルスルホキシド75mlを加え、窒素雰囲気下、内温90℃で60時間攪拌した。室温まで放冷した後、酢酸エチルと水で希釈し、析出した固体をろ別し、シリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:2)で精製して白色の化合物14を4.40g(収率77%)得た。得られた化合物14はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0235】
D−1の合成
原料化合物4を1.02g(2.62mmol)、原料化合物14を1.00g(2.62mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム151mg(0.13mmol)、炭酸カリウム1.09g(7.86mmol)に対してトルエン15ml、水2。5mlを加え、窒素雰囲気下、外温90℃で12時間攪拌した。室温まで放冷した後、酢酸エチルと水で希釈し、析出した固体をろ別し、シリカゲルカラム(酢酸エチル)で精製し、固化させた後に酢酸エチルで洗浄し白色の化合物D−1を1.1g(収率74%)得た。得られた化合物D−1はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
H NMR(CDCl3) 7.90−7.83(m,4H)、7.81−7.70(m,14H)、6.99(d,2H)、3.94(d,2H)、1.77(m,1H)、1.59−1.31(m,8H)、0.98−0.88(m,6H)
【0236】
<化合物D−2合成法>
化合物D−2は以下に示した方法で合成した。
【0237】
【化22】

【0238】
原料化合物15の合成
原料化合物aを5.00g(19.8mmol)にトリエチルアミン5.7ml(40mmol)を加えて窒素雰囲気下、外温0℃まで冷却した。メタンスルホン酸クロリド2.5ml(32mmol)を30分かけて滴下しながら12時間攪拌した。反応溶液を塩化メチレンで抽出後、0.1N塩酸で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ別した後ロータリーエバポレーターでろ液を濃縮し、その後アセトにトリル50ml、テトラブチルアンモニウムブロミド12.8g(39.7mmol)を加えて窒素雰囲気下、外温50℃で20時間攪拌した。室温まで放冷した後、酢酸エチルー水で抽出後硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ別した後、ロータリーエバポレーターでろ液を濃縮して赤色の液体15を3.00g(収率48%)得た。得られた化合物15はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0239】
原料化合物16の合成
原料化合物3を2.00g(7.22mmol)、水酸化カリウム486mg(8.66mmol)に対してジメチルアセトアミド36mlを加えて窒素雰囲気下、外温90℃で2時間攪拌した。その後原料化合物15を2.73g(8.66mmol)を加えてさらに6時間攪拌した。室温まで放冷した後に酢酸エチルー水で抽出後硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ別した後ロータリーエバポレーターでろ液を濃縮して、シリカゲルカラム(酢酸エチル)で精製して黄色の化合物16を定量的に得た。得られた化合物16はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
【0240】
D−2の合成
原料化合物16を4.03g(7.88mmol)、原料化合物14を2.00g(5.25mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム304mg(0.26mmol)、炭酸カリウム2.18g(15.8mmol)に対してトルエン26ml、水5mlを加え、窒素雰囲気下、外温90℃で4時間攪拌した。室温まで放冷した後、酢酸エチルと水で希釈し、析出した固体をろ別し、シリカゲルカラム(クロロホルム)で精製し、固化させた後に酢酸エチルで洗浄し白色の化合物D−2を2.22g(収率41%)得た。得られた化合物D−2はH NMRにより目的生成物であることを確認した。
H NMR(CDCl3) 7.88―7.83(m,4H)、7.81−7.70(m,14H)、7.01(d,2H)、4.23(t,2H)、3.91(t,2H)、3.74(t,2H)、3.70−3.61(m,12H)、3.55(t,2H)、3.38(s,3H)
【0241】
<2光子吸収断面積測定法>
合成した化合物の2光子吸収断面積の測定は、MANSOOR SHEIK−BAHAE et al.,IEEE.Journal of Quantum Electronics.1990,26,760.記載のZスキャン法で行った。Zスキャン法は、非線形光学定数の測定方法として、広く用いられている方法であり、集光したレーザビームの焦点付近で、測定試料をビームに沿って移動させ、透過する光量の変化を記録する。試料の位置により、入射光のパワー密度が変化するため、非線形吸収がある場合には、焦点付近で透過光量が減衰する。透過光量変化を、入射光強度、集光スポットサイズ、試料厚み、試料濃度などから予測される理論曲線に対し、フィッティングを行うことにより、2光子吸収断面積を算出した。2光子吸収断面積測定用の光源には、再生増幅器、光パラメトリック増幅器を組み合わせたTi:sapphireパルスレーザー(パルス幅:100fs、繰り返し:80MHz、平均出力:1W、ピークパワー:100kW)を用いた。2光子吸収測定用の試料には、おおよそ1×10-3mol/lの濃度でクロロホルムに化合物を溶かした溶液を用いた。
【0242】
<2光子吸収断面積の評価>
本発明の化合物D−1、D−2、D−6、D−29及び下記比較化合物R−1〔特許文献5(特開2010−108588号公報)に化合物D−1として記載〕の2光子吸収断面積は下記表1に示した。
【0243】
【化23】

【0244】
【表1】

【0245】
<2光子吸収化合物の溶解性評価>
本発明の化合物D−1、D−2、D−6、D−29及び比較化合物R−1のジクロロメタンに対する溶解性(室温)を評価した。比較化合物R−1の溶解度に対する化合物D−1、D−2、D−6及びD−29の溶解度の相対値を、下記表2に示す。
【0246】
【表2】

【0247】
表2のとおり、本発明の化合物D−1、D−2、D−6及びD−29は比較化合物R−1に対し高い溶解性を有する。
2光子吸収材料の2光子吸収量は、2光子吸収化合物の添加量(または添加濃度)に2光子吸収断面積を乗じた値に比例するため、本発明の溶解性の高い2光子吸収化合物を用いれば高い添加量(または添加濃度)で使用可能なため、2光子吸収量を大きくすることが可能であった。
【0248】
<2光子吸収記録材料の調製>
(2光子吸収記録材料1の調製)
以下の組成で、2光子吸収記録材料1を調製した。
【0249】
2光子吸収化合物:D−6 161質量部
ポリマーバインダ:ポリビニルアセテート(Mw=11,300) 500質量部
塗布溶剤:ジクロロメタン 14,400質量部
【0250】
(2光子吸収記録材料2の調製)
2光子吸収化合物:D−29 200質量部
ポリマーバインダ:ポリビニルアセテート(Mw=11,300) 500質量部
塗布溶剤:ジクロロメタン 14,400質量部
【0251】
(2光子吸収記録材料3の調製)
2光子吸収化合物:D−1 97質量部
ポリマーバインダ:ポリビニルアセテート(Mw=11,300) 500質量部
塗布溶剤:ジクロロメタン 14,400質量部
【0252】
(2光子吸収記録材料4の調製)
2光子吸収化合物:D−2 118質量部
ポリマーバインダ:ポリビニルアセテート(Mw=11,300) 500質量部
塗布溶剤:ジクロロメタン 14,400質量部
【0253】
(比較用2光子吸収記録材料1(比較材料1)の調製)
2光子吸収化合物:比較化合物R−1 8質量部
ポリマーバインダ:ポリビニルアセテート(Mw=11,300) 500質量部
塗布溶剤:ジクロロメタン 14,400質量部
【0254】
比較化合物R−1は、溶解性が小さいため上記組成以上添加量を増やせなかった。
【0255】
<2光子吸収記録媒体の作製>
基板にスライドガラスを用い、上記により調製した2光子吸収記録材料1〜4の塗布液をそれぞれスピンコートして記録層を形成した。このとき記録層の厚さが1μmになるよう回転数を300rpm〜3000rpmの範囲で調整した。カバー層としては、片面に粘着層(ガラス転移温度−52℃)を有するポリカーボネートフィルム(帝人ピュアエース、厚さ80μm)を用い、該粘着層とポリカーボネートフィルムとの厚さの合計が100μmとなるように設定した。そして、記録層上にカバー層を粘着層を介して載置した後、そのカバー層を押し当てて部材にて圧接して貼り合せることによって記録層1層よりなる2光子吸収記録媒体1〜4をそれぞれ作製した。
同様に比較媒体1は、上記比較用2光子記録材料1を用いて2光子吸収記録媒体1〜4と同様に作製した。
【0256】
<2光子記録・再生の試験・評価方法>
記録光(Ti:Sapphireレーザー:波長405nm、繰り返し周波数76MHz、パルス幅2psec、平均パワーPa=2〜20mW、ピークパワーPp=13〜130W)をピークパワー20Wで記録層に照射した。記録層に記録光の焦点を合わせた状態で、記録時間を0.02μs〜1000μsの間で調整し記録した。
そして、記録の前後における記録層からの反射光量の変化(記録後の反射光量÷記録前の反射光量)が20%を超える記録時間を測定し、比較媒体1の記録時間を基準に相対感度を算出した。
【0257】
<2光子記録感度評価結果>
2光子記録感度の評価結果を下記表3にまとめた。
【0258】
【表3】

【符号の説明】
【0259】
1 記録再生装置
10 光情報記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【化1】


(一般式(1)中、ArからArはそれぞれ独立に芳香族炭化水素環あるいは芳香族ヘテロ環を表し、それぞれ独立に同一でも異なってもよい。m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、tは0又は1の整数を表し、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表し、m,n,p,q,sがそれぞれ独立に2以上の整数の場合には複数のR、R、R、R、Rはそれぞれ独立に同一でも異なってもよく、X、Yはハメットのシグマパラ値がゼロ以上の値を有する置換基を表し、同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、下記一般式(2)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【化2】


(一般式(2)中、lは1〜4の整数を表し、m,n,p,q,sはそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、tは0又は1の整数を表し、Rは酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表し、lが2以上の場合には複数のRは同一でも異なってもよく、R、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に置換基を表し、m,n,p,q,sがそれぞれ独立に2以上の整数の場合には複数のR、R、R、R10、R11はそれぞれ独立に同一でも異なってもよく、Xはハメットのシグマパラ値がゼロ以上の値を有する置換基を表す。)
【請求項3】
請求項2に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、下記一般式(3)で表される非共鳴2光子吸収化合物を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【化3】


(一般式(3)中、l、m、n、p、q、s、t、R、R、R、R、R10、R11、Xは、前記一般式(2)と同じである。)
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、非共鳴2光子吸収化合物の前記一般式(1)から(3)のXで表される置換基が、トリフルオロメチル基、シアノ基、または下記一般式(4)で表される基であることを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【化4】


(一般式(4)中、R12は酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選択される少なくとも一つを含む置換基を表し、uは0〜4の整数を表し、uが2以上の場合には複数のR12は同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収材料であって、一般式(1)から(3)のいずれかで表される非共鳴2光子吸収化合物が下記一般式(5)で表される非共鳴2光子吸収化合物であることを特徴とする非共鳴2光子吸収材料。
【化5】


(一般式(5)中、l、m、n、p、q、R、R、R、R、R10は、前記一般式(2)及び(3)と同じであり、Xはトリフルオロメチル基、シアノ基、または上記一般式(4)で表される置換基を表す。)
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収材料を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【請求項7】
請求項6に記載の非共鳴2光子吸収記録材料であって、(b)2光子記録の前後で蛍光強度を変化させることのできる材料を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【請求項8】
請求項6に記載の非共鳴2光子吸収記録材料であって、(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料を含むことを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【請求項9】
請求項8に記載の非共鳴2光子吸収記録材料であって、(b‘)2光子記録の前後で反射光強度を変化させることのできる材料として、2光子記録波長に線形吸収を持たない高分子化合物を用いることを特徴とする非共鳴2光子吸収記録材料。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか1項に記載の非共鳴2光子吸収記録材料を含有する記録層を有する光情報記録媒体。
【請求項11】
下記式(6)で表される化合物。
【化6】

【請求項12】
下記式(7)で表される化合物。
【化7】

【請求項13】
非共鳴2光子吸収化合物を含む非共鳴2光子吸収記録材料からなる記録層を有し、かつ入射光に対して奥側から、基板、ガイド層、反射層、スペーサー層、中間層に挟まれた記録層の積層構造、及び入射光表面側にカバー層、ハードコート層を有する光情報記録媒体。
【請求項14】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、該記録層厚みが50nmから2μmの範囲である光情報記録媒体。
【請求項15】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、該記録層と中間層の屈折率差が0.01から0.5の範囲である光情報記録媒体。
【請求項16】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、該中間層厚みが2μmから20μmの範囲である光情報記録媒体。
【請求項17】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、基板厚みが0.02mmから2mmの範囲である光情報記録媒体。
【請求項18】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、該カバー層厚みが0.01mmから0.2mmの範囲である光情報記録媒体。
【請求項19】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、該スペーサー層厚みが5μmから100μmの範囲である光情報記録媒体。
【請求項20】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、マーキングを行うことを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項21】
請求項13に記載の光情報記録媒体であって、カートリッジに収納された光情報記録媒体。
【請求項22】
請求項10に記載の光情報記録媒体であって、かつ請求項13から21のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項23】
請求項22に記載の光情報記録媒体に、400〜450nmの範囲の波長のレーザー光を照射して3次元に情報を記録する非共鳴2光子吸収記録方法。
【請求項24】
請求項22に記載の光情報記録媒体への記録再生方法であって、記録用レーザのピークパワーが該光情報記録媒体の表面上で1Wから100Wの範囲であり、記録用レーザの平均パワーが該光情報記録媒体の表面上で100mW以下、かつ記録用レーザのパルス幅と発振周期の積が0.001から0.1の範囲である記録再生方法。
【請求項25】
情報の再生時に共焦点光学系を用いることを特徴とする請求項24に記載の光情報記録媒体への記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−37755(P2013−37755A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108950(P2012−108950)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】