説明

非円筒形の歯科挿入要素

【課題】口腔内に確実に配置することができ、ずれる恐れがない歯科挿入要素の提供。
【解決手段】長手方向に対して直角に切断したとき、非円形の外周を有する断面領域を有する口腔内で用いる歯科挿入要素。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の包括的分野は、歯科補助具の分野であり、本発明は、口腔内で用いる非円筒形の歯科挿入要素に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科の診療行為において、例えば歯根治療又は口腔治療では、患者の口の中の治療領域を清潔で乾燥した状態に保つことが、治療の成功に極めて重要である。歯科部門において治療目的で用いられる多数の材料の特性は、水性物質、例えば唾液又は血液との望ましくない接触の結果として著しく低下するという欠点を有し得る。さらに、このような接触により感染が起こりえる。
【0003】
この問題を解決するためによく用いられる可能性があるものとして、例えば、伸張ラバーダムが適用されることがある。その場合、治療領域を取り囲む領域は、穴が設けられている伸張ゴムシートによって覆われる。しかしながら、患者によっては、伸張ラバーダムを用いるとアレルギー反応を起こす可能性がある。
【0004】
より迅速に患者に適用され、さらにより快適なものとして、歯科挿入要素、例えば綿製のロール綿の使用が既知である。従来技術で既知のこのような種類のロール綿の製造は簡単である。通常は、このために、例えば一層の不織綿を螺旋状に巻き取り、次に適当な接着剤を用いて外側で接着する。次に、ロール綿を所望の長さに切断する。
【0005】
ロール綿は、液体を吸収する特性に加えて、口腔粘膜及び/又は舌と治療中の歯領域とを互いに隔てるのに適しており、最近では治療中の口腔内の液体が特定の吸引装置により常に吸引されるため、このスペーサ機能は特に重要な役割を割り当てられている。
【0006】
しかしながら、例えば頬の粘膜と歯との間に押し込まれる通常のロール綿は、ずれやすく、特に転がり出やすいと見られており、その結果、望ましくないことに頬の粘膜が上記の理由から隔てておくべきである場所と接触し得る。さらに、ロール綿の直径が小さい結果として、特にロール綿が、完全に濡れて圧力を受けると楕円形に変形するため、スペーサ機能が不十分になることが多い。
【0007】
さらに、ある特定の用途では、例えば変色した歯の場合に従来の歯の漂白中、漂白剤と接触すべきでない場所を完全に覆うことを確実にはすることができないため、ロール綿は限られた範囲にしか適していないことが欠点であると考えられている。
【0008】
さらに、ロール綿は収納中に積み重ねが制限されるという欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、口腔内に確実に配置することができ、ずれる恐れがなく、歯科挿入要素を提供することであり、そして、それを用いることによって、従来のロール綿と比較して改善されたスペーサ機能を達成することができる。さらに、このような種類の歯科挿入要素は、好ましくは、このような種類の歯科挿入要素を特定の歯科的処置、例えば変色した歯の漂白することなどで用いることができるようにするために、口腔及び/又は歯の特定の領域がほぼ完全に覆われることを確実にするべきである。特に、このような種類の歯科挿入要素の収納性、特に積み重ね性を、従来のロール綿と比較して改善するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この課題は独立請求項によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項で触れる。
【0011】
本発明によれば、口腔内で用いる歯科挿入要素が提供され、この挿入要素は、特に長手方向に対して直角に切断したとき、概ね非円形の外周を有する断面領域を有することを特徴とする。したがって、本発明による歯科挿入要素はその3次元形状において従来の円筒形のロール綿とは異なり、概して、任意の所望の非円筒形3次元形状を有する。
【0012】
本発明の特に有利な実施形態では、歯科挿入要素は、特に長手方向に対して直角に切断したとき、第1の曲率半径を有する第1の円弧形状と、その端点が少なくとも1つの曲線によって繋がれた外周を有する断面領域を有する。
【0013】
したがって、その実施形態の歯科挿入要素の3次元形状は、断面で見られる第1の円弧に対応する、円筒軸に沿って切断した部分円筒と、これに連なる、断面に見みられる少なくとも1つの曲線に対応する任意の形状の湾曲部からなる。
【0014】
その場合、長手方向に対する断面で見た場合、第1の円弧の端点を繋ぐ曲線は、第2の円弧形状であることが有利であり、第1の円弧の曲率半径は第2の円弧の曲率半径よりも小さい。その結果、歯科挿入要素の当該実施形態の3次元形状は、円筒軸に沿って切断される異なる円筒半径を有する2つの部分円筒から成ることになる。その場合、第2の円弧の曲率半径が第1の円弧の半径よりも実質的に大きく、すなわち、第2の円弧に属する部分円筒が第1の円弧に属する部分円筒よりも湾曲していないことが特に有利であることが分かっている。
【0015】
本発明による歯科挿入要素のさらなる特に有利な実施形態において、長手方向に対して直角に切断した断面領域は、その端点が少なくとも1つの少なくともほぼ直線により繋げられる、第1の円弧の形状の外周を有する。その結果、歯科挿入要素の3次元形状は、円筒軸に沿って切断された部分円筒と、それに連なる1つ又は複数のほぼ平坦な面からなる。
【0016】
本発明による上記の実施形態では、断面領域の幾何学的外周で第1の円弧の端点を繋ぐ曲線又は少なくともほぼ直線は、少なくとも数学的理想化において連続微分可能ではないように第1の円弧に連なることが特に有利である。これは、円筒軸に沿って切断した部分円筒が曲線部又は少なくとも1つの平坦な面に連なる場所で、歯科挿入要素の3次元形状はエッジを有することを意味する。
【0017】
本発明による歯科挿入要素のさらに好ましい実施形態では、長手方向に対して直角に切断した断面領域は、閉じた多角形の形状の幾何学的外周を有する。断面領域の幾何学的外周は、特に、楕円形、ハニカム構造、矩形、又は三角形の形状としてもよい。
【0018】
本発明による歯科挿入要素は、湾曲した3次元形状を有することがさらに有利である。同様に、本発明による歯科挿入要素は、長手方向に狭くなる3次元形状を備えることが有利であり得る。
【0019】
歯科挿入要素のさらに好ましい実施形態では、例えば歯科挿入要素の平面図に対応する第1の断面において、それは実質的にV字形である。このような方法で成形した歯科挿入要素を用いれば、挿入要素を口の中に入れた後で、特に有利なやり方で舌を変位させることができ、歯科医が治療を行うための空間が形成される。その点で、このような歯科挿入要素は、第1の断面に対して直角な第2の断面が実質的に楔形であることがさらに有利である。
【0020】
このような種類の歯科挿入要素は、一層で成形されてもよく、又は特に多層複合材料から成形されてもよく、後者の場合、複合材料の被覆層が吸収材料を含むか又は吸収材料から成ることが有利である。そのために、複合材料は、コア層と、コア層を囲む少なくとも1つの、好ましくは2つの被覆層とから構成することができる。その場合、コア材料は、シリコーン、天然繊維、合成繊維、及びプラスチック、特にポリエチレン、ポリアミド、又はポリプロピレンから選択される少なくとも1つの材料と、任意選択で慣用的な添加剤とから成るか又はそれらを含むことができ、一方、互いに独立した被覆層は、詰め綿、特に脱脂綿等の吸収性の天然繊維及び吸収性の合成繊維から選択される少なくとも1つの材料と、任意選択で慣用的な添加剤とから成るか又はそれらを含むことができる。1つのコア層及び2つの被覆層を有する歯科挿入要素が好ましい。被覆層は、それ自体が慣用的な方法で、例えばコア層に接着することにより貼り付けることができる。本発明による歯科挿入要素が1層しか有さない場合、その層は、上述の材料の1つ、又は2つ以上の任意の所望の組み合わせを含むか、又はそれらから構成することができる。
【0021】
本発明による歯科挿入要素のさらなる特に有利な実施形態では、歯科挿入要素は、口腔内の特定の解剖学的特徴と一致する少なくとも1つの表面を有する。したがって、歯科挿入要素の少なくとも1つの表面は、1本の歯又は複数本の歯の輪郭と一致することができる。同様に、この表面は、舌及び/又は口腔内壁、例えば口蓋と一致することができる。この方法により、特に湾曲した3次元形状及び/又は長手方向に狭まる3次元形状とともに、解剖学的特徴に「合わせた」歯科挿入要素を製造することができる。
【0022】
本発明による歯科挿入要素の上記の好ましい実施形態の、所望に応じて単独であっても組み合わせであってもよい全ての場合で、口腔内に配置された、例えば口腔粘膜と歯との間に押し込まれた非円筒形の歯科挿入要素がずれる、特に転がり出る危険を減らすことが可能である。これは、3次元形状がエッジを含むような実施形態に特に当てはまる。本発明による歯科挿入要素の結果として、歯科挿入要素の体積に対するその横方向両端間の間隔の比を、従来の円筒形のロール綿と比較して大きくすることができるから、スペーサ機能をさらに著しく改善することができる。これは、湾曲の小さい部分円筒に、又は少なくとも1つの平面に連なる部分円筒の形態の3次元形状を有するそれらの実施形態に、さらには第1の断面が実質的にV字形である実施形態にも特に当てはまる。
【0023】
収納性、すなわち積み重ね性は、その3次元形状が少なくとも1つの少なくともほぼ平面を備えるそれらの実施形態の場合、特に大きく改善される。3次元形状が、実質的に湾曲の小さい部分円筒に移行する部分円筒の形態であるときも、同様である。
【0024】
歯科挿入要素の被覆機能に関して、その3次元形状が少なくとも1つの少なくともほぼ平面を備えるそれらの実施形態が特に有利である。3次元形状が、実質的に湾曲の小さい部分円筒に連なる部分円筒の形態であるときも、同様である。これに関して、口腔内の解剖学的特徴の輪郭と一致する少なくとも1つの表面を有するような実施形態が特に有利であると考えられる。
【0025】
さらに、本発明による歯科挿入要素は、歯科挿入要素が口腔の解剖学的構造に過度に付着するのを防止することができるように成形することができることが好ましい。
【0026】
本発明はさらに、本発明の歯科挿入要素のための、所望の長さに切断できるエンドレスストランドに関する。
【0027】
本発明を、添付図面を参照して例示的な実施形態に関して以下により詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、脱脂綿でできている本発明による歯科挿入要素1の第1の実施形態を示す。歯科挿入要素1は、縦長のプロファイル品の形態で提供され、長手方向は長手方向軸7により規定される。縦長のプロファイル品の断面領域2は、長手方向軸に対して直角に切断した場合、第1の円弧5及び第2の円弧6から成る幾何学的外周を有し、第2の円弧6は、第1の円弧5よりも実質的に大きな曲率半径を有する。
【0029】
それぞれの場合において、2つの円弧5、6は、リッジ位置3、4で互いに合わさる。3次元形状では、歯科挿入要素は、第1の円弧5及び第2の円弧6に対応するそれぞれの円筒軸と平行に切り取られる2つの部分円筒から成る。3次元形状では、第1の円弧5と第2の円弧6との間の接合部分は、リッジ3、4の形態において、それぞれの場合、歯科挿入要素の外面上のエッジに対応する。
【0030】
図1に示す歯科挿入要素は、1層の脱脂綿を巻いて接合し、続いて歯科挿入要素に上述の形状を与えるためにロール綿を圧縮することにより、簡単に製造することができる。同様に、歯科挿入要素は、矩形のダイ及びさらなる整形補助具等の適当な成形システムによって本発明による方法で変形されてから、寸法安定性を得るために不織布で被覆される、エンドレスストランドの形態で製造することができる。
【0031】
図2A及び図2Bは、本発明による歯科挿入要素のさらなる実施形態を示し、図2Aは図2Bの線II−IIに従った断面図に対応し、一方、図2Bは図2Aの線I−Iに従った断面図に対応する。図2Aから見ることができるように、歯科挿入要素8は、第1の断面(II−II)に対応する平面図では実質的にV字形である。第1の断面に対して直角な断面(I−I)では、歯科挿入要素は楔形である。図2Aから見ることができるように、実質的にV字形の形態の歯科挿入要素8は、先端部9及び2つのアーム部10から製造することができる。歯科挿入要素は、中心平面11に対して対称的に成形される。図2Bを見ればわかるように、歯科挿入要素は、多層複合材料から成形され、複合材料は、シリコーンの楔形コア層12と、該コア層12を取り囲むビスコースと綿の吸収性被覆層13及び14とから成る。被覆層13及び14は、適当な接着剤によってコア層12に接着される。図2A及び図2Bに示す歯科挿入要素の実施形態は、舌を上方に移動させて歯科医が治療を行うための空間を作り出すために、舌下に置くのに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による歯科挿入要素の一実施形態を斜視図で示す。
【図2A】本発明の歯科挿入要素のさらなる実施形態を示し、図2Bの線II−IIに従った断面図である。
【図2B】本発明の歯科挿入要素のさらなる実施形態を示し、図2Aの線I−Iに従った断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面領域が非円形の外周を有することを特徴とする口腔内で用いる歯科挿入要素。
【請求項2】
第1の曲率半径を有する第1の円弧形状の外周を有する断面領域を有し、その端点が少なくとも1つの曲線で繋がれていることを特徴とする請求項1に記載の歯科挿入要素。
【請求項3】
第1の円弧の端点を繋ぐ曲線は、第2の円弧形状であり、前記第1の円弧の曲率半径は、前記第2の円弧の曲率半径よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の歯科挿入要素。
【請求項4】
第1の円弧形状の外周を有する断面領域を有し、その端点が少なくとも1つの少なくともほぼ直線により繋がれることを特徴とする請求項1に記載の歯科挿入要素。
【請求項5】
第1の円弧の端点を繋ぐ線は、少なくともほぼ連続微分可能ではないように前記第1の円弧に連なっていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項6】
閉じた多角形の形状の外周を有する断面領域を有することを特徴とする請求項1に記載の歯科挿入要素。
【請求項7】
断面領域の外周がハニカム構造であることを特徴とする請求項6に記載の歯科挿入要素。
【請求項8】
断面領域の外周が矩形であることを特徴とする請求項6に記載の歯科挿入要素。
【請求項9】
断面領域の外周が三角形であることを特徴とする請求項6に記載の歯科挿入要素。
【請求項10】
長手方向に狭くなる3次元形状を有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項11】
詰め綿から製造されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項12】
縦長のプロファイル品の形状であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項13】
断面領域が、長手方向に対して直角に切断される断面領域であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項14】
円形の外周を有する断面を有さないことを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項15】
まっすぐな又は湾曲した3次元形状を有することを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項16】
第1の断面では実質的にV字形であることを特徴とする請求項10に記載の歯科挿入要素。
【請求項17】
第1の断面に直角な第2の断面では、実質的に楔形であることを特徴とする、請求項16に記載の歯科挿入要素。
【請求項18】
1つの材料成分、好ましくは発泡材から、又は複数の材料成分、好ましくは合成繊維又は天然繊維から、任意選択で高吸収性材料と組み合わせて成形されることを特徴とする請求項16又は17に記載の歯科挿入要素。
【請求項19】
多層複合材料から成形されることを特徴とする請求項18に記載の歯科挿入要素。
【請求項20】
複合材料は、コア層と該コア層を取り囲む被覆層とから成ることを特徴とする、請求項19に記載の歯科挿入要素。
【請求項21】
コア材料は、シリコーン、天然繊維、合成繊維、及びプラスチック、特にポリエチレン、ポリアミド、又はポリプロピレンから成る群から選択される少なくとも1つの材料と、任意選択で慣用的な添加剤とであり、前記コア材料は吸収性又は高吸収性であることが可能であり、一方、互いに独立した被覆層は、任意選択で吸収性の天然繊維及び任意選択で吸収性の合成繊維から成る群から選択される少なくとも1つの材料と、任意選択で慣用的な添加剤とであり、前記被覆層は、透湿性であり、挿入要素の内部に外部から水分の移動を妨げないことを特徴とする請求項19又は20に記載の歯科挿入要素。
【請求項22】
口腔内の解剖学的特徴、特に1本又は複数本の歯の輪郭、舌の輪郭、又は上口蓋領域又は下口蓋領域等の口腔内壁の輪郭と一致する、少なくとも1つの表面を有することを特徴とする請求項1ないし21のいずれか1項に記載の歯科挿入要素。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれか1項に記載の多数の歯科挿入要素を含むエンドレスストランド。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公表番号】特表2006−528011(P2006−528011A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520788(P2006−520788)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008178
【国際公開番号】WO2005/009310
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(504319862)コルテン/ホルデント ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー (4)
【氏名又は名称原語表記】COLTENE/WHALEDENT GMBH & CO. KG
【Fターム(参考)】