説明

非可逆回路素子及び通信装置

【課題】電磁波漏洩を極小化するとともに、組み立てを容易化した薄型の非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置を提供すること。
【解決手段】 第1金属部材1と、第2金属部材7とを含む。第1金属部材1は、連続する金属体でなり、第1導波路11と、第2導波路13と、部材挿入孔16とを含んでいる。第1導波路11及び第2導波路13は、入出力導波路である。部材挿入孔16は、第1金属部材の内部において第1導波路11及び第2導波路13と交差している。第2金属部材7は、部材挿入孔16内に挿入され、第1導波路11及び第2導波路13と交差する第3導波路15を構成する、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータやサーキュレータ等の非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アイソレータやサーキュレータ等の非可逆回路素子は、一般的に、携帯電話等の移動体通信装置や、その基地局等に用いられ、これらの普及とともに、急激に需要が伸びている。この非可逆回路素子には、マイクロ波やミリ波などの電波を伝搬する第1金属部材型のものが存在し、主に携帯電話の中継局内に配設される電波伝送路に用いられている。
【0003】
導波管型の非可逆回路素子は、一般に、特許文献1に記載されているように、内部に3分岐の導波路が形成された導波管と、導波路の交差領域に設けられた強磁性体と、強磁性体に磁界を印加する永久磁石とを備えている。この非可逆回路素子は導波管が一体成形されているため、その成形後に、開口部を介して内側の導波路を加工することが難しく、精度の向上の障害となっていた。また、強磁性体を配置するための台座を導波管と一体成形する場合に型枠の隙間のためにバリが生ずることがあるが、これを除去することも容易ではなかった。ロストワックス法等の高精度鋳造法によれば成形は可能であるが、ロストワックス法では、量産性に欠け、コスト高になる。
【0004】
この問題に対して、発明者は、特許文献1に記載された導波管を上下に分割して成形することとし、導波路等を接合面に形成して露出させることによって、これを加工し易くする方法を考えた。しかし、この導波管は、板状導波管の対向する一組の板面に2つのポート(開口)を設け、側面に残り1つのポートを設けて構成され、上記の2つのポート間を結ぶ方向において薄型化されている。したがって、この導波管は、固定に必要となる十分な肉厚の確保が難しく、分割成形された個々の部分を、位置精度よく接合して、安定に固定し、さらには接合部からの電波の漏洩を低減するのは困難であった。
【0005】
しかも、導波管を上下に分割してあるから、分割線からの電磁波漏洩を皆無にすることはできない。特に、外部導波管の接続される接続面(側面)には、本来、高度の平面度が要求されるのであるが、この接続面に分割線が表れてしまうという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭51−121138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電磁波漏洩を極小化するとともに、組み立てを容易化した薄型の非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明に係る非可逆回路素子は、第1金属部材と、第2金属部材とを含んでいる。前記第1金属部材は、連続する金属体でなり、第1導波路と、第2導波路と、部材挿入孔とを含んでいる。前記第1導波路及び前記第2導波路は、入出力導波路である。前記部材挿入孔は、前記第1金属部材の内部において前記第1導波路及び前記第2導波路と交差している。前記第2金属部材は、前記部材挿入孔内に挿入され、前記第1導波路及び前記第2導波路と交差する第3導波路を構成する。
【0009】
上述したように、本発明に係る非可逆回路素子は、第1金属部材を含み、第1金属部材は連続する金属体でなる。即ち、従来の分割構造ではなく、非分割構造である。このため、分割構造の場合に生じる問題点、例えば、固定に必要となる十分な肉厚の確保の困難性、分割成形された個々の部分を、位置精度よく接合して、安定に固定することの困難性、さらには接合部からの電波の漏洩を低減する困難性等を、基本的に回避することができる。特に、外部導波管の接続される接続面(側面)は、分割の影響を受けずに、本来要求される高度の平面度に設定することができる。
【0010】
第1金属部材は、入出力導波路となる第1導波路及び第2導波路を含んでおり、これらの第1導波路及び第2導波路に対して、第1金属部材の内部において、部材挿入孔が交差している。部材挿入孔内に第2金属部材が挿入され、第1導波路及び第2導波路と交差する第3導波路を構成する。第1導波路乃至第3導波路の交差領域には、この種の非可逆回路素子の常として、強磁性体が配置され、3ポートのサーキュレータ、あるいはアイソレータが構成される。アイソレータとして使用する場合、非可逆回路素子は、第3導波路に電波吸収体をさらに設ける必要があり、強磁性体に磁界を印加する永久磁石も当然に備えられる。
【0011】
本発明の特徴は、第1金属部材が、その内部に第1導波路及び第2導波路と交差する部材挿入孔を備え、この部材挿入孔内に第2金属部材が挿入され、第1導波路及び第2導波路と交差する第3導波路を構成する点にある。
【0012】
この構造によれば、第1導波路及び第2導波路を有する第1金属部材の部材挿入孔内に、第2金属部材を嵌めこむだけで、3ポートのサーキュレータ、あるいはアイソレータが構成されるので、組み立て作業が容易になる。しかも、分割位置が、側面、特に、外部導波管との接続面に現れることがないので、電磁波漏洩が極小化される。また、第1金属部材は、部材挿入孔の側壁が、必要な強度を確保できる程度に薄くし得るから、薄型化に寄与することができる。
【0013】
また、この種の非可逆回路素子では、入出力導波路となる第1導波路及び第2導波路と交差する第3導波路に型抜き困難部分が生じるのが普通であり、一体成形が困難である。具体的には、第3導波路は、第1導波路及び第2導波路との交差部分に、幅拡大方向に傾斜内端面を有しており、この内壁面が、型抜き困難部となる。本発明に係る非可逆回路素子では、第3導波路を有する第2金属部材を、部材挿入孔に挿入して、第3導波路を、第1導波路及び第2導波路と接続させる。したがって、一般的成形方法によれば、型抜き困難になる部分が、第3導波路にあっても、型抜き困難を招くことがない。
【0014】
本発明に係る非可逆回路素子は、送信部または受信部と組み合わせて、通信装置を構成する。この通信装置は、上述した非可逆回路素子を含むため、これと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、電磁波漏洩を極小化するとともに、組み立てを容易化した薄型の非可逆回路素子及びこれを用いた通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る非可逆回路素子の外観斜視図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図2に示した非可逆回路素子を分解して示す図である。
【図4】図1に示した非可逆回路素子の正面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図5に示した非可逆回路素子を分解して示す図である。
【図7】本発明に係る通信装置の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図6を参照するに、本発明に係る非可逆回路素子は、第1金属部材1と、第2金属部材7とを含む。まず、第1金属部材1は、連続する金属体、即ち、分割型ではなく、非分割型でなる。第1金属部材1は、典型的には、アルミニウムで構成され、全体として、六面体状である。もっとも、必ずしも六面体状である必要はなく、他の多面体状、または、部分的に曲面を含むような外観を有していてもよい。
【0018】
図示の第1金属部材1は、第1側面101、第2側面102、第3側面103及び第4側面104の4つの側面と、第1側面101乃至第4側面104と直交する関係にある上面105及び底面106とを有する。第1側面101乃至第4側面104の内、第1側面101及び第2側面102は、外部導波管の接続される接続面であって、高度の平面度を持つ研磨面となっている。第1側面101及び第2側面102の間には、外部導波管を接続するためのネジなどを通す貫通孔107が形成されている。
【0019】
第1金属部材1は、第1導波路11と、第2導波路13と、部材挿入孔16とを含んでいる。第1導波路11及び第2導波路13は、入出力導波路を構成するもものであって、第1金属部材1の内部において、同一平面上に形成され、第1金属部材1の相対向する異なる側面101,102に開口する。図示の第1導波路11及び第2導波路13は、4角形状の口形を持っている。第1導波路11及び第2導波路13の幅と高さは、伝搬する電波の波長などに従って決定されている。
【0020】
第1導波路11及び第2導波路13は、一直線上にあり、第1金属部材1の第1側面101及び第2側面102にそれぞれ開口し、それぞれの開口部が入出力ポートとなる。
【0021】
部材挿入孔16は、第1金属部材1の内部において第1導波路11及び第2導波路13と交差している。部材挿入孔16は、第1側面101及び第2側面102の間の第3側面103に開口し、第1導波路11及び第2導波路13と、ほぼ直交する方向に延びている。図示の部材挿入孔16は、高さH1及び幅W1の単純な4角形状である。第1導波路11及び第2導波路13も、孔形が単純な4角形状である。これらには、型抜き困難性は生じない。
【0022】
第1金属部材1は、上面に孔17を有しており、孔17の内部には、永久磁石51が挿入される。孔17は、図示の実施例では、底部53を有する有底孔であり、その底部53の内面で永久磁石51を支持するようになっている。永久磁石51は、蓋部材52によって押さえられている。
【0023】
更に、実施例では、第1金属部材1の底面106にも、孔19が設けられ、この孔19の内部に、もう一つの永久磁石54が配置されており、この永久磁石54は蓋部材55によって押さえられている。
【0024】
次に、第2金属部材7は、部材挿入孔16の内部に挿入され、第1導波路11及び第2導波路13と交差する第3導波路15を構成する。この実施例は、アイソレータを示しており、第3導波路15に電波吸収体9が取り付けられている。サーキュレータの場合には、電波吸収体9は不要であり、第2金属部材7の電波吸収体9を設けた部分が、開口されることがある。
【0025】
第2金属部材7は、第1金属部材1と同様の非磁性金属材料、典型的にはアルミニウムによって構成されるものであって、部材挿入孔16の幅W1及び高さH1に対応する幅W2及び高さH2の挿入部71を有する。挿入部71は、支持面板72の一面に起立して設けられており、第1リブ711と、第2リブ712と、底板713とを有する。第1リブ711及び第2リブ712は、間隔W3をおいて平行しており、その間隔W3が第3導波路15として利用される。第1リブ711及び第2リブ712は、その先端部に、傾斜端面151,152をそれぞれ有している。
【0026】
底板713は、部材挿入孔16の長さと略一致する長さを有し、その先端と、第1リブ711及び第2リブ712の先端との間には、第1導波路11及び第2導波路13に相当する平坦部を有する。この平坦部に強磁性体3が配置されている。
【0027】
強磁性体3は、第1導波路11乃至第3導波路15の交差領域に配置されている。強磁性体3は、イットリウム/鉄/ガーネット(YIG)等などの材料からなり、例えば三角柱形状に成形されている。一般には、強磁性体3は台座31の上に取り付けられる。強磁性体3を台座31に固定するにあたって、必要に応じ、接着剤などの接着手段を用いる。
【0028】
第2金属部材7は、部材挿入孔16の内部に、できるだけ隙間なく嵌めこまれる。第2金属部材7と、部材挿入孔16との間は、導電性接着剤等で接合してもよい。嵌めこまれた状態で、支持面板72が第1金属部材1の第3側面103に、ネジ等の結合手段73,74によって固定される。これにより、第1導波路11〜第3導波路15を持つ非可逆回路素子が得られる。
【0029】
上述したように、本発明に係る非可逆回路素子は、第1金属部材1を含み、第1金属部材1は連続する金属体でなる。即ち、従来の分割構造ではなく、非分割構造である。このため、分割構造の場合に生じる問題点、例えば、固定に必要となる十分な肉厚の確保の困難性、分割成形された個々の部分を、位置精度よく接合して、安定に固定することの困難性、さらには接合部からの電波の漏洩を低減する困難性等を、基本的に回避することができる。特に、外部導波管の接続される接続面(側面)は、分割の影響を受けずに、本来要求される高度の平面度に設定することができる。
【0030】
第1金属部材1は、入出力導波路となる第1導波路11及び第2導波路13を含んでおり、これらの第1導波路11及び第2導波路13に対して、第1金属部材1の内部において、部材挿入孔16が交差している。部材挿入孔16の内部に第2金属部材7が挿入され、第1導波路11及び第2導波路13と交差する第3導波路15が構成される。第1導波路11乃至第3導波路15の交差領域には、この種の非可逆回路素子の常として、強磁性体3が配置され、3ポートのサーキュレータ、あるいはアイソレータが構成される。
【0031】
本発明の特徴は、第1金属部材1が、その内部に第1導波路11及び第2導波路13と交差する部材挿入孔16を備え、この部材挿入孔16の内部に第2金属部材7が挿入され、第1導波路11及び第2導波路13と交差する第3導波路15が構成される点にある。
【0032】
この構造によれば、第1導波路11及び第2導波路13を有する第1金属部材1の部材挿入孔16の内部に、第2金属部材7を嵌め込み、固定するだけで、3ポートのサーキュレータ、あるいはアイソレータが構成されるので、組み立て作業が容易になる。
【0033】
しかも、分割位置が、側面、特に、外部導波管との接続面となる側面101,102に現れることがないので、電磁波漏洩が極小化される。また、第1金属部材1は、部材挿入孔16の側壁が、必要な強度を確保できる程度に薄くし得るから、薄型化に寄与することができる。
【0034】
この種の非可逆回路素子では、第3導波路15は、第1導波路11及び第2導波路13との交差部分に、幅拡大方向に傾斜内端面151,152を有しており、この内壁面151,152が、型抜き困難部となる。本発明に係る非可逆回路素子では、第3導波路15を有する第2金属部材7を、部材挿入孔16に挿入して、第3導波路15を、第1導波路11及び第2導波路13と接続させる。したがって、第3導波路15の傾斜内端面151,152は、一般的成形方法では、型抜き困難部分に相当するとしても、本発明では、型抜き困難部分に相当しない。
【0035】
次に、本発明に係る通信装置について説明する。図7は本発明に係る非可逆回路素子を用いた通信装置の構成を表すブロック図である。
【0036】
この通信装置は、例えば、移動通信システムにおける中継局に備えられるものであって、送信部6と、上述した非可逆回路素子10と、アンテナ8とを含む。送信部6は、音声信号、映像信号などを生成する送信回路61と、電力増幅回路62とを含んでいる。
【0037】
また、非可逆回路素子10は、第3導波路15に電波吸収体9が設けられ、アイソレータとして機能する。すなわち、アイソレータ1は、送信部6からの電波Wtを、アンテナ8へと伝搬し、一方、アンテナ8からの反射波Wrを電波吸収体9により吸収して、これを電力増幅回路62に伝搬させない。これにより、アイソレータ1は、大きなパワーを有する反射波Wrから電力増幅回路62を保護している。
【0038】
本実施形態の構成には送信部6を例示しているが、これに代えて、あるいはこれに加えて受信部を備えてもよいことは言うまでもない。この場合、本発明に係る非可逆回路素子を、アイソレータとしてだけでなく、サーキュレータとしても機能させて用いる必要がある。
【0039】
本発明に係る通信装置によると、上述した非可逆回路素子を含むので、既に述べた内容と同様の作用効果が得られる。
【0040】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0041】
1 非可逆回路素子
1 第1金属部材
3 強磁性体
7 第2金属部材
11 第1導波路
13 第2導波路
15 第3導波路
51、57 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と、第2金属部材とを含む非可逆回路素子であって、
前記第1金属部材は、連続する金属体でなり、第1導波路と、第2導波路と、部材挿入孔とを含んでおり、
前記第1導波路及び前記第2導波路は、入出力導波路であり、
前記部材挿入孔は、前記第1金属部材の内部において前記第1導波路及び前記第2導波路と交差しており、
前記第2金属部材は、前記部材挿入孔内に挿入され、前記第1導波路及び前記第2導波路と交差する第3導波路を構成する、
非可逆回路素子。
【請求項2】
請求項1に記載された非可逆回路素子であって、
前記第3導波路は、前記第1導波路及び前記第2導波路との交差部分において幅拡大方向に傾斜内端面を有しており、
前記第2金属部材孔は、前記内壁面を含む、
非可逆回路素子。
【請求項3】
非可逆回路素子と、送信部または受信部とを含む通信装置であって、
前記非可逆回路素子は、請求項1又は2に記載されたものであり、前記送信部または前記受信部と電気的に組み合わされている、
通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78054(P2013−78054A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217764(P2011−217764)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】