説明

非変性II型コラーゲンの製造方法

【課題】天然資源からの非変性II型コラーゲンの回収を、効率的かつ安価に行う方法を提供する。
【解決手段】非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料から過酢酸等の酸素系殺菌剤を含む水溶液を抽出溶媒として非変性II型コラーゲンを抽出することを特徴とする非変性II型コラーゲンの製造方法。該非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料が、魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織、又は皮である製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品原料、医療用品材料、化粧品原料、食品材料、工業用材料等として有用な非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料、例えば魚類、軟体動物、鳥類及び哺乳類の軟骨組織から抽出し、製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは哺乳動物では最も多いタンパク質で、生体のタンパク質中の約30%、体重の約6%を占め、皮膚では乾燥重量の約80%を占めている。非変性II型コラーゲンは、主に軟骨、脊索、椎間板等に多く含有されているタンパク質の一種である。スーパーヘリックスと言われる、α1鎖が3本らせん状に絡み合った、3重らせん構造を有しており、分子量約30万程度の細胞外マトリックスである。
【0003】
コラーゲンを抽出する一般的な方法に、細胞外マトリックスとしてコラーゲンと同時に存在しているプロテオグリカンを事前に除去する方法がある。これは、コラーゲン抽出時にプロテオグリカンが存在しているとコラーゲンを効率良く抽出できないためである。この前処理方法として、プロテオグリカンを抽出する技術がいくつも報告されている。軟骨組織においては、非変性II型コラーゲンは、単独では存在せず、糖蛋白質複合体であるプロテオグリカンとヒアルロン酸とが共存した形で存在している。非変性II型コラーゲンをそのまま抽出することは、このプロテオグリカンが妨害物質になり、コラーゲン抽出のボトルネックとなっていた。廃棄物の有効利用を兼ねた軟骨組織からの非変性II型コラーゲンの製造法がいくつか提唱されている。例えば、酸性プロテアーゼを含む酸性溶液を軟骨に接触させる方法(特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3935938号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、魚類、軟体動物、鳥類又は哺乳類、特にそれらの廃棄部位から低コストで経口摂取可能な非変性II型コラーゲンを製造する方法の開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酸素系殺菌剤である過酢酸製剤を一定の条件下で使用することにより、タンパク質である非変性II型コラーゲンを効率よく軟骨組織その他の非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料から回収することができることを見出し、下記の各発明を完成した。
(1)非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料を酸素系殺菌剤に浸漬する工程、並びに浸漬後の固形物を回収する工程を含む、非変性II型コラーゲンの製造方法。
(2)回収した非変性II型コラーゲンを分離、精製、脱水、乾燥する工程をさらに含む、(1)に記載の製造方法。
(3)酸素系殺菌剤が過酢酸製剤の溶液である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)過酢酸製剤溶液の組成が、過酢酸5×10−5〜1重量%、過酸化水素5×10−5〜1重量%、酢酸3×10−5〜2重量%である(1)〜(3)の製造方法。
(5)非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料が、魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織、又は皮である、(1)〜(3)の何れかに記載の製造方法。
(6)非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料が、魚類の軟骨組織である、(4)に記載の製造方法。
【0007】
本発明は、一般に熱に不安定な非変性II型コラーゲンを、過酢酸製剤を用いて製造する方法である。非変性II型コラーゲンはタンパク質である。一般にタンパク質は熱に対して不安定であり、容易に変成、分解してしまうという性質を有している。この性質から、非変性II型コラーゲンをタンパク質部分の変性を防ぎながら過酢酸で高純度の非変性II型コラーゲンが製造可能なことは知られていない。
【0008】
本発明は、非変性II型コラーゲンを含む生物学的試料、例えば魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織、筋肉繊維又は皮に対して適用することができるが、軟骨組織への適用が好ましい。本発明において使用される軟骨組織は、魚類、鳥類及び哺乳類、特にそれらの廃棄部位のいずれも利用することができる。本発明において軟骨組織とは、軟骨単独あるいは軟骨の周辺部位、例えば骨、筋肉繊維、皮等を含む組織のいずれも意味する。
【0009】
本発明においては、特に一般に氷頭とよばれている、サケの頭部にその平均重量で約6%含まれている鼻軟骨組織の利用が好ましい。北海道沿岸部で漁獲されたサケ(大半はシロサケである。)が、様々な加工品として処理される際、その頭部は不要とされることが多く、そのため切断された頭部は、一部魚粉に加工され利用されてはいるものの、その大半は産業廃棄物として廃棄処理されている。氷頭はその様な廃棄物から簡便、安価かつ安定的に入手することができる。
【0010】
また本発明では、氷頭の他、エイの軟骨組織、サメ軟骨組織等の魚類由来の軟骨組織、ニワトリ軟骨組織等の鳥類の軟骨組織、さらにはウシ喉軟骨や気管支軟骨、クジラ軟骨等の哺乳動物由来の軟骨組織も利用することができる。
【0011】
上記の非変性II型コラーゲンを含む生物学的試料の多くも産業廃棄物であり、その入手は容易である。これらの原料は、次に説明するアルカリ溶液への浸漬に先だって、表面積を増加させて非変性II型コラーゲンの抽出量を上げるために、可能な限り細かく破砕することが好ましい。
【0012】
過酢酸製剤への軟骨組織の浸漬は、0℃〜15℃程度が好ましく、非変性II型コラーゲンは殆ど分解されず、スーパー(三重螺旋)ヘリックス構造を維持した高分子のタンパク質として抽出することができる。浸漬は、軟骨1重量部に対して過酢酸製剤溶液2〜15重量部、好ましくは4〜12重量部、より好ましくは6〜12重量部を用いて行えばよい。好ましくは、ミキサーあるいはスターラーなどを用いて攪拌しながら浸漬する。
【0013】
軟骨組織からの非変性II型コラーゲンの抽出は、例えばアミノ酸自動分析法でヒドロプロリンを定量し、原料由来別のコラーゲン換算計数を使用して算出する方法がある。
その計算式は、II型コラーゲン(%)=ヒドロキシプロリン(g/100g)×12.51となり、12.51はフィッシュコラーゲンの換算係数である。
【0014】
浸漬が終了した過酢酸製剤溶液は、プロテオグリカンが抽出された溶液であり、非変性II型コラーゲは、固形物側に含まれる。これらを濾過、遠心分離その他の方法で取り除くことが好ましい。非変性II型コラーゲンを含む固形物は、pH調整後、各種用途に対して求められる純度にまで適当な方法で精製することが好ましい。
【0015】
本発明において、非変性II型コラーゲンの精製方法としては格別の方法を要するものではないが、好ましい方法として遠心分離法を挙げることができる。遠心分離操作によって、固形物を沈殿させ、水溶液側と簡便に固液分離することができる。
【0016】
さらに、得られた固形物をエタノールやアセトン等の有機溶剤に投入することで、非変性II型コラーゲンのわずかに残った脂質由来の魚臭と水分を容易に取り除くこともできる。この非変性II型コラーゲンは、有機溶剤処理をしない場合は、真空凍結乾燥機を用いて固形物にすることが可能である。また、有機溶剤処理を行った場合は、溶剤回収型の減圧乾燥機を用いるのが好ましい。
【0017】
過酢酸は海外、特に北米ではすでに食品添加物に認定されており、野菜・果物や食肉に直接作用され、微生物制御に定期要している事例もある。製造装置、製造環境や容器包装等の殺菌方法については、種々の殺菌方法が存在するが、なかでも過酸化水素や過酢酸製剤等の酸素系殺菌剤を用いる方法は、微生物に対する殺菌効果が非常に強いのが特徴である。特に過酢酸は、芽包菌を含む細菌、真菌(カビ・酵母)及びウイルスに対して幅広い殺菌性を示し、俗説では過酸化水素の100〜200倍の殺菌力があると言われている。
【0018】
非変性II型コラーゲンの製造プロセスは、タンパク質の変性を防ぐため、加熱殺菌する工程を入れることができない。このため、抽出原料をいかに無菌の状態にするかが工程の衛生管理の重要なポイントとなってくる。過酢酸を抽出溶媒とすることで、抽出工程が殺菌工程の役割を果たし、なおかつタンパク質を変性させずに効率良く非変性II型コラーゲンを製造する事が出来れば、通常、加熱殺菌プロセスを入れることのできない非変性II型コラーゲンの製造プロセスの衛生管理を容易に維持する事が可能である。
【0019】
また、従来の抽出方法に比べ、非変性II型コラーゲンを未変性、未分解の状態で簡便に回収することができ、非変性II型コラーゲンの製造コストを大きく減ずることができる。本発明の方法は、本来廃棄処分されてきた魚類、鳥類及び哺乳類などの廃棄部位から産業上有用性の高い非変性II型コラーゲンを回収することができ、産業廃棄物の有効利用並びに産業廃棄物自体の減量化にも貢献することができる。
【発明の効果】
【0020】
過酢酸を抽出溶媒とすることで、抽出工程が殺菌工程の役割を果たし、非変性II型コラーゲンの製造プロセスの衛生管理を容易に維持する事が可能である。
【0021】
非変性II型コラーゲンを含む生物学的試料から非変性II型コラーゲンを変性させず、未分解の状態で簡便に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【実施例1】
【0023】
−40℃で冷凍保管したシロサケの頭部から摘出した鼻軟骨を電動のミートチョッパーで細かく破砕しミンチ状にしたものを100g用意し、出発原料とした。2Lの抽出用容器にあらかじめ4℃に冷却しておいた蒸留水799.92gを入れ、さらに過酢酸製剤0.08gを投入し、総量800g(0.01%)の過酢酸水溶液を準備した。この抽出用容器に出発原料100.00gを投入し、スターラーを用いて攪拌しながら、24時間浸漬した。
【0024】
浸漬終了後、himac CF7D2型の遠心分離機を用いて7000rpm、15分の遠心分離を行い、非変性II型コラーゲンを含有する固形分(SS分)を回収し、固形分重量の約10倍の蒸留水で攪拌洗浄した後、脱水し凍結乾燥処理を行った。その結果、12gの出発原料から、換算値でその29.2%に相当する3.5gの乾燥固形分を得ることができた。
【0025】
この乾燥固形物をアミノ酸自動分析装置(日立製作所社製、L−8500 Amino Acid Analyzer)を用いてアミノ酸量を定量し、コラーゲン量を算出した結果、固形物中のコラーゲン量は、82.1%(ヒドロキシプロリンg/100g×12.1(フィッシュコラーゲンの換算係数))であった。
【0026】
得られたコラーゲン試料をDSC(示差走査熱量測定)により、タンパク質の熱変性温度を測定したところ、45℃で吸熱反応ピークが得られたことから、三重らせん構造を維持した非変性のII型コラーゲンであることがわかった。
【0027】
また、回収したコラーゲンの微生物検査の結果、一般細菌:100個/g以下、大腸菌群:陰性であった。
【実施例2】
【0028】
−40℃で冷凍保管したシロサケの頭部から摘出した鼻軟骨を電動のミートチョッパーで細かく破砕しミンチ状にしたものをアセトンに浸漬し、鼻軟骨から脱脂及び脱水を行った。処理後の鼻軟骨を減圧乾燥したもの12.00gを出発原料とした。3Lの抽出用容器にあらかじめ10℃に冷却しておいた蒸留水1678.3gを入れ、さらに液状の過酢酸製剤(三菱ガス化学:ダイヤパワー)1.68gを投入し、総量1680g(0.1%)の過酢酸製剤溶液を準備した。この抽出容器に出発原料12.00gを投入し、スターラーを用いて攪拌しながら、48時間浸漬した。
【0029】
浸漬終了後、himac CF7D2型の遠心分離機を用いて7000rpm、15分の遠心分離を行い、固形分(SS分)を回収した。
遠心分離で抽出残渣として固液分離された固形分を回収し、固形分重量の約10倍の蒸留水で攪拌洗浄した後、脱水し凍結乾燥処理を行った。その結果、12gの出発原料から、換算値でその30.0%に相当する3.6gの乾燥固形分を得ることができた。
【0030】
この乾燥固形物をアミノ酸自動分析装置(日立製作所社製、L−8500 Amino Acid Analyzer)を用いてアミノ酸量を定量し、コラーゲン量を算出した結果、固形物中のコラーゲン量は、79.3%(ヒドロキシプロリンg/100g×12.1(フィッシュコラーゲンの換算係数))であった。
【0031】
得られたコラーゲン試料をDSC(示差走査熱量測定)により、タンパク質の熱変性温度を測定したところ、45℃で吸熱反応ピークが得られたことから、三重らせん構造を維持した非変性のII型コラーゲンであることがわかった。変性コラーゲンの場合は、吸熱反応ピークがでないか、ピークがブロードになり変性温度の判定が出来ない。
【0032】
また、回収したコラーゲンの微生物検査の結果、一般細菌:100個/g以下、大腸菌群:陰性であった。
【実施例3】
【0033】
−40℃で冷凍保管したシロサケの頭部から摘出した鼻軟骨を電動のミートチョッパーで細かく破砕しミンチ状にしたものをエタノールに浸漬し、鼻軟骨から脱脂及び脱水を行った。処理後の鼻軟骨を減圧乾燥したもの12.00gを出発原料とした。3Lの抽出用容器にあらかじめ9℃に冷却しておいた蒸留水1678.82gを入れ、さらに液状の過酢酸製剤(三菱ガス化学:ダイヤパワー)1.18gを投入し、総量1680g(0.07%)の過酢酸製剤溶液を準備した。この抽出容器に出発原料12.00gを投入し、スターラーを用いて攪拌しながら、48時間浸漬した。
【0034】
浸漬終了後、himac CF7D2型の遠心分離機を用いて7000rpm、15分の遠心分離を行い、固形分(SS分)を含む液相を回収した。
遠心分離で抽出残渣として固液分離された固形分を回収し、固形分重量の約10倍の蒸留水で攪拌洗浄した後、脱水し凍結乾燥処理を行った。その結果、12gの出発原料から、換算値でその32.5%に相当する3.9gの乾燥固形分を得ることができた。
【0035】
この乾燥固形物をアミノ酸自動分析装置(日立製作所社製、L−8500 Amino Acid Analyzer)を用いてアミノ酸量を定量し、コラーゲン量を算出した結果、固形物中のコラーゲン量は、77.9%(ヒドロキシプロリンg/100g×12.1(フィッシュコラーゲンの換算係数))であった。
【0036】
得られたコラーゲン試料をDSC(示差走査熱量測定)により、タンパク質の熱変性温度を測定したところ、44℃で吸熱反応ピークが得られたことから、三重らせん構造を維持した非変性のII型コラーゲンであることがわかった。変性コラーゲンの場合は、吸熱反応ピークがでないか、ピークがブロードになり変性温度の判定が出来ない。
【0037】
また、回収したコラーゲンの微生物検査の結果、一般細菌:100個/g以下、大腸菌群:陰性であった。
【実施例4】
【0038】
−40℃で冷凍保管したシロサケの頭部から摘出した鼻軟骨を電動のミートチョッパーで細かく破砕しミンチ状にしたものをアセトンに浸漬し、鼻軟骨から脱脂及び脱水を行った。処理後の鼻軟骨を減圧乾燥したもの12.00gを出発原料とした。3Lの抽出用容器にあらかじめ6℃に冷却しておいた蒸留水1677.9gを入れ、さらに液状の過酢酸製剤(三菱ガス化学:ダイヤパワー)2.02gを投入し、総量1680g(0.12%)の過酢酸製剤溶液を準備した。この抽出容器に出発原料12.00gを投入し、スターラーを用いて攪拌しながら、24時間浸漬した。
【0039】
浸漬終了後、himac CF7D2型の遠心分離機を用いて7000rpm、15分の遠心分離を行い、固形分(SS分)を含む液相を回収した。
遠心分離で抽出残渣として固液分離された固形分を回収し、固形分重量の約8倍の蒸留水で攪拌洗浄した後、遠心脱水し、脱水済み固形分に3倍量のエタノールを投入した。
0.5時間攪拌混合し、濾過処理による固液分離を行った。濾過後の固形物を減圧乾燥処理し、非加熱で固形分の乾燥処理を行い、乾燥固形分を回収した。
その結果、12gの出発原料から、換算値でその26.7%に相当する3.2gの乾燥固形分を得ることができた。
【0040】
この乾燥固形物をアミノ酸自動分析装置(日立製作所社製、L−8500 Amino Acid Analyzer)を用いてアミノ酸量を定量し、コラーゲン量を算出した結果、固形物中のコラーゲン量は、84.5%(ヒドロキシプロリンg/100g×12.1(フィッシュコラーゲンの換算係数))であった。
【0041】
得られたコラーゲン試料をDSC(示差走査熱量測定)により、タンパク質の熱変性温度を測定したところ、43℃で吸熱反応ピークが得られたことから、三重らせん構造を維持した非変性のII型コラーゲンであることがわかった。変性コラーゲンの場合は、吸熱反応ピークがでないか、ピークがブロードになり変性温度の判定が出来ない。
【0042】
また、回収したコラーゲンの微生物検査の結果、一般細菌:100個/g以下、大腸菌群:陰性であった。
【実施例5】
【0043】
国内産鶏ヤゲン軟骨から手作業で肉片を除去した後、電動のミートチョッパーで細かく破砕しミンチ状にしたものをエタノールに浸漬し、鶏ヤゲン軟骨から脱脂及び脱水を行った。処理後の軟骨を減圧乾燥したもの12.0gを出発原料とした。3リットルの抽出用容器にあらかじめ12℃に冷却しておいた蒸留水1678.3gを入れ、さらに液状の過酢酸製剤1.18gを投入し、総量1680g(0.07%)の過酢酸水溶液を準備した。この抽出容器に出発原料12.0gを投入し、スターラーを用いて攪拌しながら、24時間浸漬した。
【0044】
浸漬終了後、himac CF7D2型の遠心分離機を用いて7000rpm、15分の遠心分離を行い、固形分(SS分)を回収した。
また、遠心分離で抽出残渣として固液分離された固形分を回収し、固形分重量の約10倍の蒸留水で攪拌洗浄した後、脱水し凍結乾燥処理を行った。その結果、12gの出発原料から、換算値でその25.8%に相当する3.1gの乾燥固形分を得ることができた。
【0045】
この乾燥固形物をアミノ酸自動分析装置(日立製作所社製、L−8500 Amino Acid Analyzer)を用いてアミノ酸量を定量し、コラーゲン量を算出した結果、固形物中のコラーゲン量は、79.7%(ヒドロキシプロリンg/100g×11.1(豚コラーゲンの換算係数:食品分析法(光琳)))であった。
【0046】
得られたコラーゲン試料をDSC(示差走査熱量測定)により、タンパク質の熱変性温度を測定したところ、63℃で吸熱反応ピークが得られたことから、三重らせん構造を維持した非変性のII型コラーゲンであることがわかった。変性コラーゲンの場合は、吸熱反応ピークがでないか、ピークがブロードになり変性温度の判定が出来ない。
【0047】
また、回収したコラーゲンの微生物検査の結果、一般細菌:100個/g以下、大腸菌群:陰性であった。
【実施例6】
【0048】
サメから手作業で摘出した軟骨を電動のミートチョッパーで細かく破砕しミンチ状にしたものをアセトンに浸漬し、脱脂及び脱水を行った。処理後の軟骨を減圧乾燥したもの12.00gを出発原料とした。3リットルの抽出用容器にあらかじめ5℃に冷却しておいた蒸留水1678.74gを入れ、さらに液状の過酢酸製剤2.02gを投入し、総量1680.00g(0.15%)の過酢酸水溶液を準備した。この抽出容器に出発原料12.00gを投入し、スターラーを用いて攪拌しながら、8時間浸漬した。
【0049】
浸漬終了後、himac CF7D2型の遠心分離機を用いて7000rpm、15分の遠心分離を行い、固形分(SS分)を含む液相を回収した。
遠心分離で抽出残渣として固液分離された固形分を回収し、固形分重量の約10倍の蒸留水で攪拌洗浄した後、脱水し凍結乾燥処理を行った。その結果、12gの出発原料から、換算値でその22.5%に相当する2.7gの乾燥固形分を得ることができた。
【0050】
この乾燥固形物をアミノ酸自動分析装置(日立製作所社製、L−8500 Amino Acid Analyzer)を用いてアミノ酸量を定量し、コラーゲン量を算出した結果、固形物中のコラーゲン量は、77.5%(ヒドロキシプロリンg/100g×12.1(フィッシュコラーゲンの換算係数)であった。
【0051】
また、回収したコラーゲンの微生物検査の結果、一般細菌:100個/g以下、大腸菌群:陰性であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、殺菌工程と抽出工程を同時に実施でき、しかもII型コラーゲンを変性させず、未分解のまま抽出することが可能となり、各種生物学的試料からII型コラーゲンを非変性のまま分離精製することに適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料を酸素系殺菌剤に浸漬する工程、並びに浸漬後の固形物を回収する工程を含む、非変性II型コラーゲンの製造方法。
【請求項2】
回収した非変性II型コラーゲンを分離、精製、脱水、乾燥する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸素系殺菌剤が過酢酸製剤の溶液である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
過酢酸製剤溶液の組成が、過酢酸5×10−5〜1重量%、過酸化水素5×10−5〜1重量%、酢酸3×10−5〜2重量%である請求項1〜請求項3の製造方法。
【請求項5】
非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料が、魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織、又は皮である、請求項1〜請求項3の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
非変性II型コラーゲンを含有する生物学的試料が、魚類の軟骨組織である、請求項4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−176926(P2012−176926A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55917(P2011−55917)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(598040020)
【Fターム(参考)】