説明

非対称ジベンゾジチエノチオフェン化合物

【課題】高い移動度と、優れた安定性を示す電子機器(例えば、薄膜トランジスタ)のための半導体層に使用できる半導体化合物および該化合物を使用した電子機器の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表される非対称半導体化合物。


(式中、RおよびRは、それぞれ独立してアルキル、置換アルキル、アルケニル等で、pおよびqは、独立して0または1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気性能が高く、可溶性であり、空気に安定な半導体化合物に関する。このような化合物は、半導体層を備える薄膜トランジスタ(TFT)および/または他の電子機器に有用である。このような化合物を製造する方法およびこのような化合物を使用する方法も、本明細書に開示されている。
【背景技術】
【0002】
TFTは、一般的に、基板の上に、導電性のゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極と、ゲート電極をソース電極およびドレイン電極から分離している電気絶縁性のゲート誘電層と、ゲート誘電層と接触し、ソース電極とドレイン電極とをつなぐ半導体層とで構成されている。TFTの性能は、電界効果移動度(電荷キャリア移動度とも呼ばれる)と、トランジスタ全体の電流オン/オフ比とによって決定づけることができる。移動度が大きく、オン/オフ比が大きいことが望ましい。
【0003】
有機薄膜トランジスタ(OTFT)は、無線自動識別(RFID)タグおよびディスプレイ(例えば、標識、リーダ、液晶ディスプレイ)のバックプレーンスイッチング回路のような、高いスイッチング速度および/または高密度が必須ではない用途で用いることができる。また、OTFTは、物理的に小型であり、軽量であり、可とう性であるといった、魅力的な機械特性を有している。
【0004】
有機薄膜トランジスタは、スピンコーティング、溶液キャスト法、浸漬コーティング、ステンシル/スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、マイクロコンタクトプリントなどのような、低コストの溶液系パターニングおよび析出技術を用いて製造することができる。薄膜トランジスタ回路の製造において、これらの溶液系プロセスの使用を可能にするために、溶液で処理可能な材料が必要とされている。しかし、溶液処理によって作られる有機半導体またはポリマー半導体は、溶解度が制限され、空気に感受性であり、特に、電界効果移動度が低い傾向がある。これらの課題を克服する新しい化合物を開発することが望ましいだろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
種々の実施形態では、電子機器に有用な半導体化合物が開示されている。この化合物は、非対称または不斉ジベンゾジチエノチオフェンまたはジナフトジチエノチオフェンである。
【0006】
いくつかの実施形態では、式(I)の構造を有する半導体化合物が開示されており、
【化1】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である。
【0007】
さらに特定的な実施形態では、半導体化合物は、式(II)の構造を有していてもよく、
【化2】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜4の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜4の整数である。式(II)の構造は、pおよびqが両方とも0のときに得られる。この化合物は、ジベンゾ[d,d’]ジチエノ[2,3−b:2’,3’−b’]チオフェンとも呼ばれることがある。
【0008】
いくつかの実施形態では、RとRは同じである。他の実施形態では、RおよびRは、独立してアルキルである。
【0009】
さらなる実施形態では、mとnは同じである。特定的には、mとnは、両方とも1であってもよい。
【0010】
半導体化合物は、式(III)の構造を有していてもよく、
【化3】

式中、RおよびRは、独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択される。
【0011】
特定的な実施形態では、RとRは同じであり、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリールから選択される。
【0012】
また、いくつかの実施形態では、ポリマーバインダーと、式(I)の半導体化合物とを含む半導体組成物も開示されており、
【化4】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である。
【0013】
ポリマーバインダーは、スチレン系ポリマー、またはアリールアミン系ポリマー、または本明細書にさらに記載されるようなポリマーのリストから選択されるポリマーバインダーであってもよい。
【0014】
半導体化合物とポリマーバインダーとの重量比は、5:1〜約2:3であってもよい。
【0015】
また、半導体層を備え、その半導体層が、式(I)の半導体化合物を含む電子機器も開示されており、
【化5】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である。
【0016】
半導体層は、さらにポリマーバインダーを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本開示のTFTの第1の実施形態の図である。
【図2】図2は、本開示のTFTの第2の実施形態の図である。
【図3】図3は、本開示のTFTの第3の実施形態の図である。
【図4】図4は、本開示のTFTの第4の実施形態の図である。
【図5】図5は、分子モデリング技術を用いて算出されたジアルキル置換ジベンゾジチエノチオフェンの平衡配置および結晶構造のカラーモデルを示す。
【図6】図6は、分子モデリング技術を用いて算出されたジアルキル置換ジナフトジチエノチオフェンの平衡配置および結晶構造のカラーモデルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に開示されている構成要素、プロセス、装置のもっと完全な理解は、添付の図面を参照することによって得られるだろう。これらの図は、簡便のため、また本開示を示しやすくすることに基づいて、単なる模式図であり、したがって、機器またはその構成要素の相対寸法および大きさを示すこと、および/または、例示的な実施形態の範囲を定義または限定することを意図していない。
【0019】
明確性のために、以下の記載で専門用語を使用するが、この用語は、図面で説明するために選択される実施形態の特定の構造のみを指すことを意図するものではなく、本開示の範囲を定義または限定することを意図するものでもない。図面および以下の記載において、同じ数字の記載は、同様の機能を有する構成要素を指すと理解されるべきである。
【0020】
量と組み合わせて用いられる修飾語句「約」は、述べられている値を含み、その内容によって示されている意味を有する(例えば、特定の量の測定値に関連する誤差の程度を少なくとも含む)。ある範囲に関して用いられる場合、修飾語句「約」は、2つの終点値の絶対値によって定義される範囲も開示しているものと考えるべきである。例えば、「約2〜約10」の範囲は、「2〜10」の範囲も開示している。
【0021】
用語「〜を含む」は、述べられている要素の存在を必須とし、他の要素が存在してもよいものとして本明細書で用いられる。用語「〜を含む」は、用語「〜からなる」を含むものと解釈されるべきであり、用語「〜からなる」は、述べられている要素の製造によって生じ得る任意の不純物を伴い、述べられている要素のみが存在することが許される。
【0022】
用語「室温」は、20℃〜25℃の範囲の温度を指す。
【0023】
本開示は、本明細書に開示されている半導体化合物に関する。半導体化合物を含む組成物も開示されている。半導体化合物を含む半導体層は、空気中で非常に安定であり、移動度が高い。これらの半導体化合物は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)のような電子機器で有用である。
【0024】
図1は、本開示にかかるボトム−ゲート型でボトム−コンタクト型のTFT構造を示す。TFT10は、ゲート電極30と接する基板20と、誘電層40とを備えている。ゲート電極30は、ここでは基板20の内部に示されているが、ゲート電極は、基板の上に配置されていてもよい。誘電層40が、ゲート電極30を、ソース電極50、ドレイン電極60、半導体層70と分離していることが重要である。半導体層70は、ソース電極50およびドレイン電極60を覆うように、これらの間にある。半導体は、ソース電極50とドレイン電極60との間にチャネル長80を有している。
【0025】
図2は、本開示にかかるボトム−ゲート型でトップ−コンタクト型の別のTFT構造を示す。TFT10は、ゲート電極30と接する基板20と、ゲート誘電層40とを備えている。半導体層70は、ゲート誘電層40の上部に配置されており、ゲート誘電層40をソース電極50およびドレイン電極60から分離している。
【0026】
図3は、本開示にかかるボトム−ゲート型でボトム−コンタクト型のTFT構造を示す。TFT10は、基板20を備えており、基板20は、ゲート電極としても作用し、ゲート誘電層40と接している。ソース電極50、ドレイン電極60、半導体層70は、ゲート誘電層40の上部に配置されている。
【0027】
図4は、本開示にかかるトップ−ゲート型でトップ−コンタクト型のTFT構造を示す。TFT10は、ソース電極50、ドレイン電極60、半導体層70と接する基板20を備えている。半導体層70は、ソース電極50およびドレイン電極60を覆うように、これらの間にある。ゲート誘電層40は、半導体層70の上部にある。ゲート電極30は、ゲート誘電層40の上部にあり、半導体層70とは接していない。
【0028】
さらに特定的な実施形態では、本開示の半導体化合物は、式(I)の構造を有し、
【化6】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である。pおよびqの値は、その化合物がフェニル環を含むか、またはナフタレン環を含むかを決定づけている。式(I)の化合物は、ジアリール[d,d’]ジチエノ[2,3−b;2’,3’−b’]チオフェンであり、これは本明細書で「DADTT」とも呼ばれることがある。
【0029】
さらに特定的な実施形態では、本開示の半導体化合物は、式(II)の構造を有し、
【化7】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜4の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜4の整数である。式(II)の化合物は、ジベンゾ[d,d’]ジチエノ[2,3−b:2’,3’−b’]チオフェンであり、これは本明細書で「DBDTT」とも呼ばれることがある。
【0030】
用語「アルキル」は、完全に炭素原子と水素原子で構成され、完全に飽和であり、式C2n+1を有する基を指す。アルキル基は、直鎖、分枝鎖、または環状であってもよい。
【0031】
用語「アルケニル」は、完全に炭素原子と水素原子とで構成され、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、この二重結合がアリール構造またはヘテロアリール構造の一部分ではない基を指す。この基は、直鎖、分枝鎖または環状であってもよい。
【0032】
用語「アルキニル」は、完全に炭素原子と水素原子とで構成されており、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含む基を指す。アルキニル基は、直鎖、分枝鎖または環状であってもよい。
【0033】
用語「アリール」は、完全に炭素原子と水素原子とで構成されている芳香族基を指す。アリールは、ある数値範囲の炭素原子と組み合わせて記載される場合、置換された芳香族置換基を含むと解釈するべきではない。例えば、句「炭素原子を6〜10個含むアリール」は、フェニル基(炭素原子6個)またはナフチル基(炭素原子10個)のみを指すと解釈すべきであり、メチルフェニル基(炭素原子7個)を含むと解釈すべきではない。
【0034】
用語「ヘテロアリール」は、炭素原子と、水素原子と、1個以上のヘテロ原子とで構成される芳香族基を指す。この基の環式環または骨格に炭素原子およびヘテロ原子が存在する。ヘテロ原子は、O、S、Nから選択される。例示的なヘテロアリール基としては、チエニルおよびピリジルが挙げられる。
【0035】
用語「アルコキシ」は、酸素原子に接続したアルキル基、すなわち−O−C2n+1を指す。
【0036】
用語「アルキルチオ」は、硫黄原子に接続したアルキル基、すなわち、−S−C2n+1を指す。
【0037】
用語「置換された」は、述べられている基の少なくとも1つの水素原子が、別の官能基、例えば、ハロゲン、−CN、−NO、−COOH、−SOHで置換されていることを指す。例示的な置換アルキル基は、ペルハロアルキル基であり、この場合、アルキル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素と置き換わっている。上述の官能基以外に、アリール基またはアリーレン基も、アルキルまたはアルコキシまたはアルキルチオで置換されていてもよい。例示的な置換アリール基としては、メチルフェニルおよびメトキシフェニルが挙げられる。例示的な置換ヘテロアリールとしては、ドデシルチエニルが挙げられる。
【0038】
一般的に、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基は、それぞれ独立して、炭素原子を1〜30個含み、例えば約4〜約16個含む。同様に、アリール基は、独立して、炭素原子を6〜30個含む。ヘテロアリール基は、独立して、炭素原子を4〜30個含む。特定的な実施形態では、アリール基およびヘテロアリール基は、炭素原子を約3〜約16個含むアルキル基で置換されている。
【0039】
いくつかの実施形態では、半導体化合物は、2.3eVより大きな高いバンドギャップを有する。この大きなバンドギャップは、典型的には、ペンタセン系誘導体と比較した場合、この低分子半導体が空気中で良好な安定性を有することを意味する。低分子半導体は、結晶構造または液晶構造を有している。
【0040】
式(I)および式(II)のいくつかの特定の実施形態では、RとRは同じ側鎖であり、m=1、n=1である。他の特定的な実施形態では、RおよびRはアルキルである。式(I)の特定的な実施形態では、pとqは同じである(すなわち、両方とも0であるか、両方とも1である)。
【0041】
さらに特定的な実施形態では、半導体化合物は、式(III)の構造を有し、
【化8】

およびRは、独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択される。ここで、2位と7位に2個のR側鎖が存在する。
【0042】
いくつかの特定の実施形態では、RとRは同じであり、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールから選択される。他の実施形態では、RとRは同じであり、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリールから選択される。
【0043】
本明細書に記載の半導体化合物を製造するために、当該技術分野で既知のさまざまな方法を使用することができる。例えば、スキーム1は、第1のアプローチを示す。市販の3−ブロモベンゾチオフェン1から出発し、アルキルリチウム試薬とのリチウム−ハロゲン交換反応を行い、次いで、無水塩化亜鉛とのトランスメタル化を行うことができる。次いで、この亜鉛アニオン2と、2,3−ジブロモベンゾチオフェン3との根岸クロスカップリング反応を、反応性が高い2位で位置選択的に行うことができる。次いで、この中間体4を、アルキルリチウム試薬を用いてジアニオンに変換し、求電子性硫黄源(例えば、ジフェニルスルホニルスルフィド)を用いてクエンチし、DADTTコア5の第3のチオフェン環を生成することができる。
【化9】

【0044】
スキーム2は、DADTTコアへのアルキル置換基の付加を示し、DADTTコアは、ここでは、DBDTTコア5として示されている。まず、三塩化アルミニウム存在下、DBDTTコア5を置換酸塩化物と反応させ、ジケトニルDBDTT6を生成する。次に、このジケトニルDBDTT6を、ジエチレングリコール中、水酸化カリウム存在下、ヒドラジンを用いた改良型Wolff−Kishner還元を用いて脱酸素する。これにより、ジアルキル−DBDTT7が生成する。2種類以上の酸塩化物を用い、2個以上の異なるR側鎖を有する化合物を得てもよい。
【化10】

【0045】
まず、DBDTTコア5を臭素で臭素化することによって、アリール置換基を付加することができる。次いで、中間体の臭素化化合物8を、標準的なパラジウム触媒によるクロスカップリング技術を用い、アクリレート化することができる。スキーム3は、代表的な例として、鈴木−向山カップリングを使用し、ホウ素錯体9と反応させ、ジアリール−DBDTT10を作成する。2種類以上のホウ素錯体を用い、2種類以上の異なるアリール側鎖をもつ化合物を得てもよい。
【化11】

【0046】
半導体化合物自体は膜形成性が悪く、このことは、半導体化合物の結晶性または液晶性によるものである。したがって、半導体層は、典型的には、半導体化合物とポリマーバインダーとを含む半導体組成物から作られ、これにより、均一な膜を得ることができ、機器の性能が顕著に向上する。ポリマーバインダーは、マトリックスを形成しており、その中に半導体化合物が分散していると考えてもよい。
【0047】
半導体組成物のポリマーバインダーとして、任意の適切なポリマーを使用することができる。ある実施形態では、ポリマーは、アモルファスポリマーである。アモルファスポリマーは、ガラス転移温度が、半導体化合物の融点よりも低くてもよい。他の実施形態では、アモルファスポリマーは、ガラス転移温度が、半導体化合物の融点よりも高い。いくつかの実施形態では、ポリマーは、誘電率が、室温、60Hzで測定する場合、4.5未満、好ましくは、3.5未満であり、例えば3.0未満である。いくつかの実施形態では、ポリマーは、C、H、F、ClまたはN原子のみを含むポリマーから選択される。ある実施形態では、ポリマーは、極性の低いポリマー、例えば、極性基をもたない炭化水素ポリマーまたはフルオロカーボンポリマーである。例えば、ポリスチレンは、アモルファスポリマーであり、誘電率が約2.6である。他の極性が低いポリマーのリストとしては、限定されないが、以下のものが挙げられる。フルオロポリアリールエーテル、ポリ(p−キシリレン)、ポリ(ビニルトルエン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(α−ビニルナフタレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、ポリ(2−メチル−1,3−ブタジエン)、ポリ(シクロヘキシルメタクリレート)、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(ビニル,シクロヘキサン)、ポリフェニレン、ポリ−p−フェニルビニリデン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイソブチレン、ポリ(2、6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ[1,1−(2−メチルプロパン)ビス−(4−フェニル)カーボネート]、ポリ(α−α−α’−α’テトラフルオロ−p−キシリレン)、フッ素化ポリイミド、ポリ(エチレン/テトラフルオロエチレン)、ポリ(エチレン/クロロトリフルオロエチレン)、フッ素化エチレン/プロピレンコポリマー、ポリ(スチレン−コ−α−メチルスチレン)、ポリ(スチレン/ブタジエン)、ポリ(スチレン/2,4−ジメチルスチレン)、CYTOP、ポリ(プロピレン−コ−1−ブテン)、ポリ(スチレン−コ−ビニルトルエン)、ポリ(スチレン−ブロック−ブタジエン−ブロック−スチレン)、ポリ(スチレン−ブロック−イソプレン−ブロック−スチレン)、テルペン樹脂、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリカルバゾール、ポリトリアリールアミンなどが挙げられる。
【0048】
特定の実施形態では、ポリマーバインダーは、スチレン系ポリマーである。スチレン系ポリマーは、式(a)のスチレンモノマーに由来する繰り返し単位を含み、
【化12】

式中、R、R、R、Rは、独立して、水素、ハロゲン、C〜C20アルキルから選択され、nは、0〜5の整数である。スチレンモノマーは、スチレン(R、R、Rは、すべて水素であり、n=0)、α−メチルスチレン(Rはメチルであり、RおよびRは水素であり、n=0)、または4−メチルスチレン(R、R、Rはすべて水素であり、n=1、Rは4位のメチルである)であってもよい。用語「スチレン系ポリマー」は、ホモポリマーおよびコポリマーを包含することを意図している。用語「コポリマー」は、ランダムコポリマーおよびブロックコポリマーを包含することを意図している。
【0049】
他の特定の実施形態では、ポリマーバインダーは、アリールアミン系ポリマーである。アリールアミン系ポリマーは、式(b)、式(c)または式(d)の構造を有するモノマーに由来する繰り返し単位を有し、
【化13】

【化14】

【化15】

式中、R、R、R、R、Rは、独立して、水素、ハロゲン、C〜C20アルキル、アリールから選択され、p’およびq’は、独立して、0〜5の整数であり、Rは、C〜C20アルキル、アリール、置換アリールから選択される。用語「アリールアミン系」ポリマーは、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリカルバゾール、トリアリールアミン系ポリマーを包含することが意図されている。
【0050】
特定の実施形態では、スチレン系ポリマーおよびアリールアミン系ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(ビニルトルエン)、ポリ(α−メチルスチレン−コ−ビニルトルエン)、ポリ(スチレン−ブロック−ブタジエン−ブロック−スチレン)、ポリ(スチレン−ブロック−イソプレン−ブロック−スチレン)、テルペン樹脂、ポリ(スチレン−コ−2,4−ジメチルスチレン)、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(スチレン−コ−α−メチルスチレン)、ポリ(スチレン/ブタジエン)、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリカルバゾール、ポリトリアリールアミンが挙げられる。1種類以上のポリマーバインダーを半導体組成物に使用してもよいことを注記すべきである。
【0051】
一般的に、ポリマーバインダーは、重量平均分子量が約10,000〜約2,000,000、例えば約40,000〜約1,000,000であってもよい。さらに特定的な実施形態では、ポリマーバインダーは、スチレン系ポリマーである。特定の実施形態では、スチレン系ポリマーは、重量平均分子量が約40,000〜約2,000,000である。ある実施形態では、スチレン系ポリマーは、分子量が約100,000〜約1,000,000である。ある好ましい実施形態では、ポリマーバインダーは、重量平均分子量が約40,000〜約2,000,000のポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、またはポリ(4−メチルスチレン)である。
【0052】
式(I)の半導体化合物とポリマーバインダーとの重量比は、約99:1〜約1:3、例えば約10:1〜約1:2、約5:1〜約2:3、または約3:2〜約3:4であってもよい。ある実施形態では、式(I)の半導体化合物とポリマーバインダーとの重量比は、ほぼ1:1である。
【0053】
半導体組成物は、半導体化合物とポリマーバインダーが可溶性の溶媒をさらに含んでいてもよい。この溶液で使用する例示的な溶媒としては、塩素化溶媒、例えば、クロロベンゼン、クロロトルエン、ジクロロベンゼン、ジクロロエタン、クロロホルム、トリクロロベンゼンなど、アルコールおよびジオール、例えば、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ヘキサンジオールなど、炭化水素または芳香族炭化水素、例えば、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、デカリン、キシレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、メチルナフタレン、メシチレン、トリメチルベンゼンなど、ケトン、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど、アセテート、例えば、酢酸エチル、ピリジン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0054】
半導体化合物およびポリマーバインダーは、半導体組成物の約0.05〜約20重量%、例えば約0.1〜約10重量%、または約0.1〜約1.0重量%である。
【0055】
いくつかの実施形態では、半導体化合物とポリマーバインダーとを含む半導体組成物は、粘度が約1.5センチポイズ(cp)〜約100cp、例えば約2〜約20cpであってもよい。高分子量ポリマーバインダーを使用すると、半導体組成物の粘度が上がるだろう。結果として、インクジェット印刷およびスピンコーティングのような溶液析出技術を用い、均一な半導体層を作成するのに役立つだろう。
【0056】
ボトム−ゲート型TFTは、一般的に製造が単純であるため、有益であろう。しかし、以前の半導体/ポリマーコンポジット系は、トップ−ゲート型デバイスでのみ高い移動度が達成されている。本開示の半導体組成物を利用すると、図1〜3に示されるようなボトム−ゲート型デバイスでも、高い移動度を達成することができる。
【0057】
当該技術分野で既知の従来のプロセスを用い、電子機器中に半導体層を作成してもよい。いくつかの実施形態では、半導体層は、溶液析出技術を用いて作成される。例示的な溶液析出技術としては、スピンコーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、浸漬コーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スタンピング、ステンシル印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などが挙げられる。
【0058】
析出させた後、半導体組成物を、場合により、半導体組成物で使用される半導体化合物の融点よりも低い高温で熱処理する(例えば、乾燥またはアニーリングによって)。使用する半導体化合物に依存して、熱処理の温度は変わってもよい。例えば、熱処理は、200℃未満、150℃未満、100℃未満の温度で行われてもよい。一般的に、半導体層は、半導体化合物の融点よりも高い温度の熱処理プロセスを経験しない。ある実施形態では、特に、式(I)の半導体化合物を用いる場合、半導体組成物から半導体層を製造する間に、アニーリング工程が存在しない。半導体化合物の融点よりも高い温度でアニーリングすると、半導体化合物およびポリマーバインダーの顕著な相分離が起こり、半導体化合物の結晶の平均サイズが大きくなる。その結果、電子機器の電気性能は悪くなるだろう。
【0059】
特定の実施形態では、本開示の半導体化合物は、特に、室温で結晶性であり、半導体層の結晶の平均サイズが、100ナノメートル以下である。特定の実施形態では、結晶の平均サイズが、50ナノメートル以下である。さらに特定的な実施形態では、結晶の平均サイズが、35ナノメートル以下である。結晶性半導体化合物は、一般的に、結晶のサイズが5ナノメートルよりも大きい。結晶の平均サイズは、X線回折法、透過型電子顕微鏡法(TEM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)、原子間力顕微鏡法(AFM)などの方法を用いて測定することができる。結晶の平均サイズの測定は、球状の容積の直径としてあらわされる。しかし、このことは、半導体化合物の結晶が特定の構造または形状を有することを必要とすると解釈されるべきではない。
【0060】
半導体組成物を用いて作られた半導体層は、深さが約5ナノメートルから約1000ナノメートルであってもよい(約20〜約100ナノメートルを含む)。特定の構造(例えば、図1に示される構造)において、半導体層は、ソース電極とドレイン電極を完全に覆っている。
【0061】
TFTの性能を、移動度によって測定することができる。移動度は、単位cm/V・secで測定され、移動度が高いことが望ましい。本開示の半導体化合物を含み、得られたTFTは、電界効果移動度が、少なくとも0.1cm/V・sec、例えば少なくとも0.2cm/V・sec、または少なくとも0.5cm/V・secであってもよい。本開示のTFTは、電流オン/オフ比が少なくとも10、例えば少なくとも10、または少なくとも10であってよい。
【0062】
薄膜トランジスタは、一般的に、半導体層に加え、基板と、任意要素のゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極と、誘電層とを備えている。
【0063】
基板は、限定されないが、ケイ素、ガラス板、プラスチック膜またはシートを含む材料で構成されていてもよい。構造的に可とう性の機器では、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドのシートなどのようなプラスチック基板が好ましい場合がある。基板の厚みは、約10マイクロメートルから10ミリメートルを超えていてもよく、例示的な厚みは、特に、可とう性プラスチック基板の場合には、約50〜約100マイクロメートル、ガラスまたはケイ素のような剛性基板の場合には、約0.5〜約10ミリメートルであってもよい。
【0064】
誘電層は、一般的に、無機材料の膜、有機材料の膜、または有機−無機コンポジットの膜であってもよい。誘電層として適する無機材料の例としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムジルコニウムなどが挙げられる。適切な有機ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、エポキシ樹脂などが挙げられる。誘電層の厚みは、使用される材料の誘電率によって変わり、例えば、約10ナノメートル〜約500ナノメートルであってもよい。誘電層は、導電率が、例えば、約10−12ジーメンス/センチメートル(S/cm)未満であってもよい。誘電層は、ゲート電極を作成するときに記載したプロセスを含む、当該技術分野で知られる従来のプロセスによって作られる。
【0065】
本開示において、誘電層は、表面改質剤で表面が改質されていてもよい。この2つの半導体層は、この改質された誘電層表面に直接接していてもよい。完全に接触していてもよいし、部分的に接触していてもよい。この表面改質は、誘電層と半導体層との間に界面層を作成すると考えることもできる。特定の実施形態では、誘電層の表面は、式(A)の有機シラン剤で改質されており、
【数1】

式中、Rは、炭素原子を1〜約20個含むアルキル、置換アルキル、アリール、または置換アリールであり、R’は、ハロゲンまたはアルコキシであり、mは、1〜4の整数であり、Lは、接続する原子であり、tは、0または1であり、接続する原子が存在するか否かを示しており、vは、接続する原子の上の三置換シリル基の数を示す。(m+t)の合計は、決して4より大きくはならない。tが0の場合、vは、自動的に1である。例示的な有機シランとしては、オクチルトリクロロシラン(OTS−8)(t=0、R=オクチル、m=1、R’=クロロ、v=1)、ドデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)(L=NH、t=1、R=メチル、m=3、v=2)、フェニルトリクロロシラン、メチルトリメトキシルシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジクロロシラン、(3−フェニルプロピル)ジメチルクロロシラン、(3−フェニルプロピル)メチルジクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェネチルトリクロロシランなどが挙げられる。特定の実施形態では、Rは、フェニル基を含む。他の表面改質剤、例えば、ポリスチレン、ポリシロキサンまたはポリシルセスキオキサンを同じように用いてもよい。
【0066】
ゲート電極は、導電性材料で構成されている。ゲート電極は、金属の薄膜、導電性ポリマー膜、導電性インクまたはペーストから作られる導電性膜、または基板自体(例えば、重金属がドープされたケイ素)であってもよい。ゲート電極の材料の例としては、限定されないが、アルミニウム、金、銀、クロム、インジウムスズ酸化物、導電性ポリマー、例えば、ポリスチレンスルホネートがドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS−PEDOT)、カーボンブラック/グラファイトで構成される導電性インク/ペーストが挙げられる。ゲート電極は、減圧エバポレーション、金属または導電性金属酸化物のスパッタリング、従来のリソグラフィーおよびエッチング、化学真空蒸着、スピンコーティング、鋳造または印刷、または他の析出プロセスによって調製されてもよい。ゲート電極の厚みは、例えば、金属膜の場合には、約10〜約200ナノメートル、導電性ポリマーの場合には、約1〜約10マイクロメートルの範囲である。ソース電極およびドレイン電極として用いるのに適した、典型的な材料としては、アルミニウム、金、銀、クロム、亜鉛、インジウム、導電性金属酸化物、例えば、亜鉛−ガリウム酸化物、インジウムスズ酸化物、インジウム−アンチモン酸化物、導電性ポリマーおよび導電性インクのようなゲート電極の材料が挙げられる。ソース電極およびドレイン電極の典型的な厚みは、例えば、約40ナノメートル〜約1μmであり、より特定的な厚みは、約100〜約400ナノメートルである。
【0067】
ソース電極およびドレイン電極として用いるのに適した、典型的な材料としては、金、銀、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマー、導電性インクのようなゲート電極の材料が挙げられる。特定の実施形態では、電極材料は、半導体に対する接触抵抗が低い。典型的な厚みは、例えば、約40ナノメートル〜約1μmであり、より特定的な厚みは、約100〜約400ナノメートルである。本開示のOTFTデバイスは、半導体チャネルを含む。半導体チャネルの幅は、例えば、約5マイクロメートル〜約5ミリメートルであってもよく、特定的なチャネルの幅は、約100マイクロメートル〜約1ミリメートルである。半導体チャネルの長さは、例えば、約1μm〜約1ミリメートルであってもよく、より特定的なチャネルの長さは、約5マイクロメートル〜約100マイクロメートルである。
【0068】
ソース電極は、接地されており、ゲート電極に、例えば、約+10ボルト〜約−80ボルトの電圧がかけられる場合、半導体チャネルを通って移動する電荷キャリアを集めるために、例えば、約0ボルト〜約80ボルトのバイアス電圧がドレイン電極にかけられる。電極は、当該技術分野で既知の従来のプロセスを用いて作成されるか、または析出されてもよい。
【0069】
所望な場合、電気的性質を破壊し得る環境条件(例えば、光、酸素、水分など)から守るために、防御層をTFTの上部に析出させてもよい。このような防御層は、当該技術分野で知られており、単にポリマーからなるものであってもよい。
【0070】
OTFTの種々の要素を、任意の順序で基板の上に析出させてもよい。しかし、一般的に、ゲート電極および半導体層は、両方ともゲート誘電層に接していなければならない。それに加え、ソース電極およびドレイン電極は、両方とも半導体層に接していなければならない。句「任意の順序で」は、順次作成すること、同時に作成することを含む。例えば、ソース電極およびドレイン電極を同時に作成してもよく、順次作成してもよい。用語基板「の上(on)」または基板「の上(upon)」は、基板の上部にある層および要素について、底部または支持板であるような基板に対する、種々の層および要素を指す。言い換えると、すべての要素は、すべてが基板と直接接していない場合であっても、基板の上にある。例えば、誘電層および半導体層は、一方の層が他の層よりも基板に近い場合であっても、両方とも基板の上にある。得られたTFTは、良好な移動度を有し、良好な電流オン/オフ比を有する。
【0071】
以下の実施例は、本開示をさらに説明するためのものである。この実施例は、単なる説明であり、ここに記載した材料、条件またはプロセスパラメータに関し、本開示によって作られた機器限定することを意図したものではない。すべての部は、他の意味であると示されていない限り、容積%である。
【実施例】
【0072】
DBDTT−C5と名付けた、RおよびRが−C11である式(II)に対応する化合物に対し、分子モデリング試験を実施した。DNDTT−C5と名付けた、pおよびqが両方とも1であり、RおよびRは−C11であり、3位および9位に位置している式(I)に対応する化合物についても、分子モデリング試験を実施した。DNDTT−C5は、正式名称は3,10−ジペンチル−ジナフト[d,d’]ジチエノ[2,3−b:2’,3’−b’]チオフェンである。次いで、DBDTT−C5およびDNDTT−C5を、1−C5と名付けた、以下に示す対照的な比較化合物と比較した。DMol3パッケージを用いたMaterials Studio 5.0でモデルを作成し、密度汎関数法(PBE)を用いて平衡配置を決定し、次いで、最適化した構造(HCTH)に対し、一点計算を行った。
【化16】

【化17】

【化18】

【0073】
表1には、結果を列挙している。これらの結果は、3種類の化合物が良く似た電気特性をもっており、よく似た電荷輸送能をもっていることを示している。
【表1】

【0074】
次いで、DBDTT−C5およびDNDTT−C5の結晶化を、Polymorphモジュール(COMPASS forcefield)を用いてシミュレーションした。図5は、DBDTT−C5の固体状態での構造を示すカラーモデルである。図6は、DNDTT−C5の固体状態での構造を示すカラーモデルである。両分子とも、π−πスタッキングによって積み重なった状態で整列し、正孔の輸送を促進する。特定的には、硫黄原子が互いに整列している。アルキル鎖は、芳香族の積み重ねと平行に整列しており、固体状態では、もっと長い範囲で規則的になるはずである。このことは、これら2種類の分子が、それぞれ結晶多形を形成することを示しており、この結晶多形は、効率的な電荷輸送に適しているはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の構造を有し、
【化1】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である、半導体化合物。
【請求項2】
ポリマーバインダーと、
式(I)の半導体化合物とを含み、
【化2】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である、半導体組成物。
【請求項3】
半導体層を備え、半導体層が、式(I)の半導体化合物を含み、
【化3】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アルキルチオ、シアノ(CN)、ハロゲンから選択され、mは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、nは、R側鎖の数であり、0〜6の整数であり、pおよびqは、独立して、0または1である、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87118(P2013−87118A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−218992(P2012−218992)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】