説明

非対称ポリマーフィルム、その製造方法およびその使用

本発明は、特にポリアゾールに基づく、非対称ポリマーフィルム、該ポリマーフィルムの製造方法、およびその使用に関する。本発明に従うポリアゾールベースの非対称ポリマーフィルムは、スムースおよびラフ面を有し、そしてその非対称構造に起因して、迅速かつ均一な酸でのドーピングを可能にしてプロトン伝導膜を形成する。本発明の非対称ポリアゾールベースポリマーフィルムは、その優れた化学的、熱的および機械的特性に起因して種々の様式で使用され得、そしていわゆるPEM燃料電池のためのポリマー電解質膜(PEM)の製造に特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にポリアゾールに基づく、非対称ポリマーフィルム、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に従うポリマーフィルムは、その優れた化学的、熱的および機械的特性のために広範囲の様式で使用され得、そしていわゆるPEM燃料電池中のポリマー電解質膜(polymer electrolyte membrane;PEM)として特に好適である。
【0003】
それらをPEM燃料電池における使用に好適にするために、ポリアゾール膜は酸でドープされなければならない。この目的のために、塩基性ポリアゾール膜は、濃リン酸または硫酸で処理され、そしていわゆるポリマー電解質膜燃料電池(PEM燃料電池)中のプロトンコンダクターおよびセパレータとして機能する。
【0004】
ポリアゾールポリマーの優れた特性のために、このようなポリマー電解質膜−膜電極ユニット(membrane electrode units;MEE)中へ加工される−は、100℃を超える、特に120℃を超える長時間の作動温度で、燃料電池において使用され得る。この高い長時間の作動温度は、膜電極ユニット(MEE)中に含まれる貴金属ベースに対する触媒の活性を増加させることを可能にする。特に、炭化水素からのいわゆる改質ガソリンの使用で、かなりの量の一酸化炭素がリフォーマーガス中に含まれ、これは、通常、高価なガス処理またはガス精製によって除去されなければならない。作動温度が増加する可能性の結果として、遥かにより高い濃度のCO不純物が、長期間にわたって許容され得る。
【0005】
ポリアゾールポリマーに基づくポリマー電解質膜の使用によって、一方で、部分的に、高価なガス処理またはガス精製を省くこと、そして他方で、膜電極ユニットにおける触媒チャージを減少させることが可能である。これらの因子は両方とも、PEM燃料電池の大規模使用に必須の前提条件であり、何故ならば、そうでなければPEM燃料電池システムの費用は高すぎるからである。
【0006】
強酸でのポリマー膜のドーピングは、該膜のスムースな表面における該酸の吸収は徐々にしか起こらないため、しばしば、かなりの出費で作製される。従って、不均一な酸ドーピングが、しばしば、膜の断面に渡って生じ、そしてこれは、十分でない再現性に至る。
【0007】
酸でドーピングした後、従来公知のポリアゾールに基づくポリマー膜は、依然として、−上述の意図される目的について−不適切な機械的特性を示す。この機械的不安定性は、低弾性率、低引裂耐性および低破壊靱性で表れる。
【0008】
しかし、特に自動車および定常状態セクター(the automotive and steady-state sector)における、PEM燃料電池のための所望の適用のために、使用される膜の高い再現性が望まれており、そして既に公知の方法は、依然として改善される必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、一方で該膜の全断面に渡る均一な酸ドーピングを保証し、そして同時に技術的に実行可能なプロセスで得られ得る、ポリアゾールに基づくポリマー膜を入手可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、スムース面およびラフ面の両方を保有するポリアゾールに基づく非対称ポリマーフィルム(asymmetric polymer films)が、ドーピングの間、遥かにより迅速且つより均一な酸吸収を可能にし、そして従って経済的に(即ち、短時間で)そして高度の再現性で製造され得ることが見出された。更には、本発明に従う方法で製造されるドープされたポリマー膜は、良好な機械的特性および優れたプロトン伝導性を有する。
【0011】
本発明の主題は、スムース面およびラフ面を有し、スムース面の粗さが<2μm、特に<1μm、そしてラフ面の粗さが3〜10μm、好ましくは4〜8.5μm、特に4〜7μmである、ポリアゾールに基づく非対称ポリマーフィルムである。
【0012】
本発明に従うポリマーフィルムの粗さは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像によって測定される。クレーター(craters)の深さ(層厚み)が、粗さ(roughness)として表される。図1から理解され得るように、本発明に従うポリマーフィルムは、顕著に異なる表面を有する。スムース面は、<2μm、特に<1μmの深さのほんのかなり小さなむら(unevennesses)を有する主に規則的な構造を表す一方、該フィルムのラフ面は、3〜10μm、好ましくは4〜8.5μm、特に4〜7μmの範囲の層厚み(深さ)を示す。
【0013】
本発明の意味内のポリアゾールは、一般式(I)および/または(II)および/または(III)および/または(IV)および/または(V)および/または(VI)および/または(VII)および/または(VIII)および/または(IX)および/または(X)および/または(XI)および/または(XII)および/または(XIII)および/または(XIV)および/または(XV)および/または(XVI)および/または(XVI)および/または(XVII)および/または(XVIII)および/または(XIX)および/または(XX)および/または(XXI)および/または(XXII)
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
[式中、
Arは、同一または異なり、そして四価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価または三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして四価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価または三価または四価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Ar10は、同一または異なり、そして二価または三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Ar11は、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Xは、同一または異なり、そして酸素、硫黄またはアミノ基{これは、さらなる基として、水素原子、1〜20の炭素原子を有する基(好ましくは、分枝または非分枝のアルキルまたはアルコキシ基、あるいはアリール基)を保有する}を意味し、
Rは、同一または異なり、水素、アルキル基および芳香族基を意味し、式(XX)における基Rは水素とは異なり、そして
n、mは、10以上、好ましくは100以上の整数(whole number)である]
の繰り返しアゾール単位(recurring azole units)を含有するポリマーを意味するものと理解される。
【0019】
好ましい芳香族またはヘテロ芳香族基は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、キノリン、ピリジン、ビピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ピロール、ピラゾール、アントラセン、ベンゾピロール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾピリジン、ベンゾピラジン、ベンゾピラジジン(benzopyrazidine)、ベンゾピリミジン、ベンゾピラジン、ベンゾトリアジン、インドリジン、キノリジン、ピリドピリジン(pyridopyridine)、イミダゾピリミジン、ピラジノピリミジン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、フェノキサジン、フェノチアジン、アクリジジン、ベンゾプテリジン、フェナントロリン、およびフェナントレン(これらはまた、必要ならば、置換され得る)から誘導される。
【0020】
Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar10、Ar11の置換パターンは任意であり;フェニレンの場合、例えば、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar10、Ar11は、オルト−、メタ−およびパラ−フェニレンであり得る。特に好ましい基は、ベンゼンおよびビフェニレン(これらはまた、必要ならば、置換され得る)から誘導される。
【0021】
好ましいアルキル基は、1〜4の炭素原子を有する短鎖アルキル基、例えば、メチル、エチル、n−もしくはi−プロピル、およびt−ブチル基である。
【0022】
好ましい芳香族基は、フェニルまたはナフチル基である。該アルキル基および芳香族基は置換され得る。
【0023】
好ましい置換基は、ハロゲン原子(例えば、フッ素)、アミノ基、ヒドロキシ基、または短鎖アルキル基(例えば、メチルまたはエチル基)である。
【0024】
好ましいのは、繰り返し単位内のX基が同一である、式(I)の繰り返し単位を有するポリアゾールである。
【0025】
ポリアゾールはまた、例えばそれらのX基が異なる、異なる繰り返し単位を原理的には有し得る。しかし、好ましくは、繰り返し単位内で同一のX基のみが存在する。
【0026】
さらなる好ましいポリアゾールポリマーは、ポリイミダソール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、およびポリ(テトラアザピレン)(poly(tetrazapyrenes))である。
【0027】
本発明の別の実施形態において、繰り返しアゾール単位を含むポリマーは、互いに異なる、式(I)〜(XXII)の少なくとも2つの単位を含む、コポリマーまたはブレンドである。該ポリマーは、ブロックコポリマー(ジブロック、トリブロック)、ランダムコポリマー、ペリオディック(periodic)コポリマー、および/または交互(alternating)ポリマーとして存在し得る。
【0028】
本発明の特に好ましい実施形態において、繰り返しアゾール単位を含むポリマーは、式(I)および/または(II)の単位のみを含むポリアゾールである。
【0029】
該ポリマーにおける繰り返しアゾール単位の数は、好ましくは、10以上の整数である。特に好ましいポリマーは、少なくとも100の繰り返しアゾール単位を含む。
【0030】
本発明の範囲内において、繰り返しベンゾイミダゾール単位を含むポリマーが好ましい。繰り返しベンゾイミダゾール単位を含む特に好適なポリマーのいくつかの例は、以下の式によって示される:
【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
ここで、nおよびmは、10以上、好ましくは100以上の整数である。
【0036】
使用されるポリアゾール、しかし特にポリベンゾイミダゾールは、高分子量を有する。これは、固有粘度として測定した場合、少なくとも0.8dl/g、好ましくは少なくとも1.1dl/gになる。
【0037】
本発明に従うポリマーフィルムの製造は、以下の工程を用いて行われる:
A)溶媒中にポリアゾールポリマーを含有する溶液および/または懸濁液の、担体(この表面は、所望の粗さが得られる様式で粗面化されている)上における付着(二次元層の形成を伴う)、
B)工程A)に従って形成された層の乾燥、ならびに
C)該担体からの該乾燥したポリマーフィルムの分離。
【0038】
ポリアゾールに基づくポリマー溶液の製造は、先行技術において詳細に記載されている。EP-A-0816415は、従って、260℃を超える温度で、極性非プロトン性溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドを使用する、ポリアゾールに基づくポリマーの溶解方法を記載している。ポリアゾールに基づく溶液の製造について遥かに穏やかなプロセスが、ドイツ特許出願10052237.8に開示されている。
【0039】
層形成は、ポリマーフィルム製造に関して先行技術から公知である、それ自体公知の測定手段(流し込み(pouring)、スプレーイング、スキージによる塗布)によって行われる。このようにして製造される層は、15〜4000μm、好ましくは20〜3500μm、特に30〜2000μmの厚みを有している。
【0040】
該条件下で不活性と表され得る全ての担体が、担体として好適であるが(通常、金属ストリップ(metal strips)が使用される)、該条件下で不活性でありそして必要とされる粗さを可能にする全ての他の材料もまた使用され得る。金属ストリップの使用は、更に、後者に合金で表面的にコーティングする可能性を許容する。
【0041】
本発明に従ってポリマー溶液が適用され得る粗面化された表面(roughened surface)を得るためには、該ストリップの表面を粗面化する(roughen)ことが望ましいことがわかった。粗面化するための可能性は、例えば、金属ストリップの表面をサンドブラストする(sandblasting)かまたはラブダウンする(rubbing down)ことである。このような方法は、当業者に公知である。
【0042】
担体上に配置された層を、次いで、このようにして製造されたフィルムが自己支持性(self-supporting)になるまで、工程C)において乾燥する。担体から外に向いている(facing away)フィルムの面はまた、公知の方法の場合のように、滑らかかつ規則的であり、一方、担体上に配置された面は粗面化表面を有し、該担体の表面構造に類似している。
【0043】
走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、該フィルムの粗面化面およびスムース面の構造における差異を非常に明確に示している。
【0044】
工程C)におけるフィルムの乾燥は、室温〜300℃の間の温度で行われる。該乾燥は、標準圧または減圧下で行われる。乾燥時間は、このように形成されるフィルムの厚みに依存し、そして10秒〜24時間の間である。工程C)に従って乾燥されたフィルムは、次いで、自己支持性であり、そして更に処理され得る。乾燥は、フィルム産業において慣用的な乾燥方法によって行われる。
【0045】
極性非プロトン性有機溶媒が使用される限り、後者は、工程C)において行われる乾燥の助けを借りて大部分は除去される。極性非プロトン性有機溶媒の残存量は、乾燥後、通常、10〜23重量%である。
【0046】
ポリマーフィルムの厚みは、乾燥の結果、減少される。乾燥後、それは、10〜3500μm、好ましくは15〜3000μm、特には25〜1800μmである。
【0047】
2重量%未満への溶媒の残存量の更なる減少は、乾燥温度および乾燥時間を増加させることによって達成され得るが、例えばリン酸での、フィルムの引き続いてのドーピングが、遥かにより困難となる。
【0048】
ポリマー電極膜としての適用のためのパフォーマンス特性(performance characteristics)を改善するために、本発明のポリマーフィルムは、引き続いての手順において、残存溶媒フリーにされ得る。対応の手順は、WO 02/071518に記載されている。
【0049】
工程C)に従って形成されたポリアゾールに基づく非対称ポリマーフィルムは、次いで、更に処理され得る。これは、特に、該表面の架橋を意味すると理解される。これは、表面での大気中の酸素(atmospheric oxygen)の存在下で、熱の作用により行われ得る。フィルム表面のこの硬化は、フィルムの性質を更に改善する。
【0050】
更には、架橋はまた、IRまたはNIRの作用によって行われ得る(IR=赤外線、即ち、700nm超の波長を有する光;NIR=近IR、即ち、約700〜2000nmの範囲の波長または約0.6〜1.75eVの範囲のエネルギーを有する光)。別の方法は、β−線での照射である。この放射線量は、ここで、5〜200kGyである。
【0051】
ドーピングの目的のために、工程C)に従って得られたフィルムは、ドーピング剤(doping agent)で湿潤化されるか、または後者中に配置される。本発明に従うポリマー膜のためのドーピング剤として、酸、好ましくは全ての公知のルイス酸およびブレンステッド酸、特に無機ルイスおよびブレンステッド酸が使用される。
【0052】
この前述の酸に加えて、ポリ酸の使用もまた可能である(特に、イソポリ酸およびヘテロポリ酸、ならびに種々の酸の混合物)。本発明の意味において、ヘテロポリ酸は、少なくとも2つの異なる中心原子を有する無機ポリ酸を意味し、これは、部分的な混合無水物として、金属(好ましくは、Cr、Mo、V、W)および非金属(好ましくは、As、I、P、Se、Si、Te)の弱い多塩基性オキソ酸から、各々の場合において、形成される。中でも、12−モリブドホスホリックアシッド(12-molybdophosphoric acid)および12−タングストホスホリックアシッド(12-tungstophosphoric acid)が挙げられる。
【0053】
特に好ましいドーピング剤は、硫酸および燐酸である。非常に特に好ましいドーピング剤は燐酸(HPO)である。
【0054】
本発明に従うフィルムのドーピングにおいて、驚くべきことに、酸がフィルムのラフ面に非常に迅速に染み込むことが示された。
【0055】
例えば、リン酸の液滴(85%リン酸)がフィルムのラフ表面上へ付着されると、リン酸は非常に迅速にフィルム中へ浸透することが明らかとなる。液滴がフィルム中へより深く染み込むにつれて、接触角は着実に減少する。本発明に従うフィルムを用いて、<10°の値への接触角の減少が、該液滴の付着後1分以内に観察される。
【0056】
他方、リン酸の液滴がスムースフィルム表面へ付着される場合、単に該液滴の拡散が存在する。接触角は、遥かにより徐々に減少する。10分後、該リン酸の液滴はフィルムによって完全に吸収されておらず、接触角は、依然として、>35°のままである。
【0057】
酸の均一な吸収は、粗面化された面における本発明に従う非対称ポリマーフィルムのドーピングで生じる。別の利点は、従来のフィルムと比較して、改善された本フィルムのドーピングの再現性およびドーピングプロセスにおける時間の節約にあり、これは、特にポリマー電極膜の大規模製造において重要である。
【0058】
本発明に従う非対称フィルムは、好ましくはドーピングされる。本発明の範囲内において、ドープされたポリマー膜(doped polymer membranes)は、ドーピング剤の存在のために、ドープされていないポリマー膜と比較して増加されたプロトン伝導性(proton conductivity)を示すポリマー膜を意味する。
【0059】
ドープされたポリマー膜の製造方法は公知である。本発明の好ましい実施形態において、それらは、好適な時間(好ましくは1分〜96時間、特に好ましくは10分〜50時間)、室温〜100℃の温度で、そして必要に応じて増加された圧力下、上述のように、濃縮された酸(好ましくは、高度に濃縮された燐酸)で、関連するポリマーのフィルムを湿潤化するという事実によって得られる。本発明に従う膜によって、ドーピングプロセスは、元の時間の1/5へ短縮され得、何故ならば、粗面化された膜面における酸吸収が、遥かにより迅速に生じるためである。
【0060】
本発明に従うポリマー膜の伝導性は、ドーピングの程度によって影響を受け得る。伝導性は、最大値が達成される時まで、ドーピング剤の濃度の増加に伴って増加する。本発明によれば、ドーピングの程度は、該ポリマーの繰り返し単位1モル当たりの酸のモルとして与えられる。本発明の範囲内において、3〜15、特には6〜12のドーピングの程度が、好ましい。
【0061】
適用特性の更なる改善のために、充填剤、特にプロトン伝導性充填剤(proton- conducting fillers)、および追加の酸が、該膜または該フィルムへ添加され得る。添加は、通常、工程A)において行われる。
【0062】
プロトン伝導性充填剤の非限定的例は、以下である:
スルフェート: 例えば、CsHSO、Fe(SO、(NHH(SO、LiHSO、NaHSO、KHSO、RbSO、LiNSO、NHHSO
ホスフェート: 例えば、Zr(PO、Zr(HPO、HZr(PO、UOPO.3HO、HUOPO、Ce(HPO、Ti(HPO、KHPO、NaHPO、LiHPO、NHPO、CsHPO、CaHPO、MgHPO、HSbP、HSb14、HSb20
ポリ酸: 例えば、HPW1240.nHO(n=21−29)、HSiW1240.nHO(n=21−29)、HWO、HSbWO、HPMo1240、HSb11、HTaWO、HNbO、HTiNbO、HTiTaO、HSbTeO、HTi、HSbO3、MoO
セレン化物(selenites)およびヒ化物: 例えば、(NHH(SeO、UOAsO、(NHH(SeO、KHAsO、CsH(SeO、RbH(SeO
酸化物: 例えば、Al、Sb、ThO、SnO、ZrO、MoO
シリケート: 例えば、ゼオライト、ゼオライト(NH)、層シリケート(layer silicates)、フレームワークシリケート(framework silicates)、H−ソーダ沸石、H−モルデン沸石、NH−方沸石(NH4-analcines)、NH−方ソーダ石、NH−ガレート(NH4-gallates)、H−モンモリロナイト
酸: 例えば、HClO、SbF
充填剤: 例えば、炭化物、特にSiC、Si、繊維、特にガラス繊維、ガラス粉末および/またはポリマー繊維(好ましくは、ポリアゾールに基づく)。
【0063】
更に、これらの膜はまた、ペルフルオロ化スルホン酸添加剤(perfluorinated sulphonic acid additives)(0.1-20 wt. %、好ましくは0.2-15 wt. %、非常に好ましくは0.2- 10 wt. %)を含有し得る。これらの添加剤は、酸素溶解性および酸素拡散性における増加ならびに白金を形成するためにリン酸およびホスフェートの吸着における減少への、カソードに近い性能の改善へと導く。(Electrolyte additives for phosphoric acid fuel cells. Gang, Xiao; Hjuler, H. A.; Olsen, C.; Berg, R. W.; Bjerrum, N. J.. Chem. Dep. A, Tech. Univ. Denmark, Lyngby, Den. J. Electrochem. Soc. (1993), 140(4), 896-902 および Perfluorosulfonimide as an additive in phosphoric acid fuel cell. Razaq, M.; Razaq, A.; Yeager, E.; DesMarteau, Darryl D.; Singh, S. Case Cent. Electrochem. Sci., Case West. Reserve Univ., Cleveland, OH, USA. J. Electrochem. Soc. (1989), 136(2), 385-90.)。
【0064】
ペルスルホン化添加剤(persulphonated additives)の非限定的な例は、以下である:
トリフルオロメタンスルホン酸(trifluomethane sulphonic acid)、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(potassium trifluormethane sulphonate)、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム(sodium trifluormethane sulphonate)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(lithium trifluormethane sulphonate)、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウム(ammonium trifluormethane sulphonate)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸リチウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(potassium nonafluorbutane sulphonate)、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム(sodium nonafluorbutane sulphonate)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(lithium nonafluorbutane sulphonate)、ノナフルオロブタンスルホン酸アンモニウム(ammonium nonafluorbutane sulphonate)、ノナフルオロブタンスルホン酸セシウム(cesium nonafluorbutane sulphonate)、トリエチルアンモニウムペルフルオロヘキサスルホネート、ペルフルオロスルホイミド(perflurosulphoimides)およびナフィオン(Nafion)。
【0065】
更に、該膜またはフィルムはまた、酸素還元における操作の間に生成される過酸化物ラジカルを捕獲するか(一次酸化防止剤)または破壊する(二次酸化防止剤)添加剤を含有し得、そしてそれによって、JP2001118591 A2に記載されるように、膜および膜電極ユニットの寿命および安定性を改善し得る。このような添加剤の機能様式および分子構造は、F. Gugumus in Plastics Additives, Hanser Verlag, 1990; N.S. Allen, M. Edge Fundamentals of Polymer Degradation and Stability, Elsevier, 1992; またはH. Zweifel, Stabilization of Polymeric Materials, Springer, 1998に記載されている。
【0066】
このような添加剤の非限定的な例は、以下である:
ビス(トリフルオロメチル)ニトロキサイド(bis(trifluormethyl)nitroxide)、2,2−ジフェニル−1−ピクリニルヒドラジル、フェノール、アルキルフェノール、立体的に込み合ったアルキルフェノール(例えば、Irganox)、芳香族アミン、立体的に込み合ったアミン(例えば、Chimassorb);立体的に込み合ったヒドロキシルアミン、立体的に込み合ったアルキルアミン、立体的に込み合ったヒドロキシルアミン、立体的に込み合ったヒドロキシルアミンエーテル、ホスファイト(例えば、Irgafos)、ニトロソベンゾール、メチル.2−ニトロソ−プロパン、ベンゾフェノン、ベンズアルデヒド−tert.−ブチルニトロン、システアミン、メラニン、酸化鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル、および酸化コバルト。
【0067】
本発明に従うポリマーフィルムの適用の可能な分野としては、中でも、特にガス濾過および分離またはガス精製における、ならびに逆浸透における、フィルターメディウム(filter medium)として、エレクトロニクス産業における、特にフレキシブル電気回路、プリント電気回路のための、トランジスタ、キャパシタおよび他の電気コンポーネントにおけるサブストレート(substrate)として、バッテリーセパレータとして、電気ケーブル用の保護フィルムとして、電気コンポーネントおよびデバイス(例えば、キャパシタ)における絶縁体として、金属表面および他の表面のための保護フィルムとしての使用が挙げられる。
【0068】
本発明に従うドープされたポリマー膜の適用の可能な分野としては、中でも、燃料電池、電気分解、キャパシタおよびバッテリーシステムにおける使用挙げられる。それらの特性プロフィールのために、ドープされたポリマー膜は、好ましくは、燃料電池において使用される。
【0069】
本願発明はまた、本発明に従う非対称のドープされたポリマー膜を少なくとも1つ有する、膜電極ユニット(membrane electrode unit)に関する。膜電極ユニットに関する更なる情報については、技術文献、特に以下の特許を参照のこと:US-A-4,191,618、US-A-4,212,714およびUS-A-4,333,805。前記の参考文献(US-A-4,191,618、US-A-4,212,714およびUS-A-4,333,805)に含まれる、膜電極ユニットの構造および製造に関する開示はまた、本明細書の構成要素の一部である。
【0070】
本発明は、実施例および比較例によって以下により詳細に説明され、本発明は、それによってこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
実施例:
図1aおよび1bは、本発明に従う非対称ポリアゾール膜の粗面化された面の走査型電子顕微鏡画像を表している。
【0072】
見られるように、該膜は、それぞれ、4.775μm(図1b)および6.350μm(図1a)の層厚み(深さ)で粗面化されている。
【0073】
比較して、図2は、ポリアゾール膜のスムース面の走査型電子顕微鏡画像を表している。図1aおよび1bと比較して、ここでは、主に規則的な表面が見られ得る。微細なむら(unevennesses)が、高倍率でのみより正確に作製され得、そして2μmの層厚みを超えない。
【0074】
図3aおよび3bは、全直径に渡って、本発明に従う非対称膜を再度表している。ここでも、粗面化された膜面とスムース膜面との間の差異が、明確に見られ得る。
【0075】
実施例1:
接触角の測定
本発明に従って製造された非対称ポリアゾール膜のスムース表面およびラフ表面上における、リン酸の液滴の浸透速度の比較。
【0076】
リン酸の液滴を膜表面上に作製し、そして接触角を、光学顕微鏡(light-optical microscope)で測定する。該接触角は、空気/フィルム/リン酸の界面での2つの正接の平均値からの液滴輪郭分析(drop contour analysis)から得られる。
【0077】
本発明に従って得られる非対称ポリアゾール膜において、85%リン酸の液滴を、該フィルムの粗面化された面上に付着させる。該酸液滴が該ラフ表面へ迅速に染み込むことが、はっきりと見られ得る。接触角は、<10°へ1分以内で減少する。
【0078】
同一の試験を、ポリアゾール膜の第二スムース面において行う。前に行った試験とは対照的に、液滴は、膜表面上に単に広がるのみである。10分後でも、該酸液滴は、依然として、膜表面へ、注目する程度には、浸透しなかった。10分後の接触角は、依然として>35°であった。
【0079】
時間の関数としての接触角の測定値は、Kruss社製のタイプG10/DAS 10の接触角測定装置を使用する液滴輪郭分析から決定した。
【0080】
図4は、スムースおよびラフ膜表面上における、時間の関数としての、接触角の減少を示している。いくらかの時間後、一定値に達し、そして更に注目に値する液体吸収が起こらないことが、明らかに理解され得る。酸の吸収は、フィルムの粗面化された面において遥かにより迅速にだけでなくより完全に生じる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1a】図1aおよび1bは、本発明に従う非対称ポリアゾール膜の粗面化された面の走査型電子顕微鏡画像を表している。
【図1b】図1aおよび1bは、本発明に従う非対称ポリアゾール膜の粗面化された面の走査型電子顕微鏡画像を表している。
【図2】図2は、ポリアゾール膜のスムース面の走査型電子顕微鏡画像を表している。
【図3a】図3aおよび3bは、全直径に渡って、本発明に従う非対称膜を再度表している。
【図3b】図3aおよび3bは、全直径に渡って、本発明に従う非対称膜を再度表している。
【図4】図4は、スムースおよびラフ膜表面上における、時間の関数としての、接触角の減少を示している。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スムースおよびラフ面を有し、スムース面の粗さが<2μmそしてラフ面の粗さが3〜10μmである、ポリアゾールに基づくポリマーフィルム。
【請求項2】
一般式(I)および/または(II)および/または(III)および/または(IV)および/または(V)および/または(VI)および/または(VII)および/または(VIII)および/または(IX)および/または(X)および/または(XI)および/または(XII)および/または(XIII)および/または(XIV)および/または(XV)および/または(XVI)および/または(XVI)および/または(XVII)および/または(XVIII)および/または(XIX)および/または(XX)および/または(XXI)および/または(XXII)
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

[式中、
Arは、同一または異なり、そして四価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価または三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして四価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Arは、同一または異なり、そして二価または三価または四価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Ar10は、同一または異なり、そして二価または三価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Ar11は、同一または異なり、そして二価の芳香族またはヘテロ芳香族基(これは、単核または多核であり得る)を意味し、
Xは、同一または異なり、そして酸素、硫黄またはアミノ基{これは、さらなる基として、水素原子、1〜20の炭素原子を有する基(好ましくは、分枝または非分枝のアルキルまたはアルコキシ基、あるいはアリール基)を保有する}を意味し、
Rは、同一または異なり、水素、アルキル基および芳香族基を意味し、式(XX)における基Rは水素とは異なり、そして
n、mは、10以上、好ましくは100以上の整数である]
の繰り返しアゾール単位を含有するポリアゾールに関することを特徴とする、請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
一般式
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

[式中、nおよびmは、10以上、好ましくは100以上の整数である]
の繰り返しアゾール単位を含有するポリアゾールに関することを特徴とする、請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
以下の工程を包含する、請求項1に記載のポリマーフィルムの製造方法:
A)溶媒中にポリアゾールポリマーを含有する溶液および/または懸濁液の、担体(この表面は、所望の粗さが得られる様式で粗面化されている)上における付着(二次元層の形成を伴う)、
B)工程A)に従って形成された層の乾燥、ならびに
C)該担体からの該乾燥したポリマーフィルムの分離。
【請求項5】
極性非プロトン性溶媒(特に、N,N−ジメチルアセトアミド)を溶媒として使用することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程A)において作製される層が15〜4000μmの厚みを有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
不活性担体(好ましくは、金属ストリップ)が、工程A)において使用されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記担体が、前記ポリマー膜の粗さを有する粗さを有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーフィルムが工程C)後に架橋されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
更なる充填剤(特に、プロトン伝導性充填剤)が工程A)において添加されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
特にガス濾過および分離またはガス精製における、ならびに逆浸透における、フィルターメディウムとして、エレクトロニクス産業における、特にフレキシブル電気回路、プリント電気回路のための、トランジスタ、キャパシタおよび他の電気コンポーネントにおけるサブストレートとして、バッテリーセパレータとして、電気ケーブル用の保護フィルムとして、電気コンポーネントおよびデバイス(例えば、キャパシタ)における絶縁体として、金属表面および他の表面のための保護フィルムとして、ならびにバッテリーシステムおよびキャパシタにおける、電気化学セルのための(特に、燃料電池および電解適用のための)ポリマー電解質膜の製造のための、請求項1に記載のポリマーフィルムの使用。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーフィルムから作製される少なくとも1つのポリマー膜ならびに少なくとも1つの電極を有する、電気化学セル。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーフィルムから作製される少なくとも1つのポリマー膜ならびに少なくとも1つの電極を有する、膜電極ユニット。
【請求項14】
前記ポリマー膜が、少なくとも1つのルイスおよび/またはブレンステッド酸(好ましくは、硫酸および/またはリン酸、特に、リン酸)でドープされていることを特徴とする、請求項13に記載の膜電極ユニット。
【請求項15】
請求項13に記載の膜電極ユニットを少なくとも1つ有する、燃料電池。

【図2】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−527443(P2007−527443A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518161(P2006−518161)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007570
【国際公開番号】WO2005/007725
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(505118475)ペミアス ゲーエムベーハー (24)
【Fターム(参考)】