説明

非対称メソ置換ポルフィリンおよびクロリンのPDTへの適用と新規方法

【課題】本発明は診断および治療に適用される光増感剤として用いられる生物活性化合物を提供する。適用とは特に癌、感染症、その他の過剰増殖性疾患のPDTや、関節炎、炎症性疾患、ウイルス性・細菌性感染症、皮膚疾患、眼疾患、泌尿器疾患のような非癌適応のための蛍光診断およびPDT療法に向けてなされる。本発明はまた、調剤可能な水準に達したそれらの化合物を合成する方法を提供する。
【解決手段】ある実施形態は、所定位置のメソ置換基を有するポルフィリンを合成する方法と、このポルフィリン系をジヒドロキシル化あるいは還元によってクロリン系に変換する方法とを含み、複数の異性体が形成された場合には順相あるいは逆相シリカのクロマトグラフィーによってそれらを分離する方法を含む。他の実施形態では、クロリンの還元あるいはジヒドロキシル化の際に、特定の異性体が選択的に合成されるようにポルフィリンの置換基が選択される。その他の実施形態では、膜への親和性が高くPDT効果の高い両親媒性化合物を提供する。その他の実施形態では、気体HSの使用を回避するオスミウム酸(VI)エステルの還元的解離の方法を提供する。その他の実施形態において、置換基を特定し、その置換基の立体的および/あるいは電子的効果によってジヒドロキシル化反応あるいはジイミンによる還元反応が選択性を有し、一つの異性体が優位となることを示す。その他の実施形態は、対象となる異性体を注射用リポソーム製剤として製剤し、注射の際の可溶性の問題やテトラピロール系の薬物動態遅延の問題のような望ましくない影響を回避する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的活性を有する化合物に関する。より具体的には、癌、感染症およびその他の疾患の光線力学療法のような、様々な光照射療法のための光増感剤として利用できる、特異的に置換されたポルフィリンおよびクロリン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学療法(PDT)は、医療での多様な応用に利用するために現在開発が進められている、最も成長が見込まれる新たな技術の一つであり、特に腫瘍の破壊に対してはよく知られた治療法である(Photodynamic therapy,basic principles and clinical applications,Eds.B.W.Henderson,Th.J.Dougherty,Marcel Dekker,1992,New York)(Photodynamic tumor therapy.2nd and 3rd generation photosensitizers.Ed.J.G.Moser,Harwood Academic Publishers,1998,Amsterdam)。光線力学療法では、治療上の所望の効果を達成するため光と光増感剤(色素)が用いられる。数多くの天然由来色素や合成色素が、光線力学療法のための光増感剤の候補であると評価されてきた。最も広く研究されている光増感剤はおそらくテトラピロール大環状化合物類であろう。それらの中でも特にポルフィリンとクロリンのPDT効果の研究が行われてきた。ポルフィリンは、1つの炭素原子がピロール環を架橋して特徴的なテトラピロール環状構造を形成する大環状化合物である。ジヒドロピロール単位を有するものも含めて、ポルフィリン誘導体には多くの異なる化合物群がある。本発明で開示するクロリンは、ジヒドロピロール単位を1つ有するポルフィリン誘導体である。一方バクテリオクロリンはジヒドロピロール単位を2つ持つことが特徴的である(一般的に、クロリンではポルフィリンと比較して芳香環系のβ位の二重結合が一つ欠けていて、バクテリオクロリンではポルフィリンと比較して2つの対面に位置する二重結合が欠けている)。Bommerらによる米国特許4656186号には、光増感剤として用いられるテトラピロール大環状化合物の例として、蛍光を発するアミノカルボン酸のモノアミド、ジアミド、ポリアミドと、少なくとも3つのカルボキシル基を有するテトラピロールとが開示されている。また、MacAlpineらによる米国特許7022843B1には、光増感剤としてのβ,β’−ジヒドロキシメソ置換クロリンが開示されている。また、Pandeyらによる米国特許7166719B2には、フッ素化された置換基を有するテトラピロール化合物が開示され、このテトラピロール化合物はPDTの診断と治療への適用のためのクロリンあるいはバクテリオクロリンである。
【0003】
光増感剤として有効であるためには、いくつかの特性を備える必要がある。その中でも、深部の標的組織を有効に破壊するため、長波長に強い吸収を有することが求められる。現在の光増感剤の多くはスペクトル中で赤色領域の吸収が弱いため、有効性が不十分である。クロリンには、電磁波スペクトルの赤色領域および近赤外領域において強力な吸収があるという利点がある。このため、PDTを腫瘍の治療に採用する場合、長波長の光が組織内の深部に到達すれば例えばより広範囲の腫瘍を治療できる。PDTの候補化合物であるクロリンは、自然由来のものでも、全合成されたものでもよい。
【0004】
クロリンが天然化合物から得られる場合、通常クロロフィルあるいはバクテリオクロロフィルの誘導体として得られる。その例は、米国特許第5330741号に開示された、光合成植物および藻類のクロロフィルaから誘導された光増感剤である。天然化合物は変化を受けやすいため、クロリンの天然化合物からの取得はしばしば困難であり、また多くの原料を必要とする。このため、全合成によるクロリンの合成は有望な代替手段である。当技術分野で、クロリンおよびバクテリオクロリンを全合成によって調製する方法が知られている。一般的にそれらの化合物は、まずポルフィリンを合成し、次にそのポルフィリン環系をクロリンあるいはバクテリオクロリン環系に変換することによって調製される。この工程は例えば、in situで発生させたジイミンによる還元、あるいは四酸化オスミウムによるシス−ジヒドロキシル化によって行うことができる。シス−ジヒドロキシル化につながる多段階反応もまた知られている(欧州特許第00337601号;国際公開第09613504号、国際公開第00061584号;C.Brueckner,D.Dolphin,2,3−vic−Dihydroxy−meso−tetraphenylchlorins from the Osmium Tetroxide Oxidation of meso−Tetraphenylporphyrin,Tetrahetron Lett.1995,36,3295−3298;C.Brueckner,D.Dolphin,β,β’−Dihydroxylation of meso−Tetraphenylchlorins,Tetrahetron Lett.1995,36,9425−9428;H.W.Daniell,S.C.Williams,H.A.Jenkins,C.Brueckner,Oxidation of meso−tetra−phenyl−2,3−dihydroxychlorin:simplified synthesis of β,β’−dioxochlorins,Tetrahetron Lett.2003,44,4045−4049;F.Rancan,A.Wiehe,M.Noebel,M.O.Senge,S.Al Omari,F.Boehm,M.John,B.Roeder,Influence of substitutions on asymmetric dihydroxychlorins with regard to intracellular uptake,sub cellular localization and photosensitization in Jurkat cells,J.Photochem.Photobiol.B:Biology 2005,78 17−28;I.Laville,T.Figueiredo,B.Loock,S.Pigaglio,Ph.Maillard,D.S.Grierson,D.Carrez,A.Croisy,J.Blais,Synthesis,Cellular Internalization and Photodynamic Activity of Gluco−conjugated Derivatives of Tri and Tetra(meta−hydroxyphenyl)chlorines,Bioorg.Med.Chem.2003,11,1643−1652)。PDT効果に関する研究、試験はほとんどの場合メソ位に4つの同一置換基を持つ化合物について行われている。優れた例の一つは、医薬品フォスカン(登録商標)の活性化合物であるテモポルフィンである。フォスカン(登録商標)は頭頸部癌のPDT療法のための医薬品としてヨーロッパで用いられて成功をおさめた。上記の国際公開第09613504号に開示の実施例の化合物も全て、メソ位に4つの同一置換基を持つ。全合成によって得られたメソ位非対称4置換クロリンに関する存在する数少ない文献は、ABタイプについてのものである。すなわち、3つの同一メソ置換基と1つの異なるメソ置換基を含む(I.Laville,T.Figueiredo,B.Loock,S.Pigaglio,Ph.Maillard,D.S.Grierson,D.Carrez,A.Croisy,J.Blais,Synthesis,Cellular Internalization and Photodynamic Activity of Glucoconjugated Derivatives of Tri and Tetra(meta−hydroxyphenyl)chlorines,Bioorg.Med.Chem.2003,11,1643−1652,F.Rancan,A.Wiehe,M.Noebel,M.O.Senge,S.Al Omari,F.Boehm,M.John,B.Roeder,Influence of substitutions on asymmetric dihydroxychlorins with regard to intracellular uptake,sub cellular localization and photosensitization in Jurkat cells,J.Photochem.Photobiol.B:Biology 2005,78 17−28;J.K.Macalpine,R.Boch,D.Dolphin,Evaluation of tetraphenyl−2,3−dihydroxychlorins as potential photosensitizers,J.Porphyrins Phthalocyanines 2002,6,146−155)。クロリンに変換する際に対称置換されたポルフィリンを用いる理由の一つは、この場合には異性体が形成されないためである。異性体が形成されなければ生成物を容易に同定、調製でき、この点は商業生産の観点で重要な因子である。クロリンに変換するために非対称ポルフィリンを用いた場合、異なる位置異性体が生じるために後の分離工程が必要となる(置換基がトランス配座となる場合を除く、図2参照)。このため、当技術分野に見られるメソ−AB−置換クロリンは同定が不十分であるか未分離の異性体混合物のまま用いられていることが多い(例えばJ.K.Macalpine,R.Boch,D.Dolphin,Evaluation of tetraphenyl−2,3−dihydroxychlorins as potential photosensitizers,J.Porphyrins Phthalocyanines 2002,6,146−155;I.Laville,T.Figueiredo,B.Loock,S.Pigaglio,Ph.Maillard,D.S.Grierson,D.Carrez,A.Croisy,J.Blais,Synthesis,Cellular Internalization and Photodynamic Activity of Glucoconjugated Derivatives of Tri and Tetra(meta−hydroxyphenyl)chlorines,Bioorg.Med.Chem.2003,11,1643−1652)。PDT効果に寄与しない異性体を分離するために混合物を精製することや、合成時に活性化合物を増加させることは困難であるため、容易に同定され簡易な合成方法で合成される非対称テトラキスメソ置換クロリンを代替として見いだすことは有益であろう。特に、非対称置換クロリンの特徴的な性質を把握することは有益である。それらは化合物の両親媒性を高め、それによって膜への親和性やPDT効果を高めるためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、癌、感染症、その他の疾患の光線力学療法のような光線照射療法を広範囲に渡って有効に実施するために、光増感剤として用いられる従来技術の生物活性化合物の有効性を高めることが求められている。さらに、従来利用可能なものよりも高度な光増感剤を提供するために、非対称テトラキスメソ置換クロリンの新規合成方法と適用方法を提供する必要がある。このように、PDT効果は非対称テトラキスメソ置換クロリンの性質の利点を活用することで高まるであろう。利点とは例えば、電磁波スペクトルの赤および近赤外領域の様な長波長領域に強い吸収を有するために深部の組織に浸透する点、目的に特化した両親媒性が膜親和性を高めるため、健康な周囲の組織と比べて癌や他の標的組織に対して選択性が高い点、PDTの特別の適用方法を用いることで薬物動態をカスタマイズできる点である。
【0006】
本発明は、癌、感染症、その他の疾患の光線力学療法のような光線照射療法を含む広範囲な用途に光増感剤として用いることができる生物活性化合物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明はさらに、化学的に安定なポルフィリンおよびクロリン誘導体を光線力学療法のような多様な医療用途に使用することを目的とする。
【0008】
本発明はさらに、癌や他の過剰増殖性疾患、皮膚疾患、ウイルス性・細菌性感染症、眼疾患、泌尿器疾患の光線力学療法に使用できる非対称テトラキスメソ置換クロリン構造を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はさらに、関節炎や類似の炎症性疾患のような疾患への非癌適応のための蛍光診断およびPDT療法に使用できる非対称テトラキスメソ置換クロリン構造を提供することを目的とする。
【0010】
本発明はさらに、そのような非対称テトラキスメソ置換クロリンを合成し精製する方法を提供し、形成された異性体を分離する方法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明はさらに、癌、皮膚疾患、ウイルス性・細菌性感染症、眼疾患、泌尿器疾患のPDT療法に使用できる両親媒性の高い化合物を提供することを目的とする。
【0012】
本発明はさらに、出発物質のジヒドロキシル化反応あるいは還元反応の選択性を一つの異性体の形成のみに特化させられる合成方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明はまた、注射部位への沈着やテトラピロール系の薬物動態の遅延のような望ましくない影響を回避するため、本発明の生物活性化合物のための注射用リポソーム製剤のような調剤的に許容できる処方を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
簡潔に述べれば、本発明は診断および治療に適用される光増感剤として用いられる生物活性化合物を提供する。適用とは特に癌、感染症、その他の過剰増殖性疾患のPDTや、関節炎、炎症性疾患、ウイルス性・細菌性感染症、皮膚疾患、眼疾患、泌尿器疾患のような非癌適応のための蛍光診断およびPDT療法に向けてなされる。本発明はまた、調剤可能な水準に達したそれらの化合物を合成する方法を提供する。ある実施形態は、所定位置のメソ置換基を有するポルフィリンを合成する方法と、このポルフィリン系をジヒドロキシル化あるいは還元によってクロリン系に変換する方法とを含み、複数の異性体が形成された場合には順相あるいは逆相シリカのクロマトグラフィーによってそれらを分離する方法を含む。他の実施形態では、クロリンの還元あるいはジヒドロキシル化の際に、特定の異性体が選択的に合成されるようにポルフィリンの置換基が選択される。その他の実施形態では、膜への親和性が高くPDT効果の高い両親媒性化合物を提供する。その他の実施形態では、気体HSの使用を回避するオスミウム酸(VI)エステルの還元的解離の方法を提供する。その他の実施形態において、置換基を特定し、その置換基の立体的および/あるいは電子的効果によってジヒドロキシル化反応あるいはジイミンによる還元反応が選択性を有し、一つの異性体が優位となることを示す。その他の実施形態は、対象となる異性体を注射用リポソーム製剤として製剤し、注射の際の可溶性の問題やテトラピロール系の薬物動態遅延の問題のような望ましくない影響を回避する方法を含む。
【0015】
本発明の前述のあるいは他の目的、特徴、利点は、後述の明細書を図と合わせて購読することによって明確となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、医療用途に特段の適合性を有する、2つの非極性(アルキル)基および2つの極性基によってメソ置換された非対称テトラキスメソ置換クロリンの例を示す図である。
【図2】図2は、特異的に置換されたポルフィリン化合物、とくにクロリンのタイプ1、2、3あるいは4の誘導体に関する本発明の実施形態を表す図である。
【図3】図3は、Aを非極性(アルキル)置換基、Bを極性置換基とした場合の、A−タイプのシスあるいはトランスメソ置換ポルフィリン系における、クロリン系に変換される位置を示した、本発明の実施形態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、癌、過剰増殖性疾患、皮膚疾患、ウイルス性・細菌性感染症、眼疾患および/あるいは泌尿器疾患の光線力学療法のような広範囲の光照射療法に光増感剤として使用できる生物活性化合物を提供する。本発明で提供する新たな光増感剤は、簡易に合成および同定ができるという利点を有する。さらに、本発明は両親媒性化合物を対象となるPDTの用途に特化する方法を提供する。このため標的組織への選択性が高まり、またPDTの効果も高まる。本発明では、生物活性化合物が電磁波スペクトルの赤および近赤外領域のような長波長領域において強い吸収を有するために深部の組織に浸透する。また、用途に特化した両親媒性と、個々のPDTの適用によってカスタマイズされた薬物動態のため、周囲の健康な組織に比べて標的組織の選択性が高い。この点が従来技術の生物活性化合物の有効性を上回る。
【0018】
様々な医療の適応、特にPDTに使用できる本発明の生物活性化合物は、非対称テトラキスメソ置換クロリン構造を有する。実際には、2つの非極性(アルキル)基および2つの極性基によるメソ置換構造を有する、図1に例示するようなクロリンがそのような医療用途に特段の適合性を有することは、思いがけなく見いだされた。さらにこの新規発明は発展的に応用されて、関節炎や類似の炎症性疾患のような非癌適応のための蛍光診断およびPDT療法に利用可能となる。
【0019】
新規光増感剤を得るため、本発明では図2の式1、2、3、及び4に示された化学的に安定なポルフィリンおよびクロリンの誘導体が用いられる。本発明はまた、メソアルキル置換クロリンを得るための合成方法および形成された異性体の分離方法を提供する。メソアルキル置換クロリンはより具体的には光線力学療法で使用可能な非対称テトラキスメソ置換クロリンである。部分的にメソアルキル置換されたクロリンに関しては、実際、ただ一つの文献のみが存在する(F.Rancan,A.Wiehe,M.Noebel,M.O.Senge,S.Al Omari,F.Boehm,M.John,B.Roeder,Influence of substitutions on asymmetric dihydroxychlorins with regard to intracellular uptake,sub cellular localization and photosensitization in Jurkat cells,J.Photochem.Photobiol.B:Biology 2005,78,17−28;この化合物もまたメソ−AB−置換パターンである)。一方、特にこのような位置異性体として純粋な(ほとんどの場合エナンチオ異性体の混合物であるにせよ)非対称置換クロリンがPDTの光増感剤として非常に興味深いこともあるだろう。このような非対称置換によって化合物の両親媒性が高まり、膜への親和性が高まってPDT効果が高まると考えられるためである。さらに、驚くべきことに、異なるクロリン異性体間でPDT効果に大きな相違が時に見られることが、本発明に関する研究の中で発見された。
【0020】
本発明のある実施形態は、所定の位置がメソ置換されたポルフィリンを合成して(図3に示すA−タイプのポルフィリンでシスあるいはトランス配置のメソ置換体。ここで例えばAは非極性(アルキル)置換基、Bは極性置換基)、このポルフィリン系をジヒドロキシル化あるいは還元によってクロリン系に変換する(例えば次の文献に記載されている:M.Schroeder,Osmium Tetraoxide Cis Dihydroxylation of Unsaturated Substrates,Chem.Rev.1980,80,187−213;R.Bonnett,R.D.White,U.−J.Winfield,M.C.Berenbaum,Hydroporphyrins of the meso−tetra(hydroxyphenyl)porphyrin series as tumor photosensitizers,Biochem.J.1989,261,277−280)方法を含む。最後の工程で、異性体(複数の異性体が形成された場合)が順相あるいは逆相シリカのクロマトグラフィーによって分離される。
【0021】
本発明の他の実施形態は、所定位置がメソ置換されたポルフィリンを合成する工程、これをクロリンに変換する工程、上で述べた異性体を分離する工程、所望の異性体をリポソーム製剤に処方する工程を含む。
【0022】
本発明の他の実施形態では、トランス−A−タイプのポルフィリンが合成され、ジヒドロキシクロリンに変換されてクロマトグラフィーによって精製される。
【0023】
本発明の他の実施形態では、シス−A−タイプのポルフィリンが合成され、ジヒドロキシクロリンに変換され、異性体が分離されてクロマトグラフィーによって精製される。
【0024】
ポルフィリンの置換基の電子的・立体的効果のために、ジヒドロキシル化反応は選択性を有するものとなる。このため、1つの異性体の生成が優位となることもまた発見された。このため、本発明の他の実施形態では、クロリンの還元反応やジヒドロキシル化反応(実施例3.2および3.4)に選択性を与えて異性体が選択的に生成するように、ポルフィリンの置換基が選択される。
【0025】
本発明の特に好適な実施形態において、置換基Aとしてヘキシル鎖を有し、置換基Bとしてメトキシカルボニルフェニル残基を有するトランス−A−タイプのポルフィリンが合成される。このポルフィリンはその後ジヒドロキシクロリンに変換され、残されたメチルエステルは加水分解されて対応するカルボン酸となる。
【0026】
本発明の主題である、クロリン合成のための出発物質として可能である物質はピロールとアルデヒドである。より具体的には、ピロールと2分子のアルデヒド、1つはアルキルアルデヒド(alkanal)、一つは芳香族アルデヒド、が非対称置換ポルフィリンを合成するために用いられ、非対称置換ポルフィリンが対応するクロリンの合成の基となる。ピロールとアルデヒドの縮合反応が行われる。この縮合反応に適した方法は、当技術分野では昔から知られている(J.S.Lindsey,I.C.Schreiman,H.C.Hsu,P.C.Kearney and A.M.Marguerettaz,J.Org.Chem.1987,52,827−836)。この替わりに、ジピロメタンあるいはトリピロメタンとアルデヒドとを用いて非対称置換ポルフィリンを合成することもでき、これも当技術分野で知られているものである(C.−H.Lee,J.S.Lindsey,One−Flask Synthesis of Meso−Substituted Dipyrromethanes and Their Application in the Synthesis of Trans−Substituted Porphyrin Building Blocks,Tetrahedron 1994,50,11427−11440)。縮合反応を行い、所望の非対称置換ポルフィリンを精製した後、ポルフィリンはクロリンに変換される。アルキル置換基が一つしかないテトラメソ置換クロリンの例は当技術分野で一つしか知られておらず、本発明の他の実施形態で複数のメソアルキル置換基を有するクロリンをジヒドロキシル化によって合成する方法を提供する。アルキル鎖を有するメソ置換クロリンの合成は実施例3.1〜3.4で例示される。さらに、ジヒドロキシル化の基質として脂溶性のアルキル置換ポルフィリンを用いる点が本発明の特徴的な点である。これによって膜親和性の高い両親媒性化合物を合成することが可能となり、PDT効果が高まるためである。実施例1.1および1.2では、親水性基と疎水性基との双方を有するポルフィリンを得ることを目的として一連の非対称置換ポルフィリンが合成される。
【0027】
当技術分野で知られているポルフィリンの四酸化オスミウムによるジヒドロキシル化(上記のBruecknerらの文献参照)では、オスミウム酸(VI)エステルの還元的解離に気体のHSが用いられる。最終的に大規模な薬剤調合に使用される化合物の合成に気体の有毒なHSを用いることは好ましくない。さらに、硫化水素を使用すれば不純物が混入し、このためにクロマトグラフィー操作とクロリン異性体の分離が困難となる。よって本発明の他の実施形態では、気体のHSの使用を回避できる簡易なオスミウム酸(VI)エステルの還元的解離の方法を提供する。替わりに用いるのは水/メタノール溶液に飽和させた亜硫酸水素ナトリウムであり、反応混合物に少量が添加される。混合物を一晩攪拌した後、オスミウム酸エステルのジオールへの解離反応が定量的に進行する(実施例3.1〜3.4)。生成物のクロリン混合物はクロマトグラフィーによって容易に分離・精製できる。
【0028】
四酸化オスミウムあるいはジイミンによる攻撃はピロールサブユニットのうちどれに対しても起こりうるため、シス−A−タイプの非対称置換ポルフィリンでは3つの位置異性体が形成され、トランス−A−タイプでは位置異性体は1つのみが形成される。よって、本発明の他の実施形態では、ジヒドロキシル化反応あるいはジイミンによる還元反応が選択性を有するように置換基が特定され、この置換基の立体的および/あるいは電子的効果によって1つの異性体の生成が優位となる。本発明に関する研究において、シス−A−タイプのポルフィリン(A=ヘキシル基)ではヘキシル基に挟まれたピロールサブユニット(実施例3.2および3.4)がジヒドロキシル化において優位となることが発見された。この選択性は、単純な立体的および/あるいは電子的効果が原因であると考えられる。ことなる異性体の構造は2D−NMRスペクトル(COSY、HMQCおよびHMBC)によって明白に特定された。ジヒドロキシル化されたピロールサブユニットが近傍のメソ位の置換基に影響を与えていることがHNMRスペクトルから分かる。興味深い点は、クロリンの双極子モーメントがジオールの位置に影響されているために、化合物のクロマトグラフィー挙動がほとんどの場合対応する位置異性体の構造を反映していることである。
【0029】
本発明の方法によって合成された、特定の位置に置換基を有する両親媒性ポルフィリンおよびクロリン誘導体は、癌やその他の過剰増殖性疾患および感染症に対する光線力学療法のための使用に好適である。このような両親媒性の化合物を得ることを目的として、他の実施形態では、いくつかのポルフィリンおよびジヒドロキシクロリンのメチルエステル基が塩基性条件下で加水分解され、対応するカルボン酸に変換される(実施例2および4)。それらの酸は極性溶媒への溶解度が高く、光増感剤としての可能性が高い。
【0030】
PDTは次の様に行われる。まず、特定の治療部位に誘導体を輸送するため、誘導体を調剤可能な輸送媒体(例えばエタノール溶液やリポソーム製剤)に混ぜ込む。次に、媒体中の誘導体を治療部位に投与し、十分な時間をかけてポルフィリンおよびクロリンを病変組織に優先的に蓄積させる。最後に、治療部位に適切な波長および十分な強度の光を照射し、ポルフィリン誘導体を活性化させて前記組織細胞の壊死やアポトーシスを起こさせる。よって、本発明の生物活性化合物の便利な調剤処方が行われることは、主要な利点の一つである。調剤処方は例えば注射用リポソーム製剤であり、注射部位への沈着やテトラピロール系の薬物動態の遅延のような望ましくない影響を回避できる。本発明の化学的に安定なポルフィリンおよびクロリン誘導体は、その両親媒性のために、例えば注射のような様々な投与方法のための、様々な調剤可能な製剤として製造できる。特に好適な実施形態では、そのような両親媒性化合物がリポソームとして製剤される(実施例8.1および8.2)。このリポソーム製剤は注射の際に注射部位への沈着やテトラピロール系の薬物動態の遅延のような望ましくない影響を回避できる。
【0031】
本発明のあるクロリン誘導体、すなわち実施例4.1で調製される5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンについて、HT29細胞株を用いた細胞培養実験によって暗毒性(dark toxicity)および光毒性(実施例6.1)が検査され、この化合物がPDTへの使用に対して優秀な特性を有することが示された。本発明の化合物の良好な光毒性のさらなる例は、実施例6.2および6.3に例示されている。HT29細胞株を用いた実験のさらなる実施例6.4〜6.6は、本発明で用いられている置換基とその配置を有しないその他のジヒドロキシクロリンではPDT効果を期待できないことを例示するために含まれる。
【0032】
本発明の他の目的は、本明細書に開示のポルフィリンおよびクロリン誘導体を関節炎や類似の炎症性疾患の診断と治療に用いることである。このため、関節炎との関連性が特に高い2つの細胞株(HIG82およびJ774A.1、ウサギ滑膜細胞およびマウスマクロファージ細胞株)に対する本発明の一連の化合物を用いた光線力学療法の結果が、実施例7.1〜7.4に記載のデータに集約されている。ここでも、本発明で用いた置換基を持たず、光線力学活性を有しない化合物の陰性例が含まれている。
【0033】
後述する実施例は、通常の技術を有する当業者に、本発明のクロリン誘導体の合成方法に関する十分かつ例示的な開示および記述を提供し、それらの光線力学活性を示すために記載されるものであり、発明者が発明として位置づけるものの範疇を限定することを意図するものではない。用いた数値(例えば量、温度等)に関しては精度を確保する配慮がなされたが、いくばくかの実験誤差と偏差がある点が考慮されるべきである。また、系統的なIUPAC名を化合物に命名するため最善の方法がとられたが、基本的には実験による分光学的データに基づいて記載された構造式を参照されたい。
【0034】
〔実施例〕
全ての試薬は市販品を購入して用いた。テトラアセチル−β−D−グルコピラノシロキシル−ベンズアルデヒド(I.Laville,S.Pigaglio,J.−C.Blais,B.Loock,Ph.Maillard,D.S.Grieson,J.Blais,Biorg.Med.Chem.2004,12,3673−3682)および5−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ジピロメタン(B.J.Littler,M.A.Miller,C.−H.Hung,R.W.Wagner,D.F.O’Shea,P.D.Boyle,J.S.Lindsey,J.Org.Chem.1999,64,1391−1396)が、文献にならって合成された。ジクロロメタンは使用前にKCOを用いた蒸留によって精製した。薄層クロマトグラフィー(TLC)にはアルミニウム板にあらかじめコーティングされたメルク製のシリカゲル60(蛍光指示薬を含まない)を用いた。フラッシュクロマトグラフィーは、メルク社製のシリカゲル60の0.040〜0.063mm(230〜400メッシュ)のものを用いて行った。Hおよび13CNMRスペクトルの測定はブルカー社製のAC250、AC500、AMX500装置を用いてCDCl、(CDCOあるいは(CDSO中で行った。化学シフトδは内部基準物質TMSからのずれ、あるいは残留溶媒ピークからのずれとしてppm単位で与えられ、J値はHz単位で与えられる。質量スペクトルはVarian MAT 771、Varian IonSpec QFT−7あるいはAgilent 6210 ESI−TOF測定装置を用いて測定された。電子吸収スペクトルはジクロロメタンあるいはアセトンを溶媒としてSpecord S300(Analytic Jena)分光光度計を用いて測定された。
【実施例1】
【0035】
非対称置換ポルフィリンの合成
【0036】
(1.1 5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリンの調製(方法A)および5,10−ジヘキシル−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリンの調製)
代表的な実験において、マグネチックスターラーとアルゴンガスの注入口を備えた三口フラスコに乾燥ジクロロメタン(1500ml)を加えた。ピロール(1.05ml、15mmol)、ヘプタナール(1.05ml、7.5mmol)、4−ホルミル安息香酸メチル(1.23g、7.5mmol)を加えた後、フラスコに周囲の光からの遮断を施し、TFA(1.16ml、15mmol)を加え、室温で18時間反応混合物を攪拌した。その後、乾燥ジクロロメタン(100ml)にけん濁させたDDQ(2.55g、11.25mmol)を加えた。さらに1時間攪拌した後、トリエチルアミン(3ml)を加えた。重合副生成物を除去するため、反応混合物をシリカゲルでろ過した。溶媒を留去し、ジクロロメタンを用いたフラッシュクロマトグラフィーによって分離し、溶離剤としてジクロロメタン/ヘキサン 3:1(第一画分)およびジクロロメタン(第二画分)を用いてさらなる精製を行った。ジクロロメタン/ヘキサンを溶媒とした再結晶によってさらなる精製を行った。カラムの第一画分は5,10,15−トリヘキシル−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(203mg、12%)を含み、第二画分は表題化合物である5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(109mg、4%)を含み、第三画分は表題化合物である5,10−ジヘキシル−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(199mg、7%)を含んでいた。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
(1.2 5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリンの合成、方法B)
代表的な実験において、マグネチックスターラーとアルゴンガスの注入口を備えた三口フラスコにアセトニトリル(500ml)を加えた。5−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ジピロメタン(714mg、2.6mmol)およびヘプタナール(0.36ml、2.6mmol)を加えた後、フラスコに周囲の光からの遮断を施し、TFA(0.2ml、2.6mmol)を加え、室温で18時間反応混合物を攪拌した。その後、アセトニトリル(30ml)にけん濁させたDDQ(860mg、3.8mmol)を加えた。さらに1時間攪拌した後、トリエチルアミン(1ml)を加えた。溶媒を留去し、溶離剤としてジクロロメタン/メタノール95:5を用いた粗精製をフラッシュクロマトグラフィーによって行った。さらなる精製をジクロロメタン/酢酸エチル 99:1を溶離剤として、フラッシュクロマトグラフィーを用いて行った。表題化合物である5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリンは、ジクロロメタン/メタノールを溶媒とした再結晶によって得られた(81mg、9%)。
【0040】
(1.3 5,15−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,20−ビス−(トリデシル)−ポルフィリンおよび5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−ポルフィリンの合成)
代表的な実験において、マグネチックスターラーとアルゴンガスの注入口を備えた三口フラスコに乾燥ジクロロメタン(1500ml)を加えた。ピロール(1.05ml、15mmol)、テトラデカナール(1593ml、7.5mmol)、3−ヒドロキシベンズアルデヒド(916mg、7.5mmol)を加えた後、フラスコに周囲の光からの遮断を施し、TFA(1.16ml、15mmol)を加え、室温で4時間反応混合物を攪拌した。その後、乾燥ジクロロメタン(100ml)にけん濁させたDDQ(2.55g、11.25mmol)を加えた。さらに1時間攪拌した後、トリエチルアミン(6ml)を加えた。重合副生成物を除去するため、反応混合物をシリカゲルでろ過した。溶媒を留去し、ジクロロメタン/酢酸エチル90:10および95:5を溶離剤として複数回のフラッシュクロマトグラフィーによって分離を行った。さらなる精製は、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶によって行った。カラムの第一画分は5−(3−ヒドロキシフェニル)−10,15,20−トリス−(トリデシル)−ポルフィリン(68mg、4%)を含み、第二画分は表題化合物である5,15−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,20−ビス−(トリデシル)−ポルフィリン(52mg、2%)を含み、第三画分は表題化合物である5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−ポルフィリン(114mg、4%)を含んでいた。
【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
(1.3 5,10,15−トリヘキシル−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリンの合成)
代表的な実験において、マグネチックスターラーとアルゴンガスの注入口を備えた三口フラスコに乾燥ジクロロメタン(1500ml)を加えた。ピロール(10.5ml、150mmol)、ヘプタナール(15.8ml、113mmol)、4−ホルミル安息香酸メチル(6.2g、38mmol)を加えた後、フラスコに周囲の光からの遮断を施し、TFA(2.15ml、28mmol)を加え、室温で18時間反応混合物を攪拌した。その後、乾燥ジクロロメタン(100ml)にけん濁させたDDQ(25g、110mmol)を加えた。さらに1時間攪拌した後、トリエチルアミン(6ml)を加えた。重合副生成物を除去するため、反応混合物をシリカゲルでろ過した。溶媒を留去し、ジクロロメタンを溶媒としてフラッシュクロマトグラフィーによる分離を行い、ジクロロメタン/ヘキサン 3:1を溶媒としてさらに精製を行った。ジクロロメタン/メタノールを溶媒とした再結晶によってさらに精製を行った。カラムの第一画分には5,10,15,20−テトラヘキシル−ポルフィリン(930mg、5%)が含まれ、第二画分には表題化合物の5,10,15−トリヘキシル−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(1400mg、5%)が含まれていた。
【0044】
【化5】

【実施例2】
【0045】
非対称カルボキシ置換ポルフィリンの合成
【0046】
(2.1 5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−ポルフィリンの合成)
代表的な実験において、KOH(200mg、3.6mmol)のメタノール(1ml)溶液を、5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(31mg、0.04mmol)のTHF(8ml)溶液に攪拌しながら加えた。反応混合物を2日間攪拌した。水(50ml)と塩酸を加えてpHが4〜6になるように調製した。水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、有機相を分離し、中性となるまで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶を行って表題化合物である5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−ポルフィリン(26mg、87%)を得た。
【0047】
【化6】

【0048】
(2.2 5,10−ビス−(4−カルボキシフェニル)−15,20−ジヘキシル−ポルフィリンの合成)
代表的な実験において、KOH(200mg、3.6mmol)のメタノール(1ml)溶液を、5,10−ジヘキシル−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(34mg、0.05mmol)のTHF(8ml)溶液に攪拌しながら加えた。反応混合物を2日間攪拌した。水(50ml)と塩酸を加えてpHが4〜6になるように調製した。水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、有機相を分離し、中性となるまで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶を行って表題化合物である5,10−ビス−(4−カルボキシフェニル)−15,20−ジヘキシル−ポルフィリン(26mg、79%)を得た。
【0049】
【化7】

【実施例3】
【0050】
非対称置換シスジヒドロキシクロリンの合成
【0051】
(3.1 5,15−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリンの合成)
代表的な実験において、ジクロロメタン/ピリジン30%(4ml)を溶媒とする四酸化オスミウム(40mg、0.16mmol)溶液を、ジクロロメタン/ピリジン30%(9ml)を溶媒とする5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(90mg、0.12mmol)溶液に攪拌しながら加えた。3時間攪拌した後、水/メタノール1:1(15ml)を溶媒とする亜硫酸水素ナトリウム飽和溶液を加え、反応混合物を18時間攪拌した。セライト(登録商標)を用いて反応混合物をろ過し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/酢酸エチル95:5を溶離剤とするフラッシュクロマトグラフィーによって残渣を精製した。さらにジクロロメタン/メタノールを溶媒として再結晶した。カラムの第一画分は出発物質(20mg、22%)を含み、第二画分は表題化合物である5,15−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(52mg、55%)を含んでいた。
【0052】
【化8】

【0053】
(3.2 5,10−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン、5,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−10,15−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン、5,10−ジヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−17,18−クロリンの合成)
代表的な実験において、ジクロロメタン/ピリジン30%(10ml)を溶媒とする四酸化オスミウム(100mg、0.39mmol)溶液を、ジクロロメタン/ピリジン30%(35ml)を溶媒とする5,15−ジヘキシル−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(226mg、0.30mmol)溶液に攪拌しながら加えた。20時間攪拌した後、水/メタノール1:1(40ml)を溶媒とする亜硫酸水素ナトリウム飽和溶液を加え、反応混合物を18時間攪拌した。セライト(登録商標)を用いて反応混合物をろ過し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/酢酸エチル90:10を溶離剤とするフラッシュクロマトグラフィーによって残渣を精製した。さらにジクロロメタン/メタノールを溶媒として再結晶した。カラムの第一画分は出発物質(38mg、18%)含み、第二画分は表題化合物である5,10−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(60mg、25%)を含み、第三画分は表題化合物である5,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−10,15−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(74mg、31%)を含み、第四画分は表題化合物である5,10−ジヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−15,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−17,18−クロリン(22mg、9%)を含んでいた。
【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
(3.3 7,8−ジヒドロキシ−5,15−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,20−ビス−(トリデシル)−7,8−クロリンの合成)
代表的な実験において、ジクロロメタン/ピリジン30%(4ml)を溶媒とする四酸化オスミウム(36mg、0.14mmol)溶液を、ジクロロメタン/ピリジン30%(6ml)を溶媒とする5,15−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,20−ビス−(トリデシル)−ポルフィリン(80mg、0.09mmol)溶液に攪拌しながら加えた。5時間攪拌した後、水/メタノール1:1(15ml)を溶媒とする亜硫酸水素ナトリウム飽和溶液を加え、反応混合物を18時間攪拌した。セライト(登録商標)を用いて反応混合物をろ過し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/酢酸エチル90:10を溶離剤とするフラッシュクロマトグラフィーによって残渣を精製した。さらにジクロロメタン/水メタノールを溶媒として再結晶した。カラムの第一画分は出発物質(30mg、39%)を含み、第二画分は表題化合物である7,8−ジヒドロキシ−5,15−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,20−ビス−(トリデシル)−7,8−クロリン(35mg、44%)を含んでいた。
【0058】
【化12】

【0059】
(3.4 17,18−ジヒドロキシ−5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−17,18−クロリン、7,8−ジヒドロキシ−5,20−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,15−ビス−(トリデシル)−7,8−クロリン、7,8−ジヒドロキシ−5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−7,8−クロリンの合成)
代表的な実験において、ジクロロメタン/ピリジン30%(8ml)を溶媒とする四酸化オスミウム(76mg、0.30mmol)溶液を、ジクロロメタン/ピリジン30%(10ml)を溶媒とする5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−ポルフィリン(185mg、0.22mmol)溶液に攪拌しながら加えた。5時間攪拌した後、水/メタノール1:1(20ml)を溶媒とする亜硫酸水素ナトリウム飽和溶液を加え、反応混合物を18時間攪拌した。セライト(登録商標)を用いて反応混合物をろ過し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/酢酸エチル90:10、40:10、ジクロロメタン/メタノール95:5を溶離剤とする複数回のフラッシュクロマトグラフィーによって残渣を精製した。さらにジクロロメタン/水メタノールを溶媒として再結晶した。カラムの第一画分は出発物質(19mg、10%)を含み、第二画分は表題化合物である17,18−ジヒドロキシ−5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−17,18−クロリン(49mg、25%)を含み、第三画分は表題化合物である7,8−ジヒドロキシ−5,20−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−10,15−ビス−(トリデシル)−7,8−クロリン(47mg、24%)を含み、第四画分は表題化合物である7,8−ジヒドロキシ−5,10−ビス−(3−ヒドロキシフェニル)−15,20−ビス−(トリデシル)−7,8−クロリン(25mg、13%)を含んでいた。
【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
(3.5 5,10,15−トリヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン、5,10,15−トリヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−17,18−クロリンの合成)
代表的な実験において、ジクロロメタン/ピリジン30%(10ml)を溶媒とする四酸化オスミウム(100mg、0.39mmol)溶液を、ジクロロメタン/ピリジン30%(45ml)を溶媒とする5,10,15−トリヘキシル−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−ポルフィリン(212mg、0.30mmol)溶液に攪拌しながら加えた。13日間攪拌した後、水/メタノール1:1(40ml)を溶媒とする亜硫酸水素ナトリウム飽和溶液を加え、反応混合物を18時間攪拌した。セライト(登録商標)を用いて反応混合物をろ過し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/酢酸エチル95:5を溶離剤とする複数回のフラッシュクロマトグラフィーによって残渣を精製した。さらにジクロロメタン/水メタノールを溶媒として再結晶した。カラムの第一画分は出発物質(103mg、49%)を含み、第二画分は表題化合物である5,10,15−トリヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(48mg、22%)を含み、第三画分は表題化合物である5,10,15−トリヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−17,18−クロリン(34mg、15%)を含んでいた。
【0064】
【化16】

【0065】
【化17】

【実施例4】
【0066】
非対称カルボキシ置換クロリンの合成
【0067】
(4.1 5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンの合成)
代表的な実験において、メタノール(1ml)を溶媒とするKOH(100mg、1.8mmol)溶液を、THF(3ml)を溶媒とする5,15−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−10,20−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(20mg、0.016mmol)溶液に攪拌しながら加えた。反応混合物を2日間攪拌した。水(50ml)と塩酸を加えてpHが4〜6になるように調製した。水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、有機相を分離し、中性となるまで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶を行って表題化合物である5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリン(18mg、92%)を得た。
【0068】
【化18】

【0069】
(4.2 5,20−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,15−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンの合成)
代表的な実験において、メタノール(1ml)を溶媒とするKOH(200mg、3.6mmol)溶液を、THF(3ml)を溶媒とする5,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−10,15−ビス−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(35mg、0.045mmol)溶液に攪拌しながら加えた。反応混合物を2日間攪拌した。水(50ml)と塩酸を加えてpHが4〜6になるように調製した。水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、有機相を分離し、中性となるまで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶を行って表題化合物である5,20−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,15−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリン(31mg、91%)を得た。
【0070】
【化19】

【0071】
(4.3 5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−17,18−クロリンの合成)
代表的な実験において、メタノール(0.5ml)を溶媒とするKOH(100mg、1.8mmol)溶液を、THF(3ml)を溶媒とする5,10,15−トリヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−7,8−クロリン(12mg、0.016mmol)溶液に攪拌しながら加えた。反応混合物を2日間攪拌した。水(50ml)と塩酸を加えてpHが4〜6になるように調製した。水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、有機相を分離し、中性となるまで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶を行って表題化合物である5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−17,18−クロリン(10mg、87%)を得た。
【0072】
【化20】

【0073】
(4.4 5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンの合成)
代表的な実験において、メタノール(1ml)を溶媒とするKOH(200mg、3.6mmol)溶液を、THF(3ml)を溶媒とする5,10,15−トリヘキシル−17,18−ジヒドロキシ−20−(4−メトキシカルボニルフェニル)−17,18−クロリン(25mg、0.034mmol)溶液に攪拌しながら加えた。反応混合物を2日間攪拌した。水(50ml)と塩酸を加えてpHが4〜6になるように調製した。水相をジクロロメタン(2×100ml)で抽出し、有機相を分離し、中性となるまで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。溶媒を留去し、ジクロロメタン/水メタノールを溶媒とした再結晶を行って表題化合物である5−(4−カルボキシフェニル)−10,15,20−トリヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリン(22mg、90%)を得た。
【0074】
【化21】

【実施例5】
【0075】
含ポルフィリン炭化水素化合物の合成
【0076】
(5 5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(3−β−D−アセトグルコシルフェニル)−ポルフィリン、5,10−ジヘキシル−15,20−ビス−(3−β−D−アセトグルコシルフェニル)−ポルフィリンの合成)
代表的な実験において、マグネチックスターラーとアルゴンガスの注入口を備えた三口フラスコに乾燥ジクロロメタン(528ml)を加えた。ピロール(528μl、7.62mmol)、ヘプタナール(560μl、3.96mmol)、テトラアセチル−β−D−グルコピラノシロキシ−ベンズアルデヒド(600mg、1.32mmol)を加えた後、フラスコに周囲の光からの遮断を施し、TFA(408μl、5.28mmol)を加え、室温で18時間反応混合物を攪拌した。その後、乾燥ジクロロメタン(30ml)にけん濁させたDDQ(898mg、3.96mmol)を加えた。さらに1時間攪拌した後、トリエチルアミン(1ml)を加えた。重合副生成物を除去するため、反応混合物をシリカゲルでろ過した。溶媒を留去し、ヘキサン/酢酸エチル60:40およびジクロロメタン/酢酸エチル90:10を溶離剤として複数回のフラッシュクロマトグラフィーによって精製を行った。さらにジクロロメタン/メタノールを溶媒とする再結晶を行った。カラムの第一画分は5,10,15,20−テトラヘキシルポルフィリン(51mg、8%)を含み、第二画分は5,10,15−トリヘキシル−20−ビス−(3−β−D−アセトグルコシルフェニル)−ポルフィリン(145mg、11%)を含み、第三画分は表題化合物である5,15−ジヘキシル−10,20−ビス−(3−β−D−アセトグルコシルフェニル)−ポルフィリン(33mg、4%)を含み、第四画分は表題化合物である5,10−ジヘキシル−15,20−ビス−(3−β−D−アセトグルコシルフェニル)−ポルフィリン(57mg、7%)を含んでいた。
【0077】
【化22】

【0078】
【化23】

【実施例6】
【0079】
選択した化合物について行ったHT29細胞株を用いた細胞試験
【0080】
光線力学活性を、ヒト結腸腺癌細胞株HT29を用いて決定した。HT29細胞株の培養は、加熱不活性化処理済ウシ胎仔血清(FCS、cc−pro GMBH)10%、ペニシリン(10000IU)1%、ストレプトマイシン(10000μg/ml、cc−pro GMBH)を含有するDMEM(cc−pro GMBH)培地中で行った。細胞を加湿された培養器(空気中5%CO、37℃)中で単層状態となるよう維持した。
【0081】
光増感剤のストック溶液(2mM)をDMSO中で調製し、暗所で4℃に保持した。さらなる希釈を、フェノールレッドを含まずFCS10%を含むRPMI1640培地で行い、光増感剤の濃度がそれぞれ2μMと10μMになるよう調製した。
【0082】
マイクロプレートに2・10cells/mlを播いた(2・10cells/well)。FCS10%と2μMあるいは10μMの光増感剤を含む新たな培地(フェノールレッド不含RPMI培地)で細胞を光照射前に24時間培養した。光増感化前に細胞を洗浄し、10%FCSを含むフェノールレッド不含RPMI培地で培養し、その後室温で652nmのダイオードレーザー光(Ceralas PDT 652、biolitec AG)を100mW/cm(50J/cm)の固定フルエンス率で照射した。照射後、細胞を加湿された培養器(空気中5%CO、37℃)中で細胞生死判別試験まで24時間培養した。
【0083】
細胞生死判別試験はXTTアッセイによって行った。500mgのXTT(3’−[(フェニルアミノカルボニル)−3,4−テトラゾリウム]−ビス(4−メトキシ−6−ニトロ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、Applichem GMBH)を500mlのPBS緩衝溶液(Ca2+、Mg2+を含まない)に溶解し、無菌ろ過した。溶液は使用まで暗所に−20℃で保存した。XTTの活性化剤としてPMS(Nメチルジベンゾピラジンメチル硫酸、Applichem GMBH)を含む無菌溶液が必要であった。1mlのPBS緩衝溶液に0.383mgのPMSを溶解した。溶液は凍結保存する必要があり、光に曝露させてはならない。XTT試薬溶液を37℃の水槽で溶解し、活性化溶液PMSを使用直前に加えた。1つのマイクロプレート(96ウェル)に十分な反応溶液を調達するため、5mのXTT試薬に対して0.1mlの活性化溶液(PMS)を加えた。マイクロプレート中の培地は、10%FCS(100μl)を含む新たなフェノールレッド不含RPMI培地に交換し、ウェルあたり50μlのXTT反応溶液を添加した。マイクロプレートを37℃、5%COでオレンジ色の色素が生成するまで2〜3時間培養した。色素をウェル内で均一にするためにマイクロプレートを穏和に攪拌した。
【0084】
分光光度計(Bio−Kinetics Reader EL312 e;Bio−Tek Instruments Inc.)を用いてサンプルの吸光度を490nmの波長で測定した。対照吸光度を測定するため(特徴のない指示値を測定するため)、630〜690nmの波長を用いた。
【0085】
例6.1〜6.3は、本明細書中で述べた置換基のパターンを有する光増感剤の光線力学活性を例示している(DTは暗毒性を、レーザーは光毒性を意味する)。これら3つの光増感剤は、A−置換パターンのメソ置換基を有し、それらは2つの極性置換基と2つの非極性置換基との組み合わせである。特に5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンは、HT29細胞株に対して非常に強い光線力学活性を有し、細胞毒物に対する耐性が非常に高いことが知られており、PDT活性も高い。
【0086】
例6.4〜6.6は、本明細書中で述べた置換基のパターンを有していないクロリン光増感剤が細胞実験において光線力学活性の潜在能力を有していないことを示すために含められた。ここで例示されている3つの光増感剤はAB−置換パターンのメソ置換基を有する。3つのヘキシル鎖と1つの安息香酸エステル基がメソ位にある例6.6では、照射によって(光増感剤の濃度は10μM、下記参照)実際細胞の生存能力が増している(!)。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
【表6】

【実施例7】
【0093】
選択した化合物について行った、ウサギ滑膜細胞およびマウスマクロファージ細胞株、HIG82、J774A.1を用いた細胞試験
【0094】
マウス単球−マクロファージ細胞株J774A.1およびウサギ滑膜細胞株HIG82を加熱不活性化処理済ウシ胎仔血清(FCS、cc−pro GMBH)10%、ペニシリン(10000IU)1%、ストレプトマイシン(10000μg/ml、cc−pro GMBH)を含有するDMEM(cc−pro GMBH)培地中で培養した。細胞を加湿された培養器(空気中5%CO、37℃)中で単層状態となるよう維持した。
【0095】
光増感剤のストック溶液(2mM)をDMSO中で調製し、暗所で4℃に保持した。さらなる希釈を、フェノールレッドを含まずFCS10%を含むRPMI1640培地で行い、光増感剤の濃度がそれぞれ2μMと10μMになるよう調製した。
【0096】
マイクロプレートに2・10cells/mlを播いた(2・10cells/well)。FCS10%と2μMあるいは10μMの光増感剤を含む新たな培地(フェノールレッド不含RPMI培地)で細胞を光照射前に24時間培養した。光増感化前に細胞を洗浄し、10%FCSを含むフェノールレッド不含RPMI培地で培養し、その後室温で652nmのダイオードレーザー光(Ceralas PDT 652、biolitec AG)を100mW/cm(50J/cm)の固定フルエンス率で照射した。照射後、細胞を加湿された培養器(空気中5%CO、37℃)中で細胞生死判別試験まで24時間培養した。
【0097】
細胞生死判別試験はXTTアッセイによって行った。500mgのXTT(3’−[(フェニルアミノカルボニル)−3,4−テトラゾリウム]−ビス(4−メトキシ−6−ニトロ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、Applichem GMBH)を500mlのPBS緩衝溶液(Ca2+、Mg2+を含まない)に溶解し、無菌ろ過した。溶液は使用まで暗所に−20℃で保存した。XTTの活性化剤としてPMS(Nメチルジベンゾピラジンメチル硫酸、Applichem GMBH)を含む無菌溶液が必要であった。1mlのPBS緩衝溶液に0.383mgのPMSを溶解した。溶液は凍結保存する必要があり、光に曝露させてはならない。XTT試薬溶液を37℃の水槽で溶解し、活性化溶液PMSを使用直前に加えた。1つのマイクロプレート(96ウェル)に十分な反応溶液を調達するため、5mのXTT試薬に対して0.1mlの活性化溶液(PMS)を加えた。マイクロプレート中の培地は、10%FCS(100μl)を含む新たなフェノールレッド不含RPMI培地に交換し、ウェルあたり50μlのXTT反応溶液を添加した。マイクロプレートを37℃、5%COでオレンジ色の色素が生成するまで2〜3時間培養した。式ををウェル内で均一にするためにマイクロプレートを穏和に攪拌した。
【0098】
分光光度計(Bio−Kinetics Reader EL312 e;Bio−Tek Instruments Inc.)を用いてサンプルの吸光度を490nmの波長で測定した。対照吸光度を測定するため(特徴のない指示値を測定するため)、630〜690nmの波長を用いた。
【0099】
例7.1〜7.4は、本明細書中で述べた置換基のパターンを有する光増感剤の、滑膜細胞とマクロファージに対する光線力学活性を例示している。これらの細胞は関節炎やその他の炎症性疾患の治療と特に関連が深い。これら4つの光増感剤は、A−置換パターンのメソ置換基を有し、それらは2つの極性置換基と2つの非極性置換基との組み合わせである。特に5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンと5,20−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,15−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンは、これら2つの細胞株に対して非常に強い光線力学活性を有することが示された。
【0100】
例7.5もまた、本明細書中で述べた置換基のパターンを有していないクロリン光増感剤が光線力学活性の潜在能力を有していないことを示すために含められた。
【0101】
【表7】

【0102】
【表8】

【0103】
【表9】

【0104】
【表10】

【0105】
【表11】

【実施例8】
【0106】
5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンのリポソーム製剤の細胞試験
【0107】
光増感剤5,15−ビス−(4−カルボキシフェニル)−10,20−ジヘキシル−7,8−ジヒドロキシ−7,8−クロリンのリポソーム製剤を、V.Albrecht、A.Fahrらによる米国特許7354599B2に記載の方法に類似の方法によって調製した。
【0108】
リポソーム製剤の試験は、本発明の光増感剤は例えばPDTや関節炎の治療のためにリポソーム製剤として製剤した際に光線力学活性を失わないことを例示する。
【0109】
リポソーム製剤は、例えば光増感剤の吸収、拡散の薬物動態に影響を与えるために使用でき、生体利用効率を上昇させる。
【0110】
【表12】

【0111】
【表13】

【0112】
実施例を参照しながら本発明の好適な実施形態について記述したが、本発明が特定の実施形態によって限定されるものではないことが理解されるべきである。後述の特許請求の範囲において定義される発明の範疇から外れることなく、当業者による多様な変更や変形が行われて良い。
【関連出願の相互参照】
【0113】
本出願は、2008年9月18日に出願された米国仮出願第61/098026号に対して優先権を主張し、この仮出願の開示は参照として本明細書に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化2に示す構造1〜4から選択される構造を有し、
下記化2の置換基Rは炭素数が4〜15で置換アルキル基、非置換アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群からそれぞれ選択され、
下記化2の置換基Rは−OH、−COOH、−COOCH、−NH、−COOX、−NHX、−OX、−NH−Y−COOH及び−CO−Y−NHからなる群からそれぞれ選択され、
前記置換基Rはそれぞれメタ位あるいはパラ位の置換基であり、
前記Xは分子式(CHCHO)CH、n=1〜30で表されるポリエチレングリコールまたは前記ポリエチレングリコールの炭化水素部分であり、
前記Yはペプチドまたは1〜30量体オリゴペプチドである、
ことを特徴とするテトラピロール化合物。
【化1】

【化2】

【請求項2】
下記化3に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化4に示す構造1〜4から選択される構造を有し、
下記化4の置換基Rは炭素数が4〜15で置換アルキル基、非置換アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群から選択され、
下記化4の置換基Rは−OH、−COOH及び−NHからなる群から選択され、
前記置換基Rはそれぞれメタ位あるいはパラ位の置換基である、
ことを特徴とするテトラピロール化合物。
【化3】

【化4】

【請求項3】
下記化5に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化6に示す構造1〜4から選択される構造を有し、
下記化6の置換基Rは炭素数が4〜15で置換アルキル基、非置換アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群からそれぞれ選択され、
下記化6の置換基Rは−OH、−COOH、−COOCH、−NH、−COOX、−NHX、−OX、−NH−Y−COOH及び−CO−Y−NHからなる群からそれぞれ選択され、
前記置換基Rはそれぞれメタ位あるいはパラ位の置換基であり、
前記Xは分子式(CHCHO)CH、n=1〜30で表されるポリエチレングリコールまたは前記ポリエチレングリコールの炭化水素部分であり、
前記Yはペプチドまたは1〜30量体オリゴペプチドである、
ことを特徴とするクロリン。
【化5】

【化6】

【請求項4】
下記化7に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化8に示す構造1〜4から選択される構造を有し、
下記化8の置換基Rは炭素数が4〜15で置換アルキル基、非置換アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群から選択され、
下記化8の置換基Rは−OH、−COOH及び−NHからなる群から選択され、
前記置換基Rはそれぞれメタ位あるいはパラ位の置換基である、
ことを特徴とするクロリン。
【化7】

【化8】

【請求項5】
下記化9に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化10に示す構造を有し、
下記化10の置換基Rは炭素数が4〜15で置換アルキル基、非置換アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群からそれぞれ選択され、
下記化10の置換基Rは−OH、−COOH、−COOCH、−NH、−COOX、−NHX、−OX、−NH−Y−COOH及び−CO−Y−NHからなる群からそれぞれ選択され、
前記置換基Rはそれぞれメタ位あるいはパラ位の置換基であり、
前記Xは分子式(CHCHO)CH、n=1〜30で表されるポリエチレングリコールまたは前記ポリエチレングリコールの炭化水素部分であり、
前記Yはペプチドまたは1〜30量体オリゴペプチドである、
ことを特徴とするクロリン。
【化9】

【化10】

【請求項6】
下記化11に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化12に示す構造を有し、
下記化12の置換基Rは炭素数が4〜15で置換アルキル基、非置換アルキル基及びフルオロアルキル基からなる群から選択され、
下記化12の置換基Rは−OH、−COOH及び−NHからなる群から選択され、
前記置換基Rはそれぞれメタ位あるいはパラ位の置換基である、
ことを特徴とするクロリン。
【化11】

【化12】

【請求項7】
下記化13に示す構造群から選択される部分構造Bを有し、
下記化14に示す構造を有する、
ことを特徴とするクロリン。
【化13】

【化14】

【請求項8】
下記化15に示す構造を有する、
ことを特徴とする請求項7に記載のクロリンまたは製剤に適合した前記クロリンの誘導体。
【化15】

【請求項9】
下記化16に示す構造を有する、
ことを特徴とする請求項7に記載のクロリンまたは製剤に適合した前記クロリンの誘導体。
【化16】

【請求項10】
下記化17に示す構造を有する、ことを特徴とする請求項7に記載のクロリンまたは製剤に適合した前記クロリンの誘導体。
【化17】

【請求項11】
光線力学療法に使用される、ことを特徴とする請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体。
【請求項12】
光線力学療法のための医薬組成物の調製のための、請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体の使用方法。
【請求項13】
癌、皮膚疾患、ウイルス性または細菌性感染症、眼疾患または泌尿器疾患の光線力学療法に使用される、
ことを特徴とする請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体。
【請求項14】
関節炎または類似の炎症性疾患の光線力学療法に用いられる、
ことを特徴とする請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体。
【請求項15】
関節炎または類似の炎症性疾患の診断に用いられる、
ことを特徴とする請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体。
【請求項16】
請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体を活性物質として含有する、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項17】
請求項1乃至10に記載の化合物または製剤に適合した前記化合物の誘導体が標的物質と結合している、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
前記標的物質が抗体または抗体の断片である、
ことを特徴とする請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記標的物質がペプチドである、
ことを特徴とする請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記医薬組成物がリポソーム製剤である、
ことを特徴とする請求項16に記載の医薬組成物
【請求項21】
前記医薬組成物がリポソーム製剤である、
ことを特徴とする請求項17に記載の医薬組成物
【請求項22】
請求項11乃至15に記載の化合物を含む医薬組成物
【請求項23】
リポソーム製剤であること、
を特徴とする請求項13に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項24】
リポソーム製剤であること、
を特徴とする請求項14または請求項15に記載の化合物を含む医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−503006(P2012−503006A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527954(P2011−527954)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/057283
【国際公開番号】WO2010/033678
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(502359666)セラムオプテック インダストリーズ インコーポレーテッド (20)
【Fターム(参考)】