説明

非対称構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、これより得られるポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド、金属との積層体とこれら製造方法

【課題】低い線熱膨張係数、低い吸湿膨張係数、低い吸水率、比較的低い弾性率、高いガラス転移温度、難燃性及び十分な靭性を併せ持つポリエステルイミドおよびその原料である新規なエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1):


で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、ならびにこれを用いて得られるポリエステルイミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低い線熱膨張係数、低い吸湿膨張係数、低い吸水率、比較的低い弾性率、高いガラス転移温度、難燃性及び十分な靭性を併せ持つ、フレキシブルプリント配線基板回路(FPC)用絶縁基板、テープ・オートメーション・ボンディング(TAB)用絶縁基板、チップ・オン・フィルム(COF)用絶縁基板、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC用絶縁基板材料として有用なポリエステルイミドおよびその原料である新規なエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、現在FPC、TABおよびCOF用耐熱絶縁基板、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはこれらの特性以外にも、製造方法の簡便さ、極めて高い膜純度、入手可能な種々のモノマーを用いた物性改良のしやすさといったことから、近年益々その重要性が高まっている。
【0003】
電子機器の高性能化、高機能化および軽薄短小化が進むにつれて上記絶縁材料としてのポリイミドへの要求性能も年々厳しさを増し、ハンダ耐熱性だけに留まらず、熱サイクルや吸湿に対するポリイミドフィルムの寸法安定性、透明性、金属箔特に銅箔との接着性、難燃性、成型加工性、微細加工性等、複数の特性を同時に満足する多機能性ポリイミド材料が求められるようになってきている。
【0004】
近年FPC用絶縁基板として用いるポリイミド樹脂の需要が飛躍的に増加している。FPC製造に使用される銅張積層板(CCL)の構成は主に3つの様式に分類される。即ち、1)ポリイミドフィルムと銅箔とをエポキシ樹脂/ニトリル(またはアクリル)ゴム系接着剤等を用いて貼り合わせる3層CCL、2)銅箔にポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニスを塗布後、乾燥・イミド化する、無接着剤型のキャスティング法2層CCL、あるいはポリイミドフィルムにまずシード層をスパッタリングにより形成後、その上に銅層をメッキ工程で形成するメタライジング法2層CCL、3)接着層として熱可塑性ポリイミドを用いる擬似2層層CCLが知られている。より高度な寸法安定性が要求される用途では、接着剤を使用しない2層CCLが有利である。
【0005】
FPCにおけるポリイミド層は実装工程で様々な熱サイクルに曝されてわずかながら寸法変化が起こる。このような寸法変化は回路の位置ずれを引き起こすため高密度実装にとって重大な問題である。ポリイミド樹脂の熱寸法安定性を確保するためにはポリイミドのガラス転移温度が工程温度よりも十分高いことに加えて、ガラス転移温度以下即ちガラス状態における線熱膨張係数ができるだけ低いことが望ましい。一方FPCの反りを抑制するという観点から、ポリイミド層の線熱膨張係数(CTE)は銅箔と同等の値に制御されていることが望ましい。
【0006】
銅張積層板の反りは、銅箔上に形成されたポリイミド前駆体フィルムを熱イミド化した後、室温まで冷却する過程で起こる。この冷却過程において、ポリイミド層の線熱膨張係数が高いほどフィルムは大きく収縮することになり、銅箔とポリイミド層との間の線熱膨張係数のミスマッチにより通常ポリイミド層側を内側にして反り・カールが発生する。
【0007】
殆どのポリイミド系では線熱膨張係数が40〜80ppm/Kの範囲にあり、金属箔例えば銅箔の線熱膨張係数18ppm/Kよりもはるかに大きいため、この値とほぼ等しい低熱膨張性ポリイミドを選択することで銅張積層板の反りを完全に抑え込むことが可能である。
【0008】
現在実用的な低熱膨張性ポリイミド材料としては3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)から得られるポリイミドやPMDA、PDAおよびODAからなるポリイミド共重合体が最もよく知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながらこれらのポリイミドフィルムは低吸水性および低吸湿膨張性を有していない。
【0009】
高密度実装化に伴う回路の位置ずれ許容範囲が近年更に厳しくなり、熱サイクルに対する寸法安定性に加えて、ポリイミド層の吸湿・吸水寸法安定性も重要視されている。従来のポリイミドでは2〜3重量%も吸湿するため、低吸水率化および吸湿寸法安定性の改善が強く求められている。
【0010】
低熱膨張特性を維持したまま、低吸水率化および低吸湿膨張化を実現するために、下記式(5):
【化5】

で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物〔ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)〕を使用してポリイミド骨格へのパラ芳香族エステル結合を導入することが有効であると報告されている(例えば、非特許文献2参照)。例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−オキシジアニリン(ODA)から得られる汎用ポリイミドフィルムでは吸水率が2.9%であるのに対して、PMDAの代わりにハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)を用い、これとODAから得られるポリイミドでは吸水率が0.7%まで大幅に低減される。更にパラエステル結合を介して芳香環を増環したテトラカルボン酸二無水物を用いることで、ポリイミド樹脂とした際に、吸水の原因となる分極率の高いイミド基の含有率を結果的に減少することができ、低熱膨張特性を保持したままで更に低吸水率化を実現できると期待される。
【0011】
電子機器の軽薄短小化に伴い、より狭い空間に小さな曲率半径で急激に折り曲げて実装しうる低反発性FPCの開発が重要な課題となっている。FPCを折り曲げて実装する際にFPCの剛性が高いと反発力が増加し、折り曲げ部における応力集中により、配線回路と絶縁層との接着界面で剥がれが生じる等、電子機器の信頼性を損なことになる。FPCを低反発化するためには積層体を構成する銅箔やポリイミドフィルムをそれぞれ薄くすることや、ポリイミドフィルムそのものの弾性率を低減することが有効である。
【0012】
上記式(5)で表されるような剛直・直線的で対称性の分子構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と剛直なジアミンを用いて得られたポリイミドフィルムは、ポリイミド鎖の高度な分子配向(面内配向)に由来して極めて低い熱膨張係数を示す一方、弾性率は極めて高くなり、且つ脆弱になることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。即ち低熱膨張化を目指す分子設計を行う限り、これとトレード・オフの関係にある低弾性率化や高靭性化を同時に達成することは極めて困難である。これに加え、更にハンダ耐熱性、難燃性、低吸水率、低吸湿膨張係数を兼備する耐熱絶縁材料が上記産業分野で待ち望まれているが、そのような複合的特性を有する材料はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Macromolecules,29,7897(1996)
【非特許文献2】High Performance Polmers,18,697(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は低い線熱膨張係数、低い吸湿膨張係数、低い吸水率、比較的低い弾性率、高いガラス転移温度、難燃性及び十分な靭性を併せ持つポリエステルイミドとこれら製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、非対称構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と剛直なジアミンより重付加反応によって得られたポリエステルイミド前駆体ワニスを基板上に塗付・乾燥してフィルムとし、これを熱的に又脱水試薬等を用いてイミド化して形成したポリエステルイミドフィルムが、上記産業分野において極めて有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち本発明は以下に示すものである。
1.下記一般式(1):
【化1】

〔式(1)中、Rは水素原子、メチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、nは置換基数を表し、1から4の整数である。Xは下記式(2):
【化2】

または結合位置が2,6−、1,5−、1,4−である2価のナフタレン基で表され、式(2)中、RおよびRは各々独立に水素原子、メチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、nは置換基数を表し、1から4の整数である。〕
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物。
2.下記一般式(3):
【化3】

〔式(3)中、X、Rおよびnは上記1に記載したものと同義であり、Yは2価の芳香族基または脂肪族基を表す〕
で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
3.下記一般式(4):
【化4】

〔式中、X、R、nおよびYは上記2に記載したものと同義である〕
で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
4.ポリエステルイミド樹脂層と金属箔を有する積層板を製造する方法において、上記2に記載のポリエステルイミド前駆体のワニスを金属箔上に塗布、乾燥後、加熱あるいは脱水閉環試薬を用いてイミド化させることを特徴とする積層板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を、ポリエステルイミドの酸無水物成分として利用することにより、非対称構造を有するポリエステルイミドを提供することが可能となる。本発明のポリエステルイミドは、低い線熱膨張係数、低い吸湿膨張係数、低い吸水率、比較的低い弾性率、高いガラス転移温度、難燃性及び十分な靭性を併せ持ち、様々な電子デバイスにおける電子材料等への利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例5で得られたポリエステルイミド前駆体の赤外線吸収スペクトルを示す。
【図2】実施例5で得られたポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0020】
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物>
本発明のポリエステルイミドが上記の要求特性を発現するための鍵となる本発明のモノマーは下記一般式(1):
【化1】

〔式(1)中、Rは水素原子、メチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、nは置換基数を表し、1から4の整数である。Xは下記式(2):
【化2】

または結合位置が2,6−、1,5−、1,4−である2価のナフタレン基で表され、式(2)中、RおよびRは各々独立に水素原子、メチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、nは置換基数を表し、1から4の整数である。〕
で表される剛直で且つ非対称構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物である。
【0021】
上記のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のうち、原料の入手のしやすさ、コスト、重合反応性、ポリイミドフィルムの要求の観点から、下記式(6):
【化6】

および下記式(7):
【化7】

で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物が好適な例として挙げられる。
【0022】
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法>
本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。一例として上記式(7)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(以下TAPPPHQと称する)の製造方法について以下に具体的に説明する。まずその原料となる下記式(8):
【化8】

で表される剛直で且つ非対称構造を有するジオール(以下PPPHQと称する)を合成する。
【0023】
PPPHQの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。一例を挙げるならば、まず4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸(以下PPP−COOHと称する)と過剰量の無水酢酸よりPPP−COOHのヒドロキシ基をアセトキシ化し、4−(4−アセトキシフェニル)安息香酸(以下AcPPP−COOHと称する)を合成する。このアセトキシ化反応はPPP−COOHをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等に溶解し、この溶液に過剰量の無水酢酸を加え、90〜150℃で0.5〜12時間還流することで容易に行うことができる。この際触媒として硫酸などの無機酸を添加してもよい。
【0024】
次にAcPPP−COOHと過剰量のハイドロキノンからエステル化反応により下記式(9):
【化9】

で表される化合物(以下AcPPPHQと称する)を合成する。このエステル化反応の際適用できる方法として特に限定されないが、AcPPP−COOHのカルボキシル基を酸ハライドに変換し、これと過剰量のハイドロキノンとを脱酸剤の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)が経済性、反応性の点で好ましく適用できる。
【0025】
AcPPP−COOHのカルボキシル基を酸ハライドに変換する方法は特に限定されず、公知の方法を適用できる。酸ハライドのうち酸クロライドが経済性、反応性の観点から好ましい。AcPPP−COOHから酸クロライド(以下AcPPP−COClと称する)を得るための塩素化剤として塩化チオニル、オキザリル酸クロライド、三塩化リン、安息香酸酸クロライド等が挙げられる。このうち過剰に使用した塩素化剤の除去のしやすさの観点から、塩化チオニルが好適に用いられる。この際塩化チオニルの使用量に特に制限はないが、塩化チオニルが溶剤としての働きも有するため、ジカルボン酸に対して大過剰使用することが望ましい。塩素化の触媒としてN,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等を塩化チオニルに添加してもよい。反応は室温でも行えるが、通常50〜90℃に加熱還流して行うことが好ましい。反応後は過剰な塩素化剤を常圧あるいは減圧下にて留去するが、塩素化剤と共沸組成物を形成するベンゼンやトルエン等の溶媒を添加することもできる。得られた酸クロライドはヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、そのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
【0026】
次に、このようにして得られたAcPPP−COClと過剰量のハイドロキノンを脱酸剤の存在下で反応させてエステル化し、式(9)で表されるAcPPPHQを合成する。その際の方法は特に限定されず公知の方法を適用できる。具体的な例を以下に説明する。まずAcPPP−COClを、これと反応しないよく脱水された溶媒に溶解し、反応容器をセプタムキャップで密栓しA液とする。次に別の反応容器中、過剰量のハイドロキノンおよび適当量のピリジン等の脱酸剤を同一溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓しB液とする。B液を氷浴中で冷やし攪拌ながら、A液をB液にシリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応混合物を更に1〜24時間撹拌する。反応溶媒に対する目的物の溶解度が高い場合は、反応混合物からまず生成した塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去して、析出した粗生成物を温水で十分洗浄して水溶性の塩酸塩および脱酸剤を除去する。生成物は温水には殆ど溶解せず、ハイドロキノンは温水によく溶解するため、この方法により過剰のハイドロキノンもほぼ完全に除去することができる。反応溶媒に対する目的物の溶解度が低い場合には、目的物と塩酸塩の混合物を濾別し、これを大量の温水で洗浄することで同様に塩酸塩、脱酸剤およびハイドロキノンを溶解除去するができる。洗浄後、生成物を50〜130℃で1〜24時間真空乾燥することで高純度のAcPPPHQが得られる。
【0027】
上記エステル化反応の際、副生成物の形成を抑制するためにハイドロキノンは過剰量使用することができる。好ましくはAcPPP−COClに対して3倍モル以上、より好ましくは5倍モル以上である。
【0028】
上記エステル化反応の際、使用可能な溶媒としては、AcPPP−COClやハイドロキノンと反応せず且つこれらをよく溶解するものであればよく、特に限定されないが例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、ピコリン、ピリジン等の含窒素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応試薬の溶解性、反応後の溶媒留去のしやすさの観点からテトラヒドロフラン(THF)が好適に用いられる。
【0029】
上記エステル化反応は、−10〜50℃で行われるが、より好ましくは0〜30℃で行われる。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0030】
上記エステル化反応は溶質濃度5〜50重量%で行われる。副反応の制御、溶媒の留去および後処理、沈殿の濾過工程等を考慮するならば、10〜40重量%で行われることがより好ましい。
【0031】
上記エステル化反応の際に使用する脱酸剤は特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類が好適な例として挙げられる。
【0032】
脱酸剤としてピリジンを使用した場合、上記エステル化反応により生成した白色沈殿物はピリジン塩酸塩である。例えば溶媒としてTHFを用いた場合、ピリジン塩酸塩は殆どTHFに溶解しないため、反応溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。THFに対して目的物(AcPPPHQ)の溶解度が高く、目的物は濾液中に溶解しているので、濾液から溶媒を留去し、適当な溶媒から再結晶することにより高収率で高純度の目的物が得られる。さらに、目的物をクロロホルムや酢酸エチル等の水混和しない溶媒に再溶解後、分液ロートを用いて有機層を水洗するかまたは、粉末として単離した目的物を十分水洗することで痕跡量の塩素成分を分離除去するができる。洗浄液に1%硝酸銀水溶液を滴下し、塩化銀の白色沈殿の生成が見られなければ、塩酸塩はほぼ完全に除去されたものと判断することができる。
【0033】
このようにして得られたAcPPPHQはそのままでも次の反応工程に供するのに十分高純度であるが、適当な溶媒から再結晶して更に精製してもよい。再結晶の際、使用可能な溶媒としては、AcPPPHQと反応せず且つ再結晶操作が可能なものであればよく、特に限定されないが例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、ピリジン、ピコリン等の含窒素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒、上記溶媒の水溶液等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。再結晶精製物の純度、再結晶収率、溶媒の乾燥しやすさ等の観点からトルエンやトルエン/1,4−ジオキサン混合溶媒が好適に用いられる。
【0034】
次にAcPPPHQのアセトキシ基を加水分解して、目的とする式(8)で表されるジオール(PPPHQ)を得る方法について説明する。AcPPPHQ粉末またはこれを溶媒に溶解した溶液中に塩基水溶液を添加・攪拌して容易に加水分解反応を行うことができる。反応終了後、反応溶液を濾過して不溶物を除去した後、濾液に無機酸水溶液を加えて弱酸性にすることで白色沈殿が析出する。これを濾別後、水で十分洗浄し、50〜150℃で1〜24時間真空乾燥することで目的の生成物(PPPHQ)が得られる。
【0035】
上記加水分解反応に用いる塩基は特に制限されず、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基水溶液の他、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、トリエチルアミン等の有機塩基水溶液が使用可能である。
【0036】
塩基水溶液として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強塩基を用いる場合、塩基濃度は0.1〜2Nの範囲であり、好ましくは0.5〜1Nである。反応は0〜50℃の範囲、好ましくは0〜30℃の範囲で行い、1分〜24時間、好ましくは5分〜1時間攪拌する。アルカリ水溶液の濃度や反応温度が高すぎたり、反応時間が長すぎると、アセトキシ基ばかりでなく、芳香族エステル基まで加水分解される恐れがあるため、注意を要する。
【0037】
このような観点から、アセトキシ基のみ加水分解可能なより弱い塩基として、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、トリエチルアミン等の有機塩基水溶液がより好適に用いられる。これらの有機塩基水溶液の濃度は1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、反応温度は−20〜50℃、好ましくは0〜40℃であり、0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間攪拌することでアセトキシ基のみを選択的に加水分解するができる。
【0038】
上記加水分解反応を行う際、場合によっては硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤を添加してもよい。フェノール性水酸基は僅かに酸化されただけでも生成物が著しく着色する場合があり、モノマーの着色は最終的に得られるポリエステルイミド樹脂を着色させることが多いため、そのような着色が問題となる用途の場合は、上記加水分解反応の際に酸化防止剤を用いることが望ましい。酸化防止剤の添加量は反応溶液中、0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。
【0039】
上記加水分解反応の際に、AcPPPHQ粉末に直接塩基水溶液を添加しても反応の進行と共に徐々に溶解していくので、反応が完結しないという問題はないが、加水分解反応を促進するために、塩基水溶液とよく混和する有機溶媒にAcPPPHQをあらかじめ溶解しておいてから塩基水溶液を添加してもよい。その際に使用可能な有機溶媒はAcPPPHQや塩基水溶液と反応せず、且つAcPPPHQをよく溶解するものであれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、グリコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、アセトン等のケトン類、ジメチルスルホオキシド等のチオケトン類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が挙げられる。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0040】
上記加水分解反応後、PPPHQは水溶性の塩となって反応溶液中に溶解している。反応溶液に塩酸等の無機酸を添加して中和することで、PPPHQを析出させることができる。その際、無機酸の濃度は特に制限は無く、中和後反応溶液のpHが2〜6、好ましくは3〜5になるように無機酸を添加すればよい。
【0041】
上記中和反応によって析出したPPPHQを濾別後、水で十分洗浄し、50〜150℃で1〜24時間真空乾燥することで、十分高純度のPPPHQが得られるが、適当な溶媒から再結晶して更に精製してもよい。再結晶の際、使用可能な溶媒としては、PPPHQと反応せず且つ再結晶操作が可能なものであればよく、特に限定されないが例えば、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類、ピリジン、ピコリン等の含窒素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒、上記溶媒の水溶液等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。再結晶精製物の純度、再結晶収率、溶媒の乾燥しやすさ等の観点から酢酸やトルエン/1,4−ジオキサン混合溶媒が好適に用いられる。
【0042】
このようにして得られたPPPHQとトリメリット酸無水物(以下TMAと称する)またはその誘導体をエステル化反応させることで本発明の下記式(6):
【化6】

で表される、非対称で剛直な構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(TAPPPHQ)を得ることができる。その製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0043】
上記エステル化反応の際、適用できる方法として、例えば、触媒の存在下でPPPHQのヒドロキシ基とTMAのカルボキシル基を高温で直接脱水縮合反応させる方法、あるいはPPPHQのジアセテート化体とTMAとを高温で脱酢酸反応させる方法(エステル交換法)、TMAのカルボキシル基を酸ハライドに変換し、これとPPPHQとを脱酸剤の存在下で反応させる方法(酸ハライド法)、トシルクロリド/N,N−ジメチルホルムアミド/ピリジン混合物を用いてTMA中のカルボキシル基を活性化してエステル化する方法等が挙げられる。経済性、反応性の点でこれらの方法のうち、酸ハライド法が好ましく適用できる。酸ハライドのうち、原料の入手のしやすさ、経済性、反応性の観点から酸クロライドが好ましく適用できる。
【0044】
例としてトリメリット酸無水物の酸クロライド(以下TMACと称する)とPPPHQをエステル化反応させてTAPPPHQを合成する方法について説明する。まずTMACを、これと反応しないよく脱水された溶媒に溶解し、反応容器をセプタムキャップで密栓しA液とする。次に別の反応容器中、PPPHQおよび適当量のピリジン等の脱酸剤を同一溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓しB液とする。B液を氷浴中で冷やし攪拌ながら、A液をB液にシリンジまたは滴下ロートにて滴下する。滴下終了後、反応混合物を1〜24時間撹拌する。反応溶媒に対する目的物の溶解度が高い場合は、反応混合物からまず生成した塩酸塩を濾別し、濾液をエバポレーターで溶媒留去して、析出した粗生成物を水で十分洗浄して水溶性の塩酸塩および脱酸剤を除去する。反応溶媒に対する目的物の溶解度が低い場合には、目的物と塩酸塩の混合物を濾別し、これを大量の水で洗浄することで同様に塩酸塩および脱酸剤を溶解除去するができる。洗浄後、生成物を1〜24時間加熱真空乾燥することで高純度のTAPPPHQが得られる。
【0045】
上記エステル化反応の際、PPPHQに対するTMACの添加量は通常当量の2倍モルであるが、TMACの極めて高い溶媒溶解性即ち反応終了後の分離のしやすさの観点から、PPPHQに対してTMACを過剰に添加してもよく、その添加量は2〜10倍モル量、好ましくは2〜5倍モル量である。
【0046】
上記エステル化反応の際、使用可能な溶媒としては、TMACやPPPHQと反応せず且つこれらをよく溶解するものであればよく、特に限定されないが例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、ピコリン、ピリジン等の含窒素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応試薬の溶解性、反応後の溶媒留去のしやすさの観点からテトラヒドロフラン(THF)が好適に用いられる。
【0047】
上記エステル化反応は、−10〜50℃で行われるが、より好ましくは0〜30℃で行われる。反応温度が50℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0048】
上記エステル化反応は溶質濃度5〜50重量%で行われる。副反応の制御、溶媒の留去および後処理、沈殿の濾過工程等を考慮するならば、10〜40重量%で行われることがより好ましい。
【0049】
上記エステル化反応の際に使用する脱酸剤は特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類が好適な例として挙げられる。
【0050】
脱酸剤としてピリジンを使用した場合、上記エステル化反応により生成した白色沈殿物はピリジン塩酸塩である。例えば溶媒としてTHFを用いた場合、ピリジン塩酸塩は殆どTHFに溶解しないため、反応溶液を濾過するだけで、塩酸塩をほぼ完全に分離することができる。THFに対して目的物(TAPPPHQ)の溶解度が低いため、目的物は反応溶液から殆ど析出する。これを濾別して十分水洗することで水溶性の塩酸塩をほぼ完全に分離除去するができる。洗浄液に1%硝酸銀水溶液を滴下し、塩化銀の白色沈殿の生成が見られなければ、塩酸塩はほぼ完全に除去されたものと判断することができる。
【0051】
上記水洗操作の際、該エステル基含有テトラカルボン酸二無水物が一部加水分解を受けて、ジカルボン酸に変化する場合があるが、80〜250℃、好ましくは100〜200℃で真空乾燥することで、一部加水分解してジカルボン酸が生成しても容易に酸無水物に戻すことができる。また有機酸の酸無水物と処理する方法も適用可能である。使用可能な有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、除去の容易さの点で無水酢酸が好適に用いられる。
【0052】
このようにして得られたTAPPPHQはそのままでも次の重合反応工程に供するのに十分高純度であるが、適当な溶媒から再結晶して更に精製してもよい。再結晶の際、使用可能な溶媒としては、TAPPPHQと反応せず且つ再結晶操作が可能なものであればよく、特に限定されないが、例えば、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピコリン等の含窒素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、無水酢酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。再結晶精製物の純度、再結晶収率等の観点からγ−ブチロラクトンが好適に用いられる。
【0053】
<ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明のポリエステルイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、まずジアミン成分を重合溶媒に溶解し、この溶液に、ジアミン成分と実質的に等モル量の本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を添加し、メカニカルスターラーで撹拌しながら0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜100時間、好ましくは1〜72時間攪拌する。この際モノマー濃度は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%である。また、本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物を併用して共重合を行うこともできる。その場合はジアミン成分を溶媒に溶解しておき、この溶液にジアミン成分と実質的に等モルになるようにテトラカルボン酸二無水物成分を添加してポリエステルイミド前駆体の重合反応を行う。この際種類の異なるテトラカルボン酸二無水物は、順次添加してもあらかじめ混合してから、添加してもよい。順次添加する場合は添加順序に特に制限はない。
【0054】
重合反応は上記のモノマー濃度範囲で行うことにより高重合度のポリエステルイミド前駆体を得ることができるが、5重量%以下のモノマー濃度で重合を行うと、十分に高い重合度(分子量)のポリエステルイミド前駆体が得られない恐れがある。一方、50重量%以上で反応を継続しようとすると、原料モノマーが十分に溶解しなかったり、反応溶液が均一になるまで長時間を要する恐れがある。反応中、重合度の増加に伴い反応溶液の粘度が高くなりすぎて均一な撹拌が困難になった場合は、適宜同一溶媒で希釈を行うことができる。
【0055】
本発明のポリエステルイミドフィルムの靭性の観点から、ポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましい。重合度が低すぎるとポリマー鎖同士の絡み合いが減少してポリエステルイミドフィルムが脆弱になる恐れがある。一方、重合度が高すぎるとポリエステルイミド前駆体ワニスの流動性が低下してキャスト製膜工程に支障をきたす恐れがある。このような観点から本発明のポリエステルイミド前駆体の固有粘度は0.3〜10.0dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜5.0dL/gの範囲であることがより好ましい。
【0056】
本発明のポリエステルイミドフィルムの要求特性を著しく損なわない範囲で、ポリエステルイミド前駆体を重合する際に使用可能な芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、2,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4−アミノ−2−メチルフェニル−4’−アミノベンゾエート、ビス(4−アミノフェニル)テレフタレート、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、p−ターフェニレンジアミン、2,7−ジアミノフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等を例示することができる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0057】
本発明のポリエステルイミドフィルムの要求特性を著しく損なわない範囲で、ポリエステルイミド前駆体を重合する際に使用可能な脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミンの他、末端アミノ変性ジメチルシロキサンやポリテトラメチレンオキサイド−ジ−p−アミノベンゾエート等を例示することができる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0058】
本発明のポリエステルイミドフィルムの要求特性を著しく損なわない範囲で、ポリエステルイミド前駆体を重合する際に、共重合成分として本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と併用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、メトキシハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’−ビフェノールビス(トリメリテートアンハイドライド)、レゾルシノールビス(トリメリテートアンハイドライド)、ビス(4−オキシフタリックアンハイドライド)ベンゼン、4,4’−ビス(4−オキシフタリックアンハイドライド)ビフェニル等を例示することができる。またこれらを共重合成分として2種類以上併用してもよい。
【0059】
本発明のポリエステルイミドフィルムの要求特性を著しく損なわない範囲で、ポリエステルイミド前駆体を重合する際に、共重合成分として本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と併用可能な脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0060】
上記のように本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物成分を共重合成分として併用する場合、その使用量は全テトラカルボン酸二無水物成分中、0〜80モル%が好ましく、0〜50モル%の範囲であることがより好ましい。
【0061】
本発明のポリエステルイミド前駆体を重合する際に使用可能な溶媒は、原料モノマーと生成するポリエステルイミド前駆体を十分溶解し、且つキャスト製膜(乾燥)工程で容易に蒸発するものであればよく、特に限定されないが、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン等の環状エステル系溶媒、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、等のフェノール系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒等を例示することができる。
【0062】
本発明のポリエステルイミド前駆体は、その重合溶液を大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾別・乾燥し、粉末として単離することもできる。
【0063】
<ポリエステルイミドの製造方法>
本発明のポリエステルイミドは、上記の方法で得られたポリエステルイミド前駆体を公知の方法を用い、脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際ポリエステルイミドの使用可能な形態は、フィルム、粉末、成型体、ワニスおよび金属層と該ポリエステルイミド層との積層体が挙げられる。
【0064】
まず本発明のポリエステルイミドフィルムを製造する方法について述べる。本発明のポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中、40〜180℃、好ましくは50〜150℃で加熱乾燥する。得られた該ポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、200〜450℃、好ましくは250〜400℃で加熱することで該ポリエステルイミドフィルムが得られる。イミド化反応の際の加熱温度はイミド化反応を完結するという観点から200℃以上、生成した該ポリエステルイミドフィルムの熱安定性の観点から450℃以下が好ましい。また、熱イミド化反応工程は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化反応温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0065】
またイミド化反応は、上記のような熱処理に代えて、ポリエステルイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試剤を含有する溶液に浸漬することによって行うこともできる。またこれらの脱水環化剤をあらかじめ該ポリエステルイミド前駆体のワニス中に室温で投入・攪拌し、それを上記基板上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリエステルイミド前駆体フィルムを作製することもでき、これを更に上記のように熱処理することでイミド化を完結することもできる。
【0066】
該ポリエステルイミド前駆体のワニスをそのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後、150〜230℃に加熱・還流することで、ポリエステルイミド自体が用いた溶媒に溶解する場合は、ポリエステルイミドの均一なワニスを得ることができる。これを大量の水やメタノール等の貧溶媒中にゆっくりと滴下して沈殿を析出させ、これを濾別・乾燥することで該ポリエステルイミドを粉末として取り出すこともできる。また溶媒に不溶な場合は、加熱・還流によりポリエステルイミドが析出するので、これを濾別・乾燥することでポリエステルイミド粉末が得られる。加熱・還流工程の際、イミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加してもよい。またイミド化促進触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することもできる。また該ポリエステルイミド粉末が溶媒に可溶である場合は、これを所望する溶媒に再溶解することで、ポリエステルイミドのワニスとすることができる。
【0067】
本発明のポリエステルイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分を溶媒中、高温で反応(ワンポット重合)させることにより、ポリエステルイミド前駆体段階で一旦反応を止めることなく、一段階で製造することもできる。この際反応促進の観点から、130〜250℃、好ましくは150〜230℃の温度範囲で反応を行うことが好ましい。また該ポリエステルイミドが用いた溶媒に不溶な場合、ポリエステルイミドは沈殿物として得られ、可溶な場合はポリエステルイミドの均一なワニスが得られる。ワンポット重合の際、使用可能な溶媒は特に限定さないが、該ポリエステルイミド前駆体を重合する際に用いる上記の溶媒が使用可能である。これらの溶媒にイミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加することができる。またイミド化触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下して析出させ、ポリエステルイミドを粉末として単離することができる。またポリエステルイミドが溶媒に可溶である場合はその粉末を上記溶媒に再溶解してポリエステルイミドのワニスとすることができる。
【0068】
上記のポリエステルイミドワニスを基板上に塗布し、40〜400℃、好ましくは100〜350℃で乾燥することによってもポリエステルイミドフィルムを形成することができる。
【0069】
上記のようにして得られたポリエステルイミド粉末を200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでポリエステルイミドの成型体を作製することもできる。
【0070】
ポリエステルイミド前駆体ワニス中に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリエステルイミドの異性体であるポリエステルイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中に該ポリエステルイミド前駆体フィルムを浸漬することによっても可能である。ポリエステルイソイミドが溶媒に可溶な場合は、ポリエステルイソイミドを貧溶媒中に滴下・濾別により粉末とし、これを上記溶媒に溶解して均一なワニスとすることができる。このワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理して熱異性化反応させることで、ポリエステルイミドへ容易に変換することができる。
【0071】
本発明のポリエステルイミド前駆体のワニスを金属箔例えば銅箔上に塗付・乾燥後、上記の条件により熱イミド化することで、金属層とポリエステルイミド層の積層体を得ることができる。更に塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いて銅層を所望する回路状にエッチングすることで、無接着剤型2層フレキシブルプリント配線基板を製造することができる。
【0072】
本発明のポリエステルイミドおよびその前駆体フィルムまたはワニス中に必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤等の添加物を加えてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。尚以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、KBr法にて本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。また透過法にてポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定し、イミド化反応の完結を確認した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中で本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析:DSC(融点および融解曲線)>
本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の融点および融解曲線は、ブルカーエイ・エックス・エス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
<固有粘度>
0.5重量%のポリエステルイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。この値が高いほど、相対的に重合度(分子量)が大きいことを表す。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカー エイ・エックス・エス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリエステルイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張(係数):CTE>
ブルカー エイ・エックス・エス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、膜厚1μm当たり0.5gの静荷重を試験片にかけて5℃/分で昇温を行い、試験片の伸びを計測して、100〜200℃の範囲での平均値としてポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカー エイ・エックス・エス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリエステルイミドフィルム(20μm厚)の面に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。この値が高いほど、ポリマー鎖の面内配向度が相対的に高いことを意味する。
<誘電率:εcal
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、ポリエステルイミドフィルムの平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×navにより1MHzにおけるポリエステルイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したポリエステルイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から次式:
吸水率(%)=(浸漬後の重量−真空乾燥後の重量)/真空乾燥後の重量×100
に従って吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
<吸湿膨張係数:CHE>
ポリエステルイミドフィルム(5mm×20mm×膜厚20μm)を100℃で数時間真空乾燥後、これをブルカー エイ・エックス・エス社製熱機械分析装置(TMA4000)に速やかにセット(チャック間:15mm)して膜厚1μm当たり0.5gの静荷重を試験片にかけ、室温で乾燥窒素を1時間流した後、神栄社製精密湿度供給装置(SRG−1R−1)を用いて相対湿度(RH)80%のウエットガスをTMA4000装置内に導入して、室温における試験片の伸びより、ポリエステルイミドフィルムの吸湿膨張係数を求めた。この値が低いほど吸湿寸法安定性に優れていることを意味する。
<弾性率、破断伸び、破断強度>
エー・アンド・デイ社製引張試験機(テンシロンUTM−II)を用いて、ポリエステルイミド試験片(3mm×30mm×20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力−歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどポリエステルイミドフィルムの靭性が高いことを意味する。
<難燃性評価>
UL−94V規格に従ってポリエステルイミド試験片(125mm×13mm×20μm厚)の難燃性を評価した。
【実施例1】
【0074】
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成>
本発明の下記式(6):
【化6】

で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を合成するために、まずその原料となる下記式(8):
【化8】

で表されるジオール(PPPHQ)を以下に示す手順で合成した。まず出発原料である4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸(PPP−COOH)のヒドロキシ基をアセトキシ基に変換した。PPP−COOH21.42g(100mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド100mLに溶解し、これに無水酢酸(100mL)および濃硫酸3滴加えて窒素雰囲気中、100℃で1時間還流した。エバポレーターで反応溶液を濃縮し、大量の水中にゆっくりと滴下して沈殿を析出させ、これを濾別後、130℃で12時間真空乾燥して収率94%で白色粉末状の生成物が得られた。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルより、得られた生成物は目的の4−(4−アセトキシフェニル)安息香酸(AcPPP−COOH)であることが確認された。
FT−IR(KBr): 2948cm−1(脂肪族C−H伸縮振動)、2668cm−1および2548cm−1(水素結合性カルボン酸、O−H伸縮振動)、1746cm−1(アセトキシ基C=O伸縮振動)、1680cm−1(水素結合性カルボン酸、C=O伸縮振動)、1609cm−1(ビフェニレン基骨格振動)、1213cm−1(C−O−Ph伸縮振動)
H−NMR(DMSO−d): δ13.0ppm(COOHプロトン、s、1H、相対積分強度1.00)、δ8.03ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.00)、δ7.83〜7.77ppm(芳香族プロトン、4H、相対積分強度4.00)、δ7.27ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.00)、δ2.30ppm(脂肪族族プロトン、s、3H、相対積分強度3.00)
DSC: 融点260.2℃
【0075】
次に上記のようにして得られたAcPPP−COOHを下記の手順で酸クロライドに変換した。AcPPP−COOH54.1g(87.9mmol)に塩化チオニル100mLおよび触媒としてDMFを10滴加え、80℃で3時間還流して塩素化を行った。反応溶液にベンゼンを加えて塩化チオニルを減圧下で共沸留去して析出した生成物を30℃で12時間真空乾燥し、収率98%で白色粉末状の生成物を得た。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルにおいてカルボキシル基由来の吸収ピークは完全に消失しており、これらのスペクトルより、得られた生成物は目的のAcPPP−COCl)であることが確認された。またDSC曲線において融解の吸熱ピークが非常にシャープであることから、生成物は高純度であることが確認された。
FT−IR(KBr): 3075cm−1(芳香族C−H伸縮振動)、1755cm−1(水素結合性カルボン酸、O−H伸縮振動)、1746cm−1(ブロードな吸収帯、アセトキシ基C=O伸縮振動+酸クロライドC=O伸縮振動)、1601cm−1(ビフェニレン基骨格振動)、1221cm−1(C−O−Ph伸縮振動)
DSC: 融点124.0℃
【0076】
次に上記のようにして得られたAcPPP−COClと過剰量のハイドロキノンより下記式(9):
【化9】

で表される化合物(AcPPPHQ)を以下のようにして合成した。AcPPP−COCl(2.99g、10.91mmol)をモレキュレーシーブス4Aで十分脱水済みのテトラヒドロフラン(THF)13.5mLに溶かし、反応容器をセプタムキャップで密栓してA液を調製した。また別の反応容器に過剰量のハイドロキノン6.01g(54.6mmol)をとり、THF15.8mLおよび脱酸剤としてピリジン4.4mL(54.6mmol)を加えてセプタムキャップで密栓してB液を調製した。B液の反応容器を氷浴中で冷やし攪拌ながら、A液をB液にシリンジにてゆっくりと滴下した。滴下終了後、0℃で4時間、更に室温で12時間攪拌した。反応混合物を更に1〜24時間撹拌する。反応溶液をエバポレーターで濃縮し、大量の温水中に滴下して沈殿を析出させ、これを濾別して120℃で12時間真空乾燥し、収率72%で白色粉末状の生成物を得た。更にこれを精製するためにトルエンから再結晶を行い、再結晶収率84%で白色結晶を得た。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルより、得られた生成物は目的のAcPPPHQであることが確認された。
FT−IR(KBr):3304cm−1(O−H伸縮振動)、2924cm−1(脂肪族C−H伸縮振動)、1752cm−1(アセトキシ基C=O伸縮振動)、1726cm−1(芳香族エステルPh−COO−Ph、C=O伸縮振動)、1601cm−1(ビフェニレン基骨格振動)
H−NMR(DMSO−d): δ9.55ppm(OHプロトン、s、1H、相対積分強度1.00)、δ8.19ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.08)、δ7.92ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.05)、δ7.84ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度1.98)、δ7.30ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.15)、δ7.09ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.05)、δ6,82ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.08)、δ2.31ppm(脂肪族プロトン、s、3H、相対積分強度3.06)
DSC: 融点193.0℃
【0077】
次に上記のようにして得られたAcPPPHQを加水分解する。AcPPPHQ2.26g(6.48mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)52mLに溶解した。氷浴中で冷やし攪拌ながら、この溶液にアンモニア水溶液(28重量%)20mLを加え、2時間攪拌した。反応溶液を濾過し、この濾液に塩酸水溶液を添加して中和し、白色沈殿を析出させた。沈殿を濾別して水で洗浄後、110℃で12時間真空乾燥し、収率90%で生成物を得た。更にこれを精製するために氷酢酸から再結晶を行い、再結晶収率88%で白色結晶を得た。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルより、得られた生成物は式(8)で表される目的のPPPHQであることが確認された。またDSC曲線において融解の吸熱ピークが非常にシャープであることから、生成物は高純度であることが確認された。
FT−IR(KBr):3329cm−1(O−H伸縮振動)、1701cm−1(芳香族エステルPh−COO−Ph、C=O伸縮振動)、1591cm−1(ビフェニレン基骨格振動)、1512cm−1(1,4−フェニレン基骨格振動)
H−NMR(DMSO−d): δ9.79ppm(OHプロトン、s、1H、相対積分強度1.00)、δ9.51ppm(OHプロトン、s、1H、相対積分強度1.01)、δ8.11ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.01)、δ7.80ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.00)、δ7.61ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.01)、δ7.07ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.02)、δ6.88ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.01)、δ6.80ppm(芳香族プロトン、d、2H、相対積分強度2.00)
DSC: 融点297.2℃
【0078】
次に上記のようにして得られたPPPHQとトリメリット酸無水物クロライド(TMAC)から本発明の式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(TAPPPHQ)を合成する。TMAC3.12g(14.81mmol)をモレキュレーシーブス4Aで十分脱水済みのTHF5.3mLに溶かし、反応容器をセプタムキャップで密栓してA液を調製した。また別の反応容器にPPPHQ1.51g(4.93mmol)をとり、THF4mLおよび脱酸剤としてピリジン2.4mL(29.6mmol)を加えてセプタムキャップで密栓してB液を調製した。B液の反応容器を氷浴中で冷やし攪拌ながら、A液をB液にシリンジにてゆっくりと滴下した。滴下終了後、0℃で4時間、更に室温で12時間攪拌した。析出物を濾別し、洗浄液中に塩化物イオンが検出されなくなるまでこの沈殿物を水で繰り返し洗浄してピリジン塩酸塩を溶解・除去し、160℃で24時間真空乾燥し収率83%で生成物を得た。更にこれを精製するためにγ−ブチロラクトンから再結晶を行い、再結晶収率91%で生成物を得た。FT−IRスペクトル、H−NMRスペクトルおよび元素分析より、得られた生成物は式(6)で表される目的のTAPPPHQであることが確認された。またDSC曲線において融解の吸熱ピークが非常にシャープであることから、生成物は極めて高純度であることが確認された。
FT−IR(KBr):1863cm−1、1779cm−1(ジカルボン酸無水物C=O伸縮振動)、1736cm−1(芳香族エステルC=O伸縮振動)、1503cm−1(1,4−フェニレン基骨格振動)
H−NMR(DMSO−d): δ8.70〜8.64ppm(芳香族プロトン、m、4H、相対積分強度3.60)、δ8.34〜8.24ppm(芳香族プロトン、m、4H、相対積分強度4.00)、δ8.00〜7.93ppm(芳香族プロトン、m、4H、相対積分強度4.18)、δ7.58〜7.45ppm(芳香族プロトン、m、6H、相対積分強度5.94)
DSC: 融点276.0℃
元素分析 推定値 C:67.90%、H:2.77%、O:29.33%
分析値 C:67.74%、H:2.93%、O:29.33%
【実施例2】
【0079】
<ポリエステルイミド前駆体の重合、イミド化およびポリエステルイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にp−フェニレンジアミン5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN−メチル2−ピロリドン(NMP)に溶解した後、この溶液に本発明の式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物粉末5mmolを徐々に加えた(全溶質濃度:20重量%)。重合反応が起こり、溶液粘度が急激に増加したため、攪拌を確保するために同一の溶媒を徐々に加えて最終的に15重量%まで希釈した。70時間後、均一で粘稠なポリエステルイミド前駆体溶液を得られた。
このポリエステルイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.84dL/gであった。
このポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗石し、熱風乾燥器中80℃、3時間で乾燥して得られたポリエステルイミド前駆体フィルムをガラス基板上、真空中、250℃で1時間更に300℃で1時間熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして350℃で1時間、熱処理を行い、膜厚20μmの黄色で濁りのないポリエステルイミドフィルムを得た。このポリエステルイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このポリエステルイミドフィルムについて動的粘弾性測定を行った結果、414℃にガラス転移点(動的粘弾性曲線における損失ピークより決定)が観測されたが、熱可塑性は殆ど見られなかった。このようにこのポリエステルイミドフィルムは極めて高い寸法安定性を有している。
また線熱膨張係数は2.8ppm/Kと極めて低い線熱膨張係数を示した。これは非常に大きな複屈折値(Δn>0.18)から判断して、ポリエステルイミド鎖の高度な面内配向によるものと考えられる。また5%熱重量減少温度は窒素中で502℃、空気中で490℃であり、優れた熱安定性を示した。また極めて低い吸水率0.56%を示し、吸湿膨張係数は4.9ppm/RH%と極めて低い値であり、このポリエステルイミドフィルムは優れた吸湿寸法安定性も有していることがわかった。更に引張弾性率4.40GPa、破断強度0.231GPa、破断伸び8.8%であった。特にこの引張弾性率の値は、比較例1に記載の対称構造を有するポリエステルイミドフィルムの値の1/2以下であり、剛直な構造を有するにも関わらず低い弾性率であった。これは非対称構造を有する本発明のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いた効果によるものである。更にこのポリエステルイミドフィルムは最高レベルの難燃性(UL94、V−0)も有していた。
このようにこのポリエステルイミドは極めて低い線熱膨張係数、低吸水率、極めて低い吸湿膨張係数、優れた熱安定性、優れた難燃性を示した。表1に物性値をまとめる。
【実施例3】
【0080】
ジアミン成分としてp−フェニレンジアミンの代わりにo−トリジンを用いた以外は実施例2に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。実施例2に記載のポリエステルイミドと同様に優れた物性を示した。
【実施例4】
【0081】
ジアミン成分としてp−フェニレンジアミンの代わりにm−トリジンを用いた以外は実施例2に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。物性値を表1に示す。実施例2に記載のポリエステルイミドと同様に優れた物性を示した。
【実施例5】
【0082】
ジアミン成分としてp−フェニレンジアミン(PDA)を単独で用いる代わりに、PDAと4,4’−オキシジアニリン(ODA)を併用(共重合)した以外は実施例2に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体の共重合体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。この時の共重合組成即ちジアミンのモル比、PDA:ODAは75:25である。物性値を表1に示す。実施例2に記載のポリエステルイミドと同様に優れた物性を示した。得られたポリエステルイミド前駆体およびポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図1、図2にそれぞれ示す。
【0083】
[比較例1]
本発明の式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに、式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いて、実施例2に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体を重合し、製膜・イミド化を行った。このポリエステルイミドフィルムの引張弾性率は、実施例2に記載のポリエステルイミドフィルムの値より2倍以上の高い値であった。これは対称構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いたためである。また吸水率も高い値であった。これは疎水性基として働く芳香族エステル結合の含有率がより低いためである。
【0084】
[比較例2]
本発明の式(6)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の代わりに、式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン成分としてPDAとODAを併用(共重合)した以外は実施例2に記載した方法に従って、ポリエステルイミド前駆体の共重合体を重合し、製膜、イミド化してポリエステルイミドフィルムを作製し、同様に物性評価した。この時の共重合組成即ちジアミンのモル比、PDA:ODAは70:30である。物性値を表1に示す。このポリエステルイミドフィルムの引張弾性率は実施例5に記載のポリエステルイミド共重合体フィルムの値よりおよそ2倍の高い値であった。これは対称構造を有するエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を用いたためである。また吸水率も2倍以上の高い値であった。これは疎水性基として働く芳香族エステル結合の含有率がより低いためである。
【0085】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の非対称構造を有するポリエステルイミドは、フレキシブルプリント配線基板回路(FPC)用絶縁基板、テープ・オートメーション・ボンディング(TAB)用絶縁基板、チップ・オン・フィルム(COF)用絶縁基板、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜および液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、特にFPC用耐熱絶縁基板材料として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

〔式(1)中、Rは水素原子、メチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、nは置換基数を表し、1から4の整数である。Xは下記式(2):
【化2】

または結合位置が2,6−、1,5−、1,4−である2価のナフタレン基で表され、式(2)中、RおよびRは各々独立に水素原子、メチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、nは置換基数を表し、1から4の整数である。〕
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
下記一般式(3):
【化3】

〔式(3)中、X、Rおよびnは請求項1に記載したものと同義であり、Yは2価の芳香族基または脂肪族基を表す〕
で表される反復単位を有するポリエステルイミド前駆体。
【請求項3】
下記一般式(4):
【化4】

〔式中、X、R、nおよびYは請求項2に記載したものと同義である〕
で表される反復単位を有するポリエステルイミド。
【請求項4】
ポリエステルイミド樹脂層と金属箔を有する積層板を製造する方法において、請求項2に記載のポリエステルイミド前駆体のワニスを金属箔上に塗布、乾燥後、加熱あるいは脱水閉環試薬を用いてイミド化させることを特徴とする積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−12559(P2012−12559A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161072(P2010−161072)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月11日 社団法人高分子学会発行の「第59回高分子学会年次大会 高分子学会予稿集 59巻1号」に発表 平成22年5月27日 社団法人高分子学会主催の「第59回高分子学会年次大会」においてLCDをもって発表
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】