説明

非対称積層製剤製造方法およびその装置

【課題】インクジェットヘッドなどの吐出ヘッドを用いて液滴を吐出することによって非対称積層製剤を製造するに当って、一の液滴層の範囲内に他の液滴層を確実に形成する。
【解決手段】予め設定された、基材上の液滴着弾理想位置をメモリに保持しておき、基材上に供給された液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、検出された着弾位置と液滴着弾理想位置との差を算出して、着弾位置補正データとしてメモリに保持しておき、前記動作指令を着弾位置補正データにより補正して新たな動作指令を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に少なくとも2層の液滴層を積層状に吐出形成し、乾燥させて非対称積層製剤を製造する方法、およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上に、生体接着層または難水性ポリマー層である第1の層、薬剤層、生体接着層または難水性ポリマー層のうち、第1の層と異なる層をこの順に形成し、得られた積層体にレーザを照射してXY方向に切断し、次いで切断された積層体を基板から剥離し、各積層体をアルカリ可溶層で被覆する固形製剤の製造方法(特許文献1参照)、シート状基材上に腸溶性層、粘着剤層および薬物層を順に形成して積層体を作製し、積層体の薬物層側からシート状基材表面に達する深さに切り溝を入れ、切り溝部分を広げて薬物層上および切り溝部分にバリア層を形成し、バリア層側から、切り溝と同じ位置および同じ深さに切り溝を入れてバリア層で被覆された複数の微小積層体に分割し、シート状基材から剥離する固形製剤の製造方法(特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2005−220083号公報
【特許文献2】特開2006−193458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された固形製剤の製造方法であれば、大面積の3層積層体を製造する工程と、レーザを照射してXY方向に切断する工程と、切断された積層体を基板から剥離する工程と、各積層体をアルカリ可溶性ポリマーを含む液に加えて混合し、アルカリ可溶層で被覆する工程とが必要であり、全体として多くの工程が必要であるという問題がある。また、製造工程の一部に非ドライ環境での処理が必要であり、非ドライ環境での処理は一般的にドライ環境での処理よりも煩雑であるという問題もある。
【0004】
特許文献2に記載された固形製剤の製造方法であれば、シート状基材上に3層積層体を作製する工程と、積層体の薬物層側から切り溝を入れる工程と、切り溝部分を拡げ、その状態で薬物層上および切り溝部分にバリア層を形成する工程と、バリア層側から、前記切り溝と同じ位置および同じ深さに切り溝を入れ、バリア層で被覆された複数の微小積層体に分割する工程と、分割された微小積層体をシート状基材から剥離する工程とが必要であり、全体として多くの工程が必要であり、高い精度が要求されるという問題がある。
【0005】
本発明者らは、上記の問題点の発生を未然に防止するために、インクジェットヘッドなどの吐出ヘッドを用いて液滴を吐出することによって非対称積層製剤を製造する方法を考えた。
【0006】
しかし、吐出ヘッドを用いて吐出される液滴は非常に微細であるため、2つ以上の液滴層を確実に積層させることが困難であり、場合によっては、一の液滴層の範囲内に他の液滴層を形成することができなくなってしまい、積層した薬剤などが不必要に露出することになって、薬剤を送達すべき部位に届く前に、体内の器官などからの分泌液や、摂取した飲料や食料などの水分によって溶け出してしまうことになり、このような不都合のない所望の非対称積層製剤を得ることができなくなってしまうという新たな問題を生じてしまう。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、所望の非対称積層製剤を得ることができなくなってしまうという不都合の発生を防止することができる非対称積層製剤製造方法およびその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の非対称積層製剤製造方法は、所定の動作指令を受けて、複数の吐出ヘッドと基材とを相対的に移動させながら、吐出ヘッドを間欠的に動作させることにより、基材の所定位置に少なくとも2つの液滴を供給して積層し、乾燥させて非対称積層製剤を製造するに当って、予め設定された、基材上の液滴着弾理想位置をメモリに保持しておき、基材上に各吐出ヘッドから吐出された液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、検出された着弾位置と液滴着弾理想位置との差を算出して、着弾位置補正データとしてメモリに保持しておき、前記動作指令を着弾位置補正データにより各吐出ヘッドごとに補正して新たな動作指令を生成する方法である。
【0009】
本発明の非対称積層製剤製造方法であれば、実際の着弾位置と液滴着弾理想位置との差を用いて新たな動作指令を生成するのであるから、吐出ヘッドの吐出ばらつき、液滴の飛行中の曲がり、吐出ヘッドの取り付けのばらつき、相対的移動速度の違いによって生じる着弾誤差などの影響を排除して、各層の液滴を正確な位置に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができる。また、理想位置に停止した状態で吐出ヘッドから液滴を吐出するのではなく、相対的に移動しながら吐出ヘッドから液滴を吐出することができ、この場合には、タクトタイムを短縮することができる。
【0010】
ここで、基材上に一の吐出ヘッドから吐出された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、検出された着弾位置を新たな液滴着弾理想位置に設定することが好ましい。
【0011】
この場合には、1層目の液滴の実際の着弾位置を新たな液滴着弾理想位置に設定して新たな動作指令を生成するのであるから、2層目以降の液滴を正確に1層目の液滴層上に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができる。
【0012】
また、基材上に供給された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、検出された着弾位置を相対的移動方向における新たな液滴着弾理想位置に設定し、相対的に移動しない方向における検出された着弾位置の平均値を相対的に移動しない方向における新たな液滴着弾理想位置に設定することが好ましい。
【0013】
この場合には、1層目の液滴の実際の着弾位置を相対的移動方向における新たな液滴着弾理想位置に設定し、突発的に発生する液滴の飛行中の曲がりなどにより悪影響が出ることを防止して、1層目の液滴の実際の着弾位置の平均値を相対的に移動しない方向における新たな液滴着弾理想位置に設定して新たな動作指令を生成するのであるから、慣性などにより悪影響が出ることを抑制し、または防止して、2層目以降の液滴を正確に1層目の液滴層上に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができる。
【0014】
これらの場合において、液滴着弾位置は、着弾液滴の重心位置であってもよく、最大内接円の中心位置であってもよい。
【0015】
また、基材上に各々の液滴層を形成した後、形成された液滴層を撮像し、撮像結果に基づく画像処理を行って面積を算出し、算出された面積を用いて形成された液滴層の適否を判定することが好ましく、適否の判定を簡単に達成することができる。もちろん、面積に限らず、円形度、外接矩形辺長、等価楕円軸長などを用いて判定を行うこともできる。さらに、この判定結果を用いて、否判定の液滴には次の層を積層しないことで、液の無駄を省くことができる。さらに、否判定の液滴の数が、総数に対する割合が高くなった場合、吐出動作を停止し、オペレータへの「警告」を発する等により設備休止を最小限に留める等の生産効率の向上に寄与できる。
【0016】
本発明の非対称積層製剤製造装置は、所定の動作指令を受けて、複数の吐出ヘッドと基材とを相対的に移動させながら、吐出ヘッドを間欠的に動作させることにより、基材の所定位置に少なくとも2つの液滴を供給して積層し、乾燥させて非対称積層製剤を製造するものであって、予め設定された、基材上の液滴着弾理想位置を保持する第1メモリと、基材上に供給された液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出する着弾位置検出手段と、検出された着弾位置と液滴着弾理想位置との差を算出して、着弾位置補正データとして第2メモリに保持する着弾位置補正データ算出手段と、前記動作指令を着弾位置補正データにより補正して新たな動作指令を生成する新動作指令生成手段とを含むものである。
【0017】
本発明の非対称積層製剤製造装置であれば、所定の動作指令を受けて、複数の吐出ヘッドと基材とを相対的に移動させながら、吐出ヘッドを間欠的に動作させることにより、基材の所定位置に少なくとも2つの液滴を供給して積層し、乾燥させて非対称積層製剤を製造するに当って、予め設定された、基材上の液滴着弾理想位置を第1メモリに保持しておき、着弾位置検出手段により、基材上に供給された液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、着弾位置補正データ算出手段により、検出された着弾位置と液滴着弾理想位置との差を算出して、着弾位置補正データとして第2メモリに保持させ、新動作指令生成手段により、前記動作指令を着弾位置補正データにより補正して新たな動作指令を生成することができる。
【0018】
したがって、吐出ヘッドの吐出ばらつき、液滴の飛行中の曲がり、吐出ヘッドの取り付けのばらつき、相対移動の速度の違いによって生じる着弾誤差などの影響を排除して、各層の液滴を正確な位置に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができる。また、理想位置に停止した状態で吐出ヘッドから液滴を吐出するのではなく、相対的に移動しながら吐出ヘッドから液滴を吐出することができ、この場合には、タクトタイムを短縮することができる。
【0019】
ここで、基材上に供給された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出する着弾位置検出手段と、検出された着弾位置を新たな液滴着弾理想位置に設定する新液滴着弾理想位置生成手段とを備えることが好ましい。
【0020】
この場合には、着弾位置検出手段により、基材上に供給された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、新動作指令生成手段により(新液滴着弾理想位置生成手段により)、検出された着弾位置を新たな液滴着弾理想位置に設定して、新たな動作指令を生成することができる。
【0021】
したがって、2層目以降の液滴を正確に1層目の液滴層上に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができる。
【0022】
また、基材上に供給された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出する着弾位置検出手段と、検出された着弾位置を相対的移動方向における新たな液滴着弾理想位置に設定し、相対的に移動しない方向における検出された着弾位置の平均値を相対的に移動しない方向における新たな液滴着弾理想位置に設定する新液滴着弾理想位置生成手段とを備えることが好ましい。
【0023】
この場合には、基材上に供給された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、新動作指令生成手段(新液滴着弾理想位置生成手段)により、検出された着弾位置を相対的移動方向における新たな液滴着弾理想位置に設定し、相対的に移動しない方向における検出された着弾位置の平均値を相対的に移動しない方向における新たな液滴着弾理想位置に設定して、新たな動作指令を生成することができる。
【0024】
したがって、慣性などにより悪影響が出ることを抑制し、または防止して、2層目以降の液滴を正確に1層目の液滴層上に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができる。
【0025】
これらの場合において、液滴着弾位置は、着弾液滴の重心位置であってもよく、最大内接円の中心位置であってもよい。
また、基材上に各々の液滴層を形成した後、形成された液滴層を撮像し、撮像結果に基づく画像処理を行って面積を算出し、算出された面積を用いて形成された液滴層の適否を判定する適否判定手段をさらに含むことが好ましく、適否の判定を簡単に達成することができる。もちろん、面積に限らず、円形度、外接矩形辺長、等価楕円軸長などを用いて判定を行うこともできる。さらに、この判定結果を用いて、否判定の液滴には次の層を積層しないことで、液の無駄を省くことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の非対称積層製剤製造方法は、吐出ヘッドの吐出ばらつき、液滴の飛行中の曲がり、吐出ヘッドの取り付けのばらつき、相対移動の速度の違いによって生じる着弾誤差などの影響を排除して、各層の液滴を正確な位置に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができるという特有の効果を奏する。
【0027】
本発明の非対称積層製剤製造装置は、吐出ヘッドの吐出ばらつき、液滴の飛行中の曲がり、吐出ヘッドの取り付けのばらつきなどの影響を排除して、各層の液滴を正確な位置に着弾させることができ、ひいては、非対称積層製剤を高精度に製造することができるという特有の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の非対称積層製剤製造方法およびその装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の非対称積層製剤製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【0030】
この非対称積層製剤製造装置は、所定形状の基板(基材)1を所定方向に連続的に移動させ、基板1の上方に設けられた吐出ヘッド群2により順次液滴を吐出させ、基板表面上に基板1の移動方向(X方向)にピッチPx、基板1の幅方向(基材1が移動しない方向)(Y方向)にピッチPyの格子状に非対称積層製剤を製造する装置である。なお、この装置は、基板上に吐出ヘッド群2により供給された液滴の層、基板の位置決めマークなどを撮像する撮像装置6を有している。ここで、撮像装置6は、液滴の層を撮像するもの、基板のアライメントのためのもの、基板の位置決めのためのものを含んでいることが好ましく、これらは別個に設けられていてもよいが、全て一体化されていてもよい。そして、液滴の層を撮像するものとしては、ラインスキャンカメラを用いることが好ましい。また、基板1は、X方向に移動されるとともに、回転駆動されるテーブル(図示せず)に吸着保持されており、吐出ヘッド群2および撮像装置6はY方向に移動される。
【0031】
前記基板1はX方向駆動機構3により所定方向(X方向)に間欠的に等ピッチMxで送られるように設定されている。
【0032】
前記吐出ヘッド群2および撮像装置6は、Y方向駆動機構4により所定方向(Y方向)に連続的に一定速度で送られるよう設定されている。また、吐出ヘッド群2は各々、基板1の表面より所定の高さだけ上方に吐出ヘッド先端がくるように配置された3個の吐出ヘッド2a、2b、2cより構成されており、各々が基板1の表面に向かってそれぞれ異なる種類の溶液を順次吐出するようになっている。
【0033】
前記吐出ヘッド群2の後方(基板1の移動方向に関する下流側)に、積層された液滴を乾燥させるための乾燥機構5が設けられている。ただし、乾燥機構5を特別に設けることなく、自然乾燥させるようにしてもよい。
【0034】
前記3個の吐出ヘッド2a、2b、2cは、3層の非対称積層製剤を製造するために設けられており、例えば、腸溶層、薬物層、バリア層をこの順に積層してなる非対称積層製剤を製造することができる。この非対称積層製剤は、積層方向に非対称である。
【0035】
前記撮像装置6は、前記吐出ヘッド群2と独立して移動されるように構成されていてもよいが、全体としての構成の簡素化を達成するためには、前記吐出ヘッド群2に追従して移動されるように構成することが好ましい。
【0036】
また、図1には示していないが、基板1上にピッチPx、ピッチPyの格子状に非対称積層製剤を製造するために、X方向駆動機構3、およびY方向駆動機構4に対して動作指令を送出するとともに、所定のタイミングで吐出ヘッド群2に対して吐出動作指令を送出するコントローラが設けられている。このコントローラは、前記撮像装置6による撮像データを受け取って所定の画像処理(例えば、後述する画像処理)を行って新たな動作指令を生成する機能も有している。このコントローラは、さらに、アライメントのためにテーブルを駆動するための動作指令を生成する機能を有している。
【0037】
図10はコントローラの構成を示すブロック図である。
【0038】
このコントローラは、撮像装置6からの撮像信号を入力として所定の画像処理を行う画像処理部71と、画像処理部71からの画像処理結果データおよび予め設定されて図示しないメモリに保持されている設定データ(例えば、ピッチデータなど)を入力として所定の動作指令生成処理を行って、吐出動作指令および移動動作指令を生成する動作指令生成部72と、吐出動作指令を入力として、吐出ヘッド2a、2b、2cのそれぞれに対する個別の吐出動作指令を生成して対応する吐出ヘッドに送出する吐出動作指令部73と、移動動作指令を入力として、X方向駆動機構3、Y方向駆動機構4のそれぞれに対する個別の移動動作指令を生成して対応する駆動機構に送出するX,Y動作指令部74とを有している。なお、画像処理部71における具体的な処理は従来公知であるから、詳細な説明を省略する。また、動作指令生成部72における処理は、産業用ロボットなどの各種産業機器用の動作指令生成処理として従来公知であるから、詳細な説明を省略する。
【0039】
したがって、コントローラによる制御を行うことによって、各種の必要な動作を行わせることができる。
【0040】
図2は、図1の非対称積層製剤製造装置におけるキャリブレーション処理の一例を説明するフローチャートである。
【0041】
ステップSP1において、吐出ヘッド群2の3個の吐出ヘッド2a、2b、2cを取り付け、ステップSP2において、基板1をテーブル上にセットし、ステップSP3において、基板1のアライメントを達成する。ここで、基板1のアライメントは、撮像装置6による基板1の撮像を行い、撮像データに基づいてテーブルをX方向およびY方向に移動させるとともに、回転駆動させることにより達成される。例えば、X方向に対する平行度、および基板1上の一点の位置決めにより達成される。
【0042】
次いで、ステップSP4において、コントローラが予め第1メモリに保持している着弾理想位置(液滴着弾理想位置)を用いて動作指令を生成してX方向駆動機構3、およびY方向駆動機構4に対して送出するとともに、所定のタイミングで吐出ヘッド群2に対して吐出動作指令を送出することによって、基板1に対する液滴の供給を行う。
【0043】
その後、ステップSP5において、撮像装置6を移動させて、供給された液滴を撮像する。
【0044】
ステップSP6において、撮像データに基づく画像処理を行って液滴の実際の着弾位置を検出し、ステップSP7において、液滴の実際の着弾位置と第1メモリに保持している着弾理想位置(液滴着弾理想位置)との差を算出し、補正データとして第2メモリに保持する。
【0045】
以上の一連の処理を行うことによって、吐出ヘッド群2の3個の吐出ヘッド2a、2b、2cのキャリブレーションを達成することができる。
【0046】
なお、このキャリブレーションは吐出ヘッドを取り付けるたびに少なくとも一度行う必要がある。また、吐出する液滴の種類、周囲温度、吐出条件などが変わるたびに行えば更に精度良くキャリブレーションを達成することができる。
【0047】
図3は吐出ヘッドのキャリブレーションを説明する概略図である。
【0048】
吐出ヘッドHの理想的な取り付け位置が破線で示すように設定されており、この吐出ヘッドHにより供給される液滴の着弾理想位置(液滴着弾理想位置)P1が吐出ヘッドHの直下に設定されている。したがって、アライメント後の基準位置P0に対する液滴着弾理想位置P1が指定値D1により設定される。換言すれば、コントローラによって、指定値D1に基づいて吐出ヘッド群2に対して動作指令を生成して送出することによって、理想的な取り付け状態の吐出ヘッドHにより液滴を、液滴着弾理想位置に供給することができる。
【0049】
しかし、実際に取り付けられた吐出ヘッドH´の取り付け位置が理想的な取り付け位置と異なり、しかも、この吐出ヘッドH´により供給される液滴の実際の着弾位置P1´が吐出ヘッドH´の直下からずれている。すなわち、吐出ヘッドの取り付け位置のばらつき、および吐出ばらつきの双方の影響を受けて実際の着弾位置P1´が液滴着弾理想位置P1からずれてしまう。なお、以上には明示していないが、液滴着弾理想位置P1からのズレには、液滴の種類、慣性などに起因するばらつきの影響も含まれている。
【0050】
しかし、図2のフローチャートの処理を行うことによって、実際の着弾位置P1´の液滴着弾理想位置P1からのずれ量D2を算出して補正データとして第2メモリに保持することができる。
【0051】
図4は、上記の処理を行って補正データを第2メモリに保持した後において、第1層目の液滴の供給を行う処理を説明するフローチャートであり、図5は図4の処理による液滴着弾位置の精度を説明する図である。
【0052】
ステップSP1において、基板1をテーブル上にセットし、ステップSP2において、基板1のアライメントを達成する。
【0053】
次いで、ステップSP3において、コントローラが予め第1メモリに保持している着弾理想位置(液滴着弾理想位置)、および対象となる吐出ヘッドに対応させて第2メモリに保持している補正データを用いて動作指令を生成してX方向駆動機構3、およびY方向駆動機構4に対して送出するとともに、所定のタイミングで吐出ヘッド群2に対して吐出動作指令を送出することによって、基板1に対する液滴の供給を行う。換言すれば、図5に示すように、着弾理想位置(液滴着弾理想位置)に対して補正データを用いて補正を行い、補正結果を用いて動作指令を生成してX方向駆動機構3、およびY方向駆動機構4に対して送出することにより、着弾理想位置(液滴着弾理想位置)に液滴を供給できる位置P2に対象となる吐出ヘッドを移動させることができ、この状態において対象となる吐出ヘッドを動作させることにより液滴を着弾理想位置(液滴着弾理想位置)に供給することができる。
【0054】
その後、ステップSP4において、撮像装置6を移動させて、供給された液滴を撮像する。
【0055】
ステップSP5において、撮像データに基づく画像処理を行って液滴の実際の着弾位置を検出し、ステップSP6において、液滴の実際の着弾位置を第3メモリに保持する。
以上の一連の処理を行うことによって、基板1の液滴着弾理想位置に対して液滴の供給を行い、第1の液滴層を形成することができる。
【0056】
その後は、他の吐出ヘッドにより、図4のフローチャートのステップSP3からステップSP5の処理を順次行い、3層に積層された液滴層を乾燥させることによって、3層の非対称積層製剤を製造することができる。
【0057】
図6は、図4のフローチャートの処理によって第1層目の液滴層を形成した後に、第2層目の液滴層を形成するための処理の他の例を説明するフローチャートである。
【0058】
ステップSP1において、基板1の位置決めを行い、ステップSP2において、コントローラが、第3メモリに保持している第1層目の実際の着弾位置、および対象となる吐出ヘッドに対応させて第2メモリに保持している補正データを用いて新たな液滴着弾理想位置を設定し、その新たな液滴着弾理想位置に液滴の吐出を行なう動作指令を生成してX方向駆動機構3、およびY方向駆動機構4に対して送出するとともに、所定のタイミングで吐出ヘッド群2に対して吐出動作指令を送出することによって、基板1に対する液滴の供給を行う。
【0059】
その後、ステップSP3において、撮像装置を移動させて、供給された液滴を撮像する。
【0060】
ステップSP4において、撮像データに基づく画像処理を行って液滴の実際の着弾位置を検出し、ステップSP5において、液滴の実際の着弾位置を第3メモリに保持する。
以上の一連の処理を行うことによって、第1層目の液滴の実際の着弾位置に対して液滴の供給を行い、第2の液滴層を形成することができる。
【0061】
そして、図6のフローチャートと同様の処理を行って、第2層目の液滴層の上に第3層目の液滴層を形成することができる。
【0062】
その後、3層に積層された液滴層を乾燥させることによって、3層の非対称積層製剤を製造することができる。
【0063】
図6のフローチャートの処理においては、ステップSP2において、コントローラが、第3メモリに保持している第2層目の実際の着弾位置、および対象となる吐出ヘッドに対応させて第2メモリに保持している補正データを用いて新たな液滴着弾理想位置を設定し、その新たな液滴着弾理想位置に液滴の吐出を行なう動作指令を生成してX方向駆動機構3、およびY方向駆動機構4に対して送出するとともに、所定のタイミングで吐出ヘッド群2に対して吐出動作指令を送出することによって、基板1に対する液滴の供給を行うようにしている。
【0064】
この場合には、吐出ヘッドと基板1とが相対的に移動する方向の位置のみならず、相対的に移動しない方向の位置についても、第3メモリに保持している実際の着弾位置および第2メモリに保持している補正データを用いて動作指令を生成するので、相対的に移動しない方向の位置については、慣性などの影響を受けてかえって位置精度が悪くなってしまうおそれがある。
【0065】
このような不都合の発生を防止するためには、吐出ヘッドが基板1に対して相対的に移動する方向の位置については、第3メモリに保持している実際の着弾位置および第2メモリに保持している補正データを用いて動作指令を生成し、吐出ヘッドが基板1に対して相対的に移動しない方向の位置については、第3メモリに保持している実際の着弾位置の平均値および第2メモリに保持している補正データを用いて動作指令を生成すればよい。
【0066】
この場合には、相対的に移動する方向の位置についてのみきめ細かく制御を行い、相対的に移動しない方向の位置についてはきめ細かい制御を行わないので、相対的に移動しない方向の位置については、慣性などの影響を大幅に低減し、または皆無にすることができる。
【0067】
なお、以上の各実施形態において、液滴の実際の着弾位置としては、図7に示すように、液滴の重心位置を採用してもよいが、液滴の最大内接円の中心位置を採用してもよい。
【0068】
以上のように3層に積層された液滴層を形成するに当って、液滴層を形成する毎に撮像し、その撮像した画像を画像処理することにより面積を計算し、2層目の液滴層の面積S2が1層目の液滴層の面積S1よりも小さい場合(図8参照)、3層目の液滴層の面積S3が1層目の液滴層の面積S1よりも大きい場合(図9参照)に、各液滴層が正常に形成されたと適否を判定し、他の場合に、液滴層が正常に形成されなかったと適否を判定することが好ましい。この場合には、2層目の液滴層が1層目の液滴層と3層目の液滴層で覆われた場合にのみ正常であると適否を判定することができる。
【0069】
撮像装置によっては、または液滴の種類によっては、1層目、2層目、3層目の液滴層を識別することができないことが考えられる。このような場合には、2層目の液滴層を形成した状態の面積が1層目の液滴層を形成した状態の面積と等しい場合(図8参照)、3層目の液滴層を形成した状態の面積が1層目の液滴層を形成した状態の面積よりも大きい場合(図9参照)に、各液滴層が正常に形成されたと判定し、他の場合に、液滴層が正常に形成されなかったと判定することができる。
【0070】
この判定した結果を用いて、否判定の液滴には次の層を積層しないことで、液の無駄を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の非対称積層製剤製造装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図1の非対称積層製剤製造装置におけるキャリブレーション処理の一例を説明するフローチャートである。
【図3】吐出ヘッドのキャリブレーションを説明する概略図である。
【図4】図2の処理を行って補正データを第2メモリに保持した後において、第1層目の液滴の供給を行う処理を説明するフローチャートである。
【図5】図4の処理による液滴着弾位置の精度を説明する図である。
【図6】図4のフローチャートの処理によって第1層目の液滴層を形成した後に、第2層目の液滴層を形成するための処理の他の例を説明するフローチャートである。
【図7】液滴の着弾位置の一例を説明する図である。
【図8】2層目の液滴層の面積S2と1層目の液滴層の面積S1との関係を説明する図である。
【図9】3層目の液滴層の面積S3と1層目の液滴層の面積S1との関係を説明する図である。
【図10】コントローラの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0072】
1 基板
2 吐出ヘッド群
2a、2b、2c 吐出ヘッド
3 X方向駆動機構
4 Y方向駆動機構
5 乾燥機構
6 撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の動作指令を受けて、複数の吐出ヘッドと基材とを相対的に移動させながら、吐出ヘッドを間欠的に動作させることにより、基材の所定位置に少なくとも2つの液滴を供給して積層し、乾燥させて非対称積層製剤を製造するに当って、
予め設定された、基材上の液滴着弾理想位置をメモリに保持しておき、
基材上に各吐出ヘッドから吐出された液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、
検出された着弾位置と液滴着弾理想位置との差を算出して、着弾位置補正データとしてメモリに保持しておき、
前記動作指令を着弾位置補正データにより各吐出ヘッドごとに補正して新たな動作指令を生成することを特徴とする非対称積層製剤製造方法。
【請求項2】
基材上に一の吐出ヘッドから吐出された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、
検出された着弾位置を新たな液滴着弾理想位置に設定する請求項1に記載の非対称積層製剤製造方法。
【請求項3】
基材上に一の吐出ヘッドから吐出された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出し、
検出された着弾位置を相対的移動方向における新たな液滴着弾理想位置に設定し、相対的に移動しない方向における検出された着弾位置の平均値を相対的に移動しない方向における新たな液滴着弾理想位置に設定する請求項1に記載の非対称積層製剤製造方法。
【請求項4】
液滴着弾位置は、着弾液滴の重心位置である請求項1から請求項3の何れかに記載の非対称積層製剤製造方法。
【請求項5】
液滴着弾位置は、最大内接円の中心位置である請求項1から請求項3の何れかに記載の非対称積層製剤製造方法。
【請求項6】
基材上に各々の液滴層を形成した後、形成された液滴層を撮像し、撮像結果に基づく画像処理を行って面積を算出し、算出された面積を用いて形成された液滴層の適否を判定する請求項1から請求項5の何れかに記載の非対称積層製剤製造方法。
【請求項7】
適否判定の結果、否判定された液滴に対してはその後の積層処理を行わない請求項6に記載の非対称積層製剤製造方法。
【請求項8】
所定の動作指令を受けて、複数の吐出ヘッドと基材とを相対的に移動させながら、吐出ヘッドを間欠的に動作させることにより、基材の所定位置に少なくとも2つの液滴を供給して積層し、乾燥させて非対称積層製剤を製造する非対称積層製剤製造装置であって、
予め設定された、基材上の液滴着弾理想位置を保持する第1メモリと、
基材上に各吐出ヘッドから吐出された液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出する着弾位置検出手段と、
検出された着弾位置と液滴着弾理想位置との差を算出して、着弾位置補正データとして第2メモリに保持する着弾位置補正データ算出手段と、
前記動作指令を着弾位置補正データにより各吐出ヘッドごとに補正して新たな動作指令を生成する新動作指令生成手段と
を含むことを特徴とする非対称積層製剤製造装置。
【請求項9】
基材上に一の吐出ヘッドから吐出された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出する着弾位置検出手段と、
検出された着弾位置を新たな液滴着弾理想位置に設定する新着弾理想位置設定手段とを含む請求項8に記載の非対称積層製剤製造装置。
【請求項10】
基材上に一の吐出ヘッドから吐出された1層目の液滴の実際の着弾位置を画像処理によって検出する着弾位置検出手段と、
検出された着弾位置を相対的移動方向における新たな液滴着弾理想位置に設定し、相対的に移動しない方向における検出された着弾位置の平均値を相対的に移動しない方向における新たな液滴着弾理想位置に設定する新着弾理想位置設定手段とを含む請求項8に記載の非対称積層製剤製造装置。
【請求項11】
液滴着弾位置は、着弾液滴の重心位置である請求項8から請求項10の何れかに記載の非対称積層製剤製造装置。
【請求項12】
液滴着弾位置は、最大内接円の中心位置である請求項8から請求項10の何れかに記載の非対称積層製剤製造装置。
【請求項13】
基材上に各液滴層を形成した後、形成された液滴層を撮像し、撮像結果に基づく画像処理を行って面積を算出し、算出された面積を用いて形成された液滴層の適否を判定する適否判定手段をさらに含む請求項8から請求項12の何れかに記載の非対称積層製剤製造装置。
【請求項14】
適否判定の結果、否判定された液滴に対してはその後の積層処理を行わない積層処理実行判定手段を含む請求項13に記載の非対称積層製剤製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−227600(P2009−227600A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73187(P2008−73187)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】